説明

表面改質銅粒子、導電体形成用組成物および導電体膜の製造方法、ならびに導電体膜を有する物品

【課題】体積抵抗率の低い導電体膜を形成できる銅粒子および導電体形成用組成物の製造方法、該導電体形成用組成物を用いた導電体膜の製造方法、ならびに該導電体膜を有する物品の提供。
【解決手段】アスペクト比が2.5〜6である銅粒子を分散媒に分散させ、pH3以下かつ酸化還元電位100〜300mVとした反応系にて還元処理して還元銅粒子を得る工程と、該還元銅粒子を解砕して平均粒子径D50が8.60μm以下の表面改質銅粒子を得る工程とを含む、表面改質銅粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質銅粒子の製造方法、該表面改質銅粒子を含む導電体形成用組成物の製造方法、該導電体形成用組成物を用いた導電体膜の製造方法、および該導電体膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
所望のパターンの電気配線膜、電極膜等の導電体膜を有する物品を製造する方法としては、従来、基板上に、金属粒子を含む金属ペーストを所望の配線パターン状に塗布し、焼成する方法が知られている。たとえばプリント基板の製造には、銀ペーストが汎用されている。しかし、銀ペーストを焼成して形成される導電体膜は、イオンマイグレーションを起こしやすい問題がある。イオンマイグレーションは、短絡等の不具合の原因となるため、電子機器の信頼性を考慮して、銀ペーストよりもイオンマイグレーションが起こりにくい銅ペーストを用いることが検討されている。
しかし、銅は酸化しやすく、銅粒子表面には酸化膜が形成されやすい。この酸化膜によって粒子間の導電性が損なわれるため、銅ペーストを焼成して形成される導電体膜の体積抵抗率(電気抵抗率、あるいは比抵抗ともいう。)は高くなりやすい。近年、電気配線や電極の微細化が進んでおり、これに伴って体積抵抗率のさらなる低下が要求されている。そのため銅ペーストを焼成して形成される導電体膜の体積抵抗率を低くする方法についても種々の検討が行われている。該方法の1つとして、フレーク状の銅粒子を用いることが提案されている。たとえば特許文献1には、銅ペーストに用いる銅粒子として、粒径が10μm以下で、その粒度分布とアスペクト比を制御したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4227373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フレーク状の銅粒子を用いた場合、球状の銅粒子を用いる場合に比べて、体積抵抗率を低くできるとされているが、その効果は充分とはいえない。たとえば特許文献1に記載の銅粒子は、粒度分布とアスペクト比を制御することで、導電体膜の充填性、導電体膜の形状の制御が容易となる効果を有するとされている。しかし該銅粒子を用いても、たとえば100μΩ・cm以下の低体積抵抗率の導電体膜を得ることは難しい。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、体積抵抗率の低い導電体膜を形成できる銅粒子および導電体形成用組成物の製造方法、該導電体形成用組成物を用いた導電体膜の製造方法、ならびに該導電体膜を有する物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は、以下の態様を有する。
[1]アスペクト比が2.5〜6である銅粒子を分散媒に分散させ、pH3以下かつ酸化還元電位100〜300mV以下とした反応系にて還元処理して還元銅粒子を得る工程と、該還元銅粒子を解砕して平均粒子径D50が8.60μm以下の表面改質銅粒子を得る工程とを含む、表面改質銅粒子の製造方法。
[2]前記反応系が、前記銅粒子を分散する分散媒として水を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]前記反応系が次亜リン酸を含有する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記反応系がギ酸を含有する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の製造方法。
[5]前記銅粒子の平均粒子径D50が7.5μm以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記解砕を、ハンマーミルを用いて行う、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれか一項に記載の製造方法により得られた表面改質銅粒子100質量部と、熱硬化性樹脂5〜50質量部とを混合してペースト状の導電体形成用組成物を得る、導電体形成用組成物の製造方法。
[8][7]に記載の製造方法により得られた導電体形成用組成物からなる膜を形成する工程と、該膜を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させることにより導電体膜とする工程とを含む、導電体膜の製造方法。
[9]基材と、該基材上に[8]に記載の製造方法により形成された導電体膜とを有する物品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、体積抵抗率の低い導電体膜を形成できる銅粒子および導電体形成用組成物の製造方法、該導電体形成用組成物を用いた導電体膜の製造方法、ならびに該導電体膜を有する物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】[実施例]中、例1〜9で得た表面改質銅粒子のD50と、形成された導電体膜の体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<表面改質銅粒子の製造方法>
