説明

装飾品の表面処理方法および装飾品

【課題】 長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供すること、および前記装飾品を提供することができる表面処理方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の装飾品の表面処理方法は、基材2の少なくとも一部(2a)に、窒化処理または浸炭処理による硬化処理を施す工程(2b)と、硬化処理が施された基材2上の少なくとも一部に下地層40を形成する工程(2c)と、下地層40上の少なくとも一部にイオンプレーティング法により被膜30を形成する工程(2d)とを有する。下地層40は、Ti、Crまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金から構成されるものである。また、被膜30は、TiN、TiC、TiCN、TiO、CrN、CrC、CrCNおよびCrOよりなる群から選択される少なくとも1種を含む材料で構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾品の表面処理方法および装飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
時計用外装部品のような装飾品には、優れた美的外観が要求される。
従来、このような目的を達成するために、例えば、装飾品の構成材料として、Pd、Rd、Pt等の銀白色の金属材料を用いてきた。しかし、これらの金属材料は、いずれも貴金属であり、装飾品の製造コストが高くなる等の問題点を有していた。また、前述の貴金属に代わる銀白色の材料としては、Tiやステンレス鋼等が用いられている。
【0003】
また、前述したように装飾品には、優れた美的外観が要求されるが、前記のような材料で構成された装飾品(特に、時計用外装部品や装身具等)は、その表面に傷が付き易く、長期間使用することにより美的外観が著しく低下する等の問題点を有していた。
このような問題を解決するために、基材を硬質化する技術として、例えばステンレス鋼やTiからなる基材の表面を、窒素により窒化する技術(例えば、特許文献1参照)や、炭素を注入する浸炭処理により表面を固くする技術(例えば、特許文献2参照)が用いられている。
【0004】
しかしながら、窒化処理、浸炭処理は、表面荒れをおこすので、研磨外観が変わってしまう。鏡面品は特に荒れて、くもりとなってしまい、そのままでは、装飾品としては使用できない。
そこで、後工程として、機械的研磨により、鏡面に磨く方法がとられていた。しかし、この方法は、研磨により固い硬化層を削り取りすぎて硬度が落ちたり、後研磨できない形状(バフが当たらないような形状)のものは処理不可であるといった欠点がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−318520号公報
【特許文献2】特開平11−229114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供すること、および前記装飾品を提供することができる表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の装飾品の表面処理方法は、少なくとも表面付近の一部が主としてTiおよび/またはステンレス鋼で構成された基材の少なくとも一部に、窒化処理または浸炭処理による硬化処理を施す工程と、
前記硬化処理が施された前記基材上に、乾式めっきにより、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
これにより、長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供することができる。
【0008】
本発明の装飾品の表面処理方法は、少なくとも表面付近の一部が主としてTiおよび/またはステンレス鋼で構成された基材の少なくとも一部に、窒化処理または浸炭処理による硬化処理を施す工程と、
前記硬化処理が施された前記基材上に、少なくとも1層の下地層を形成する工程と、
前記下地層上に、乾式めっきにより、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
これにより、長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供することができる。また、下地層を形成することで、基材と被膜との密着性を向上させ、基材表面の凹凸をより効果的に緩和することができる。また、当該方法により得られる装飾品は、打痕等の凹みを特に生じ難いものとなる。
【0009】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記下地層を形成する工程と、前記被膜を形成する工程とを繰り返し行い、前記下地層と前記被膜とを複数回積層することが好ましい。
これにより、得られる装飾品は、より長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができるものとなる。また、当該方法により得られる装飾品は、打痕等の凹みを特に生じ難いものとなる。
【0010】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記下地層のうち少なくとも1層は、前記基材の表面の凹凸を緩和するレベリング層であることが好ましい。
これにより、基材の表面粗さが比較的大きい場合であっても、得られる装飾品の表面粗さを十分に小さくすることができる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記下地層は、乾式めっきにより形成されることが好ましい。
これにより、下地層は、基材との密着性に特に優れたものとなる。
【0011】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記下地層は、Ti、Crまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金から構成されることが好ましい。
これにより、下地層は、基材との密着性に特に優れたものとなる。また、当該方法により得られる装飾品は、打痕等の凹みを特に生じ難いものとなる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記基材は、その表面の少なくとも一部に、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工から選択される表面加工が施されたものであることが好ましい。
これにより、被膜のギラツキ等が抑制され、得られる装飾品は、特に美的外観に優れたものとなる。
【0012】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記基材は、基部と、該基部上に設けられた表面層とを有するものであることが好ましい。
これにより、基部の構成材料の選択により、例えば、基材の成形の自由度を増すことができ、より複雑な形状の装飾品であっても、比較的容易に製造することができる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記表面層の厚さは、0.1〜50μmであることが好ましい。
これにより、硬化処理後における基材の強度を特に優れたものとすることができ、得られる装飾品は、傷等が特に付き難いものとなる。
【0013】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記窒化処理は、前記基材を300〜500℃の温度に保持し、アンモニアガスと水素ガスとを含む雰囲気中でグロー放電を行うイオン窒化であることが好ましい。
これにより、窒化処理後における基材の強度を特に優れたものとすることができるとともに、基材の表面粗さを比較的小さいものとすることができる。その結果、得られる装飾品は、より長期間にわたって特に優れた硬度および美的外観を保持することができるものとなる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記窒化処理により形成される窒化層の厚さが、0.1〜200μmであることが好ましい。
これにより、基材の硬度を特に優れたものにするとともに、鏡面光沢をより長時間保つことができる。
【0014】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記浸炭処理は、10〜700Paの炭化水素系ガスを含み、かつ、温度が400〜900℃の雰囲気中で行うプラズマ浸炭処理であることが好ましい。
これにより、浸炭処理後における基材の強度を特に優れたものとすることができるとともに、基材の表面粗さを比較的小さいものとすることができる。その結果、得られる装飾品は、より長期間にわたって特に優れた硬度および美的外観を保持することができるものとなる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記浸炭処理により形成される浸炭層の厚さが、0.1〜200μmであることが好ましい。
これにより、基材の硬度を特に優れたものにするとともに、鏡面光沢をより長時間保つことができる。
【0015】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記被膜をイオンプレーティング法により形成することが好ましい。
これにより、より均質で、かつ、基材や下地層との密着性が特に優れた被膜を比較的容易に形成することができる。その結果、得られる装飾品の耐久性は、特に優れたものとなる。また、イオンプレーティング法を用いることにより、特に高密度の被膜を形成することが可能となり、得られる装飾品は、長期間にわたって特に優れた美的外観を保持できるものとなる。
【0016】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記イオンプレーティング時におけるイオン化電圧が、15〜200Vであることが好ましい。
これにより、基材や下地層との密着性に優れた被膜を形成することができる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記イオンプレーティング時におけるイオン化電流が、5〜150Aであることが好ましい。
これにより、基材や下地層との密着性に優れた被膜を形成することができる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記イオンプレーティング時における雰囲気の圧力が、1×10−3〜1.5Paであることが好ましい。
これにより、基材や下地層との密着性に優れた被膜を形成することができる。
【0017】
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記被膜は、TiN、TiC、TiCN、TiO、CrN、CrC、CrCNおよびCrOよりなる群から選択される少なくとも1種を含む材料で構成されたものであることが好ましい。
これにより、得られる装飾品の美的外観を特に優れたものとすることができるとともに、装飾品全体としての強度(傷等の付き難さ)を特に優れたものとすることができる。
本発明の装飾品の表面処理方法では、前記被膜の厚さは、2〜10μmであることが好ましい。
これにより、被膜は、より優れた美的外観と耐擦傷性とを有するものとなる。
【0018】
