説明

被覆方法、工作物または工具、ならびにその使用

本発明は、DCスパッタリング法によって、超硬材料、サーメット、鋼、またはセラミックで構成される基材を少なくとも1つのTi1−xAlN層で被覆する方法に関する。本発明はさらに、上記方法によって被覆された工作物または工具、ならびにその使用に関する。本発明の目的の1つは、スパッタリング法およびアーク法の利点を併せ持つ被膜の形成が可能となる方法、すなわち小さい粗さおよび好ましい(200)組織を有する被膜を得ることが可能となる方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、上記性質を有する被膜を有する工作物を提供することである。本発明のさらに別の目的は、金属の機械加工に特に適した工具を使用することである。本発明の方法によって実現される目的は、プラズマ密度を増加させるためにイオン化促進が使用されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCスパッタリング法によって、超硬合金、サーメット、鋼、またはセラミックで構成される基材に、少なくとも1つのTi1−xAlN層を被覆する方法に関する。本発明は、さらに、上記方法によって被覆された工作物または工具、ならびにその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
金属を機械加工するために現在製造されているほとんどの超硬合金切削要素は、切削インサートをより硬質にしたり、および/または耐摩耗性を高めたりするために被覆されている。たとえば、Ti−Al−N−C系からの硬質材料が被膜として選択されている。CVD法以外に、PVD法も被覆に使用されている。
【0003】
具体的なPVD法の1つは、アークPVDとして知られている。トリガーを使用して、アノード(たとえばチャンバー壁)と(金属)被覆材料からなるカソードとの間でアークを発生させる。これによって、カソードにおいて、材料が局所的に溶融し気化するほどの高温が発生する。それによって、アークはカソード全体を移動する。アーク中では、気化した粒子はほぼ完全にイオン化している。アーク−PVD法によって、たとえば、好ましい(200)組織を有するTiAlN層を形成することが可能となる。
【0004】
たとえば独国特許出願公開第10 2005 021 927 A1号明細書に一般に記載されているような被覆材料を気化させる別のPVD法は、スパッタリング(カソードスパッタリング)として知られている。この場合、被覆材料からなるターゲットに高エネルギーイオンを当てると、それによって原子が固体物体から引き離され気相中に移動する。スパッタリングによって、優れた表面品質を形成することができ、特に粗さの小さい表面を得ることができる。
【0005】
具体的なスパッタリング法の1つは、高出力インパルス−マグネトロンスパッタリング(HIPIMS)であり、これは、カソードとして機能するターゲットに電力がパルスで供給されることが異なる(これに関しては、独国特許出願公開第10 2006 017 382 A1号明細書、米国特許第6,296,742号明細書が参照される)。この場合に供給される出力密度は非常に高いために、既に発生しているグロー放電はアーク放電の特徴を有する。HIPIMSの場合、非常に高い電圧が使用される。ターゲットがカソードとして使用されるため、この方法では、再スパッタリング効果が増加し、そのため堆積速度が小さくなる。これに伴って成長速度が比較的小さくなる。
【0006】
欧州特許第10 17870 B1号明細書には、保護層系を有する工具が開示されている。この工具はMeX被膜を有し、式中、Meはチタンおよびアルミニウムを含み、Xは窒素または炭素の少なくとも1つである。(200)面の(111)面に対する回折強度の比Qは1を超える。層内部の圧縮応力σは、1GPa≦σ≦6GPaとなる。アーク蒸着または反応性スパッタリングによる蒸着が被覆方法として選択される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、スパッタリング法およびアーク法の利点を併せ持つ被膜を形成可能な方法、すなわち小さい粗さおよび好ましい(200)組織を有する被膜を得ることが可能な方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の課題は、上記の性質を有する被膜を有する工作物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の課題は、金属の機械加工に特に好適となる工具を使用することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、請求項1に記載の方法によって、請求項6に記載の硬質材料で被覆された工作物によって、および請求項9に記載のその使用によって解決される。
【0011】
請求項1に記載の方法の場合、プラズマ密度を増加させるためにイオン化促進が使用される。
【0012】
本発明による方法の好ましい一実施形態では、ホローカソード効果によってプラズマ密度が増加する。ホローカソード効果は、グロー放電中の特定の前提条件下で観察することができる。グロー放電中、陰極降下またはグローシーム(glow seam)と呼ばれる領域がカソード表面上に形成される。隣接するカソード表面が互いに接近してこれらの領域が重なり合うと、プラズマの準中性が破れ、これらの表面を流れていくガスのイオン化がより多くなる。本発明のさらなる改良形態によると、すべての反応ガスがホローカソードに通される。好ましくは、本発明によるDCスパッタリング法の場合、ホローカソード放電を恒久的に作用させる。
【0013】
本発明の方法の別の好ましい改良形態は、プラズマ密度を増加させるために磁界が使用されることであり、この磁力線は好ましくは、被覆される基材表面に対して垂直である。磁界に対して速度vで移動する荷電粒子の移動方向に対して垂直方向にローレンツ力が作用する。均一磁界の場合、粒子は円軌道上を移動し、それによってプラズマ密度が増加する。
【0014】
請求項1に記載の方法によって製造される工作物の好ましい改良形態の1つは、Ti1−xAlN層中で、xが0.5≦x≦0.7を満たすことである。
【0015】
さらに別の好ましい改良形態は、Ti1−xAlN層の厚さが最大15μm、好ましくは最大10μmとなることである。
【0016】
請求項1に記載の方法によって製造される請求項4に記載の工作物は、機械加工、成形、または打ち抜きの工具、好ましくはスローアウェイチップ、シャンクバイト、特にドリルまたはフライス、あるいは摩耗性部品の製造に特に適している。
【0017】
本発明による方法の好ましい改良形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1a】ホローカソード効果の発生を示している。
【図1b】ホローカソード効果の発生を示している。
