説明

表面硬化深さの渦電流検査

【課題】部品の表面硬化深さを検査する多周波渦電流(MFEC)検査システムを提供する。
【解決手段】MFEC検査システムは、多周波励起信号を発生するように構成された発生器と、部品の一方の側に配設されるように構成された渦電流プローブとを具備する。渦電流プローブは、ドライバ及びピックアップセンサを具備する。ドライバは、多周波励起信号を受信して、部品中に渦電流を誘導するように構成される。ピックアップセンサは、部品の局所領域内で誘導された渦電流を検出して、多周波応答信号を発生するように構成される。MFECシステムは、多周波応答信号を受信して、部品の局所領域の表面硬化深さを判定するために処理を行うように構成されたプロセッサを更に具備する。パルス渦電流検査システム及び渦電流検査方法も提示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に検査システム及び検査方法に関する。特に、本発明は、部品の表面硬化深さを検査する渦電流検査システム及び渦電流検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク軸、弁、歯車、ピストンシリンダなどの部品の耐磨耗性を向上するように、部品の表面に表面硬化層を形成するために、部品に対して熱処理及び浸炭処理を行うことが多い。一般に、部品が異なれば、部品に形成される表面硬化層の表面硬化深さに対する要求も異なる。従って、そのような部品の表面硬化深さが品質管理上適切であるか否かを判定するために検査を実施する必要がある。
【0003】
部品の表面硬化深さを検査するために、非破壊評価(NDE)技術が求められている。表面硬化領域における導電率及び透磁率は他の領域の導電率及び透磁率とは異なるので、部品の表面硬化深さを検査するために渦電流検査技術を利用できる。
【0004】
用途によっては、円筒形の物体の表面硬化深さを検査するために、物体を取り囲む形状のプローブを使用して、渦電流検査方法が使用される。しかし、渦電流プローブは部品の周囲に装着されるので、プローブは、部品の局所情報ではなく、部品の平均表面硬化深さに関する情報を提供するのみである。更に、渦電流プローブは、円筒形の部品の表面硬化深さの検査に一般に使用され、他の形状を有する部品の表面硬化深さの検査には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第4041392A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、部品の表面硬化深さを検査する新たな改良された渦電流検査システム及び渦電流検査方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る部品の表面硬化深さを検査する多周波渦電流(MFEC)検査システムが提供される。MFEC検査システムは、1つ以上の多周波励起信号を発生するように構成された発生器と、部品の一方の側に配設されるように構成された渦電流プローブとを具備する。渦電流プローブは、1つ以上のドライバ及び1つ以上のピックアップセンサを具備する。1つ以上のドライバは、1つ以上の多周波励起信号を受信して、部品中に渦電流を誘導するように構成される。1つ以上のピックアップセンサは、部品の局所領域内で誘導された渦電流を検出して、1つ以上の多周波応答信号を発生するように構成される。MFECシステムは、1つ以上の多周波応答信号を受信して、部品の局所領域の表面硬化深さを判定するために処理を行うように構成されたプロセッサを更に具備する。
【0008】
本発明の別の実施形態は、部品の表面硬化深さを検査するパルス渦電流(PEC)検査システムを提供する。PEC検査システムは、1つ以上のパルス励起信号を発生するように構成されたパルス発生器と、部品の一方の側に配設されるように構成された渦電流プローブとを具備する。渦電流プローブは、1つ以上のドライバ及び1つ以上のピックアップセンサを具備する。1つ以上のドライバは、1つ以上のパルス励起信号を受信して、部品中に渦電流を誘導するように構成される。1つ以上のピックアップセンサは、部品の局所領域内で誘導された渦電流を検出して、1つ以上の多周波応答信号を発生するように構成される。PECシステムは、1つ以上の多周波応答信号を受信して、部品の局所領域の表面硬化深さを判定するために処理を行うように構成されたプロセッサを更に具備する。
【0009】
