説明

複合層を有する滑り要素

本発明は、保持体(10)と複合層(30)とを備えた滑り要素に関し、その複合層(30)は、走行層(39)と保護層(35)とを備えている。保護層(35)は、5GPaより大きい硬さHUplastを有している。また、走行層(39)の硬さは400HV未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的軸受、特に機械工学や自動車工学で用いられるように高レベルの荷重を受ける滑り接触軸受に適した、複合層を有する滑り要素に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的軸受は、互いに相対的に移動する、滑り要素およびカウンターパート(相対物)とも呼ばれる滑りパートナーから成っている。滑り要素は、一般的にカウンターパートのためのガイドとして役立つ。例として、滑り接触軸受の場合には、カウンターパートが円柱形のシャフトとして設計され、滑り要素がブッシュ、若しくはブッシュに匹敵する軸受シェルとして設計される。シャフトの外側表面と接触する軸受シェルの内側は、シャフトのための走行面として機能する。軸受シェルの形状は通常、シャフトの円柱形状とは僅かに異なり、従って、シャフトと軸受シェルとの間に、およそマイクロメートルの規模の幅で隙間が残る。この隙間の中には潤滑剤、例えばオイルが置かれる。
【0003】
機械的軸受一般、特に内燃機関用の滑り接触軸受においては、慣らし運転として知られるものが特に重視される。機関が運転される最初の数時間においては、滑りパートナー同士が調和させられ、これに関連して、個々の滑り箇所で表面の凹凸が滑らかにされる。この運転は、ある程度の摩耗と関連づけられる。現代の自動車の機関では、慣らし運転は約20から30時間の運転後で終えられるが、個々の場合においては、100時間を超える運転後だけですら終えられる。
【0004】
軸受の摩擦挙動は、滑り速度vまたは回転速度nの関数として摩擦係数μをプロットするストライベック曲線によって記述される(滑り接触軸受の場合)。このストライベック曲線では:
− 低い滑り速度または回転速度での固体摩擦または静摩擦、
− 平均的な滑り速度または回転速度での混合摩擦、および、
− 高い滑り速度または回転速度での液体摩擦、
の3つの領域の間で区別がなされる。
【0005】
固体摩擦の領域においては、滑り速度が低下するにつれて、摩擦係数と(これに関連して)摩耗とが大幅に増大する。液体摩擦の領域においては、滑り速度が増大するにつれて摩擦係数が増大する。固体摩擦から液体摩擦への変わり目では、いわゆる混合摩擦の領域において、摩擦係数が最小値を通過し、ストライベック曲線上のこの点はレリーズ点とも呼ばれる。
【0006】
機関の運転中には、これら摩擦挙動の3つの領域全てを通り過ぎる。従って、滑り接触軸受の走行面に、耐摩耗性および耐疲労性の被覆を備えさせることが必要である。このことは、高圧縮のディーゼル機関やガソリン機関におけるクランクシャフトの軸受に特に当てはまる。PVDやスパッタによって製造され、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、および(適切ならば)銅(Cu)の金属の混合物から成り、5から30μmの範囲の厚さを有する層が、特にこの目的に適していると既に確かめられている(例えば特許文献1を参照のこと)。特殊なスパッタ法と、それと同時に、若しくはその後に行われる熱調整法とによって、アルミニウム/錫層内に、約80から200HVの範囲の微小硬さと、良好な滑り特性とを有する、特殊な金属微視組織が生み出される。アルミニウム/錫層の良好な滑り特性は、Alのスポンジ状微視組織(これは、走行面上の「金属潤滑剤膜」として機能するSnの離脱を促進する)から結果として生じるものである。その潤滑作用に加えて、アルミニウム/錫層は、微視的に小さな摩耗粒子を拾い上げるための良好な特性を有している。それらの摩耗粒子は、機械的軸受において、主に慣らし運転段階中に、より小さな規模では継続運転中に生み出されるものである(いわゆる残留廃棄物およびオイル残渣)。特定の値を超える硬さを有した摩耗粒子は、アルミニウム/錫層内に押し込まれ、若しくは埋収される。従って、アルミニウム/錫層は、相反する要求:
− 80から200HV(ビッカース硬さ)の範囲の硬さ、および関連した安定性、
− 良好な滑り特性(Sn潤滑)、
− 硬質の摩耗粒子を拾い上げる(埋収する)能力、
を満足させる。
【0007】
これらの特性の有利な組み合わせのおかげで、アルミニウム−錫合金は、機械的軸受のための走行層において、ますます用いられている。
【0008】
特許文献2は、第1の、若しくは内側の摩耗層と、外側の慣らし運転層とを備えた滑り要素を記述している。その慣らし運転層は、炭素で出来ていて、水素およびナノ結晶炭化物相を含有している。慣らし運転層は、Me-C:H型の金属含有非晶質硬質炭素(その金属としてはタングステンが好ましい)から成っている。特に、慣らし運転層は、PVDによって製造され、ダイヤモンドライク・カーボン(DLC)から成る層である。慣らし運転層の厚さは、1から5μmである。摩耗層は、窒化層として、電気めっき層として、溶射層として、および/または、薄膜技術によって被着された硬質材料層として形成される。
【0009】
特許文献3は、金属基体と、この基体に付着された金属基層とを備えた滑り接触軸受を開示している。その金属基層は、オイルを受け入れるための多数の窪みを備えている。それらの窪み、若しくはオイルポケットは、0.03から3mmの深さを有し、それらの幅は、深さの10から40倍である。基層は、好ましくは、電気めっきで、若しくはスパッタによって製造されると共に、AlNi2MnCu、AlZn5SiCuPbMg、AlSn6、CuPb22Sn、CuPb17Sn5、CuPb10Sn10、CuPb22S3、PbSn10Cu2、PbSn10Cu5、またはPbSn14Cu8などの合金から成り、好ましくはAlSn20から成る。
【0010】