本発明の装飾品は、本発明の装飾品の表面処理方法を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供することができる。
本発明の装飾品は、窒化処理または浸炭処理により形成された硬化層を有する基材と、
前記基材上に乾式めっきにより形成され、かつ、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜とを有することを特徴とする。
これにより、長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供することができる。
【0019】
本発明の装飾品は、窒化処理または浸炭処理により形成された硬化層を有する基材と、
前記硬化層上に形成された、少なくとも1層の下地層と、
前記下地層上に乾式めっきにより形成され、かつ、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜とを有することを特徴とする。
これにより、より長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供することができる。また、下地層を形成することで、基材と被膜との密着性を向上させ、基材表面の凹凸をより効果的に緩和することができる。また、これにより、打痕等の凹みが生じ難いものとなる。
【0020】
本発明の装飾品は、窒化処理または浸炭処理により形成された硬化層を有する基材と、
複数の下地層と、
乾式めっきにより形成され、かつ、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された、複数の被膜とを有する装飾品であって、
複数の前記下地層と前記被膜とが交互に積層されていることを特徴とする。
これにより、より長期間にわたって優れた硬度および美的外観を保持することができる装飾品を提供することができる。また、下地層を形成することで、基材と被膜との密着性を向上させ、基材表面の凹凸をより効果的に緩和することができる。また、これにより、打痕等の凹みが特に生じ難いものとなる。
【0021】
本発明の装飾品では、少なくともその一部が皮膚に接触して用いられることが好ましい。
皮膚に接触して用いられる装飾品では、装飾品として外観の美しさが要求されるとともに、実用品として、耐久性、耐食性、耐擦傷性、耐摩耗性や、優れた触感等が要求されるが、本発明によればこれらの要件を全て満足することができる。
本発明の装飾品は、時計用外装部品であることが好ましい。
時計用外装部品は、一般に、外部からの衝撃を受け易い装飾品であり、装飾品として外観の美しさが要求されるとともに、実用品として、耐久性、耐食性、耐擦傷性、耐摩耗性等が求められるが、本発明によればこれらの要件を全て満足することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の装飾品の表面処理方法および装飾品の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の表面処理方法の第1実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材2の少なくとも一部(1a)に、窒化処理または浸炭処理よる硬化処理を施す工程(1b)と、硬化処理が施された基材2上の少なくとも一部にイオンプレーティング法により被膜30を形成する工程(1c)とを有する。
【0023】
[基材]
基材(金属基材)2は、少なくとも表面付近の一部が、主としてTiおよび/またはステンレス鋼で構成されたものである。主としてTiで構成される材料としては、例えば、Ti(単体としてのTi)、Ti合金等が挙げられる。また、ステンレス鋼としては、例えば、Fe−Cr系合金、Fe−Cr−Ni系合金等が挙げられ、より具体的には、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F等、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L等が挙げられる。なお、窒化処理または浸炭処理が可能な材料としては、上記のようなTiおよび/またはステンレス鋼で構成されたもの以外の材料も挙げられるが、このような材料(主としてTiおよび/またはステンレス鋼で構成された材料)を用いた場合には、最終的に得られる装飾品の硬度を十分に高めることが困難である。また、主としてTiおよび/またはステンレス鋼で構成された材料を用いなかった場合、最終的に得られる装飾品において、十分長期間にわたって優れた美的外観(特に、時計用外装部品等の装飾品において求められる美的外観)を保持するのが困難となる。
【0024】
また、基材2は、各部位でその組成が実質的に均一な組成を有するものであってもよいし、部位によって組成の異なるものであってもよい。例えば、基材2は、基部と、該基部上に設けられた表面層を有するものであってもよい。基材2がこのような構成のものであると、基部の構成材料の選択により、例えば、基材2の成形の自由度を増すことができ、より複雑な形状の装飾品1Aであっても、比較的容易に製造することができる。基材2が基部と表面層とを有するものである場合、表面層の厚さ(平均値)は、特に限定されないが、0.1〜50μmであるのが好ましく、1.0〜10μmであるのがより好ましい。表面層の厚さが前記範囲内の値であると、硬化処理後における基材2の強度を特に優れたものとすることができるとともに、表面層の基部からの不本意な剥離等をより確実に防止することができる。
【0025】
基材2が基部と表面層とを有するものである場合、表面層の構成材料としては、例えば、前述したような材料を好適に用いることができる。また、基部の構成材料としては、例えば、金属材料、非金属材料等を用いることができる。
基部が金属材料で構成される場合、特に優れた強度特性を有する装飾品1Aを提供することができる。
【0026】
また、基部が金属材料で構成される場合、基部の表面粗さが比較的大きい場合であっても、表面層や、後述する被膜30等を形成する際のレベリング効果により、得られる装飾品1Aの表面粗さを小さくすることができる。例えば、基部の表面に対する切削加工、研磨加工などによる機械加工を省略しても、鏡面仕上げを行うことが可能となったり、基部がMIM法により成形されたもので、その表面が梨地面である場合でも、容易に鏡面にすることができる。これにより、光沢に優れた装飾品を得ることができる。
【0027】
基部が非金属材料で構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する装飾品1Aを提供することができる。
また、基部が非金属材料で構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。
また、基部が非金属材料で構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果も得られる。
【0028】
基部を構成する金属材料としては、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Ag等の各種金属や、これらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。この中でも特に、Cu、Zn、Ni、Ti、Alまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金が好ましい。基部が前述したような材料で構成されることにより、基部と、表面層との密着性を特に優れたものとすることができるとともに、基部の加工性が向上し、基材2全体としての成形の自由度がさらに増す。
【0029】
また、基部を構成する非金属材料としては、例えば、セラミックス、プラスチック(特に耐熱性プラスチック)、石材、木材等が挙げられる。
セラミックスとしては、例えば、Al、SiO、TiO、Ti、ZrO、Y、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si、SiN、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、CrN等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al、CaC、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、ZrB、MoB等のホウ化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組み合わせた複合セラミックスが挙げられる。
基部が前記のようなセラミックスで構成される場合、特に優れた強度、硬度を有する装飾品1Aを得ることができる。
【0030】
基材2の製造方法は、特に限定されない。
基材2が実質的に均一な組成を有する材料で構成される場合(または、前述したような表面層を有さない場合)、その製造方法としては、例えば、プレス加工、切削加工、鍛造加工、鋳造加工、粉末冶金焼結、金属粉末射出成形(MIM)、ロストワックス法等が挙げられるが、この中でも特に、鋳造加工または金属粉末射出成形(MIM)が好ましい。鋳造加工、金属粉末射出成形(MIM)は、特に、加工性に優れている。このため、これらの方法を用いた場合、複雑な形状の基材2を比較的容易に得ることができる。
【0031】
金属粉末射出成形(MIM)は、通常、以下のようにして行われる。
まず、金属粉と有機バインダーとを含む材料を混合、混練して混練物を得る。
次に、この混練物を射出成形することにより成形体を形成する。
その後、この成形体に対して、脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。この脱脂処理は、通常、減圧条件下で、加熱することにより行われる。
さらに、得られた脱脂体を焼結することにより、焼結体を得る。この焼結処理は、通常、前記脱脂処理より高温で加熱することにより行われる。
【0032】
本発明では、以上のようにして得られる焼結体を基材として用いることができる。
また、基材2が前述したような基部と表面層とを有するものである場合、基材2は、以下のようにして製造することができる。すなわち、前述したような方法により製造した基部上に、表面層を形成することにより基材2を得ることができる。表面層の形成方法としては、例えば、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式めっき法、溶射等が挙げられる。
【0033】
また、基材2の表面に対しては、例えば、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工等の表面加工が施されてもよい。これにより、得られる装飾品1Aの表面の光沢具合にバリエーションを持たせることが可能となり、得られる装飾品1Aの装飾性をさらに向上させることができる。鏡面加工は、例えば、周知の研磨方法を用いて行うことができ、例えば、バフ(羽布)研磨、バレル研磨、その他の機械研磨等を採用することができる。
【0034】
また、このような表面加工を施した基材1を用いて製造される装飾品1Aは、後述する被膜30に対して前記表面加工を直接施すことにより得られるものに比べて、被膜30のギラツキ等が抑制されたものとなり、特に美的外観に優れたものとなる。また、後に詳述するように、被膜30が硬質材料で構成されているため、被膜30に対して表面加工を直接施す場合には、当該表面加工を施す際に被膜30にカケ等の欠陥を生じ易く、装飾品1A製造の歩留りが著しく低下する場合があるが、基材2に対して表面処理を行うことにより、このような問題の発生も効果的に防止することができる。また、基材2に対する表面処理は、被膜30に対する表面加工に比べて、温和な条件で容易に行うことができる。