本発明の別の態様は、部品の表面硬化深さを検査する方法を提供する。方法は、1つ以上の多周波励起信号又は1つ以上のパルス励起信号を発生することと、1つ以上の多周波励起信号又は1つ以上のパルス励起信号を受信し且つ1つ以上の多周波応答信号を出力するために、部品の一方の側に配設されるように構成された渦電流プローブを設けることと、部品の局所領域の表面硬化深さを判定するために、1つ以上の多周波応答信号を処理することとから成る。渦電流プローブは、1つ以上のドライバ及び1つ以上のピックアップセンサを具備する。1つ以上のドライバは、1つ以上の多周波励起信号を受信して、部品中に渦電流を誘導するように構成される。1つ以上のピックアップセンサは、部品の局所領域内で誘導された渦電流を検出して、1つ以上の多周波応答信号を発生するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の上記の態様、特徴及び利点並びに他の態様、特徴及び利点は、添付の図面と関連させて以下の詳細な説明を読むことにより更に明らかになるだろう。
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る渦電流検査システムを示した概略図である。
【図2】図2は、本発明の別の実施形態に係る渦電流検査システムを示した概略図である。
【図3】図3は、本発明の種々の実施形態に係る渦電流プローブ及び部品の構成の例を示した概略図である。
【図4】図4は、本発明の種々の実施形態に係る渦電流プローブ及び部品の構成の例を示した概略図である。
【図5】図5は、本発明の種々の実施形態に係る渦電流プローブ及び部品の構成の例を示した概略図である。
【図6】図6は、本発明の種々の実施形態に係る渦電流プローブ及び部品の構成の例を示した概略図である。
【図7】図7は、本発明の種々の実施形態に係る渦電流プローブ及び部品の構成の例を示した概略図である。
【図8】図8は、図1に示される渦電流検査システムを使用して収集された実験データの例を示した図である。
【図9】図9は、図2に示される渦電流検査システムを使用して収集された実験データの例を示した図である。
【図10】図10は、部品の表面硬化深さの測定を概略的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付の図面を参照して、本発明の実施形態を以下に説明する。以下の説明中、開示内容を無用に詳細に説明してわかりにくくするのを避けるために、既知の機能又は構成については詳細に説明しない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る部品100を検査するための渦電流検査システム10の概略図である。本明細書において使用される場合の用語「部品」は、物品、構成要素、構造、試験標本などを含むが、それらに限定されない検査に適するあらゆる物体を示してもよい。用途によっては、部品100は、耐磨耗性を向上するために熱処理及び浸炭処理などの硬化処理を1回以上受けており、従って部品100の面に1つ以上の硬化層が形成されている場合もある。構成によっては、部品100は円筒形の形状を有する。他の例では、部品100は、矩形のような他の形状又は他の不規則な形状を有してもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、渦電流検査システム10は、部品100の表面硬化深さを検査するように構成されてもよい。図1の構成の場合、渦電流検査システム10は、多周波渦電流(MFEC)検査システムである。図1に示されるように、MFECシステム10は、関数発生器11、渦電流プローブ12及びプロセッサ13を具備する。
【0014】
いくつかの実施形態において、関数発生器11は、1つ以上の多周波励起信号を発生し且つそれらの多周波励起信号を渦電流プローブ12へ出力するように構成される。渦電流プローブ12は、1つ以上の多周波励起信号を受信し且つ部品100中に渦電流を誘導して、1つ以上の多周波応答信号を発生するように構成される。プロセッサ13は、例えば、多周波位相解析(MFPA)アルゴリズムを使用して、部品100の表面硬化深さを判定するために1つ以上の多周波応答信号を解析するように構成される。プロセッサ13は、例えば、本明細書に参考として全内容が取り入れられている米国特許第7,206,706号公報に更に詳細に説明されている。
【0015】
用途によっては、プロセッサ13は、入力される多周波応答信号を解析するロックイン増幅器を具備してもよい。従って、図1に示されるように非限定的な一実施例において、関数発生器11は、ロックイン増幅器13で応答信号を復調するために各多周波励起信号と同一の周波数を有する基準信号101を更に発生する。ある特定の実施例において、基準信号は使用されなくてもよい。
