説明

薬液散布作業車両

【課題】旋回時又は旋回終了時に旋回外側のサイドブームを自動的に上昇又は下降させる制御を安全性を考慮して可能にした薬剤散布作業車両を提供すること。
【解決手段】GPS受信機81から得られる車速又は車輪12又は13の回転数から得られる車速により適切な薬液散布量となるように薬液タンク18からの薬液流量を流量制御モータ10により流量調節弁73の開度を調整する。このとき車輪12及び/又は13の操舵角の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム44の上昇を行い、また前記車速が所定値以上になると旋回外側のサイドブーム44の自動上昇を行わない制御を行うことで、高速走行時にサイドブーム44の破損等の不具合を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薬液タンクに収容された薬液を圃場に散布する薬剤散布作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センターブーム及びその両側に拡げることができるサイドブームからなる薬液の散布ブームを機体の前部にローリング自在に支持して設け、これらの散布ブームから薬液などを圃場で生育中の散布対象の作物に噴霧する薬剤散布作業車両があり、該薬剤散布作業車両の車速を、GPSを利用して測定する構成も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−8187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の発明によれば、GPS受信機を搭載してGPSから得た位置情報と速度情報を検出し、得られた位置情報と速度情報に基づき作業車両の走行開始から散布した薬液の使用量を検出し、薬液タンクへの薬液補充タイミングを予測することができる構成が開示されている。
しかし、上記特許文献1記載の薬剤散布作業車両の左右に拡げたサイドブームから薬液を圃場に散布する途中で、該作業車両が畦際で旋回する場合には旋回外側のサイドブームが畦畔に接触しないように上げ操作していた。ところが、薬剤散布作業車両の操縦その他の作業中に畦際に近づくと、旋回外側のサイドブームを畦に接触させないように手動で上げ操作することが面倒で、うっかり忘れてサイドブームが畦に接触して損傷することもあった。
そこで本発明の課題は、旋回時又は旋回終了時に旋回外側のサイドブームを自動的に上昇又は下降させる制御を安全性を考慮して行える薬剤散布作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記本発明の課題を解決するために次のような解決手段を採用する。
すなわち、請求項1記載の発明は、薬液を貯留する薬液タンク(18)と、該薬液タンク(18)からの薬液を圃場に散布するセンターブーム(43)と該センターブームの左右に配置したサイドブーム(44)と、GPSから位置情報と速度情報を受信できるGPS受信機(81)と、車輪(12及び/又は13)の回転数を検出する車速センサ(6)と、左右のサイドブーム(44)の上下動をそれぞれ行うための上下シリンダ(29)と、左右の車輪(12及び/又は13)の切れ角を検出する操舵角センサ(7)と、薬液タンク(18)と薬液散布ブーム(43,44)との間の薬液流路に設けた薬液を吐出する防除ポンプ(65)と、該防除ポンプ(65)の設置箇所より後流側の薬液流路に設けた薬液の吐出圧力を調整する薬液流量調節弁(73)を設けた薬液散布作業車両において、薬液流量調節弁(73)の開閉を行う流量制御モータ(10)と、GPSからの速度情報に基づき車速を算出する車速算出手段(5)と、(a)車速算出手段(5)により得られる第1車速(VG)と(b)前記車速センサ(6)により得られる第2車速(Vs)の内の少なくともいずれかの車速又は(c)前記第1車速(VG)と第2車速(Vs)の平均化された車速と、予め設定された単位面積当たりの薬液散布量(A)との関係から防除ポンプ(65)の吐出圧力を計算し、該吐出圧力計算値に一致するように前記流量制御モータ(10)による薬液流量調節弁(73)の開度調整を行い、さらに、操舵角センサ(7)の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)の上昇を行い、前記車速が所定値以上になると前記旋回外側のサイドブーム(44)の自動上昇を行わない制御構成を有する制御装置(100)を備えたことを特徴とする薬液散布作業車両である。
【0006】
