説明

複合酸化物膜及びその製造方法

【課題】3価のA元素と、4価のB元素と、酸素Oとを含有し、組成式がAx61.5X+12(ただし、6≦X≦30)で表される複合酸化物からなる膜のA/B組成比を所望の値に制御するとともに、該膜を薄膜として得る。
【解決手段】メインチャンバ32に、例えば、酸化剤、La(A元素)供給源、Si(B元素)供給源をそれぞれ収容した第1、第2及び第3原料ボトル34、36、38を接続する。メインチャンバ32の室内へのLa源の供給、パージ、酸化剤の供給、パージ、Si源の供給、パージ、酸化剤の供給、パージを行うことにより、Si(100)等からなる基板12上に、La23膜、SiO2膜を順次積層する。La源とSi源の供給回数比を調節することにより、最終的に得られるLaxSi61.5X+12におけるLa/Si組成比を制御することができる。なお、La源、Si源及び酸化剤は、基板12の水平な上端面に対して平行に流通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物膜及びその製造方法に関し、一層詳細には、3価のA元素と、4価のB元素とを含有し、組成式がAx61.5X+12(ただし、6≦X≦30)で表される複合酸化物からなる膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池の単位セルは、アノード側電極とカソード側電極とで固体電解質を挟んだ電解質・電極接合体を、1組のセパレータで挟持することで構成される。固体電解質としては酸化物イオン(O2-)伝導体が採用され、特に、安定化ジルコニアが周知である。しかしながら、安定化ジルコニアには、十分な酸化物イオン伝導性を得るためには高温としなければならず、このために固体酸化物形燃料電池の運転温度を高く設定する必要があるという不具合が顕在化している。
【0003】
このような観点から、アパタイト型酸化物が着目されている。アパタイト型酸化物は結晶構造のc軸方向に優れた酸化物イオン伝導性を示すので、アパタイト型酸化物で固体電解質を構成するとともに、カソード側電極とアノード側電極に挟まれた固体電解質の厚み方向をc軸方向とすることにより、酸化物イオンが迅速に伝導するために優れた発電特性を示す固体酸化物形燃料電池が得られると考えられるからである。
【0004】
アパタイト型酸化物からなる固体電解質の製造方法としては、例えば、特許文献1に記載されたものが公知である。しかしながら、この場合、アパタイト型酸化物は、各結晶粒のc軸方向がランダムに配向した多結晶体である。このような多結晶体では酸化物イオン伝導が等方性となるため、十分な酸化物イオン伝導性を得ることが容易ではない。
【0005】
そこで、特許文献2〜4において提案された技術によって、アパタイト型酸化物の単結晶ないしは一軸方向に配向した多結晶体を得ることが想起される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3934750号公報
【特許文献2】特許第3985144号公報
【特許文献3】特開2004−244282号公報
【特許文献4】特開2011−37662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2記載の技術は、成形体を得た後、該成形体に対して温度勾配が生じるように加熱又は冷却を行うものである。このため、固体電解質膜に適用し得るような薄膜を得ることが困難である。
【0008】
また、特許文献3記載の技術は、強磁場を発生させる装置が必要である。このため、設備投資が高騰する。また、この技術においても薄膜を得ることが困難である。
【0009】
さらに、特許文献4記載の技術は、原料粉末を高温に加熱してガラス状物とし、これを熱処理することで結晶化するものであるが、ガラス状物を経ることから、所望の組成比の酸化物とすることが困難であり、このために酸化物イオン伝導性を大きくすることも困難であるという不具合が顕在化している。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、所望の組成比に設定することが容易であり、しかも、厚みが小さい複合酸化物膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、3価のA元素と、4価のB元素と、酸素Oとを含有し、組成式がAx61.5X+12(ただし、6≦X≦30)で表される複合酸化物からなる膜であって、
厚みが50〜500nmであることを特徴とする。
【0012】
一般的な複合酸化物膜の厚みは、少なくとも1μm(1000nm)程度である。これに対し、本発明に係る複合酸化物膜の厚みは、最大でも500nmである。すなわち、一般的な複合酸化物膜に比して、その厚みが十分に小さい。このため、厚み方向に沿う電気的抵抗が小さくなる。従って、厚み方向の伝導性が優れた薄膜となり得る。この種の薄膜は、固体電解質として好適である。
【0013】
ここで、A元素とB元素との比を4:3〜5:3とすると、アパタイト型化合物を得ることができる。アパタイト型化合物は酸化物イオン伝導性を示すので、複合酸化物膜を、酸化物イオン伝導体としての用途に供することができる。
【0014】
複合酸化物膜をアパタイト型化合物の膜として得る場合、各結晶粒のc軸方向が厚み方向に沿って延在する多結晶体とすることが好ましい。後述するように、アパタイト型化合物は、単位格子のc軸方向に沿って大きな酸化物イオン伝導を示す。従って、この場合、酸化物イオンを厚み方向に沿って迅速に移動させることができるようになる。
【0015】
