説明

衝突被害軽減装置

【課題】衝突被害軽減装置のブレーキ作動後、所定条件下でブレーキ作動状態を解除する。
【解決手段】ブレーキ作動後、障害物がレーダの死角に入ったか否かを判定する(S6、S7)。障害物が死角に入れば、少なくとも、死角に入ってから測定される車速V、並びに、死角に入ってからの経過時間tに基づいて、障害物までの推定距離Xを演算する(S14、S15)。そして、衝突が検出されず、且つ、推定距離Xが0以下であるときに、死角に入った障害物との衝突を回避できたと判定して、ブレーキ作動状態を解除する(S16、S17、S11)。このため、車両を迅速に通常走行へと復帰させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前方に位置する先行車両、停止車両及び落下物など(以下「障害物」という)との衝突が回避困難であるときに、ブレーキを自動的に作動させて衝突時の被害を軽減する衝突被害軽減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突被害軽減装置のブレーキ作動の判定には、障害物との相対速度や距離などを測定するレーダ装置からの信号が用いられる。レーダ装置は、車両前方にミリ波等の電磁波を送信し、障害物からの反射波に基づいて種々の測定を実行する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−134266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがレーダ装置は、電磁波を円錐状に送信するため測定範囲に限界があり、レーダ装置下方に測定不能な死角が存在する場合が考えられる。この死角に障害物が入る状況は、障害物が車両に近接するときであり、衝突被害軽減装置のブレーキ作動後にも生じ得る。ブレーキ作動後の衝突被害軽減装置は、障害物が測定不能になっても車両が停止するまでブレーキを作動させ続ける。
【0005】
しかし、障害物の衝突回避行動、例えば、障害物の車線変更や加速によっては、ブレーキ作動後であっても衝突が回避され得るので、このようなときにブレーキ作動を解除できれば、車両を迅速に通常走行へと復帰させることができる。
【0006】
そこで、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、ブレーキ作動後、レーダの死角に入った障害物との車間距離を推定し、該推定結果に基づいてブレーキの作動状態を解除させ、車両を迅速に通常走行へと復帰させることができるようにした衝突被害軽減装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明の衝突被害軽減装置では、車速を測定する車速測定手段と、車両前方に位置する障害物までの距離、該障害物との相対速度を測定する障害物測定手段と、前記障害物測定手段により夫々測定された距離及び相対速度に基づいて、前記障害物に衝突するまでの衝突時間を演算する第1衝突時間演算手段と、前記第1衝突時間演算手段により演算された衝突時間が所定閾値以下となったときに、ブレーキを自動的に作動させるブレーキ作動手段と、前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動後、前記障害物測定手段が距離及び相対速度の少なくとも一方を測定できなくなったときに、少なくとも、前記車速測定手段により測定される車速、並びに、該障害物測定手段が距離及び相対速度の少なくとも一方を測定できなくなってからの経過時間に基づいて、前記障害物までの推定距離を順次演算する推定距離演算手段と、前記推定距離演算手段により演算された推定距離が0以下となったときに、前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動状態を解除する第1ブレーキ解除手段と、を含んで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブレーキ作動後に、障害物測定手段が距離及び相対速度の少なくとも一方を測定できなくなったとき、即ち、障害物が死角に入ったときに、少なくとも、死角に入ったときから測定される車速と、死角に入ってからの経過時間と、に基づいて、障害物までの推定距離を順次演算する。そして、推定距離が0以下となったときに、ブレーキ作動状態を解除する。このため、ブレーキ作動後にも所定条件下でブレーキ作動状態を解除することができるので、車両を迅速に通常走行へと復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る衝突被害軽減装置を備えた車両の全体構成図
【図2】制御プログラムの処理内容を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、本発明に係る衝突被害軽減装置を備えた車両の全体構成を示す。
車両には、コンピュータを内蔵した衝突被害軽減電子制御ユニット(以下、「衝突被害軽減ECU」という。以下、同様)10と、ブレーキを電子制御するブレーキECU20と、が搭載されている。
【0011】
衝突被害軽減ECU10は、CAN(Controller Area Network)などのネットワークを介して、ブレーキECU20と相互通信可能に接続される。衝突被害軽減ECU10は、悪天候や汚れなどの環境要因の影響を受け難いミリ波等の障害物測定波を車両前方に送信し、障害物からの反射波に基づいて少なくとも障害物までの距離及び障害物との相対速度の測定を行うレーダ30と、車速を測定する車速センサ40と、障害物との衝突を検出する衝突検出装置50と、に接続される。衝突検出装置50は、例えば、加速度センサが検出する急激な加速度の変化や、車両前部に設けられた歪みセンサが検出する歪みを用いて衝突を検出したり、エアバッグの作動有無により衝突を検出する構成であってもよい。
