説明

複合焼結体

【課題】超硬合金層とサーメット層とが積層された複合焼結体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】原料に超硬合金層を構成する超硬粉末と、サーメット層を構成するサーメット粉末とを用意し、これらの粉末を積層した成形体を作製し、この成形体を焼結して超硬合金層12とサーメット層11とが積層された複合焼結体10を製造する。サーメット粉末には、Ti及びWを含み、有芯構造である固溶体の粉末を10質量%以上用いる。原料に、特定の組成からなる有芯構造の固溶体の粉末を利用することで、有芯構造となっていない固溶体の粉末や固溶体となっていない粉末を利用する場合と比較して、結合相との濡れ性を高められ、焼結性を向上することができる。その結果、超硬合金とサーメットとにおける焼結時の収縮挙動の差による変形を抑制して、適正な形状の複合焼結体を得易い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金層及びサーメット層の双方を具えた複合焼結体、及びその製造方法に関する。特に、焼結時に変形が少ない複合焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具などの各種の工具の基材材料に、WC(炭化タングステン)やTiCN(炭窒化チタン)といった金属化合物(代表的にはセラミックス)からなる硬質相粒子をCoやNiといった鉄族金属で結合した超硬合金やサーメットが利用されている。
【0003】
一般に、サーメットは、TiCNなどのTiを含む化合物を主たる硬質相とすることから高硬度であるものの、WCを主たる硬質相とする超硬合金よりも靭性が低いとされる。そのため、サーメットを基材とする工具は、適用範囲が狭く、例えば、切削工具の場合、主に低負荷の仕上げ加工に利用される。
【0004】
特許文献1は、サーメットの表面領域のW濃度を高めることで、サーメットの耐欠損性を向上することを開示している。しかし、W濃度を調整することにより靭性を向上するには限界があり、大きな性能の向上が難しい。
【0005】
これに対し、特許文献2,3は、サーメットと超硬合金とが積層された複合材を提案している。特許文献2は、超硬合金とサーメットとを別個に作製し、両者の接合面を研削して面粗さを小さくしてから積層したものを加熱して一体化した複合材を開示している。特許文献3は、超硬合金の原料粉末とサーメットの原料粉末を積層した成形体を作製し、この成形体を焼結することを開示している。これらの複合材は、超硬合金を具えることで、サーメットのみとする場合よりも靭性を効果的に高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-272877号公報
【特許文献2】特開平06-240308号公報
【特許文献3】国際公開第2009/034716号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に開示される複合材では、超硬合金とサーメットとの接合強度が不十分である。
上述のように特許文献2に記載の技術では、超硬合金とサーメットとを一旦製造してから表面研削を行った後加熱接合するため、超硬合金とサーメットとの境界(接合界面)が平坦な形状となる。境界が平坦な形状であると、両者の熱膨張係数といった特性の差などによる剥離や変形が生じ易い。また、この技術では、工程が多く、生産性の改善が望まれる。
【0008】
これに対して、特許文献3に開示される複合材は、積層構造の成形体を焼結することで一体とするため、接合強度が高く、超硬合金層とサーメット層とが剥離し難い。また、特許文献3では、例えば、超硬合金層とサーメット層との境界の凹凸状態を特定の範囲としたり、両層の結合相量を特定の範囲に調整したりするなどして、特に、焼結時に生じ得る変形を抑制することを提案している。しかし、例えば、上記境界の凹凸が大きくなり過ぎると、焼結時に焼結対象が変形し易くなる。超硬合金層とサーメット層との双方を具えていても、一方の層が変形していると、両層を十分に活用することが難しくなる。従って、焼結時に生じる変形を更に抑制することができる複合材の開発が望まれる。
【0009】
そこで、本発明の目的の一つは、超硬合金とサーメットとの複合焼結体において、焼結時の変形が少ない複合焼結体を提供することにある。また、本発明の別の目的は、焼結時の変形を抑制して、適正な形状の複合焼結体を製造し易い複合焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、原料粉末を積層させた成形体を焼結して、積層構造の焼結体を製造するにあたり、特定の組成及び構造の原料粉末を利用することで、変形を抑制することができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づくものである。
【0011】
本発明の複合焼結体の製造方法は、超硬合金層と、サーメット層とが積層された複合焼結体を製造する方法に係るものであり、以下の工程を具える。
原料として、上記超硬合金層を構成する超硬粉末と、上記サーメット層を構成するサーメット粉末とを用意する工程。
上記超硬粉末と上記サーメット粉末とを積層した成形体を作製し、この成形体を焼結する工程。
そして、上記サーメット粉末には、Ti及びWを含み、有芯構造である固溶体の粉末を10質量%以上用いる。
【0012】
本発明製造方法は、上述のように原料粉末の段階で積層構造とし、この積層された成形体を焼結することで、超硬合金層とサーメット層とが積層された複合焼結体を生産性よく製造できる上に、両層が強固に接合された複合焼結体が得られる。
【0013】
