説明

衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ

【課題】本発明は、簡易な構造で、設置場所の制限が少ない衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナを提供する。
【解決手段】回転放物面状の反射面2aで衛星放送信号を反射する反射鏡2と、反射面2aの焦点位置に配置され、反射鏡2が反射した衛星放送信号を受信する放射器3と、衛星放送信号と地上デジタル放送信号とを混合する混合回路4とを備える衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1において、反射鏡2は、反射面2aに所定長さで形成されたスリット2bと、スリット2bの近傍に設けられた給電点2cに接続された給電線2dによって地上デジタル放送信号を受信する給電部2eとを備え、混合回路4は、放射器3が受信した衛星放送信号と、給電部2eが受信した地上デジタル放送信号とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星放送信号と地上デジタル放送信号とを受信可能な衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上デジタル放送への完全移行をふまえ、地上デジタル放送を容易に受信できるように、地上デジタル放送用の簡易なアンテナが強く要望されている。このとき、地上デジタル放送用のアンテナを新規に購入することは、ユーザの経済的な負担になると共に、設置場所を新たに確保する必要もあり、地上デジタル放送への完全移行を妨げる原因となる。
【0003】
そこで、既に普及しているパラボラアンテナ9で地上デジタル放送を受信することが考えられる。一般的に、パラボラアンテナ9は、図13に示すように、衛星放送信号を集波する反射鏡2と、反射鏡2が集波した衛星放送信号を受信する放射器(一次放射器)3とを備え、衛星放送信号を集波させて高い利得を得ることができる。一方、パラボラアンテナ9では、反射鏡2上に何らかの構造物を配置すると、衛星放送信号の集波を妨害することになり、好ましくない。なお、図13では、説明のために、パラボラアンテナ9の一部を省略して図示した。
【0004】
このため、例えば、特許文献1に記載の発明が提案されている。特許文献1に記載の発明は、衛星放送信号を受信するパラボラアンテナ9の背面から延設されたアーム部に地上デジタル放送信号(UHF放送信号)を受信するループアンテナ(UHFアンテナ)を装着し、衛星放送信号と地上デジタル放送とを受信できるようにしたものである。これによって、特許文献1に記載の発明では、UHFアンテナの小型化を図り、容易に設置可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−101117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の発明では、パラボラアンテナとUHFアンテナとを組み合わせているため、構造が複雑になり、故障が発生しやすいという問題がある。また、特許文献1に記載の発明では、UHFアンテナが狭い指向性を有するため、設定場所が放送信号を送信する送信所の北東に制限されるという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、簡易な構造で、設置場所の制限が少ない衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、請求項1に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、回転放物面状の反射面で衛星放送信号を反射する反射鏡と、当該反射面の焦点位置に配置され、前記反射鏡が反射した衛星放送信号を受信する放射器と、前記衛星放送信号と地上デジタル放送信号とを混合する混合回路とを備える衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、前記反射鏡は、前記反射面に所定長さで形成されたスリットと、前記スリットの近傍に設けられた給電点に接続された給電線によって前記地上デジタル放送信号を受信する給電部とを備え、前記混合回路は、前記放射器が受信した衛星放送信号と、前記給電部が受信した地上デジタル放送信号とを混合することを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、反射鏡上に構造物を配置していないので、衛星放送信号の集波を妨害することなく、衛星放送信号の受信に必要なアンテナ利得が得られる。また、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、スリットの近傍に給電点を設けることで、給電部を地上デジタル放送信号の周波数に整合させることができる。これによって、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、反射鏡が、衛星放送信号を放射器に集波するだけでなく、UHFアンテナ(地上デジタル放送用アンテナ)及び給電部として機能する。さらに、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、回転放物面状の広い反射面を有する反射鏡を用いているため、従来のUHFアンテナの狭指向性を改善できる。