本発明の表面改質銅粒子の製造方法は、アスペクト比が2.5〜6である銅粒子を分散媒に分散させ、pH3以下かつ酸化還元電位100〜300mVとした反応系にて還元処理して還元銅粒子を得る工程(以下、還元工程という。)と、該還元銅粒子を解砕して平均粒子径D50が8.60μm以下の表面改質銅粒子を得る工程(以下、解砕工程という。)とを含む。
【0009】
[還元工程]
還元工程にて還元処理される銅粒子(以下、原料銅粒子ということがある。)は、アスペクト比が2.5〜6の扁平形状の粒子である。原料銅粒子のアスペクト比は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3.5以下が特に好ましい。また、該アスペクト比は、2.8以上が好ましい。該アスペクト比が6を超えると、充填性が低下し、粒子同士の接触面積が減少し、体積抵抗率が高くなることがある。また、2.5未満であっても、粒子同士の接触面積が低下し、体積抵抗率が高くなることがある。
本発明において、銅粒子のアスペクト比は、以下の手順で求められる値である。
まず走査型電子顕微鏡(以下、SEMという。)を用いて銅粒子を観察し、その2000倍の倍率のSEM像から10個の銅粒子を無作為に抽出する。それぞれの銅粒子のSEM像において最も長い径を長軸とし、その垂直径を短軸として、長軸/短軸比(長軸を短軸で割った値)を求める。次いで、この10個の銅粒子の長軸/短軸比の平均値を算出し、該平均値をアスペクト比とする。
【0010】
原料銅粒子の平均粒子径D50は、特に限定されないが、7.5μm以下が好ましく、7.0μm以下がより好ましい。また、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。原料銅粒子の平均粒子径が0.5μm以上かつ7.5μm以下であると、該表面改質銅粒子を用いて得られる銅ペーストの流動特性が良好となる。また、原料銅粒子の平均粒子径が7.5μm以下であると、配線等の導電体膜を微細なパターンで作製しやすくなる。
本発明において、平均粒子径D50とは、レーザー式回折散乱式粒度分布測定法により測定され、体積累積50%における粒径を意味する。
本明細書においては、平均粒子径D50を単にD50ということがある。また、レーザー式回折散乱式粒度分布測定法により測定され、体積累積10%における粒径をD10、レーザー式回折散乱式粒度分布測定法により測定され、体積累積90%における粒径をD90ということがある。
【0011】
原料銅粒子は、公知の製造方法により製造したものを用いてもよく、銅ペーストと呼ばれる導電体形成用組成物等に用いられる銅粒子として市販されているもののなかから、アスペクト比等が所望の値であるものを選択して用いてもよい。
【0012】
原料銅粒子を分散する分散媒としては、原料銅粒子を分散させ得るものであれば特に限定されないが、還元処理に用いる還元剤の溶解性が高く、還元剤の反応性が向上することから、高極性分散媒が好ましい。本発明における高極性分散媒とは、酸などの還元剤またはpH調整剤が溶解する程度の極性を有する溶媒を意味する。高極性分散媒としては、水、炭素数1〜4のアルコール等が挙げられ、水、メタノール、エタノール、2−プロパノールおよびエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。なかでも、環境への負荷が少なく、廃液処理にかかるコストが安価である点で、水が特に好ましい。
【0013】
原料銅粒子の還元処理は、pH3以下かつ酸化還元電位100〜300mVとした反応系にて行う。銅は酸化しやすいため、原料銅粒子の表面には通常、銅の酸化膜が存在している。該反応系で還元処理を行うことで、原料銅粒子表面の表面改質(酸化膜の除去、水素化等)およびが円滑に行われ、最終的に得られる表面改質銅粒子が、体積抵抗率の低い導電体を形成できるものとなる。このとき反応系内では、酸化膜中の銅が銅イオン化し、該銅イオンが銅または水素化銅に還元される反応が進行していると考えられる。
pHが3を超えると、原料銅粒子表面の酸化膜の除去効果が小さくなり、表面改質が不十分になる傾向がある。pHは、2以下が好ましい。pHの下限は特に限定されないが、0.5以上が好ましい。pHが0.5以上であれば、銅イオンの溶出が過度に進行することも無く、表面改質が円滑に進行する。
酸化還元電位が100〜300mVであれば、分散液中の銅イオンの還元が起こり、銅粒子の表面改質が円滑に進行する。酸化還元電位は、150〜260mVが好ましい。
本発明において反応系のpHおよび酸化還元電位は、それぞれ、反応温度におけるpHおよび酸化還元電位である。たとえば反応温度が40℃であれば40℃におけるpHおよび酸化還元電位であり、反応温度が50℃であれば50℃におけるpHおよび酸化還元電位である。
また、酸化還元電位は、標準電極からの電位差として求められる値で、標準電極としては、一般に、標準水素電極、銀−塩化銀電極、カロメル電極等が用いられているが、本発明における酸化還元電位は、標準水素電極(SHE)からの電位差として求められる。
【0014】
反応系のpHは、分散媒にpH調整剤を添加することにより調整できる。
pH調整剤としては通常酸を使用する。なお、pHが低くなりすぎた場合などでは、pH調整剤として塩基を用いてpHを調整することができる。具体的な塩基としては、アンモニアが好ましい。
pH調整剤としては、分散媒に溶解するものであれば特に限定されず、公知のpH調整剤のなかから適宜選択できる。