【0035】
[窒化処理、浸炭処理]
基材2に、窒化処理または浸炭処理による硬化処理を施す(1b)。基材2に対して、窒化処理、浸炭処理を施すことにより、基材2の表面付近に硬度の高い硬化層(窒化層、浸炭層)を形成することができる。
以下、これらの方法について説明する。
【0036】
(浸炭処理)
まず、浸炭処理の方法について説明する。なお、ここでは、浸炭処理の一例として、プラズマ浸炭処理について説明するが、浸炭処理の方法はこれに限定されるものではない。
プラズマ浸炭処理を行うには、例えば、加熱炉内にグラファイトファイバー等の断熱材で囲まれた処理室を形成し、この処理室内をロッドグラファイトからなる発熱体で加熱すると共に、処理室内の上部に直流グロー放電の正極を接続し、かつ処理品の載置台に陰極を接続し、また処理室内の要所にはガスマニホールドを設置して炭化水素、窒素、アルゴン、水素などのプロセスガスまたはクリーニング用ガスを適宜分散させながら導入するようにした公知の浸炭処理装置(例えば日本電子工業社製)を用いることができる。
【0037】
プラズマ浸炭処理の操作をより詳細に説明すると、先ず、処理室に基材2を装入して排気した後、ヒータにより400〜900℃にまで加熱し、例えば、アルゴンガスなどの不活性ガスからなるクリーニング用ガスを導入し、200〜1500Vの直流高電圧を印加して10〜60分保持する。
このとき、導入されたガスはプラズマ化するが、プラズマ中の電位は陽極から陰極までの大部分でほぼ一様であり、陰極付近で急激に電位が低下する。このため、プラズマ中のアルゴンイオンArなどの不活性ガスは、陰極降下によって加速され、基材表面に衝突して表面の付着物を跳ね飛ばして基材2表面をクリーニングする。クリーニング時間は長いほうが後の浸炭は効率よく行われることになり浸炭層の硬度は上昇するが、処理時間が長すぎると、クリーニング処理による効果が飽和するばかりでなく、基材2の表面付近を必要以上に荒らすこととなる。また、長時間の処理は経済的にも不利になる。
【0038】
次に、炭化水素系ガスを圧力10〜700Paの範囲で導入する。これにより、プラズマガス中には、イオン化した活性炭素(C)が発生し、これが基材2の表面に付着し、かつ基材2の内部に拡散する。炭化水素系ガスとしては、例えば、鎖式炭化水素、環式炭化水素等が挙げられる。鎖式炭化水素の代表例としては、一般式C2n+2で示されるメタン系炭化水素の他、エチレン系炭化水素(一般式C2n)、アセチレン系炭化水素(一般式C2n−2)が挙げられ、直鎖状のものであっても、側鎖を有するものであってもよい。特に、常温で気体のメタン、エタン、プロパン、ブタンは、使用に際して気化設備が不要であるので、好ましいものであるといえる。また、環式炭化水素としては、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素等が挙げられる。芳香族炭化水素の代表例としては、ベンゼン(C66 )が挙げられる。
基材2が主としてTiで構成されるものである場合、上記のような処理により、活性炭素の一部は炭素固溶チタンとして浸炭層中に存在するようになり、残りは基材材料と化合して炭化物となる。
【0039】
ところで、プラズマ浸炭処理では、炭化水素系ガスに水素ガス(H)等を混合して用いてもよい。例えば、炭化水素系ガスを水素ガスで希釈した場合、Hの還元性により、生成する活性炭素の量を調整したり、炉内のガス圧を上げることにより電流の流れを良くすること等ができる。
炭化水素系ガスを単独で用いる場合(炭化水素系ガス以外のガスと混合して用いない場合)、その圧力は、10〜700Paであるのが好ましく、50〜300Paであるのがより好ましい。炭化水素系ガスと水素ガス等の希釈用ガスとの混合ガスを使用する場合には、炭化水素系ガスの分圧を10〜700Paの範囲に調整する。具体例を挙げると、炭化水素系ガスと水素ガスとの混合ガスを用いる場合には、炭化水素系ガスの分圧を10〜700Paとし、水素ガスの分圧を20〜2000Paとし、混合ガスの全圧力を30〜2700Paとするのが好ましい。
炭化水素系ガスの圧力(分圧)が前記下限値未満であると、浸炭層の炭化物および炭素の固溶が生成され難く、浸炭層が十分に深く形成できない可能性がある。一方、炭化水素系ガスの圧力(分圧)が前記上限値を越えると、基材2の表面にカーボン膜が形成され、内部への炭素の拡散が起こり難くなる可能性がある。
【0040】
プラズマ浸炭処理時の雰囲気温度は、特に限定されないが、400〜900℃であるのが好ましい。雰囲気温度が前記下限値未満であると、スーティングの発生が起こりやすくなり、そのために希釈用ガスの分圧を高める必要があり、浸炭反応が起こり難くなる場合がある。一方、雰囲気温度が前記上限値を越えると、基材2の構成材料によっては、該構成材料が変態し、基材2の強度や寸法精度が低下する可能性がある。
以上のようにして、基材2に浸炭処理が施されて、浸炭層(硬化層)21が形成される。
【0041】
このようにして形成される浸炭層21の厚さ(平均値)は、特に限定されないが、0.1〜200μmであるのが好ましく、1.0〜50μmであるのがより好ましい。浸炭層21の厚さが前記範囲内の値であると、基材2の硬度を特に優れたものにするとともに、鏡面光沢を長時間保つことができる。これにより、例えば、得られる装飾品1Aは、打痕、傷等が特に付き難く、より長期間にわたって、優れた美的外観を保持することができる。
【0042】
また、基材2と被膜30との密着性の向上等を目的として、後述する被膜30の形成に先立ち(上述した窒化処理、浸炭処理の前または後に)、基材2に対して、前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理等が挙げられるが、この中でも特に、清浄化処理が好ましい。基材2の表面に、清浄化処理を施すことにより、基材2と被膜30との密着性が特に優れたものとなる。
【0043】
(窒化処理)
次に、窒化処理の方法について説明する。なお、ここでは、窒化処理の一例として、イオン窒化(ラジカル窒化)処理について説明するが、窒化処理の方法はこれに限定されるものではない。
この方法では、アンモニアガスと水素ガスとを含む雰囲気中でグロー放電を行い、基材2の表面付近をイオン窒化する。アンモニアガスと水素ガスとを含む雰囲気中でグロー放電を行うことで、窒素原子、窒素イオンが、基材2の表面付近により侵入しやすくなる。
【0044】
このとき、基材2の温度を300〜500℃の範囲に保持することが好ましい。基材2の温度を前記範囲内の値とすることで、イオン窒化を好適に行うことができる。これに対し、基材の温度が前記下限値未満では、イオン窒化が進行し難くなり、装飾品1Aの生産効率が低下する。また、基材2の温度が極端に低い場合には、装飾品1Aを実質的に製造できなくなる場合もある。一方、基材の温度が前記上限値を超えると、硬化後の基材2の耐食性が低下する傾向を示す。
【0045】
また、グロー放電の電流密度は、0.001〜2mA/cm2であるのが好ましい。グロー放電の電流密度を前記範囲内の値とすることで、イオン窒化を好適に行うことが可能となる。
以上のようにして、基材2に窒化処理が施されて、窒化層(硬化層)22が形成される。
【0046】
このようにして形成される窒化層22の厚さ(平均値)は、特に限定されないが、0.1〜200μmであるのが好ましく、1.0〜50μmであるのがより好ましい。窒化層22の厚さが前記範囲内の値であると、基材2の硬度を特に優れたものにするとともに、鏡面光沢を長時間保つことができる。これにより、例えば、得られる装飾品1Aは、打痕、傷等が特に付き難く、より長期間にわたって、優れた美的外観を保持することができる。
以上の説明では、基材2に対して、窒化処理、浸炭処理の一方のみを行うものとして説明したが、窒化処理と浸炭処理との両方を施してもよい。
【0047】
[被膜の形成]
上記のようにして硬化処理(窒化処理、浸炭処理)が施された基材2の表面に、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜30を形成する(1c)。
本発明では、被膜30を乾式めっき法により形成する。これにより、均質で、かつ基材2との密着性(後述する実施形態においては、下地層との密着性)が特に優れた被膜30を比較的容易に形成することができる。その結果、得られる装飾品1Aの耐久性は、さらに向上する。また、乾式めっき法を用いることにより、特に高密度の被膜30を形成することが可能となる。その結果、装飾品1Aは、長期間にわたって特に優れた美的外観を保持できるものとなる。
【0048】
被膜30は、Ti(Ti元素)および/またはCr(Cr元素)を含む材料で構成されたものであればいかなるものであってもよいが、Ti化合物および/またはCr化合物を含む材料で構成されたものであるのが好ましく、TiN、TiC、TiCN、TiO、CrN、CrC、CrCNおよびCrOよりなる群から選択される少なくとも1種を含む材料で構成されたものであるのがより好ましい。被膜30が上記のような材料で構成されたものであると、得られる装飾品1Aの美的外観を特に優れたものとすることができるとともに、装飾品1A全体としての強度(傷等の付き難さ)を特に優れたものとすることができる。また、上記のような材料(TiN、TiC、TiCN、TiO、CrN、CrC、CrCNおよびCrO)を適宜選択することにより、被膜30の色を好適に調整することができる。例えば、被膜30をTiNで構成した場合、被膜30は金色を有するものとなり、被膜30をTiCで構成した場合、被膜30は濃グレーを有するものとなり、被膜30をTiCNで構成した場合、被膜30は淡グレーを有するものとなり、被膜30をTiOで構成した場合、被膜30は青色を有するものとなり、被膜30をCrNで構成した場合、被膜30は明るい銀色を有するものとなり、被膜30をCrCで構成した場合、被膜30は、濃〜淡グレー色を有するものとなり、被膜30をCrCNで構成した場合、被膜30は重厚な銀色を有するものとなり、被膜30をCrOで構成した場合、被膜30は重厚な銀色を有するものとなる。上記の材料を2種以上組み合わせて用い、これらの配合比を適宜調整することにより、微妙な色合いも比較的容易に表現することができる。その結果、最終的に得られる装飾品1Aを、例えば、従来では製造するのが困難であった、重厚な金属光沢を有するものとすることができる。
また、被膜30の構成材料は、基材2を構成する材料(被膜30が形成される部位の構成材料)のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。言い換えると、被膜30と基材2とは、互いに共通の元素を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、基材2と被膜30との密着性がさらに向上する。
【0049】
被膜30の形成に適用する乾式めっき法としては、例えば、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられるが、中でも、イオンプレーティングが好ましい。これにより、より均質で、かつ、基材や下地層との密着性が特に優れた被膜を比較的容易に形成することができる。その結果、得られる装飾品の耐久性は、特に優れたものとなる。また、イオンプレーティング法を用いることにより、特に高密度の被膜を形成することが可能となり、得られる装飾品は、長期間にわたって特に優れた美的外観を保持できるものとなる。