かつ、本発明製造方法では、特にサーメットの原料粉末の少なくとも一部に、上記固溶体の粉末を用いることで、焼結時の変形を効果的に抑制して、適正な形状に焼結し易い。従って、本発明製造方法によれば、寸法精度に優れる焼結体を製造することができる。ここで、一般に、Ti化合物を主たる硬質相とするサーメットは、硬質相の原料にTiCNやTiCなどの粉末を用い、WCを主たる硬質相とする超硬合金は、硬質相の原料にWCの粉末を用いる。上記TiCNやTiCなどの固溶体でない化合物は、WCに比較して、Coといった結合相との濡れ性に劣る。そのため、サーメットは、超硬合金よりも焼結性が悪い。また、超硬合金とサーメットとは、組成が異なることで熱伸縮の度合いが異なり、焼結時の収縮挙動に差がある。これらのことから、従来のサーメットの製造に利用されている原料粉末を用いて、このサーメット粉末と超硬粉末とを積層して同時に焼結すると、サーメットの方が焼結され難く、収縮し終わるまでの時間が超硬合金よりも長くかかり(収縮の完了が遅く)、サーメットは、超硬合金の収縮終了後にも収縮する。そのため、従来のサーメットの製造に利用されている原料を用いて超硬合金との積層構造の焼結体を作製すると、サーメットは、上記焼結時の収縮挙動の差による変形が生じ易くなる。これに対して、サーメットの原料に、上記Ti及びWを少なくとも含有する固溶体を用いると、当該固溶体は、Tiなどの金属元素を1種類だけ含む化合物と比較して結合相との濡れ性が高いため、サーメットの焼結性を向上することができる。また、サーメットの原料に、上記有芯構造を有する固溶体を用いると、当該固溶体は、サーメットの原料に一般的に用いられる、Ti,Wなどの周期律表IVa,Va,VIa族元素を含有する固溶体の粉末(但し、有芯構造を有していないもの)を用いた場合と比較しても、結合相との濡れ性を向上できることから、サーメットの焼結性を向上することができる。このようにサーメットの原料に特定の組成及び構造を有する上記固溶体を用いることで、サーメットの熱収縮特性を超硬合金の熱収縮特性に近づけることができる。その結果、本発明製造方法によれば、特に、超硬合金とサーメットとにおける焼結時の収縮挙動の差による変形を抑制して、変形が少ない以下の本発明複合焼結体を得ることができる。
【0014】
本発明の複合焼結体は、超硬合金層と、サーメット層とが積層されたものであり、当該複合焼結体における積層方向に沿った外周面の変形度合いが小さい。具体的には、上記複合焼結体の積層方向が水平面と平行になるように、上記水平面に上記複合焼結体を配置する。この状態で、上記水平面から上記外周面までの距離Hをとる。そして、この距離Hのうち、最大値をとる点M1と、次に大きい値をとる点M2とを結ぶ直線lをとり、この直線lから上記距離Hのうち、最小値をとる点mまでの距離をtとし、上記複合焼結体の積層方向の厚さをhとするとき、本発明複合焼結体は、t/hが0.015以下を満たす。
【0015】
本発明複合焼結体は、上記本発明製造方法により製造されることで、超硬合金層とサーメット層との接合性が高く、剥離し難い。かつ、本発明複合焼結体は、特定の組成及び構造の固溶体を原料に用いることで、上述のように焼結中の変形が抑制されて変形が少なく、寸法精度に優れる。そのため、本発明複合焼結体は、超硬合金層及びサーメット層の双方の特性を十分に活用することができる。また、本発明複合焼結体は、少なくとも一層の超硬合金層を具えることで、靭性に優れるため、サーメットだけでは欠けなどが生じて適用が困難であった分野にも、好適に利用することができると期待される。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
[複合焼結体]
《全体構造》
本発明複合焼結体は、少なくとも一層の超硬合金層と少なくとも一層のサーメット層とが部分的に積層された構造(一部のみが積層構造となっている形態)でもよいが、その全体が積層構造であると、上記本発明製造方法により容易に製造でき、製造性に優れる。また、この複合焼結体の表面側の少なくとも一部、好ましくは表面層全体が超硬合金層であると、この複合焼結体を切削工具に利用する場合、靭性に優れる超硬合金層が刃先の少なくとも一部を構成することができるため、欠損などを生じ難くすることができる。具体的な形態は、一つのサーメット層と一つの超硬合金層とが積層された二層構造、一つのサーメット層を内部層とし、内部層の両側を挟むように一対の超硬合金層が積層された三層構造、一つのサーメット層を内部層とし、その外表面全面を覆うように超硬合金層が配置された内包構造(断面二層)、一つのサーメット層を中心層とし、その外表面の一部を囲むように超硬合金層が配置され、サーメット層の一部が露出された同心状構造(断面二層)といった形態の他、上記内部層や中心層がサーメット層と超硬合金層との積層体である形態などが挙げられる。上記各形態において積層数は、特に問わない。サーメット層及び超硬合金層の双方が複数でもよい。
【0017】
《境界の形状》
本発明複合焼結体は、後述するように製造方法を工夫することで、超硬合金層とサーメット層との境界に微細な凹凸を具える構成とすることができ、この凹凸の係合により、両層が強固に接合し、剥離し難い。上記凹凸は、特にその最大落差(代表的には、当該複合焼結体の積層方向が水平面に直交するようにこの水平面に当該複合焼結体を設置したとき、当該水平面から上記境界までの距離を測定し、この距離の最大値と最小値との差)が50μm以上500μm以下、特に50μm以上300μm以下を満たすことが好ましい。また、複合焼結体の表面層が超硬合金層で構成されている場合、この超硬合金層に隣接するサーメット層との境界に上記特定の大きさの凹凸が存在することが好ましい。上記境界の凹凸が上記範囲を満たすことで、両層が十分に係合して、焼結時に各層が収縮する際に生じる横方向(主として積層方向に直交する方向)の応力により剥離し難い上に、各層の熱収縮率の差から生じる変形を抑えられる。
【0018】
《変形度合い》