特許文献4は、向上された耐摩耗性を有する、内燃機関用の滑り接触軸受を開示している。この滑り接触軸受の軸受シェルには、円筒状や円状や螺旋状に巡っている溝が備えられている。これらの溝は、0.6mm未満の幅と、15μm未満の深さとを有している。また、軸受シェルには、第1および第2の層が設けられている。これら第1および第2の層は、それぞれ電気めっきによって被着され、アルミニウム−鉛合金やニッケルから成っている。最上部のニッケル層の圧力抵抗、即ち微小硬さは、60MPaに達する。2つの電気めっき層は、溝の設けられた基層の上に被着されるが、この基層は、鋼鉄製の軸受本体に対して付着されている。基層は、ケルメット(鉛−銅合金)、若しくはAlSnCuなどのアルミニウム合金から成っている。
【0011】
特許文献5は、基層と、この基層上に被着された第1および第2の被覆とを有する軸受本体を備えた滑り接触軸受を記述している。基層には、円筒状や円状に巡っている溝が設けられている。第1および第2の被覆は、およそ2μm未満の、若しくは1から8μmの範囲の厚さを有している。隣り合う溝同士の間のウェブの高さは、第2の被覆の厚さの70から200%、即ち0.7から16μmに達する。使用される材料は次の通りである:基層については、Cu-23/Pb-3/SnやCu-1/Agなどのアルミニウムや銅の合金;第1の被覆については、電気めっきによって被着された金属、例えばNi、Cu、Cr、またはFe;そして、第2の被覆については、鉛含有合金、例えばPb-10/Sn-2/Cu、純錫、または錫合金。
【0012】
特許文献6は、滑り接触軸受のための滑り要素を開示している。その滑り要素の走行面は、円筒状や円状に巡っている溝とウェブのシステムを備えている。それらの溝とウェブは、およそ数マイクロメートルの、深さと幅、または高さと幅を有している。溝が潤滑剤、例えばオイルを受け入れる役目をするのに対して、ウェブは、滑り要素とカウンターパート(シャフト)との間の接触面を最小限にする。溝とウェブの断面プロファイルは、三角形、長方形、台形、または波形のように構成してよい。
【0013】
特許文献7は、互いに相対的に移動する滑り要素と、これらの滑り要素同士の間に置かれた潤滑オイルの膜とを備えた内燃機関用の軸受を開示している。その潤滑オイル内では、層流状態が優勢となっている。両滑り要素の対向面は、不規則な微視的隆起と、多数のディンプルとを備えている。ディンプルの平均最大深さは、隆起の最大高さよりも大きい。また、一方の滑り要素におけるディンプルの平均最大直径は、対向する滑り要素におけるディンプル同士の間の平均最小距離よりも小さい。もう1つの構成においては、両滑り要素の表面が溝を備えており、それらの溝の寸法が、互いに対して、また対向する滑り要素同士の間の隙間に対して特定の関係にある。
【0014】
先行技術において既知の軸受は、以下の欠点のうち1つないし複数を有している:
− 走行層の損傷が、その下に置かれた材料を露出させ、これが、増大した摩耗や好ましからざる消耗、および関連した高い損傷率を伴う、摩擦に関する軸受のカウンターパートとの危険な材料の組み合わせを生じさせること;
− 走行層の損傷が、その下に置かれた、磨り減ったときには環境に対して有害となる材料(例えば、特に潤滑剤を介して環境内へと移って行く鉛含有材料)を露出させること;および、
− 高レベルの荷重を受ける軸受の場合には、高い比表面荷重ないし点表面荷重に耐えるに足るほど走行層の硬さが高くないため、構造化された表面(例えばディンプル)を伴った走行層を用いることができないこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】独国特許第36 29 451 C2号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/079834号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,095,690号明細書
【特許文献4】米国特許第5,238,311号明細書
【特許文献5】米国特許第5,620,262号明細書
【特許文献6】米国特許第6,059,460号明細書
【特許文献7】米国特許第6,739,238号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上述した欠点を避けると共に、向上した耐摩耗性および疲労強度を有する軸受用の滑り要素を提供することである。この目的の文脈内において意図するところは、本発明による滑り要素を製造する方法、並びに、これらの滑り要素を含む、向上した耐摩耗性および疲労強度を有する軸受をも提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、複合層を有する保持体で作られ、複合層が外側走行層と内側保護層とを備え、内側保護層が、5GPaより大きい、好ましくは10GPaより大きい、特に20GPaより大きい、特に好ましくは40GPaより大きい硬さHUplastを有している滑り要素によって達成される。
【0018】
塑性硬さHUplastは、例えば200μmの半径を有するダイヤモンド・テストヘッドを用いて、DIN EN ISO 14577に従って計測されることが好ましい。
【0019】
ダイヤモンドライク・カーボン(DLC)、例えばDLC、Me-DLC、W-DLC、Ti-DLC、Cr-DLCを含有した材料が、保護層のための材料として適している。窒化珪素などのセラミック材料を保護層に用いることもできる。保護層は、PVDおよび/またはPCVDによって被着されるのが好ましい。
【0020】
保護層に比べて、走行層は、たった10から400HVの低い硬さしか有していないが、良好な滑り特性によって特徴付けられる。走行層の硬さHVは、例えばDIN EN ISO 6507に従って計測される。400HVは約0.4GPaに相当する。走行層の硬さは、通常の運転条件下で生じる荷重に有効に耐えるに足るほど高い。めったに生じないピーク荷重の場合には、走行層が局所的に損傷を受けるかもしれないが、その場合には、下に置かれた硬質の保護層が露出して軸受のカウンターパートと接触するようになる。或いは存在するかもしれない摩耗粒子は、保護層の高い硬さのせいで当該保護層内に入り込むことができず、残存している走行層内に埋収される。
