説明

薬液供給装置および薬液供給方法

【課題】薬液に含まれる気泡や塵等の異物を除去しつつ、一定量の薬液を吐出ノズルから高精度で吐出し得るようにする。
【解決手段】薬液供給装置は弾性変形自在のベローズ14により膨張収縮するポンプ室15が設けられたポンプ12を有し、薬液容器10内の薬液はポンプ室15に吸入流路21を介して案内される。ポンプ室15内の薬液は吐出流路22を介して吐出ノズル11に吐出される。ポンプ12にはポンプ室15から供給された薬液をポンプ室15に戻すとともに膨張収縮部を有する循環流路23がループ状に接続されている。循環流路23にはポンプ室に戻される薬液を濾過するフィルタ30が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトレジスト液等の薬液を半導体ウエハ等の被塗布物に塗布するための薬液供給技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハの製造プロセスにおいては、フォトレジスト液、純水、有機溶剤等の薬液が使用されており、これらの薬液は薬液供給装置により半導体ウエハに塗布されている。例えば、半導体ウエハにフォトレジスト液を塗布する場合には、薬液容器内の薬液をポンプにより吸引して吐出ノズルから薬液を吐出するようにしている。薬液を吐出するポンプの形態としては、特許文献1に記載されるように、径方向に膨張収縮する樹脂製のチューブをポンプ部材としてその内側にポンプ室を区画形成するようにしたタイプと、特許文献2に記載されるように、軸方向に膨張収縮する樹脂製のベローズをポンプ部材としてベローズを収容するケースとベローズとの間にポンプ室を区画形成するようにしたタイプがある。さらに、ポンプの形態としては、ダイヤフラムをポンプ部材としたタイプなどもある。
【0003】
このような薬液供給装置においては、薬液中に含まれるパーティクルや気泡を取り除くために、薬液をフィルタにより濾過するようにしている。
【0004】
フィルタの設置形態としては、ポンプの一次側に設置する形態と、特許文献2に記載されるようにポンプの二次側に設置する形態とがある。ポンプの二次側にフィルタを設置する形態においては、フィルタがポンプと吐出ノズルとの間に設置され、ポンプの吐出動作により薬液をフィルタに供給することによって薬液を濾過する。一方、ポンプの一次側にフィルタを設置する形態においては、フィルタは薬液容器とポンプとの間に設置され、ポンプの吸入動作により薬液をフィルタに吸引供給して濾過する。
【0005】
フィルタをポンプの二次側に設置するタイプにおいては、薬液を確実に濾過することが可能であるが、吐出動作と濾過動作とを同時に行っているので、フィルタの通過抵抗により吐出量が変化してしまう。そのため、フィルタに目詰まりが発生したり、フィルタ内に気泡が溜まったりすると、フィルタの通過抵抗が増加して、ポンプの吐出圧力が高くなるのと同時に吐出量が減少するので、長期間にわたって同じ精度で薬液を吐出ノズルから吐出し続けることができなくなる。このように、フィルタにおける二次的要因により薬液の流量や吐出量が変化すると、この形態ではポンプ本来の吐出性能を発揮することができない。
【0006】
一方、フィルタをポンプの一次側に設置するタイプにおいては、ポンプの二次側にフィルタが配置されないので、フィルタの目詰まりによる吐出精度への影響は少ないが、吸入動作により薬液がフィルタを通過する際に、薬液が負圧状態となるため薬液中に溶存していた気体が気泡となって薬液に混入することになる。この結果、半導体ウエハに回路パターンの欠陥が発生して製品不良が増加することになる。これを改善するため、薬液供給装置に気泡を取り除くためのシステムを付加しなければならず、装置の複雑化、高コスト化が避けられない。
【0007】
このような問題点を解決するために、特許文献3,4に記載されるように、2台のポンプの間にフィルタを配置し、第1のポンプで薬液を薬液容器からフィルタへ供給するとともに薬液を第2のポンプ内に吸入するようにした薬液供給装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−61558号公報
【特許文献2】特開2002−113406号公報
【特許文献3】特許第3286687号公報