【0016】
図示される実施例の場合、MFECシステム10は、渦電流プローブ12とプロセッサ13との間に配設され且つ多周波応答信号がプロセッサ13に入力される前に多周波応答信号を増幅する増幅器14を更に具備する。更に、MFECシステム10は、部品100の表面硬化深さの情報を表示するためにプロセッサ13に接続された液晶ディスプレイ(LCD)などのディスプレイ15を具備してもよい。本発明は、何らかの特定の種類のディスプレイに限定されない。いくつかの実施例において、増幅器14は使用されなくてもよい。関数発生器11、プロセッサ13及び/又はディスプレイ15の代わりに、多周波渦電流デバイスが使用されてもよい。
【0017】
図2は、本発明の別の実施形態に係る渦電流検査システム10の概略図である。図2をわかりやすくするため、図1及び図2において、同一の図中符号は同様の要素を示す。図2に示される構成の場合、渦電流検査システム10は、パルス渦電流(PEC)システムである。
【0018】
図1の構成と同様に、PECシステム10は、種々の周波数を供給する複数のパルス励起信号を発生し且つそれらのパルス励起信号を渦電流プローブ12へ出力するように構成されたパルス発生器11を具備する。渦電流プローブ12は、パルス励起信号を受信し且つ部品100の表面硬化深さを判定するために1つ以上の多周波応答信号を発生するように部品100中に渦電流を誘導するように構成される。更に、PECシステム10は、渦電流プローブ12からの応答信号をデジタル化し且つデジタル化応答信号をプロセッサ13に供給するように構成されたアナログ/デジタル変換器16を具備する。プロセッサ13は、例えば、多周波位相解析アルゴリズムを使用して、部品100の局所領域の表面硬化深さを判定するためにデジタル化応答信号を解析するように構成される。ある特定の用途において、アナログ/デジタル変換器16は採用されなくてもよい。
【0019】
いくつかの実施例において、PECシステム10は、部品100の表面硬化深さのデータを表示するためにプロセッサ13に接続された液晶ディスプレイ(LCD)などのディスプレイ15を具備してもよい。
【0020】
尚、本発明は、本発明の処理タスクを実行するための何らかの特定のプロセッサに限定されない。本明細書において使用される場合の用語「プロセッサ」は、本発明のタスクを実行するために必要な計算又は演算を実行可能なあらゆる機械を示すことを意図する。当業者には理解されるように、「プロセッサ」という用語は、構造化入力を受け入れることが可能であり且つ出力を発生するために規定の規則に従ってその入力を処理することが可能なあらゆる機械を示すことを意図する。更に、当業者には理解されるように、本明細書において使用される用語「〜ように構成される」は、本発明のタスクを実行するためのハードウェア及びソフトウェアの組み合わせをプロセッサが具備していることを示す。更に、本明細書において、複数形は、通常単数形及び複数形の双方を含む。従って、ある用語が複数形である場合、その用語で表される要素は1つ以上あるものとする。
【0021】
図3〜図7は、部品100の表面硬化深さの判定を示した渦電流プローブ12及び部品100の構成の例の概略図である。本発明の実施形態において、渦電流プローブ12は、部品100の1つ以上の局所領域に対して表面硬化深さを検査するための反射プローブであってもよい。更に、図3〜図8に示される構成は、単なる例であることに注意すべきである。図3〜図8において、同一の図中符号は同様の要素を示す。
【0022】
図3(a)及び図3(b)は、渦電流プローブ12及び部品100の構成の一例を示した概略側面図及び概略平面図である。図3(a)及び図3(b)に示される構成の場合、渦電流プローブ12は、部品100の一方の側に配設され且つドライバ17及びドライバ17の脇に配置されたピックアップセンサ18を具備する。ある特定の実施形態において、ドライバ17及びピックアップセンサ18は、共に巻線によって形成されてもよい。非限定的な実施例において、ピックアップセンサ18は、異方性磁気抵抗(AMR)センサ、巨大磁気抵抗(GMR)センサ、トンネル磁気抵抗(TMR)センサ、異常磁気抵抗(EMR)センサ、巨大磁気インピーダンス(GMI)センサ又はホールセンサを含むが、それに限定されない固体磁気センサであってもよい。
【0023】
本発明の実施形態において、ドライバ17は、関数発生器又はパルス発生器11(図1及び図2に示される)からの複数の異なる周波数を有する励起信号を受信して、部品100中に渦電流を誘導するように構成される。ピックアップセンサ18は、部品100中で誘導された渦電流を検出して、1つ以上の応答信号を発生し且つその応答信号を処理するためにプロセッサ13へ応答信号を出力するように構成される。