【0010】
また、請求項2に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、請求項1に記載の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、前記スリットは、その幅が、前記反射鏡の全幅に対して0.1%以上50%未満であることを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、前記した範囲内の幅でスリットを形成することで、反射板にスリットを形成したことによる衛星放送信号の受信特性の劣化を最小限に抑えることができる。
【0012】
また、請求項3に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、請求項1又は請求項2に記載の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、前記給電点は、前記反射鏡の中央から外側に設けられたことを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、給電点を反射鏡の中央から外側に設けることで、地上デジタル放送信号を受信可能な周波数帯を広くすることができる。
【0014】
また、請求項4に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、前記反射面に対向する前記反射鏡の背面に、前記スリットの深さ方向でL字状となり、かつ、前記スリットの長さ方向に沿うように装着されたL字状金属体をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナは、L字状金属体を備えることで、指向性パターンを均一にして両横方向のヌル成分を低減する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
請求項1に係る発明によれば、反射鏡をUHFアンテナ及び給電部としても機能させてUHFアンテナを省略できると共に、従来のUHFアンテナの狭指向性を改善できるので、簡易な構造で、設置場所の制限を少なくできる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、衛星放送信号の受信特性の劣化を最小限に抑えることができるので、衛星放送が受信できなくなる事態を低減できる。
請求項3に係る発明によれば、地上デジタル放送信号を受信可能な周波数帯を広くすることができるので、設置場所の制限をより少なくできる。
請求項4に係る発明によれば、指向性パターンを均一にして両横方向のヌル成分を低減するので、マルチパスがない電波環境下であっても極めて広い指向性を実現でき、設置場所の制限を極めて少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの側面図であり、(b)は、本発明の本実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの正面図である。
【図2】図1の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの斜視図である。
【図3】図1の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの混合回路を含む電気回路の回路図である。
【図4】本発明の第2実施形態に衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、L字状金属体の第1例を説明する概略図であり、(a)は、上面図であり、(b)は、(a)の矢印方向から見たときの側面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、L字状金属体の第2例を説明する概略図であり、(a)は、上面図であり、(b)は、(a)の矢印方向から見たときの側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、L字状金属体の第3例を説明する概略図であり、(a)は、上面図であり、(b)は、(a)の矢印方向から見たときの側面図である。
【図7】本発明の各実施例を説明する衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの概略図である。
【図8】本発明の実施例1に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの指向性を示す、スリットに垂直な面内での水平偏波のパターン図である。
【図9】本発明の実施例1に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの指向性を示す、スリットに平行な面内での水平偏波のパターン図である。
【図10】本発明の各実施例に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの電圧定在波比(VSWR)と周波数との関係を示す図である。
【図11】本発明の各実施例に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの利得と周波数との関係を示す図である。
