説明

視覚障害者誘導システムおよび方法

【課題】トイレルーム等の施設で視覚障害者を大便器ブース等の目的設備へ案内する。
【解決手段】トイレルーム110内の点字案内路110上の各分岐/屈曲点で立ち止まった又は杖を振る人を、ドップラセンサ114、116で視覚障害者として検出する。トイレルーム110内の複数箇所に設けたスピーカ122A、122B中から、視覚障害者の検出位置に応じたスピーカを選び、選んだスピーカから、特定の空きブース106へ導く音声案内を出力する。案内途上で、その空きブース106が使用中になった場合、別の空きブース106を探し、視覚障害者の検出位置に応じたスピーカから、その別の空きブース106への音声案内を出力する。視覚障害者が案内路110を外れたか否かも監視し、外れた場合には、案内路110へ戻すための音声案内を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の設備を有する施設において、視覚障害者を目的の設備へ案内するためのシステムおよび方法に関する。
【0002】
本発明は、例えば、公衆トイレルームにおいて、視覚障害者を特定のトイレブース(トイレ個室)へと案内したり、宿泊施設において特定の部屋へ案内したり、或いは、展示場において特定の展示ブースへの案内する等の用途に適用できる。
【背景技術】
【0003】
道路や床などの人が歩行する場所において、点字ブロック(すなわち、複数の突起を有するプレートまたはブロック)を配列して視覚障害者のための案内路を構成することが広くなされている。これに加えて、視覚障害者に対して能動的に情報を提供して案内を行なう装置が従来から種々提案されている。
【0004】
例えば、視覚障害者に受信装置を携帯させ、白杖の先にカメラまたはセンサを取り付け、点字ブロック上に設置された特殊パターンやICタグ等の情報を、白杖のカメラまたはセンサに検出させ、検出結果に応答して音声の案内情報を、受信装置を通じて視覚障害者に提供することが、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0005】
一方、視覚障害者の誘導に関わるものではないが、トイレルームにおいて、どのトイレブースが空いているかを、表示装置を使ってユーザに報知することが、特許文献3や特許文献4に開示されている
【特許文献1】特開2005-31845号公報
【特許文献2】特開平10-255193号公報
【特許文献3】特開2003-52578号公報
【特許文献4】特開平6-333174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示されたような従来技術によると、視覚障害者は、カメラまたはセンサを備えた特別の白杖を持ったり、案内情報の受信装置を携帯したりする必要がある。よって、そうした装備を持っていない障害者は、この従来技術の恩恵を受けることができない。その恩恵を受けるためには、視覚障害者は経済的負担を強いられる。また、特許文献3,4に開示された従来技術は、表示装置を用いて情報を表示するものであるから、視覚障害者の案内には利用できない。さらに、案内情報を音声などで視覚障害者に単に提供するだけでは、視覚障害者が案内先が具体的に何処にあるかを把握できずに迷ってしまう、というおそれが多分にある。
【0007】
特に、公衆トイレの利用については、多くの視覚障害者が極めて大きな困難を感じている。これは、発明者らが視覚障害者と実際にインタビューをして確認したことであるが、公衆トイレの利用は、視覚障害者にとり、付添い人が居ない限り事実上不可能である。そのため、長時間の外出や旅行は一切行なわない、或いは、旅行では前日と当日の飲食を大幅に控え空腹とのどの渇きに耐える、という視覚障害者は少なくない。このような悲惨な現状を解消するために、優れた視覚障害者誘導システムを提供することが大変重要である。
【0008】
従って、本発明の目的は、視覚障害者誘導システムにおいて、視覚障害者を目的の設備へと案内する性能を向上させることにある。
【0009】
本発明の別の目的は、視覚障害者誘導システムにおいて、視覚障害者が案内先の具体的場所が把握できずに迷ってしまう可能性を低減することにある。
【0010】
本発明のまた別の目的は、視覚障害者誘導システムにおいて、視覚障害者が白杖さえ持っていれば、それ以上の格別の装備を持たなくても、その人を案内できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従えば、複数の設備を有する施設において、視覚障害者を前記複数の設備の中から選ばれた目的設備へと案内するための視覚障害者誘導システムは、前記複数の設備の使用中/空状況を検出する施設使用検出手段と、前記施設使用検出手段に応答して、空き設備の中から前記目的設備を選択し、前記目的設備として既に選択された設備が使用中になった場合には、別の空き設備の中から前記目的設備を選択しなおす目的設備選択手段と、前記施設内の視覚障害者に対して案内情報を出力する案内情報出力手段と、前記目的設備選択手段により選択された前記目的設備へ導くための案内情報を、案内情報出力手段に出力させ、前記目的設備が変更された場合には、変更後の前記的設備に応じた案内情報を、前記案内情報出力手段から出力させなおす制御手段とを備える。
【0012】