【0024】
本実施例の構成において、ドライバ17及びピックアップセンサ18は共に中空円筒形の形状を有する。ドライバ17はピックアップセンサ18に隣接して配置される。部品100の表面硬化深さを判定するために、ドライバ巻線17及びピックアップセンサ18の底面(図中符号なし)は、部品100の局所領域(図中符号なし)に面するように同一の平面内に配置される。
【0025】
いくつかの実施例において、部品100の局所領域の表面硬化深さを判定するために、ドライバ17及びピックアップセンサ18は部品100と接触してもよい。表面硬化深さの検査を改善するために、フェライトコアを含むがそれに限定されない2つの磁心19がドライバ17及びピックアップセンサ18の中にそれぞれ配設されてもよい。ある特定の用途において、ドライバ17及びピックアップセンサ18は、部品100から空間的に離間して配置されてもよい。他の実施例において、ドライバ17及び/又はピックアップセンサ18に磁心19が設けられなくてもよい。
【0026】
ある特定の用途において、ドライバ17は矩形の形状を有してもよい。この構成の場合、円筒形のピックアップセンサ18は、円筒形のままであってもよく且つ矩形のドライバ17の脇に配設されてもよい。図3の構成と同様に、矩形のドライバ巻線17及び円筒形のピックアップセンサ18の底面は、部品100に面するように同一の平面内に配置される。更に、ドライバ17及び/又はピックアップセンサ18の内部に磁心が設けられてもよいが、磁心は設けられなくてもよい。
【0027】
図4(a)及び図4(b)は、渦電流プローブ12及び部品100の構成の別の例を概略的に示した側面図及び平面図である。図3の構成と同様に、図4に示されるように、ドライバ17及びピックアップセンサ18は、共に中空円筒形の形状を有する。図4のドライバ17及びピックアップセンサ18は、部品100の局所領域の表面硬化深さを検査するためにドライバ17及びピックアップセンサ18の底面が部品100の周囲と接するような状態で配設され、この点が図3の構成とは異なる。すなわち、ドライバ17及びピックアップセンサ18の底面は互いに角度を成しており、従って、ドライバ17の底面とピックアップセンサ18の底面は共面ではない。更に磁心19は、ドライバ17及びピックアップセンサ18の内部に設けられても設けられなくてもよい。
【0028】
他の実施例において、ドライバ17及びピックアップセンサ18は、共に矩形の形状であってもよい。図4の構成と同様に、矩形のドライバ17の底面及び矩形のピックアップセンサ18の底面は、部品100の周囲に接していてもよい。
【0029】
あるいは、図3の構成と同様に、矩形のドライバ17の底面及び矩形のピックアップセンサ18の底面は、部品100の周囲に面するように同一の平面内に配置されてもよい。ある特定の用途において、部品100が矩形の形状である場合、矩形のドライバ17及び矩形のピックアップセンサ18は、部品100の局所領域に水平に配置されてもよい。
【0030】
図5(a)及び図5(b)は、本発明の更に別の実施形態に係る渦電流プローブ12及び部品100の構成の例を概略的に示した平面図及び斜視図である。図5の構成は、図3及び図4の構成に類似している。図5のドライバ17は、部品100中に渦電流を誘導するためにドライバ軸(図示せず)が部品100の軸(図中符号なし)と平行になるように局所領域の付近に配設されており、この点が図3及び図4の構成とは異なる。すなわち、ドライバ17の底面ではなく、側面が部品100の局所領域に面し且つ局所領域と接触していてもよい。更に、図5のピックアップセンサ18は、ドライバ17に隣接し且つピックアップセンサ軸がドライバ17の軸に対して垂直になるように局所領域の付近に配設される。
【0031】
他の構成の場合、ピックアップセンサ18は、その側面が部品100に面し且つ軸は部品100の軸と平行になるように配設されてもよい。ドライバ17は、その軸がピックアップセンサ18の軸に対して垂直になるように配設されてもよい。更に、磁心は設けられても設けられなくてもよい。
【0032】
非限定的な実施例において、ドライバ及び/又はピックアップセンサは、楕円形の形状を有してもよい。部品の形状に応じて、部品に面するドライバ及びピックアップセンサの面は、ドライバ及びピックアップセンサと部品とを更によく結合させるような形状に形成されてもよい。
【0033】
