説明

表面処理された基材の製造方法

【課題】表面処理された基材の製造方法を提供する。
【解決手段】含フッ素環式飽和炭化水素基(F)と反応性基(A)とを有する含フッ素化合物(F)を含むフッ素系表面改質剤を基材(S)に塗工した後に反応させる、表面処理された基材の製造方法。たとえば、含フッ素環式飽和炭化水素基(F)は、下記化合物(1)〜(5)からなる群から選ばれる環式飽和炭化水素化合物の水素原子をn個除いたn価の基(ただし、nは1〜4の整数を示す。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理された基材の製造方法、好適には、イマージョンリソグラフィー法に用いられる表面処理された基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系表面改質剤は、諸物性(撥水撥油性、耐熱性、耐薬品性、透明性等。)に優れており、防汚剤、離型剤、潤滑剤、撥水撥油剤等として有用である。
フッ素系表面改質剤に用いられる含フッ素化合物としては、たとえば、反応性シリル基と含フッ素非環式アルキル基とを有する含フッ素化合物(CFCFCFCFCFCFCHCHSi(OCH等。)が知られている。
【0003】
一方、高度にフッ素化された環式炭化水素基を有する化合物の撥水撥油性に関する知見は、得られていない。たとえば、特許文献1には、下記化合物の重合体のフォトレジスト特性(光学特性、エッチング耐性および耐酸性。)は記載されているが、前記重合体の撥水性に関しては記載されていない。
【0004】
【化1】

【0005】
ところで、半導体等の集積回路の製造においては、露光光源の光をマスクに照射して得られたマスクのパターン像を投影レンズを介して基材上の感光性レジスト層に投影して、該パターン像を感光性レジスト層に転写するリソグラフィー法が用いられる。通常、前記パターン像は、感光性レジスト上を相対的に移動する投影レンズを介して、感光性レジスト層の所望の位置に投影される。
【0006】
近年では、液状媒体中における光の波長が液状媒体の屈折率の逆数倍になる現象を利用したリソグラフィー法、すなわち、投影レンズ下部と感光性レジスト上部との間を高屈折率の液状媒体(超純水等。)(以下、イマージョン液ともいう。)で満たしつつ、マスクのパターン像を感光性レジストに投影する工程を含むイマージョンリソグラフィー法が検討されている。
【0007】
イマージョンリソグラフィー法においては、感光性レジスト層上を高速移動する投影レンズにイマージョン液が追従して移動する。そのため、投影レンズが感光性レジスト層の端面近傍に移動した際に、イマージョン液が、基材の端面または裏面に回り込んで基材を汚染する、ひいては露光装置を汚染する懸念がある。
そこで、特許文献2には、基材端面におけるイマージョン液の回り込みを抑制するために、基材の表面をフッ素系表面改質剤により撥水処理することが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−182796号公報
【特許文献2】特開2007−019465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に記載のフッ素系表面改質剤は、実際には、含フッ素非環式アルキル基と反応性シリル基とを有する含フッ素化合物(1,3−ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)テトラメチルジシラザン、4−ジメチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキシ−3−ペンテン−2−オン、イソプロペノキシ−3,3,3−トリフルオロプロピルジメチルシラン等。)に過ぎず、イマージョン液の回り込みを抑制するために必要な撥水性を基材に付与できないと考えられる。そのため、基材の表面に高い撥水性を付与するための基材の表面処理方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の要旨を有するものである。
<1> 含フッ素環式飽和炭化水素基(F)と反応性基(A)とを有する含フッ素化合物(F)を含むフッ素系表面改質剤を基材(S)に塗工した後に反応させる、表面処理された基材の製造方法。
【0011】
<2> 含フッ素環式飽和炭化水素基(F)が、下式(1)、下式(2)、下式(3)、下式(4)および下式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる環式飽和炭化水素化合物の水素原子をn個除いたn価の基(ただし、nは1〜4の整数を示す。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基(FU1)である、<1>に記載の表面処理された基材の製造方法。
【0012】
【化2】