【特許文献4】特開2007−117787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、1つの薬液供給ラインに2台のポンプを設けるようにすると、装置が高価かつ大型となってしまうだけでなく、装置全体の配管類、制御プログラムなどについても複雑になってしまうという問題点がある。また、特許文献4に記載されるように、フィルタと第2のポンプとの間にバッファタンクを用いるようにすると、バッファタンク内に収容される薬液の表面が空気と触れてしまうので、空気と触れる薬液がゲル化し、薬液中にパーティクルが混入することになる。
【0010】
本発明の目的は、薬液に含まれる気泡や塵等の異物を除去しつつ、一定量の薬液を吐出ノズルから高精度で吐出し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の薬液供給装置は、ポンプ部材により膨張収縮するポンプ室が設けられたポンプに接続され、薬液容器内の薬液を前記ポンプ室に案内する吸入流路と、前記ポンプと吐出ノズルとの間に接続され、前記ポンプ室内の薬液を前記吐出ノズルに吐出する吐出流路と、前記ポンプ室から供給された薬液を一時的に貯留する膨張収縮部が設けられるとともに流入部と流出部とがそれぞれ前記ポンプに接続され、前記ポンプ室から供給された薬液を前記ポンプ室に戻す循環流路とを有し、前記循環流路を介して前記ポンプ室に戻される薬液を濾過するフィルタを前記循環流路に設け、前記薬液容器内の薬液の前記循環流路における循環動作と、前記循環流路内の濾過された薬液の前記吐出ノズルへの吐出動作とを前記ポンプにより行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の薬液供給装置は、前記膨張収縮部は弾性変形自在のタンク部材により膨張収縮室を形成するタンクであることを特徴とする。本発明の薬液供給装置は、前記ポンプ室を収縮させて前記ポンプ室内の薬液を前記吐出ノズルに吐出するときに前記吐出流路を開く吐出弁手段と、前記ポンプ室を膨張させて前記薬液容器内の薬液を前記ポンプ室内に案内するときに前記吸入流路を開く吸入弁手段と、前記ポンプ室内の薬液を前記循環流路に供給するときに前記循環流路の前記流入部を開く循環弁手段と、前記フィルタにより濾過された薬液を前記ポンプ室に戻すときに前記循環流路の前記流出部を開く戻し弁手段とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の薬液供給方法は、ポンプ内に装着されたポンプ部材により区画されて膨張収縮するポンプ室と薬液容器を接続する吸入流路と、前記ポンプ室から供給された薬液を一時的に貯留する膨張収縮部が設けられるとともに前記ポンプ室から供給された薬液を前記ポンプ室に戻す循環流路と、前記ポンプ室と吐出ノズルを接続する吐出流路とを有し、前記薬液容器内の薬液を前記吐出ノズルに吐出する薬液供給方法であって、前記吸入流路を開放した状態のもとで前記ポンプ室を膨張させて前記薬液容器内の薬液を前記ポンプ室に案内する吸入工程と、前記循環流路の流入部を開放した状態のもとで前記ポンプ室を収縮させて前記ポンプ室から供給された薬液をフィルタにより濾過する濾過工程と、前記循環流路の流出部を開放した状態のもとで前記ポンプ室を膨張させて前記循環流路から戻される濾過された薬液を前記ポンプ室に吸入する戻し工程と、前記吐出流路を開放した状態のもとで前記ポンプ室を収縮させて前記ポンプ室内の濾過された薬液を前記吐出ノズルに吐出する吐出工程とを有し、前記薬液容器内の薬液の前記循環流路における循環動作と、前記循環流路内の濾過された薬液の前記吐出ノズルへの吐出動作とを前記ポンプにより行うことを特徴とする。本発明の薬液供給方法は、前記膨張収縮部は弾性変形自在のタンク部材により膨張収縮室を形成するタンクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポンプ室から供給された薬液をポンプ室に戻す循環流路に薬液を濾過するフィルタが設けられ、濾過された薬液をポンプ室から吐出ノズルに吐出する吐出流路が循環流路とは分離された別系統となっているので、吐出ノズルから薬液を吐出する際には、ポンプにはフィルタによる通過抵抗が加わることがない。これにより、ポンプから吐出ノズルに薬液を吐出する際には薬液の吐出量や流量を高精度に設定することができる。
【0015】