図6は、渦電流プローブ12及び部品100の構成の一例を示した概略横断面図である。図示される構成の場合、渦電流プローブ12は、部品100の局所領域(図中符号なし)に面し且つドライバ17及び1対のピックアップセンサ18を具備する。
【0034】
ドライバ17は、対のピックアップセンサ18の周囲に延出し、ピックアップセンサ18は、ドライバ17を貫通するように配設される。ピックアップセンサ18は、上部ピックアップセンサ20と、上部ピックアップセンサ20の下方に配設された下部ピックアップセンサ21とを具備する。非限定的な一実施例において、ドライバ17の底面及び下部ピックアップセンサ21の底面は、部品100の局所領域に面するように同一平面内に配置されてもよい。上部ピックアップセンサ20及び下部ピックアップセンサ21を貫通し且つそれらのピックアップセンサの周囲に沿うように、1対の磁心23がそれぞれ配設されてもよい。更に、ピックアップセンサ20、21の磁束を収束し且つドライバ17からの信号とピックアップセンサ20、21からの信号との相互干渉を回避するために、磁気シールド22がドライバ17とピックアップセンサ18との間に配設され且つドライバ17とピックアップセンサ18とを分離してもよい。
【0035】
非限定的な実施例において、ドライバ17及び対のピックアップセンサ18は、中空円筒形の形状を有してもよい。あるいは、ドライバ17及びピックアップセンサ18は、種々の用途に基づいて部品100と協働するための他の形状を有してもよい。
【0036】
従って、動作中、ドライバ17は、関数発生器又はパルス発生器11(図1及び図2に示される)からの周波数の異なる複数の励起信号を受信して、部品100中に渦電流を誘導する。下部ピックアップセンサ21は、渦電流を感知し且つ1つ以上の応答信号をプロセッサ13へ出力する。その間、上部ピックアップセンサ20は、渦電流及び周囲環境中の雑音信号を感知し、それらの信号をプロセッサ13へ出力する。プロセッサ13は、部品100の局所領域の表面硬化深さの測定精度を向上するために上部ピックアップセンサ20及び下部ピックアップセンサ21からの信号を解析する。
【0037】
図7は、本発明の別の実施形態に係る渦電流プローブ12及び部品100の構成の一例を示した概略横断面図である。図示される構成の場合、渦電流プローブ12は、上部構体22と、上部構体22の下方に配設された下部構体23とを具備する。上部構体22は、上部ドライバ24及び上部ピックアップセンサ25を具備する。下部構体23は、下部ドライバ26及び下部ピックアップセンサ27を具備する。下部ドライバは下部ピックアップセンサの周囲に延出し且つ上部ドライバは上部ピックアップセンサの周囲に延出する。
【0038】
いくつかの実施例において、下部ピックアップセンサ及び上部ピックアップセンサを貫通し且つ上部ドライバ及び下部ドライバの周囲に沿うように、2つの磁心28が配設されてもよいが、磁心は配設されなくてもよい。更に、上部構体22及び下部構体23を取り囲むように磁気シールド29が設けられてもよい。ある特定の用途において、ドライバ及びピックアップセンサは、中空円筒形の形状を有してもよいが、他の形状であってもよい。
【0039】
あるいは、ある特定の実施例において、図中符号24及び26はピックアップセンサを示してもよく、且つ図中符号25及び27はドライバを示してもよい。
【0040】
図8は、1組の試料(図示せず)を検査するためにMFEC検査システム(図1に示される)を使用して収集された実験データの一例を示す。図8に示されるように、実験データを取り出すために、図7に示される実施例の渦電流プローブ12がMFEC検査システムに設けられてもよい。一実施例において、ドライバ24及び26の外径は16mmであった。1組の試料は、例えば、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm及び6mmの所定の表面硬化深さをそれぞれ有していた。本実施例の実験データを取り出すように4回の測定(図8にラン1〜4として示される)を実行するために、渦電流プローブ12に120Hz励起信号が入力された。
【0041】
本実施例の実験データに関して、4回の測定から取り出された曲線は類似する湾曲を示したので、4回の測定は繰り返し性を有し、従って、所定の表面硬化深さ値とMFECシステムから取り出された各表面硬化深さ測定値との間には安定した相関があることがわかる。同一の試料から取り出された各測定値の分散は、異なる表面硬化深さを有する試料から取り出された測定値の差より小さかったので、表面硬化深さの変化によるプローブ応答信号は、プローブ位置決めの誤差、リフトオフ効果、角度及び他の望ましくない試料の差異などの雑音要因に起因するプローブ応答信号より大きいことがわかる。従って、このデータは、MFECシステムが表面硬化深さの測定に適することを示す。いくつかの実施例において、リフトオフ効果などの雑音要因を補償するために、多周波位相解析(MFPA)アルゴリズムを使用してデータが解析されてもよい。