【0013】
基(FU1)にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0014】
<3> 含フッ素環式飽和炭化水素基(F)が、下式(F11)、下式(F12)、下式(F21)および下式(F41)で表される基からなる群から選ばれる基(FU11)である、<1>または<2>に記載の表面処理された基材の製造方法。
【0015】
【化3】

【0016】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
およびR:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
基(FU11)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0017】
<4> 基材(S)が、反応性基(A)と反応しうる反応性基(B)を表面に有する基材である<1>〜<3>に記載の、表面処理された基材の製造方法。
【0018】
<5> 反応性基(A)が反応性シリル基であり、反応性基(B)が活性水素原子を有する基である、<4>に記載の表面処理された基材の製造方法。
<6> 反応性基(A)が反応性シリル基であり、反応性基(B)がヒドロキシ基である、<4>または<5>に記載の表面処理された基材の製造方法。
【0019】
<7> 表面処理された基材が、イマージョンリソグラフィー法に用いられる基材である<1>〜<6>のいずれかに記載の表面処理された基材の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、撥水撥油性に優れた表面を有する基材を、容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本明細書において、式(f1)で表される化合物を化合物(f1)とも、式(F11)で表される基を基(F11)とも、記す。他の化合物と他の基も、同様に記す。また、基中の記号は特に記載しない限り前記と同じである。
【0022】
本発明におけるフッ素系表面改質剤は、含フッ素環式飽和炭化水素基(F)と反応性基(A)とを有する含フッ素化合物(F)を含む。
【0023】
本発明における含フッ素化合物(F)中の含フッ素環式飽和炭化水素基(F)とは、環を構成する炭素原子にフッ素原子が直接結合している飽和の基である。含フッ素環式飽和炭化水素基は、1価の基が好ましい。また、含フッ素環式飽和炭化水素基は、含フッ素単環式飽和炭化水素基であってもよく、含フッ素多環式飽和炭化水素基であってもよい。含フッ素多環式飽和炭化水素基は、含フッ素橋かけ環式飽和炭化水素基であってもよく、含フッ素縮環式飽和炭化水素基であってもよい。
【0024】
含フッ素環式飽和炭化水素基(F)は、環式飽和炭化水素化合物の水素原子をm個除いたm価の基(ただし、mは1〜4の整数を示す。mは1が好ましい。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基が好ましい。
前記含フッ素環式飽和炭化水素基中の残余の水素原子は、80%以上がフッ素原子に置換されているのが好ましく、すべてがフッ素原子に置換されているのが特に好ましい。前記基にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0025】
含フッ素環式飽和炭化水素基(F)は、下記化合物(1)、下記化合物(2)、下記化合物(3)、下記化合物(4)および下記化合物(5)からなる群から選ばれる環式飽和炭化水素化合物の水素原子をn個除いたn価の基であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基(FU1)がより好ましい。
【0026】
【化4】

【0027】
基(FU1)中の残余の水素原子は、80%以上がフッ素原子に置換されているのが好ましく、すべてがフッ素原子に置換されているのが特に好ましい。
基(FU1)にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【0028】
nは1であるのが好ましく、基(FU1)は1価の基であるのが好ましい。
【0029】
含フッ素環式飽和炭化水素基(F)は、下記基(F11)、下式基(F12)、下記基(F21)および下記基(F41)からなる群から選ばれる基(FU11)が特に好ましい。
【0030】
【化5】