好適な実施形態では、この視覚障害者誘導システムは、さらに、前記施設内での視覚障害者の位置を検出する位置検出手段を更に備え、前記制御手段は、前記位置検出手段により検出された前記視覚障害者の位置から、前記目的設備へと導くための案内情報を、案内情報出力手段に出力させる。
【0013】
好適な実施形態では、前記案内情報出力手段は、前記施設内の複数の箇所の各々から前記案内情報の音声を出力する音声出力手段を含み、前記制御手段は、前記目的設備の位置に応じて、前記施設内の複数の箇所の中から1以上の箇所を選び、前記音声出力手段を駆動して、選ばれた箇所から、前記目的設備へと導くための案内情報の音声を出力させる。さらに、前記施設内での視覚障害者の位置を検出する位置検出手段が設けられ、前記制御手段は、前記目的設備の位置だけでなく、前記位置検出手段により検出された前記視覚障害者の位置にも応じて、前記施設内の複数の箇所の中から選ばれる1以上の箇所を変更する。
【0014】
好適な実施形態では、前記位置検出手段は、能動波センサ、受動赤外線センサまたは機械作用センサを用いて検出を行なう。
【0015】
好適な実施形態では、前記制御手段は、前記音声出力手段を駆動して、前記施設内の前記複数の箇所から、前記視覚障害者を前記目的設備に導くための所定の経路に沿った順序で順番に、前記案内情報の音声を出力させる。
【0016】
本発明の別の側面に従えば、複数の設備を有する施設において、視覚障害者を前記複数の設備の中から選ばれた目的設備へと案内するための視覚障害者誘導方法は、前記複数の設備の使用中/空状況を検出するステップと、検出された空き設備の中から前記目的設備を選択し、前記目的設備として既に選択された設備が使用中になった場合には、別の空き設備の中から前記目的設備を選択しなおすステップと、選択された前記目的設備へ導くための案内情報を、前記施設内の視覚障害者に提供し、前記目的設備が変更された場合には、変更後の前記的設備に応じた案内情報を前記視覚障害者に提供しなおすステップとを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、視覚障害者を目的の場所へと案内する性能を向上させ、視覚障害者が迷う可能性を低減することができる。
【0018】
また、本発明において、能動波センサ、受動赤外線センサまたは機械作用センサを用いて視覚障害者の位置を検出し、そして、施設内に音声で案内情報を出力するようにした場合、視覚障害者は白杖以外の格別の装備を持つ必要はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムが適用された公衆トイレルームの平面レイアウトの一例を示す。
【0021】
図1に示すように、公衆トイレルーム100は、女性用トイレルーム102と男性用トイレルーム104と有し、それらのトイレルーム102,104には、所要の設備106,108,109が設けられている。すなわち、女性用トイレルーム102には、複数の大便器ブース106と複数の手洗器109が設けられている。男性用トイレルーム104には、複数の大便器ブース106と複数の手洗器109に加えて、複数の小便器108も設けられている。本実施形態にかかる視覚障害者誘導システムは、公衆トイレルーム100内の大便器ブース106へと視覚障害者を案内できるように構成される。勿論、大便器ブース106への案内だけでなく、小便器108や手洗器109への案内も行なえるようにも本システムを構成することもできるが、小便器108や手洗器109への案内については、以下に詳述する大便器ブース106への案内について説明から当業者が容易に理解できる筈であるから、本明細書では説明は省略する。
【0022】
公衆トイレルーム100の外及び公衆トイレルーム100内の床には、多数の点字ブロック112(112A,112B)を配列して作られた視覚障害者用の案内路110が設けられている。案内路110は、公衆トイレルーム100の外の存在する部分から枝分かれして公衆トイレルーム100の入口に入り、次いで、二手に分かれて女性用トイレルーム102と男性用トイレルーム104へと入る。いずれのトイレルーム102,104内でも、案内路110は、全ての設備106,108,109へ延びている。
【0023】
案内路110は、図2Aと2Bに示すように、2種類の点字ブロック112Aと112Bを組み合わせて構成される。一方の種類の点字ブロック112Aは、ストライプ形の突起を表面に有し、「そのストライプの方向へ案内路110が延びており、その方向へ進んでよい。」という意味の案内情報を提供する。他方の種類の点字ブロック112Bは、ドット形の突起を表面に有し、「ここで一時停止して、案内路110の分岐もしくは屈曲、または前方の安全を確認すべき」という意味の案内情報を提供する。以下、前者の点字ブロック112Aを「ストライプ点字ブロック」といい、後者の点字ブロッ112Bを「ドット点字ブロック」という。図1に示すように、案内路110の直線的に延びている部分にはストライプ点字ブロック112Aが用いられる。一方、案内路110の分岐点、屈曲点及び終端点、並びに各設備106,108,109の入口正面の箇所(要するに、視覚障害者が一時立ち止まるべき箇所)には、ドット点字ブロック112Bが用いられる。後述するように、本実施形態では、視覚障害者を検出するために、案内路110上での視覚障害者特有の動き、特に、視覚障害者がドット点字ブロック112Bの上で一時的に立ち止まることが検知される。そのため、視覚障害者にドット点字ブロック112Bを確実に認識させることが重要である。そこで、ドット点字ブロック112Bがストライプ点字ブロック112Aより大きいサイズになっていたり、或いは、視覚障害者が一時立ち止まるべき各箇所には、1枚ではなく複数枚のドット点字ブロック112Bが集めて敷かれていたりしてよい。