循環流路に設けられたフィルタに薬液を通して薬液を濾過する際には、薬液をポンプ室により加圧させてフィルタに薬液を供給するようにしたので、濾過時に薬液が負圧状態とならず、薬液からの気泡の発生が防止される。これにより、薬液供給装置に気泡を取り除くためのシステムを付加することが不要となる。また、吐出流速とは相違した濾過に適切な流速で濾過することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態である薬液供給装置を示す薬液回路図である。
【図2】吸入工程となった状態を示す薬液回路図である。
【図3】濾過工程となった状態を示す薬液回路図である。
【図4】戻し工程に作動した状態を示す薬液回路図である。
【図5】吐出工程に作動した状態を示す薬液回路図である。
【図6】ポンプの他の具体例を示す断面図である。
【図7】ポンプのさらに他の具体例を示す断面図である。
【図8】ポンプのさらに他の具体例を示す断面図である。
【図9】本発明の他の実施の形態である薬液供給装置を示す薬液回路図である。
【図10】本発明のさらに他の実施の形態である薬液供給装置を示す薬液回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、この薬液供給装置は、薬液容器10に収容された薬液を吐出ノズル11から吐出させて図示しない被塗布物に塗布するために使用される。例えば、被塗布物を半導体ウエハとし、これに薬液としてのフォトレジスト液を塗布するために使用される。
【0018】
薬液を被塗布物に供給するためのポンプ12は、ポンプケース13とこの中に組み込まれる弾性変形自在のベローズ14とを有し、このベローズ14とポンプケース13とによりポンプ室15が区画されている。ポンプケース13には駆動軸16を軸方向に往復動する駆動機構17が取り付けられており、この駆動機構17は電動モータとモータ主軸の回転運動を軸方向運動に変換する変換部を有している。駆動機構17を駆動することにより、ベローズ14を軸方向に弾性変形させると、ポンプ室15は膨張収縮することになる。ポンプ部材としてのベローズ14を駆動するための駆動手段としては、電動モータを有する駆動機構に代えて空気圧シリンダや油圧シリンダ等の流体圧シリンダを使用するようにしても良い。
【0019】
ポンプ12の一次側ポート20aには吸入流路21が接続されており、この吸入流路21はポンプ室15に連通している。吸入流路21の端部は、薬液を収容する薬液容器10内に配置されるようになっており、吸入流路21により薬液容器10内の薬液はポンプ室15に案内される。ポンプ12の二次側ポート20bには吐出流路22がポンプ室15に連通して接続され、この吐出流路22の先端部には吐出ノズル11が設けられており、吐出流路22によりポンプ室15内の薬液は吐出ノズル11に吐出される。一次側ポート20aはポンプケース13の下側部分に設けられ、二次側ポート20bはポンプケース13の上側部分に設けられている。
【0020】
ポンプ12にはポンプ室15から供給された薬液を再度ポンプ室15に戻す循環流路23がループ状に設けられており、循環流路23の流入部24はポンプ12の二次側ポート20bに接続されてポンプ室15に連通し、循環流路23の流出部25はポンプ12の一次側ポート20aに接続されてポンプ室15に連通している。図1に示されるように、吸入流路21と流出部25はこれらが合流した共通の流路を介して一次側ポート20aに連通しており、吐出流路22と流入部24はこれらが合流した共通の流路を介して二次側ポート20bに連通している。ただし、それぞれの流路を別々にポンプ室に連通させるようにしても良い。
【0021】
循環流路23には、膨張収縮部26が設けられており、この膨張収縮部26は剛性材料からなる管部材26aを有し、この管部材26aの内部には径方向に弾性変形自在の可撓性チューブ27が弾性変形部材として組み込まれている。可撓性チューブ27の内部は薬液を案内する連通孔28を有しており、ポンプ12から薬液が循環流路23に供給されると、供給された薬液により可撓性チューブ27は膨張し、薬液が膨張した連通孔28内に一時的に貯留されることになる。一方、循環流路23からポンプ室15内に薬液が戻されるときには、可撓性チューブ27は収縮する。管部材26aには可撓性チューブ27が径方向に弾性変形する際に、管部材26aと可撓性チューブ27との間の空間を外部に連通させる息付き孔29が形成されている。このように、循環流路23に供給される薬液の量に応じて弾性変形部材としての可撓性チューブ27は径方向に膨張収縮するタンク部材を構成し、連通孔28は膨張収縮室を構成している。
【0022】