【0012】
また、衝突被害軽減ECU10は、ROM(Read Only Memory)などに記憶された制御プログラムを実行しつつ、レーダ30から出力される距離及び相対速度、車速センサ40から出力される車速、衝突検出装置50から出力される衝突検出信号などの各種信号を適時取得する。そして、衝突被害軽減ECU10は、車両前方に位置する障害物との衝突が回避困難であるときに、ブレーキECU20に対してブレーキ作動指令を出力する。一方、衝突被害軽減ECU10は、ブレーキ作動後、死角に入った障害物との衝突が回避できたときに、ブレーキECU20に対してブレーキ作動解除指令を出力する。
【0013】
ここで、衝突被害軽減ECU10が制御プログラムを実行することで、第1、第2衝突時間演算手段、ブレーキ作動手段、推定距離演算手段、第1、第2ブレーキ解除手段、ブレーキ保持手段が夫々具現化される。また、レーダ30は障害物測定手段として機能し、車速センサ40は車速測定手段として機能し、衝突検出装置50は衝突検出手段として機能する。なお、車速測定手段は、エンジンECU(図示略)から車速を読み込む構成を採用するようにしてもよい。
【0014】
図2は、イグニッションスイッチのONを契機として衝突被害軽減ECU10において実行される制御プログラムの処理内容を示す。
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様)では、レーダ30から車両前方に位置する障害物までの距離D[m]及び障害物との相対速度V[m/s]を夫々読み込む。
【0015】
ステップ2では、距離D及び相対速度Vを夫々測定できたか否かを判定する。そして、測定できればステップ3へと進む一方(Yes)、測定できなければステップ1へと戻る(No)。
【0016】
ステップ3では、例えば、t=D/Vという演算式を用いて、距離D及び相対速度Vから、障害物に衝突するまでの衝突時間t[s]を演算する。
ステップ4では、衝突時間tが所定閾値t1(例えば1.6[s])以下であるか否かを判定する。そして、衝突時間tが所定閾値t1以下であればステップ5へと進む一方(Yes)、衝突時間tが所定閾値t1より大きければステップ1へと戻る(No)。
【0017】
ステップ5では、ブレーキECU20に対してブレーキ作動指令を適宜出力して、衝突した際の被害を低減させる。
ステップ6では、レーダ30から車両前方に位置する障害物までの距離D[m]及び障害物との相対速度Vr[m/s]を読み込むと共に、車速センサ40から車速Vo[m/s]を読み込む。
【0018】
ステップ7では、距離D及び相対速度Vrを夫々測定できたか否かを判定する。ここで、距離D及び相対速度Vrの少なくとも一方を測定できなければ、障害物がレーダ30の死角に入ったことになる。そして、測定できればステップ8へと進む一方(Yes)、測定できなければステップ14へと進む(No)。
【0019】
ステップ8では、ステップ7で読み込んだ距離D、相対速度Vr及び車速Voを衝突被害軽減ECU10のメモリに保存する。
ステップ9では、ステップ3と同様にして、距離D及び相対速度Vrから、障害物に衝突するまでの衝突時間tを演算する。
【0020】
ステップ10では、衝突時間tが所定閾値t1より大きいか否かを判定する。そして、衝突時間tが所定閾値t1より大きければ障害物が衝突回避行動をとったと判定してステップ11へと進む一方(Yes)、衝突時間tが所定閾値t1以下であれば、ステップ12へと進む(No)。
【0021】
ステップ11では、ブレーキECU20に対してブレーキ作動解除指令を適宜出力して、ブレーキ作動状態を解除させ、ステップ1へと戻る。これにより、車両を迅速に通常走行へと復帰させることができる。
【0022】
ステップ12では、衝突検出装置50が障害物との衝突を検出したか否かを判定する。そして、衝突が検出されればステップ13へと進む一方(Yes)、衝突が検出されなければステップ6へと戻り(No)、ブレーキ作動後の障害物の動きを監視し続ける。
【0023】
ステップ13では、車速センサ40により測定される車速Voが0になるまでブレーキ作動状態を保持して、衝突した際の被害を低減させる。
ステップ14では、障害物がレーダ30の死角に入ってから車速センサ40により測定される車速V[m/s]を読み込む。
【0024】
ステップ15では、ステップ8でメモリに保持された距離Dを読み出すと共に、ステップ14で読み込んだ車速V、並びに、障害物がレーダ30の死角に入ってから(レーダ30が距離D及び相対速度Vrの少なくとも一方を測定できなくなってから)の経過時間t[s]に基づいて、例えば、X=D−∫Vdt(区間[0,t])という演算式から、障害物までの推定距離X[m]を演算する。ここで、∫Vdt(区間[0,t])は、経過時間tに応じて車両が進んだ走行距離[m]である。
【0025】
また、上記演算式よりも更に正確に推定距離Xを演算するには、例えば、下記数式1を用いる。即ち、ステップ8でメモリに保持された距離D、相対速度Vr及び車速Voを読み出すと共に、ステップ14で読み込んだ車速V、並びに、経過時間tに基づいて、下記数式1から、障害物までの推定距離Xを演算する。
【0026】
【数1】

【0027】
ここで、V(=Vo−Vr)[m/s]は、距離D及び相対速度Vrを測定できなくなる直前の障害物の速度、α[m/s]は、距離D及び相対速度Vrを測定できなくなる直前の速度の変化率を示す加速度、(V+1/2α)は、経過時間tに応じて障害物が進んだ推定走行距離[m]である。
【0028】
