説明

複列転がり軸受、及び胴支持構造

【課題】 予圧を調整可能とし、且つ、軸端側の内外輪の傾きを抑制可能とすること。
【解決手段】 一対の内輪素子2a、2b間に、当該一対の内輪素子2a、2bの円周方向にスラスト玉軸受の剛球9を挟み込んだ。そのため、軸端側の内輪素子2aを胴14側に押圧すると、軸端側の内輪素子2aの傾き箇所が剛球9と当接し、当該箇所に前記傾きを戻す力が働き、軸端側の内輪素子2aが胴14側の内輪素子2bと平行な状態となり、その結果、軸端側の内輪素子2a及び外輪素子11aの傾きを抑制することができる。
また、ナット16を締め込み、軸端側の内輪素子2aを胴14側に移動させたとする。すると、軸端側の内輪素子2aと胴14側の内輪素子2aとによって剛球9が圧縮され、剛球9が弾性変形する。そのため、軸端側の内輪素子2aと胴14側の内輪素子2bとの間の距離を縮めることができ、その結果、転がり軸受1の予圧を調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予圧を付加した状態で使用される複列転がり軸受、及び当該複列転がり軸受を適用した胴支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予圧を付加した状態で使用される転がり軸受としては、例えば、一対の単列円すいころ軸受と間座とで構成される組み合わせ軸受がある(例えば、特許文献1参照)。
このような組み合わせ軸受にあっては、一般に、一対の単列円すいころ軸受の外輪間に外輪間座を挟み込むことで、当該単列円すい軸受の内輪間に、すきまが設けられている。
そして、上述の組み合わせ軸受により印刷機の胴(シリンダ)を支持する場合には、まずその胴の軸方向両端面に当該胴と同軸に突設した回転軸に内輪を固定する。そして、回転軸の先端に螺合されたナットを締め込み、ナット端面で軸端側の内輪を胴側に押圧して、内輪同士が近づく方向に力を加えることで、所望の予圧を付与するようになっている。
【特許文献1】特開2004−60758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術にあっては、内輪間にすきまが設けられているため、軸端に螺合されているナットを締め込んだときに、回転軸とナットのねじ部とのすきまや、ナット端面の寸法誤差等によって、軸端側の内輪に傾きが発生してしまう恐れがあった。
また、軸端側の内輪が傾くことで、軸端側の外輪に外輪間座との間で相対的な位置ずれが発生し、その結果、軸端側の単列円すいころ軸受全体が傾いてしまう恐れがあった。
【0004】
さらに、軸端側の軸受に傾きが生じると、円すいころの予圧が不均一となり、組み合わせ軸受の剛性が低下してしまう。そのため、組み合わせ軸受の振れが増大し、胴の変位を抑制できず、胴の振れが増大し、その結果、印刷の品質が悪化してしまう恐れがあった。
本発明は、上記従来の技術の未解決の課題を解決することを目的とするものであって、軸受の予圧を調整することができ、且つ、軸端側の内輪及び外輪の傾きを抑制することができる複列転がり軸受、及び胴支持構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の複列転がり軸受は、一対の単列転がり軸受が背面組み合わせされて構成される複列転がり軸受であって、前記一対の単列転がり軸受の内輪間に、所定の転がり軸受の複数の転動体を所定間隔をとって挟み込んだことを特徴とする。なお、一対の単列転がり軸受の外輪は、一部材で一体に形成してもよく、別部材で別体として形成してもよい。
【0006】
また、前記複数の転動体を、スラスト軸受の保持器で保持するようにしてもよい。
さらに、前記内輪と前記転動体との間に、内輪間座を挟み込むようにしてもよい。
また、前記一対の単列転がり軸受の内輪間に、スラスト玉軸受を挟み込むようにしてもよい。
さらに、上記課題を解決するために、本発明の胴支持構造は、請求項1から4のいずれか1項に記載の複列転がり軸受によって印刷機の胴を支持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明によれば、複列転がり軸受を印刷機の胴の回転軸に圧入した場合、軸端側の内輪を胴側に押圧すると、軸端側の内輪の傾き箇所が内輪間に挟み込まれた転動体と当接し、当該箇所に前記傾きを戻す力が働き、軸端側の内輪が胴側の内輪と平行な状態、つまり、回転軸に対して傾きのない状態となる。そのため、軸端側の外輪の傾きを抑制することができ、その結果、軸端側の内輪及び外輪の傾きを抑制することができる。