【0021】
走行層は、60から200HVの、特に80から140HVの硬さを有していることが好ましい。特に保護層は、ダイヤモンドライク・カーボン(DLC)、好ましくは30GPaより大きい硬さを有したDLCを含有している。本発明の別の構成において、保護層は、DLC、Me-DLC、W-DLC、Ti-DLC、Cr-DLC、および窒化珪素、または、これらの混合物より成る群から選択される材料を含有している。保護層は、好ましくはPVDおよび/またはPCVDによって製造されると共に、0.2から10μm、好ましくは0.5から8μm、特に1から5μmの厚さを有している。本発明の一発展形において、滑り要素は、多数の窪みおよび/または隆起を備える1つないし複数の構造化された内側表面を備えている。この場合、それぞれの表面に対して垂直に計測した高さの最大の差(例えばDIN 4768 Part 1による、山対谷(最高最低差)値)は、200μm未満、好ましくは100μm未満、特に20μm未満である。保護層および(適切ならば)別の層の付着前に、既知の計測法によって(例えば、DIN 4768 Part 1、DIN EN ISO 4287、DIN EN 10049、またはDIN EN ISO 13565に従って)内側表面の構造的パラメータを測定することができる。この場合に用いられる測定機器は、好ましくはプロフィルメータや原子間力顕微鏡、例えばテーラー・ホブソン社のタリサーフ6やデジタル・インスツルメンツ社のディメンジョン3100である。これに代わる手段として、完全な複合層を有する滑り要素の諸断面を、光学顕微鏡検査や電子顕微鏡検査によって解析したり計測したりすることができる。
【0022】
本発明の別の構成において、内側表面は多数の窪みを備えており、それらの窪みは、0.5から1500μm、好ましくは5から100μm、特に10から20μmの最大横方向寸法と、0.5から200μm、好ましくは1から200μm、特に1から20μmの最大深さとを有している。もう1つの有利な発展形において、内側表面は多数の溝を備えており、それらの溝は、0.5から2000μm、好ましくは5から200μm、特に10から20μmの最大幅と、0.5から200μm、好ましくは1から100μm、特に1から20μmの最大深さとを有している。特に保持体の表面が、構造化されて、多数の窪みおよび/または隆起を備えていてもよい。結合強さを増大させるために、好ましくはTi、TiNx、Cr、CrNy、Ni、NiCr、またはCr/NiCr合金を含有すると共に0.2から5μm、好ましくは0.5から3μmの厚さを有する結合層が、保護層と保持体との間に配置される。
【0023】
本発明のさらなる有利な構成は:
− 複合層が、保護層と保持体との間に配置された基層を備えており、その基層が好ましくは、青銅、黄銅、またはアルミニウム合金から成ると共に、100から2000μm、好ましくは100から800μm、特に200から500μmの厚さを有している;
− 基層の表面が、窪みおよび/または隆起を備える構造化された表面として構成されている;
− 複合層が、保護層と基層との間に配置された結合層を備えており、その結合層が好ましくは、Ti、TiNx、Cr、CrNy、Ni、NiCr、またはCr/NiCr合金を含有すると共に、0.2から5μm、好ましくは0.5から3μmの厚さを有している;
− 保持体が、金属、好ましくは鋼鉄から成る;
− 保持体が、窒化珪素から成る;
− 複合層が、保護層と走行層との間に配置された中間層を備えており、その中間層が好ましくは、Cr、Ni、NiCr、またはCr/NiCr合金を含有すると共に、0.2から5μm、好ましくは0.5から3μmの厚さを有している;
− 走行層が、金属、または複数の金属の合金、および/または炭化珪素(SiC)を含有している;
− 走行層が、AlSn、AlSn20、AlSn20Cu、またはAlSn25Cuを含有している;
− 走行層が、陰極スパッタ法または蒸着法によって製造されている;
− 走行層が、PbSn18Cu2、PbSn10TiO2、CuPb30、またはCuPb40を含有している;
− 走行層が、電解法によって製造されている;
− 走行層が、AgSn85CuNiを含有している;
− 走行層が、潤滑ワニスで被覆されている;および、
− 走行層が、潤滑ワニスから成る、
という事実によって特徴付けられる。
【0024】
さらに、本発明は:
− 複合層が、保護層と走行層との間に配置された中間層を備え、その中間層は、金属(Me)、好ましくは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Re、およびSiより成る群から選択される炭化物形成金属を含有し;中間層は、保護層に隣接した第1の部分的中間層と、走行層に隣接した第2の部分的中間層とを包含すると共に、第1の部分的中間層と第2の部分的中間層との間に配置された第3の部分的中間層をも包含し;第1の部分的中間層は、随意に保護層と共に漸変する遷移層を備えると共に、その次にMe-DLCまたはSi-DLCから成る非漸変層を備え:第2の部分的中間層は、Meから成ると共に、随意に第1の部分的中間層と共に漸変するように設計されており;随意の第3の部分的中間層は、金属炭化物(MeCx)またはSiCxから成ると共に、随意に第1および/または第2の部分的中間層と共に漸変するように設計されており;中間層は、0.2から5μm、好ましくは0.3から0.6μmの全厚を有していること;
− 複合層が、保護層と保持体との間、または保護層と基層との間に配置された結合層を備え、その結合層は、保持体または基層に隣接した第1の部分的結合層と、保護層に隣接して随意に第1の部分的結合層と共に漸変するように設計された第2の部分的結合層とを備え;第1の部分的結合層がTiまたはCrから成ると共に、第2の部分的結合層が窒化チタン(TiNx)または窒化クロム(CrNx)から成り;結合層は、0.2から5μm、好ましくは0.3から0.6μmの全厚を有していること;および、