【図12】本発明の実施例4に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの指向性を示す、スリットに垂直な面内での水平偏波のパターン図である。
【図13】従来のパラボラアンテナを説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の本実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する手段及び同一の部材には同一の符号を付し、説明を省略した。
【0020】
(第1実施形態)
[衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの構成]
図1及び図2を参照し、本発明の第1実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの構成について説明する。衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、衛星放送信号と地上デジタル放送信号とを混合した混合信号を出力するものであり、図1及び図2に示すように、反射鏡2と、放射器3と、混合回路4と、アーム5と、支柱6と、取付部7とを備える。
【0021】
反射鏡2は、回転放物面状の反射面2aで衛星放送信号をこの反射面2aの焦点位置に反射するものである(図1(a)の二点鎖線参照)。この衛星放送信号は、例えば、BSデジタル放送信号及びCS110°放送信号である。
【0022】
また、反射鏡2は、反射面2aに所定長さのスリット2bを形成している。ここで、スリット2bは、その幅Wが、例えば、スリット2bの左右を絶縁可能な値以上である。また、スリット2bは、例えば、その幅Wを広くするほど衛星放送信号の受信特性が劣化するため、その幅Wが、衛星放送信号の受信特性の劣化を許容できる値未満である。つまり、スリット2bは、その幅Wが、反射鏡2の全幅に対して0.1%以上50%未満であることが好ましく、5mm以上100mm以下であることがより好ましい。
【0023】
また、スリット2bの長さLは、受信する地上デジタル放送信号の周波数に応じて決定するものである。具体的には、スリット2bの長さLは、地上デジタル放送信号の周波数を2で除算した値に波長短縮率を乗じた値とすることが好ましい。ここで、スリット2bの長さLは、例えば、400mmである。このとき、例えば、反射鏡2の直径よりも短いため、スリット2bは、反射鏡2の中央上端部まで達していない。
【0024】
また、スリット2bの深さは、反射鏡2の反射面2aから背面までを絶縁可能な値とする。ここで、反射鏡2の全体が金属製の場合、スリット2bは、例えば、反射面2aから背面まで達する深さとする。一方、反射鏡2がFRP(Fiber Reinforced Plastics)製の場合、スリット2bは、例えば、反射鏡2の表面に形成された金属箔を削れるだけの深さとする。
【0025】
また、スリット2bは、例えば、反射面2a側の中央下端部から中央に向けて垂直に形成する。なお、スリット2bは、垂直に形成することに限定されず、例えば、水平又は斜めに形成しても良い。
【0026】
また、反射鏡2は、スリット2bの近傍に設けられた給電点2cに接続された給電線2dによって地上デジタル放送信号を受信する給電部2eを備える。ここで、反射鏡2は、給電点2cを、反射面2a上であってスリット2bの左右の縁に設ければ良く、図2に示すように、反射面2a上の中央部分であってスリット2bの左右の縁に設けても良い。そして、反射鏡2は、同軸ケーブル等の給電線2dをスリット2bの左側の縁に沿って配置し、給電線2dの一方の端を給電点2cに接続する。ここで、例えば、給電線2dの芯線は左側の給電点2cに接続し、給電線2dのアース線は右側の給電点2cに接続する。なお、給電線2dは、芯線とアース線とを左右反対にしても良い。さらに、反射鏡2は、給電線2dの他方の端を混合回路4に接続する。これによって、反射鏡2は、地上デジタル放送信号を受信すると共に、受信した地上デジタル信号を混合回路4に出力できる。
【0027】
放射器(一次放射器)3は、反射面2aの焦点位置に配置され、反射鏡2が反射した衛星放送信号を受信するものである。ここで、放射器3は、内蔵するダウンコンバータによって、受信した衛星放送信号の周波数(例えば、10数GHz)を数GHzの周波数にダウンコンバートした後、混合回路4に出力しても良い。
【0028】
ここで、放射器3は、反射鏡2の背面側から反射面2aの焦点位置近傍まで延設されたアーム5の先端に装着される。また、アーム5は、反射鏡2の背面側に取付部7が装着される。この取付部7は、ボルト等の先端で支柱6を押圧して、支柱6の上端部分に反射鏡2を支持固定するものである。
【0029】
混合回路4は、放射器3が受信した衛星放送信号と反射鏡2が受信した地上デジタル放送信号とを混合するものである。ここで、混合回路4は、電気回路10(図3参照)の一部として構成され、この電気回路10を放射器3の防水ケース内に格納することとした。なお、電気回路10は、放射器3の防水ケースに格納することに限定されず、電気回路10のみを別の防水ケースに格納し、この防水ケースをアーム5に固定しても良い。
【0030】
<電気回路の詳細>
以下、図3を参照し、電気回路10の詳細について説明する(適宜図1,2参照)。図3に示すように、電気回路10は、混合回路4と、バラン13と、電極Ta,Tbと、入力端子Tiと、出力端子Toと、コンデンサCと、チョークコイルLとを備える。