循環流路23には、膨張収縮部26よりも上流側に位置させて循環流路23内を流れる薬液を濾過するフィルタ30が設けられている。これにより、ポンプ室15から循環流路23に供給された薬液はフィルタ30により濾過された後に可撓性チューブ27に向けて供給され、濾過されて清浄化された薬液がポンプ室15に戻される。
【0023】
吸入流路21には、ベローズ14を軸方向に収縮させることによりポンプ室15を膨張させて薬液容器10内の薬液をポンプ室15内に案内するときに吸入流路21を開く流路開閉弁31が吸入弁手段として設けられている。吐出流路22には、ポンプ室15を収縮させてポンプ室15内の薬液を吐出ノズル11に吐出するときに吐出流路22を開く流路開閉弁32が吐出弁手段として設けられている。循環流路23の流入部24には、ポンプ室15内の薬液を循環流路23に供給するときに流入部24を開く流路開閉弁33が循環弁手段として設けられている。循環流路23の流出部25には、フィルタ30により濾過された薬液をポンプ室15に戻すときに流出部25を開放する流路開閉弁34が戻し弁手段として設けられている。
【0024】
流路開閉弁31により吸入流路21を開いて薬液容器10内の薬液をポンプ室15内に案内するときには他の流路は流路開閉弁32,33,34により閉じられる。流路開閉弁32により吐出流路22を開いてポンプ室15内の薬液を吐出ノズル11に吐出するときには他の流路は流路開閉弁31,33,34により閉じられる。流路開閉弁33により流入部24を開いてポンプ室15内の薬液を循環流路23に供給するときには他の流路は流路開閉弁31,32,34により閉じられる。さらに、流路開閉弁34により流出部25を開いて濾過された薬液をポンプ室15に戻すときには他の流路は流路開閉弁31,32,33により閉じられる。
【0025】
それぞれの流路開閉弁31〜34は、それぞれの流路を開放する位置と、遮断する位置とにソレノイドにより作動する二位置切換弁であり、ソレノイドに駆動信号を送ることにより流路開閉動作が行われる。ただし、それぞれの流路開閉弁としては、電磁弁を用いることなく、流体圧によりスプール弁を駆動するようにした流体操作式としても良い。
【0026】
フィルタ30にはフィルタ30により捕捉された気体を外部に排出するために排気流路35が接続されており、この排気流路35には流路を開閉する流路開閉弁36が設けられている。また、循環流路23の下流側部には循環流路23内の気体を外部に排出するために排気流路37が接続されており、この排気流路37には流路を開閉する流路開閉弁38が設けられている。フィルタ30と膨張収縮部26の間の循環流路23には、流路を開閉する流路開閉弁39が設けられている。
【0027】
上述したベローズ14および可撓性チューブ27のように薬液が接触する部分は、薬液としてのフォトレジスト液と反応しないようにフッ素樹脂により形成されている。ただし、薬液の種類によってはフッ素樹脂に代えてゴムや他の樹脂あるいは金属を用いるようにしても良い。
【0028】
次に、上述した薬液供給装置によって被塗布物に対して薬液を塗布する工程について、図2〜図5を参照しつつ説明する。
【0029】
薬液を塗布する際には、予め、循環流路23内に薬液容器10内の薬液を供給してフィルタ30により薬液を濾過することにより、循環流路23を循環させてフィルタ30により濾過された後の薬液が被塗布物に塗布される。薬液を濾過するために、図1において実線で示すように、ベローズ14を膨張させてポンプ室15が収縮された状態のもとで、図2に示されるように、吸入工程を実行する。この吸入工程においては、流路開閉弁31を作動することにより吸入流路21を開放させた状態のもとで、ポンプ12の駆動機構17を駆動してベローズ14を収縮させることによりポンプ室15を膨張させる。これにより、薬液容器10内の薬液はポンプ室15に向けて案内される。
【0030】
次いで、図3に示されるように濾過工程が実行される。濾過工程においては、流路開閉弁33により循環流路23の流入部24を開放するとともに、流路開閉弁39によりフィルタ30と膨張収縮部26の連通孔28とを連通させた状態のもとで、ポンプ12の駆動機構17の電動モータを逆転させてベローズ14を膨張させることによりポンプ室15を収縮させる。これにより、ポンプ室15内の薬液は循環流路23によりフィルタ30に送られて濾過されるとともに、濾過された薬液は膨張収縮部26に設けられた可撓性チューブ27内に向けて流れることにより、循環流路23内に供給された薬液により可撓性チューブ27が膨張する。