このような複合酸化物膜は、特に、固体酸化物形燃料電池の固体電解質として好適である。酸化物イオン伝導が良好であることと、厚みが小さいために電気的抵抗が小さいこととが相俟って、該固体電解質を具備する固体酸化物形燃料電池では、その発電特性が向上するからである。
【0016】
また、本発明は、3価のA元素と、4価のB元素と、酸素Oとを含有し、組成式がAx61.5X+12(ただし、6≦X≦30)で表される複合酸化物からなる膜の製造方法であって、
基板上に、前記A元素又は前記B元素のいずれか一方を含む第1の原料を供給した後、酸化剤を供給することで前記A元素又は前記B元素のいずれか一方の酸化物からなる第1膜を形成し、次いで、前記B元素又は前記A元素の残余の一方を含む第2の原料を供給した後、酸化剤を供給することで前記B元素又は前記A元素のいずれか一方の酸化物からなる第2膜を形成する第1工程と、
前記第1工程を繰り返すことによって、前記第1膜及び前記第2膜をそれぞれ複数層積層して積層体を得る第2工程と、
前記基板及び前記積層体に対して熱処理を施し、Ax61.5X+12(ただし、6≦X≦30)からなる複合酸化物膜を形成する第3工程と、
を有し、
前記第1工程での前記第1の原料と前記第2の原料の供給回数比によって、前記複合酸化物膜中の前記A元素及び前記B元素の組成比を制御することを特徴とする。
【0017】
この製造方法では、第1の原料と第2の原料を交互に供給するようにしているので、積層体の厚みを制御することが容易である。すなわち、上記した過程を経ることにより、Ax61.5X+12(6≦X≦30)からなる複合酸化物膜を基板上に所定の厚みで得ることができる。
【0018】
しかも、第1の原料と前記第2の原料の供給回数比、ひいては第1膜と第2膜の形成回数比を調節することによって、複合酸化物膜中のAとBの組成比を容易に制御することができる。すなわち、複合酸化物の組成比を所望の比に設定することが容易である。
【0019】
以上のように、本発明によれば、所望の組成比に設定され且つ厚みが小さな複合酸化物膜を容易に得ることができる。
【0020】
第2工程では、熱処理後の複合酸化物膜が50〜500nmとなる厚みで積層体を形成することが好ましい。実際には、積層体の厚みと複合酸化物膜の厚みは略同等であるので、例えば、厚みが50nmの複合酸化物膜を得る場合、積層体の厚みを50nmよりも若干大きくすればよい。
【0021】
複合酸化物をアパタイト型化合物として得るには、第1工程での第1の原料の供給回数と、第2の原料の供給回数との比を、複合酸化物膜中のA元素とB元素の組成比がA元素:B元素=4:3〜5:3となる比とする。複合酸化物膜における組成比は供給回数比に対応するので、例えば、A元素:B元素=4:3とする場合、A元素を含む原料の供給回数と、B元素を含む原料の供給回数との比を4:3とすればよい。
【0022】
第3工程での熱処理は、800〜1200℃で行うことが好ましい。積層体はアモルファスとして得られ、熱処理によって結晶化するが、800℃未満では結晶化を進行させるために長時間が必要となり、効率的でない。また、熱処理炉がマッフル炉である場合、1200℃を超える温度に設定することは容易ではない。一般に、1200℃超の温度に設定し得る加熱炉は高価であり、設備投資が高騰する。
【0023】
なお、基板としては、Si(100)基板を用いることが好ましい。この基板上では、特に、上記の熱処理温度範囲でアパタイト型化合物を得る場合、c軸方向が厚み方向に合致するような成長が起こり易くなる。従って、配向したアパタイト型化合物からなる複合酸化物膜を容易に得ることができる。Si(100)基板に代替し、Niとセラミックスとを含むサーメット基板、又はペロブスカイト型複合酸化物からなるセラミックス基板を用いるようにしてもよい。
【0024】
ここで、サーメットは、固体電解質形燃料電池のアノード側電極の構成材料であるサーメットが好適である。具体的には、Niとイットリア安定化ジルコニアとのサーメット、Niとスカンジア安定化ジルコニアとのサーメット、Niとイットリウムドープセリアとのサーメット、Niとガドリニウムドープセリアとのサーメット、又はNiとサマリウムドープセリアとのサーメットを例示することができる。
【0025】
一方、ペロブスカイト型複合酸化物の好適な例としては、固体電解質形燃料電池のカソード側電極の構成材料として用いられるものが挙げられる。その好適な具体例は、BaxSr1-xCoyFe1-y3、LaxSr1-xCoO3、又はLaxSr1-xCoyFe1-y3等である。
【0026】
ところで、従来技術では、成膜原料は、複数個の導出口が規則的に配設されたシャワー状ヘッドノズルから基板上に供給される。この場合、基板において、導出口が設けられた箇所(成膜原料が導出される部位)に対応する部位では成膜速度が大きくなる一方、導出口同士の間の閉塞箇所(成膜原料が導出されない部位)に対応する部位では成膜速度が小さくなる。このため、膜が斑模様となり易い。換言すれば、ムラが容易に生じる。
【0027】
これを回避するべく、第1の原料、第2の原料及び酸化剤を、基板の上端面に対して平行に、且つ一方向にのみ流通させることが好ましい。この場合、基板の部位や表面形状に関わらず積層体が略均等な厚みで形成される。
【0028】
このように、原料の流通方向を制御することにより、基板の表面に多少の凹凸が存在している場合であっても、略均等な厚みをもつ複合酸化物膜を形成することができる。このような複合酸化物膜を固体酸化物形燃料電池の固体電解質とした場合、アノード側電極及びカソード側電極、又は中間層との接触点が増大する。このことは、電荷の通路が増加することを意味する。
【0029】