【0031】
電極Ta,Tbは、同軸ケーブル等の給電線2dが接続され、反射鏡2が受信した地上デジタル放送信号をバラン13に出力するものである。
バラン13は、平衡なUHFアンテナとして機能する反射鏡2を、不平衡な同軸ケーブル8で給電できるように平衡−不平衡変換を行うものである。そして、バラン13は、得られた地上デジタル放送信号をLPF11に出力する。なお、バラン13による損失が無視できない場合、電気回路10は、バラン13を備えなくとも良い。
【0032】
入力端子Tiは、放射器3と接続し、放射器3がダウンコンバートした衛星放送信号を入力するものである。ここで、入力端子Tiは、例えば、放射器3からの衛星放送信号を伝送する同軸ケーブル(不図示)を接続するフィッティング型の接栓であり、放射器3の防水ケース下面から突出して固定される。そして、入力端子Tiは、入力された衛星放送信号を、HPF12に出力する。
【0033】
混合回路4は、図3に示すように、LPF(ローパスフィルタ)11と、HPF(ハイパスフィルタ)12とを備える。
LPF11は、バラン13からの地上デジタル放送信号のみを通過させて出力端子Toに出力するものである。ここで、LPF11は、例えば、カットオフ周波数が770MHzである。
HPF12は、入力端子Tiからの衛星放送信号のみを通過させて出力端子Toに出力するものである。ここで、HPF12は、例えば、カットオフ周波数が1GHzである。
【0034】
チョークコイルLは、出力端子Toに接続される受信装置からの電源電圧を放射器3に供給するものであり、HPF12と並列に配置される。
コンデンサCは、前記した電源電圧がLPF11を通過してバラン13に印加されることを防止するものであり、LPF11と出力端子Toとの間に直列で配置される。
出力端子Toは、LPF11を通過した地上デジタル放送信号と、HPF12を通過した衛星放送信号とを混合した混合信号を、放送受信装置に出力するものである。
【0035】
以上のように、第1実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、反射鏡2上に構造物を配置していないので、衛星放送信号の集波を妨害することなく、衛星放送信号の受信に必要なアンテナ利得が得られる。また、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、スリット2bの近傍に給電点2cを設けることで、給電部2eを地上デジタル放送信号の周波数に整合させることができる。これによって、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、反射鏡2が、衛星放送信号を放射器に集波するだけでなく、UHFアンテナ及び給電部として機能する。また、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、回転放物面状の広い反射面を有する反射鏡2を用いるため、従来のUHFアンテナの狭指向性を改善できる。従って、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、簡易な構造で、設置場所の制限を少なくできる。さらに、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、従来に比べて部品数が少ないことから、故障率を低くすることができる。
【0036】
また、第1実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、例えば、ユーザが使用しているパラボラアンテナに、スリット2bを形成して混合回路を付加するといった簡易な改修で実現できる。このため、第1実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、既存のパラボラアンテナを有向活用でき、ユーザの経済的な負担も少ない。
【0037】
また、例えば、第1実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1を工場で製造する場合でも、既存のパラボラアンテナにスリットを形成して混合回路を付加するだけなので、既存のパラボラアンテナの生産ラインで製造できるため、製造コストの増加を最小限に抑えることができる。
【0038】
(第2実施形態)
以下、図4〜図6を参照し、本発明の第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナの構成について、第1実施形態と異なる点を主に説明する。第1実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、従来の半波長ダイポールアンテナと同様に、8の字状の指向性によって、両横方向(90°及び270°)にヌル成分を有する(図8参照)。このため、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、マルチパスがない電波環境下における地上デジタル放送信号の受信に際して、この地上デジタル放送信号の受信レベルが低下することがあり、衛星放送信号を送信する衛星の方向に向けなければならない場合があった。この問題を解決するため、図4〜図6に示すように、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、L字状金属体20,21,22を、反射鏡2の背面に装着した。