請求項2記載の発明は、制御装置(100)が、予め手動操作で旋回外側のサイドブーム(44)を上昇させたときに要した時間を記憶しておき、操舵角センサ(7)の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)を上昇させるときには、前記記憶した手動時の上昇時間だけ上昇させる制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両である。
【0007】
請求項3記載の発明は、制御装置(100)が、操舵角センサ(7)による旋回終了時の旋回角度の検知により旋回外側のサイドブーム(44)を自動下降させ、また車速が所定値以上になると前記旋回外側のサイドブーム(44)の自動下降を行わない制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両である。
【0008】
請求項4記載の発明は、制御装置(100)が、予め手動操作で旋回外側のサイドブーム(44)を下降させたときに要した時間を記憶しておき、操舵角センサ(7)の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)を下降させるときには、前記記憶した手動時の下降時間だけ下降させる制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両である。
【0009】
請求項5記載の発明は、制御装置(100)が、予め手動操作で旋回外側のサイドブーム(44)を上昇と下降のときに要した時間をそれぞれ記憶しておき、操舵角センサ(7)の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)を手動で上昇又は下降させるときには、前記それぞれ記憶した手動時の上昇時間と下降時間だけ上昇又は下降させる制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、電波の受信が不安定な場合(厚い雨雲、雪雲、地形の影響(谷、山のふもと)など)及びGPS電波の精度が変更される場合があるため、GPSで得られる車速が不安定となるおそれがある一方で、車輪のスリップ時などを除いて車速センサ6の信頼性は高いので、GPSから得られた第1車速(VG)と車速センサ6で得られた第2車速(車速パルスを読み込んで計算された車速)(Vs)のいずれか、または第1車速(VG)と第2車速(Vs)の平均値を用いて防除ポンプ65の吐出圧力を計算し、該吐出圧力計算値に一致するように薬液流量調節弁73の開度を流量制御モータ10で調整して予め設定された単位面積当たりの薬液散布量(A)が均一になるように制御することで安定した薬液散布が可能となり、同時に、路上走行等での所定車速以上の高速走行時に自動的にサイドブーム44が上昇しないのでサイドブーム44の破損等の不具合を防止できる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、自動的に旋回外側のサイドブーム44を上昇させるときには、予め記憶している手動時の上昇時間だけ上昇させるので、オペレータが手動操作した状態を再現させることができ、圃場条件等に応じた作業が可能になる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、路上走行等での所定車速以上の高速走行時に自動的にサイドブーム44が下降しないのでサイドブーム44の破損等の不具合を防止できる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、自動的に旋回外側のサイドブーム44を下降させるときには、予め記憶している手動時の下降時間だけ下降させるので、オペレータが手動操作した状態を再現させることができ、圃場条件等に応じた作業が可能になる。
【0014】
請求項5記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、自動的に旋回外側のサイドブーム44を上昇又は下降させるときには、記憶している手動時の上昇時間だけ上昇させ、記憶している手動時の下降時間だけ下降させるので、オペレータが手動操作した状態を再現させることができ、圃場条件等に応じた作業が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による薬液散布作業車両の側面図である。
【図2】図1の薬液散布作業車両の平面図である。
【図3】図1の薬液散布作業車両の制御ブロック図である。
【図4】図1の薬液散布作業車両のGPS受信機と本機コントローラの制御ブロック図である。
【図5】図1の薬液散布作業車両の本機コントローラと防除機コントローラの構成図である。
【図6】図1の薬液散布作業車両の薬液散布制御のフローチャートである。
【図7】図1の薬液散布作業車両の薬液散布制御のフローチャートである。
【図8】図1の薬液散布作業車両のサイドブームの昇降制御のフローチャートである。