【0024】
112A、112Bに示したような点字ブロックのパターンはいずれも推奨されたものであって制限的なものではない。突起の高さや大きさ、配列および形状等は変更されても良い。床面に鋲で凸部パターンをつくり誘導路としても良い。また、素材や色についても設置環境に合わせて自由に変更されてよい。例えば、誘導路に凹凸のパターンがなくても、誘導路の部分だけ床の材質を変えて質感、床の摩擦力、弾力性などを変更することで点字ブロックの代わりとしても良い。要するに、点字ブロック112Aおよび112Bは、視覚障害者が足で通常の床との違いが認識できさえすれば、ブロックやパターンの性状は問わない。
【0025】
図1に示すように、公衆トイレルーム100の種々の箇所に、使用目的の異なる複数種類のセンサ114,116,118,120が設けられる。第1の種類のセンサ114は、公衆トイレルーム100に入るために公衆トイレルーム100の入口近傍に到来した視覚障害者を検出するためのものであり、以下、これを「到来者センサ」という。到来者センサ114は、公衆トイレルーム100の入口近傍の適当箇所(例えば壁、天井、床など)に設置された、1つ又は複数のセンサ素子の組み合わせから構成される。到来者センサ114のセンシング領域115は、好ましくは、公衆トイレルーム100を利用しようとする視覚障害者が公衆トイレルーム100の入口近傍で一時立ち止まることになる案内路の特定箇所(例えば、案内路100が公衆トイレルーム100の入口の正面にて入口内へ入るよう枝別れする分岐点であり、以下、これを「入口分岐点」という)に設定される。到来者センサ114は、入口分岐点に設定されたセンシング領域114内に視覚障害者が居るか否かを検出する。
【0026】
第2の種類のセンサ116と第3の種類のセンサ118は、公衆トイレルーム100内における視覚障害者の現在位置を把握するためのセンサであり、以下、これを「位置センサ」という。このうち、前者の位置センサ116は、案内路110の複数の箇所にそれぞれ設定された複数の制御点に視覚障害者が到達したか否かを検出するために用いられ、以下、これを「制御点センサ」という。後者の位置センサ118は、視覚障害者が案内路110上に居るのか、案内路110から外れたのかを検出するためのセンサであり、以下、これを「案内路センサ」という。案内路センサ110は、さらに、視覚障害者までの距離を測って、その人が案内路110上のどの位置に居るかを判断するために利用できるようになっていてもよい。
【0027】
公衆トイレルーム100内の案内路110上に複数の制御点が設定され、それらの制御点に、上述した複数の制御点センサ116がそれぞれ割り当てられる。各制御点センサ116は、それに割り当てられた各制御点の近傍の適当箇所(例えば壁、天井または床など)に設置された、1つのセンサ素子または複数のセンサ素子の組み合わせから構成される。各制御点センサ116は、それに割り当てられた各制御点の領域に設定されたセンシング領域117を有し、そして、そのセンシング領域117内に視覚障害者が居るか否かを検出する。本実施形態は、上述したように各大便器ブース106への案内を行なうためのものであるから、本実施形態では、複数の制御点が、各大便器ブース106へ行くための案内路110上のみに設定される。それらの制御点は、好ましくは、その案内路110上で視覚障害者が一時的に立ち止まることなる箇所(例えば、案内路110の分岐点、屈曲点、及び各大便器ブース106の入口正面の箇所)に設定される。なお、もし、小便器108や手洗器109への案内も行なうのであれば、追加の複数の制御点が、各小便器108及び各手洗器109へそれぞれ行くための案内路110上にも、同様に、設けられることになる。
【0028】
また、上述した複数の案内路センサ118が、公衆トイレルーム100内の案内路110の連続している部分(例えば、各制御点間の直線的に連続する部分)にそれぞれ割り当られる。各案内路センサ116は、それに割り当てられた各連続部分の近傍の適当箇所(例えば壁、天井または床など)に設置された、1つのセンサ素子または複数のセンサ素子の組み合わせから構成される。各案内路センサ118は、それに割り当てられた案内路110の各連続部分の領域に設定されたセンシング領域119を有し、そして、そのセンシング領域119内に視覚障害者が居るか否かを検出する。さらに、各案内路センサ118は、そのセンシング領域119内(上記直線部分上)の何処に視覚障害者が居るかを割り出せるよう、視覚障害者までの距離も検出できるようになっていてもよい。本実施形態は、上述したように、大便器ブース106への案内を行なうためのものであるから、本実施形態では、複数の案内路センサ118が、公衆トイレルーム100の入口から各大便器ブース106へ至る案内路110に対してのみ設けられる。しかし、もし、小便器108や手洗器109への案内も行なうのであれば、追加の幾つかの案内路センサ118が、小便器108及び手洗器109へそれぞれ至る案内路110に対しても、同様に、設けられることになる。