【0039】
なお、図4〜図6では、説明を簡易にするため、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aの構成の一部を省略した。また、図4(a),図5(a),図6(a)において、上面から見たとき、反射鏡2に隠れるスリット2bは、破線で図示した。また、図4(b),図5(b),図6(b)は、各図(a)の矢印方向からみたときの側面図であり、この矢印方向から見たときに、L字状金属体20,21,22で隠れる部分を破線で図示した。
【0040】
<L字状金属体の第1例>
以下、図4を参照し、L字状金属体20について、詳細に説明する。L字状金属体20は、例えば、アルミニウム、銅等の金属で形成される。そして、L字状金属体20は、その幅Xを100mm、その奥行きYを60mmとすることが好ましい。これによって、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、指向性を最も広くすることができる。なお、この奥行きYは、反射鏡2の中央付近での値、言い換えると、奥行きYが最小となる箇所での値である。
【0041】
また、L字状金属体20は、図4(b)に示すように、その上端から下端までの長さが、反射鏡2の中央上端部から中央下端部までの高さと等しくなる。また、L字状金属体20は、図4(b)に示すように、反射鏡2の高さ方向に円弧状の接触部(L字状金属体20の突端)が形成され、この接触部が回転放物面状に形成された反射鏡2の背面に密着する。ここで、L字状金属体20は、スリット2bの深さ方向でL字状となり、かつ、反射面2aに形成されたスリット2bの長さ方向に沿うように、反射面2aに対向する背面に装着される。言い換えると、L字状金属体20は、図4(a)に示すように、上面方向から見たときに、L字状となるように反射鏡2の背面に装着される。
【0042】
ここで、L字状金属体20は、例えば、スリット2bが水平に形成されたときは、水平方向から見たときにL字状となるように反射鏡2の背面に装着される。また、L字状金属体20は、例えば、スリット2bが斜め方向に形成されたときは、斜め方向から見たときにL字状となるように反射鏡2の背面に装着される。
【0043】
なお、L字状金属体20を反射鏡2に装着する方法は、特に制限されない。例えば、L字状金属体20は、接着、溶接又はボルト・ナットを用いた組み付け等、任意の方法で反射鏡2の背面に装着できる。
【0044】
以上のように、L字状金属体20を装着することで、第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、両横方向から入射した地上デジタル放送信号を、スリット2bの方向に反射させて、8の字状の指向性パターンを均一にし、両横方向のヌル成分を低減する。これによって、第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、マルチパスがない電波環境下であっても、最大利得を落とすことなく、極めて広い指向性を実現できる。例えば、最少利得と最大利得との差が平均27dBのときに、L字状金属体20を装着すると、第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aでは、この利得の差が470MHz帯で約8dB、560MHz帯で約10dB、770MHz帯で約18dBとなる。このように、第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、どの方向に地上デジタル放送の送信所があっても地上デジタル放送信号の受信レベルが殆ど低下せず、設置場所の制限が極めて少なくなる。このことから、第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、様々な地域の視聴者宅に設置することができ、地上デジタル放送への完全移行を推進することにもつながる。
【0045】
<L字状金属体の第2例>
以下、図5を参照し、L字状金属体21について、詳細に説明する。ここで、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aでは、図4のL字状金属体20の代わりに、図5のL字状金属体21を、反射鏡2の背面に装着しても良い。このL字状金属体21は、図5(b)に示すように、スリット2bに平行となる側壁部21bをリブ構造としている。具体的には、L字状金属体21は、スリット2bに平行となる側壁部21bにおいて、側壁部21bを水平方向に貫通する穴を、反射鏡2の高さ方向に複数個(例えば、8個)形成し、リブ構造としている。
【0046】
このようなリブ構造とすることで、第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、図4のL字状金属体20を装着した場合と同様の効果に加え、軽量化を実現している。
【0047】
<L字状金属体の第3例>
以下、図6を参照し、L字状金属体22について、詳細に説明する。ここで、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aでは、図4のL字状金属体20又は図5のL字状金属体21の代わりに、図6のL字状金属体22を、反射鏡2の背面に装着しても良い。このL字状金属体22は、図6(a)に示すように、図5のL字状金属体21と支柱6とを一体構造にしたものである。