膨張した連通孔28内に入り込んだ薬液は、タンクとしての可撓性チューブ27の膨張により一時的に貯留されるので、薬液が外部空気と接触をすることを防止できる。この濾過工程においては、ポンプ室15をベローズ14により収縮させて薬液を加圧してフィルタ30に薬液が供給されるので、薬液が負圧状態となることがなく、薬液の濾過時に薬液内に溶存した気体が気泡となって薬液内に生成混入されることが防止される。図示されるように、二次側ポート20bは一次側ポート20aよりも上側に設けられているので、薬液容器10内に混入されていた気泡がポンプ室15内に流入しても、ポンプ室15内に気泡が止まらずにフィルタ30に向けて案内される。
【0031】
フィルタ30を通過して濾過された薬液は、図4に示す戻し工程によりポンプ室15に戻される。この戻し工程においては、循環流路23の流出部25を流路開閉弁34により開放するとともに、流路開閉弁39によりフィルタ30と膨張収縮部26の連通孔28との連通を遮断させた状態のもとで、ポンプ室15を膨張させることによって循環流路23内の薬液がポンプ室15内に戻される。このときには、ポンプ室15の膨張に伴って膨張収縮部26内の膨張した可撓性チューブ27は径方向に収縮することになる。このようにして、薬液容器10内の薬液は、吐出ノズル11から塗布される前に、予め循環流路23内を流すことによってフィルタ30により濾過され、薬液内に含まれる気泡や塵等の異物が除去されて清浄化される。
【0032】
清浄度を高めるには、図3に示す濾過工程と、図4に示す戻し工程とを複数回繰り返して循環回数を増やす処理を行う。
【0033】
戻し工程が終了した時点では、ポンプ室15は膨張して拡大されたポンプ室15内に濾過済みの薬液が入り込んでいる。この状態のもとで、流路開閉弁34により流出部25を閉じると、薬液供給装置は、図1に示すように待機状態となり、このときにはベローズ14は二点鎖線で示すように収縮した状態となっている。
【0034】
被塗布物に薬液を塗布するには、図5に示す吐出工程が実行される。この吐出工程においては、流路開閉弁32により吐出流路22を開放した状態のもとで、ポンプ室15を収縮させてポンプ室15内の濾過された薬液を吐出ノズル11に向けて吐出する。ポンプ室15の容量を、吐出ノズル11から被塗布物に一度に吐出される薬液の量に比して大きく設定した場合には、複数回の吐出工程を連続的に行うことができる。
【0035】
被塗布物に薬液を塗布した後に、吐出ノズル11からその先端部内に残留した薬液が被塗布物に液滴となって滴下されるのを防止するために、サックバック工程を実行することもできる。その際には、図5に示されるように、吐出流路22を開いた状態のもとでポンプ室15を僅かに膨張させる。これにより、吐出ノズル11の先端部内に残留した薬液は僅かに戻されて液だれが防止され、被塗布物に薬液が滴下されることが防止される。このサックバック動作においては、吐出流路22にはフィルタが設けられておらず、吐出流路22内の薬液には通過抵抗が加わらないので、薬液のサックバック量をポンプ室15の膨張量によって高精度に設定することができる。
【0036】
ポンプ室15が収縮限となって被塗布物に塗布する薬液がポンプ室15内から消費されたときには、図2に示す吸入工程、図3に示す濾過工程、および図4に示す戻し工程が繰り返される。
【0037】
図1〜図5に示すように、本発明の薬液供給装置においては、循環流路23内に薬液を流してフィルタ30により清浄化させる薬液の濾過動作と、吐出ノズル11から薬液を吐出させる吐出動作とが、それぞれ別系統の流路を介して行われる。そして、それぞれ別系統の流路には1台のポンプ12により薬液が供給される。このように、薬液の濾過動作と吐出動作とを別系統の流路により行うようにすると、ベローズ14を駆動機構17により駆動して薬液を吐出ノズル11から吐出する際にはフィルタ30の通過抵抗を受けることがないので、吐出ノズル11からの吐出量や流量を高精度に保持することができる。また、循環流路23にフィルタ30を設け、ポンプ12により薬液をフィルタ30に加圧して供給するようにしたので、フィルタ30により薬液を濾過する際に薬液が負圧状態となることがない。これにより、薬液中に溶存している気体が気泡となることを防止できる。しかも、1台のポンプ12により2系統の流路に薬液を供給することができるので、薬液供給装置の複雑化を回避することができる。さらに、濾過系統と吐出系統とを別々の系統としたので、吐出動作時の薬液の流速と、濾過動作時の薬液の流速とを相互に相違させることができる。