複合焼結体の外周面に、変形による凹凸が存在する場合、当該外周面に、例えば、研削加工や研磨などを行って、形状を整えることができる。しかし、研削加工や研磨などを別途行う必要がある上に、これらの加工後に所定の寸法となるように、複合焼結体をある程度大きめに作製しておく必要があり、生産性の低下やコストの上昇を招く。一方、複合焼結体を切削チップなどの切削工具に利用する場合に、上記変形による凹凸が複合焼結体の外周面に存在すると、被削材の加工精度の低下や、工具本体に対する切削チップの固定状態の不安定さといった問題が生じる。工具本体に対して適切に固定されていないことで、切削工具として十分に使用できない恐れがある。例えば、摩耗し易くなったり、チッピングなどが生じ易くなる恐れがある。これらの問題が生じないようにするためには、変形量が小さい、具体的には、上述した距離Hの最小値Hminをtとするとき、複合焼結体の積層方向の厚さhに対する割合:t/hが0.015以下を満たすことが望まれる。上記t/hは、小さい方が好ましく、特に、0.008以下であることが好ましく、下限は特に設けない。
【0019】
なお、上述のように、サーメット層が超硬合金層よりも収縮し易い傾向にある。また、積層状態などによっては、例えば、複合焼結体の中央部分が周縁部分よりも突出した所謂太鼓状となることも有り得るが、このような凸形状体では、例えば、工具本体に取り付けることが難しいため、不良品とすることが多い。従って、本発明複合焼結体では、当該複合焼結体の外周面において凹んだ部分について規定する。
【0020】
上記距離Hの測定は、水平面を有する水平台に複合焼結体を配置して、そのまま測定してもよいし、複合焼結体をその積層面がわかるように切断し、その断面を利用して測定してもよいし、断面写真を利用して測定してもよい。例えば、上述した二層構造や三層構造の複合焼結体の場合、上述のように積層方向が水平面と平行となるように、代表的には、超硬合金層とサーメット層との境界が水平面に直交するように複合焼結体を水平面に配置して、この水平面から上記外周面までの距離Hを測定するとよい。サーメット層が超硬合金層よりも収縮している場合(凹んだ状態である場合)、上記二点M1,M2は、超硬合金層上に存在し、上記点mはサーメット層上に存在し得る。
【0021】
《超硬合金層》
《硬質相》
超硬合金層は、WC粒子を主たる硬質相とし、Coといった鉄族金属を主たる結合相とするWC基超硬合金から構成される。この超硬合金層は、硬質相となるWC粒子をサーメット層よりも多く含むものとする。特に、超硬合金層は、W及びWCを合計で65質量%超含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。また、WC粒子は、特に、平均粒径が0.1μm以上5.0μm以下が好ましい。上記範囲において、平均粒径が小さいと、高硬度で耐摩耗性に優れる超硬合金層が得られ、平均粒径が大きいと、耐熱亀裂性といった靭性に優れる超硬合金層が得られる。所望の特性に応じて、WCの大きさを選択することができる。超硬合金層中のWC粒子の大きさは、概ね原料粉末に依存するため、原料粉末の大きさにより調整するとよい。後述するサーメット層中の硬質相粒子の大きさも同様に原料粉末の大きさにより調整できる。
【0022】
《結合相》
結合相は、主として鉄族金属からなり(80質量%以上が鉄族金属)、鉄族金属の他に原料粉末に起因すると考えられる元素が含有(固溶)されることを許容する。鉄族金属は、Coの他、FeやNiを含有してもよいが、Coのみが好ましい。超硬合金層中の結合相の含有量は、3質量%以上20質量%以下が好ましい。20質量%超であると、靭性が高くなる反面、強度や耐摩耗性が低下し易く、3質量%未満であると、靭性が低下し易い。特に、5質量%以上15質量%以下であると、靭性に優れるため、好ましい。
【0023】
《その他の含有物》
超硬合金層は、WC粒子や鉄族金属の他、更に、周期律表IVa,Va,VIa族の金属元素群から選択される1種以上の元素や、同金属元素群から選択される1種以上の元素と、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)及び硼素(B)からなる群から選択される1種以上の元素とからなる化合物(固溶体を含む)を含有していてもよい。具体的な元素は、Cr,Ta,Ti,Nb,Zr,V、化合物は、(Ta,Nb)C,VC,Cr2C3,NbC,TiCNなどが挙げられる。これらの元素や化合物は、結合相に含有(固溶)されて存在したり、粒子で存在して硬質相として機能したりする。これらの元素や化合物は、焼結中においてWC粒子の粒成長を抑制する作用を有するものが多い。超硬合金層がこれらの元素や化合物を含有する場合、その含有量は、合計40質量%以下(但し0質量%を含む)が好ましい。なお、WC粒子は、これらの元素や化合物、結合相及び不純物を除く残部を構成する。
【0024】
《厚さ》
特に、表面側に超硬合金層を具える形態とし、この複合焼結体を切削チップといった切削工具(基材)に利用する場合、超硬合金層の積層方向の平均厚さは、サーメット層の積層方向の平均厚さに対して、0.05以上1以下、特に0.1以上0.7以下を満たすことが好ましい。即ち、超硬合金層は、サーメット層と同等以下の厚さである、即ち薄いことが好ましい。超硬合金層を複数層具える場合、例えば、上述した三層構造の場合、二層の超硬合金層のいずれもが上記範囲を満たすことが好ましい。超硬合金層が薄過ぎると、本発明複合焼結体を切削工具に利用した場合、靭性に劣るサーメット層に大きな切削応力がかかり、欠けが発生し易くなり、厚過ぎると、超硬合金層とサーメット層との境界に上述した微細な凹凸を有していても剥離し易くなる恐れがある。また、表面層となる超硬合金層が厚過ぎると、当該超硬合金層の表面の圧縮応力が小さくなり過ぎる傾向がある。ある程度の圧縮応力は、耐欠損性の向上に寄与すると期待される。切削チップの厚さは、せいぜい10mm程度であり、このような切削チップにおいて、サーメット層及び超硬合金層の平均厚さが上記範囲を満たすことで、耐欠損性、耐剥離性に優れると期待される。
