説明

複合体及びその製法

【課題】厚付けが可能である吹付け材料に、吹付け施工後に有機−無機複合型塗膜剤を塗布することにより、中性化や塩害等を抑制することが可能な複合体を提供する。
【解決手段】セメントと、ポゾラン微粉末と、ホルマイト系鉱物及び/又は高分子増粘剤と、骨材と、流動化剤及び/又は空気連行剤と、凝結促進剤とを含有する吹付け材料の表面に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングする複合体である。骨材が砂と軽量骨材を含有し、さらに、膨張材、収縮低減剤、及び繊維の中から選ばれた少なくとも1種を含有する吹付け材料である前記複合体である。有機−無機複合型塗膜剤が、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び膨潤性粘土鉱物を含有し、膨潤性粘土鉱物が、合成フッ素雲母であり、有機−無機複合型塗膜剤の使用量が、50〜500g/mであることが好ましい。また、吹付け材料の表面に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングする前記複合体の製法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に土木及び建築分野におけるコンクリート構造物を補修、補強するための吹付け材料に、有機−無機複合型塗膜剤を塗布した中性化や塩害等を抑制する複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、塩害、中性化、凍結融解、及び化学的腐食等の作用により劣化が進行すると、表面にひび割れや浮き等が発生する。また、繰返し載荷による疲労や火害を受けることでもひび割れや爆裂等によるコンクリート片のはく落が発生する。その対策として、劣化した部分を打音検査等で確認し、電動ピック、エアピック、ウォータージェット等により取り除き、新たに補修部材で充填し補修する工事が行われている。このような補修工事では、修復断面積が広い場合は吹付け工法が多く適用される。吹付けによる施工方法は、一般的に、練り混ぜたモルタルをポンプで圧送し、圧縮空気と混合し、モルタルを吹き飛ばして施工する方法であり、システムが機械化されているので施工スピードが速く、補修断面への付着性に優れ、鉄筋裏側への密実な充填も可能という利点がある。
【0003】
吹付け工法においては、JIS A 6203に規定されたポリマーエマルジョンを含有するポリマーセメントモルタルが使われる場合が多い。ポリマーエマルジョンを混和することにより、耐久性を向上させたり、付着力を向上させたり、粉塵やリバウンドを低減させたりする効果を付与できるが、ポリマーエマルジョンは高価な材料である。また、ポリマーエマルジョンを混和した吹付け材料の1層あたりの吹付け厚みは、天井面に吹き付けた場合50mm未満であり、それ以上厚みを増すとダレや剥がれが発生したりする。
そこで、ポリマーエマルジョンを含まなくてもホルマイト系鉱物やモンモリロナイト系鉱物を配合することで急結剤を併用しなくても、吹付け材料としてダレやリバウンドを少なくできる技術も知られている(特許文献1、2参照)。
さらに、従来工法の場合、1回当たりの塗り厚さは壁面で20〜40mm、天井面で10〜20mm程度であり多層塗りをしなければならないので、これを改善した補修用セメント組成物(特許文献3参照)が開発されている。
【0004】
一方、施工後の吹付け材料は、空気中の炭酸ガスが内部に浸透すると、水酸化カルシウムと反応しpHを低下させ、これが鉄筋位置まで達すると、アルカリ性が低下するため鉄筋表面の不動態被膜が破壊され錆びが発生し、その時の膨張力により吹付け材料にひび割れや浮きが発生し、さらに劣化が進行すると吹付け材料のはく落が生じる。このような劣化現象が中性化である。また、塩化物イオンが浸透した場合も鉄筋の不動態被膜が破壊され錆びが発生し吹付け材料にひび割れや浮きが発生する。
通常、補修部材に用いられる吹付け材料は、中性化抑制効果及び塩化物イオンの浸透抵抗性に優れているが、施工後長期間経過すると劣化する可能性があるため、施工が簡便に行え、中性化や塩害等に対して長期的に効果が持続できる塗布材料及び工法が望まれていた。
【0005】
有機−無機複合型塗膜養生剤を塗布すると、養生硬化の過程において寸法変化が起こらないことが記載されている(特許文献3参照)。また、有機−無機複合型塗膜をセメント硬化体に塗布して養生する方法についても提案されている(特許文献5参照)。
しかしながら、特許文献4は、モルタルやコンクリートの表面に有機-無機複合型塗膜剤を塗布することについては何ら開示がなく、また、炭酸ガスや塩化物イオンの浸透性を抑制できる効果に関して示されていない。特許文献5では、セメント硬化体に塗布したときに水分の逸散を抑制し長さ変化を低減させることについては示されているが、炭酸ガスや塩化物イオンの浸透性を抑制できる効果に関して示されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平06−264449号公報