【0050】
イオンプレーティングは、例えば、以下のような条件で行うのが好ましい。
イオンプレーティング時におけるイオン化電圧は、例えば、15〜200Vであるのが好ましく、20〜130Vであるのがより好ましい。イオン化電圧が前記範囲内の値であると、基材2との密着性に優れた被膜30を形成することができる。また、形成される被膜30は、各部位における膜厚のバラツキが小さいものとなり、内部応力が小さく、クラックが発生し難いものとなる。
【0051】
イオンプレーティング時におけるイオン化電流は、例えば、5〜150Aであるのが好ましく、10〜30Aであるのがより好ましい。イオン化電流が前記範囲内の値であると、基材2との密着性に優れた被膜30を形成することができる。また、形成される被膜30は、各部位における膜厚のバラツキが小さいものとなり、内部応力が小さく、クラックが発生し難いものとなる。
【0052】
被膜30の組成は、イオンプレーティング時における雰囲気ガスの組成等を調整することにより制御することができる。
例えば、前述のようなイオンプレーティングを、酸素を含む雰囲気ガス中で行うことにより、チタンやクロムの酸化物で構成される被膜30を形成することができる。同様に、イオンプレーティングを、窒素を含む雰囲気ガス中で行うことにより、チタンやクロムの窒化物で構成される被膜30を形成することができ、また、アセチレン等の炭化水素を含む雰囲気ガス中で行うことにより、チタンやクロムの炭化物で構成される被膜30を形成することができる。
このように、イオンプレーティングにおいては、雰囲気ガスの組成を適宜選択することにより、容易に、所望の組成を有する被膜30を形成することができる。このように、被膜30の組成を容易に調整することにより、被膜30の特性(例えば、色、光沢度、硬度等)を調整することが可能となる。
【0053】
イオンプレーティング時における雰囲気の圧力は、特に限定されないが、1×10−2〜5×10−1Pa程度であるのが好ましく、1×10−1〜3×10−1Pa程度であるのが好ましい。
イオンプレーティング法により形成される被膜30の厚さ(平均値)は、2〜10μmであるのが好ましく、2〜5μmであるのがより好ましい。被膜30の厚さが前記範囲内の値であると、被膜30は、特に優れた光沢と耐擦傷性とを有するものとなる。その結果、より長期間にわたって優れた美的外観を有する装飾品1Aを得ることができる。
【0054】
一方、被膜30の厚さが前記下限値未満であると、被膜30の効果が十分に得られなくなる。また、被膜30にピンホールが発生し易くなり、得られる装飾品1Aの美的外観が低下する。また、被膜30の厚さが前記上限値を超えると、被膜30の内部応力が高くなり、被膜30と基材2との密着性が低下したり、クラックが発生し易くなる。その結果、装飾品1Aの耐久性が低下し、安定した美的外観が得られなくなる。
【0055】
また、被膜30は、ビッカース硬度Hvが、1500以上であるのが好ましく、1800以上であるのがより好ましく、2100以上であるのがさらに好ましい。被膜30のビッカース硬度Hvが前記下限値未満であると、装飾品1Aの用途によっては、十分な耐擦傷性が得られない可能性がある。
また、被膜30の表面の摩耗係数(耐鋼)は、装飾品1Aの用途等により異なるが、0.8以下であるのが好ましく、0.75以下であるのが好ましく、0.7以下であるのがさらに好ましい。被膜30の表面の摩耗係数が前記のような値であると、装飾品1Aの滑り性が向上し、ザラツキ感を軽減、防止することができ、装飾品1Aが皮膚等に接触したときの違和感、不快感を軽減、防止することができる。
【0056】
なお、被膜30の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、被膜30は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよいし、複数の層からなる積層体であってもよい。
また、被膜30は、図示の構成では基材2の全面に形成されているが、基材2の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
【0057】
[装飾品]
以上説明したような表面処理方法により、装飾品1Aが得られる。
装飾品1Aは、装飾性を備えた物品であればいかなるものでもよいが、例えば、置物等のインテリア、エクステリア用品、宝飾品、時計ケース(胴、裏蓋等)、時計バンド(バンド中留、バンド・バングル着脱機構等を含む)、文字盤、時計用針、ベゼル(例えば、回転ベゼル等)、りゅうず(例えば、ネジロック式りゅうず等)、ボタン等の時計用外装部品、ムーブメントの地板、歯車、輪列受け、回転錘等の時計用内装部品、メガネ、ネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアス等の装身具、ライターまたはそのケース、自動車のホイール、ゴルフクラブ等のスポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、その他ハウジング等を含む各種機器部品、各種容器等が挙げられる。この中でも特に、少なくともその一部が皮膚に接触して用いられるものが好ましく、時計用外装部品がより好ましい。時計用外装部品は、装飾品として外観の美しさが要求されるとともに、実用品として、耐久性、耐食性、耐擦傷性、耐摩耗性や、優れた触感等が要求されるが、本発明によればこれらの要件を全て満足することができる。
【0058】
次に、本発明の表面処理方法および装飾品の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の表面処理方法の第2実施形態を示す断面図である。
以下、第2実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第2実施形態の装飾品について、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0059】
図2に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材2の少なくとも一部(2a)に、窒化処理または浸炭処理による効果処理を施す工程(2b)と、硬化処理が施された基材2上の少なくとも一部に下地層40を形成する工程(2c)と、下地層40上の少なくとも一部に乾式めっき法により被膜30を形成する工程(2d)とを有する。
すなわち、被膜30の形成に先立ち、基材2上の少なくとも一部に、下地層40を形成する以外は、前述した第1実施形態と同様である。
【0060】
以下、下地層40について詳細に説明する。
[下地層]
下地層40は、例えば、基材2と被膜30との密着性を向上させる機能密着(密着向上層としての機能)や、基材2の孔、キズ等をレベリング(ならし)により補修する機能(レベリング層としての機能)、得られる装飾品において、外部からの衝撃を緩和する機能(クッション層としての機能)等、いかなる機能を有するものであってもよい。
【0061】
下地層40の形成方法としては、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式めっき法、溶射、金属箔の接合等が挙げられるが、この中でも特に、乾式めっき法が好ましい。
下地層40の形成方法として、乾式めっき法を用いることにより、形成される下地層40は、基材2との密着性に特に優れたものとなる。その結果、得られる装飾品1Bの長期耐久性は、特に優れたものとなる。
【0062】
下地層40の構成材料は、特に限定されず、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Alやこれらのうち少なくとも1種を含む合金等の金属材料、または、前記金属材料の窒化物、炭窒化物、炭化物、炭酸窒化物、炭酸化物、酸化物等が挙げられるが、Ti、Crまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金であるのが好ましい。下地層40がこのような材料で構成されたものであると、下地層40と基材2との密着性が特に優れたものとなるとともに、基材2の表面の凹凸を緩和するレベリング層としての機能がより顕著に発揮される。また、下地層40が前記のような材料で構成されたものであると、得られる装飾品1Bにおいて、下地層40が外部からの衝撃を緩和するクッション層としてより効果的に機能し、その結果、装飾品1Bは、打痕等の凹みが特に生じ難いものとなる。
【0063】
また、下地層40の構成材料は、基材2を構成する材料(被膜30が形成される部位の構成材料)または被膜30を構成する材料のうち少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。言い換えると、被膜30は、基材2の構成材料中に含まれる元素または被膜30の構成材料中に含まれる元素と、共通の元素を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、下地層40は、基材2、被膜30との密着性が特に優れたものとなる。また、下地層40と被膜30とが、互いに共通の元素(金属元素)を含む材料で構成されたものである場合、金属源および反応ガスを制御することにより、同一装置を用いて連続的に、下地層40と被膜30とを順次形成することができる。これにより、プロセスの効率化を図ることができる。
【0064】
下地層40の厚さ(平均値)は、特に限定されないが、例えば、0.1〜30μmであるのが好ましく、1.0〜10μmであるのがより好ましい。下地層40の平均厚さが前記下限値未満であると、前述したような下地層40の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、下地層40の平均厚さが前記上限値を超えると、下地層40の各部位における膜厚のバラツキが大きくなる傾向を示す。また、下地層40の内部応力が高くなり、クラックが発生し易くなる。
【0065】
なお、上記のような下地層40の形成に先立ち、硬化処理(窒化処理、浸炭処理)が施された基材2に対して、前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理等が挙げられるが、この中でも特に、清浄化処理が好ましい。基材2の表面に、清浄化処理を施すことにより、基材2と下地層40との密着性を特に優れたものとすることができる。
【0066】
以上説明したように、下地層40を形成することにより、例えば、基材2と被膜30との密着性や装飾品1Bの耐食性を高めたり、外部からの衝撃に対する安定性を向上させること等ができる。その結果、装飾品1Bは、より長期間にわたって優れた美的外観を保持することができるものとなる。
なお、下地層40は、図示の構成では基材2の全面に形成されているが、基材2の表面の少なくとも一部に形成されるものであればよい。
【0067】
また、下地層40の各部位における組成は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、下地層40は、その厚さ方向に沿って、組成が順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。また、図示の構成では、下地層が1層のみ形成された構成について説明したが、下地層が2層以上設けられていてもよい(下地層40が2層以上の積層体であってもよい)。