【0048】
このような一体構造とすることで、第2実施形態に係る衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1Aは、図5のL字状金属体21を装着した場合と同様の効果に加え、省スペース化を実現している。なお、詳細な説明は省略するが、第2実施形態において、図4のL字状金属体20と支柱6とを一体構造にしても良いことは、言うまでもない。
【0049】
(実施例1〜3)
以下、図7〜図11を参照して、本発明の第1実施形態に係る実施例1〜3について説明する(適宜図1及び図2参照)。本発明の実施例1〜3では、図7に示すように、一般的なパラボラアンテナにスリット2bを形成し、給電点2cの位置をそれぞれ変えて、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1を試作した。ここで、スリット2bは、長さが400mmであり、幅が5mmである。そして、この試作した衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1の性能か検証するため、各種測定を行った。ここで、以下に説明する各々の測定では、各アンテナを障害物の少ない平地に配置し、電界強度測定器を用いて測定した。
【0050】
以下、反射面2aの中央部分に給電点2cを設けたものを実施例1、実施例1から下側に20mmの位置に給電点2cを設けたものを実施例2、及び、実施例1から下側に30mmの位置に給電点2cを設けたものを実施例3として説明する。なお、図7では、説明のために、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1の構成の一部を省略した。また、図7では、説明のために、給電点2cを3個図示したが、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1は、1個の給電点2cを設ければ良い。
【0051】
<受信特性>
反射鏡2にスリット2bを形成した前後で、衛星放送信号の各チャンネルのレベルとCN比とを測定した。この結果を表1に示す。なお、表1では、スリット2bを形成する前の測定結果を参考例1として示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、実施例1では、参考例1と比べて、レベル及びCN比ともに大きな差がなく、衛星放送信号の受信特性が優れているものと考えられる。
【0054】
また、実施例1と従来の14素子八木アンテナとの地上デジタル放送信号(UHF放送信号)の各チャンネルのレベルを測定した。この結果を表2に示す。なお、表2では、従来の14素子八木アンテナの測定結果を参考例2として示した。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示すように、実施例1では、全てのチャンネルで参考例2と略同等のレベルが測定されており、地上デジタル放送信号の受信特性が優れているものと考えられる。
【0057】
実施例1において、スリット2bに直角な面内での水平偏波の指向性を測定した。この結果を図8に示す。なお、図8では、各方向に対する指向性の強さをdBiで図示すると共に、反射鏡2が0°の方向(図8の上方向)を向いていることとした。ここで、図8に示すように、実施例1では、反射鏡2の前後方向に指向性を有していることから、簡便なUHFアンテナと遜色のない、広い指向性を有すると考えられる。
【0058】
実施例1において、スリット2bに平行な面内での水平偏波の指向性を測定した。この結果を図9に示す。なお、図9では、各方向に対する指向性の強さをdBiで図示すると共に、反射鏡2が90°の方向(図9の右方向)を向いていることになる。
【0059】
ここで、図9に示すように、実施例1では、衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1の仰角方向に指向性を有していることから、安定して地上デジタル放送信号を受信できるものと考えられる。特に、衛星放送信号を受信する際、ある程度の仰角をもってアンテナを設置する必要があるため、実施例1は、水平に伝搬するUHF帯の地上デジタル放送信号を受信しやすい利点を有する。
【0060】
<給電点の位置と周波数との関係>
以下、給電点2cの位置と周波数との関係について説明する。
実施例1〜3において、電圧定在波比(VSWR)と周波数との関係を評価した。この結果を図10に示す。なお、図10では、実線で実施例1における電圧定在波比と周波数との関係を示し、一点鎖線で実施例2における電圧定在波比と周波数との関係を示し、破線で実施例3における電圧定在波比と周波数との関係を示した。
【0061】
ここで、図10に示すように、実施例1では、周波数が高くなる程に電圧定在波比が高くなり、利用可能な周波数幅がやや狭くなる。そこで、実施例2のように給電点を下側に設けると、殆どの周波数で電圧定在波比が低くなり、利用可能な周波数幅が広くなる。さらに、実施例3のように給電点を下側に設けると、約750MHz以下の周波数で電圧定在波比が2.5以下となり、現在、地上デジタル放送信号で使用している周波数を問題なく受信できる。