従って、この場合、固体酸化物形燃料電池の発電特性の一層の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明においては、A元素を含む原料の供給回数と、B元素を含む原料の供給回数との比を調節することにより、複合酸化物膜中のA元素とB元素の組成比を容易に制御することができるようになる。
【0031】
また、A元素を含む原料、及びB元素を含む原料を交互に供給しているので、A元素を含む酸化物膜、及びB元素を含む酸化物膜の各厚み、ひいては両酸化物を含む積層体の厚みを制御することも容易である。従って、複合酸化物膜を所望の厚みに制御することが可能となるので、その厚みを十分に小さくすることも容易である。
【0032】
結局、本発明によれば、A元素とB元素の組成比が所望の値に制御され、且つ厚みが小さな複合酸化物膜を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る複合酸化物膜の作製直後の概略縦断面図である。
【図2】アパタイト型化合物の単位格子の模式的構成図である。
【図3】複合酸化物膜を得るためのアトミックレイヤデポジション(ALD)装置の模式的構成図である。
【図4】図3のALD装置を構成するメインチャンバの室内の要部概略側面図である。
【図5】La源の供給回数とSi源の供給回数との比(La/Si供給回数比)を横軸とし、最終的に得られた複合酸化物膜におけるLaとSiの組成比(La/Si組成比)を縦軸とするグラフである。
【図6】La23膜(第1膜)及びSiO2膜(第2膜)を含む積層体のX線回折プロファイルである。
【図7】前記積層体に対して熱処理を施して得られた膜のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る複合酸化物膜及びその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0035】
図1は、本実施の形態に係る複合酸化物膜10の作製直後の概略縦断面図である。本実施の形態においては、複合酸化物膜10は、Si(100)基板12上に形成されている。なお、Si(100)基板12と複合酸化物膜10との間には、厚みが極めて小さいSiO2層14が介在する。Si(100)基板12は、周知の通り、その表面が(100)面であるシリコン基板である。この種のシリコン基板は市販されており、容易に入手することができる。
【0036】
SiO2層14に形成する複合酸化物膜10は、3価のA元素と、4価のB元素と、酸素Oとを含有し、組成式がAx61.5X+12で表される複合酸化物からなる膜である。ここで、Xは6〜30の範囲内の数値であり、6未満又は30超では複合酸化物を形成し得ない。
【0037】
複合酸化物膜10を、固体酸化物形燃料電池の固体電解質として採用する場合、複合酸化物は、アパタイト型化合物であることが好ましい。上記したように、アパタイト型化合物は、単位格子のc軸方向の酸化物イオン伝導が大きいので、優れた固体電解質となり得るからである。なお、アパタイト型化合物は、図2に示される結晶構造を有するものとして定義される。
【0038】
アパタイト型化合物を得る場合には、Xを8以上10以下の範囲とする。すなわち、A:B=4:3〜5:3である。Xが8未満であると、アパタイト型化合物となることが困難となる。又は、A227等の不純物相が含まれるようになる。一方、10を超えると、A2BO5等の不純物相が含まれるようになる。いずれの場合においても、酸化物イオン伝導度が低下する。
【0039】
A元素としては3価の元素が選定され、B元素としては4価の元素が選定される。Xが8以上10以下であるときにアパタイト型化合物となり、且つ優れた酸化物イオン伝導度を示すことから、A元素としては希土類、とりわけLaが好適であり、B元素としてはSi又はGeが好適である。より好ましいXの範囲は9以上10以下であり、このとき、アパタイト型化合物を確実に得ることができる。なお、元素BとしてGeを選定する場合、Xを8以上10未満とすることが好ましい。
【0040】
最も好ましいXの値は、9.33である。この場合、結晶がアパタイト型構造(図2参照)となり、その他の構造の不純物相はほとんど認められなくなる。すなわち、酸化物イオン伝導度が最も高くなる。
【0041】
図2は、A元素がLa、B元素がSiである場合、すなわち、複合酸化物がLaXSi61.5X+12(8≦X≦10)である場合の単位格子の構造を、視点をc軸方向として示したものである。この単位格子20は、6個のSiO4四面体22と、2aサイトを占有するO2-24と、4fサイト又は6hサイトをそれぞれ占有するLa3+26a、26bとを含むアパタイト型構造である。なお、SiO4四面体22におけるSi4+及びO2-は図示していない。
【0042】
この単位格子20の晶系は、六方晶系に属する。すなわち、図2において、単位格子20のa軸方向の辺ABとc軸方向の辺BFとが互いに交わる角度α、b軸方向の辺BCと辺BFとが互いに交わる角度β、辺ABと辺BCとが交わる角度γは、それぞれ、90°、90°、120°である。そして、辺ABと辺BCとは互いに長さが等しく、且つ辺AB、辺BCは辺BFに比して長い。
【0043】
また、単位格子20が含まれる六方晶系格子(図示せず)は単純格子である。そして、この六方晶系格子は、仮想的ならせん軸(図示せず)を中心として1/3回転動作させ、且つ前記らせん軸に沿って辺BFの長さの1/2だけ並進動作させた場合に、動作前後における各イオンの位置が一致する。しかも、このらせん軸には六方晶系格子の鏡映面が直交する。すなわち、LaXSi61.5X+12(8≦X≦10)の結晶の空間群をヘルマン・モーガンの記号で表した場合、P63/mとなる。
【0044】
なお、Laを他の希土類元素等の3価の元素に置き換えた場合や、SiをGe等の他の4価の元素に置き換えた場合も、単位格子の構造は上記と同一である。