【図9】図1の薬液散布作業車両のサイドブームの昇降制御のフローチャートである。
【図10】図1の薬液散布作業車両のサイドブームの昇降制御のフローチャートである。
【図11】図1の薬液散布作業車両のサイドブームの昇降制御のフローチャートである。
【図12】図1の薬液散布作業車両のサイドブームの昇降制御のフローチャートである。
【図13】図1の薬液散布作業車両の圃場コーナ部での走行様態を説明する平面図である。
【図14】図1の薬液散布作業車両の薬液散布制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいてこの発明の実施態様について説明する。
図1に薬液散布装置を前部に取り付けた薬液散布作業車の側面図を示し、図2には薬液散布作業装置部分の平面図を示す。なお、本明細書では薬液散布作業車の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右という。
【0017】
薬液散布作業車の車体1は、前輪12及び後輪13を軸装するアクスルハウジングをローリング自在に支持する。また、ハンドルポスト59により支持されたステアリングハンドル14の回転操作により前輪12を操向すると共にボンネット15下のエンジン(図示せず)によって伝動走行される。この車体1には操縦席17の後部から左右両側にわたって囲うように形成された薬液タンク18を車体に対し着脱自在に搭載し、この薬液タンク18内の薬液を前側に設けられる散布ブーム19へ圧送する防除ポンプ20が車体1の操縦席17の下方に設けられている。
【0018】
操縦席17の左側下方でフロア54の上方に位置する薬液タンク18の左側部には、オペレータ一人が乗り降りできる程度の凹部Sが設けられ、該凹部Sの底面にタンク側ステップ50が設けられている。タンク側ステップ50の外側下方には、本機側ステップ53が設けられている。この本機側ステップ53は、上面53Aが、フロア54と薬液タンク18の底面とほぼ同一高さとなる位置にある。
【0019】
本機側ステップ53の下方には、フロア54から吊り下げ式に設置された梯子部材55が設けられている。梯子部材55は任意の段数、例えば2段のステップを有している。これらの梯子部材55、本機側ステップ53及びタンク側ステップ50は所定の間隔で配置されている。このような構成によりオペレータは、梯子部材55のステップ、本機側ステップ53及びタンク側ステップ50を順に登ることにより、安全かつ容易に操縦席17に到達して乗車できる。
【0020】
本機のフロア54に薬液タンク18を搭載する自走型薬液散布作業車において、薬液タンク18は本機ダッシュパネル56付近まで前方に突出している。一方、薬液タンク18は上面視でオペレータの足元まで完全に覆い囲った略コの字状の構造を有している。このような構造により薬液タンク18の高さを増加させずにタンク容量を増大させるとともに後進時の見通しを確保できる。また、薬液タンク18を前方に長くすることにより、薬液タンク内水量の変位による機体の重心移動を小さく抑え、薬液散布作業時の機体バランスを安定させ、走行性能を高めることができ、機体が後傾して沈没するという事態を回避できる。
なお、図2では薬液タンク18の上面が略コの字形状の略直方体形状のものを図示しているが、これに限定されず、タンクステップを有する形状であれば任意の形状にすることができる。
薬液タンク18の先端部形状は、フロア54のフロントに上方へ浮き上がるように湾曲させた傾斜部51と密着するように形成されている。従って、薬液タンク18を後方から前方へ移動させて傾斜部51で合致させて止めることができる。このような構造により前輪12の横揺れ等によるタイヤと薬液タンク18の干渉を防止でき、薬液タンク18の本機のフロア54上での接地性を高め、タンク18の安定性を高めることができる。
【0021】
前記車体1の前部には、ボンネット15の左右両側部に支持されたリフトリンク3が取り付けられている。リフトリンク3は、アッパリンク24とロワリンク25を平行状に配置して、この前端部間をヒッチブラケット4で連結し、後端部間を直立した支柱23に軸支して平行リンク形態に構成され、この平行リンクが昇降シリンダ27,27により先端部が昇降移動することで散布ブーム19の薬液散布高さを調節することができる。
【0022】
ヒッチブラケット4の下端部には機体左右方向に伸びるセンターブーム43を取り付けている。またその左右端部に上方に突出したシリンダ取付支柱26が設けられ、シリンダ取付支柱26の上端には電気的に作動制御される油圧タンク付ソレノイドバルブ28を介して伸縮するローリングシリンダである上下シリンダ(ローリングシリンダ)29の上端が取り付けられ、上下シリンダ29の下端にはサイドブーム44が回動自在に取り付けられている。従って、上下シリンダ29の伸縮によりサイドブーム44が昇降される。なお、サイドブーム44は機体の両サイドに収納されるときはサイドブーム受け40で機体に支持される。