【0025】
《刃先処理》
特に、表面側に超硬合金層を具える形態とし、この積層構造の焼結体を切削工具に利用する場合、当該超硬合金層がつくる稜線の少なくとも一部は、切刃になる。切刃は、焼結したままの状態でもよいが、ホーニングといった刃先処理を行うと、耐チッピング性を向上できる上に、ワーク(被削材)の加工面粗さをより小さくして良好な加工面が得られる。ここで、サーメットからなる基材は、焼結したままではシャープな刃先であるものの、靭性が低いためチッピングが生じ易く、刃先処理を行う場合もシャープな刃先処理が難しく、加工面粗さが大きくなり易い。これに対し、切刃となる部分に靭性が高い超硬合金層を具える形態では、刃先処理を行わなくても耐チッピング性に優れ、刃先処理を行う場合はシャープな刃先処理を行えるため、加工面粗さをより小さくすることができる。更に、加工精度の向上に加えて、バリの発生も抑制することができる。刃先処理量は、刃先処理幅が0mm超0.1mm以下が好ましい。0.1mm超では、刃先が鋭くないため、加工面粗さが小さくならず、加工精度を十分に向上できない。刃先処理幅は、切削工具の断面において、切刃となる刃先とすくい面とがつくる交点を交点P、すくい面の延長面と逃げ面の延長面とがつくる交点を交点Qとするとき、交点Pと交点Qとの間の距離とする。
【0026】
《圧縮応力》
超硬合金層及びサーメット層の熱膨張係数及び収縮率を調整することで、超硬合金層に圧縮応力を存在させることができる。特に、表面層がある程度の圧縮応力を有する超硬合金層から構成された複合焼結体を切削工具に用いた場合、耐欠損性を向上できると期待される。ここで、熱膨張係数の異なる材料を積層すると、熱膨張係数の小さい側に圧縮応力が生じ、この圧縮応力が原因で層間剥離が生じ得る。これに対し、超硬合金層とサーメット層との境界に上述のような微細な凹凸を有すると、上記圧縮応力に起因する層間剥離が生じ難く、圧縮応力による靭性の向上効果が期待できる。但し、圧縮応力が大き過ぎると層間剥離が生じるため、剥離が生じない範囲で圧縮応力を存在させることが好ましい。圧縮応力の調整は、上述のように熱膨張係数及び収縮率を調整する、具体的には、原料粉末の組成などを調整することが挙げられる。圧縮応力の大きさは、例えば、超硬合金層の表面をラッピングした後、その表面の中心付近をXRDにより測定することで求められる。好適な圧縮応力の大きさは、0.1〜3.0GPa程度である。
【0027】
<サーメット層>
《硬質相》
サーメット層は、少なくとも硬質相としてTi化合物を含有し、Co,Niといった鉄族金属を主たる結合相とする硬質材料から構成される。Ti化合物は、代表的には、Tiの炭化物(TiC)、Tiの窒化物(TiN)及びTiの炭窒化物(TiCN)から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。また、Ti化合物は、Tiと、周期律表IVa,Va,VIa族の少なくとも一種の金属元素(Tiを除く)とを含んだTi複合炭化物、Ti複合窒化物、Ti複合炭窒化物から選択される1種の化合物が挙げられる。具体的なTi複合化合物は、(Ti,W)(C,N)、(Ti,W,Mo)(C,N)、(Ti,W,Mo,Ta,Nb)(C,N)、(Ti,W,Nb)(C,N)、(Ti,W,Mo,Ta)(C,N)、(Ti,W,Mo,Zr)(C,N)などが挙げられる。サーメット層の硬質相は、上記TiC,TiN,TiCN,及びTi複合化合物から選択される一種以上のTi化合物を主成分とする。特に、サーメット層の原料に、後述する特定の組成及び組織を有する固溶体の粉末を用いることで、後述する結合相との濡れ性を向上して、焼結性を効果的に高められ、焼結中の変形を抑制して、焼結後に寸法精度に優れる複合焼結体が得られる。
【0028】
上記サーメット層中のTi化合物は、中心部(内部)とその周辺部とでTi濃度が異なる有芯構造の粒子を含むものとする。更に、単一の組成から構成された単独粒子(例えば、TiCN)を含んでもいてもよい。具体的な有芯構造のTi化合物としては、例えば、{中心部:TiCN、周辺部:(Ti,W,Mo)(C,N)}、中心部:{(Ti,W)(C,N)、周辺部:(W,Ti,Mo,Ta)(C,N)}などが挙げられる。特に、有芯構造のTi化合物は、その外周部のTiの含有量が内部のTiの含有量よりも少なく、かつその外周部のWの含有量が内部のWの含有量よりも多い構造であることが好ましい。後述するように有芯構造のTi化合物の粉末を原料に用いることで、得られたサーメット中にも、同様な組成の有芯構造のTi化合物や、或いは別の組成となった有芯構造のTi化合物が存在し易い。これら硬質相粒子(有芯構造の粒子の場合、周辺部を含む大きさ)の平均粒径は、0.5〜5.0μm、特に1.0〜3.0μmが好ましい。
【0029】
上記サーメット層は、少なくともWを含有すると、超硬合金層との熱膨張係数の差を小さくして、変形や剥離を抑制し易い。サーメット層中にWを存在させるには、原料にWCや後述するWを含む固溶体を用いることが挙げられる。原料のWCなどは、焼結後、Wとなって結合相などに含有(固溶)されて存在し、原料の添加量の増加に伴ってWCやWを多く含む複合化合物が析出する傾向にある。析出されたWCや複合化合物は硬質相として機能する。この効果を得るには、WC及びWの合計含有量は、サーメット層を100質量%とするとき、10質量%以上、特に15質量%以上が好ましい。上記合計含有量は、多いほど熱膨張係数の差を小さくし易いが、多過ぎると、超硬合金層に圧縮応力が存在することによる靭性の向上効果が得られ難くなることから、65質量%以下が好ましい。特に、WC及びWの合計含有量は、15質量%以上50質量%以下が更に好ましい。サーメット層中のWC及びW量は、原料粉末のWC添加量やWを含む固溶体の添加量に概ね依存するため、原料のWCなどの添加量を調整することで、上記所定の範囲とすることができる。また、原料のWCは、平均粒径が1〜8μm、特に3〜5μmと比較的粗大なものを用いると、サーメット層に析出されたWCなどが比較的粗粒となり、亀裂進展の抵抗の向上といった効果が得られる。