【0045】
このような複合酸化物膜10(アパタイト型化合物)の厚み方向、すなわち、図1における矢印X方向をc軸方向に合致させることにより、厚み方向に沿って優れた酸化物イオン伝導を示す固体電解質膜が得られる。
【0046】
複合酸化物膜10の厚みは、50〜500nmに設定される。一般的な複合酸化物膜10の厚みが少なくとも1μm(1000nm)であるのに対し、本実施の形態では、厚みが著しく小さい。このため、厚み方向に沿う抵抗が小さくなる。従って、該複合酸化物膜10を固体酸化物形燃料電池の固体電解質としたときには、IR損を小さくすることができる。
【0047】
なお、厚みが50nm未満の複合酸化物膜10は、形成すること自体は可能であるが、Si(100)基板12から剥離し易い。また、剥離しない場合であっても、割れが発生したり、短絡が起こったりすることがある。このため、実用に供することが容易ではない。一方、500nmよりも厚みが大きい複合酸化物膜10は、形成終了までに長時間を要する。
【0048】
次に、本実施の形態に係る複合酸化物膜10の製造方法につき説明する。
【0049】
図3は、複合酸化物膜10を得るためのアトミックレイヤデポジション(ALD)装置30の模式的構成図である。このALD装置30は、メインチャンバ32に対して第1原料ボトル34、第2原料ボトル36及び第3原料ボトル38が接続されて構成される。図3においては、メインチャンバ32を、上方からの平面図として示している。
【0050】
以下、LaxSi61.5X+12を複合酸化物膜10として得る場合を例示して説明すると、第1原料ボトル34、第2原料ボトル36及び第3原料ボトル38には、それぞれ、第1ガス導入管40、第2ガス導入管42及び第3ガス導入管44を介してキャリアガス供給源46が接続される。キャリアガスとしては、後述するLa源及びSi源に対して不活性なものが選定されるが、安価であり多量に用意できることから、窒素(N2)が好適である。窒素に代替し、アルゴン(Ar)等の各種不活性ガスを用いるようにしてもよい。
【0051】
第1ガス導入管40、第2ガス導入管42及び第3ガス導入管44の各々には、第1入バルブ48、第2入バルブ50及び第3入バルブ52が介装される。勿論、これら第1入バルブ48、第2入バルブ50及び第3入バルブ52は、個別に開閉することが可能である。
【0052】
この場合、第1原料ボトル34、第2原料ボトル36及び第3原料ボトル38には、それぞれ、酸化源となる酸化剤、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン、トリス(ジメチルアミノ)シランが収容されている。
【0053】
酸化剤としては、オゾン、酸素、空気、H2O(水蒸気)等が好適である。オゾンを用いる場合には、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン、トリス(ジメチルアミノ)シランを効率よく酸化することができる。一方、酸素、空気又はH2Oを用いる場合には、より安価に成膜することができる。
【0054】
ここで、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン、トリス(ジメチルアミノ)シランの各構造式は、下記の式(1)、(2)に示す通りである。
【0055】
式(1):
【化1】

【0056】
式(2):
【化2】

【0057】
式(1)、(2)から諒解されるように、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンはLa源であり、トリス(ジメチルアミノ)シランはSi源である。なお、両者とも、常温・常圧では液相である。
【0058】
第1原料ボトル34には、第1出バルブ54が介装された第1原料供給管56が接続される。この第1原料供給管56は、メインチャンバ32に橋架された酸化剤供給管60に合流する。酸化剤供給管60には、酸化剤出バルブ62が介装される。
【0059】
第2原料ボトル36及び第3原料ボトル38には、それぞれ、第2出バルブ64、第3出バルブ66が介装された第2原料供給管68、第3原料供給管70が接続される。これら第2原料供給管68、第3原料供給管70は、第2出バルブ64、第3出バルブ66の下流側で互いに合流する。以下においては、合流箇所の下流側を合流供給管と指称し、その参照符号を72とする。なお、この合流供給管72には、原料出バルブ74が介装される。
【0060】
第1原料供給管56及び合流供給管72は、パージガス供給管86を介してパージガス供給源88に接続される。パージガスは、La源であるトリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン、及びSi源であるトリス(ジメチルアミノ)シランに対して不活性なものであればよいが、上記したキャリアガスと同様に、安価であり多量に用意できることから、窒素(N2)が好適である。窒素に代替し、アルゴン(Ar)等の各種不活性ガスを用いるようにしてもよい。
【0061】
第1原料供給管56及び合流供給管72と、パージガス供給管86との間には、パージガス出バルブ90が介在する。勿論、パージガス出バルブ90は、上記のバルブ48、50、52、54、62、64、66、74とは別個に開閉することが可能である。
【0062】
酸化剤供給管60及び合流供給管72は、メインチャンバ32の室内に設けられた分配ノズル76に接続される。この場合、分配ノズル76において、メインチャンバ32の室内に臨む側の端部には、複数個の導出口78が設けられている。従って、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン、トリス(ジメチルアミノ)シランは、メインチャンバ32の分配ノズル76側から後述する排出管82側に向かうようにして、略水平に流通する。