【0023】
前記散布ブーム19は、センターブーム43と、このセンターブーム43の外側に折畳可能に連結されるサイドブーム44とから構成され、各々薬液噴霧用の噴霧ノズル45(45a,45b)が一定間隔で配置されている。
サイドブーム44はシリンダ取付支柱26を介してセンターブーム43に取り付けられているが、サイドブーム44はセンターブーム43に設けられた開閉シリンダ30により開閉される。
【0024】
指標ロッド52(図1)は、センターブーム43の中央付近領域から上方に向けて垂直に突出して設けられたロッドである。該指標ロッド52の上端にはLED等からなるランプが付設されており、後述する自動水平制御動作の開始と同時にランプが点灯する。なお、指標ロッド52の下端において、作動機構等と連動して自動水平制御中に回転等するようにしても良い。このような構成によりオペレータにブーム43,44の制御状態を認知させることができ、ブーム43,44の誤操作を回避でき、散布作業時に自動水平スイッチをONにすることを忘れ、ロングブーム(サイドブーム44)の先端のノズル45bが作物と接触し、破損するという不具合を回避できる。
【0025】
ここで自動水平制御動作とは、開閉シリンダ30,30によりサイドブーム44,44をセンターブーム43の延長線上の水平方向(機体の進行方向に向かって左右方向)に開き、さらに上下シリンダ29,29であるローリングシリンダを最大限伸ばした際に、サイドブーム44,44が地面に対して水平状態になるように制御することをいう。具体的には、傾斜地を走行中に薬液散布ブーム19のサイドブーム44を開いていても上下シリンダ29により一方のサイドブーム44をリフトさせ、他方のサイドブーム44をダウンさせることで開いたサイドブーム44を傾斜地に対して平行になるようにして、地面に衝突させないようにする。
【0026】
次に上記構成の薬液散布作業車両の制御部について説明する。図3の制御ブロック図に示すように、本機コントローラ100には操舵切替スイッチと水平関係スイッチ(水平関係スイッチには自動スイッチと平行スイッチと手動スイッチがあり、自動スイッチはブーム43,44を地球の水平線に対して水平に維持する水平制御、平行スイッチは圃場面1に対してブーム43,44の平行姿勢を維持する平行制御、手動スイッチは手動で任意の傾斜位置にブーム43,44の姿勢を変更制御することができる。)、車速センサ6、操舵角センサ7、コントロールレバーセンサ(薬液散布の入・切り用のレバー用センサ)、リフトアームセンサ、ストロークセンサ、スロープセンサ、GPSアンテナ(受信機)81からの信号を受信する入力回路などが接続し、操舵装置(ハンドル14や車輪操舵用の油圧シリンダと該シリンダ作動用のソレノイド等からなる)のソレノイド(本実施例の薬液散布作業車はFWS、4WS、RWSを装備しており、4輪全て油圧シリンダで動く構成である。)、昇降ソレノイド(シリンダ29用)、水平ソレノイド(シリンダ30用)、ブザー、表示部への出力回路等が接続している。
【0027】
図4に示すように、薬液散布作業車両(本機)のコントローラ100と薬液タンク18と薬液散布用ブーム43,44と薬液ホース61,66などとその流量制御弁73などから構成される防除機B(図5)のコントローラ101から本実施例のコントローラは構成され、本機のコントローラ100にはGPS受信機81が接続される。該GPS受信機81は複数のGPS衛星からの信号を受信し、本機の現在位置データとして記憶すると共に、時計回路で計測する所定時間毎に現在位置データを更新しながら移動距離を算出し、該時計回路による所定時間おきに速度、即ち車速を本機コントローラ100にある車速算出手段5により算出する構成としている。また、本機コントローラ100には車軸の回転数を検知する車速センサ6からも入力がある。
【0028】
本実施例の薬液散布作業車両では、該作業車両に搭載して車速に連動して薬液を散布する防除機Bにおいて、薬液濃度と車速等により薬液散布量を決めて防除ポンプ65の薬液吐出量を決める。なお、前記GPS受信機81はGPSからの車両速度情報と位置情報を得ることができる。
【0029】
また、図5に示すような薬液散布配管系統の構成を採用した。薬液タンク18と薬液タンク60を別個に設け、該薬液タンク18からの給水路(ホース)61に給水コック62を設け、該給水コック62より下流の給水路(ホース)61に設けたサクションフィルタ64の出口部に防除ポンプ65を設ける。該防除ポンプ65の出口部には吐水ホース66を接続し、該吐水ホース66の先端は希釈薬液路67を介して噴霧コック69の設置部に接続している。前記吐水ホース66と希釈薬液路67の間に上流側から順に安全弁70とエアチャンバー71と流量制御弁73と流量センサ74が設置されている。