【0068】
また、下地層40は、上記のような機能を有するものに限定されない。例えば、下地層40は、基材2と被膜30との電位差を緩和する緩衝層として機能や、保管時(被膜30の形成の工程までの間)等に腐食が発生するのを防止する機能等を有するものであってもよい。
また、下地層に対して、前記実施形態で説明したような処理(窒化処理、浸炭処理)を施してもよい。
【0069】
次に、本発明の表面処理方法および装飾品の第3実施形態について説明する。
図3、図4、図5は、本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
以下、第3実施形態の表面処理方法および該方法を用いて製造される第3実施形態の装飾品について、前記第1および第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
【0070】
図3〜図5に示すように、本実施形態の表面処理方法は、基材2の少なくとも一部(3a)に、窒化処理または浸炭処理による硬化処理を施す工程(3b)と、硬化処理が施された基材2上の少なくとも一部に第1の下地層41を形成する工程(3c)と、第1の下地層41上の少なくとも一部に乾式めっき法により第1の被膜31を形成する工程(3d)と、第1の被膜31上の少なくとも一部に第2の下地層42を形成する工程(3e)と、第2の下地層42上の少なくとも一部に乾式めっき法により第2の被膜32を形成する工程(3f)と、第2の被膜32上の少なくとも一部に第3の下地層43を形成する工程(3g)と、第3の下地層43上の少なくとも一部に乾式めっき法により第3の被膜33を形成する工程(3h)と、第3の被膜33上の少なくとも一部に第4の下地層44を形成する工程(3i)と、第4の下地層44上の少なくとも一部に乾式めっき法により第4の被膜34を形成する工程(3j)とを有する。
すなわち、下地層(前記第2実施形態での下地層40に対応する第1の下地層41)上に形成された被膜(前記第2実施形態での被膜30に対応する第1の被膜31)上に、下地層と被膜とを、この順で繰り返し積層し、下地層−下地層間に被膜が設けられ、かつ、被膜−被膜間に下地層が設けられた構成とした以外は、前記第2実施形態と同様である。
【0071】
以下、第1の下地層41、第2の下地層42、第3の下地層43、第4の下地層44、第1の被膜31、第2の被膜32、第3の被膜33、第4の被膜34について説明する。
[第1の下地層、第2の下地層、第3の下地層、第4の下地層]
第1の下地層41、第2の下地層42、第3の下地層43、第4の下地層44(以下、これらをまとめて、単に「下地層」とも言う)は、いずれも、前述した下地層40と同様の機能を有するものである。
【0072】
下地層の形成方法は、前述した下地層40の形成方法と同様であるのが好ましい。ただし、各下地層について、形成方法、形成条件は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、下地層の構成材料についても、前述した下地層40の構成材料と同様であるのが好ましい。ただし、各下地層について、構成材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0073】
ところで、本実施形態においては、複数の下地層(第1の下地層41、第2の下地層42、第3の下地層43および第4の下地層44)が、被膜(第1の被膜31、第2の被膜32および第3の被膜33)を介して積層された構成となっている。
このような構成を有することにより、各下地層の厚さが比較的薄いものであっても、前記第2実施形態で説明した下地層の機能(下地層40の機能)を十分に発揮することができる。また、各下地層の厚さを比較的薄いものとすることにより、各層内において内部応力が高くなるのをより効果的に防止することができ、その結果、得られる装飾品1Cはクラック等の欠陥を特に生じ難いものとなる。
【0074】
具体的には、各下地層(第1の下地層41、第2の下地層42、第3の下地層43、第4の下地層44)の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1〜5.0μmであるのが好ましく、0.1〜3.0μmであるのがより好ましい。
また、本実施形態のように複数の下地層を有する場合、各下地層の厚さの和は、0.1〜30μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましい。
【0075】
[第1の被膜、第2の被膜、第3の被膜、第4の被膜]
第1の被膜31、第2の被膜32、第3の被膜33、第4の被膜34(以下、これらをまとめて、単に「被膜」とも言う)は、いずれも、前述した被膜30と同様の機能を有するものである。
被膜の形成方法、形成条件は、前述した被膜30の形成方法、形成条件と同様であるのが好ましい。ただし、各被膜について、形成方法、形成条件は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、被膜の構成材料についても、前述した被膜30の構成材料と同様であるのが好ましい。ただし、各被膜について、構成材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0076】
ところで、本実施形態においては、複数の被膜(第1の被膜31、第2の被膜32、第3の被膜33および第4の被膜34)が、被膜(第2の被膜32、第3の被膜33および第4の被膜34)を介して積層された構成となっている。
このような構成を有することにより、各被膜の厚さが比較的薄いものであっても、前記第1実施形態で説明した被膜の機能(被膜30の機能)を十分に発揮することができる。また、各被膜の厚さを比較的薄いものとすることにより、各層内において内部応力が高くなるのをより効果的に防止することができ、その結果、得られる装飾品1Cはクラック等の欠陥を特に生じ難いものとなる。
具体的には、被膜(第1の被膜31、第2の被膜32、第3の被膜33、第4の被膜34)の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1〜50μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましい。
【0077】
上記のように、本実施形態では、下地層と被膜とが交互に設けられている。このように、下地層と被膜とが交互に設けられることにより、各層(下地層、被膜)の厚さを比較的薄いものとしても、十分な硬度を有し、外部からの衝撃による変形等を生じ難く、また、優れた美的外観を有するものとなる。特に、各下地層が、Ti、Crまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金で構成されたものであると、上述したクッション層としての機能がより顕著に発揮される。すなわち、各下地層が、前述したような材料で構成されたものであると、装飾品1Cは、外部からの衝撃等を受けた場合であっても、打痕等の凹みが特に生じ難いものとなる。これにより、装飾品は(特に、ダイバー用ウォッチや登山用ウォッチのように、身に付けて使用し、外部からの衝撃を受け易い装飾品であっても)、より長期間にわたって、優れた美的外観を維持することができるものとなる。
【0078】
なお、隣接する2つの層(下地層または被膜)は、互いに共通の元素を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、当該隣接する層同士の密着性がさらに向上する。また、隣接する層(下地層または被膜)が、互いに共通の元素(金属元素)を含む材料で構成されたものである場合、金属源および反応ガスを制御することにより、同一装置を用いて連続的に、下地層と被膜とを順次形成することができる。これにより、プロセスの効率化を図ることができる。
【0079】
以上、本発明の表面処理方法および装飾品の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の装飾品の表面処理方法では、必要に応じて、任意の目的の工程を追加することもできる。
また、前述した第3実施形態においては、4層の下地層(第1の下地層41、第2の下地層42、第3の下地層43および第4の下地層44)と、4層の被膜(第1の被膜31、第2の被膜32、第3の被膜33および第4の被膜34)とが交互に積層された構成のものについて説明したが、例えば、下地層、被膜が、それぞれ、2層ずつ設けられたものであってもよいし、3層ずつ設けられたものであってもよいし、5層以上ずつ設けられたものであってもよい。
【0080】
また、被膜は2層以上の積層体で構成されたものであってもよい。
また、下地層は2層以上の積層体で構成されたものであってもよい。
また、基材が前述したような基部と表面層とを有するものである場合、基部と下地層との間に少なくとも1層の中間層が形成されていてもよい。
また、基材は、複数の層からなる積層体であってもよい。
また、装飾品の表面の少なくとも一部には、耐食性、耐候性、耐水性、耐油性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐変色性等を付与し、防錆、防汚、防曇、防傷等の効果を向上する保護層等が形成されていてもよい。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.装飾品の製造
(実施例1)
以下に示すような表面処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
【0082】
まず、ステンレス鋼(SUS444)を用いて、鋳造により、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基材の表面に、浸炭処理を行った。
【0083】
浸炭処理は、以下に説明するようなプラズマ浸炭処理により行った。
すなわち、加熱炉内にグラファイトファイバー等の断熱材で囲まれた処理室を有し、この処理室内をロッドグラファイトからなる発熱体で加熱すると共に、処理室内の上部に直流グロー放電の正極を接続し、かつ処理品の載置台に陰極を接続し、また処理室内の要所にガスマニホールドを設置して炭化水素、窒素、アルゴン、水素などのプロセスガス(浸炭用ガスおよび希釈用ガス)を適宜導入するようにした浸炭処理装置を用意した。
【0084】
そして、まず、浸炭処理装置の処理室内に基材を設置し、処理室内を1.3Paまで減圧した。このように、処理室内が減圧された状態で、ヒータにより、基材を約300℃に加熱した。
その後、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
【0085】
その後、処理室内にプロパンガスを導入することにより、処理室内のガス組成をほぼ100%プロパンガスとし、ガス圧力を53Paとし、400Vの直流電圧を印加して90〜180分保持することにより、プラズマ浸炭処理を行った。その後、アルゴンガスおよび窒素ガスを処理室内に圧入して基材を常温にまで冷却した。このような浸炭処理により、約15μmの厚さの浸炭層が形成された。
【0086】
次に、上記のようにして浸炭処理を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、以下のようにしてクロム化合物で構成される被膜を形成した。