− 保護層が、結合層、基層、または保持体に隣接した第1の部分的保護層と、この第1の部分的保護層に隣接して随意に第1の部分的保護層と共に漸変するように設計された第2の部分的保護層とを備えると共に、或いは、第2の部分的保護層と、走行層または中間層との間に配置されて随意に第2の部分的保護層と共に漸変するように設計された第3の部分的保護層をも備え;第1の部分的保護層は、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、およびReより成る群からMeの選択される金属炭化物MeCxから成って、特に炭化チタン(TiCx)若しくは炭化タングステン(WCx)、またはSiCxから成り;第2の部分的保護層は、Me-DLCまたはSi-DLC、特にTi-DLCまたはW-DLCから成り;随意の第3の部分的保護層はDLCから成り;保護層は、0.5から10μm、特に1から4μmの全厚を有していること、
を特徴とする実施形態に関する。
【0025】
上述した、保護層材料(Me-DLC、Si-DLC、若しくはDLC)、炭化物形成金属(Me)、またはSiから成る「漸変的遷移層」は、PVDおよび/またはPECVDによって製造されることが好ましく、その場合、被着される層の厚さが増大するにつれて層内の炭素の分量比が減少するように、被覆チャンバへ供給される炭素含有ガス(例えばアセチレン)の量が既知のやり方で連続的に減らされる。
【0026】
本発明による滑り要素は、内燃機関のシリンダ、ピストン、およびピストンリングでの使用に適しており、また、滑り接触軸受の構成部品として、例えば滑り接触軸受用の分割式シェルとして有利に用いることができる。本発明による滑り要素の平面状や円筒状の実施形態は、リニアガイドでの使用に適している。
【0027】
1つないし複数の本発明による滑り要素を、様々なタイプの機械的軸受、例えば動圧流体軸受や静圧流体軸受、空気軸受、転がり軸受、特にボール軸受で、また磁気軸受でも用いることができる。
【0028】
本発明による滑り要素(上述したもの)を製造するための方法は、
a)或いは基層または結合層を備えた保持体の表面が、随意に構造化される工程と、
b)5GPaより大きい硬さHUplastを有する保護層が保持体の表面に付着され、その保護層が好ましくはPVDおよび/またはPCVDによって被着される工程と、
c)保護層に対して、中間層が随意に付着される工程と、
d)保護層に対して、若しくは随意に中間層に対して、走行層が付着される工程と、
e)走行層に対して、潤滑ワニスが随意に付着される工程と、
を備えている。
【0029】
本発明は、走行層が部分的に破壊されて、軸受のカウンターパートが露出された(好ましくは構造化された)保護層と接触するときであっても、滑り要素が依然として非常に良好な走行特性を有する、という利点を達成するものである。そして、摩耗粒子は、保護層の窪み(その中には走行層の材料が存在する)の中に埋収される。走行層の材料の硬さは、保護層の材料の硬さよりも低い。非常に硬い保護層は、如何なる摩耗粒子も拾い上げることができず、損傷を受けないままである。その上、保護層は良好な滑り特性を有している。摩耗粒子が保護層内の窪みの中に堆積するので、軸受のカウンターパート上の摩耗度は最小限にされる。
【0030】
以下の文章において、本発明を図面に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】滑り接触軸受用の軸受シェルの斜視断面を模式的に示す図。
【図2】軸受シェルおよびシャフトを伴った滑り接触軸受を通る横断面を模式的に示す図。
【図3a】保護層を有する滑り要素の様々な実施形態を模式的に示す図。
【図3b】保護層を有する滑り要素の様々な実施形態を模式的に示す図。
【図3c】保護層を有する滑り要素の様々な実施形態を模式的に示す図。
【図3d】保護層を有する滑り要素の様々な実施形態を模式的に示す図。
【図3e】保護層を有する滑り要素の様々な実施形態を模式的に示す図。
【図3f】保護層を有する滑り要素の様々な実施形態を模式的に示す図。
【図4a】構造化された表面を内側に有する、本発明による滑り要素の斜視図を模式的に示す図。
【図4b】構造化された表面を内側に有する、本発明による滑り要素の斜視図を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、保持体10を備えた滑り要素1を示している。その保持体10上には、複合層30が付着されている。保持体10と複合層30の基本的な構造は、先行技術において既知である。図1に示す保持体10は半円筒形状を有しているが、これは滑り接触軸受に適している。本発明によれば、保持体10が如何なる他の所望形状を有することもできる。例として、平らな表面を有する保持体10はリニアガイドに適している。環状に構成された保持体10は、ピストンリングのために提供される。
【0033】
図2は、円筒状の滑り要素1と、カウンターパート50と、潤滑膜51とを備えた滑り接触軸受を示している。滑り要素1は、保持体10と複合層30とを備えている。潤滑膜51(これは、一般的に天然や合成のオイルから成る)は、滑り要素1とカウンターパート50との間に置かれている。滑り要素1とカウンターパート50との間の相対的な移動が、矢印Aで示されている。潤滑膜51内に摩耗粒子52が存在するのが実情かもしれない。摩耗粒子52’が十分に高い硬さを有しているときには、その摩耗粒子52’は、カウンターパート50によって複合層30内へと押し込まれ、ないしは複合層30内に埋収される。
【0034】
図3aは、本発明による滑り要素1の第1実施形態の横断面を示している。この実施形態において、複合層30は、走行層39と保護層35とを備えている。その保護層35は、保持体10上に置かれている。
【0035】
図3bは、本発明による別の実施形態を示している。この実施形態においては、走行層39と保護層35に加えて、複合層30が、保持体10と保護層35との間に配置された基層31を備えている。
【0036】
図3cは、本発明による滑り要素1のもう1つの実施形態を示している。この実施形態において、複合層30は、結合層32と中間層36とを備えている。結合層32および中間層36は、保護層35と基層31との間、および保護層35と走行層39との間にそれぞれ配置されている。