【0063】
メインチャンバ32には、Si(100)基板12をセットするためのロードロックチャンバ80が付設される。Si(100)基板12は、このロードロックチャンバ80からメインチャンバ32に搬入される。なお、メインチャンバ32の基板ホルダ81には図示しないヒータ等の加熱手段が設けられており、このため、Si(100)基板12を加熱することが可能である。
【0064】
メインチャンバ32には、排出管82が接続される。この排出管82には真空ポンプ84が介装されており、この真空ポンプ84の作用下に、メインチャンバ32の室内を10-1〜10-3Pa程度の真空とすることが可能である。
【0065】
以上の構成において、第1入バルブ48、第2入バルブ50、第3入バルブ52、第1出バルブ54、酸化剤出バルブ62、第2出バルブ64、第3出バルブ66、原料出バルブ74、パージガス出バルブ90及び真空ポンプ84は、図示しない制御回路に電気的に接続されている。
【0066】
複合酸化物膜10を得るには、ロードロックチャンバ80にSi(100)基板12をセットした後、メインチャンバ32の基板ホルダ81にSi(100)基板12を移動する。Si(100)基板12は、前記加熱手段によって所定の温度まで上昇する。また、真空ポンプ84によってメインチャンバ32の室内を排気し、所定の負圧状態(真空状態)とする。
【0067】
次に、前記制御回路の作用下に第2入バルブ50が開放され、キャリアガスが第2原料ボトル36に供給されると、第2出バルブ64及び原料出バルブ74が開放される。これにより、気相のトリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンが第2原料ボトル36から第2原料供給管68に流通し始め、合流供給管72を経由した後、分配ノズル76に導入される。
【0068】
その後、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンは、分配ノズル76に形成された複数個の導出口78から導出され、メインチャンバ32の一側壁側から排出管82側に向かって略水平に流通する。図3及び図4から諒解されるように、蒸気状態のトリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンの流通方向は、Si(100)基板12の水平な上端面に対して平行となる。また、この場合、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンのメインチャンバ32内での流通方向は、水平方向に沿う一方向のみである。
【0069】
この流通の過程で、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンがSi(100)基板12の上端面に付着して堆積する。
【0070】
第2入バルブ50、第2出バルブ64及び原料出バルブ74が開状態となってから所定の時間(およそ0.5〜5秒後)が経過すると、前記制御回路の作用下に、第2入バルブ50及び第2出バルブ64が閉止されるとともに、パージガス出バルブ90が開放される。これによりパージガスがメインチャンバ32に導入され、その結果、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンがパージガスに同伴されてメインチャンバ32から排出される。
【0071】
次に、前記制御回路の作用下にパージガス出バルブ90が閉止されて第1入バルブ48が開放されるとともに、第1出バルブ54及び酸化剤出バルブ62が開放される。これにより、酸化剤が分配ノズル76の導出口78からメインチャンバ32内に導入される。酸化剤としてH2Oを用いた場合には、第1原料ボトル34にキャリアガスを供給し、該キャリアガスにH2Oを同伴させればよい。酸化剤としてオゾンや酸素、又は空気を用いた場合には、キャリアガスを供給することなく、オゾンや酸素、空気を直接供給するようにしてもよい。
【0072】
以下、オゾンを用いた場合を例示して説明すると、オゾンは、その後、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンの供給時と同様に、メインチャンバ32内を分配ノズル76から排出管82に向かって略水平に、換言すれば、Si(100)基板12の上端面に対して平行に流通する。この流通の間、Si(100)基板12の上端面に付着したトリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンがオゾンによって酸化され、第1膜としてのLa23膜が形成される。
【0073】
第1出バルブ54は、開放されてから所定の時間(およそ0.5〜5秒後)が経過すると、前記制御回路の作用下に閉止される。同時に、パージガス出バルブ90が再開放され、これにより、パージガスが酸化剤供給管60及び分配ノズル76を経て、メインチャンバ32の室内に導入される。この導入によって、Si(100)基板12に付着せずメインチャンバ32の室内に残留したトリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン及びオゾンが排出管82側にパージされる。
【0074】
このようにしてパージが所定時間行われた後、前記制御回路の作用下にパージガス出バルブ90が閉止される。同時に、第3出バルブ66及び原料出バルブ74が開放され、これにより、キャリアガスとともに気相のトリス(ジメチルアミノ)シランが第3原料ボトル38から第3原料供給管70に流通し始め、合流供給管72を経由した後、分配ノズル76に導入される。