ステップ16では、衝突検出装置50が障害物との衝突を検出したか否かを判定する。そして、衝突が検出されればステップ13へと進む一方(Yes)、衝突が検出されなければステップ17へと進む(No)。
【0029】
ステップ17では、推定距離Xが0以下であるか否かを判定する。推定距離Xが0以下とは、車両が障害物と重なっているか又は車両が障害物を通過した状態である。従って、衝突が検出されず、且つ、推定距離Xが0以下であれば、障害物との衝突が回避できたことになる。そして、推定距離Xが0以下であればステップ11へと進みブレーキ作動状態を解除して、車両を迅速に通常走行へと復帰させるようにする一方(Yes)、推定距離Xが0より大きければステップ6へと戻り、死角に入った障害物と衝突するか又は該障害物との衝突が回避できるまで推定距離Xを順次演算する(No)。
【0030】
かかる衝突被害軽減装置によれば、ブレーキ作動後、レーダ30が障害物までの距離D及び障害物との相対速度Vrの少なくとも一方を測定できなくなったとき、即ち、障害物がレーダ30の死角に入ったときに、少なくとも、車速センサ40により測定される車速Vと、レーダ30が距離D及び相対速度Vrの少なくとも一方を測定できなくなってからの経過時間tと、に基づいて、障害物までの推定距離Xを順次演算するか、又は、車速Vと、経過時間tと、レーダ30が距離D及び相対速度Vrの少なくとも一方を測定できなくなる直前に、レーダ30及び車速センサ40により夫々測定された距離D、相対速度Vr及び車速Voと、に基づいて、障害物までの推定距離Xを順次演算する。そして、衝突が検出されず、且つ、推定距離Xが0以下となったときに、ブレーキECU20に対してブレーキ作動解除指令を出力し、ブレーキ作動状態を解除する。このため、ブレーキ作動後にも所定条件下でブレーキ作動状態を解除できるので、車両を迅速に通常走行へと復帰させることができる。なお、かかる衝突被害軽減装置によれば、ブレーキ作動が障害物の誤測定に基づくものであっても、ブレーキ作動状態を解除することができるので、この場合にも車両を迅速に通常走行へと復帰させることができる。
【符号の説明】
【0031】
10 衝突被害軽減ECU
20 ブレーキECU
30 レーダ
40 車速センサ
50 衝突検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を測定する車速測定手段と、
車両前方に位置する障害物までの距離、該障害物との相対速度を測定する障害物測定手段と、
前記障害物測定手段により夫々測定された距離及び相対速度に基づいて、前記障害物に衝突するまでの衝突時間を演算する第1衝突時間演算手段と、
前記第1衝突時間演算手段により演算された衝突時間が所定閾値以下となったときに、ブレーキを自動的に作動させるブレーキ作動手段と、
前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動後、前記障害物測定手段が距離及び相対速度の少なくとも一方を測定できなくなったときに、少なくとも、前記車速測定手段により測定される車速、並びに、該障害物測定手段が距離及び相対速度の少なくとも一方を測定できなくなってからの経過時間に基づいて、前記障害物までの推定距離を順次演算する推定距離演算手段と、
前記推定距離演算手段により演算された推定距離が0以下となったときに、前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動状態を解除する第1ブレーキ解除手段と、
を含んで構成されることを特徴とする衝突被害軽減装置。
【請求項2】
前記推定距離演算手段は、
前記車速測定手段により測定される車速と、
前記障害物測定手段が距離及び相対速度の少なくとも一方を測定できなくなってからの経過時間と、
前記障害物測定手段が距離及び相対速度の少なくとも一方を測定できなくなる直前に、前記車速測定手段及び前記障害物測定手段により夫々測定された車速、距離及び相対速度と、
に基づいて、前記推定距離を順次演算することを特徴とする請求項1記載の衝突被害軽減装置。
【請求項3】
前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動後、前記障害物測定手段により夫々測定された距離及び相対速度に基づいて、前記障害物に衝突するまでの衝突時間を演算する第2衝突時間演算手段と、
前記第2衝突時間演算手段により演算された衝突時間が前記所定閾値より大きくなったときに、前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動状態を解除する第2ブレーキ解除手段と、
をさらに含んで構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衝突被害軽減装置。
【請求項4】
前記障害物との衝突を検出する衝突検出手段と、
前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動後、前記衝突検出手段により衝突が検出されたときに、前記車速測定手段により測定される車速が0になるまで、前記ブレーキ作動手段によるブレーキ作動状態を保持するブレーキ保持手段と、
をさらに含んで構成されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の衝突被害軽減装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−110958(P2011−110958A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266216(P2009−266216)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】