【0031】
基(FU11)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
は、メチル基またはトリフルオロメチル基が好ましい。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0032】
本発明における反応性基(A)は、反応性シリル基、イソシアナト基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基またはアミノ基が好ましく、反応性と基材(S)の密着性との観点から、反応性シリル基が特に好ましい。
【0033】
反応性シリル基は、下記基(S1)、下記基(S2)、下記基(S3)または下記基(S4)が好ましく、基(S1)が特に好ましい。
−Si(X3−p(OX (S1)、
−Si(X21(−O−CX22=CX23−C(O)X24) (S2)、
−Si(X313−q(−O−CX32=CHX33 (S3)。
【0034】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す(以下同様。)。
:炭素数1〜10の炭化水素基であって、3個のXは同一であってもよく異なっていてもよい。
p:1、2または3。
21:炭素数1〜10の炭化水素基であって、qが1である場合、2個のX21は同一であってもよく異なっていてもよい。
22およびX23:それぞれ独立に、炭素数1〜10の炭化水素基または炭素数1〜10の含フッ素炭化水素基。qが2である場合、2個のX22は同一であってもよく異なっていてもよい。qである場合、2個のX23は同一であってもよく異なっていてもよい。
24:炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10の含フッ素炭化水素基、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜10のフルオロアルコキシ基。qが2である場合、2個のX24は同一であってもよく異なっていてもよい。
31:炭素数1〜10の炭化水素基。qが2である場合、2個のX31は同一であってもよく異なっていてもよい。
32およびX33:それぞれ独立に、炭素数1〜10の飽和炭化水素基または炭素数1〜10の含フッ素炭化水素基。qが2である場合、2個のX32は同一であってもよく異なっていてもよい。qである場合、2個のX33は同一であってもよく異なっていてもよい。
q:1、2または3。
【0035】
は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、またはn−プロピル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。また、3個のXは同一であるのが好ましい。
pは、反応性の観点から、2または3が好ましく、3が特に好ましい。
【0036】
基(S1)の具体例としては、−Si(CH)(OCH、−Si(CHCH)(OCHCH、−Si(OCH、−Si(OCHCHが挙げられる。
【0037】
基(S2)の具体例としては、−Si(CH(−O−C(CH)=C(CH)−C(O)CH)、−Si(CH(−O−C(Cy)=C(CH)−C(O)CH)、−Si(CH(−O−C(CF)=CH−C(O)CF)、−Si(CH(−O−C(−CH=CH)=C(CH)−C(O)CH)、−Si(CH(−O−C(CH)=C(CH)−C(O)OCH)が挙げられる(ただし、Cyはシクロヘキシル基を示す。以下同様。)。
【0038】
基(S3)の具体例としては、−Si(CH(−O−C(CH)=CH)、−Si(CH(−O−C(Cy)=CH)、−Si(CH(−O−CH=CH)、−Si(CH(−O−C(CH)=CHCH)、−Si(CH)(−O−C(CH)=CHCHが挙げられる。
【0039】
含フッ素化合物(F)において、含フッ素環式飽和炭化水素基(F)と反応性基(A)とは直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。連結基は、炭素数1〜10の2価有機基が好ましく、炭素数1〜10のアルキレン基が特に好ましい。該アルキレン基中の炭素原子−炭素原子間には、−O−、−C(O)−または−C(O)O−が挿入されていてもよい。また、該アルキレン基中の炭素原子は、フッ素原子、ヒドロキシ基またはカルボキシ基に置換されていてもよい。
【0040】
含フッ素化合物(F)は、下記化合物(f1)が好ましく、下記化合物(f11)が特に好ましい。
【0041】
【化6】