【0075】
その後、トリス(ジメチルアミノ)シランは、分配ノズル76に形成された複数個の導出口78から導出され、メインチャンバ32の一側壁側から排出管82側に向かって略水平に流通する。勿論、この場合も、気相のトリス(ジメチルアミノ)シランの流通方向は、Si(100)基板12の上端面に対して平行であり、且つ水平方向に沿う一方向のみである。
【0076】
この流通の過程で、トリス(ジメチルアミノ)シランがLa23膜の上端面に付着して堆積する。
【0077】
第3入バルブ52、第3出バルブ66及び原料出バルブ74が開状態となってから所定の時間(およそ0.5〜5秒後)が経過すると、前記制御回路の作用下に、第3入バルブ52及び第3出バルブ66が閉止されるとともに、パージガス出バルブ90が再開放される。これによりパージガスが合流供給管72及び原料出バルブ74を経て分配ノズル76に導入され、さらに、分配ノズル76を介してメインチャンバ32の室内に再導入される。この導入によって、メインチャンバ32の室内に残留したトリス(ジメチルアミノ)シランが排出管82側にパージされる。
【0078】
このようにしてパージが所定時間行われた後、前記制御回路の作用下に、パージガス出バルブ90が閉止される。同時に、第1入バルブ48、第1出バルブ54及び酸化剤出バルブ62が開放され、これにより、オゾン(酸化剤)が第1原料ボトル34から第1原料供給管56に流通し始める。オゾンは、酸化剤出バルブ62を経由した後、分配ノズル76に導入される。
【0079】
オゾンは、上記と同様にメインチャンバ32の室内をSi(100)基板12の上端面に対して平行に流通し、この過程で、トリス(ジメチルアミノ)シランを酸化する。これにより、La23膜上に、Siの酸化物であるSiO2膜(第2膜)が形成される。
【0080】
この場合も、第1入バルブ48、第1出バルブ54が、開放されてから所定の時間(およそ0.5〜5秒後)が経過した後、前記制御回路の作用下に閉止される。同時に、パージガス出バルブ90が再開放され、これにより、パージガスが酸化剤供給管60及び分配ノズル76を経て、メインチャンバ32の室内に導入される。この導入によって、Si(100)基板12に付着せずメインチャンバ32の室内に残留したトリス(ジメチルアミノ)シラン及びオゾンが排出管82側にパージされる。
【0081】
La:Si=1:1(このとき、La2Si27)である複合酸化物膜10を得るときには、所定の厚みの積層体が得られるまで上記したサイクルを繰り返せばよい。すなわち、この場合、La23膜とSiO2膜が交互に積層された積層体が得られる。また、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン及び酸化剤の供給回数と、トリス(ジメチルアミノ)シラン及び酸化剤の供給回数との比は1:1であり、La23膜の形成回数と、SiO2膜の形成回数は同一である。
【0082】
なお、La23膜とSiO2膜の形成順序を、上記とは逆にしてもよい。
【0083】
また、La:Si=5:1(このとき、La5SiO9.5)である複合酸化物膜10を得るときには、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン及び酸化剤の供給回数と、トリス(ジメチルアミノ)シラン及び酸化剤の供給回数との比を5:1とすればよい。すなわち、例えば、La23膜を2層形成した後にSiO2膜を1層形成し、さらに、La23膜を3層形成するサイクルを、所定の厚みの積層体が得られるまで繰り返す。勿論、La23膜の形成回数と、SiO2膜の形成回数との比は5:1である。
【0084】
LaxSi61.5X+12をアパタイト型化合物として得る場合、好適なXは8〜10であるから、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノン及び酸化剤の供給回数と、トリス(ジメチルアミノ)シラン及び酸化剤の供給回数との比を4:3〜5:3とすればよい。この場合、La23膜の形成回数と、SiO2膜の形成回数との比は4:3〜5:3である。
【0085】
例えば、La:Si=3:2とするときには、La23膜、SiO2膜、La23膜、SiO2膜、La23膜の順序で膜成形を行うサイクルを、所定の厚みの積層体が得られるまで繰り返すようにすればよい。この場合、La23膜の形成回数と、SiO2膜の形成回数との比は3:2である。
【0086】
いずれの場合においても、各原料及び酸化剤を導入した後にパージが実施される。
【0087】
図5は、トリス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ランタノンの供給回数をトリス(ジメチルアミノ)シランの供給回数で除したLa/Si供給回数比を横軸とし、最終的に得られた複合酸化物膜10におけるLa/Si組成比を縦軸としたグラフである。この図5からも諒解される通り、上記のようにしてLa/Si供給回数比を設定することにより、最終的に得ようとする複合酸化物膜10、すなわち、LaxSi61.5X+12におけるLaとSiの組成比を制御することができる。
【0088】
一般的なALD装置では、成膜用の原料は、基板の上方に配設されたシャワーヘッドノズルから分散供給されるが、この場合、膜が不均等に成長し易く、これに起因してムラが生じる傾向がある。これに対し、本実施の形態のように、原料をSi(100)基板12の上端面に対して平行に供給すると、部位に関わらず厚みが略均等な、換言すれば、Si(100)基板12の表面の形状に追従した膜(積層体)を得ることができる。