【0037】
本発明の有利な発展形においては、滑り要素1の1つないし複数の内側表面が構造化される。その(それらの)内側表面は、保持体10の表面や基層31の表面であることが好ましい。
【0038】
図3dは、その保持体10が構造化された表面20を有する滑り要素1を断面で示している。例として、その表面20は、深さTを有した型押し構造を備えている。表面20の推移に類似した推移を有する保護層35が、当該表面20上に置かれている。走行層39は、保護層35上に置かれている。
【0039】
図3eは、基層31の表面20が構造化された滑り要素1の実施形態を示している。参照符号30、35、39、およびTは、図3dにおけるものと同じ意味を有している。
【0040】
図3fは、図3cに示す滑り要素に類似した構造を有する滑り要素1を示しているが、その基層31の表面20は構造化されている。基層31に対して保護層35を固定する結合層32が、表面20上に置かれている。保護層35に対して付着された中間層36が、走行層39に対して保護層35を接合する役目をする。
【0041】
図3d〜図3fおよび図4a〜図4bにおいて、走行層39は平らである。これは、構造化された表面20を覆う、保護層35の、および/または走行層39の、また(適切ならば)他の層の厚さが、当該表面20内の窪み/隆起を平らにし、ないしは平坦化するに足るほど大きいときにのみ達成される。これは一般的には当てはまらず、その代わり、保護層35、および(適切ならば)走行層39は、構造化された表面20と一致した推移を有する。従って、本発明は、保護層35、および(適切ならば)走行層39が、構造化された表面20と実質的に一致するように設計された滑り要素1をも包含する。
【0042】
保護層35が、多数の窪みを伴う構造化された表面20と一致した推移を有する、本発明による滑り要素1は、以下の効果に基づいた、特に有利な保護作用によって特徴付けられる:
i)走行層39が広範囲にわたって破壊されたときには、走行層39の残りの材料が、保護層35内の窪みの中に留まる。この残りの材料は摩耗粒子の埋収に役立てられ、それらの摩耗粒子は、保護層35の高い硬さのせいで保護層35内へと入り込むことができない。
ii)保護層35における多数の窪みのおかげで、軸受のカウンターパートとの接触面が減少し、これに関連して、カウンターパート上の摩擦に対する抵抗が減少する。
【0043】
図4aは、構造化された表面20を有する滑り要素1の斜視図を示している。その表面20は、基層31内に規則的に配置された多数の窪みないしディンプル23を備えている。その他については、この滑り要素1の構造は、図3bに示す滑り要素の構造に対応している。横方向寸法ないし長さLxおよび幅Lyを有した窪み23は、既知の方法、例えば型押しや化学エッチングによって作り出すことができる。規則的な配置は必要ではなく、窪み23の形状と相互配置の両方が不規則であってもよい。
【0044】
図4bは、本発明の別の実施形態を示している。この実施形態においては、基層31の表面20が、溝ないし畦溝で構造化されて、窪み23と隆起24とを備えている。それらの溝は、不規則に寸法決めおよび配置されていてもよい。
【0045】
1つないし複数の内側表面20が、様々な既知の方法によって構造化される。例として、この場合は、機械的な方法(例えば、型押し、ミリング、ターニング(旋削)、グラインディング(研削)、ショットブラスティングなど)、高エネルギー放射線(例えばレーザーないし電子放射線)、または化学エッチング法が(適切ならば、写真印刷的に作成されたエッチング・マスクとの組み合わせで)用いられる。
【0046】
基層31に適した材料は、特に、錫、ビスマス、インジウム、鉛、またはアルミニウムに基づく合金であり、また、CuPb(これは、或いは高い鉛含有量を有していてもよい)に基づいたり、AlSnやAlBiに基づいたりする合金でもある。高い錫含有量を有した錫基合金は特に有利である。無鉛銅基合金を用いることもできる。銅基材料の例は、CuPb22Sn2、CuPb10Sn10、CuPb15-Sn7、CuSn6、CuSn4Znである。比較的低い環境汚染に関しては、CuAl、CuSn、CuZn、CuZnSn、およびCuBiに基づく無鉛銅合金が特に有利である。錫基材料の例は、Sn8Cu4、SnSb2、Cu6Pbである。鉛基材料の例は、PbSb10Sn6、PbSb15Sn10、PbSb15-SnAsである。可能性のあるアルミニウム基材料は、AlSn40、AlSn20、AlSn25、AlSn10、AlSn6、その他である。
【0047】
AlZnに基づく材料(例えばAlZn4SiPb)や、AlSiに基づく材料(例えばAlSiCuMgNi)や、AlSnSiに基づく材料(例えばAlSn20Si4)を基層31のために用いることもできる。例として、基層31は、先行技術より既知のように、電気めっきによって、クラッド法、ロール・クラッド法、その他によって保持体に付着されてもよい。
【0048】
走行層35は、スパッタ法、蒸着法、または電気めっきの助けを借りて被着されることが好ましい。この場合、先行技術より既知の合金や金属、例えば、アルミニウム合金、合金元素として鉛および/またはビスマスおよび/またはインジウムおよび/または錫を含有したアルミニウム基合金、銅基合金、鉛および/またはビスマスおよび/またはインジウムおよび/または錫を含有した銀基合金、銀−鉛合金などを被着することができる。或いは用いることのできる合金のリストは網羅的なものではなく、述べられたもの以外の合金や混合物を加工することもできるのは言うまでもないが、そこでは同様に無鉛合金の使用が特に優先される。スパッタ法はそれ自体知られているから、この時点では関連文献が参照される。スパッタのための合金は、50重量%から90重量%の範囲、例えば55重量%から80重量%の範囲、好ましくは60重量%から79重量%の範囲、特に64重量%から70重量%の範囲のアルミニウムを含有していてよく、また5重量%から45重量%の範囲、例えば10重量%から39重量%の範囲、好ましくは12重量%から32重量%の範囲、特に17重量%から20重量%の範囲の錫を含有していてもよい。