まず、イオンプレーティング装置の処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して、5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
【0087】
その後、処理室内に窒素ガスを、ガス圧力を53Paで導入し、400Vの直流電圧を印加して30〜60分保持した。このような状態で、ターゲットとしてCrを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定することにより、CrNで構成される被膜を形成し、装飾品を得た。形成された被膜の平均厚さは、3μmであった。被膜の厚さは、JIS H 5821の顕微鏡断面試験方法により測定した。
【0088】
(実施例2)
以下に示すような表面処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース(胴))を製造した。
まず、金属粉末射出成形(MIM)により、腕時計ケース(胴)の形状を有するTi製の基材を作製した。
【0089】
Ti製の基材は、以下のようにして作製した。
まず、ガスアトマイズ法により製造された平均粒径52μmのTi粉末を用意した。
このTi粉末:75vol%と、ポリエチレン:8vol%と、ポリプロピレン:7vol%と、パラフィンワックス:10vol%とからなる材料を混練した。前記材料の混練には、ニーダーを用いた。また、混練時における材料温度は60℃であった。
【0090】
次に、得られた混練物を粉砕、分級して平均粒径3mmのペレットとした。このペレットを用いて、射出形成機にて金属粉末射出成形(MIM)し、腕時計ケースの形状を有する成形体を製造した。このとき成形体は、脱バインダー処理、焼結時での収縮を考慮して成形した。射出成形時における成形条件は、金型温度40℃、射出圧力80kgf/cm、射出時間20秒、冷却時間40秒であった。
【0091】
次に、前記成形体に対して、脱脂炉を用いた脱バインダー処理を施し、脱脂体を得た。この脱バインダー処理は、1.0×10−1Paのアルゴンガス雰囲気中、80℃で1時間、次いで、10℃/時間の速度で400℃まで昇温した。熱処理時におけるサンプルの重さを測定し、重量低下がなくなった時点を脱バインダー終了時点とした。
次に、このようにして得られた脱脂体に対し、焼結炉を用いて焼結を行い、基材を得た。この焼結は、1.3×10−3〜1.3×10−4Paのアルゴンガス雰囲気中で、900〜1100℃×6時間の熱処理を施すことにより行った。
【0092】
以上のようにして得られた基材について、その必要箇所を切削、研磨した後、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基材の表面に、窒化処理を行った。
【0093】
窒化処理は、以下に説明するようなイオン窒化処理により行った。
まず、イオン窒化処理装置の処理室内に基材を設置し、処理室内を1.3×10−3Paまで減圧した。このように、処理室内が減圧された状態で、ヒータにより基材を300℃に加熱した。
次に、処理室内に水素ガスとアンモニアガスとを導入した。導入後における、処理室内での水素ガスの分圧は、1.3×10−4Pa、アンモニアガスの分圧は、1.2×10−4Paであった。
その後、400Vの直流電圧を印加し、温度300に加熱して8時間保持しながら、グロー放電を行い、窒化処理を行い約15μmの厚さの窒化層を形成した。
【0094】
次に、上記のようにして窒化処理を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、以下のようにしてチタン化合物で構成される被膜を形成した。
まず、イオンプレーティング装置の処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して、5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
【0095】
その後、処理室内に窒素ガスを、ガス圧力を53Paで導入し、400Vの直流電圧を印加して30〜60分保持した。このような状態で、ターゲットとしてTiを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定し、4時間保持することにより、TiNで構成される被膜を形成し、装飾品を得た。形成された被膜の平均厚さは、3μmであった。被膜の厚さは、JIS H 5821の顕微鏡断面試験方法により測定した。
【0096】
(実施例3)
以下に示すような表面処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
まず、ステンレス鋼(SUS444)を用いて、鋳造により、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
【0097】
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基材の表面に、前記実施例2と同様の条件で窒化処理を行った。
【0098】
次に、窒化処理を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、以下のようにしてTiで構成される下地層を形成した。
まず、イオンプレーティング装置の処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して、5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
【0099】
その後、処理室内にアルゴンガスを、ガス圧力を53Paで導入し、400Vの直流電圧を印加して30〜60分保持した。このような状態で、ターゲットとしてTiを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定し、1時間保持することにより、Tiで構成される下地層を形成した。形成された下地層の平均厚さは、2.0μmであった。
【0100】
次に、下地層が形成された基材に対して、引き続き、上記のイオンプレーティングを用いて、以下のようにしてチタン化合物で構成される被膜を形成した。
まず、処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、アルゴンガス流量100ml/分で、ボンバード処理を3分間行った。ボンバード処理における処理室内の圧力は、9×10−2Paであった。
【0101】
次に、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガス、アセチレンガスを、それぞれ、160ml/分、160ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとした。このような状態で、ターゲットとしてTiを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定することにより、TiCNで構成される被膜を形成し、装飾品を得た。形成された被膜の平均厚さは、3μmであった。
下地層、被膜の厚さは、JIS H 5821の顕微鏡断面試験方法により測定した。
【0102】
(実施例4)
以下に示すような表面処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
まず、金属粉末射出成形(MIM)により、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有するTi製の基材を作製した。金属粉末射出成形(MIM)は、前記実施例2と同様の条件で行った。
【0103】
その後、得られた基材について、必要箇所を切削、研磨した後、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基材の表面に、前記実施例1と同様の条件で浸炭処理を行った。
【0104】
次に、浸炭処理を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、以下のようにしてZrで構成される下地層を形成した。
まず、イオンプレーティング装置の処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して、5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
【0105】
その後、処理室内にアルゴンガスを、ガス圧力を53Paで導入し、400Vの直流電圧を印加して30〜60分保持した。このような状態で、ターゲットとしてZrを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定し、1時間保持することにより、Zrで構成される下地層を形成した。形成された下地層の平均厚さは、2.0μmであった。
【0106】
次に、下地層が形成された基材に対して、引き続き、上記のイオンプレーティングを用いて、以下のようにしてクロム化合物で構成される被膜を形成した。
まず、処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、アルゴンガス流量100ml/分で、ボンバード処理を3分間行った。ボンバード処理における処理室内の圧力は、9×10−2Paであった。
【0107】
次に、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガス、アセチレンガスを、それぞれ、160ml/分、160ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとした。このような状態で、ターゲットとしてCrを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定することにより、CrCNで構成される被膜を形成し、装飾品を得た。形成された被膜の平均厚さは、3μmであった。
下地層、被膜の厚さは、JIS H 5821の顕微鏡断面試験方法により測定した。
【0108】
(実施例5)
以下に示すような表面処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース(胴))を製造した。
まず、アルミナ(Al)粉末を用いて、粉末冶金焼結により、腕時計ケース(胴)の形状を有する部材(基部)を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
【0109】
次に、この部材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄処理を行った部材の表面に、Tiで構成される表面層を形成し、基部と表面層とを有する基材を得た。
【0110】
表面層は、イオンプレーティング装置を用いて、以下のようにして形成した。
まず、イオンプレーティング装置の処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して、5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
【0111】
その後、処理室内にアルゴンガスを、ガス圧力を53Paで導入し、400Vの直流電圧を印加して30〜60分保持した。このような状態で、ターゲットとしてTiを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定し、1時間保持することにより、Tiで構成される表面層を形成した。形成された表面層の平均厚さは、2.0μmであった。
【0112】