【0089】
積層体の厚みは、後述する熱処理によって形成される複合酸化物(LaxSi61.5X+12)膜の厚みが50〜500nmの範囲内となるように設定される。このためには、上記したサイクルを繰り返し行うことで積層体を所定の厚みとすればよい。
【0090】
なお、熱処理前の積層体の厚みと、熱処理によって得られる複合酸化物膜10の厚みは略同等である。従って、例えば、厚みが50nmである複合酸化物膜10を得るためには、積層体の厚みを50nmよりも若干大きくすればよい。厚みが500nmの場合も同様である。
【0091】
このようにして形成されたLa23膜及びSiO2膜を含む積層体につき、この段階でX線回折測定を行うと、図6に示すように、Si(100)基板12に由来するピークのみが出現する。また、走査型電子顕微鏡(SEM)によって膜の表面及び断面の観察を行っても、粒界が視認されない。以上のことから、この時点では、La23膜及びSiO2膜はアモルファスであると推察される。
【0092】
次に、前記積層体に対して熱処理を施す。そのためには、積層体をSi(100)基板12ごとマッフル炉等の適切な熱処理炉に収容し、加熱すればよい。熱処理は、例えば、100℃/秒の昇温速度で800〜1200℃程度まで昇温し、その後、30分〜2時間程度保持することによって実施することができる。
【0093】
なお、800℃未満では、結晶化に長時間を要する。また、マッフル炉では、1200℃を超える高温とすることは容易ではない。典型的な保持温度は、1000℃近辺である。
【0094】
このような熱処理を施した後の膜につきX線回折測定を行うと、La23膜の形成回数と、SiO2膜の形成回数との比(La/Si供給回数比)が4:3〜5:3であるときには、アパタイト型化合物が形成されていることを示すピークが出現する。すなわち、この場合のX線回折プロファイルは、LaxSi61.5X+12(8≦X≦10)のX線回折パターンに合致する。
【0095】
特に、La/Si供給回数比を3/2としたときの膜のX線回折パターンには、図7に示すように、La9.33Si626の(002)面及び(004)面に由来するピークが出現する。このことから、単位格子のc軸方向が厚み方向に合致し、且つ結晶化したLa9.33Si626からなる複合酸化物膜10が得られていることが分かる。
【0096】
さらに、この膜の断面について電子線回折を行うと、そのスポットパターンは、Si(100)基板12と平行な方向に(002)面が配列していることを示す。このことも、単位格子のc軸方向が厚み方向に合致していることを支持する。
【0097】
さらに、膜の断面につき格子間距離を計測すると、a軸方向及びb軸方向では9.3Å、c軸方向では7.0Åであるという結果が得られる。これらの値は、La9.33Si626における格子間距離9.71280Å、7.18580Åに近い。このことからも、前記膜が複合酸化物であるLa9.33Si626からなるといえる。
【0098】
そして、熱処理後の膜につきSEM観察を行うと、断面及び表面に粒界が存在することが認められる。このことから、複合酸化物膜10は多結晶体である。なお、粒径は10〜1000nm程度である。
【0099】
上記したようにc軸方向が厚み方向に配向し、且つ厚みが小さいアパタイト型化合物は、固体酸化物形燃料電池の固体電解質として好適である。c軸方向に沿って優れた酸化物イオン伝導を示すので、酸化物イオンがカソード側電極からアノード側電極へ速やかに移動するために反応効率が向上するとともに、厚みが50〜500nmと小さいために抵抗が小さくなることから、固体酸化物形燃料電池の発電特性が向上するからである。
【0100】
結晶性化合物における表面エネルギは、面指数に応じて相違する。六方晶系の結晶では、(001)面の表面エネルギが最も低くなる。アパタイト型化合物の結晶は六方晶系であるから、(001)面であるc軸方向が厚み方向となるように優先的に配向すると考えられる。
【0101】
基板表面の結晶方位を利用するエピタキシャル成長は、基板の結晶状態を厳密に制御しなければならないことが一般的である。これに対し、本実施の形態においては、Si(100)基板12上に生成した非晶質酸化物膜であるSiO2層14上でアパタイト型化合物が配向していることが認められる。すなわち、基板の結晶状態を厳密に制御することなく、アパタイト型化合物をc軸方向に配向させることが可能である。
【0102】
アパタイト型化合物は、熱処理によって、非晶質酸化物膜であるSiO2層14との界面から、表面エネルギの最も小さい(001)面、すなわち、c軸に沿って核が生成し、結晶成長すると推察される。
【0103】
以上のことから、Si(100)基板12に代替して他の基板も選定することができる。例えば、固体酸化物形燃料電池において一般的に採用されているアノード側電極、又はカソード側電極の材質からなる基板上にも複合酸化物膜10を形成することができる。
【0104】
アノード側電極の材質の代表的なものとしては、Ni−イットリア安定化ジルコニア(YSZ)サーメットが挙げられる。又は、Niとスカンジア安定化ジルコニア(SSZ)とのサーメット、Niとイットリウムドープセリア(YDC)とのサーメット、Niとガドリニウムドープセリア(GDC)、Niとサマリウムドープセリア(SDC)とのサーメット等であってもよい。
【0105】
一方、カソード側電極の材質の代表的なものとしては、BaxSr1-xCoyFe1-y3(BSCF)、LaxSr1-xCoO3(LSC)、LaxSr1-xCoyFe1-y3(LSCF)で表されるペロブスカイト型複合酸化物等が挙げられる。
【0106】