ただしpH調整剤を添加しなくても反応系のpHが所望の値となる場合には、pH調整剤は添加しなくてもよい。たとえば後述する還元剤として、pH調整剤としても機能する酸を添加する場合、その種類や添加量によっては、別のpH調整剤を添加しなくても反応系のpHが3以下となる。
【0015】
pH調整剤として用いられる酸としては、疎水性でないカルボン酸、硫酸、硝酸および塩酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
これらの中でも、疎水性でないカルボン酸が好ましい。該カルボン酸をpH調整剤として使用すると、銅粒子表面に吸着され、還元処理後の表面改質された銅粒子表面に残存する場合がある。残存したカルボン酸は銅粒子表面を保護して銅粒子表面の酸化を抑制する効果が期待できる。
疎水性でないカルボン酸としては、炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸(脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸等)および炭素数1〜10の脂肪族ポリカルボン酸(脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族ヒドロキシポリカルボン酸等)が挙げられ、具体的には、ギ酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、酢酸およびプロピオン酸等が挙げられる。
pH調整剤の酸としては特にギ酸が好ましい。ギ酸は、アルデヒドの構造(−CHO)を有する化合物であることより、還元性を有する。したがって、表面改質された銅粒子の表面にギ酸が残存していても、銅粒子表面の酸化をより抑制でき、ひいてはその銅粒子を使用して得られる導電体の体積抵抗率の上昇を抑制する効果が期待できる。なお、後述のように、還元剤としてギ酸を使用する場合も同様の効果が期待できる。
【0016】
反応系の酸化還元電位は、分散媒に添加する還元剤の種類によって調整できる。
酸化還元電位を所定の範囲内に調整できる還元剤としては、次亜リン酸、ギ酸およびジメチルアミンボラン等が挙げられ、次亜リン酸およびギ酸のいずれか一方または両方が好ましい。次亜リン酸を反応系に含有させると、原料銅粒子の分散性と反応性が向上するため好ましい。
ギ酸は、還元剤としてもpH調整剤としても作用する化合物である。そのため、還元剤としてギ酸以外の還元剤を使用しない場合は、ギ酸はpH調整剤および還元剤として作用する。ギ酸とギ酸以外の還元剤(たとえば次亜リン酸)とを併用した場合も同様に、ギ酸はpH調整剤および還元剤として作用すると考えられる。
還元剤の使用量は、原料銅粒子表面の銅に対して大過剰であることが好ましいが、原料銅粒子表面の銅の量は規定しがたい。そのため、還元剤の使用量は、当該反応系で還元処理する原料銅粒子全体の銅のモル数に対して、1倍モル以上とすることが好ましく、1.2倍モル以上がより好ましい。1倍モル以上であると、原料銅粒子表面の銅に対して還元剤が大過剰となり表面改質が良好に行われる。上限は特に限定されないが、還元剤の使用量が多すぎると経済的ではなく、また還元剤分解物の量が多くなり、その除去が煩雑になる。そのため、当該反応系で還元処理する原料銅粒子全体の銅のモル数に対して、10倍モル以下とすることが好ましい。
【0017】
原料銅粒子の還元処理を行う反応系は、たとえば、分散媒に還元剤(および必要に応じてpH調整剤)を添加してpHおよび酸化還元電位を所定の範囲内に調整した後、原料銅粒子を添加して分散させることによって、または分散媒に原料銅粒子を添加して分散させた後、還元剤(および必要に応じてpH調整剤)を添加してpHおよび酸化還元電位を所定の範囲内に調整することによって形成できる。
反応温度(還元処理時の反応系の温度)は、5〜60℃が好ましく、35〜50℃がより好ましい。反応温度が60℃以下であれば、分散媒の蒸発による反応系の濃度変化の影響が小さい。
【0018】
反応系のpHは、少なくとも還元処理の開始時点において3以下であればよいが、還元処理の開始時点から終了時点までの間、3以下に保たれていることが好ましい。本発明における還元処理の場合、通常、開始時点から終了時点までの間、反応系のpHはほとんど変化しない。したがって、開始時点においてpH3以下であれば、開始時点から終了時点までの間、反応系のpHは3以下に保たれる。また、終了時の反応系のpHが3以下であれば、開始時点から終了時点までの間、反応系のpHは3以下に保たれていたと考えられる。
反応系の酸化還元電位も同様に、開始時点から終了時点までの間ほとんど変化しない。そのため開始時点または終了時点における酸化還元電位を測定し、その測定値が100〜300mVであれば、開始時点から終了時点までの間、反応系の酸化還元電位が100〜300mVに保たれていたと考えられる。
ここで、還元処理の開始時点とは、分散媒中に原料銅粒子および還元剤が共存した時点であり、終了時点とは、還元反応が十分に進行して、還元反応がほぼ進まなくなった時点をいう。
【0019】
なお、上記還元処理は、反応系内にアルカリ金属イオンを存在させずに行うことが好ましい。
たとえば一般に、銅粒子の還元処理をした後の粒子表面の酸化を防止するために、反応系に疎水性の脂肪酸(炭素数8以上の脂肪酸)やそのアルカリ金属塩を添加して銅粒子を表面処理することが知られている。本発明においては、脂肪酸は添加してもよいが、脂肪酸アルカリ金属塩を添加することは好ましくない。脂肪酸アルカリ金属塩を添加すると、得られる表面改質銅粒子の表面にアルカリ金属イオンが付着し、これが細い導電体膜を形成した際にイオンマイグレーションを起こす原因となる可能性がある。また、アルカリ金属イオンの存在下では、酸化還元電位が低くなり、上記で規定する範囲内に制御することが難しくなる傾向が見られる。特にナトリウムイオンの存在は、耐久性にも影響を及ぼし、長期間の使用に耐えられなくなったり、または酸化還元電位を低くする影響が見られ、酸化還元電位の制御を難しくしたりするなどの問題がある。