【0038】
図2〜図5に示す各工程は、循環流路23を含めて全ての流路内に薬液が充填された状態のもとで行われる。したがって、薬液供給装置を立ち上げて稼働させる際には、予め、全ての流路内に薬液を充填させて流路内の空気を外部に排出することになる。その際には、排気流路35,37を用いてフィルタ30内と循環流路23内の空気を外部に排出することになる。例えば、フィルタ30内に薬液を供給する際には、流路開閉弁31,33,36を開放し他の流路開閉弁を閉じた状態のもとで、ポンプ12によりフィルタ30内に薬液を供給する。これにより、吸入流路21からフィルタ30内に薬液が充填されるとともにフィルタ30内の空気が排気流路35から外部に排出される。循環流路23内の空気は、ポンプ12から薬液を循環流路23に供給することによって排気流路37から外部に排出される。このように、全ての流路内から気泡を除去した状態で薬液供給装置により被塗布物に対する薬液塗布が行われる。
【0039】
図6はポンプの他の具体例を示す断面図である。図1に示されるポンプ12が蛇腹部を有するベローズ14をポンプ部材としたタイプであるのに対し、図6はダイヤフラム14aをポンプ部材としたタイプのポンプ12を示す。ダイヤフラム14aはポンプケース13とカバー41とにより挟み付けられた状態となっており、ダイヤフラム14aとポンプケース13とによりポンプ室15が形成されている。カバー41とダイヤフラム14aとにより加圧室42が形成されており、外部から加圧室42に加圧流体を供給排出することによってダイヤフラム14aを弾性変形させると、ポンプ室15が膨張収縮することになる。ただし、ダイヤフラム14aを図1に示す場合と同様に電動モータや流体圧シリンダにより弾性変形させるようにしても良い。
【0040】
このポンプ室15に連通してポンプケース13に形成された一次側ポート20aには吸入流路21と流出部25が接続され、ポンプケース13に形成された二次側ポート20bには吐出流路22と流入部24が接続されている。二次側ポート20bを一次側ポート20aよりも上側に配置することによって、ポンプ室15内に入り込んだ気泡をポンプ外へ排出することができる。
【0041】
図7はポンプのさらに他の具体例を示す断面図であり、特許文献1に記載されたチューブをポンプ部材とした形態のポンプ12を示す。ポンプ部材としてのチューブ14bは上下方向を向いて配置され、その下端部には一次側ポート20aが形成された一次側アダプタ51が設けられており、この一次側アダプタ51には吸入流路21と流出部25とが接続される。チューブ14bの上端部には二次側ポート20bが形成された二次側アダプタ52が設けられており、この二次側アダプタ52には吐出流路22と流入部24とが接続される。チューブ14bの外側にはベローズ53が装着されており、このベローズ53はアダプタ51にチューブ14bの一端部を介して固定される固定ディスク部54と、アダプタ52にチューブ14bの他端部を介して固定される固定ディスク部55とを有している。それぞれの固定ディスク部54,55は支持台56に固定されている。
【0042】
固定ディスク部54には大型ベローズ部57が一体に設けられ、固定ディスク部55には大型ベローズ部57よりも軸方向の単位変位量当たりの容積変化が小さい小型ベローズ部58が一体に設けられている。大型ベローズ部57と小型ベローズ部58との間にはこれらと一体に作動ディスク部59が設けられている。チューブ14bとベローズ53との間には非圧縮性媒体が封入される駆動室60が形成されている。支持台56にはベローズ53に沿ってボールねじ軸61が回転自在に装着され、ボールねじ軸61にねじ結合されたボールナット62は、支持台56に設けられたガイドレール63に軸方向に往復動自在に装着されている。ボールねじ軸61はプーリ64を介して電動モータ65により回転駆動されるようになっており、ボールねじ軸61を回転させることにより、作動ディスク部59を軸方向に変位させると、駆動室60の容積が変化してチューブ14bが駆動室60内の非圧縮性媒体を介して径方向に膨張収縮することになる。
【0043】
図8はポンプのさらに他の具体例を示す断面図である。このポンプはポンプケース13が底付き円筒形状のシリンダにより形成されており、ポンプケース13内にはピストン14cにより形成されるポンプ部材が軸方向に往復動自在に装着され、このピストン14cによりポンプケース13内にポンプ室15が形成されている。ピストン14cは駆動ロッド44の先端に取り付けられており、駆動ロッド44は空気圧シリンダや電動モータ等の駆動手段により駆動されてピストン14cは往復動される。