次に、上記のようにして製造された基材を洗浄した。この洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基材の表面に、前記実施例2と同様の条件で窒化処理を行った。
次に、窒化処理を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、前記実施例3と同様の条件で、Tiで構成される下地層を形成した。
【0113】
次に、下地層が形成された基材に対して、引き続き、上記の窒化処理装置を用いたイオンプレーティングにより、以下のようにしてチタン化合物で構成される被膜を形成した。
まず、処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、アルゴンガス流量100ml/分で、ボンバード処理を3分間行った。ボンバード処理における処理室内の圧力は、9×10−2Paであった。
【0114】
次に、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、酸素ガスを導入し、処理室内の圧力を1×10−1Paとした。このような状態で、ターゲットとしてTiを用い、イオン化電圧:25V、イオン化電流:110Aに設定することにより、TiOで構成される被膜を形成し、装飾品を得た。形成された被膜の平均厚さは、10μmであった。
表面層、下地層、被膜の厚さは、JIS H 5821の顕微鏡断面試験方法により測定した。
【0115】
(実施例6)
以下に示すような表面処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
まず、ステンレス鋼(SUS444)を用いて、鋳造により、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
【0116】
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基材の表面に、前記実施例2と同様の条件で窒化処理を行った。
【0117】
次に、窒化処理を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、以下のようにしてCrで構成される第1の下地層を形成した。
まず、イオンプレーティング装置の処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して、5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
【0118】
その後、処理室内にアルゴンガスを、ガス圧力を53Paで導入し、400Vの直流電圧を印加して30〜60分保持した。このような状態で、ターゲットとしてCrを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定し、1時間保持することにより、Crで構成される第1の下地層を形成した。形成された第1の下地層の平均厚さは、2.0μmであった。
【0119】
次に、第1の下地層が形成された基材に対して、引き続き、上記のイオンプレーティングを用いて、以下のようにしてクロム化合物で構成される第1の被膜を形成した。
まず、処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、アルゴンガス流量100ml/分で、ボンバード処理を3分間行った。ボンバード処理における処理室内の圧力は、9×10−2Paであった。
【0120】
次に、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、アセチレンガスを45ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとした。このような状態で、ターゲットとしてCrを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定することにより、CrCで構成される第1の被膜を形成した。形成された第1の被膜の平均厚さは、5μmであった。
その後、第1の下地層、第1の被膜が積層された基材に対して、引き続き、上記の窒化処理装置を用いて、第2の下地層、第2の被膜、第3の下地層、第3の被膜、第4の下地層、第4の被膜を順次形成した。
【0121】
第2の下地層は、ターゲットとして、Alを用いた以外は、前記第1の下地層と同様にイオンプレーティングにより形成した。また、第3の下地層および第4の下地層は、ターゲットとして、Tiを用いた以外は、前記第1の下地層と同様にイオンプレーティングにより形成した。形成された第2の下地層、第3の下地層、第4の下地層の平均厚さは、それぞれ、1.0μm、1.0μm、1.0μmであった。
また、第2の被膜、第3の被膜および第4の被膜は、イオンプレーティング時におけるターゲットおよび雰囲気ガスの組成を変更した以外は、前記第1の被膜と同様にイオンプレーティングにより形成した。
【0122】
すなわち、第2の被膜は、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガス、アセチレンガスを、それぞれ、160ml/分、160ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとし、このような状態で、ターゲットとしてCrを用いてイオンプレーティングを行うことにより、CrCNで構成される膜として形成した。また、第3の被膜は、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガス、アセチレンガスを、それぞれ、160ml/分、160ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとし、このような状態で、ターゲットとしてTiを用いてイオンプレーティングを行うことにより、TiCNで構成される膜として形成した。また、第4の被膜は、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガスを50ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとし、このような状態で、ターゲットとしてTiを用いてイオンプレーティングを行うことにより、TiNで構成される膜として形成した。形成された第2の被膜、第3の被膜、第4の被膜の平均厚さは、それぞれ、1.0μm、1.0μm、1.0μmであった。
下地層(第1の下地層、第2の下地層、第3の下地層および第4の下地層)、被膜(第1の被膜、第2の被膜、第3の被膜および第4の被膜)の厚さは、JIS H 5821の顕微鏡断面試験方法により測定した。
【0123】
(実施例7)
以下に示すような表面処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
まず、金属粉末射出成形(MIM)により、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有するTi製の基材を作製した。金属粉末射出成形(MIM)は、前記実施例2と同様の条件で行った。
【0124】
その後、得られた基材について、必要箇所を切削、研磨した後、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
このようにして洗浄を行った基材の表面に、前記実施例1と同様の条件で浸炭処理を行った。
【0125】
次に、浸炭処理を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、前記実施例3での下地層の形成条件と同様の条件で、Tiで構成される第1の下地層を形成した。
次に、第1の下地層が形成された基材に対して、引き続き、上記のイオンプレーティング装置を用いて、以下のようにしてチタン化合物で構成される第1の被膜を形成した。
まず、処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
【0126】
次に、アルゴンガス流量100ml/分で、ボンバード処理を3分間行った。ボンバード処理における処理室内の圧力は、9×10−2Paであった。
次に、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガス、アセチレンガスを、それぞれ、160ml/分、160ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとした。このような状態で、ターゲットとしてTiを用い、イオン化電圧:30V、イオン化電流:140Aに設定することにより、TiCNで構成される第1の被膜を形成した。形成された第1の被膜の平均厚さは、4μmであった。
【0127】
その後、第1の下地層、第1の被膜が積層された基材に対して、引き続き、上記の浸炭処理装置を用いて、第2の下地層、第2の被膜、第3の下地層、第3の被膜、第4の下地層、第4の被膜を順次形成した。
第2の下地層、第3の下地層および第4の下地層は、前記第1の下地層と同様にイオンプレーティングにより形成した。形成された第2の下地層、第3の下地層、第4の下地層の平均厚さは、それぞれ、1.0μm、2.0μm、3.0μmであった。
また、第2の被膜、第3の被膜および第4の被膜は、イオンプレーティング時における雰囲気ガスの組成を変更した以外は、前記第1の被膜と同様にイオンプレーティングにより形成した。
【0128】
すなわち、第2の被膜は、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、アセチレンガスを45ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとし、このような状態で、ターゲットとしてTiを用いてイオンプレーティングを行うことにより、TiCで構成される膜として形成した。また、第3の被膜は、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガス、アセチレンガスを、それぞれ、160ml/分、160ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとし、このような状態で、ターゲットとしてTiを用いてイオンプレーティングを行うことにより、TiCNで構成される膜として形成した。また、第4の被膜は、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、窒素ガスを50ml/分の流量で導入し、処理室内の圧力を3×10−1Paとし、このような状態で、ターゲットとしてTiを用いてイオンプレーティングを行うことにより、TiNで構成される膜として形成した。形成された第2の被膜、第3の被膜、第4の被膜の平均厚さは、それぞれ、2.0μm、2.0μm、2.0μmであった。
下地層(第1の下地層、第2の下地層、第3の下地層および第4の下地層)、被膜(第1の被膜、第2の被膜、第3の被膜および第4の被膜)の厚さは、JIS H 5821の顕微鏡断面試験方法により測定した。
【0129】
(比較例1)
浸炭処理後に、被膜を形成しなかった以外は、前記実施例1と同様にして装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
(比較例2)
窒化処理後に、被膜を形成しなかった以外は、前記実施例2と同様にして装飾品(腕時計ケース(胴))を製造した。
【0130】
(比較例3)