【特許文献2】特開平08−217514号公報
【特許文献3】特開2002−201058号公報
【特許文献4】特開2002−274976号公報
【特許文献5】特開2005−162534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、厚付けが可能である吹付け材料に、吹付け施工後に有機−無機複合型塗膜剤を塗布することにより、中性化や塩害等を抑制することが可能な複合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、(1)セメントと、ポゾラン微粉末と、ホルマイト系鉱物及び/又は高分子増粘剤と、骨材と、流動化剤及び/又は空気連行剤と、凝結促進剤とを含有する吹付け材料の表面に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングすることを特徴とする複合体、(2)骨材が砂と軽量骨材を含有する吹付け材料である(1)の複合体、(3)さらに、膨張材、収縮低減剤、及び繊維の中から選ばれた少なくとも1種を含有する吹付け材料である(1)又は(2)の複合体、(4)有機−無機複合型塗膜剤が、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び膨潤性粘土鉱物を含有する(1)〜(3)のいずれかの複合体、(5)有機−無機複合型塗膜剤の膨潤性粘土鉱物が、合成フッ素雲母である(1)〜(4)のいずれかの複合体、(6)有機−無機複合型塗膜剤の使用量が、50〜500g/mである(1)〜(5)のいずれかの複合体、(7)吹付け材料の表面に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングする(1)〜(6)のいずれかの複合体の製法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、厚付けが可能である吹付け材料に、吹付け施工後に有機−無機複合型塗膜剤を塗布することにより、中性化や塩害等を抑制する複合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0011】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではないが、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、及びJIS R 5213に規定された各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、アルミナセメントから選ばれる1種又は2種以上等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用するポゾラン微粉末とは、チクソトロピック性の付与や硬化組織の緻密性を改善するもので、例えば、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、転炉スラグ等のスラグ類、シリカフューム、フライアッシュ、その他、火山灰に代表される天然ポゾラン活性物質が挙げられる。さらに、塩化物イオン浸透抵抗性の向上効果を考慮すると高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、これらの混合物の使用が好ましい。
ポゾラン微粉末の粒度は、特に限定されるものではないが、3000cm/g以上が好ましい。
ポゾラン微粉末の使用量は、セメント100部に対して3〜20部が好ましく、5〜15部がより好ましい。3部未満では、チクソトロピック性の付与が少なく、20部を超えるとチクソトロピック性が高すぎ流動性の確保に影響する場合がある。
【0013】
本発明で使用するホルマイト系鉱物とは、繊維状の無機鉱物でありチクソ性を付与するものである。例えば、含水マグネシウムアルミニウムシリケートのアタパルジャイトやパリゴルスカイト、含水マグネシウムシリケートのセピオライト等が挙げられる。中でも流動性を阻害しにくい点でアタパルジャイトの使用が好ましい。
ホルマイト系鉱物の平均長さは、1〜3ミクロンのものが適度なチクソ性を与える点で好ましい。また、結晶性シリカの含有率が1%以下のホルマイト鉱物を使用することが安全性の点で好ましい。
ホルマイト系鉱物の使用量は、セメント100部に対して0.02〜5部が好ましく、0.06〜3部がより好ましい。0.02部未満では、チクソ性付与が少なく、5部を超えると流動性に影響する場合がある。
【0014】
本発明で使用する高分子増粘剤とは、モルタルの粘度を調整するものであり、特に限定されるものではないが、一般に水溶性高分子物質と呼ばれているもので、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸やそのナトリウム塩やカリウム塩、及びポリエチレンオキサイド等が挙げられ、モルタルが跳ね返ったり、脱落したりするのを防止したり、圧送時のモルタルの滑りを良くするために使用される。