【0044】
上述のように、ポンプ室15を膨張収縮させるポンプ部材としては、図1に示すようにベローズ14を用いる形態と、図6に示すようにダイヤフラム14aを用いる形態と、図7に示すようにチューブ14bを用いる形態と、図8に示すようにピストン14cを用いる形態とがあり、ポンプ室15を駆動手段により膨張収縮させるようにしたタイプのポンプであれば、どのような形態のポンプも使用することができる。
【0045】
一方、循環流路23にはフィルタ30により濾過された薬液を一時的に貯留するためにタンク部材として弾性変形自在のチューブつまり可撓性チューブ27により循環流路23の一部を構成するようにしているが、循環流路23全体を径方向に弾性変形する部材により構成するようにしても良い。また、ダイヤフラムやベローズを弾性変形自在であって膨張収縮室を形成するタンク部材とし、このタンク部材を有するタンクを循環流路23に分岐させて接続するようにしても良い。
【0046】
図9は本発明の他の実施の形態である薬液供給装置の薬液回路図である。図9に示される薬液供給装置においては、吸入流路21と循環流路23の流出部25はそれぞれ三位置切換弁からなる流路切換弁71を介してポンプ12の一次側ポート20aに接続されている。この流路切換弁71は、吸入流路21と流出部25のいずれも一次側ポート20aに対する連通を遮断する位置と、一次側ポート20aを吸入流路21に連通させる位置と、一次側ポート20aを流出部25に連通させる位置との三位置に切り換えられる。
【0047】
同様に、吐出流路22と循環流路23の流入部24はそれぞれ三位置切換弁からなる流路切換弁72を介してポンプ12の二次側ポート20bに接続されている。この流路切換弁72は、吐出流路22と流入部24のいずれも二次側ポート20bに対する連通を遮断する位置と、二次側ポート20bを吐出流路22に連通させる位置と、二次側ポート20bを流入部24に連通させる位置との三位置に切り換えられる。
【0048】
図9に示される薬液供給装置においては、流路切換弁71が、ポンプ室15を膨張させて薬液容器10内の薬液をポンプ室15内に案内するときに吸入流路21を開く吸入弁手段と、フィルタ30により濾過された薬液をポンプ室15戻すときに循環流路23の流出部25を開く戻し弁手段とを構成している。一方、流路切換弁72は、ポンプ室15を収縮させてポンプ室15内の薬液を吐出ノズル11に吐出させるときに吐出流路22を開く吐出弁手段と、ポンプ室15内の薬液を循環流路23に供給するときに循環流路23の流入部24を開く循環弁手段とを構成している。
【0049】
図10は本発明のさらに他の実施の形態である薬液供給装置の薬液回路図である。図10に示される薬液供給装置においては、一次側ポート20aにはポンプ室15に向かう方向の薬液の流れを許容し逆方向の流れを阻止する逆止弁73が接続され、二次側ポート20bにはポンプ室15から吐出する方向の薬液の流れを許容し逆方向の流れを阻止する逆止弁74が接続されている。吸入流路21と循環流路23の流出部25はそれぞれ二位置切換弁からなる流路切換弁75を介して逆止弁73に接続されている。この流路切換弁75は、吸入流路21と逆止弁73とを連通させる位置と、流出部25を逆止弁73に連通させる位置との二位置に切り換えられる。一方、流路切換弁76は、吐出流路22と逆止弁74とを連通させる位置と、流入部24と逆止弁74とを連通させる位置との二位置に切り換えられる。
【0050】
図10に示される薬液供給装置においては、逆止弁73と流路切換弁75が吸入弁手段と戻し弁手段とを構成している。一方、逆止弁74と流路切換弁76が吐出弁手段と循環弁手段とを構成している。図9および図10に示される薬液供給装置においても、ポンプ12の形態としては、ベローズ14をポンプ部材とする形態のみならず、ダイヤフラム14aをポンプ部材とする形態と、チューブ14bをポンプ部材とする形態と、ピストン14cをポンプ部材とする形態のいずれでも良い。また、図9および図10に示された流路切換弁71,72,75,76は、ソレノイドにより作動する電磁弁により形成されているが、流路開閉弁31〜34と同様に、電磁弁に代えて流体圧によりスプール弁体を駆動するようにした流体操作式としても良い。