【0030】
《結合相》
サーメット層中の結合相の含有量は、8質量%以上20質量%以下が好ましい。20質量%超であると、靭性が高くなる反面、強度や耐摩耗性が低下し、8質量%未満であると、焼結性、靭性が低下する。この結合相は、主として鉄族金属からなり(80質量%以上が鉄族金属)、鉄族金属の他に原料粉末に起因すると考えられる元素が含有(固溶)されることを許容する。鉄族金属は、Coの他、Niを含有していてもよいが、Niを多く含有すると、焼結中などでNiが超硬合金層に移動する液相移動が生じ易く、液相移動量が多いと、特に、超硬合金層の組成が変化して硬度の低下や、複合焼結体の変形などを生じる恐れがある。従って、サーメット層の結合相は、Coが多い方が好ましく、サーメット層の結合相中の鉄族金属を100質量%とするとき、80質量%以上、特に90質量%以上がCoであることが好ましく、Coのみとすることが最適である。このように結合相中にCoを多く含有することで、変形の抑制、性能低下の抑制といった効果を奏することができる。特に、超硬合金層の結合相量とサーメット層の結合相量とが概ね等しいと、焼結時の液相移動を抑制して、液相移動に伴う性能の低下や変形を低減することができて好ましい。
【0031】
《その他の含有物》
サーメット層も上記超硬合金層と同様に、Cr,Ta,Nb,Zr,V,Moといった元素やVC,Cr2C3,NbCといった化合物、即ち、Tiを含まない化合物を更に含有していてもよく、その含有量は、合計で5〜30質量%が好ましい。
【0032】
上記サーメット層において、結合相及び不純物を除く残部が硬質相を構成する。サーメット層が所望の組成となるように、原料粉末の組成設計を行う。
【0033】
[製造方法]
上記複合焼結体は、上述のように超硬合金層を構成する原料粉末(超硬粉末)、サーメット層を構成する原料粉末(サーメット粉末)を適宜用意して所望の積層構造となるように金型に順に供給して積層し、この積層粉末をパンチにより加圧して成形体を作製し、この成形体を焼結することで得られる。即ち、本発明複合焼結体は、通常の粉末冶金に利用されている基本的な製造方法を利用して製造することができ、給粉工程やプレス工程以外のプロセスコストの増加も少なく、簡単に生産性よく製造することができる。
【0034】
特に、本発明製造方法では、上記サーメット粉末にTi及びWを少なくとも含み、有芯構造である固溶体の粉末を10質量%以上用いる。原料の段階で上記特定の組成及び組織を有する固溶体を利用することで、結合相との濡れ性を高められる。そのため、焼結性を向上して焼結時の変形を抑制することができ、変形が少なく適正な形状に焼結し易い。その結果、寸法精度に優れる複合焼結体を得ることができる。上記固溶体の粉末の添加量は、得られる焼結体に存在させる固溶体の量に応じて適宜選択することができる。原料に上記固溶体の粉末が多いほど、サーメット層の焼結性が高くなって変形が抑えられていると考えられる。そのため、サーメット粉末に、上記固溶体の粉末を30質量%以上用いることがより好ましく、上限は90質量%である。なお、原料に上記固溶体を用いなくても、焼結により、上記固溶体を生成することができる。しかし、焼結により生成された固溶体が存在するだけでは、焼結時の変形を抑制する効果が得られず、変形の抑制効果をより高めるには、上記有芯構造の固溶体の粉末を原料に用いる必要があると考えられる。特に、上記有芯構造の固溶体は、その外周部のTiの含有量が中心部のTiの含有量よりも少なく、かつその外周部のWの含有量が中心部のWの含有量よりも多いものであると、焼結性が更に高くなる傾向がある。
【0035】
更に、上記サーメット粉末として、Zn及びSnの少なくとも一方を用いたリサイクル法により製造されたリサイクル粉末を利用することができる。上記リサイクル法は、ZnやSnとサーメット中のCoといった結合相とを不活性ガスや窒素ガス雰囲気中で高温で反応させて共晶融液(液相)を発生させ、この液相を更に昇圧して減圧することで、Zn,Snを蒸発させて結合相をスポンジ状にすることでサーメットを脆化させ、ボールミルなどで粉砕することで硬質相を採取する方法である。このようなリサイクル粉末では、上記固溶体から構成されたものを容易に入手することができる。特に、サーメット粉末の10質量%以上の粉末として、このようなリサイクル粉末を利用することができる。また、上記Ti及びWを少なくとも含み、有芯構造である固溶体の粉末として、このようなリサイクル粉末を利用することができる。リサイクル粉末を利用することは、環境保全の観点からも好ましい。なお、超硬合金層の原料粉末として、上記リサイクル法により製造された超硬合金粉末を利用することができる。
【0036】
用意した各層の原料粉末は、混合した後、造粒装置などにより造粒粉末とし、この造粒粉末の大きさを調整すると共に、同粉末を所定の圧力で押圧することで、超硬合金層とサーメット層との境界に、造粒の大きさに起因する微細な凹凸を形成することができる。そして、上記凹凸を噛み合わせた状態で焼結することで、両層の境界が上記造粒の大きさに概ね対応した凹凸形状となり、両層を強固に係合させることができ、接合強度が高い複合焼結体を製造することができる。このような効果を得るには、造粒粉末の大きさは、例えば、10〜200μmが好ましい。複合焼結体における上記凹凸の大きさは、造粒径や造粒粉末の硬さ、密度、形状といった造粒粉末の性状、プレス圧力などを調整することで変化できる。また、全ての原料粉末を金型に充填した後、プレスを行ってもよいし、金型に給粉するごとに仮プレスを行って、全ての原料粉末を給粉後に本プレスを行ってもよい。金型は、所望の積層構造が得られるように適宜選択することができる。