本発明においては、原料銅粒子の表面を所定の条件で還元処理するため、疎水性の脂肪酸やそのアルカリ金属塩を添加することなく、粒子表面の酸化を抑制できる。
【0020】
還元処理終了後、得られた還元銅粒子(還元処理された銅粒子)を反応系から分離する。
反応系に含まれる他の成分(たとえば還元剤分解物などの副生物)は通常、分散媒に溶解しているため、ろ過や遠心分離などの方法で分散媒を除去することにより、還元銅粒子を分離できる。
分離した還元銅粒子は、必要に応じて水等による洗浄を行った後、乾燥させて粉末状とすることが好ましい。乾燥させることで、後の解砕工程で容易に還元銅粒子を解砕できる。
乾燥の条件は特に限定されないが、加熱温度は25〜120℃が好ましく、30〜100℃がより好ましく、30〜90℃が特に好ましい。また、乾燥は、常圧下でおこなっても減圧下で行ってもよいが、乾燥に要する時間が短く、製造コストを抑えることができることから、減圧下で行うことが好ましく、−101〜−50kPaの減圧下で行うことがより好ましい。
【0021】
[解砕工程]
解砕工程では、還元工程で得た還元銅粒子を解砕して平均粒子径D50を8.60μm以下とすることにより表面改質銅粒子を得る。
上記のようにして得た還元銅粒子は、アスペクト比の高い扁平状の原料銅粒子を使用していることから、原料銅粒子が球状である場合に比べて、粒子同士の接触面積が大きくなる。ゆえに、上記のような湿式法による還元処理を行って得られる還元銅粒子は一定の凝集状態にある。本発明においては、この凝集状態にある還元銅粒子を解砕して所定の平均粒子径とすることにより、体積抵抗率の低下を実現することができる。
【0022】
還元銅粒子の解砕は、解砕機を用いて行うことができる。解砕機としては特に限定されず、高エネルギーボールミル、ジェットミル型粉砕機、ピンミル式粉砕機、ハンマーミル式粉砕機、媒体攪拌型ミル、カッターミル粉砕装置等の種々の解砕機を用いることができる。単に解砕することを目的とするのであれば、いずれの解砕機を用いてもよい。
これらの解砕機の中でも、ハンマーミルが好ましい。ここでいうハンマーミルとは、多数のハンマーを外周に取り付けた円筒を回転させて、衝撃や摩擦により原料を粉砕する機械のことをいう。ハンマーミルを用いることで、解砕時に銅粒子の圧縮変形を防止できる。また、凝集状態の還元銅粒子にあたえる解砕エネルギーを制御でき、低温で解砕できる。解砕温度が低温に抑えられることにより、銅粒子表面の酸化を防止できる。
【0023】
上記の還元工程および解砕工程を経て得られる表面改質銅粒子のD50は8.60μm以下であり、7.5μm以下が好ましい。該D50を8.60μm以下とすることで、該表面改質銅粒子を含有する銅ペーストを用いて形成される導電体の体積抵抗率が大きく低下する。また、該銅ペーストの流動特性が良好である。また、該銅ペーストにより、配線等の導電体膜を微細なパターンで作製しやすくなる。
また表面改質銅粒子のD50は、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、6μm以上が特に好ましい。該D50が1μm未満であると、解砕の際に粒子の変形が生じて、粒子同士の接触面積が小さくなり、体積抵抗率が高くなることがある。
また、表面改質銅粒子のD10は、充填性の向上の点から、3.9μm以下が好ましく、また耐酸化性の向上の点から、0.5μm以上が好ましい。
さらに、表面改質銅粒子は、粒度分布がシャープな形状であることが、銅ペーストの粘性を低くでき塗工性が向上できる点で好ましい。そのため、D90の数値からD10の数値を差し引いた「D90−D10」が13.6μm以下であることが好ましい。またD90−D10は、粒子の充填率をさらに向上させる点から、9.5μm以上が好ましい。
【0024】
得られた表面改質銅粒子は、体積抵抗率の低い導電体膜を形成できることから、ペースト状の導電体形成用組成物(銅ペースト)の製造用として有用である。
上述したように、原料銅粒子表面に酸化膜が存在していた場合には、還元処理によって、その酸化膜が還元されて銅となると考えられる。したがって、還元銅粒子およびその解砕物である表面改質銅粒子表面には、導電性を阻害する酸化膜が非常に少ないと推測される。
また、還元処理によって銅粒子表面の銅の少なくとも一部が水素化銅に変化することも考えられる。銅粒子表面に形成された水素化銅は、銅粒子表面の酸化による酸化銅の形成を遅らせる効果があると推測される。また、水素化銅は比較的低い温度で銅に変化する。例えば、60℃を超える温度に加熱されると水素化銅は銅に変化すると考えられる。したがって、導電体形成時に、熱硬化性樹脂の硬化のための加熱を行うと、表面の水素化銅は銅に変化し、水素化銅の存在による導電性の阻害は少ないと推測される。
なお、表面改質銅粒子から銅ペーストを製造する際(熱硬化性樹脂等と混合する際)に加熱を行う、銅ペーストを製造する前に表面改質銅粒子を加熱するなどの手段によっても、水素化銅を銅に変化させることができる。
【0025】
<導電体形成用組成物の製造方法>
本発明の導電体形成用組成物の製造方法では、前記表面改質銅粒子の製造方法により得られた表面改質銅粒子100質量部と、熱硬化性樹脂5〜50質量部とを混合してペースト状の導電体形成用組成物(銅ペースト)を得る。
表面改質銅粒子は、前記のように、水素化銅が銅に変化するような加熱が行われたものであっても行われていないものであってもよい。
