説明

薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物およびその製造方法

【課題】 注射剤や点眼剤や点鼻剤や吸入剤などとして用いることができる、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を、用時に水系媒体と混合することで調製することができるといった利点を備える、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物は、水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量が0.05〜2mg/mL、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)が0.0005〜50(但し薬物と油脂の合計含量は最大で10mg/mL)、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)が1〜300である薬物含有脂肪乳剤に含まれる薬物を保持した脂肪粒子を、水相が実質的に除去された状態で水溶性担体に担持させてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用時に注射用水や生理食塩水などの水系媒体と混合することで、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を調製することができるといった利点を備える、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物含有脂肪乳剤は、例えばステロイド(パルミチン酸デキサメサゾン)含有脂肪乳剤やプロスタグランジン(PGE)含有脂肪乳剤をはじめとするいくつかのものがすでに上市され、汎用されていることは当業者によく知られた事実である。しかしながら、それらはいずれも薬物の含量に比較して大量の油脂(その含量は少なく見積もっても例えば10mg/mL以上である)が用いられた乳白状の製剤であり、変質や異物混入の有無、配合変化を目視で容易に確認できないことから使用の可否判断が困難である、製剤によっては安定性が劣るので冷所保存が必要であるといった制約を有している。そこでこのような制約が緩和された、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤の開発が試みられているが、その有効な解決手段は今だ見出されていない。
【0003】
上記の問題を解決するための手がかりとなる技術が特許文献1に記載されている。特許文献1は輸液製剤として用いられる脂肪乳剤に関するものであるが(換言すれば薬物を含有しない脂肪乳剤ということである)、ここには安定で澄明な脂肪乳剤を得るためには乳化剤の添加量を多くすればよいとあり、乳化剤の添加量を油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)として0.15〜3とすること、これにより脂肪粒子の平均粒子径が3〜100nmである澄明な脂肪乳剤が得られることが開示されている。
【0004】
特許文献1は、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤の開発のために大いに参考となるものであることは確かである。しかしながら、特許文献1に記載の方法に倣って単に乳化剤の添加量を多くすれば問題が解決するほど、ことは単純でない。その理由はいくつか挙げられる。まず、薬物を含有する以上、薬物が安定して乳剤中に存在しなければならない。特に薬物が水難溶性である場合、薬物が容易に析出するようなことがあってはならず、このようなことが起こらないようにするための方策を講じる必要がある。また、特許文献1では、乳化は少なくとも3150kgf/cm(約3150バール)の圧力で行わなければならないとされている。この圧力は高圧噴射ホモジナイザーのようなある種、特殊な乳化機を用いなければ実施しえない超高圧であり、このような超高圧での乳化を工業規模で行うためには、繰り返し使用される乳化機の材質を強靭で特殊な金属としなければならず、そのため装置の高価格化などを招くといった問題がある。また、医薬品製造においては汚染防止の観点から製造装置などの洗浄操作が法的(GMP:Good Manufacturing Practice)に厳しく義務付けられている。そのため乳化機についても乳剤が接触する箇所の完全な洗浄が求められるが、高圧噴射ホモジナイザーのように超高圧で乳剤の噴射を行う装置においては、とりわけ噴射口部分の開放洗浄ができないことから法的要求を満足させることが困難であるといった問題がある。さらに、3000バール以上の圧力で乳化を行うと乳剤は非常に高温になる。従って、たとえ乳化後に乳剤を直ちに冷却しても、乳剤中の薬物が短時間でも高温に曝されてしまうことで劣化する危険性が大きい。通常、乳化回数を増やすことによって脂肪粒子の粒子径分布を狭くすることができることから、乳化は複数回循環させて行うことが望まれるが、このような超高圧での乳化を繰り返し行うと薬物の劣化が激しくなるので、よって循環乳化を行えないといった問題がある。加えて、薬物含有脂肪乳剤は輸液製剤として用いられる脂肪乳剤と異なり、注射剤や点眼剤や点鼻剤や吸入剤などとして製品化された場合の一容器あたりの容量がせいぜい1〜20mLである。このような小容量での製剤設計においては、構成成分を巧みに配合しなければ配合の不具合は即座に製剤の安定性に対する悪影響(例えば乳剤の相分離や薬物の凝集・析出)などに直結する。
【0005】
また、薬物含有脂肪乳剤の保存安定性を高めるために、乳剤から水相を除去して乾燥状態に保つ方法が古くから提案されているが、その方法はいずれもマイナス数十℃での凍結乾燥による時間もコストもかかるものであり(例えば特許文献2)、乳剤をより温和な条件下で乾燥する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3695499号公報
【特許文献2】特許第2937135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、注射剤や点眼剤や点鼻剤や吸入剤などとして用いることができる、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を、用時に水系媒体と混合することで調製することができるといった利点を備える、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を行った結果、油脂の含量、油脂に対する薬物の重量比率、油脂に対する乳化剤の重量比率を好適な数値範囲とすることにより、特許文献1に記載されている圧力の半分以下の圧力による乳化で、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を製造できること、こうして製造された薬物含有脂肪乳剤は、水溶性担体を溶解した後、50℃といった温和な温度条件での乾燥処理で水相が除去され、水系媒体と混合することで透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤に復元(再乳化)される、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物に変換されることを知見した。
【0009】