【0029】
第4の種類のセンサ120は、各大便器ブース106が現在誰かに使用されているか否かを検出するためのものであり、以下、これを「ブース使用センサ」という。複数のブース使用センサ120が、複数の大便器ブース106にそれぞれ割り当てられる。各ブース使用センサ120は、それが割り当てられた各大便器ブース106内の適当箇所(例えば壁、天井、床、ドア、大便器など)に設置された、1つ又は複数のセンサ素子の組み合わせから構成され、各大便器ブース106内に人が入って居るか否かを検出する。
【0030】
視覚障害者を検出するための上述した種々のセンサ114,116,118,120に使われるセンサ素子には、例えば、電磁波、超音波、赤外線などの進行波を送信して人や物体からの反射波を受信する能動波センサ、或いは、人や物体から自然に放射される赤外線を受信する受動赤外線センサ、或いは、圧力センサのように人や物体から加わる機械的な作用を検知する機械作用センサなどが採用できる。
【0031】
さらに、図1に示すように、公衆トイレルーム100の異なる箇所に、使用目的の異なるスピーカ122A,122Bがそれぞれ設けられている。いずれのスピーカ122A,122Bも、所定の案内情報を音声の形で出力することができる。出力される案内情報の音声は、人が言葉を話した発声音であっても、或いは、機械的な信号音(視覚障害者がその音声が意味するところ(案内情報)を知っていれば、健常者にとっては意味不明な音声であってよい)であってもよい。
【0032】
第1の種類のスピーカ122Aは、到来者センサ114により検出された視覚障害者に対して、その人を公衆トイレルーム100の入口から中へ導き入れるための案内情報の音声を提供するためのものであり、以下、「入口スピーカ」という。入口スピーカ122Aは、公衆トイレルーム100の入口近傍の適当箇所(例えば壁、天井または床など)に設けられる。第2の種類のスピーカ122Bは、公衆トイレルーム100内において、視覚障害者を案内路110に沿って、現在空きのいずれかの大便器ブース106へと案内するための案内情報を出力するためのものであり、以下、「内部スピーカ」という。公衆トイレルーム100内の複数の場所に複数の内部スピーカ122Bがそれぞれ設けられる。
【0033】
好ましくは、複数の内部スピーカ122Bは、視覚障害者が案内路110に沿って進んでいる間、その人の進行方向前方に少なくとも1つの内部スピーカ122Bが存在するように配置される。例えば、図1に示した例で、視覚障害者が例えば男性用トイレルーム104内のいずれかの大便器ブース106へ行く場合、その人は、公衆トイレルーム100の入口から大便器ブース106に至るまでの間に、先ず直進し、次に右折して直進し、最後に左折して直進することになる。その場合、最初の直進時には、進行方向前方に最初の内部スピーカ122Bに存在し、次の右折後の直進時にも、進行方向前方に2番目の内部スピーカ122Bが存在し、そして、最後の左折後の直進時にも、進行方向前方に3番目の内部スピーカ122Bが存在する。このように視覚障害者の進むべき方向に従って配置された複数の内部スピーカ122Bを順次に駆動して音声を出力させることにより、視覚障害者に何処の方向へ進めばよいかをより容易に認識させることができる。
【0034】
図3は、本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムが適用可能な公衆トイレルームの案内路110の構成例を、女性用トイレルーム102を例にとり示す。また、図4は、本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムが適用可能な公衆トイレルームの案内路110の別の構成例を、男性用トイレルーム104を例にとり示す。
【0035】
図3や図4に例示するように、案内路110は、個々の大便器ブース106の内部まで延びていてもよい。また、図4に例示するように、案内路110は、トイレルール内に入る路と出る路とが別になっていてもよい。このように案内路110の構成には種々のバリエーションが採用し得る。いずれにしても、より容易かつ確実に視覚障害者を目的のブースへ誘導する視覚障害者に一時停止を要求するドット点字ブロック112Bの位置を、次のような場所(1)から(4)に配置することが好ましい。
【0036】
(1) トイレルーム100外における案内路110のトイレルーム100の入口近傍(例えば、入口分岐点)
【0037】
(2) トイレルーム100内における案内路110の屈曲点
【0038】
(3) トイレルーム100内における案内路110の分岐点
【0039】
(4) トイレルーム100内における各設備の入口又は正面の近傍
【0040】
図5は、本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムの全体構成を示す。
【0041】
図5に示すように、視覚障害者誘導システムは、センサ部130と、制御部132と、案内出力部134とを有する。センサ部130には、図1を参照して既に説明したような到来者センサ114、複数の制御点センサ116、複数の案内路センサ118及び複数のブース使用センサ120が含まれる。また、案内出力部134には、図1を参照して既に説明したような入口スピーカ122Aと複数の内部スピーカ112Bとが含まれる。