【0042】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す(以下同様。)。
:フッ素原子、または−W−CHCHSi(Rであって、3個のZは同一であってもよく異なっていてもよい。
:単結合、エーテル性酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のオキシアルキレン基、炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するアルキレン基または炭素数2〜6のエーテル性酸素原子を有するオキシアルキレン基。
:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であって、少なくとも1個のRは炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【0043】
は、単結合、炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数1〜6のオキシアルキレン基が好ましく、単結合、炭素数1〜2のアルキレン基、炭素数1〜2のオキシアルキレン基が特に好ましい。
【0044】
−Si(R中の3個のRは、2個が炭素数1〜6のアルキル基であり1個が炭素数1〜6のアルコキシ基であるか、1個が炭素数1〜6のアルキル基であり2個が炭素数1〜6のアルコキシ基であるか、3個が炭素数1〜6のアルコキシ基であるのが好ましく、反応性の観点から、1個が炭素数1〜6のアルキル基であり2個が炭素数1〜6のアルコキシ基であるか、3個が炭素数1〜6のアルコキシ基であるのがより好ましく、3個が炭素数1〜6のアルコキシ基であるのが特に好ましい。
【0045】
化合物(f1)は、新規な化合物である。化合物(f1)は、下記化合物(of1)とHOを反応させて下記化合物(pf1)を得て、つぎに化合物(pf1)とホルムアルデヒドを塩基性化合物の存在下に反応させて下記化合物(qf1)を得て、つぎに化合物(qf1)とCH=CH−W−Brを反応させて下記化合物(rf1)を得て、つぎに化合物(rf1)とHSi(Rを反応させることにより製造するのが好ましい。
【0046】
【化7】

【0047】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:Zに対応する基であって、フッ素原子に対応するZはフッ素原子であり、−Hに対応するZは−COF。
:Zに対応する基であって、フッ素原子に対応するZはフッ素原子であり、−CHOHに対応するZは−H。
:Zに対応する基であって、フッ素原子に対応するZはフッ素原子であり、−W−CH=CHに対応するZは−CHOH。
:Zに対応する基であって、フッ素原子に対応するZはフッ素原子であり、−W−CHCHSi(Rに対応するZは−W−CH=CH
【0048】
化合物(F)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0049】
【化8】