【0062】
実施例1〜3において、利得と周波数との関係を評価した。この結果を図11に示す。なお、図11では、実線で実施例1における利得と周波数との関係を示し、破線で実施例3における利得と周波数との関係を示す。ここで、図11に示すように、実施例1では、周波数が高くなるほど利得が低下してしまう。一方、実施例3では、650MHz付近の周波数帯に利得の低下が見られるが、利得を平均するとその低下はあまり大きくならない。
【0063】
以上のように、給電点2cを下側に設けるほど、受信特性が良好となる。しかし、UHF帯内での周波数が高くなると、最大放射方向が仰角を持ち始める。このため、ビームが上を向くために、図11の実施例3(破線)に示すように、水平面の利得が低下する現象が見られる。この利得の低下は、給電点2cを下側に設けるほど顕著になるため、給電点2cの位置には限界がある。このことから、給電点2cは、反射鏡2の中央から下側に設けることが好ましく、反射鏡2の中央から下側30mmまでの位置に給電点2cを設けることがより好ましい。
【0064】
なお、前記した実施例では、給電点2cを反射面2aの中央から下側に設ける例を説明したが、これに限定されない。例えば、給電点2cを反射面2aの中央から上側に設けても、スリット2bの近傍であれば、前記した実施例と同様の効果が得られる。言い換えると、給電点2cは、反射面2aの中央から外側(反射面2aの中央から外縁側)に設けることが好ましい。
【0065】
(実施例4)
以下、図12を参照し、本発明の第2実施形態に係る実施例4について説明する(適宜図4参照)。この実施例4では、前記した実施例1と同様の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ1の背面にL字状金属体20を装着した。また、実施例4では、L字状金属体20は、その幅Xが100mm、その奥行きYが60mmであり、その上端から下端までの長さが、反射鏡2の中央上端部から中央下端部までの高さと等しくなっている。
【0066】
実施例4において、スリット2bに直角な面内での水平偏波の指向性を、実施例1と同様の手法にて測定した。この結果を図12に示す。なお、図12では、各方向に対する指向性の強さをdBiで図示すると共に、反射鏡2が0°の方向(図12の上方向)を向いていることとした。ここで、図12に示すように、実施例4では、図8における両横方向のヌル成分を低減することから、極めて広い指向性を有すると考えられる。
【符号の説明】
【0067】
1 衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ
1A 衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ
2 反射鏡
2a 反射面
2b スリット
2c 給電点
2d 給電線
2e 給電部
3 放射器
4 混合回路
10 電気回路
11 LPF(ローパスフィルタ)
12 HPF(ハイパスフィルタ)
13 バラン
20 L字状金属体
21 L字状金属体
21b 側壁部
22 L字状金属体
C コンデンサ
L チョークコイル
Ta,Tb 電極
Ti 入力端子
To 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転放物面状の反射面で衛星放送信号を反射する反射鏡と、当該反射面の焦点位置に配置され、前記反射鏡が反射した衛星放送信号を受信する放射器と、前記衛星放送信号と地上デジタル放送信号とを混合する混合回路とを備える衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナにおいて、
前記反射鏡は、
前記反射面に所定長さで形成されたスリットと、前記スリットの近傍に設けられた給電点に接続された給電線によって前記地上デジタル放送信号を受信する給電部とを備え、
前記混合回路は、
前記放射器が受信した衛星放送信号と、前記給電部が受信した地上デジタル放送信号とを混合することを特徴とする衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ。
【請求項2】
前記スリットは、その幅が、前記反射鏡の全幅に対して0.1%以上50%未満であることを特徴とする請求項1に記載の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ。
【請求項3】
前記給電点は、前記反射鏡の中央から外側に設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ。
【請求項4】
前記反射面に対向する前記反射鏡の背面に、前記スリットの深さ方向でL字状となり、かつ、前記スリットの長さ方向に沿うように装着されたL字状金属体をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の衛星放送・地上デジタル放送兼用アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−200292(P2010−200292A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183731(P2009−183731)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】