【0042】
制御部132は、例えばコンピュータにより構成され、上述した各種のセンサ114,116,118,120からのセンサ出力信号を入力し、上述した各種のスピーカ120A、122Bに案内情報を表す音声信号を出力する。制御部132は、到来者検出部140、位置検出部142、空ブース検出部144および案内制御部146という機能的な複数のコンポーネントを有し、これらのコンポーネントは例えばコンピュータプログラムを実行することにより実現される。また、案内制御部132は、種々の案内情報(音声信号データ)を蓄積した案内情報データベース148を有し、この案内情報データベース148内の案内情報(案内情報を表す音声信号のデータ)は案内制御部146によってアクセスされる。
【0043】
到来者検出部140は、到来者センサ114からのセンサ出力信号を入力し、そのセンサ出力信号に基づいて、公衆トイレルーム100を使用しようとする視覚障害者の公衆トイレルーム100の入口近傍への到来を検出する。到来者検出部140は、視覚障害者の到来を検出すると、案内制御部146を起動する。
【0044】
位置検出部142は、複数の制御点センサ116および複数の案内路センサ118からのセンサ出力信号を入力して、それらのセンサ出力信号に基づいて、公衆トイレルーム100内での視覚障害者の位置と動作、具体的には、視覚障害者がいずれかの制御点に到達したか、歩行しているか停止しているか、案内路110から外れているか否か、および/または、案内路110上のどの位置に居るか、などを検出する。空ブース検出部144は、複数のブース使用センサ120からのセンサ出力信号を入力して、それらのセンサ出力信号に基づき、どの大便器ブース106が現在空いているかを検出する。
【0045】
案内制御部146は、到来者検出部140による視覚障害者の到来の検出に応答して制御を開始する。案内制御部146は、位置検出部142と空ブース検出部144の検出結果を入力し、それらの検出結果に基づいて、その到来した視覚障害者を公衆トイレルーム100の入口から公衆トイレルーム100内の現在空いている或る大便器ブース106へと案内するための制御を行なう。案内出力部146は、視覚障害者が公衆トイレルーム100内の目的の空ブースへ到達するまでの幾つかの時点において、視覚障害者の現在の位置と現在の空ブースの位置に応じて、案内情報データベース148から適切な案内情報を選択するとともに、入口スピーカ122Aおよび複数の内部スピーカ122Bの中から適切なスピーカを選択し、そして、選択した案内情報を選択したスピーカに出力し、それにより、視覚障害者は目的の空ブースへと案内される。
【0046】
図6は、図5に示した到来者検出部140が行なう到来者検出の処理の流れを示す。
【0047】
図6に示すように、ステップS1で、到来者センサ114からのセンサ出力信号に基づいて、公衆トイレルーム100の外にある案内路110の入口分岐点にて立ち止まった人が居るか否かが判断される。また、ステップS2で、到来者センサ114からのセンサ出力信号に基づいて、上記入口分岐点やその近傍で白杖を振っている人が居るか否かも判断される。ここで、人が立ち止まったことや、白杖が振られていることを到来者センサ114からのセンサ出力信号に基づいて判断するための具体的方法については後述する。
【0048】
ステップS1とS2のいずれかで、立ち止まった人または白杖を振っている人が検出されると、その人は視覚障害者である可能性があるから、ステップS5で、案内制御部148による案内制御が開始される。或いは、ステップS1で立ち止まった人が視覚障害者であることを確認するために、点線矢印で示すようにステップS1でYesの場合にステップS3へ進み、その人に対して白杖を振るよう指示する音声(例えば、「白杖をお振り頂くと、空きブースまでご案内いたします。」と言うようなメッセージ、或いは、特定の機械的な信号音)を入口スピーカ122Aより出力し、ステップS4で、その指示に応答して白杖が振られたかどうかを、到来者センサ114からのセンサ出力信号に基づいて判断し、白杖が振られていればステップS5へ進むようにしても良い。一方、ステップS4で、白杖を振っていないと判断されると、その人は視覚障害者ではないとみなされるので、処理はステップS1およびS2へ戻る。
【0049】
図7は、図5に示した案内制御部146が位置検出部142と空ブース検出部144と協働して行なう位置・空ブース検出と案内制御の処理の流れを示す。
【0050】
図7に示すように、ステップS10で、位置検出部142により、視覚障害者の位置と動作、具体的には、視覚障害者がいずれかの制御点に到達したか、歩行しているか停止しているか、案内路110から外れているか否か、および/または、案内路110上のどの位置に居るか、などが検出される。さらにステップS11で、空ブース検出部144により、どの大便器ブース106が空いているかが検出され、その検出結果は、制御部132内に記憶されている位置・空ブース検出結果150に登録される。
【0051】