【0050】
本発明におけるフッ素系表面改質剤は、含フッ素化合物(F)以外の成分(他の成分ともいう。)を含んでいてもよい。他の成分としては、含フッ素化合物(F)以外の表面改質成分、反応触媒、有機溶媒が挙げられる。
【0051】
含フッ素化合物(F)以外の表面改質成分としては、シラン系カップリング剤、シラザン類が挙げられる。
【0052】
シラン系カップリング剤の具体例としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0053】
シラザン類の具体例としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ビスエチルジメチルジシラザン、ビスプロピルジメチルジシラザンが挙げられる。
【0054】
本発明におけるフッ素系表面改質剤が含フッ素化合物(F)以外の表面改質成分を含む場合、含フッ素化合物(F)に対して前記表面改質成分を、1〜20質量%含むのが好ましい。
【0055】
反応触媒は、含フッ素化合物(F)中の反応性基(A)の反応を触媒する化合物、または基材(S)が反応性基(B)を有する場合には反応性基(A)と反応性基(B)との反応を触媒する化合物であれば、特に限定されない。
たとえば、反応性基(A)が反応性シリル基であり反応性基(B)がヒドロキシ基である場合の触媒としては、カルボン酸等の有機酸が挙げられる。
本発明におけるフッ素系表面改質剤は、含フッ素化合物(F)に対して反応触媒を、1〜20質量%含むのが好ましい。
【0056】
本発明におけるフッ素系表面改質剤は、基材(S)に塗布されるため、液状に調製されるのが望ましく、有機溶媒を含むのが好ましい。
有機溶媒は、含フッ素化合物(F)に対する相溶性が高い溶媒であれば、特に限定されない。有機溶媒は、フッ素系有機溶媒であってもよく、非フッ素系有機溶媒であってもよい。
【0057】
フッ素系有機溶媒の具体例としては、CClFCH、CFCFCHCl、CClFCFCHClF等のハイドロクロロフルオロカーボン類;CFCHFCHFCFCF、CF(CFH、CF(CF、CF(CF、CF(CF等のハイドロフルオロカーボン類;1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、メタキシレンヘキサフルオライド等のハイドロフルオロベンゼン類;ハイドロフルオロケトン類;ハイドロフルオロアルキルベンゼン類;CFCFCFCFOCH、(CFCFCF(CF)CFOCH、CFCHOCFCHF等のハイドロフルオロエーテル類;CHFCFCHOH等のハイドロフルオロアルコール類が挙げられる。
【0058】
非フッ素系有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、ジアセトンアルコール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エチルブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等のケトン類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸2−エトキシエチル、酢酸イソアミル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノまたはジアルキルエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0059】
本発明におけるフッ素系表面改質剤は、含フッ素化合物(F)(フッ素系表面改質剤が含フッ素化合物(F)以外の表面改質成分を含む場合には、含フッ素化合物(F)と該表面改質成分の総質量。)に対して、有機溶媒を、100〜100000質量%含むのが好ましい。
【0060】
本発明における基材(S)は、SiO、Si、SiON、SiN、p−Si、α−Si、W、W−Si、Al、Cu、Al−Si等の無機材料からなる基材であってもよく、有機材料からなる基材であってもよい。また、基材(S)は含フッ素化合物(F)以外の表面改質成分で表面処理されていてもよい。
基材(S)の具体例としては、ガラス、シリコンウェハ、樹脂が挙げられる。
【0061】
基材(S)は、含フッ素化合物(F)との密着性の観点から、反応性基(A)と反応しうる反応性基(B)を表面に有する基材が好ましい。
反応性基(B)は、反応性基(A)の種類にしたがって、適宜選択される。たとえば、反応性基(A)が反応性シリル基である場合、反応性基(B)は、活性水素原子を有する基が好ましく、ヒドロキシ基、メルカプト基またはアミノ基がより好ましく、ヒドロキシ基が特に好ましい。
【0062】
本発明の製造方法においては、フッ素系表面改質剤を基材(S)に塗工した後に反応させる。
【0063】
本発明におけるフッ素系表面改質剤の塗工方法としては、フッ素系表面改質剤を基材(S)の表面に塗布する方法、フッ素系表面改質剤を基材(S)の表面に噴霧する方法、基材(S)をフッ素系表面改質剤中に浸漬する方法が挙げられる。
【0064】
塗布する方法は、特に限定されず、ロールコート法、キャスト法、ディップ法、スピンコート法、水上キャスト法、およびダイコート法が挙げられる。
【0065】
フッ素系表面改質剤が有機溶媒を含む場合には、フッ素系表面改質剤を基材(S)に塗工した後に基材(S)を乾燥するのが好ましい。
ただし、「乾燥」とは、基材(S)に塗工されたフッ素系表面改質剤中の有機溶媒を揮発させて留去する操作を意味する。乾燥条件は、有機溶媒の種類等により適宜選択される。たとえば、基材(S)を、100℃以上にて、1分間〜1時間保持する条件が挙げられる。
また、フッ素系表面改質剤の塗工において、フッ素系表面改質剤は、基材(S)の表面全体に塗工されてもよく、基材(S)の表面の特定部分(端面、外周部等。)に塗工されてもよい。
【0066】
本発明の製造方法における「反応」とは、含フッ素化合物(F)中の反応性基(A)を反応させることを意味する。基材(S)が表面に反応性基(B)を有する場合には、含フッ素化合物(F)中の反応性基(A)と、基材(S)表面の反応性基(B)とを反応させることを、通常は意味する。前記反応は、通常は含フッ素化合物(F)と基材(S)間の化学結合の形成を伴っている。
反応条件は、含フッ素化合物(F)中の反応性基(A)の種類にしたがって、適宜選択できる。反応性基(A)が反応性シリル基である場合、反応は、50〜200℃にて、30秒〜1時間保持する条件が挙げられる。
なお、本発明の製造方法において、「乾燥」と「反応」は同一工程で行ってもよい。
【0067】
本発明の製造方法によれば、表面に高い撥水撥油性が付与された基材を製造できる。その理由は必ずしも明確ではないが、本発明における含フッ素化合物(F)は、含フッ素環構造に由来するかさ高い構造を有する反応性化合物であり、非環式の含フッ素構造を有する反応性化合物に比較して、基材表面に塗工されて塗膜を形成した際に、化合物中の含フッ素部分が最表面に配向しやすいためと考えられる。
【0068】
本発明の製造方法により表面処理された基材は、窓ガラス、レンズ(眼鏡レンズ、光学レンズ等。)、発光ダイオード、ディスプレイ(PDP、LCD、FED、有機EL等。)、半導体部材等の用途に適用できる。なかでも、前記基材は、高い撥水撥油性が付与されていることから、イマージョンリソグラフィー法に用いられる基材として用いるのが好ましい。前記基材は、特に限定されず、Si、SiO、SiON、SiN、p−Si、α−Si、W、W−Si、AlおよびAl−Siからなる群から選ばれる基材が挙げられる。
【0069】
本発明の製造方法により表面処理された基材をイマージョンリソグラフィー法に用いることにより、基材の端面におけるイマージョン液の回り込みが抑制される。そのため、イマージョン液による基材の端面・裏面と露光装置との汚染を抑制できる。そのため、本発明の製造方法により、イマージョンリソグラフィー法の安定実施が可能となる。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されない。
実施例においては、テトラメチルシランをTMSと、CFClCFCHFCl(ジクロロペンタフルオロプロパン)をR225と、記す。
【0071】
[例1]化合物(f1)の製造例
0℃に保持したフラスコに、下記化合物(of1)(27.46g)、NaF(3.78)およびアセトン(100mL)を入れ撹拌した。つぎにフラスコに水(1.14g)を滴下し、フラスコ内を充分に撹拌した。フラスコ内容液を昇華精製して下記化合物(pf1)(22.01g)を得た。
【0072】
化合物(pf1)(2.03g)およびジメチルスルホキシド(50mL)の混合物に、水酸化カリウム(1.00g)とホルマリン水溶液(20mL)を加え、そのまま75℃にて6.5時間反応させた。反応終了後、反応液をR225(40mL)に抽出し、さらにR225を留去して下記化合物(qf1)(1.58g)を得た。
【0073】
【化9】