以上の知見に基づいてなされた本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物は、請求項1記載の通り、水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量が0.05〜2mg/mL、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)が0.0005〜50(但し薬物と油脂の合計含量は最大で10mg/mL)、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)が1〜300である薬物含有脂肪乳剤に含まれる薬物を保持した脂肪粒子を、水相が実質的に除去された状態で水溶性担体に担持させてなることを特徴とする。
また、請求項2記載の非水系組成物は、請求項1記載の非水系組成物において、水溶性担体が糖類であることを特徴とする。
また、請求項3記載の非水系組成物は、請求項2記載の非水系組成物において、糖類がイノシトール、グルコース、ソルビトール、フルクトース、マンニトール、トレハロース、ラクトース、スクロース、マルトース、キシリトールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
また、請求項4記載の非水系組成物は、請求項1記載の非水系組成物において、水溶性担体がアミノ酸であることを特徴とする。
また、請求項5記載の非水系組成物は、請求項4記載の非水系組成物において、アミノ酸がグリシン、アラニン、ノルバリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
また、請求項6記載の非水系組成物は、請求項1記載の非水系組成物において、水溶性担体が多価アルコールであることを特徴とする。
また、請求項7記載の非水系組成物は、請求項6記載の非水系組成物において、多価アルコールがグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
また、請求項8記載の非水系組成物は、請求項1乃至7のいずれかに記載の非水系組成物において、脂肪粒子の平均粒子径が2〜300nmであることを特徴とする。
また、請求項9記載の非水系組成物は、請求項1乃至8のいずれかに記載の非水系組成物において、薬物含有脂肪乳剤の濁度が0.5以下であることを特徴とする。
また、本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物の製造方法は、請求項10記載の通り、水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量を0.05〜2mg/mL、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)を0.0005〜50(但し薬物と油脂の合計含量は最大で10mg/mL)、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)を1〜300である薬物含有脂肪乳剤に水溶性担体を溶解した後、水相を除去することを特徴とする。
また、請求項11記載の製造方法は、請求項10記載の製造方法において、水相の除去を10〜80℃の温度範囲での乾燥処理で行うことを特徴とする。
また、本発明の医薬品製剤は、請求項12記載の通り、請求項1記載の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物それ自体からなるかまたは他の成分と配合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用できる乳化剤が限定されているとともに乳剤の安定性が特に求められる注射剤、薬物の溶解性と薬液の透明性が求められる点眼剤、薬物の吸収性向上のためにその担体の微粒子化が求められる点鼻剤、薬物が気管支や肺にたやすく到達して容易に吸収されるためにその担体の微粒子化が求められる吸入剤などとして用いることができる、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を、用時に水系媒体と混合することで調製することができるといった利点を備える、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物は、水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量が0.05〜2mg/mL、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)が0.0005〜50(但し薬物と油脂の合計含量は最大で10mg/mL)、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)が1〜300である薬物含有脂肪乳剤に含まれる薬物を保持した脂肪粒子を、水相が実質的に除去された状態で水溶性担体に担持させてなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明において、水難溶性薬物としては、日本薬局方・通則に規定の水への溶解性が「やや溶けにくい」(溶質1gまたは1mLを溶かすために要する溶媒量が30mL以上100mL未満:溶質が薬物に相当し溶媒が水に相当)とされる以上に水難溶性のものが挙げられるが、より好適には「溶けにくい」(同、溶媒量が100mL以上1000mL未満)とされる以上に水難溶性のものが挙げられ、さらに好適には「極めて溶けにくい」(同、溶媒量が1000mL以上10000mL未満)とされる以上に水難溶性のものが挙げられ、最も好適には「ほとんど溶けない」(同、溶媒量が10000mL以上)とされる以上に水難溶性のものが挙げられる。薬物は水難溶性であるとともに油難溶性であってもよい。薬物の種類は特段限定されるものではなく、シクロスポリンなどの免疫抑制剤、エリスロマイシンやクラリスロマイシンなどの抗生物質、インドメタシンやアスピリンやイブプロフェンやケトプロフェンやジクロフェナックやアンピロキシカムやアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎剤、パルミチン酸デキサメサゾンやフルオロメトロンやベタメサゾンやプロピオン酸ベクロメサゾンなどの合成副腎皮質ホルモン剤、ノルフロキサシンやレボフロキサシンなどの抗菌剤、ニコチン酸トコフェロールなどの循環器官用剤、エダラボンなどの脳保護薬、グリチルリチン酸系化合物などの肝臓疾患用剤、プロスタグランジンE、プロスタグランジンE、プロスタグランジンF2α、プロスタグランジンIの他、そのアルキルエステル(メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなど)をはじめとする各種の誘導体を含むプロスタグランジン系化合物(プロスタン酸骨格を有する化合物)などを例示することができる。油脂としては、大豆油、トウモロコシ油、ヤシ油、サフラワー油、エゴマ油、オリーブ油、ヒマシ油、綿実油などの植物油の他、ラノリンなどの動物油、卵黄油、魚油、流動パラフィンなどの鉱物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、化学合成トリグリセリド、ゲル化炭化水素などが挙げられる。乳化剤としては、卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、水素添加大豆レシチン、ポリソルベート、PEG−水添ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。なお、水難溶性薬物がプロスタグランジン系化合物の場合、ホスファチジルエタノールアミンの含量が2重量%以下の乳化剤を用いることが望ましい(ホスファチジルエタノールアミンはプロスタグランジン系化合物の安定性に悪影響を与えるため)。例えばキューピー社製のPC−98Nは、ホスファチジルエタノールアミンの除去処理がなされた精製卵黄レシチン(ホスファチジルコリンの含量が98重量%以上でホスファチジルエタノールアミンの含量が1重量%以下)として好適に用いることができる。