【0037】
上記加圧時の圧力は、0.5t/cm2以上2.5t/cm2以下が好ましい。0.5t/cm2未満では、成形体の密度が低く、焼結時の収縮量が大きくなって寸法精度が低下し易く、2.5t/cm2超では、成形体が緻密化し過ぎて、亀裂が生じ易く、特に複雑な形状の成形体の場合、亀裂の発生がより多くなる。本発明製造方法において焼結までの基本的な構成は、特許文献3に記載される製造方法を利用することができる。
【0038】
上記焼結は、焼結体の形成と共に、超硬合金層とサーメット層との一体接合も兼ねる。焼結は、一般的な条件を利用することができる。例えば、焼結条件は、真空雰囲気で1300〜1500℃に0.5〜3.0時間保持することが挙げられる。
【0039】
<用途>
本発明複合焼結体は、超硬合金層とサーメット層との双方の特性を兼ね備え、高靭性で耐摩耗性に優れる上に、変形が少なく、寸法精度にも優れる。このような本発明複合焼結体を切削工具に用いた場合、少なくとも一層の超硬合金層を具えることで靭性に優れ、少なくとも一層のサーメット層を具えることで耐摩耗性に優れる。従って、本発明複合焼結体は、耐摩耗性に優れ、靭性が高いことが望まれる部材の材料、例えば、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップといった切削工具(基材)に好適に利用できる。特に、上述したt/hが小さく0.008以下である複合焼結体を切削工具に用いた場合、切削性能に更に優れて好ましい。
【0040】
上記基材表面に被覆膜を具えた被覆切削工具とすると、耐摩耗性などの切削特性を更に向上することができる。特に、本発明複合焼結体の表面層が超硬合金層で構成される場合、この複合焼結体を基材とすると、被覆膜との密着性に優れる。被覆膜は、少なくとも刃先及びその近傍に具えることが好ましい。被覆膜の組成は、例えば、周期律表IVa,Va,VIa族元素,及びSi,Alから選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素,窒素,酸素,及び硼素から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、及び立方晶窒化硼素(cBN)から選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。即ち、上記金属などの元素の炭化物、窒化物、酸化物、硼化物及びこれらの固溶体からなるもの、例えば、TiCN,Al2O3,TiAlN,TiN,AlCrN,TiSiN、ダイヤモンド、DLC、及びcBNのうち、1種以上が挙げられる。被覆膜は、単層でも複数層でもよく、合計膜厚は、1〜20μmが好ましい。PVD法にて形成する場合、合計膜厚は、1〜10μmがより好ましい。被覆膜の厚さは、成膜時間を調整することで変化させられる。
【0041】
被覆膜の形成は、PVD法,CVD法のいずれも利用することができ、成膜条件は、公知の条件を利用することができる。特に、CVD法により例えばTi化合物の成膜を行う場合、サーメット層の結合相中のCo量を高めることが好ましい。PVD法は、薄膜を形成する場合によく利用され、被覆膜が薄いことでシャープな刃先が得られ易い上に、膜の表面粗さも小さくなり易い。
【発明の効果】
【0042】
本発明複合焼結体は、超硬合金層とサーメット層との接合性に優れ、変形が少ない。本発明複合焼結体の製造方法は、焼結時の変形を抑制して適正な形状に焼結し易く、変形が少ない本発明複合焼結体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、超硬合金層とサーメット層とを具える複合焼結体において、変形量の測定方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(試験例1)
超硬合金層とサーメット層とが積層された複合焼結体を作製し、焼結後の複合焼結体の変形量を調べた。
【0045】
複合焼結体は、以下のように作製した。表1に示す組成となるように原料粉末を秤量し、これら原料粉末をエタノール中で11時間、アトライター(ATR)により混合した後、造粒を行い、平均粒径100μmの超硬合金用の造粒粉末(超硬粉末)、及び平均粒径100μmのサーメット用の造粒粉末(サーメット粉末)を得る。造粒粉末の平均粒径は、粉末のSEM(走査電子顕微鏡)写真を画像解析して測定したが、粒度測定器などを用いて測定してもよい。超硬合金層及びサーメット層が所望の厚さとなるように、得られた超硬粉末、及びサーメット粉末を量り取る。
【0046】
原料には、WC粉末(平均粒径3μm)、Co粉末、Ni粉末、TiCN粉末(平均粒径3μm)、Mo2C粉末(平均粒径3μm)を用意した。また、質量比でTi:W:Mo=8:3:1である(Ti,W,Mo)(C,N)粉末を用意した。(Ti,W,Mo)(C,N)粉末は、TiとWとMoとが固溶した固溶体からなる粉末であり、その周辺部のTiの含有量が中心部のTiの含有量よりも少なく、かつその周辺部のWの含有量が中心部のWの含有量よりも多い有芯構造を有する組織のものと、通常の固溶体のもの(上記有芯構造を有する組織でないもの)とを用意した。有芯構造を有する(Ti,W,Mo)(C,N)粉末は、Zn及びSnの少なくとも一方を用いたリサイクル法により製造されたリサイクル粉末である。試料No.1,2,3では、有芯構造を有する(Ti,W,Mo)(C,N)粉末(リサイクル粉末)を用い、試料No.201〜203は、非有芯構造の(Ti,W,Mo)(C,N)粉末を用いた。なお、リサイクル粉末は、通常、主要な元素以外に、主要な元素を除くIVa,Va,VIa族元素やCo,Niを微量に含有する。ここでは、主要な元素(Ti,W,Mo)のみを記載し、その他の微量に含有された元素を省略している。原料の各粉末は、市販のものを利用することができる。