【0008】
また、軸端側の内輪が傾きのない状態となった後に、ナットを締め込み、軸端側の内輪を胴側に押圧したとする。すると、軸端側の内輪と胴側の内輪とで転動体が圧縮され、転動体が弾性変形する。そのため、軸端側の内輪を胴側に移動でき、軸端側の内輪と胴側の内輪との間の距離を縮めることができ、その結果、軸受の予圧を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の複列転がり軸受の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
<複列転がり軸受(複列円すい転がり軸受)の構造>
図1は、本実施形態の転がり軸受1を破断して示す断面図である。この図1に示すように、転がり軸受1は、一対の単列転がり軸受Aが外輪間座Bを挟んで背面組み合わせされて構成されている。具体的には、一対の内輪素子2、単一の外輪組立体3、及び内輪素子2と外輪組立体3との間に転動自在に配された複数の円すいころ4を含んで構成される。
【0010】
内輪素子2は、転がり軸受1に嵌め込まれる軸の外周形状に対応した径(当該軸を嵌め込める径)を有する円筒の内面状に内周面が形成されている。また、内輪素子2は、円すいの外面状とされ、円すいころ4を転動可能な内輪軌道面5が外周面に形成されている。さらに、内輪素子2の外周面には、内輪軌道面5を転動する円すいころ4の大径側側面と当接する大つば6と円すいころ4の小径側側面と当接する小つば7とが形成されている。
【0011】
そして、内輪素子2は、各内輪軌道面5の傾斜方向を互いに逆方向とした状態(内輪素子2の小径側が互いに対向された状態)で配される。また、内輪素子2間(小つば7間)には、スラスト玉軸受の保持器8で保持された複数の鋼球(転動体)9、ならびに内輪間座10が直列に挟み込まれる(一方の内輪素子2と剛球9との間に、内輪間座10が挟み込まれる)。即ち、内輪素子2間には、内輪素子2の小つば7の円周方向に剛球9がほぼ等間隔に配置されている。また、内輪間座10は、円環状の平板で形成されており、転がり軸受1に最適な予圧が円すいころ4に付加されるように厚み(幅)が設定されている。
【0012】
外輪組立体3は、一対の外輪素子11及び外輪間座12を含んで一部材で形成されている。外輪素子11は、転がり軸受1が嵌め込まれるハウジングの内周形状に対応した形状(嵌め込み可能な形状)に外周面が形成されている。また、外輪素子11は、円すいの内面状とされ、円すいころ4を転動可能な外輪軌道面13が内周面に形成されている。
そして、外輪組立体3は、各外輪軌道面13の傾斜方向を互いに逆方向とし(外輪素子11の小径側が互いに対向された状態とし)、且つ、外輪間座12が介挿された状態で、一対の外輪素子11が突き合わされて一部材で一体に構成される。
【0013】
<複列転がり軸受(複列円すい転がり軸受)の動作>
次に、本実施形態の転がり軸受の動作を、具体的状況に基づいて説明する。
図2は、転がり軸受1で印刷機の胴14を支持するために、その胴14の軸方向両端面に胴14と同軸に突設した回転軸15に内輪素子2を圧入した状態を示す断面図である。
この図2に示すように、回転軸15の先端に螺合されたナット16を締め込み、ナット16によって軸端側の内輪素子2aの大つば6aを胴14側に押圧したとする。すると、内輪間座10及び剛球9を介して、胴14側の内輪素子2bの小つば7bが胴14側に押圧され、軸端側の内輪素子2aと胴14側の内輪素子2bとが一定の距離(内輪間座10及び剛球9に対応する距離)を保って胴14側に移動する。そして、胴14側の内輪素子2bの大つば6bが回転軸15のつば15aに当接すると、胴14側の内輪素子2bの軸方向の動きが拘束され、また、内輪素子2b(内輪間座10)が傾きのない状態となる。
【0014】
ここで、回転軸15とナット16とのねじ部のすきまや、ナット16端面の寸法誤差により、軸端側の内輪素子2aが傾いていたとする。すると、傾いていた箇所が内輪間座10と当接し、当該箇所に軸端側の内輪素子2aの傾きを戻す力が働き、軸端側の内輪素子2aが内輪間座10と平行な状態となる(軸端側の内輪素子2aの小つば7aと胴14側の内輪素子2bの小つば7bとが平行となる。内輪素子2aが傾きのない状態となる)。