【0013】
本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物を製造するために用いる薬物含有脂肪乳剤について、油脂の含量を0.05〜2mg/mLと規定するのは、0.05mg/mLよりも少ないと油脂と薬物の相互作用(薬物の脂肪粒子表面への付着など)による油脂の薬物に対する安定化効果が減じられてしまい、薬物を単に乳化剤だけで乳化して可溶化した場合と同程度の安定性しか得られず、薬物が凝集・析出しやすくなる一方、2mg/mLよりも多いと乳剤に濁りが生じ、透明性が損なわれやすくなるとともに、多量の油を含むことによる乳剤の安定性への悪影響が生じやすくなるからである。油脂の含量は0.08〜1.5mg/mLが望ましい。油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)を0.0005〜50(但し薬物と油脂の合計含量は最大で10mg/mL)と規定するのは、0.0005よりも小さいと薬物に対して油脂が過多となり、患者に対して無用な油脂を投与することになってしまう一方、50よりも大きいと油脂に対して薬物が過多となり、薬物の安定性が損なわれ、薬物が凝集・析出しやすくなるからである。油脂に対する薬物の重量比率は0.001〜30が望ましい。薬物と油脂の合計含量を最大で10mg/mLと規定するのは、10mg/mLよりも多いと例えば1500バール以下といった温和な圧力条件では透明性を有する乳剤を得るための乳化が困難になるからである。薬物と油脂の合計含量は最大で7mg/mLが望ましい。油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)を1〜300と規定するのは、1よりも小さいと乳化剤に対して油脂が過多となり、乳剤に濁りを発生させたり乳剤の安定性に悪影響を及ぼしたりしやすくなる他、例えば1500バール以下といった温和な圧力条件での乳化が困難である一方、300よりも大きいと乳化剤が凝集・析出しやすくなるからである。油脂に対する乳化剤の重量比率は5〜200が望ましい。
【0014】
本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物は、以下の方法で製造することができる。まず、油脂の含量、油脂に対する薬物の重量比率、油脂に対する乳化剤の重量比率を上記の数値範囲に設定し、自体公知の手順、例えば、薬物、油脂、乳化剤をいったん均一に混合して溶解させて油相とし、これに水を加えた後、強力に撹拌して粗乳化液を調製し(例えば回転数が10000〜15000rpmで5〜30分間の攪拌による)、次いで粗乳化液をマントンゴーリンホモジナイザーなどの高圧乳化機を用いて乳化することにより薬物含有脂肪乳剤を製造する。脂肪粒子の粒子系分布を狭くするために、乳化は複数回行ってもよい(例えば3〜50回)。特筆すべきは、油脂の含量、油脂に対する薬物の重量比率、油脂に対する乳化剤の重量比率を上記の数値範囲に設定することで、例えば1500バール以下、望ましくは350〜1000バールの乳化圧力であっても、脂肪粒子の平均粒子径が300nm以下、好適には2〜180nm、より好適には10〜120nmであり、濁度が0.5以下、好適には0.4以下、より好適には0.3以下の透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を容易に調製できる点にある。
【0015】
次に、以上のようにして製造された薬物含有脂肪乳剤に水溶性担体を溶解した後、水相を除去する。水溶性担体としては、糖類やアミノ酸や多価アルコールを好適に用いることができる。糖類としては、イノシトール、グルコース、ソルビトール、フルクトース、マンニトールなどの単糖類、トレハロース、ラクトース、スクロース、マルトースなどの二糖類の他、キシリトールなどが挙げられる。アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ノルバリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸などの中性アミノ酸の他、リジン、アルギニン、オルニチン、シトルリンなどの塩基性アミノ酸などが挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられるが、とりわけ、グリセリンとプロピレングリコールとポリエチレングリコールは、水溶性であるとともに、本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物を製造するために用いる薬物含有脂肪乳剤に含まれる薬物を保持した脂肪粒子を破壊してしまう程の脂溶性を持たない点において望ましい。水溶性担体として糖類やアミノ酸を用いる場合、その溶解量は20〜1000mg/mLが望ましく、50〜500mg/mLがより望ましい。水溶性担体として多価アルコールを用いる場合、その溶解量は50〜2000mg/mLが望ましく、100〜1000mg/mLがより望ましい。但し、用いる水溶性担体の飽和溶解量が上記の上限値未満の場合には飽和溶解量を上限とする。水溶性担体の溶解量が少なすぎると、薬物を保持した脂肪粒子の量に対する水溶性担体の量が過少となり、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物が安定に得られない(薬物を保持した脂肪粒子の破壊が起こりやすくなる)恐れがある。一方、水溶性担体の溶解量が多すぎると、患者に対して水溶性担体を無用に投与することになってしまう。薬物含有脂肪乳剤に水溶性担体を溶解した後の水相の除去は、どのような方法で行ってもよいが、10〜80℃の温度範囲での乾燥処理で行うことが、乳剤に含まれる薬物の劣化を引き起こすことなく、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物を効率よく低コストで得ることができる点において望ましい。乾燥処理は減圧乾燥、噴霧乾燥、流動乾燥、通風乾燥などを好適に採用することができるが、温度条件は30〜70℃がより望ましく、40〜60℃がさらに望ましい。このようにして製造される本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物が優れた保存安定性を有するためには、その水分率は15%以下が望ましく、10%以下がより望ましく、7%以下がさらに望ましい。
【0016】
なお、本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物を製造するために用いる薬物含有脂肪乳剤の構成成分としてプロピレングリコール、グリセリン、マクロゴール、乳酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、コンドロイチン硫酸またはその塩(ナトリウム塩など)、ヒアルロン酸またはその塩(ナトリウム塩など)、グリチルリチン酸またはその塩(ナトリウム塩やアンモニウム塩など)などをさらに用いることで、薬物の溶解性の向上、乳剤や薬物の安定性の向上、乳剤の等張化などを図ってもよい。これらの含量は0.02〜300mg/mLが望ましく、0.2〜100mg/mLがより望ましい。0.02mg/mLよりも少ないと効果が発揮されにくくなる一方、300mg/mLよりも多いと粘度の上昇によって乳化が困難になったり、乳剤が酸性化されて不安定になったりしやすくなる。