浸炭処理を施さずに、基材の表面に直接被膜を形成した以外は、前記実施例1と同様にして装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
(比較例4)
窒化処理を施さずに、基材の表面に直接被膜を形成した以外は、前記実施例2と同様にして装飾品(腕時計ケース(胴))を製造した。
各実施例および各比較例の表面処理方法の条件を表1にまとめて示す。
【0131】
【表1】

【0132】
2.装飾品の外観評価
前記実施例1〜7および比較例1〜4で製造した各装飾品について、目視および顕微鏡による観察を行い、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:外観優良(光沢度大)。
○:外観良(光沢度中)。
△:外観やや不良(光沢度やや小、または表面の荒れあり)。
×:外観不良(光沢度小、または表面の荒れ顕著)。
【0133】
3.被膜の耐擦傷性評価
前記実施例1〜7および比較例1〜4で製造した各装飾品について、以下に示すような試験を行い、耐擦傷性を評価した。
ステンレス製のブラシを、各装飾品の表面上に押し付け、50往復摺動させた。このときの押し付け荷重は、0.2kgfであった。
【0134】
その後、装飾品表面を目視により観察し、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
◎:被膜の表面に、傷の発生が全く認められない。
○:被膜の表面に、傷の発生がほとんど認められない。
△:被膜の表面に、傷の発生がわずかに認められる。
×:被膜の表面に、傷の発生が顕著に認められる。
【0135】
4.装飾品の対打痕性評価
前記実施例1〜7および比較例1〜4で製造した各装飾品について、以下に示すような試験を行うことにより、耐打痕性を評価した。
SUS鉱製の球(径1cm)を、各装飾品の上方で高さ50cmの位置から落下させて、装飾品表面の凹み大きさ(凹み痕の直径)の測定を行い、以下の4段階の基準に従い、評価した。
【0136】
◎:凹み痕の直径が1mm未満、または、凹み痕が求められない。
○:凹み痕の直径が1mm以上2mm未満。
△:凹み痕の直径が2mm以上3mm未満。
×:凹み痕の直径が3mm以上。
これらの結果を、被膜の色、ビッカース硬度Hvとともに表2に示す。なお、ビッカース硬度Hvとしては、各装飾品の被膜表面について、測定荷重100gfにて測定した値を示す。
【0137】
【表2】

【0138】
表2から明らかなように、本発明の表面処理方法を用いて製造された装飾品は、いずれも優れた美的外観を有しており、耐擦傷性にも優れていた。
また、本発明の表面処理方法を用いて製造された装飾品は、耐打痕性にも優れていた。これらの結果から、本発明の装飾品は、長期間にわたって優れた美的外観を保持することができるものであることがわかる。また、下地層を有する装飾品は、表面が平滑化され、特に優れた美的外観を有していた。また、下地層と被膜とを複数回積層して得られた装飾品(実施例7および8の装飾品)では、特に優れた結果が得られた。
また、本発明の表面処理方法を用いて製造された装飾品は、いずれも、ザラツキ感のない、優れた触感を有していた。
また、実施例1〜7においては、イオンプレーティング時の雰囲気組成を適宜選択することにより、容易に、所望の組成、特性を有する被膜を形成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の表面処理方法の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の表面処理方法の第2実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の表面処理方法の第3実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0140】
1A、1B、1C…装飾品 2…基材 21…浸炭層 22…窒化層 30…被膜 31…第1の被膜 32…第2の被膜 33…第3の被膜 34…第4の被膜 40…下地層 41…第1の下地層 42…第2の下地層 43…第3の下地層 44…第4の下地層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面付近の一部が主としてTiおよび/またはステンレス鋼で構成された基材の少なくとも一部に、窒化処理または浸炭処理による硬化処理を施す工程と、
前記硬化処理が施された前記基材上に、乾式めっきにより、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜を形成する工程とを有することを特徴とする装飾品の表面処理方法。
【請求項2】
少なくとも表面付近の一部が主としてTiおよび/またはステンレス鋼で構成された基材の少なくとも一部に、窒化処理または浸炭処理による硬化処理を施す工程と、
前記硬化処理が施された前記基材上に、少なくとも1層の下地層を形成する工程と、
前記下地層上に、乾式めっきにより、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜を形成する工程とを有することを特徴とする装飾品の表面処理方法。
【請求項3】
前記下地層を形成する工程と、前記被膜を形成する工程とを繰り返し行い、前記下地層と前記被膜とを複数回積層する請求項2に記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項4】
前記下地層のうち少なくとも1層は、前記基材の表面の凹凸を緩和するレベリング層である請求項2または3に記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項5】
前記下地層は、乾式めっきにより形成される請求項2ないし4のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項6】
前記下地層は、Ti、Crまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金から構成される請求項2ないし5のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項7】
前記基材は、その表面の少なくとも一部に、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工から選択される表面加工が施されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項8】
前記基材は、基部と、該基部上に設けられた表面層とを有するものである請求項1ないし7のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項9】
前記表面層の厚さは、0.1〜50μmである請求項1ないし8のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項10】
前記窒化処理は、前記基材を300〜500℃の温度に保持し、アンモニアガスと水素ガスとを含む雰囲気中でグロー放電を行うイオン窒化である請求項1ないし9のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項11】
前記窒化処理により形成される窒化層の厚さが、0.1〜200μmである請求項1ないし10のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項12】
前記浸炭処理は、10〜700Paの炭化水素系ガスを含み、かつ、温度が400〜900℃の雰囲気中で行うプラズマ浸炭処理である請求項1ないし11のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項13】
前記浸炭処理により形成される浸炭層の厚さが、0.1〜200μmである請求項1ないし12のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項14】
前記被膜をイオンプレーティング法により形成する請求項1ないし13のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項15】
前記イオンプレーティング時におけるイオン化電圧が、15〜200Vである請求項14に記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項16】
前記イオンプレーティング時におけるイオン化電流が、5〜150Aである請求項14または15に記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項17】
前記イオンプレーティング時における雰囲気の圧力が、1×10−3〜1.5Paである請求項14ないし16のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項18】
前記被膜は、TiN、TiC、TiCN、TiO、CrN、CrC、CrCNおよびCrOよりなる群から選択される少なくとも1種を含む材料で構成されたものである請求項1ないし17のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項19】
前記被膜の厚さは、2〜10μmである請求項1ないし18のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法。
【請求項20】
請求項1ないし19のいずれかに記載の装飾品の表面処理方法を用いて製造されたことを特徴とする装飾品。
【請求項21】
窒化処理または浸炭処理により形成された硬化層を有する基材と、
前記基材上に乾式めっきにより形成され、かつ、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜とを有することを特徴とする装飾品。
【請求項22】
窒化処理または浸炭処理により形成された硬化層を有する基材と、
前記硬化層上に形成された、少なくとも1層の下地層と、
前記下地層上に乾式めっきにより形成され、かつ、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された被膜とを有することを特徴とする装飾品。
【請求項23】
窒化処理または浸炭処理により形成された硬化層を有する基材と、
複数の下地層と、
乾式めっきにより形成され、かつ、Tiおよび/またはCrを含む材料で構成された、複数の被膜とを有する装飾品であって、
複数の前記下地層と前記被膜とが交互に積層されていることを特徴とする装飾品。
【請求項24】
少なくともその一部が皮膚に接触して用いられる請求項20ないし23のいずれかに記載の装飾品。
【請求項25】
装飾品は、時計用外装部品である請求項20ないし24のいずれかに記載の装飾品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−133542(P2008−133542A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317385(P2007−317385)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【分割の表示】特願2003−330620(P2003−330620)の分割
【原出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】