【0030】
また安全弁70の圧力設定部の吐水ホース66と薬液タンク18との間に余水ホース75が接続されている。前記安全弁70を開いておくと、吐水ホース66内の余分な薬液を薬液タンク18に還流させることができる。この安全弁70とエアチャンバー71と流量制御弁73が設置された吐水ホース66の部分であって、薬液タンク60から吐水ホース66へ薬液を供給する薬液ホース77の終端部分に第二ポンプ78が設けられ、第二ポンプ78は前記安全弁70,エアチャンバー71,流量制御弁73の設置ベース(清水と薬液の混合部P1)に接続している。また、余水ホース75の設置部より上流側の吐水ホース66から分岐して薬液タンク18に接続した攪拌ホース79も設けられている。なお、流量制御弁73は図3の制御ブロック図に示す流量制御モータ10で開度が制御される。
【0031】
前記混合部P1で清水と混合された希釈薬液は噴霧コック69を経由して前記センターブーム43,サイドブーム44に希釈薬液を供給する構成になっている。各ブーム43,44への希釈薬液の単位面積(例えば10アール)当たりの供給量(A)は流量制御弁73で調整できる。
こうして薬液タンク18と薬液タンク60を別個に設けたので、作業車が圃場内でスリップして走行できなくなっても薬液だけを圃場内に廃棄することができる。
【0032】
GPS受信機81からの速度データや位置データを本機コントローラ100で受信し、該速度、位置データを演算して車速算出手段5により速度を算出し、得られた値を速度信号に変換した後、防除機コントローラ101にシリアル通信で車速算出手段5による車速(第1車速(VG))として送信する。また、本機には車軸の回転数を車速パルスで計測する車速センサ6が設けられており、該車速センサ6からも車速(第2車速(Vs))を得ることができる。こうしてGPS受信機81から得られる車速算出手段5に基づく第1車速(VG)と本機に設けた車速センサ6から得られる第2車速(Vs)を本機側のコントローラ100で計算し、CAN通信により防除機コントローラ101に速度データを送り、薬液散布制御に利用する構成とする。
通常は、車両の発進直後と停止直前は車速センサ6に基づく第2車速(Vs)を車速とし、安定走行時にはGPSによる第1車速(VG)を車速とする場合が多い。
【0033】
ここで本実施例の薬液散布の基本手順を説明する。
まず、オペレータが10アール当たりの散布量A(リットル/10アール)を決定し、次いで薬液散布作業を開始すると、GPSに基づく第1車速(VG)と本機に設けた車速センサ6から得られる第2車速(Vs)がそれぞれ車速V(m/s)を検知する。そして制御装置100,101が前記第1車速(VG)と第2車速(Vs)(以下、単に車速(VG)、車速(Vs)と言う。)の中のどちらかの車速又は両方の車速に基づく10アール当たりの設定薬液散布量Aに対応した薬液噴霧圧力を計算し、該計算圧力値と実際の吐水ホース66の圧力Pが一致するように流量制御弁73を制御して、ブーム43,44のノズル45a,45bからの薬液散布量を変化させ、10アール当たりの薬液散布量Aを設定して作業すれば、車速(VG,Vs)の変動があっても薬液流量が制御され、設定散布量通りに圃場に均一に薬液を散布できる。
【0034】
防除機コントローラ101に車速測定手段がなくても、防除機(薬液散布装置)Bが連結される本機側の車速測定手段を用いて防除機Bでも車速(Vs)を測定することができるだけでなく、上記図4に示す構成により、本実施例の防除機Bとは別の粉粒体肥料を散布する可変施肥装置等の薬液散布装置(図示せず)に設けたコントローラを本機コントローラ100とは別に搭載している場合でも、可変施肥装置等の薬液散布装置は、そのまま車速を使用することができる。
【0035】
このとき得られる車速として図6のフローチャートに示すように前記GPSで得られた車速算出手段5に基づく車速(VG)と本機の車速センサ6から得られる車速(Vs)の平均化を行い、その平均化された車速を防除機Bの車速とすることができる。
【0036】
GPSで得られた車速算出手段5に基づく車速(VG)と本機の車速センサ6から得られる車速(Vs)の平均化を行う理由は、電波の受信が不安定な場合(厚い雨雲、雪雲、地形の影響(谷、山のふもと)など)及びGPSの電波の精度が変更される場合があるためGPSで得られる車速が不安定となる恐れがある一方で、車輪のスリップ時などを除いて車速センサ6の信頼性が高いので、GPSから得られた車速と車速センサ6で得られた車速(車速パルスを読み込んで車速を計算する)を平均化して求めた車速に基づき、圃場10アール当たりの設定薬液散布量Aに対応した計算圧力値と実際の吐水ホース66の圧力Pが一致するように流量制御弁73を制御して、ブーム43,44のノズル45a,45bからの薬液散布量を変化させることで、車速の変動があっても圃場10アール当たりの薬液散布量Aを安定して散布することが可能となる。