【0017】
また、薬物含有脂肪乳剤の構成成分としてオレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ミリスチン酸などの高級脂肪酸をさらに用いることで、乳剤の安定化を図ってもよい。高級脂肪酸の含量は0.001〜10mg/mLが望ましく、0.01〜5mg/mLがより望ましい。0.001mg/mLよりも少ないと効果が発揮されにくくなる一方、10mg/mLよりも多いと薬物に対して劣化を招く危険性が生じる。なお、水難溶性薬物がプロスタグランジン系化合物の場合、これらの高級脂肪酸は用いないことが望ましい(プロスタグランジン系化合物の安定性に悪影響を与えるため)。
【0018】
また、薬物含有脂肪乳剤の構成成分として糖類をさらに用いることで、乳剤中に時として発生しうる析出浮遊物の発生を効果的に抑制することができる。好適な糖類としては、上述の水溶性担体として用いることができる糖類の他、デキストリン、シクロデキストリン、デキストランなどが挙げられる。糖類の含量は10〜600mg/mLが望ましい。
【0019】
また、薬物含有脂肪乳剤の構成成分として自体公知のpH調整剤や浸透圧調整剤をさらに用い、pHを調整したり(例えば4〜8)、浸透圧を調整したりしてもよい。なお、必要に応じて防腐剤や抗酸化剤などを構成成分としてもよいことは言うまでもない。また、薬物含有脂肪乳剤は、水溶性薬物を構成成分とすることを妨げるものではない。
【0020】
本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物は、その製造過程における水相を除去する前の段階や製造後に高圧蒸気滅菌を行うことができる。高圧蒸気滅菌は、一般的な条件(例えば120〜122℃×10〜15分間)で行えばよい。また、その製造過程における水相を除去する前の段階であれば、例えば脂肪粒子の平均粒子径を100nm以下に設定することで、ろ過滅菌を行うこともできる。このようにして製造される本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物は、保存安定性に優れるので常温保存ができる(但し薬物が非常に不安定なものである場合はこの限りでない)。本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物を注射用水や生理食塩水などの水系媒体と混合することで、非水化前の薬物含有脂肪乳剤と同様の、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を調製することができるが、こうして調製される薬物含有脂肪乳剤が透明性を有することは、変質や異物混入の有無、配合変化の目視での確認を容易にする他、投与される患者に対して安心感を与える。このように本発明の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物は、それ自体を用時溶解型の医薬品製剤として用いることができる他、各種の医薬品添加物(製剤助剤など)と配合して経口剤や外用剤などの様々な形態の医薬品製剤とすることもできる。ここで特筆すべきは、従来から知られている大量の油脂(例えば10mg/mL以上)を用いて調製された薬物含有脂肪乳剤は、例えば50℃といった温和な温度条件での乾燥処理で水相を除去すると、脂肪粒子が破壊されてしまうことで、その復元がもはやできないということである(この事実は特許文献2をはじめとしてこれまでに提案されている薬物含有脂肪乳剤の乾燥方法が凍結乾燥に限定されていることを裏付けるものである)。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0022】
実施例1:エダラボンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その1)
200mLビーカーにエダラボン300mg、精製大豆油100mg、ポリソルベート(ポリソルベート80)1.8g、オレイン酸240mg、プロピレングリコール2.21gを採り、ウォーターバスで45℃に加温し、窒素気流下、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサー(HG92:SMT社製、以下同じ)を用いて攪拌下、45℃の精製水70mLを少量ずつ添加し、添加終了後、12000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を100mLにメスアップした後、pHを0.1N水酸化ナトリウム水溶液で6.50に調整し、高圧ホモジナイザー(LAB2000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は750バールとし、乳化回数は20回とした。こうして得られた薄黄色の微濁したエダラボン含有脂肪乳剤(表1参照)10mLを50mLビーカーに採り、水溶性担体としてマンニトール1gを加えて均一溶解した後、フィルターろ過(孔口径:0.4μm)し、窒素送入しながら20mLバイアルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。滅菌後、無菌ブース内でバイアルを開封し、バイアル内の全量を50mLナスフラスコに採り、50℃で約20分間の減圧乾燥(エバポレーション)を行うことで、目的とするエダラボンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:6.11%)を得た。この白色粉末145mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、黄色透明のエダラボン含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0023】
実施例2:エダラボンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その2)
精製大豆油の使用量を10mgとすること以外は実施例1と同様にして薄黄色の微濁したエダラボン含有脂肪乳剤(表1参照)を得た後、実施例1と同様にして目的とするエダラボンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:5.74%)を得た。この白色粉末145mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、黄色透明のエダラボン含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0024】
実施例3:グリチルリチン酸モノアンモニウムを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物