中でもヒドロキシエチルメチルセルロースが好ましい。ヒドロキシエチルメチルセルロース中のヒドロキシエトキシル基含有量は4〜20%で、この粉末を2%水溶液となるように熱水に混合後、分散した後、攪拌しながら冷却し30℃において光の透過度が45%以上のものが好ましい。このセルロース誘導体は、低温から高温領域の幅広い温度領域においてアルカリ中での溶解性に優れるため粘性付与効果にばらつきがないのが特徴であり、ホルマイト系鉱物と併用した場合、温度に左右されにくい安定的なチクソ性を得ることができる。これに、他の水溶性高分子物質と呼ばれているもので、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸やそのナトリウム塩やカリウム塩、及びポリエチレンオキサイド等を併用することも可能である。
高分子増粘剤の使用量は、通常、セメント100部に対して0.02〜0.5部であり、0.05〜0.3部がより好ましい。0.02部未満ではモルタルの跳ね返りを低減する効果が少なく、0.5部を超えるとその効果の向上が期待できない場合がある。
【0015】
本発明で使用する骨材とは、特に限定されるものではないが、通常、かさ密度0.7g/mを超える川、山、及び海から産出する天然骨材(砂)、並びにこれらの2種以上の混合骨材等である。さらに、軽量骨材等を併用することができる。
骨材は施工する現場で混合してもよいが、予めセメントと混合しておく場合は、骨材を乾燥させた乾燥骨材を使用すればよい。
骨材の使用量は、セメント100部に対して50〜260部が好ましい。50部未満では吹き付けたときにダレが多くなる場合があり、260部を超えると跳ね返りが多くなる場合がある。
【0016】
本発明で使用する軽量骨材とは、かさ密度0.7g/cm以下のものであり、吹き付けた直後のダレを防止するためにモルタル密度を低減する目的で使用する。
軽量骨材の種類としては、特に限定されるものではないが、火力発電所から発生するフライアッシュバルーンや、シラスシラスバルーン、黒曜石等の天然材料を原料とし焼成した発泡体、廃ガラス等のリサイクル材料を原料とし焼成したものが挙げられ、かさ密度0.7g/cm以下のものであれば使用できる。
軽量骨材の使用量は、砂100部に対して2〜15部が好ましく、4〜10部がより好ましい。2部未満では、モルタル密度を十分に低減することができず、15部を超えると流動性に影響する場合がある。
【0017】
本発明で使用する流動化剤は、特に限定されるものではないが、メラミン系、ナフタレン系、リグニン系、ポリカルボン酸系のものが挙げられ、モルタルの流動性の調整に使用される。
流動化剤の使用量は、セメント100部に対して0.02〜0.5部が好ましく、0.06〜0.3部がより好ましい。0.02部未満では、流動性を改善する効果が少ない場合があり、1部を超えると、流動性が良すぎ吹付けたときにダレや跳ね返りが多くなる場合がある。
本発明の流動化剤の混合方法は、特に限定されるものではないが、例えば、あらかじめセメントに、またはセメントや水に分散しておくことが好ましい。
【0018】
本発明で使用する空気連行剤は、練り混ぜたモルタルを軽くして圧送抵抗を低減したり、混入されるエントレインドエアの効果により凍結融解抵抗性をより向上する目的で使用する。
空気連行剤の種類としては、特に限定されるものではなく、市販されているものが使用できる。例えば、ヴィンソル等の脂肪酸石鹸類、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート等の高級アルコール硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシアルキルフェニルエーテル等のエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンオレェート等のエステルエーテル類、ベタイン類、イミダゾリンベタイン類等が挙げられる。
空気連行剤の使用量は、セメント100部に対して0.0005〜0.05部が好ましく、0.001〜0.02部がより好ましい。0.0005部未満では、空気の混入効果が小さく、0.05部を超えると空気混入が多くなりすぎる場合がある。
【0019】
本発明で使用する凝結促進剤は、モルタルの凝結を促進させるものであり、練り混ぜてモルタルを圧送するのに支障のない程度に凝結を促進させるものである。
凝結促進剤の種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウムの炭酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、水酸化物、ギ酸塩、酢酸塩等が挙げられる。これらの中で、モルタルの練り混ぜや圧送に悪影響を与えにくい点でリチウム、ナトリウム、カリウムのケイ酸塩やギ酸塩の使用が好ましい。