【図1c】ホローカソードを通過するガスの流れを示している。
【図2】追加の磁界によって生じるプラズマ密度の増加を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
グロー放電中、陰極降下またはグローシーム2がカソード1において発生する。カソード1が、矢印3の方向に十分に隔てて互いに向かって移動すると、これによってグローシームが重なり合う領域4が形成される。この領域内ではプラズマの準中性が破れる。中性ガス5が領域4を通過すると、ガスの流れ7がイオン化され、プラズマ6が発生する。
【0020】
プラズマ密度を増加させる別の可能性を図2に示す。被覆される基材10を、磁力線11を有する垂直に配置された磁界が貫通する。ローレンツ力の作用によって、荷電粒子13は円軌道上12を移動し、それによってプラズマ密度が増加する。
【0021】
本発明による方法の使用によって、および本発明による方法によって被覆された切削インサートの使用によって、比較試験における以下の利点を求めることができた。
【実施例】
【0022】
実施例1
42Cr Mo 4Vのコーナーフライス加工(一枚歯試験(single−tooth test))
フライス加工工具の種類:M680 D63 Z1
スローアウェイチップの型:XPHT160412
切削速度Vc=220m/分
一歯当たりの送り量fz=0.25mm
切削深さap=2.5mm
接触幅ae=38mm
組織係数がQ=0.4の標準被膜によって4000mmの工具寿命(tool life travel)が達成された。対照的に、Q=1.8の組織係数および−1.6GPaの内部圧縮応力を有する本発明による一実施形態によって7000mmの工具寿命が達成された。
【0023】
実施例2
X 5CrNi 18−10のコーナーフライス加工(一枚歯試験)
フライス加工工具の種類:M680 D63 Z1
スローアウェイチップの型:XPHT160412
調整角:90°
切削速度Vc=100m/分
一歯当たりの送り量fz=0.11mm
切削深さap=2.5mm
接触幅ae=35mm
組織係数がQ=0.8の標準被膜によって1700mmの工具寿命が達成された。組織係数Q=2.67および−1.8GPaの内部圧縮応力を有する本発明による被膜を使用すると、2800mmの工具寿命が達成された。
【0024】
実施例3
X 5CrNi 18−10のコーナーフライス加工(一枚歯試験)
フライス加工工具の種類:M680 D80 Z1
スローアウェイチップの型:XPHT160412
調整角:90°
切削速度Vc=250m/分
一歯当たりの送り量fz=0.15mm
切削深さap=2.5mm
接触幅ae=24mm
組織係数がQ=0.6の標準被膜によって2400mmの工具寿命が達成された。組織係数Q=2.5および−1.6GPaの内部圧縮応力を有する本発明による一実施形態によって3600mmの工具寿命が達成された。
【0025】
実施例4
CK 45のコーナーフライス加工(一枚歯試験)
フライス加工工具の種類:M680 D80 Z1
スローアウェイチップの型:XPHT160412
調整角:90°
切削速度Vc=280m/分
一歯当たりの送り量fz=0.25mm
切削深さap=2.5mm
接触幅ae=44mm
組織係数がQ=0.6の標準被膜によって5400mmの工具寿命が達成された。組織係数Q=2.5および−1.5GPaの内部圧縮応力を有する本発明による一実施形態によって7400mmの工具寿命が達成された。
【符号の説明】
【0026】
1 カソード、 2 グローシーム、 3 矢印、 4 領域、 5 中性ガス、 6 プラズマ、 7 ガスの流れ、 10 基材、 11 磁力線、 12 円軌道、 13 荷電粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DCスパッタリング法によって、超硬合金、サーメット、鋼、またはセラミックで構成される基材を少なくとも1つのTi1−xAlN層で被覆する方法であって、
プラズマ密度を増加させるためにイオン化促進が使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
ホローカソード効果によって前記プラズマ濃度が増加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
すべての反応ガスをホローカソードに通過させることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ホローカソード放電が恒久的に作用するDCスパッタリング法を特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記プラズマ密度を増加させるために磁界が使用され、磁力線が好ましくは、被覆される前記基材表面に対して垂直であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
超硬合金、サーメット、鋼、またはセラミックの基材と、商Q>1(式中、Qはδ−2θ法を使用した材料のX線回折における(200)格子面および(111)格子面にそれぞれ帰属しうるI(200)対I(111)の回折強度比である)を有する少なくとも1つのTi1−xAlN層とを有する硬質材料で被覆された工作物または工具であって、
DCスパッタリングによって形成されたこの層が−1GPa〜−2GPaの内部圧縮応力を有することを特徴とする、硬質材料で被覆された工作物または工具。
【請求項7】
前記Ti1−xAlN層中、0.5<x<0.7であることを特徴とする、請求項6に記載の工作物または工具。
【請求項8】
前記Ti1−xAlN層の厚さが最大15μm、好ましくは最大10μmであることを特徴とする、請求項6または7に記載の工作物または工具。
【請求項9】
請求項6から8までのいずれか一項に記載の工作物または工具を、機械加工、成形、または打ち抜きの工具、好ましくはスローアウェイチップ、シャンクバイト、特にドリルまたはフライス、あるいは摩耗性部品の製造のために用いる使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−517733(P2011−517733A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504350(P2011−504350)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002537
【国際公開番号】WO2009/127344
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(399031078)ケンナメタル インコーポレイテッド (182)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650−0231, USA
【Fターム(参考)】