上述したステップS10とS11と並行して、案内制御部146により、ステップS12からS18の処理が実行される。ステップS12では、図6に示した到来者検出の処理で視覚障害者の到来が検出された直後に、その視覚障害者を公衆トイレルーム100の入口内に導き入れるための案内情報(導入案内情報)が、案内情報データベース148から選択されて読み出され、その導入案内情報が入口スピーカ122Aから出力される。公衆トイレルーム100を使用したい視覚障害者は、この導入案内情報に応えて、案内路110に沿って公衆トイレルーム100の入口内に入ってくることになる。
【0052】
その後、ステップS13で、位置・空ブース検出結果150が参照され、視覚障害者の現在と過去の位置と空ブースの現在と過去の位置が認識され、それに基づいて、ステップS14では、空ブース106位置が変化したかが判断され、ステップS15では、視覚障害者がいずれかの制御点(案内路110の分岐点、屈曲点またはブース正面点など)に到達したかが判断され、ステップS16では、視覚障害者が案内路110から外れたかが判断される。その結果、空ブースの変化、制御点への到達、または案内路からの逸脱のいずれかが検出されると、処理はステップS17へ進む。ステップS17では、上記ステップS13で認識された視覚障害者の現在と過去の位置と空ブースの現在と過去の位置とに応じて、適切な案内情報が案内情報データベース148から選択されて読み出され、同時に、適切なスピーカが複数の内部スピーカ122Bの中から選択される。続いて、ステップS18で、選択された案内情報が、選択された内部スピーカ122B から出力される。
【0053】
視覚障害者が目的の空ブースに到達するまで、ステップS13からS18の処理は繰り返される。そのため、視覚障害者が目的の空ブースに到達するより前に、空ブースに位置に変化が生じても、変化後の空ブースへと視覚障害者を案内することができる。また、視覚障害者が順次に制御点に到達する都度、新たな進行方向に適した案内情報を提供することができる。さらに、視覚障害者が案内路100から外れてしまっても、案内路100へ戻れるように案内することができる。
【0054】
以下では、この視覚障害者誘導システムについて、より具体的な例を用いて、より詳細に説明する。
【0055】
図8は、到来者センサ114の構成例を示す。
【0056】
図8に示すように、到来者センサ114は、公衆トイレルーム100の入口近傍の壁、天井またはその他の適当な箇所に設置された、好ましくは複数(例えば2つ)の、遠隔物体センサ素子114Aを有する。いずれの遠隔物体センサ素子114Aも、例えば、電磁波、超音波または赤外線などの進行波を送信して、その反射波を受信する能動波センサか、または、人や物体から自然に放射される赤外線を受信する受動赤外線センサであり、前者の場合には、好ましくは、送信波信号と受信波信号との間のドップラ信号を検出するドップラ機能を有する。複数の遠隔物体センサ素子114Aのセンシング領域115Aは、いずれも、公衆トイレルーム100の外にある案内路110の入口分岐点152の領域に指向されている。好ましくは、センシングの死角をできるだけ減らすために、複数の遠隔物体センサ素子114Aのセンシング領域115Aが入口分岐点152にそれぞれ異なる方向から入って交差するように、複数の遠隔物体検知センサ素子114Aの配置箇所とセンシング領域115Aの指向方向が選ばれる。
【0057】
さらに、上述した遠隔物体検知センサ素子114Aと併用して、またはそれに代えて、入口分岐点152を構成する全てまたは一部の点字ブロック112Bに取り付けられた(例えば、埋め込まれた)1または複数の圧力センサ114Bも、到来者センサ114として用いることができる。圧力センサ114Bは、入口分岐点152の点字ブロック112B上に人が乗っているか否かを検出することができる。
【0058】
図9Aと図9Bは、ドップラ機能を有する遠隔物体センサ素子114Aを用いて入口分岐点で立ち止まった人を検出する方法の一つを説明するための、遠隔物体センサ素子114Aからのセンサ出力信号(ドップラ信号)の波形図である。
【0059】
図9Aに示すように、人が立ち止まらずに入口分岐点152を通過した場合、ドップラ信号の振幅は、人が遠隔物体センサ素子114Aに近づくのに伴い漸次大きくなり、その後、遠ざかるに伴い漸次小さくなっていく。これに対し、図9Bに示すように、人が入口分岐点152で立ち止まった場合、ドップラ信号の振幅は、人が立ち止まっている間だけ極端に小さくなり、また、周波数も低くなる。そこで、例えば、ドップラ信号の振幅と所定の停止判断閾値Vth1とを比較し、ドップラ信号の振幅が停止判断閾値Vth1を一定時間以上継続して超えた場合は人が移動していると判断し、停止判断閾値Vth1を一定時間以上継続して下回った場合には人は停止していると判断することができる。加えて、ドップラ信号の周波数成分を分析することでも、その判断の精度を上げることができる。この判断結果から、人が入口分岐点152で立ち止まったか否かを識別することができる。更に、図8に示した圧力センサ114Bも併用すれば、一層確実に、人が入口分岐点152で立ち止まったか否かを識別することができる。
【0060】
図10Aと図10Bは、ドップラ機能を有する遠隔物体センサ素子114Aを用いて白杖を振っている人を検出する方法の一つを説明するための、遠隔物体センサ素子114Aからのセンサ出力信号(ドップラ信号)の波形図である。