凝結促進剤の添加によりモルタルの練り混ぜや圧送に悪影響を与えても、有機酸やリン酸塩等の凝結遅延剤を併用することで改善できるのであれば凝結遅延剤と併用して使用してもよい。
凝結促進剤の使用量は、セメント100部に対して0.1〜1部が好ましく、0.2〜0.8部がより好ましい。0.1部未満では、凝結を促進させる効果が十分に発揮できず、1.0部を超えると、モルタルの練り混ぜや圧送に悪影響を与える場合がある。
【0020】
本発明で使用する有機-無機複合型塗膜剤とは、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び膨潤性粘土鉱物を含有するものであり、また、さらにこれらと架橋剤とを含有とするものである。
【0021】
本発明で言う合成樹脂水性分散体とは、一般的には合成樹脂エマルジョンであり、芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和脂肪酸単量体、及びその他の共重合可能な単量体の内から一種又は二種以上を乳化重合して得られるものである。例えば、スチレンを主体としたスチレン・ブタジエン系ラテックス、スチレン・アクリル系エマルジョンやスチレンと共重合したメチルメタクリレート・ブタジエン系ラテックス、エチレン・アクリルエマルジョンである。合成樹脂エマルジョンには、カルボキシル基またはヒドロキシ基を有するものがより望ましい。
ここで、乳化重合は、重合すべき単量体を混合し、これに乳化剤や重合開始剤等を加え水系で行なう一般的な乳化重合方法である。
膨潤性粘土鉱物との配合安定性を得るには、アンモニア、アミン類、及びカセイソーダ等の塩基性物質を使用し、pH5以上に調整したものが好ましい。
合成樹脂水性分散体の粒子径は、一般的に100〜300nmであるが、60〜100nm程度の小さい粒子径のものが好ましい。
【0022】
水溶性樹脂としては、加工澱粉又はその誘導体、セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニルの鹸化物又はその誘導体、スルホン酸基を有する重合体又はその塩、アクリル酸の重合体や共重合体又はこれらの塩、アクリルアミドの重合体や共重合体、ポリエチレングリコール、及びオキサゾリン基含有重合体等が挙げられ、そのうちの一種又は二種以上の使用が可能である。
水溶性樹脂として、純水への溶解度が常温で1%以上であるものであれば良く、樹脂単位重量当たりの水素結合性基又はイオン性基が10〜60%であることが好ましい。また、平均分子量は2,000〜1,000,000が好ましい。
水溶性樹脂の使用量は、合成樹脂水性分散体の固形分100部に対して固形分換算で0.05〜200部が好ましい。0.05部未満では防湿性が低下する場合があり、200部を超えると防湿性が著しく低下する場合がある。
【0023】
膨潤性粘土鉱物としては、スクメタイト属に属する層状ケイ酸塩鉱物が挙げられる。例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、合成フッ素雲母、ベントナイトなどである。これらは天然品、合成品、および加工処理品のいずれであっても使用可能であるが、中でも合成フッ素雲母が好ましい。そのうち、日本ベントナイト工業会、標準試験方法 JBAS−104−77に準じた方法での膨潤力が20ml/2g以上の粘土鉱物が好ましい。また、イオン交換当量が100g当たり、10ミリ当量以上ものが好ましく、60〜200ミリ当量以上ものがより好ましい。さらに、そのアスペクト比が50〜5000のものが好ましい。アスペクト比とは、電顕写真により求めた層状に分散した粘土鉱物の長さ/厚みの比である。
膨潤性粘土鉱物の使用量は、合成樹脂水性分散体の固形分100部に対して、1〜50部が好ましい。1部未満では防湿性が低下しブロッキングが生じやすくなる場合があり、50部を超えると塗膜剤の膜の変形能力が低下する場合がある。
【0024】
架橋剤とは、水溶性樹脂や合成樹脂水性分散体が有するカルボキシル基、アミド基、及び水酸基等の親水性官能基と反応して、架橋、高分子化(三次元網目構造)、又は疎水化するものであり、カルボキシル基と付加反応を起こすオキサゾリン基を有するものが水溶性樹脂をも兼ねるので好ましい。
架橋剤の使用量は、合成樹脂水性分散体と水溶性樹脂の合計の固形分100部に対して、固形分換算で0.01〜30部が好ましい。0.01部未満では防湿性が低下する場合があり、30部を超えると防湿性やブロッキング防止性が頭打ちになる。
【0025】
本発明では、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び膨潤性粘土鉱物を混合して、また、さらにこれらと架橋剤とを反応させて、有機−無機複合型塗膜剤を調製する。
有機−無機複合型塗膜剤の合成方法は、水溶性樹脂と膨潤性粘土鉱物をあらかじめ水中で混合した後に、合成樹脂水性分散体と架橋剤を混合する方法が好ましい。