熱硬化性樹脂としては、金属ペーストに用いられる樹脂バインダとして公知の熱硬化性樹脂等が挙げられ、それらの中から、当該銅ペーストを硬化させる際の加熱温度において充分な硬化がなされる熱硬化性樹脂を選択して用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂として具体的には、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性アクリル樹脂等が挙げられ、フェノール樹脂が特に好ましい。
熱硬化性樹脂の配合量は、表面改質銅粒子100質量部に対して5〜50質量部であり、5〜20質量部がより好ましい。熱硬化性樹脂の量が5質量部以上であれば、銅ペーストの流動特性が良好となる。熱硬化性樹脂の量が50質量部以下であれば、熱硬化性樹脂を硬化させて導電体膜とした際に、その硬化物によって銅粒子間の接触が妨げられず、導電体膜の体積抵抗率が低く抑えられる。
【0026】
表面改質銅粒子および熱硬化性樹脂以外に、さらに、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、溶剤、各種添加剤等を混合してもよい。添加剤としては、レベリング剤、カップリング剤、粘度調整剤、酸化防止剤等が挙げられる。
特に、組成物を適切な流動性を有するペースト状の組成物とするために、熱硬化性樹脂を溶解する溶剤を含有させることが好ましい。
溶剤としては、たとえば、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。
溶剤の配合量は、銅ペーストの粘度が、導電体膜を形成する際の膜の形成方法(印刷等)に適した粘度となる範囲内であればよく、表面改質銅粒子100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0027】
表面改質銅粒子と熱硬化性樹脂と溶剤等の任意成分との混合は、金属ペーストの製造に用いられている公知の方法により実施できる。
混合の際、熱硬化性樹脂が硬化せずかつ溶剤が揮発消失しない程度の加熱を行ってもよい。
また、必要により、この混合の際に表面改質銅粒子が酸化されないように、窒素ガスまたはアルゴン等の不活性ガスで置換した混合容器内で混合を行うこともできる。
【0028】
上記のようにして得られる銅ペーストによれば、前記製造方法により得られた表面改質銅粒子を含んでいるため、空気中であっても酸化されにくく、従来の銅ペーストに比べて体積抵抗率の低い導電体膜を形成できる。
【0029】
<導電体膜の製造方法>
本発明の導電体膜の製造方法は、前記銅ペーストからなる膜を形成する工程と、該膜を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させることにより導電体膜とする工程とを含む。
銅ペーストからなる膜は、基材などの表面に銅ペーストを塗布することにより形成できる。
基材としては、ガラス基板、プラスチック基材(ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルムなどのフィルム状の基板等。)、繊維強化複合材料基板(ガラス繊維強化樹脂基板等。)、セラミックス基板等が挙げられる。特にプリント配線板に使用されるガラス繊維強化エポキシ樹脂基板などが好ましい。
銅ペーストの塗布方法としては、スクリーン印刷、ロールコート法、エアナイフコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、スライドコート法等の公知の方法が利用できる。
【0030】
銅ペーストが溶剤等の揮発性成分を含有する場合、膜の形成後、熱硬化性樹脂を硬化させるための加熱を行う前に、揮発性成分を除去するために、熱硬化性樹脂が硬化しない温度で加熱してもよい。
膜の加熱方法としては、温風加熱、熱輻射等の方法が挙げられる。
膜中の熱硬化性樹脂を硬化させる際の硬化温度および硬化時間は、導電体膜に求められる特性に応じて適宜決定すればよい。なかでも硬化温度は、100〜300℃が好ましい。硬化温度が100℃以上であれば、樹脂の硬化が進行しやすくなる。硬化温度が300℃以下であれば、導電体膜を形成する基材としてプラスチックフィルムを用いることができる。
導電体膜の形成は、空気中で行ってもよく、酸素が少ない窒素下等で行ってもよい。製造設備が単純なことから、空気中で行うことが好ましい。
【0031】
上記のようにして、基材と、該基材上に形成された導電体膜とを有する本発明の物品が得られる。該導電体膜は、表面改質銅粒子と熱硬化性樹脂の硬化物とを含んでいる。
【0032】
本発明により得られる表面改質銅粒子を含む銅ペーストによれば、体積抵抗率が非常に低い導電体膜を形成することができる。
たとえば液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜センサ−等の製造においては、ガラス基板上に薄膜トランジスタ(TFT)等の薄膜デバイスを作成することが行われ、太陽電池等の製造においては、セラミック基板上に素子を作成することが行われる。これらの分野において、薄膜デバイスや素子の作成に際しては、電気配線膜、電極膜等の導電体膜を形成することが行われている。現在、これらの分野、特にLCD分野においては、大型化、高精細化が進んでいる。それに伴って、電気配線膜、電極膜等の導電体膜には、信号の遅延を防止するために、非常に低い体積抵抗率が要求されている。たとえば、12インチ以上の大型カラーLCDに用いられる電気配線膜では体積抵抗率を30μΩ・cm以下にすることが要求されている。本発明によれば、このような要求を達成する低体積抵抗率の導電体膜が形成できる。なかでも体積抵抗率は25μΩ・cm以下が好ましく、20μΩ・cm以下がより好ましい。
【0033】