【0074】
フラスコ(内容積1L)に、同様にして得た化合物(qf1)(110g)とジメチルスルホキシド(550g)を入れ撹拌した。つぎにフラスコに28質量%水酸化カリウム水溶液(153g)を30分かけて滴下した。滴下終了後、フラスコ内を25℃にて2時間撹拌した。つぎに、フラスコにCH=CHCHCHBr(74.5g)を30分かけて滴下し、そのまま25℃にて19時間撹拌した。
【0075】
つづいて、フラスコに飽和塩化ナトリウム水溶液(500mL)とR225(500mL)を添加し分液した。回収した有機層を、飽和塩化ナトリウム水溶液(500mL)で水洗分液し、硫酸マグネシウムで乾燥した後に溶媒留去して、下記化合物(rf1)(111.1g)を得た。
【0076】
フラスコ(内容積500mL)に、化合物(rf1)(50g)とテトラヒドロフラン(240g)からなる混合物、および、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金錯体を0.3質量%含む%キシレン溶液(13.8g)を添加した。つぎに、フラスコにHSi(OCH(27g)を10分かけて滴下し、そのまま60℃にて2時間加熱した。フラスコ内の溶媒を留去した後に、フラスコ内容物をカラムクロマトグラフィー法(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10:1)にて精製し、下記化合物(f1)(55g)を得た。
【0077】
【化10】