有機−無機複合型塗膜剤は水に分散したポリマーディスパージョンであり、含有する固形分量は特に限定されるものではない。固形分濃度は、モルタルやコンクリートに塗布した場合に形成される被膜の強度や厚み、塗り易さなどに影響してくる。
吹付け材料に塗布するときの塗布剤の固形分濃度は10〜60%が好ましく、20〜50%がより好ましい。10%未満では,中性化を抑制する効果が十分でなく、60%を超えると粘度が高くなることから塗りにくくなり、効果の向上が期待できない。
有機−無機複合型塗膜剤のコーティング(被覆)方法は、均一に被覆膜が形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、撒布したり、塗布したり、吹付けたりすることが可能である。有機−無機複合型塗膜剤を吹付け材料にコーティング時期は、特に限定されるものではないが、吹付け材料が硬化した後が好ましい。
また、有機−無機塗膜剤の例としては、東亞合成社の「CA2」シリーズを用いることができる。
有機−無機複合型塗膜剤の使用量は、1m当たり、50〜500gの範囲で使用することが好ましく、100〜400gがより好ましい。50g未満では中性化を抑制する効果が十分でなく、500gを超えてもさらなる効果の向上が期待できない。
【0026】
本発明で使用する膨張材とは、モルタルの乾燥による硬化収縮を低減するために使用されるもので、特に限定されるものではないが、アウイン系、カルシウムアルミノフェライト系、石灰系等のものが挙げられる。
膨張材の使用量は、通常、セメント100部に対して1〜10部が好ましく、2〜8部がより好ましい。1.0部未満では硬化収縮を抑制する効果が十分でなく、10部を超えて配合してもその効果の向上が少ない。
【0027】
本発明で使用する収縮低減剤とは、特に限定されるものではないが、ポリオキシアルキレン誘導体が好ましく、その一般式がX{O(AO)nR}mで示され、Xは2〜8個の水酸基を有する化合物の残基、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基、Rは水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、又は炭素数2〜18のアシル基、nは30〜1000、mは2〜8であり、オキシアルキレン基の60モル%以上はオキシエチレン基であるポリオキシアルキレン誘導体からなるものである。nの値が30未満であると融点が低くなり粉体で使用することが難しくなり、nの値が1000を超えると粘度が高くなり製造が難しくなる。オキシエチレン基が60モル%未満であると融点が低くなり、セメント溶液中での溶解性が低下する。
【0028】
一般式X{O(AO)nR}mにおいて、Xは2〜8個の水酸基を有する化合物の残基であるが、水酸基を2〜8個有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、スチレングリコール、炭素数8〜18のアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタントリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルバイド、ソルビトールとグリセリンの縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール類、あるいはそれらの部分エーテル化物、又はエステル化物、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グリコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュークロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等の糖類、あるいはそれらの部分エーテル化物又はエステル化物等が挙げられる。
一般式X{O(AO)nR}mにおいて、AOで示される炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、炭素数6〜18のα−オレフィンオキシド等に由来するもので、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基、炭素数6〜18のオキシアルキレン基等があり、2種以上が付加しているときは、ブロック状付加でもランダム状付加でもよい。
上記一般式において、Rで示される炭素数1〜18の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、アリル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、イソセチル基、オクタデシル基、イソステアリル基、オレイル基、ベンジル基、クレジル基、ブチルフェニル基、ジブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基等が挙げられる。