【0047】
【表1】

【0048】
得られた超硬粉末、及びサーメット粉末を用いて成形体を作製する。この試験では、型番:SNGN120408の焼結体が得られるように、所定形状の金型を用意し、この金型に、超硬粉末、サーメット粉末、超硬粉末を順に給粉した後、1.0t/cm2で押圧して、三層構造の成形体を作製した。
【0049】
得られた成形体を真空雰囲気にて1430℃×60minの条件で焼結して、一つのサーメット層を一対の超硬合金層で挟んだ三層構造の複合焼結体を得た。得られた複合焼結体は、四角柱状体であり、対向する二面の全面が超硬合金により構成され、一対の超硬合金層に挟まれてサーメット層が存在する。
【0050】
得られた複合焼結体において、サーメット層の表面を観察したところ、サーメット層には、中心部とその周辺部とでTi濃度が異なる有芯構造の硬質相粒子が存在していた。上記有芯構造の硬質相粒子の有無は、得られた複合焼結体の表面をラッピングした後、5000倍でSEM観察し、中心部と周辺部とのコントラストの違いを確認することで判別することができる。中心部及び周辺部の組成は、5000倍の観察像をEDX分析により分析することで測定することができる。組成の測定には、EDX分析の他、AES、EPMAなどを利用することができる。存在した有芯構造の硬質相粒子は、その外周部のTiの含有量が中心部のTiの含有量よりも少なく、かつその外周部のWの含有量が中心部のWの含有量よりも多いものであった。
【0051】
その他、得られた複合焼結体について、以下を調べた。複合焼結体の積層方向の厚さhは、4.76mmであり、各超硬合金層の積層方向の平均厚さはそれぞれ、476μmであり(合計952μm、サーメット層の積層方向の平均厚さに対する各超硬合金層の積層方向の平均厚さの割合:0.125)、いずれの試料も同様であった。ここでは、超硬合金層の厚さは、全域に亘って概ね均一的であるが、部分的に異なっていてもよい。焼結体の厚さは、ハイトゲージを用いて測定し、各超硬合金層の厚さは、複合焼結体の断面を顕微鏡観察し(500倍)、その観察像を用いて測定した平均厚さである。また、この観察像により超硬合金層とサーメット層との境界を確認したところ、当該境界には微細な凹凸が見られた。この凹凸の大きさを測定したところ、50〜200μmであった。この凹凸は、造粒粉末に起因して生じたと考えられる。
【0052】
また、得られた複合焼結体について、両層の境界から100μmの地点の結合相量をEPMAで測定したところ、例えば、試料No.3では、超硬合金層の結合相量:10.1質量%、サーメット層の結合相量:15.3質量%であり、その他の試料も概ね同じ結合相量であった。また、サーメット層のW及びWCの合計含有量を測定したところ、例えば、試料No.3では、36.3質量%であり、その他の試料も概ね同じ合計含有量であった。WC量は、両層の境界から100μmの地点について、XRD及びEPMAを利用して測定し、W量はEPMAで分析して測定し、これらを合計した。上記結合相量、及びW,WC量は、いずれも平均値である。更に、超硬合金層のWCの平均粒径を測定したところ、例えば、試料No.3では、3.1μmであり、その他の試料も概ね同じ平均粒径であった。上記平均粒径は、焼結体の切断面をラッピングしてSEMによる結晶解析を行い、解析画像を画像解析装置に取り込んで解析して、切断面におけるWC粒子の結晶粒の粒径(μm)を測定して、これらの平均値とする。
【0053】
得られた複合焼結体の変形量を測定した。その結果を表2に示す。変形量は、以下のように測定する。図1に示すように、複合焼結体10を、サーメット層11と超硬合金層12とが積層された積層方向(図1では左右方向)が水平面sと平行になるように水平面sに配置する。この配置状態で、水平面sから、複合焼結体10における積層方向に沿った外側面(図1では、サーメット層11と一対の超硬合金層12とがつくる上面)までの距離Hを測定する。この測定は、例えば、ダイヤルゲージといった市販の測定装置を利用することができる。距離Hのうち、最大値をとる点M1と、次に大きい値をとる点M2とを結ぶ直線lをとる。ここでは、超硬合金層12上に両点M1,M2が存在する例を示す。この直線lから、距離Hのうち、最小値をとる点mまでの距離Hminを変形量tとする。ここでは、サーメット層11が一対の超硬合金層12よりも凹んでおり、サーメット層11上に点mが存在する例を示すが、積層形態によってはサーメット層が超硬合金層よりも突出する場合ある。そして、複合焼結体10の積層方向の厚さhに対する変形量tの割合:t/hを求めた。その結果を表2に示す。なお、図1では、分かり易いように断面を示すが、断面でなくてもよい。また、図1では、超硬合金層を強調して記載する。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、サーメット粉末の10質量%以上として、Ti及びWを含み、かつ有芯構造である固溶体の粉末を用いることで、焼結体の変形を抑制することができることが分かる。また、得られた焼結体は、有芯構造を有する硬質相粒子を含有しており、変形量t及びt/hが小さいことが分かる。
【0056】
これに対して、原料に、有芯構造ではない固溶体の粉末を用いた複合焼結体(試料No.201〜203)は、原料に、固溶体の粉末を用いていない複合焼結体(試料No.100)と比較すると変形が抑えられているものの、Ti及びWを含み、かつ有芯構造の固溶体の粉末を用いた試料No.1〜3ほどの変形抑制の効果が得られていない。従って、サーメットの原料に、Ti及びWを少なくとも含み、かつ有芯構造の固溶体の粉末を用いることは、超硬合金層とサーメット層とが積層された複合焼結体の変形の抑制に効果があると期待される。