200mLビーカーにグリチルリチン酸モノアンモニウム500mg、精製大豆油100mg、ポリソルベート(ポリソルベート80)1.8g、プロピレングリコール2.21gを採り、ウォーターバスで60℃に加温し、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、60℃の精製水70mLを少量ずつ添加し、添加終了後、11000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を100mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザー(LAB2000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は600バールとし、乳化回数は20回とした。こうして得られた無色透明のグリチルリチン酸モノアンモニウム含有脂肪乳剤(表1参照)20mLを50mLビーカーに採り、水溶性担体としてマンニトール2gを加えて均一溶解した後、フィルターろ過(孔口径:0.4μm)し、20mLバイアルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。滅菌後、無菌ブース内でバイアルを開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、50℃で約40分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするグリチルリチン酸モノアンモニウムを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:4.45%)を得た。この白色粉末146mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、無色透明のグリチルリチン酸モノアンモニウム含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0025】
実施例4:アスピリンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物
200mLビーカーにアスピリン475mg、中鎖脂肪酸トリグリセリド(ODO:日清製油社製)25mg、ポリソルベート(ポリソルベート80)1.8g、プロピレングリコール2.21gを採り、ウォーターバスで60℃に加温し、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、60℃の精製水70mLを少量ずつ添加し、添加終了後、12000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を100mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザー(LAB2000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は600バールとし、乳化回数は20回とした。こうして得られた無色透明のアスピリン含有脂肪乳剤(表1参照)20mLを50mLビーカーに採り、水溶性担体としてマンニトール2gを加えて均一溶解した後、フィルターろ過(孔口径:0.4μm)し、100mLナスフラスコに入れ、50℃で約40分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするアスピリンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:7.78%)を得た。この白色粉末146mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、無色透明のアスピリン含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0026】
実施例5:プロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その1)
300mLビーカーにプロスタグランジンE1.2mg、精製大豆油200mg、精製卵黄レシチン(PC−98N:キューピー社製)3.6gを採り、ウォーターバスで40℃に加温し、窒素気流下、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、40℃の精製水170mLを少量ずつ添加し、添加終了後、11000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を200mLにメスアップした後、pHを0.1N塩酸水溶液で5.00〜5.50に調整し、高圧ホモジナイザー(LAB1000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は600バールとし、乳化回数は20回とした。こうして得られたほぼ無色透明のプロスタグランジンE含有脂肪乳剤(表1参照)50mLを100mLビーカーに採り、水溶性担体としてトレハロース5gを加えて均一溶解した後、フィルターろ過(孔口径:0.8μm)し、窒素送入しながら50mLバイアルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。滅菌後、無菌ブース内でバイアルを開封し、バイアル内の10mLを200mLナスフラスコに採り、50℃で約20分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするプロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:5.96%)を得た。この白色粉末119mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて2分間、手で振とうしたところ、無色の微濁したプロスタグランジンE含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0027】
実施例6:プロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その2)
実施例5と同様にしてほぼ無色透明のプロスタグランジンE含有脂肪乳剤(表1参照)を得た後、水溶性担体としてトレハロースのかわりにマルトースを用いること以外は実施例5と同様にして目的とするプロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:4.88%)を得た。この白色粉末119mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて2分間、手で振とうしたところ、無色の微濁したプロスタグランジンE含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0028】
比較例1:プロスタグランジンEを含む非水系組成物(その1)
300mLビーカーにプロスタグランジンE0.9mg、精製大豆油15g、精製卵黄レシチン(PC−98N:キューピー社製)2.7g、オレイン酸360mg、プロピレングリコール3.315gを採り、ウォーターバスで40℃に加温し、窒素気流下、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、40℃の精製水120mLを少量ずつ添加し、添加終了後、11000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を150mLにメスアップした後、pHを0.1N水酸化ナトリウム水溶液で5.00〜5.50に調整し、高圧ホモジナイザー(LAB1000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は600バールとし、乳化回数は20回とした。こうして得られた乳白色のプロスタグランジンE含有脂肪乳剤(表1参照)をフィルターろ過(孔口径:0.8μm)し、その20mLを窒素送入しながら50mLバイアルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×10分間の条件で行った。滅菌後、無菌ブース内でバイアルを開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてトレハロース4gを加えて50℃に加温して均一溶解した後、50℃で約50分間の減圧乾燥を行ったところ、ナスフラスコの内壁に水分率が5.26%の薄乳白色のフィルム状物が形成された。このフィルム状物343mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて2分間、手で振とうしたところ、試験管の内壁に油状成分がべっとりと付着した乳白色液となり、プロスタグランジンE含有脂肪乳剤を復元することはできなかった(表2参照)。