【0049】
他の合金元素、例えばマンガン、鉄、コバルトなどが、特定の合金相、例えば硬質材料の組成のために存在していてもよい。例として、別の合金元素は、Ag、Al、Fe、Cu、Ni、Sc、Si、Zn、Mn、Co、Cr、Zr、Mgであろう。
【0050】
走行層39のために潤滑ワニスが用いられるとき、これは主成分として少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含有する。この熱可塑性樹脂は、特に、ポリイミド、ポリアミドイミド、特に芳香族ポリアミドイミド、ポリアリルエーテルイミド、特に芳香族ポリアリルエーテルイミド、適切ならばイソシアネートで改質されたもの、フェノール樹脂、ポリアリルエーテルエーテルケトン、ポリアミド、エポキシ樹脂、特に芳香族エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、弗素含有樹脂、例えば、ポリフルオロアルコキシ・ポリテトラフルオロエチレン・コポリマー、エチレン・テトラフルオロエチレン、弗素添加エチレン・プロピレン・コポリマー、2弗化ポリビニリデン、ポリ弗化ビニル、アリレンサルファイド、ポリトリアゾ・ピロメリットイミド、ポリエステルイミド、ポリアリルサルファイド、ポリビニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアリルオキシド、これらのコポリマーおよび混合物、例えば、ポリイミドおよび/またはポリアミドイミドおよび/またはポリアリルエーテルイミドおよび/またはフェノール樹脂および/またはポリアリルエーテルエーテルケトンおよび/またはポリアミドおよび/またはエポキシ樹脂および/またはポリテトラフルオロエチレンおよび/または弗素含有樹脂(例えば、ポリフルオロアルコキシ・ポリテトラフルオロエチレン・コポリマー、エチレン・テトラフルオロエチレン、弗素添加エチレン・プロピレン・コポリマー、2弗化ポリビニリデン、ポリ弗化ビニル)、アリレンサルファイドおよび/またはポリトリアゾ・ピロメリットイミドおよび/またはポリエステルイミドおよび/またはポリビニレンサルファイドおよび/またはポリスルホンおよび/またはポリアリルスルホンおよび/またはポリアリルオキシドと、ポリイミドおよび/またはポリアミドイミドおよび/またはポリアリルエーテルイミドおよび/またはフェノール樹脂および/またはポリアリルエーテルエーテルケトンおよび/またはポリアミドおよび/またはエポキシ樹脂および/またはポリテトラフルオロエチレンおよび/または弗素含有樹脂(例えば、ポリフルオロアルコキシ・ポリテトラフルオロエチレン・コポリマー、エチレン・テトラフルオロエチレン、弗素添加エチレン・プロピレン・コポリマー、2弗化ポリビニリデン、ポリ弗化ビニル)および/またはアリレンサルファイドおよび/またはポリトリアゾ・ピロメリットイミドおよび/またはポリエステルイミドおよび/またはポリアリルサルファイドおよび/またはポリビニレンサルファイドおよび/またはポリアリルスルホンおよび/またはポリアリルオキシドとのコポリマーおよび混合物、より成る群から選択される。ここでは、主として熱可塑性樹脂や樹脂混合物やコポリマーから成る潤滑ワニスによって、周期性の温度依存性軟化・硬化機構を可能とすることが有利であり、その結果として、潤滑ワニスの層の耐用寿命を増大させることができる。具体的に挙げた樹脂や樹脂混合物やコポリマーのおかげで、異なる荷重の段階に軸受摩擦を適合させることができる、ということも有利である。従って、高レベルの荷重を受けられる軸受要素にだけ高価なタイプの樹脂を用いることができ、その結果として、より低レベルの荷重を受ける軸受要素についてはコストの点で利益を得ることができる。
【0051】
潤滑ワニスの樹脂含有量は、30%の下限値と95%の上限値とを有する範囲から選択することができる。これにより、基体への歪みの伝達性を変化させることができる。従って、潤滑ワニスの層の走行特性を(特に、慣らし運転段階において)、それぞれの要求に対してより良好に適合させることができる。
【0052】
この効果をさらに改善するために、潤滑ワニスの樹脂含有量を、50重量%の下限値と85重量%の上限値とを有する範囲から、若しくは70重量%の下限値と75重量%の上限値とを有する範囲から選択することができる。
【0053】
熱可塑性樹脂は、潤滑剤、特にMoS2、h-BN、WS2、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン、Pb、Pb-Sn合金、CF2、PbF2、さらに硬質材料、例えばCrO3、Fe3O4、PbO、ZnO、CdO、Al2O3、SiC、Si3N4、SiO2、Si3N4、さらに粘土、タルク、TiO2、ムライト、CaC2、Zn、AlN、Fe3P、Fe2B、Ni2B、FeB、金属硫化物、例えばZnS、Ag2S、CuS、FeS、FeS2、Sb2S3、PbS、Bi2S3、CdS、繊維、特に無機繊維、例えばガラス、炭素、チタン酸カリウム、ホイスカー(例えばSiC)、(例えばCuや鋼鉄の)金属繊維、さらに、これらの混合物、例えば少なくとも1つの潤滑剤(特に上述したタイプのもの)および/または少なくとも1つの硬質材料(特に上述したタイプのもの)および/または少なくとも1つの金属硫化物(特に上述したタイプのもの)および/または少なくとも1つの繊維状添加物(特に上述したタイプのもの)と、少なくとも1つの潤滑剤および/または1つの硬質材料および/または1つの金属硫化物および/または少なくとも1つの繊維状添加物(全て、特に上述したタイプのもの)との混合物、より成る群から選択された少なくとも1つの添加物を含有していてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合層(30)を有する保持体(10)を備え、複合層(30)は、外側走行層(39)と、5GPaより大きい硬さHUplastを有する内側保護層(35)とを備えている、滑り要素(1)。
【請求項2】