【0037】
また、車速センサ6から得られた車速(Vs)が一定値(例えば0.3〜0.4m/s)以下のときは、GPSから得られた車速(VG)は防除機Bの薬液散布量の算出用の制御に使用しないようにする。例えば、走行開始時の車速変化が不安定なときは、図7のフローチャートに示すように車速センサ6から得られた車速(Vs)を圃場10アール当たりの設定薬液散布量Aに対応した薬液散布圧力値の計算に利用して、GPSによる車速(VG)は利用しないようにすることで薬液散布量の変動を抑えることができる。
【0038】
これは所定車速以下の低速での走行時には、GPSによる車速(VG)は車速センサ6による車速(Vs)よりも精度が悪くなるために、薬液散布量が過剰になりすぎたり、逆に足りない状況が発生する。そこでGPSによる車速(VG)を用いないで、車速センサ6による車速(Vs)を用いる。
なお、走行開始後に車速センサ6で得られた車速(Vs)が一定値(例えば(0.3〜0.4m/s)を超えると、GPSによる車速(VG)に基づいて薬液散布量を決めて散布を実行する。
【0039】
本実施例の薬液散布作業車両は、GPS受信機81と車速センサ6から、それぞれ得られる速度情報を車速として設定散布量から設定圧力を計算し、車速と連動させてセンターブーム43とサイドブーム44から圃場に散布する薬液量を流量制御モータで駆動する開閉弁73の開度の調整をする構成を備えている。
【0040】
上記薬液散布を行う薬液散布作業車両は、操舵角センサ7により旋回動作に入ったことを検出すると、旋回外側のサイドブーム44を自動的に上下シリンダ29により上昇させる自動ブーム昇降制御構成を有する制御装置100を備えている。しかし、車速センサ6で計測される車速が所定車速以上のときは、旋回中は旋回外側のサイドブーム44を、自動上昇を行わない制御構成とする。
【0041】
なお、前記所定車速は、例えば副変速2段、主変速4段の構成とする。副変速1速と主変速1速で0.9km/h、副変速2速と主変速4速で13.2km/hの速度となる。圃場の状況により広大な作業平面では高速作業走行し、山間地では低速作業走行するので、一概に数値の特定は難しい。
【0042】
この場合のサイドブーム44の昇降制御のフローチャートを図8に示す。
このような制御構成により、路上走行等での高速走行時に自動ブーム昇降制御構成によるサイドブーム44の破損等の不具合を防止できる。
【0043】
本実施例の薬液散布作業車両は、旋回が終了したことを検出し、旋回時に上昇させた旋回外側のサイドブーム44を自動で下降させるとき、車速が所定車速以上のときは自動降下を行わない構成とする。
この場合のサイドブーム44の昇降制御のフローチャートを図9に示す。
こうして、路上走行等での高速走行時に自動ブーム昇降制御構成によるブームの破損等の不具合を防止できる。
【0044】
さらに、本実施例では、予めオペレータが手動操作により旋回外側のサイドブーム44を上昇させるのに要した時間を制御装置100に記憶しておき、上記自動ブーム昇降制御構成を備えている作業車両が旋回動作に入ったことを検出し、旋回外側のサイドブーム44を自動で上昇させるときに、前記記憶している手動操作による上昇時間だけ、旋回外側のサイドブーム44を上昇させる構成としても良い。
この場合のサイドブーム44の昇降制御のフローチャートを図10に示す。
こうして、旋回外側のサイドブーム44を自動上昇させるときにオペレータが操作した状態を再現させることができ、圃場条件等に応じた作業が可能になる。
【0045】
同様に、予めオペレータが手動操作により旋回外側のサイドブーム44を下降させるのに要した時間を制御装置100に記憶しておき、上記自動ブーム昇降制御構成を備えている作業車両が旋回終了したことを検出し、旋回時の外側のサイドブーム44を自動で下降させるときに、前記記憶している手動操作による下降時間だけ、旋回外側のサイドブーム44を上昇させる構成とする。
この場合のサイドブーム44の昇降制御のフローチャートを図11に示す。
この場合も、旋回外側のサイドブーム44を自動下降させるときにオペレータが操作した状態を再現させることができ、圃場条件等に応じた作業が可能となる。
【0046】
また、本実施例の作業車両の旋回開始時に旋回外側のサイドブーム44を自動上昇させ、または旋回終了時に旋回外側のサイドブーム44を自動下降させるときに、予めオペレータが手動操作により上昇と下降を行い、それぞれ上昇時間と下降時間を記憶している時間だけ、旋回外側のサイドブーム44を自動上昇又は自動下降させる構成とする。