【0042】
図9は、1組の試料(図示せず)を検査するためにPEC検査システム(図2に示される)を使用して収集された実験データの一例を示す。図9に示されるように、実験データを取り出すために、図4に示される実施例の渦電流プローブ12がPEC検査システムに設けられてもよい。一実施例において、ドライバ17及びピックアップセンサ18の外径は、それぞれ20mmであった。1組の試料は、例えば、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm及び6mmの所定の表面硬化深さをそれぞれ有していた。
【0043】
図8に示されるデータの場合と同様に、本実施例の実験データを取り出すように同一の試料群に対して4回の測定(図9にラン1〜ラン4として示される)を実行するために、渦電流プローブ12に95Hz励起信号が入力された。
【0044】
本実施例の実験データに関して、4回の測定から取り出された曲線は類似する湾曲を示したので、4回の測定は繰り返し性を有し、従って、所定の表面硬化深さ値とPECシステムから取り出された各表面硬化深さ測定値との間には安定した相関があることがわかる。同一の試料から取り出された各測定値の間の分散は、異なる表面硬化深さを有する試料から取り出された測定値の差より小さかったので、表面硬化深さの変化によるプローブ応答信号は、プローブ位置決め誤差、リフトオフ効果、角度及び他の望ましくない試料の差異などの雑音要因に起因するプローブ応答信号より大きいことがわかる。従って、このデータは、PECシステムが表面硬化深さの測定に適することを示す。いくつかの実施例において、リフトオフ分散などの雑音要因を補償するために、多周波位相解析(MFPA)アルゴリズムを使用してデータが解析されてもよい。
【0045】
図10は、部品100の表面硬化深さの測定を概略的に示したフローチャートである。図10に示されるように、ステップ30において、検査すべき部品100の中に渦電流を誘導するために、関数発生器又はパルス発生器11から渦電流プローブ12に周波数の異なる複数の励起信号が印加される。次に、ステップ31において、多周波応答信号が発生される。多周波応答信号を発生するために必要とされる周波数の数は、排除すべき望ましくない雑音要因の数に基づいて選択されてもよい。一実施例において、発生される多周波応答信号は、多周波応答データセットに含まれる。本明細書において使用される場合の用語「多周波応答データセット」は、渦電流プローブに多周波励起信号が印加されたことにより考慮すべき被検査部品中に渦電流が誘導された結果として発生されるあらゆる応答信号を含むデータセットを表す。
【0046】
次に、ステップ32において、リフトオフ効果などの雑音要因を抑制し且つ複数のMFPAパラメータを判定するために、コントローラ13は、多周波位相解析を使用して多周波応答信号を解析する。多周波位相解析の詳細については、例えば、米国特許第7,206,706号公報を参照。
【0047】
次にステップ33において、多周波応答信号の多周波位相解析に基づいて伝達関数が確定される。伝達関数は当業者により容易に実現可能である。最後にステップ34において、その伝達関数及びMFPAパラメータに基づいて部品の表面硬化深さが取り出されてもよい。
【0048】
典型的な実施形態によって本発明を例示し且つ説明したが、本発明の精神からまったく逸脱することなく種々の変形及び置き換えを実施可能であるので、以上の開示は、示される詳細に限定されることを意図しない。従って、当業者には単なる日常的な実験作業を使用して本開示内容の更なる変形及び均等物が明らかであろう。そのような変形及び均等物は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神及び範囲にすべて含まれると考えられる。
【符号の説明】
【0049】
10 渦電流検査システム、MFECシステム、PECシステム
11 関数発生器、パルス発生器
12 渦電流プローブ
13 プロセッサ、ロックイン増幅器、コントローラ
14 増幅器
15 ディスプレイ
16 アナログ/デジタル変換器
17 ドライバ、ドライバ巻線
18 ピックアップセンサ
19 磁心
20 上部ピックアップセンサ
21 下部ピックアップセンサ
22 磁気シールド、上部構体