また、同じくRで示される炭素数2〜18のアシル基としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸等に由来するアシル基が挙げられる。
【0029】
収縮低減剤の使用量は、セメント100部に対して1〜10部が好ましく、2〜8部がより好ましい。1部未満では収縮低減効果は少なく、10部を超えると強度発現に影響する場合がある。
【0030】
本発明では、吹き付けたモルタルの曲げ耐力や初期ひび割れ抵抗性を向上させることを目的に繊維を配合して使用することが可能である。
繊維の種類としては、ビニロン繊維やプロピレン繊維に代表される高分子繊維類、鋼繊維、ガラス繊維、及び炭素繊維に代表される無機繊維類が挙げられ、特に限定されるものではない。
繊維の使用量は、非収束タイプの場合は、セメントモルタル1m3に対して0.1〜1.5容積部が好ましく、0.2〜1.0容積部がより好ましい。0.1容積部未満では曲げ耐力を向上させる効果が発揮されない場合があり、1.5容積部を超えるとモルタルの流動性に悪影響を与える場合がある。収束タイプの場合は、0.03〜0.5容量部が好ましく0.05〜0.3容量部がより好ましい。0.03容量部未満では初期収縮ひび割れを抑制することが難しく、0.5容量部を超えると流動性を悪くする場合がある。繊維の長さは、収束及び非収束タイプ共に、ポンプ圧送性を考慮して3〜40mmが好ましい。
【0031】
本発明では、吹付け材料に、必要に応じ、消泡剤、撥水剤、抗菌剤等の各種セメント混和剤を併用することが可能である。
【0032】
本発明の吹付け材料と混合する水量は、モルタルのポンプ圧送性、吹付け性、及び硬化物性を考慮し、通常、骨材とプレミックスされたモルタル100部に対して10〜22部が好ましく、12〜19部がより好ましい。10部未満ではモルタルのポンプ圧送できる流動性を確保することが難しく、22部を超えると強度発現性が低下する場合がある。10〜22部の範囲であれば、流動化剤を併用することでポンプ圧送に適する適度な流動性に調整することができる。
【0033】
本発明の吹付け材料の施工方法は、吹付け材料と水とを混合し、練り混ぜたモルタルをポンプで圧送し、圧送途中で圧縮空気を合流して吹き付ける方法であれば、吹付けシステムや方法は特に限定されるものではない。
【0034】
以下、実施例で説明する。
【実施例1】
【0035】
セメント100部に対して骨材の砂180部、前記砂100部に対して軽量骨材を6部、さらに、セメント100部に対して、膨張材5部、収縮低減剤3部、流動化剤0.1部、空気連行剤0.005部、繊維0.1部(セメントモルタル1m3に対して0.6容積部)、凝結促進剤0.5部、さらに、ポゾラン微粉末、ホルマイト系鉱物及び/又は高分子増粘剤を表1に示す量を加え、ドライセメントモルタルを調製した。なお、ポゾラン微粉末は骨材置換した。このドライセメントモルタル100部に対して水を16.5部となるように加えパン型ミキサーで練り混ぜてセメントモルタルとし、これをスクイズポンプで圧送し、吐出ノズル手前で圧縮空気を合流させて吹き付けてリバウンド率、厚付け性を測定した。その後、吹付け後のモルタルを4×4×16cmの型枠に採取し、材齢2日後に脱型し、試験体を材齢28日まで温度20℃、湿度80%の環境下で気中養生した。試験体の側面と底面においてエポキシ樹脂を用いてシールし、上面に表1に示す固形分濃度の有機−無機複合型塗膜剤の使用量を150g/mとなるように刷毛で塗布し、促進中性化試験及び塩化物イオン浸透試験を行った。結果を表1に併記する。
【0036】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
骨材(砂):新潟県糸魚川市青海産石灰砂乾燥品、かさ密度1.62g/cm、最大粒径1.2mm
軽量骨材:中国産フライアッシュバルーン、かさ密度0.42g/cm、最大粒径0.8mm
膨張材:カルシウムサルホアルミネート系膨張材、市販品
収縮低減剤:ポリオキシアルキレン誘導体、HO−(CHCHO)189−H、市販品
流動化剤:メチロールメラミン系流動化剤、市販品
空気連行剤:ポリオキシエチレンアルキルサルフェート系空気連行剤、市販品
繊維:ビニロン繊維、繊維長さ6mm、繊維径0.026mm、収束タイプ、市販品
凝結促進剤:ケイ酸ナトリウム、市販品
ポゾラン微粉末:高炉水砕スラグ、ブレーン比表面積7500cm/g、市販品
ホルマイト系鉱物:アタパルジャイト、結晶性シリカ含有率1%未満、市販品
高分子増粘剤:ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエトキシ基含有量6%、30℃の透光度55%、市販品
有機−無機複合型塗膜剤:東亞合成社製、「CA212」、アクリル樹脂−フッ素雲母の複合型、固形分濃度45%
【0037】
(試験方法)
流動性(フロー):JIS R 5201に規定されているフロー試験を実施した。