こうして、薬液散布作業前にオペレータの作業形態に応じた自動上昇と自動下降の時間を簡単に測定し、設定することができ、作業性が従来より向上する。
【0047】
本実施例の作業車両の操舵角センサ7の検出値が所定角度に達したとき、機体旋回外側のサイドブーム44を自動リフトする自動ブーム昇降制御機構成において、4WSの場合に前後輪12,13の操舵角センサ7の検出値が共に所定角度以上(例えば、20〜30度程度以上)になると旋回外側のサイドブーム44を自動的に上昇させる構成とすることが望ましい。
これは、本実施例の作業車両の旋回作業中において、オペレータは苗をできる限り踏み倒さないように細心の注意を払い、旋回時は複数の煩雑な操作が必要な作業車両を操作できる。
この場合のサイドブーム44の昇降制御のフローチャートを図12に示す。
このように旋回散布作業での畦道とサイドブーム44との干渉を防止でき、且つ自動化することで、オペレータの旋回時のサイドブーム44の操作負荷を低減した。
【0048】
図13の圃場のコーナ部を旋回走行中の薬液散布作業車両の平面図に示すように、圃場のコーナにさしかかり、最初の旋回((1)で示す約90度の旋回)の後、次の旋回((2))まで、作業車両は、畦際を(3)の範囲で長い距離を直進する必要がある。これは直近距離を長くすることにより畦畔に散布漏れなく十分に薬液散布を可能とするためである。直進走行中はサイドブーム44の上昇を一旦停止させる。このサイドブーム44の上昇を停止させる制御は、(3)の直進時は前輪12又は後輪13の操舵角センサ7がサイドブーム44を自動上昇させるために予め設定された制御範囲の検出値を外れたときに、サイドブーム44を自動停止させることができる。
この場合のサイドブーム44の昇降制御のフローチャートを図14に示す。
上記したようにサイドブーム44の上昇を一旦停止させた方が、次の旋回((2)の圃場の畦から離れる方向の旋回)で元のサイドブーム44の高さまで下降させる必要があるので、下降時間がかかり過ぎて散布ムラになるのを防止するメリットがある。
【0049】
前記最初の旋回((1)で示す約90度の旋回)の後、2番目の旋回((2)で示す約90度の旋回)まで畦際を(3)の範囲で直進している間にサイドブーム44の上昇を一旦停止させる制御を実行している間には、旋回内側のサイドブーム44は自動水平とする制御(ブーム全体のローリング制御)を行う。
これは、機体旋回内側のサイドブーム44では旋回中も継続して薬液散布がなされるので、ブーム水平制御を兼ね備えた方が、作物と噴霧ノズル45a,45bとの距離が一定になるので散布ムラが発生しないで、安定した散布精度が得られる。
【0050】
次に、前記図13に示す圃場のコーナでの2番目の旋回((2)の旋回)時に旋回外側の前工程で上昇させていたサイドブーム44を自動降下させる構成を採用することが望ましい。
最初の旋回((1))と2番目の旋回((2))での機体旋回内側のサイドブーム44は常時水平を維持するので、サイドブーム44と作物との距離が不変で、散布精度が従来より向上する。
【0051】
また、サイドブーム44の自動水平制御構成をオフとして、手動モードでサイドブーム44を動かす状態にしても、旋回時には旋回外側のサイドブーム44の自動リフトを行うブームリフト制御構成を本実施例では実行する。
圃場の凹凸がない場合は、ブーム水平制御構成をオフとする場合がある。その際にもサイドブーム44のリフト制御構成を有効としておけば、旋回作業時の外側のサイドブーム44が自動上昇していると、該旋回外側のサイドブーム44と畦との干渉等の操作ミスが発生しないメリットがある。
このように、防除作業での作業車両の旋回工程は、最も神経を使う工程なので、これを容易に実行できるようにすることで、オペレータ(車両運転者)の旋回時の精神的な負担を大幅に低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、自走型散布機を備えた薬剤散布用の作業車両に限らず、肥料などを散布する作業車両にも利用可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
1 車体 1a フック
3 リフトリンク 4 ヒッチブラケット
5 車速算出手段 6 車速センサ
7 操舵角センサ 10 流量制御モータ
12 前輪 13 後輪
14 ステアリングハンドル 15 ボンネット
17 操縦席 18 薬液タンク
19 散布ブーム 20 防除ポンプ
23 支柱 24 アッパリンク
25 ロワリンク 27 昇降シリンダ
26 シリンダ取付支柱
28 油圧タンク付ソレノイドバルブ
29 上下シリンダ(ローリングシリンダ)
30 開閉シリンダ 40 サイドブーム受け