23 下部構体、磁心
24 上部ドライバ、ピックアップセンサ
25 上部ピックアップセンサ、ドライバ
26 下部ドライバ、ピックアップセンサ
27 下部ピックアップセンサ、ドライバ
28 磁心
29 磁気シールド
100 部品
101 基準信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の表面硬化深さを検査する多周波渦電流(MFEC)検査システムにおいて、
1つ以上の多周波励起信号を発生するように構成された発生器と;
前記1つ以上の多周波励起信号を受信して前記部品中に渦電流を誘導するように構成された1つ以上のドライバ及び前記部品の局所領域内で前記誘導された渦電流を検出して1つ以上の多周波応答信号を発生するように構成された1つ以上のピックアップセンサを具備し且つ前記部品の一方の側に配設されるように構成された渦電流プローブと;
前記1つ以上の多周波応答信号を受信して、前記部品の前記局所領域の表面硬化深さを判定するために処理を行うように構成されたプロセッサとを具備するMFEC検査システム。
【請求項2】
前記発生器は関数発生器である請求項1記載のMFEC検査システム。
【請求項3】
前記プロセッサはロックイン増幅器を具備し、且つ前記関数発生器は、前記1つ以上の多周波応答信号の各々と同一の周波数を有する1つ以上の基準信号を前記ロックイン増幅器に供給するように更に構成される請求項2記載のMFEC検査システム。
【請求項4】
前記渦電流プローブと前記プロセッサとの間に配設され且つ前記多周波応答信号を増幅するように構成された増幅器を更に具備する請求項1記載のMFEC検査システム。
【請求項5】
前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサは巻線を具備し、且つ前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサの各々は、円筒形又は矩形の形状を有する請求項1記載のMFEC検査システム。
【請求項6】
前記1つ以上のピックアップセンサは、1つ以上の固体磁気センサであり、且つ前記1つ以上の固体磁気センサは、異方性磁気抵抗(AMR)センサ、巨大磁気抵抗(GMR)センサ、トンネル磁気抵抗(TMR)センサ、異常磁気抵抗(EMR)センサ、巨大磁気インピーダンス(GMI)センサ及びホールセンサのうち1つ以上を含む請求項5記載のMFEC検査システム。
【請求項7】
前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサの各々は円筒形の形状を有し、前記部品は円筒形の形状を有し、且つ前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサのうち1つの少なくとも1つの軸は、前記部品の軸と平行である請求項5記載のMFEC検査システム。
【請求項8】
前記1つ以上のドライバの少なくとも1つの面及び前記1つ以上のピックアップセンサの少なくとも1つの面は、それぞれ前記部品の前記局所領域に直接面するように構成され、且つ前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサの前記少なくとも2つのそれぞれの面は、共面であるか又は互いに角度を成す請求項1記載のMFEC検査システム。
【請求項9】
前記1つ以上のピックアップセンサの各々は、上部ピックアップセンサと、前記上部ピックアップセンサの下方に配設された下部ピックアップセンサとを具備し、且つ前記1つ以上のドライバの面及び前記下部ピックアップセンサの面は、前記部品の前記局所領域に直接面するように構成される請求項8記載のNFEC検査システム。
【請求項10】
前記1つ以上のドライバの各々は、上部ドライバと、前記上部ドライバの下方に配設された下部ドライバとを具備し、且つ前記下部ドライバの面及び前記下部ピックアップセンサの面は、前記部品の前記局所領域に直接面するように構成される請求項9記載のMFEC検査システム。
【請求項11】
部品の表面硬化深さを検査するパルス渦電流(PEC)検査システムにおいて、
1つ以上のパルス励起信号を発生するように構成されたパルス発生器と、
前記1つ以上のパルス励起信号を受信して前記部品中に渦電流を誘導するように構成された1つ以上のドライバ及び前記部品の局所領域内で前記誘導された渦電流を検出して1つ以上の多周波応答信号を発生するように構成された1つ以上のピックアップセンサを具備し且つ前記部品の一方の側に配設された渦電流プローブと、