【0029】
実施例7:プロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その3)
300mLビーカーにプロスタグランジンE1.2mg、精製大豆油200mg、精製卵黄レシチン(PC−98N:キューピー社製)3.6g、プロピレングリコール4.42gを採り、ウォーターバスで40℃に加温し、窒素気流下、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、40℃の精製水170mlを少量ずつ添加し、添加終了後、11000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を200mLにメスアップした後、pHを0.1N水酸化ナトリウム水溶液で5.00〜5.50に調整し、高圧ホモジナイザー(LAB1000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は580バールとし、乳化回数は20回とした。こうして得られたほぼ無色透明のプロスタグランジンE含有脂肪乳剤(表1参照)50mLを100mLビーカーに採り、トレハロース1gを加えて均一溶解した後、フィルターろ過(孔口径:0.8μm)し、窒素送入しながら50mLバイアルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。滅菌後、無菌ブース内でバイアルを開封し、バイアル内の10mLを200mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてグリセリン2.5gを加えて均一溶解した後、50℃で約40分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするプロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(無色透明の粘性液体、水分率:5.01%)を得た。この粘性液体622mgを試験管に採り、精製水2mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、無色の微濁したプロスタグランジンE含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0030】
比較例2:プロスタグランジンEを含む非水系組成物(その2)
比較例1で得た乳白色のプロスタグランジンE含有脂肪乳剤(表1参照)20mLを封入した高圧蒸気滅菌済みの50mLバイアルを無菌ブース内で開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてグリセリン4gを加えて50℃に加温して均一溶解した後、50℃で約50分間の減圧乾燥を行ったところ、水分率が7.08%の無色透明の粘性液体が得られた。この粘性液体343mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて2分間、手で振とうしたところ、油分感が強い乳白色液となり、しばらくすると油状分離が起こってしまい、プロスタグランジンE含有脂肪乳剤を復元することはできなかった(表2参照)。
【0031】
比較例3:プロスタグランジンEを含む非水系組成物(その3)
比較例1で得た乳白色のプロスタグランジンE含有脂肪乳剤(表1参照)20mLを封入した高圧蒸気滅菌済みの50mLバイアルを無菌ブース内で開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてグリセリン40gを加えて50℃に加温して均一溶解した後、50℃で約90分間の減圧乾燥を行ったところ、水分率が6.83%の無色透明の粘性液体が得られた。この粘性液体2143mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて2分間、手で振とうしたところ、油分感が強い乳白色液となり、しばらくすると油状分離が起こってしまい、プロスタグランジンE含有脂肪乳剤を復元することはできなかった(表2参照)。
【0032】
実施例8:アセトアミノフェンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その1)
300mLビーカーにアセトアミノフェン600mg、精製大豆油150mg、ポリソルベート(ポリソルベート80)2.7g、プロピレングリコール3.31gを採り、ウォーターバスで40℃に加温し、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、40℃の精製水130mLを少量ずつ添加し、添加終了後、12000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を150mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザー(LAB1000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は600バールとし、乳化回数は20回とした。こうして得られた無色透明のアセトアミノフェン含有脂肪乳剤(表1参照)をフィルターろ過(孔口径:0.8μm)し、その10mLを20mLバイアルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。滅菌後、無菌ブース内でバイアルを開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてグリセリン1gを加えて均一溶解した後、50℃で約20分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするアセトアミノフェンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(無色透明の粘性液体、水分率:3.72%)を得た。この粘性液体145mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、無色透明のアセトアミノフェン含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0033】
実施例9:シクロスポリンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物