本発明により得られる導電体膜が何故に上記効果を奏するのかについて必ずしも明らかではないが、次のように推定される。すなわち、本発明の表面改質銅粒子の製造方法によれば、表面改質されることで表面が酸化しにくい銅粒子を作製することができる。表面が酸化しにくい銅粒子を用いているために銅ペーストとして基材に塗布し、熱硬化性樹脂を硬化して導電体膜を形成する際に、表面酸化膜の形成が少ない銅粒子同士の接触が良好に行われるため、得られる導電体膜の体積抵抗率が低くなり、優れた効果を奏すると考えられる。
また、アスペクト比が高い扁平状の銅粒子を湿式法により還元処理すると凝集が起こる。これをそのまま銅ペーストとし、導電体膜の形成に用いると、銅粒子の分散性が悪く、かつ充填性が悪化するため、体積抵抗率が高くなると考えられる。これに対して、還元工程後に得られた還元銅粒子を解砕する工程を加えることで、形成される導電体膜中における銅粒子の分散性が向上し、充填性も向上するため、導電体膜の体積抵抗率が低くなり、優れた効果を奏すると考えられる。なお、解砕処理により銅粒子の充填性が高くなることは、解砕後の銅粒子のタップ密度が高くなることからも推測できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
以下に示す各例のうち、例1〜4、9および13は実施例であり、例5〜8、10〜12、14および15は比較例である。
以下の各例を行った際の「室温」は26℃であった。
また、以下の各例で用いた測定方法は以下のとおりである。
(銅粒子のアスペクト比)
銅粒子のアスペクト比は、SEMとして日立製作所製S−4300を用い、前述した手順で求めた。
(銅粒子のD10、D50、D90)
銅粒子0.2gを溶媒中に分散させて測定試料を調製し、レーザー式回折散乱式粒度分布測定装置としてHORIBA社製 LA920を用いて測定した。溶媒としてエタノールを使用し、測定試料に超音波をかけずに測定した。測定時の屈折率は、銅の測定条件に合わせて0.48〜2.6iとした。
(pHの測定)
pHの測定は、pHメーター(東亜ディーケーケー社製、HM−20P)にて行った。校正は、JIS Z8802の規定の通り行った。
(酸化還元電位の測定)
酸化還元電位の測定は、酸化還元電位計(東亜電波工業社製、RM−12P)にて行った。
(導電体膜の体積抵抗率)
ライン状のパターンで形成された導電体膜について、まず、マイクロメータ(Mitutoyo社製、MDC−25MJ)を用いて導電体膜の厚さを測定して、キーエンス社製 VH−7000を用いて導電体膜の長さおよび幅を測定して、導電体膜の抵抗値をHIOKI社製 ミリオーム ハイテスタ3540を用いて測定した。次いで、測定した導電体膜の厚さ、長さおよび幅から導電体膜の体積を求めて、測定した抵抗値を導電体膜の体積で除することで、導電体膜の体積抵抗率を求めた。
【0035】
〔例1〕
ガラス製ビーカーに蒸留水の77.3g、ギ酸の1.4g、50質量%の次亜リン酸水溶液の5.0gを加えた後、攪拌して水溶液を調製した。この水溶液を40℃に保持して、攪拌しながら、市販の銅粒子(日本アトマイズ加工社製、AFS−Cu)を5g加えて60分間攪拌することで還元処理をした。この銅粒子のアスペクト比は2.8であり、平均粒子径(D50)は7.4μmであった。また、ギ酸、次亜リン酸を加えた直後の水溶液の40℃におけるpHは0.7、酸化還元電位は171mVであり、攪拌終了後(還元処理後)の反応液の40℃におけるpHは0.7、酸化還元電位は170mVであった。
還元処理した後に、遠心分離によって反応液中の還元銅粒子を沈殿させ、上澄み液を除去することにより沈殿物を分離した。該沈殿物を蒸留水の30gに再分散させた後、再び遠心分離によって凝集物を沈殿させ、上澄み液を除去することにより沈殿物を分離した。該沈殿物を−35kPaの減圧下、45℃で60分加熱し、残留水分を揮発させて徐々に取り除き、還元銅粒子を得た。
得られた還元銅粒子を、バッチ式の解砕機であるカッターミルを用いて、カッター周速130m/sで2分間解砕して、表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ2.7μm、6.1μmおよび12.3μmであった。
【0036】
熱硬化性のフェノール樹脂(群栄化学社製、レジトップPL2211)100質量部にエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(東京化成社製、1級)46質量部を加えて溶解し、樹脂溶液を得た。この樹脂溶液に、上記で得られた表面改質銅粒子を添加し、室温下で混ぜ合わせて銅ペーストを得た。このときの樹脂溶液の配合量は、フェノール樹脂の配合量が銅粒子100質量部に対して10質量部となる量とした。
得られた銅ペーストをガラス基板上に、幅1.2mm、長さ30mmのライン状のパターンで塗布し、150℃で15分加熱してフェノール樹脂を硬化させ、厚さ20μmの導電体膜を形成した。この導電体膜の体積抵抗率(μΩ・cm)を測定した。その結果を表1に示す。
【0037】
〔例2〕
還元銅粒子を、解砕機として、カッターミルの代わりに連続式の解砕機であるハンマーミル(東京アトマイザー製造社製)を用いて、スクリーン目開きを0.5mmにし、ハンマー周速80m/sで1回解砕したこと以外は例1と同様にして、表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ3.1μm、7.2μmおよび15.4μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
〔例3〕
ハンマーミルのスクリーン目開きを1.0mmにしたこと以外は例2と同様にして、表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ3.5μm、7.6μmおよび15.5μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