【0057】
(試験例2)
超硬合金層とサーメット層とが積層された複合焼結体を作製し、焼結後の複合焼結体の変形量、及びこの複合焼結体を用いて切削性能を調べた。
【0058】
複合焼結体は、試験例1と同様にして作製した。具体的には、試験例1と同様の原料粉末(表1の組成)を用意して、試験例1と同様にして作製した超硬粉末及びサーメット粉末を用いて成形体を作製した。この試験では、型番:CNMG120408の焼結体が得られるように、所定形状の金型を用意し、この金型に、超硬粉末、サーメット粉末、超硬粉末を順に給粉した後、1.0t/cm2で押圧して、三層構造の成形体を作製した。得られた成形体を試験例1と同様の条件で焼結して、一対の超硬合金層に挟まれたサーメット層を具える複合焼結体を得た。
【0059】
得られた複合焼結体について、試験例1と同様にして組織観察及び組成の測定を行ったところ、いずれの試料も試験例1の各試料と同様の組織、組成であった。また、観察像により、超硬合金層とサーメット層との境界を確認したところ、試験例1と同様の大きさの微細な凹凸が見られた。
【0060】
更に、得られた複合焼結体を用いて、以下の条件で切削性能評価を行った。切削条件は、切削速度:V=200m/min、送り:f=0.3mm/rev.、切込み:d=1.5mm、wet(湿式)、被削材:SCM435とした。評価は、5分間切削した後の逃げ面摩耗量(mm)を測定した。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3に示すように、変形量tが少なく、t/hが0.015以下を満たす試料はいずれも、摩耗量が少なく耐摩耗性に優れることが分かる。特に、t/hが0.008以下を満たす試料は、摩耗量が更に少なく、耐摩耗性により優れることが分かる。なお、試料No.100,201は、切削開始から5分以内に摩耗が大きくなり過ぎて破損したため、逃げ面摩耗量が測定できなかった。以上のことから、上述のような変形が少ない複合焼結体は、切削チップといった切削工具に利用した場合、安定した切削性能を有することができ、切削工具に好適に利用することができると言える。
【0063】
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、超硬合金層及びサーメット層の厚さ、各層に利用する原料粉末の組成、大きさなどを変更することができる。また、本発明複合焼結体を切削工具に利用する場合に被覆膜を具える形態とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明複合焼結体は、特に、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップといった切削工具(基材)に好適に利用することができる。本発明複合焼結体の製造方法は、上記本発明複合焼結体の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 複合焼結体 11 サーメット層 12 超硬合金層 s 水平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金層と、サーメット層とが積層された複合焼結体であって、
前記複合焼結体の積層方向が水平面と平行になるように前記水平面に前記複合焼結体を配置し、この水平面から、前記複合焼結体における積層方向に沿った外側面までの距離Hをとり、この距離Hのうち最大値と次に大きい値をとる二点M1,M2を結ぶ直線lをとり、この直線lから前記距離Hのうち最小値をとる点mまでの距離をtとし、前記複合焼結体の積層方向の厚さをhとするとき、
t/hが0.015以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項2】
前記t/hが0.008以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合焼結体。
【請求項3】
超硬合金層と、サーメット層とが積層された複合焼結体の製造方法であって、
原料として、前記超硬合金層を構成する超硬粉末と、前記サーメット層を構成するサーメット粉末とを用意する工程と、
前記超硬粉末と前記サーメット粉末とを積層した成形体を作製し、この成形体を焼結する工程とを具え、
前記サーメット粉末には、
Ti及びWを含み、有芯構造である固溶体の粉末を10質量%以上用いることを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記有芯構造の固溶体は、その外周部のTiの含有量が中心部のTiの含有量よりも少なく、かつその外周部のWの含有量が中心部のWの含有量よりも多いことを特徴とする請求項3に記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記サーメット粉末には、Zn及びSnの少なくとも一方を用いたリサイクル法により製造されたリサイクル粉末であって、Ti及びWを含み、有芯構造である固溶体の粉末を10質量%以上用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の複合焼結体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−38174(P2011−38174A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188576(P2009−188576)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構、希少金属代替材料開発プロジェクト/超硬工具向けタングステン使用量低減技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】