リバウンド率:天井面に設置したコンクリート製プレキャスト板に2分間吹き付けたときに落下した材料と吹付けに使用した全モルタル量との質量百分率。
厚付け性:縦400mm×横600mm×厚さ60mmのコンクリート製U形側溝ふたに厚み90mmとなるように吹き付けたときの厚付け性を評価した。吹き付けて24時間後の落下や浮きの有無を確認した。
促進中性化試験:促進条件は、炭酸ガス濃度5%、温度30℃、湿度60%とし、有機−無機複合型塗膜剤を塗布して翌日に促進試験を開始した。促進期間は28日間とし、フェノールフタレイン法により上面からの中性化深さを測定した。
塩化物イオン浸透試験:塗膜剤を塗布して翌日に、JIS A 1171に準拠して擬似海水に28日間浸漬することで塩化物イオンの浸透深さを測定した。
塗り易さ:刷毛で試験体上面(4×16cm)を塗ったときに塗膜剤が均一に塗れる場合を○、均一に塗れにくい場合を△、塗れない場合を×とした。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より、本発明において、吹付け材料のリバウンド率は低く、厚付け性は良好で、塗り易く、しかも、吹付け材料に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングした複合体の中性化や塩害は著しく抑制されることが分かる。
【実施例2】
【0040】
実施例1の実験No.1-4の吹付け材料において、表2に示す有機−無機複合型塗膜剤の固形分濃度の塗膜剤の使用量を150g/mとなるように刷毛で塗布したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、本発明において、塗り易く、しかも、吹付け材料に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングした複合体の中性化や塩害は著しく抑制されることが分かる。
【実施例3】
【0043】
実施例1の実験No.1-4の吹付け材料において、有機−無機複合型塗膜剤の固形分濃度を20%とし、表3に示す使用量で塗布したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0044】
【表3】

【0045】
表3より、本発明において、塗り易く、しかも、吹付け材料に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングした複合体の中性化や塩害は著しく抑制されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、厚付けが可能である吹付け材料に、吹付け施工後に有機−無機複合型塗膜剤を塗布することにより、中性化・塩害等を抑制する複合体が得られるので、土木、建築分野での補修工事に幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、ポゾラン微粉末と、ホルマイト系鉱物及び/又は高分子増粘剤と、骨材と、流動化剤及び/又は空気連行剤と、凝結促進剤とを含有する吹付け材料の表面に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングすることを特徴とする複合体。
【請求項2】
骨材が砂と軽量骨材を含有する吹付け材料である請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
さらに、膨張材、収縮低減剤、及び繊維の中から選ばれた少なくとも1種を含有する吹付け材料である請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
有機−無機複合型塗膜剤が、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、及び膨潤性粘土鉱物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
有機−無機複合型塗膜剤の膨潤性粘土鉱物が、合成フッ素雲母であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
有機−無機複合型塗膜剤の使用量が、50〜500g/mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
吹付け材料の表面に有機−無機複合型塗膜剤をコーティングすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合体の製法。

【公開番号】特開2008−2176(P2008−2176A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173413(P2006−173413)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】