〔例4〕
ハンマーミルのハンマー周速を32m/sにして、4回解砕したこと以外は例2と同様にして表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ3.9μm、8.6μmおよび17.5μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
〔例5〕
ハンマーミルのハンマー周速を32m/sにして、3回解砕したこと以外は例2と同様にして表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ4.1μm、8.9μmおよび17.4μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
〔例6〕
ハンマーミルのハンマー周速を32m/sにして、2回解砕したこと以外は例2と同様にして表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ4.2μm、9.3μmおよび17.4μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
〔例7〕
ハンマーミルのハンマー周速を32m/sにして、1回解砕したこと以外は例2と同様にして表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ4.6μm、10.7μmおよび24.2μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0043】
〔例8〕
例1で用いた市販の銅粒子を例1と同様の条件で還元処理して、還元銅粒子を得た。得られた還元銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ5.2μm、12.0μmおよび22.8μmであった。
得られた還元銅粒子を、解砕することなく、例1と同様にして調製した樹脂溶液に添加し、室温下で混ぜ合わせて銅ペーストを得た。このとき、樹脂溶液の添加量は、フェノール樹脂の添加量が銅粒子100質量部に対して10質量部となる量とした。
得られた銅ペーストを用いて、例1と同様にして導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0044】
〔例9〕
原料銅粒子としてアスペクト比が3.5であり、平均粒子径(D50)が6.7μmである市販の銅粒子(日本アトマイズ加工社製、AFS−Cu)を用いた以外は、例1と同様にして、表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ2.8μm、6.2μmおよび13.3μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0045】
〔例10〕
アスペクト比が3.2、D10、D50およびD90がそれぞれ2.6μm、6.2μmおよび13.3μmである市販の銅粒子(日本アトマイズ加工社製、AFS−Cu)を、還元処理および解砕を行わずにそのまま、例1と同様にして調製した樹脂溶液に添加し、室温下で混ぜ合わせて銅ペーストを得た。このとき、樹脂溶液の添加量は、フェノール樹脂の添加量が銅粒子100質量部に対して10質量部となる量とした。
得られた銅ペーストを用いて、例1と同様にして導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0046】
〔例11〕
原料銅粒子として、ほぼ球状で、アスペクト比が1.1、平均粒子径が4.6μmである市販の銅粒子(日本アトマイズ加工社製、HXR−Cu)を用いた以外は、例1と同様にして表面改質銅粒子を得た。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ2.3μm、4.6μmおよび8.2μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
〔例12〕
アスペクト比が5.9、D10、D50およびD90がそれぞれ2.6μm、6.6μmおよび13.3μmである市販の銅粒子(三井金属鉱業社製、1400YP)を用いた以外は、例10と同様にして銅ペーストを得た。
得られた銅ペーストを用いて、例1と同様にして導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0048】
例1〜9で得た表面改質銅粒子のD50と、形成された導電体膜の体積抵抗率との関係を示すグラフを図1に示す。
また、例2で得られた表面改質銅粒子および例8で得られた還元銅粒子のタップ密度(g/cm)をそれぞれ以下の手順で測定した。その結果を表2に示す。
(タップ密度の測定)
25cmのメスシリンダーに銅粉を20cmまで充填し、重量を測定する。測定した重量をWgとする。次に、高さ1cmの高さから自重で2分間タッピングをし、その後の容量を測定する。測定された容量をVcmとする。このときに、重量Wを容量Vで除する、すなわちW/Vを計算することで、タップ密度を求めた。
【0049】
〔例13〕
ガラス製ビーカーに蒸留水の39.9g、ギ酸の1.4g、50質量%の次亜リン酸水溶液の3.7gを加えた後、攪拌して水溶液を調製して、その水溶液を用いて還元処理をしたこと以外は例2と同様にして表面改質銅粒子を得た。ギ酸、次亜リン酸を加えた直後の水溶液の40℃におけるpHは1.1、酸化還元電位は162mVであり、攪拌終了後(還元処理後)の反応液の40℃におけるpHは1.1、酸化還元電位は161mVであった。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ3.4μm、7.2μmおよび13.2μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表3に示す。