前記1つ以上の多周波応答信号を受信して、前記部品の前記局所領域の表面硬化深さを判定するために処理を行うように構成されたプロセッサとを具備するPEC検査システム。
【請求項12】
前記渦電流プローブと前記プロセッサとの間に配設され且つ前記1つ以上の多周波応答信号をデジタル化するように構成されたアナログ/デジタル変換器を更に具備する請求項11記載のPEC検査システム。
【請求項13】
前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサは巻線を具備し、且つ前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサの各々は、円筒形又は矩形の形状を有する請求項11記載のPEC検査システム。
【請求項14】
前記1つ以上のピックアップセンサは1つ以上の固体磁気センサであり、且つ前記1つ以上の固体磁気センサは、異方性磁気抵抗(AMR)センサ、巨大磁気抵抗(GMR)センサ、トンネル磁気抵抗(TMR)センサ、異常磁気抵抗(EMR)センサ、巨大磁気インピーダンス(GMI)センサ及びホールセンサのうち1つ以上を含む請求項13記載のPEC検査システム。
【請求項15】
前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサの各々は円筒形の形状を有し、前記部品は円筒形の形状を有し、且つ前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサのうち1つの少なくとも1つの軸は、前記部品の軸と平行である請求項13記載のPEC検査システム。
【請求項16】
前記1つ以上のドライバの少なくとも1つの面及び前記1つ以上のピックアップセンサの少なくとも1つの面は、それぞれ前記部品の前記局所領域に直接面するように構成され、且つ前記1つ以上のドライバ及び前記1つ以上のピックアップセンサの前記少なくとも2つのそれぞれの面は、共面であるか又は互いに角度を成す請求項11記載のPEC検査システム。
【請求項17】
前記1つ以上のピックアップセンサの各々は、上部ピックアップセンサと、前記上部ピックアップセンサの下方に配設された下部ピックアップセンサとを具備し、且つ前記1つ以上のドライバの面及び前記下部ピックアップセンサの面は、前記部品の前記局所領域に直接面する請求項16記載のPEC検査システム。
【請求項18】
前記1つ以上のドライバの各々は、上部ドライバと、前記上部ドライバの下方に配設された下部ドライバとを具備し、且つ前記下部ドライバの面及び前記下部ピックアップセンサの面は、前記部品の前記局所領域に直接面する請求項17記載のPEC検査システム。
【請求項19】
部品の表面硬化深さを検査する方法において、
1つ以上の多周波励起信号又は1つ以上のパルス励起信号を発生することと;
前記部品の一方の側に配設され、前記1つ以上の多周波励起信号又は前記1つ以上のパルス励起信号を受信し且つ1つ以上の多周波応答信号を出力するように構成された渦電流プローブであって、前記1つ以上の多周波励起信号を受信して前記部品中に渦電流を誘導するように構成された1つ以上のドライバ及び前記部品の局所領域内で前記誘導された渦電流を検出して前記1つ以上の多周波応答信号を発生するように構成された1つ以上のピックアップセンサを具備する渦電流プローブを提供することと;
前記部品の前記局所領域の表面硬化深さを判定するために、前記1つ以上の多周波応答信号を処理することとから成る方法。
【請求項20】
前記1つ以上の多周波励起信号は、関数発生器を使用して発生され、前記1つ以上のパルス励起信号は、パルス発生器を使用して発生され、且つ前記関数発生器が設けられる場合に前記1つ以上の多周波応答信号を処理するためにロックイン増幅器が設けられる請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記部品の前記局所領域の表面硬化深さを判定するために、前記1つ以上の多周波応答信号は、多周波解析アルゴリズムを使用して処理される請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−505443(P2013−505443A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529762(P2012−529762)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/042684
【国際公開番号】WO2011/034654
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】