【0061】
図10A人が入口分岐点で白杖を振っている場合のドップラ信号の波形例を示し、図10Bは人が白杖を振らずに単に往来した場合のそれを示す。図10Aに示すように、人が入口分岐点152で白杖を振っている場合、図10に示すような人が単に往来しただけの場合よりも高い周波数のドップラ信号が、或る程度の周期性を持って振幅の増減を繰り返す。そこで、ドップラ信号の周波数と振幅を分析して、所定程度に高い周波数のドップラ信号が所定範囲の周期で所定回数続けて振幅の増減を繰りかえす場合には、人が白杖を振っていると判断することができる。
【0062】
図11は、制御点センサ116と案内路センサ118の構成例を示す。図12は、案内路センサ118の別の構成例を示す。
【0063】
図11に示すように、制御点の近傍の壁、天井またはその他の適当箇所に設置された遠隔物体センサ(例えば、能動波センサまたは受動赤外線センサ)116Aを、制御点センサ116として用いることができる。好ましくは、この遠隔物体センサ116Aもドップラ機能を有し、そこから出力されるドップラ信号に基づいて、上述したようにして、人が制御点で立ち止まったことや白杖を振っていることを検出することができる。この遠隔物体センサ116Aのセンシング領域117Aは、制御点に指向される。図8に示した到来者センサ114の構成例と同様に、それぞれのセンシング領域117Aを異なる方向から制御点に指向するような複数の遠隔物体センサ116Aを、制御点センサ116として用いることもできる。さらに、遠隔物体センサ116Aと併用して、またはそれに代えて、制御点の点字ブロック112Bに取り付けられた圧力センサ116Bを、制御点センサ116として用いることもできる。
【0064】
また、図11に示すように、案内路110の直線的に延びる部分の一端の近傍の壁、天井またはその他の適当箇所に配置された遠隔物体センサ(例えば、能動波センサまたは受動赤外線センサ)118Aを、案内路センサ118として用いることができる。この遠隔物体センサ118Aのセンシング領域119Aは、案内路110Aの直線的に延びる部分の一端から他端へと長く延びて、その直線的に延びる部分の全体をカバーしている。このセンシング領域119Aは、近くの別の案内路110Bにはかからないようになっている。案内路110Aの直線的に延びる部分の一端側だけでなく、他端側にも同様の遠隔物体センサ118Aを設け、両方の遠隔物体センサ118Aを案内路センサ118として用いてもよい。好ましくは、この遠隔物体センサ118Aもドップラ機能を有し、そこから出力されるドップラ信号に基づいて、人が案内路110上に居るか外れたか、人が白杖を振っているか、人が案内路110上で歩いているか停止しているか、人が案内路110A上のどの位置(どの距離)に居るか、などを検出することができる。また、遠隔物体センサ118Aと併用して、またはそれに代えて、案内路110Aを構成する1または複数の点字ブロック112Aにそれぞれ取り付けられた圧力センサ118Bを、案内路センサ118として用いることもできる。なお、遠隔物体センサ118Aは、そのセンシング領域119A が制御点をカバーしているため、案内路センサ118としてだけでなく、制御点センサ116としても用いてよい。
【0065】
また、図12に示すように、案内路110Aの上方の天井に配置された遠隔物体センサ118Cを、案内路センサ118として用いることもできる。各遠隔物体センサ118Cは、案内路110Aの或る連続範囲を同時にカバーするような長大なセンシング領域119Cを有し、このセンシング領域119Cは、近くの他の案内路110Bにはかからない。或いは、この遠隔物体センサ118Cは、案内路110A上の一部の狭い領域しか同時にカバーすることができない狭いセンシング領域119Dを有し、この狭いセンシング領域119D を例えば矢例119Eで示すように案内路110Aの延びる方向へ繰り返しスウィングさせることで、案内路110Aの或る連続範囲の全体をスキャンするようになっている。また、案内路110Aの長く延びる範囲を複数の短範囲に分割し、各短範囲に対して上記のような遠隔物体センサ118Cを設けてもよい。
【0066】
図13Aと図13Bは、図11または図12に示したドップラ機能を有する遠隔物体センサ素子118Aまたは118Cを用いて、人が案内路110Aから外れたか否かを検出する方法の一つを説明するための、遠隔物体センサ素子118Aまたは118Cからのセンサ出力信号(ドップラ信号)の波形図である。
図13Aに示すように、人が案内路110A上を歩いている場合には、遠隔物体センサ素子118Aまたは118Cからのドップラ信号の振幅はある程度の大きさがある。これに対し、図13Bに示すように、人が案内路110Aから外れると、参照番号160で示すように、ドップラ信号の振幅は、人が案内路110A上に居た時に比べて極端に小さくなる。そこで、ドップラ信号の振幅を所定の案内路外れ判断閾値Vth2と比較し、ドップラ信号の振幅が所定時間継続してその閾値Vth2より大きければ、人が案内路110A上に居ると判断し、ドップラ信号の振幅が所定時間継続してその閾値Vth2より小さければ、人が案内路110Aから外れたと判断することができる。
【0067】
図14は、ブース使用センサ120の構成例を示す。
【0068】