【0078】
化合物(f1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz,CDCl,TMS)δ(ppm):0.69(m,2H),1.50(m,2H),1.70(m,2H),2.24(m,2H),3.58(s,9H)。
19F−NMR(282.7MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−113.5(6F),−121.2(6F),−219.1(3F)。
【0079】
[例2]フッ素系表面改質剤の製造例
[例2−1]フッ素系表面改質剤(1)の製造例
化合物(f1)を3.0質量%を含み、かつ酢酸を0.4質量%含むジイソアミルエーテル溶液を調製した。該溶液を孔径0.2μmのフィルター(PTFE製)に通して濾過をして、フッ素系表面改質剤(1)を得た。
[例2−2]フッ素系表面改質剤(2)の製造例
化合物(f1)を3.0質量%を含み、かつ酢酸を0.4質量%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を調製した。該溶液を孔径0.2μmのフィルター(PTFE製)に通して濾過をして、フッ素系表面改質剤(2)を得た。
【0080】
[例4]表面処理された基材の製造例
シリコン基板の表面に、フッ素系表面改質剤(1)を回転塗布した。つぎに、シリコン基板を110℃にて60秒間加熱して反応と乾燥を行い、シリコン基板の表面をフッ素系表面改質剤(1)により表面処理した。
つぎに、フッ素系表面改質剤(1)で表面処理された側の水に対する、静的接触角、転落角、後退角をそれぞれ測定した。なお、滑落法により測定した、転落角を転落角と、後退接触角を後退角と、記す。
【0081】
また、フッ素系表面改質剤(1)のかわりにフッ素系表面改質剤(2)を用いる以外は同様にして、シリコン基板の表面処理を行い、その水に対する接触角、転落角および後退角を測定した。結果をまとめて表1に示す(静的接触角、転落角および後退角の単位は、それぞれ角度(°)である。なお、転落角と後退角は滑落法を用いて測定した。)。なお、比較例として示す数値は、未処理のシリコン基板の静的接触角、転落角および後退角である。
【0082】
【表1】

【0083】
以上の結果から明らかであるように、本発明のフッ素系表面改質剤を用いることにより、基材表面に高い撥水性を付与できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、高い撥水撥油性に優れた表面を有する基材を容易に製造できる。本発明の製造方法により、イマージョン液による基材と露光装置の汚染される懸念のないイマージョンリソグラフィー法の安定実施が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素環式飽和炭化水素基(F)と反応性基(A)とを有する含フッ素化合物(F)を含むフッ素系表面改質剤を基材(S)に塗工した後に反応させる、表面処理された基材の製造方法。
【請求項2】
含フッ素環式飽和炭化水素基(F)が、下式(1)、下式(2)、下式(3)、下式(4)および下式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる環式飽和炭化水素化合物の水素原子をn個除いたn価の基(ただし、nは1〜4の整数を示す。)であって残余の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換された基(FU1)である、請求項1に記載の表面処理された基材の製造方法。
【化1】

基(FU1)にフッ素原子に置換されない残余の水素原子が存在する場合、該残余の水素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【請求項3】
含フッ素環式飽和炭化水素基(F)が、下式(F11)、下式(F12)、下式(F21)および下式(F41)で表される基からなる群から選ばれる基(FU11)である、請求項1または2に記載の表面処理された基材の製造方法。
【化2】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
およびR:それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基。
基(FU11)中のフッ素原子は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルコキシ基に置換されていてもよい。
【請求項4】
基材(S)が、反応性基(A)と反応しうる反応性基(B)を表面に有する基材である請求項1〜3に記載の、表面処理された基材の製造方法。
【請求項5】
反応性基(A)が反応性シリル基であり、反応性基(B)が活性水素原子を有する基である、請求項4に記載の表面処理された基材の製造方法。
【請求項6】
反応性基(A)が反応性シリル基であり、反応性基(B)がヒドロキシ基である、請求項4または5に記載の表面処理された基材の製造方法。
【請求項7】
表面処理された基材が、イマージョンリソグラフィー法に用いられる基材である請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理された基材の製造方法。

【公開番号】特開2008−239701(P2008−239701A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79459(P2007−79459)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】