【0050】
〔例14〕
ガラス製ビーカーに蒸留水の28.6g、ギ酸の0.4g、水酸化ナトリウムの0.1gを加えた後、攪拌して水溶液を調製して、その水溶液を用いて還元処理をしたこと以外は例2と同様にして表面改質銅粒子を得た。ギ酸、水酸化ナトリウムを加えた直後の水溶液の40℃におけるpHは2.9、酸化還元電位は5mVであり、攪拌終了後(還元処理後)の反応液の40℃におけるpHは2.9、酸化還元電位は5mVであった。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ3.6μm、8.0μmおよび12.5μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表3に示す。
【0051】
〔例15〕
ガラス製ビーカーに蒸留水の27.3g、ギ酸の3.9g、50質量%の次亜リン酸水溶液の5g、水酸化ナトリウムの0.1gを加えた後、攪拌して水溶液を調製して、その水溶液を用いて還元処理をしたこと以外は例2と同様にして表面改質銅粒子を得た。ギ酸、次亜リン酸および水酸化ナトリウムを加えた直後の水溶液の40℃におけるpHは1.0、酸化還元電位は96mVであり、攪拌終了後(還元処理後)の反応液の40℃におけるpHは1.0、酸化還元電位は94mVであった。得られた表面改質銅粒子のD10、D50およびD90は、それぞれ2.8μm、6.2μmおよび10.8μmであった。
得られた表面改質銅粒子を用いて、例1と同様にして銅ペーストを調製し、導電体膜を形成してその体積抵抗率を測定した。その結果を表3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
表1および図1に示すように、原料銅粒子のアスペクト比が同じである例1〜8を比較すると、表面改質銅粒子のD50が8.60μm以下の例1〜4では、D50が8.9μmの例5に比べて、体積抵抗率が著しく改善しており、この8.60μmという数値が体積抵抗率の改善において臨界的意義を有する値であることが示された。
また、表2に示すように、還元銅粒子を解砕することで、タップ密度が高くなり、体積抵抗率が著しく改善していた。この結果から、解砕により導電体膜を形成する際の充填性が向上すること、この充填性の向上が体積抵抗率の改善に寄与していることが示された。
さらに、表3に示すように、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属を含むpH調整剤は、反応系の酸化還元電位を非常に低下させる傾向が見られるため、反応系に存在させることは好ましくない。また、酸化還元電位を上記で規定する範囲とすることで体積抵抗率が著しく改善することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により得られた表面改質銅粒子および該表面改質銅粒子を含む銅ペーストは、様々な用途に利用でき、たとえば、プリント配線板等における配線パターンの形成および修復、半導体パッケージ内の層間配線、プリント配線板と電子部品との接合等の用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が2.5〜6である銅粒子を分散媒に分散させ、pH3以下かつ酸化還元電位100〜300mVとした反応系にて還元処理して還元銅粒子を得る工程と、該還元銅粒子を解砕して平均粒子径D50が8.60μm以下の表面改質銅粒子を得る工程とを含む、表面改質銅粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応系が、前記銅粒子を分散する分散媒として水を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応系が次亜リン酸を含有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応系がギ酸を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記銅粒子の平均粒子径D50が7.5μm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記解砕を、ハンマーミルを用いて行う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法により得られた表面改質銅粒子100質量部と、熱硬化性樹脂5〜50質量部とを混合してペースト状の導電体形成用組成物を得る、導電体形成用組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られた導電体形成用組成物からなる膜を形成する工程と、該膜を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させることにより導電体膜とする工程とを含む、導電体膜の製造方法。
【請求項9】
基材と、該基材上に請求項8に記載の製造方法により形成された導電体膜とを有する物品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−136771(P2012−136771A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263550(P2011−263550)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】