300mLビーカーにシクロスポリン120mg、精製大豆油30mg、精製卵黄レシチン(PL−100M:キューピー社製)2.7g、オレイン酸360mg、プロピレングリコール3.31gを採り、ウォーターバスで60℃に加温し、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、60℃の精製水120mLを少量ずつ添加し、添加終了後、11000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を150mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザー(LAB1000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は800バールとし、乳化回数は25回とした。乳化後、pHを0.1N塩酸水溶液で6.50に調整し、その10mLを10mLアンプルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。こうして得られた薄黄色で透明のシクロスポリン含有脂肪乳剤(表1)を封入した高圧蒸気滅菌済みの10mLアンプルを無菌ブース内で開封し、アンプル内の6mLを50mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてトレハロース2gを加えて均一溶解した後、50℃で約20分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするシクロスポリンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:2.71%)を得た。この白色粉末376mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、薄黄色の微濁したシクロスポリン含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0034】
実施例10:パルミチン酸デキサメサゾンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物
200mLビーカーにパルミチン酸デキサメサゾン100mg、精製大豆油20mg、精製卵黄レシチン(PL−100M:キューピー社製)1.8g、オレイン酸240mg、グリセリン2.21gを採り、ウォーターバスで60℃に加温し、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、60℃の精製水80mLを少量ずつ添加し、添加終了後、12000rpmで15分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を100mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザー(LAB1000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は800バールとし、乳化回数は20回とした。乳化後、pHを0.1N塩酸水溶液で6.70に調整し、その10mLを10mLアンプルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。こうして得られた黄色透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(表1)を封入した高圧蒸気滅菌済みの10mLアンプルを無菌ブース内で開封し、アンプル内の6mLを50mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてトレハロース2gを加えて均一溶解した後、50℃で約15分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするパルミチン酸デキサメサゾンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:4.20%)を得た。この白色粉末376mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、黄色の微濁したパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0035】
実施例11:アセトアミノフェンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その2)
実施例8で得た無色透明のアセトアミノフェン含有脂肪乳剤(表1参照)10mLを封入した高圧蒸気滅菌済みの20mLバイアルを無菌ブース内で開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてγ−アミノ酪酸1gを加えて均一溶解した後、50℃で約40分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするアセトアミノフェンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末、水分率:7.86%)を得た。この白色粉末145mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、無色透明のアセトアミノフェン含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0036】
実施例12:ニコチン酸トコフェロールを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その1)
200mLビーカーにニコチン酸トコフェロール150mg、精製大豆油100mg、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO−60:日光ケミカルズ社製)3.0g、オレイン酸450mg、グリセリン3.31gを採り、ウォーターバスで60℃に加温し、スターラーで混合して油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、60℃の精製水80mLを少量ずつ添加し、添加終了後、12000rpmで10分間、粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を100mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザー(LAB2000:SMT社製)を用いて精密乳化した。乳化圧力は700バールとし、乳化回数は15回とした。こうして得られた無色透明のニコチン酸トコフェロール含有脂肪乳剤(表1参照)をフィルターろ過(孔口径:0.45μm)し、その10mLを20mLバイアルに充填して密封し、高圧蒸気滅菌を121℃×12分間の条件で行った。滅菌後、無菌ブース内でバイアルを開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてプロピレングリコール1gを加えて均一溶解した後、50℃で約30分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするニコチン酸トコフェロールを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(無色透明の粘性液体、水分率:2.33%)を得た。この粘性液体145mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、無色透明のニコチン酸トコフェロール含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0037】