保護層(35)は、10GPaより大きい、好ましくは20GPaより大きい、特に40GPaより大きい硬さHUplastを有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項3】
走行層(39)は、10から400HVの、好ましくは60から200HVの、特に80から140HVの硬さを有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項4】
保護層(35)は、ダイヤモンドライク・カーボン(DLC)、好ましくは30GPaより大きい硬さを有したDLCを含有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項5】
保護層(35)は、DLC、Me-DLC、W-DLC、Ti-DLC、Cr-DLC、および窒化珪素、またはこれらの混合物より成る群から選択される材料を含有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項6】
保護層(35)は、PVDおよび/またはPCVDによって製造されると共に、0.2から10μm、好ましくは0.5から8μm、特に1から5μmの厚さを有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項7】
多数の窪み(23)および/または隆起(24)を備える少なくとも1つの構造化された内側表面(20)を備えている、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項8】
当該表面(20)に対して垂直に計測した高さの最大の差(DIN 4768 Part 1による山対谷値)が、200μm未満、好ましくは100μm未満、特に20μm未満である、ことを特徴とする請求項7記載の滑り要素(1)。
【請求項9】
内側表面(20)は多数の窪み(23)を備えており、それらの窪み(23)は、
0.5から1500μm、好ましくは5から100μm、特に10から20μmの最大横方向寸法と、
0.5から200μm、好ましくは1から200μm、特に1から20μmの最大深さと、
を有している、ことを特徴とする請求項7記載の滑り要素(1)。
【請求項10】
内側表面(20)は多数の溝(23)を備えており、それらの溝(23)は、
0.5から2000μm、好ましくは5から200μm、特に10から20μmの最大幅と、
0.5から200μm、好ましくは1から100μm、特に1から20μmの最大深さと、
を有している、ことを特徴とする請求項7記載の滑り要素(1)。
【請求項11】
保持体(10)の表面が、窪み(23)および/または隆起(24)を備える構造化された表面(20)として構成されている、ことを特徴とする請求項7記載の滑り要素(1)。
【請求項12】
複合層(30)は、保護層(35)と保持体(10)との間に配置された結合層(32)を備えており、その結合層(32)は好ましくは、Ti、TiNx、Cr、CrNy、Ni、NiCr、またはCr/NiCr合金を含有すると共に、0.2から5μm、好ましくは0.5から3μmの厚さを有している、ことを特徴とする請求項1または11記載の滑り要素(1)。
【請求項13】
複合層(30)は、保護層(35)と保持体(10)との間に配置された基層(31)を備えており、その基層(31)は好ましくは、青銅、黄銅、またはアルミニウム合金から成ると共に、100から2000μm、好ましくは100から800μm、特に200から500μmの厚さを有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項14】
基層(31)の表面が、窪み(23)および/または隆起(24)を備える構造化された表面(20)として構成されている、ことを特徴とする請求項7および13記載の滑り要素(1)。
【請求項15】
複合層(30)は、保護層(35)と基層(31)との間に配置された結合層(32)を備えており、その結合層(32)は好ましくは、Ti、TiNx、Cr、CrNy、Ni、NiCr、またはCr/NiCr合金を含有すると共に、0.2から5μm、好ましくは0.5から3μmの厚さを有している、ことを特徴とする請求項13または14記載の滑り要素(1)。
【請求項16】
保持体(10)は、金属、好ましくは鋼鉄から成る、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項17】
保持体(10)は、窒化珪素から成る、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項18】
複合層(30)は、保護層(35)と走行層(39)との間に配置された中間層(36)を備えており、その中間層(36)は好ましくは、Cr、Ni、NiCr、またはCr/NiCr合金を含有すると共に、0.2から5μm、好ましくは0.5から3μmの厚さを有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項19】
走行層(39)は、金属、複数の金属の合金、および/またはSiCを含有している、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項20】
走行層(39)は、AlSn、AlSn20、AlSn20Cu、AlSn25Cuを含有している、ことを特徴とする請求項19記載の滑り要素(1)。
【請求項21】
走行層(39)は、陰極スパッタ法または蒸着法によって製造されている、ことを特徴とする請求項19または20記載の滑り要素(1)。
【請求項22】
走行層(39)は、PbSn18Cu2、PbSn10TiO2、CuPb30、またはCuPb40を含有している、ことを特徴とする請求項19記載の滑り要素(1)。
【請求項23】
走行層(39)は、電解法によって製造されている、ことを特徴とする請求項19または22記載の滑り要素(1)。
【請求項24】
走行層(39)は、AgSn85CuNiを含有している、ことを特徴とする請求項19記載の滑り要素(1)。
【請求項25】