【0015】
軸端側の内輪素子2bが傾きのない状態となった後に、ナット16を締め込み、軸端側の内輪素子2aを胴14側に移動させたとする。すると、軸端側の内輪素子2aの小つば7a(内輪間座10)と胴14側の内輪素子2bの小つば7bとで剛球9が圧縮され、剛球9が弾性変形する(軸方向の距離が縮まる)。そのため、軸端側の内輪素子2aと胴14側の内輪素子2bとの間の距離が縮まり、その結果、転がり軸受1の予圧が増加する。
【0016】
このように、本実施形態の転がり軸受1にあっては、一対の内輪素子2a、2b間に、円周方向にスラスト玉軸受の剛球9を挟み込んだ。そのため、軸端側の内輪素子2aを胴14側に押圧すると、軸端側の内輪素子2aの傾き箇所が剛球9と当接し、当該箇所に前記傾きを戻す力が働き、軸端側の内輪素子2aが胴14側の内輪素子2bと平行な状態となる(傾きのない状態となる)。そのため、軸端側の外輪素子11aの傾きを小さくすることができ、その結果、軸端側の内輪素子2a及び外輪素子11aの傾きを抑制できる。
【0017】
また、内輪素子2a及び外輪素子11aが傾きのない状態となった後に、ナット16を締め込み、軸端側の内輪素子2aを胴14側に移動させたとする。すると、軸端側の内輪素子2aと胴14側の内輪素子2aとで剛球9が圧縮され、剛球9が弾性変形する(軸方向の距離が縮まる)。そのため、軸端側の内輪素子2aと胴14側の内輪素子2bとの間の距離を縮めることができ、その結果、転がり軸受1の予圧を調整することができる。
【0018】
なお、本発明の複列転がり軸受、及び胴支持構造は、上記実施の形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
上記実施形態では、一対の内輪素子2間にスラスト玉軸受の保持器8で保持された複数の剛球9と内輪間座10とを挟み込む例を示したが、これに限られるものではない。例えば、図3に示すように、前記保持器8で保持された剛球9のみを挟むようにしてもよい。
また、図4に示すように、一対の内輪素子2間に、スラスト玉軸受17自体を挟み込み、スラスト玉軸受17の軌道輪18を内輪間座10の代わりとするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態である転がり軸受を示す断面図である。
【図2】図1の転がり軸受の動作を説明するための説明図である。
【図3】本発明の変形例を説明するための説明図である。
【図4】本発明の変形例を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1は転がり軸受、2は内輪素子、3は外輪組立体、4は円すいころ、5は内輪軌道面、6は大つば、7は小つば、8は保持器、9は剛球、10は内輪間座、11は外輪素子、12は外輪間座、13は外輪軌道面、14は胴、15は回転軸、16はナット、17はスラスト玉軸受、18は軌道輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の単列転がり軸受が背面組み合わせされて構成される複列転がり軸受であって、
前記一対の単列転がり軸受の内輪間に、所定の転がり軸受の複数の転動体を所定間隔をとって挟み込んだことを特徴とする複列転がり軸受。
【請求項2】
前記複数の転動体を、スラスト軸受の保持器で保持したことを特徴とする請求項1に記載の複列転がり軸受。
【請求項3】
前記内輪と前記転動体との間に、内輪間座を挟み込んだことを特徴とする請求項1又は2に記載の複列転がり軸受。
【請求項4】
前記一対の単列転がり軸受の内輪間に、スラスト玉軸受を挟み込んだことを特徴とする請求項1に記載の複列転がり軸受。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の複列転がり軸受によって印刷機の胴を支持することを特徴とする胴支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46688(P2007−46688A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231231(P2005−231231)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】