実施例13:ニコチン酸トコフェロールを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(その2)
実施例12で得た無色透明のニコチン酸トコフェロール含有脂肪乳剤(表1参照)10mLを封入した高圧蒸気滅菌済みの20mLバイアルを無菌ブース内で開封し、バイアル内の全量を100mLナスフラスコに採り、水溶性担体としてポリエチレングリコール(PEG400)1gを加えて均一溶解した後、50℃で約30分間の減圧乾燥を行うことで、目的とするニコチン酸トコフェロールを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(無色微濁の粘性液体、水分率:5.43%)を得た。この粘性液体145mgを試験管に採り、精製水1mLを加えて1分間、手で振とうしたところ、無色透明のニコチン酸トコフェロール含有脂肪乳剤を復元することができた(表2参照)。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
なお、濁度の測定は、紫外分光光度計(UV240:島津製作所社製)を用い、サンプルをセル幅が1cmの測定セルに入れて波長λ=620nmで行った(ブランクは水)。サンプルが透けて見え、凝集や沈殿などの変質や異物混入の有無、配合変化を目視で容易に確認できる透明〜半透明領域はAbs(吸光度)=0.5以下であるので、この濁度を合否の境界とした。平均粒子径の算出は、光子相関法を用いた粒子径測定装置(ゼータサイザー3000HS:シスメックス社製)を用いて行った。
【0041】
製剤例1:エダラボン含有注射剤用粉末
実施例1で得たエダラボンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末)それ自体をエダラボン含有注射剤用粉末とした。
【0042】
製剤例2:アスピリン含有含嗽剤用粉末
実施例4で得たアスピリンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末)14.5g、白糖3.5g、カルメロースナトリウム2.0gを小型混合機で攪拌混合することによりアスピリン含有含嗽剤用粉末を得た。
【0043】
製剤例3:プロスタグランジンE含有軟膏
実施例5で得たプロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末)11.9gに、60℃で加温溶解したマクロゴール軟膏88.1gを攪拌しながら徐々に加え、均一になるまで混合し、冷却固化することによりプロスタグランジンE含有軟膏を得た。
【0044】
製剤例4:プロスタグランジンE含有ゲル
実施例7で得たプロスタグランジンEを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(無色透明の粘性液体)11.9gを注射用水25mLに混合した後、4.5%カルメロースナトリウム溶液75mLを加えて十分に練合することによりプロスタグランジンE含有ゲルを得た。
【0045】
製剤例5:シクロスポリン含有経口シロップ剤用粉末
実施例9で得たシクロスポリンを保持した脂肪粒子を含む非水系組成物(白色粉末)37.68g、白糖2.27g、パラオキシ安息香酸メチル33mg、パラオキシ安息香酸プロピル17mgを小型混合機で攪拌混合することによりシクロスポリン含有経口シロップ剤用粉末を得た。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、注射剤や点眼剤や点鼻剤や吸入剤などとして用いることができる、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を、用時に水系媒体と混合することで調製することができるといった利点を備える、薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物およびその製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量が0.05〜2mg/mL、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)が0.0005〜50(但し薬物と油脂の合計含量は最大で10mg/mL)、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)が1〜300である薬物含有脂肪乳剤に含まれる薬物を保持した脂肪粒子を、水相が実質的に除去された状態で水溶性担体に担持させてなることを特徴とする薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物。
【請求項2】
水溶性担体が糖類であることを特徴とする請求項1記載の非水系組成物。
【請求項3】
糖類がイノシトール、グルコース、ソルビトール、フルクトース、マンニトール、トレハロース、ラクトース、スクロース、マルトース、キシリトールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の非水系組成物。
【請求項4】
水溶性担体がアミノ酸であることを特徴とする請求項1記載の非水系組成物。
【請求項5】
アミノ酸がグリシン、アラニン、ノルバリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載の非水系組成物。
【請求項6】
水溶性担体が多価アルコールであることを特徴とする請求項1記載の非水系組成物。
【請求項7】
多価アルコールがグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項6記載の非水系組成物。
【請求項8】
脂肪粒子の平均粒子径が2〜300nmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の非水系組成物。
【請求項9】
薬物含有脂肪乳剤の濁度が0.5以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の非水系組成物。
【請求項10】
水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量を0.05〜2mg/mL、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)を0.0005〜50(但し薬物と油脂の合計含量は最大で10mg/mL)、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)を1〜300である薬物含有脂肪乳剤に水溶性担体を溶解した後、水相を除去することを特徴とする薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物の製造方法。
【請求項11】
水相の除去を10〜80℃の温度範囲での乾燥処理で行うことを特徴とする請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1記載の薬物を保持した脂肪粒子を含む非水系組成物それ自体からなるかまたは他の成分と配合してなることを特徴とする医薬品製剤。

【公開番号】特開2010−270023(P2010−270023A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121613(P2009−121613)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(300025767)テクノガード株式会社 (7)
【Fターム(参考)】