43 センターブーム 44 サイドブーム
45(45a,45b) 噴霧ノズル
50 タンク側ステップ 51 傾斜部
52 指標ロッド 53 本機側ステップ
54 フロア 55 梯子部材
56 本機ダッシュパネル 59 ハンドルポスト
60 薬液タンク 61 給水路(ホース)
62 給水コック 64 サクションフィルタ
65 防除ポンプ 66 吐水ホース
67 希釈薬液路 69 噴霧コック
70 安全弁 71 エアチャンバー
73 流量制御弁 74 流量センサ
75 余水ホース 77 薬液ホース
78 第二ポンプ 79 攪拌ホース
81 GPS受信機 100 本機コントローラ
101 防除機コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を貯留する薬液タンク(18)と、
該薬液タンク(18)からの薬液を圃場に散布するセンターブーム(43)と該センターブームの左右に配置したサイドブーム(44)と、
GPSから位置情報と速度情報を受信できるGPS受信機(81)と、
車輪(12及び/又は13)の回転数を検出する車速センサ(6)と、
左右のサイドブーム(44)の上下動をそれぞれ行うための上下シリンダ(29)と、
左右の車輪(12及び/又は13)の切れ角を検出する操舵角センサ(7)と、
薬液タンク(18)と薬液散布ブーム(43,44)との間の薬液流路に設けた薬液を吐出する防除ポンプ(65)と、該防除ポンプ(65)の設置箇所より後流側の薬液流路に設けた薬液の吐出圧力を調整する薬液流量調節弁(73)を設けた薬液散布作業車両において、
薬液流量調節弁(73)の開閉を行う流量制御モータ(10)と、
GPSからの速度情報に基づき車速を算出する車速算出手段(5)と、
(a)車速算出手段(5)により得られる第1車速(VG)と(b)前記車速センサ(6)により得られる第2車速(Vs)の内の少なくともいずれかの車速又は(c)前記第1車速(VG)と第2車速(Vs)の平均化された車速と、予め設定された単位面積当たりの薬液散布量(A)との関係から防除ポンプ(65)の吐出圧力を計算し、該吐出圧力計算値に一致するように前記流量制御モータ(10)による薬液流量調節弁(73)の開度調整を行い、
さらに、操舵角センサ(7)の所定角以上の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)の上昇を行い、前記車速が所定値以上になると前記旋回外側のサイドブーム(44)の自動上昇を行わない制御構成を有する制御装置(100)
を備えたことを特徴とする薬液散布作業車両。
【請求項2】
制御装置(100)は、予め手動操作で旋回外側のサイドブーム(44)を上昇させたときに要した時間を記憶しておき、操舵角センサ(7)の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)を上昇させるときには、前記記憶した手動時の上昇時間だけ上昇させる制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両。
【請求項3】
制御装置(100)は、操舵角センサ(7)による旋回終了時の旋回角度の検知により旋回外側のサイドブーム(44)を自動下降させ、また車速が所定値以上になると前記旋回外側のサイドブーム(44)の自動下降を行わない制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両。
【請求項4】
制御装置(100)は、予め手動操作で旋回外側のサイドブーム(44)を下降させたときに要した時間を記憶しておき、操舵角センサ(7)の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)を下降させるときには、前記記憶した手動時の下降時間だけ下降させる制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両。
【請求項5】
制御装置(100)は、予め手動操作で旋回外側のサイドブーム(44)を上昇と下降のときに要した時間をそれぞれ記憶しておき、操舵角センサ(7)の旋回角度の検知により自動的に旋回外側のサイドブーム(44)を手動で上昇又は下降させるときには、前記それぞれ記憶した手動時の上昇時間と下降時間だけ上昇又は下降をさせる制御構成を有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−175914(P2012−175914A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40114(P2011−40114)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】