なお、本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0107】
例えば、上記した実施の形態では、固体電解質(酸化物イオン伝導体)として好適なアパタイト型化合物からなる複合酸化物膜10を得る場合を主に例示しているが、本発明は、LaXSi61.5X+12(ただし、6≦X≦30)で表され、特に、厚みが50〜500nmである複合酸化物の膜を得る場合の全般に適用することができる。なお、アパタイト型化合物からなる複合酸化物膜10を得た場合であっても、該複合酸化物膜10を他の用途に供してもよいことは勿論である。
【0108】
また、上記した実施の形態(特に、製造方法)では、AX61.5X+12としてLaXSi61.5X+12を得る場合を例示して説明しているが、Laを他の希土類元素等の3価の元素に置き換えるようにしてもよいし、SiをGe等の他の4価の元素に置き換えるようにしてもよい。この場合において、3価の元素の供給源及び4価の元素の供給源としては、例えば、上記同様に常温・常圧で有機化合物であるものを選定することができる。
【符号の説明】
【0109】
10…複合酸化物膜 12…Si(100)基板
14…SiO2層 20…単位格子
22…SiO4四面体 24…O2-
26a、26b…La3+ 30…ALD装置
32…メインチャンバ 34、36、38…原料ボトル
46…キャリアガス供給源 76…分配ノズル
80…ロードロックチャンバ 84…真空ポンプ
88…パージガス供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価のA元素と、4価のB元素と、酸素Oとを含有し、組成式がAx61.5X+12(ただし、6≦X≦30)で表される複合酸化物からなる膜であって、
厚みが50〜500nmであることを特徴とする複合酸化物膜。
【請求項2】
請求項1記載の膜において、前記A元素と前記B元素との比が4:3〜5:3であるアパタイト型化合物からなることを特徴とする複合酸化物膜。
【請求項3】
請求項2記載の膜において、前記アパタイト型化合物の各結晶粒のc軸方向が厚み方向に沿って延在する多結晶体からなることを特徴とする複合酸化物膜。
【請求項4】
3価のA元素と、4価のB元素と、酸素Oとを含有し、組成式がAx61.5X+12(ただし、6≦X≦30)で表される複合酸化物からなる膜の製造方法であって、
基板上に、前記A元素又は前記B元素のいずれか一方を含む第1の原料を供給した後、酸化剤を供給することで前記A元素又は前記B元素のいずれか一方の酸化物からなる第1膜を形成し、次いで、前記B元素又は前記A元素の残余の一方を含む第2の原料を供給した後、酸化剤を供給することで前記B元素又は前記A元素のいずれか一方の酸化物からなる第2膜を形成する第1工程と、
前記第1工程を繰り返すことによって、前記第1膜及び前記第2膜をそれぞれ複数層積層して積層体を得る第2工程と、
前記基板及び前記積層体に対して熱処理を施し、Ax61.5X+12(ただし、6≦X≦30)からなる複合酸化物膜を形成する第3工程と、
を有し、
前記第1工程での前記第1の原料と前記第2の原料の供給回数比によって、前記複合酸化物膜中の前記A元素及び前記B元素の組成比を制御することを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法において、前記第2工程にて、前記第3工程によって得られる前記複合酸化物膜が50〜500nmとなる厚みで前記積層体を得ることを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の製造方法において、前記第1工程での前記第1の原料と前記第2の原料の供給回数比を、前記複合酸化物膜中の前記A元素及び前記B元素の組成比がA元素:B元素=4:3〜5:3となる比に制御し、アパタイト型化合物からなる膜を得ることを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記第3工程での熱処理を800〜1200℃にて行うことを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法において、前記基板として、Si(100)基板、Niとセラミックスとを含むサーメット基板、又はペロブスカイト型複合酸化物からなるセラミックス基板のいずれかを用いることを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法において、前記サーメットは、Niとイットリア安定化ジルコニアとのサーメット、Niとスカンジア安定化ジルコニアとのサーメット、Niとイットリウムドープセリアとのサーメット、Niとガドリニウムドープセリアとのサーメット、又はNiとサマリウムドープセリアとのサーメットであり、前記ペロブスカイト型複合酸化物は、BaxSr1-xCoyFe1-y3、LaxSr1-xCoO3、又はLaxSr1-xCoyFe1-y3であることを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載の製造方法において、前記第1の原料、前記第2の原料及び前記酸化剤を、基板の上端面に対して平行に、且つ一方向にのみ流通させることを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−64194(P2013−64194A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−188158(P2012−188158)
【出願日】平成24年8月29日(2012.8.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】