走行層(39)は、潤滑ワニスで被覆されている、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項26】
走行層(39)は、潤滑ワニスから成る、ことを特徴とする請求項1記載の滑り要素(1)。
【請求項27】
滑り接触軸受のための分割式シェルとして構成されている、ことを特徴とする請求項1から26のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)。
【請求項28】
内燃機関のシリンダ、ピストン、およびピストンリングにおける、請求項1から26のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)の使用。
【請求項29】
リニアガイドのための、請求項1から26のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)の使用。
【請求項30】
請求項1から26のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)を1つないし複数備えた機械的軸受。
【請求項31】
請求項1から27のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)を製造するための方法であって、
a)或いは基層(31)を備えた保持体(10)の表面(20)が、随意に構造化される工程と、
b)5GPaより大きい硬さHUplastを有する保護層(35)が保持体(10)の表面に付着され、その保護層(35)が好ましくはPVDおよび/またはPCVDによって被着される工程と、
c)保護層(35)に対して、中間層(36)が随意に付着される工程と、
d)保護層(35)に対して、若しくは随意に中間層(36)に対して、走行層(39)が付着される工程と、
e)走行層(39)に対して、潤滑ワニスが随意に付着される工程と、
を備えた方法。
【請求項32】
複合層(30)は、保護層(35)と走行層(39)との間に配置された中間層(36)を備え、その中間層(36)は、金属(Me)、好ましくは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、およびReより成る群から選択される炭化物形成金属を含有し;中間層(36)は、保護層(35)に隣接した第1の部分的中間層と、走行層(39)に隣接した第2の部分的中間層とを備えると共に、第1の部分的中間層と第2の部分的中間層との間に配置された第3の部分的中間層をも随意に備え;第1の部分的中間層は、随意に保護層と共に漸変する遷移層を備えると共に、その次にMe-DLCまたはSi-DLCから成る非漸変層を備え;第2の部分的中間層は、Meから成ると共に、随意に第1の部分的中間層と共に漸変するように設計されており;随意の第3の部分的中間層は、金属炭化物(MeCx)またはSiCxから成ると共に、随意に第1および/または第2の部分的中間層と共に漸変するように設計されており;中間層(36)は、0.2から5μm、好ましくは0.3から0.6μmの全厚を有している、ことを特徴とする請求項1、4、および5のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)。
【請求項33】
複合層(30)は、保護層(35)と保持体(10)との間、または保護層(35)と基層(31)との間に配置された結合層(32)を備え、その結合層(32)は、保持体(10)または基層(31)に隣接した第1の部分的結合層と、保護層(35)に隣接して随意に第1の部分的結合層と共に漸変するように設計された第2の部分的結合層とを備え;第1の部分的結合層がTiまたはCrから成ると共に、第2の部分的結合層が窒化チタン(TiNx)または窒化クロム(CrNx)から成り;結合層(32)は、0.2から5μm、好ましくは0.3から0.6μmの全厚を有している、ことを特徴とする請求項1、11、または13のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)。
【請求項34】
保護層(35)は、結合層(32)、基層(31)、または保持体(10)に隣接した第1の部分的保護層と、この第1の部分的保護層に隣接して随意に第1の部分的保護層と共に漸変するように設計された第2の部分的保護層とを備えると共に、或いは、第2の部分的保護層と、走行層(39)または中間層(36)との間に配置されて随意に第2の部分的保護層と共に漸変するように設計された第3の部分的保護層をも備え;第1の部分的保護層は、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、およびReより成る群からMeの選択される金属炭化物MeCxから成って、特に炭化チタン(TiCx)若しくは炭化タングステン(WCx)、またはSiCxから成り;第2の部分的保護層は、Si-DLC、またはMe-DLC、特にTi-DLC若しくはW-DLCから成り;随意の第3の部分的保護層はDLCから成り;保護層(35)は、0.5から10μm、特に1から4μmの全厚を有している、ことを特徴とする請求項1および33のうち1項ないし2項以上に記載の滑り要素(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2012−500365(P2012−500365A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522437(P2011−522437)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005879
【国際公開番号】WO2010/017984
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(511040609)アーエムゲー、コーティング、テクノロジーズ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】AMG COATING TECHNOLOGIES GMBH
【Fターム(参考)】