【0051】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、図示する薬液供給装置は半導体ウエハにフォトレジスト液を塗布するために使用されているが、液晶基板製造プロセスや磁気ディスク製造プロセスにおいて、有機溶剤や純水を被塗布物に塗布するために使用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 薬液容器
11 吐出ノズル
12 ポンプ
14 ベローズ
14a ダイヤフラム
14b チューブ
14c ピストン
15 ポンプ室
21 吸入流路
22 吐出流路
23 循環流路
24 流入部
25 流出部
26 膨張収縮部
31 流路開閉弁(吸入弁手段)
32 流路開閉弁(吐出弁手段)
33 流路開閉弁(循環弁手段)
34 流路開閉弁(戻し弁手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ部材により膨張収縮するポンプ室が設けられたポンプに接続され、薬液容器内の薬液を前記ポンプ室に案内する吸入流路と、
前記ポンプと吐出ノズルとの間に接続され、前記ポンプ室内の薬液を前記吐出ノズルに吐出する吐出流路と、
前記ポンプ室から供給された薬液を一時的に貯留する膨張収縮部が設けられるとともに流入部と流出部とがそれぞれ前記ポンプに接続され、前記ポンプ室から供給された薬液を前記ポンプ室に戻す循環流路とを有し、
前記循環流路を介して前記ポンプ室に戻される薬液を濾過するフィルタを前記循環流路に設け、
前記薬液容器内の薬液の前記循環流路における循環動作と、前記循環流路内の濾過された薬液の前記吐出ノズルへの吐出動作とを前記ポンプにより行うことを特徴とする薬液供給装置。
【請求項2】
請求項1記載の薬液供給装置において、前記膨張収縮部は弾性変形自在のタンク部材により膨張収縮室を形成するタンクであることを特徴とする薬液供給装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の薬液供給装置において、前記ポンプ室を収縮させて前記ポンプ室内の薬液を前記吐出ノズルに吐出するときに前記吐出流路を開く吐出弁手段と、前記ポンプ室を膨張させて前記薬液容器内の薬液を前記ポンプ室内に案内するときに前記吸入流路を開く吸入弁手段と、前記ポンプ室内の薬液を前記循環流路に供給するときに前記循環流路の前記流入部を開く循環弁手段と、前記フィルタにより濾過された薬液を前記ポンプ室に戻すときに前記循環流路の前記流出部を開く戻し弁手段とを有することを特徴とする薬液供給装置。
【請求項4】
ポンプ内に装着されたポンプ部材により区画されて膨張収縮するポンプ室と薬液容器を接続する吸入流路と、前記ポンプ室から供給された薬液を一時的に貯留する膨張収縮部が設けられるとともに前記ポンプ室から供給された薬液を前記ポンプ室に戻す循環流路と、前記ポンプ室と吐出ノズルを接続する吐出流路とを有し、前記薬液容器内の薬液を前記吐出ノズルに吐出する薬液供給方法であって、
前記吸入流路を開放した状態のもとで前記ポンプ室を膨張させて前記薬液容器内の薬液を前記ポンプ室に案内する吸入工程と、
前記循環流路の流入部を開放した状態のもとで前記ポンプ室を収縮させて前記ポンプ室から供給された薬液をフィルタにより濾過する濾過工程と、
前記循環流路の流出部を開放した状態のもとで前記ポンプ室を膨張させて前記循環流路から戻される濾過された薬液を前記ポンプ室に吸入する戻し工程と、
前記吐出流路を開放した状態のもとで前記ポンプ室を収縮させて前記ポンプ室内の濾過された薬液を前記吐出ノズルに吐出する吐出工程とを有し、
前記薬液容器内の薬液の前記循環流路における循環動作と、前記循環流路内の濾過された薬液の前記吐出ノズルへの吐出動作とを前記ポンプにより行うことを特徴とする薬液供給方法。
【請求項5】
請求項4記載の薬液供給方法において、前記膨張収縮部は弾性変形自在のタンク部材により膨張収縮室を形成するタンクであることを特徴とする薬液供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−101851(P2011−101851A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257828(P2009−257828)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000145611)株式会社コガネイ (142)
【Fターム(参考)】