図14に示すように、大便器ブース106の天井、壁または大便器などに取り付けられた1または複数の遠隔物体センサ(例えば、能動波センサまたは受動赤外線センサ)120Aを、大便器ブース106用のブース使用センサ120として用いることができる。好ましくは、この遠隔物体センサ120Aもドップラ機能を有して、大便器ブース106内での人の動きを検出できるようになっていてよい。また、この遠隔物体センサ120Aと併用して、またはそれに代えて、大便器ブース106のドアの施錠/非施錠を検出するドアセンサ120Bや、大便器ブース106の床に設置された1または複数の圧力センサ120Cを、大便器ブース106用のブース使用センサ120として用いてもよい。遠隔物体センサ120Aまたは圧力センサ120Cによって所定時間以上継続して人の存在が検出されている場合、または、ドアセンサ120Bによりドアの施錠が検出されている場合、大便器ブース106が使用されていると判断することができる。なお、図示してないが、小便器108や手洗器109の使用/不使用を判断する場合には、小便器108や手洗器109の床面に設置された圧力センサ、或いは、小便器108や手洗器109の近傍に設けられた遠隔物体センサを用いることができる。
【0069】
図15は、男性用トイレルーム104を例に取り、入口スピーカ122Aと複数の内部スピーカ122Bの配置例を示した平面レイアウト図である。
【0070】
図15に示す例では、公衆トイレルーム100の入口近傍に入口スピーカ122Aが配置される。視覚障害者が案内路110に従って公衆トイレルーム100の入口に入るときの進行方向の前方に、第1の内部スピーカ122B1が配置される。視覚障害者が公衆トイレルーム100に入った後に案内路110に従って最初に右折して男性用トイレルーム104に向かうときの進行方向の前方に、第2の内部スピーカ122B2が配置される。さらに、男性用トイレルーム104内の複数の大便器ブース106A、106B、106Cの入口近傍に、それぞれ、第3、第4および第5の内部スピーカ122B3、122B4、122B5が配置される。
【0071】
図16は、図15に例示された男性用トイレルーム104の平面レイアウトの下で、或る空き大便器ブースへ視覚障害者を案内するための制御の一例の流れ示す。
【0072】
図16に示すように、ステップS20で、図6に示した到来者検出の処理が行なわれて、視覚障害者が公衆トイレルーム100の正面に到来したか否かが判断される。視覚障害者の到来が検出されると、ステップS21で、入口スピーカ122Aから所定の導入案内情報が出力される。導入案内情報は、音声メッセージであっても、機械的な信号音であってもよく、また、公衆トイレルーム100の入口の方向や、女性用および男性用トイレルーム102,104の位置などの通知が含まれていてよい。ステップS22で、女性用および男性用トイレルーム102,104のそれぞれについて、各大便器ブース106の使用状況が調べられ、空きブースが見つかれば、女性用および男性用トイレルーム102,104のそれぞれの空ブースの中から、視覚障害者が案内されるべき目的ブースが選択される。目的ブースの選択の仕方としては、例えば次の(1)または(2)の方法を用いることができる。
【0073】
(1) 空ブースの中から、最も入口から近いブースを選択する、あるいは、
【0074】
(2) 空ブースの中から、各ブースに予め割り当てた優先順位の最も高いものを選択する。優先順位は、入口から近いブースほど高くするとか、ブースの設備の仕様が視覚障害者により適しているほど高くするというように、割り当てることができる。
【0075】
ステップS23で、第1の内部スピーカ122B1から、第1の案内情報が出力される。第1の案内情報は、音声メッセージでも機械的な信号音であってもよく、また、女性用および男性用トイレルーム102,104の位置などの通知が含まれていてよい。いずれにせよ、視覚障害者は、第1の内部スピーカ122B1から音声が来る方向と案内路110に従い、最初の分岐点(第1制御点)156Aまで歩いてくる。その間、ステップS24で、視覚障害者が案内路110から外れたか否かが、該当する案内路センサ118の出力信号に基づいてチェックされ、また、ステップS26で、視覚障害者が第1制御点156Aに到達して立ち止まったか否かが、該当する制御点センサ116の出力信号に基づいてチェックされる。視覚障害者が案内路110から外れたことが検出された場合、ステップS25で、第1の内部スピーカ122B1から、視覚障害者に案内路110へ戻ってもらうための修正案内情報が出力される。修正案内情報は、音声メッセージでもよいし、或いは、第1の案内情報とは異なる機械的な信号音であってもよい。
【0076】
視覚障害者が第1制御点156Aに到達して立ち止まったことが検出されると、ステップS27で、第1の内部スピーカ122B1は停止され、第2の内部スピーカ122B1から、男性用トイレルーム104へ導くための第2の案内情報が出力される。第2の案内情報も、音声メッセージであっても、機械的な信号音であってもよい。また、互いの出力音声が混じらないような方法で(例えば、時間的に交互に、または、一方は男性の声、他方は女性の声でというように異なる音声を用いるなどの方法で)、男性用トイレルーム104側の第2の内部スピーカ122B1からだけでなく、女性用トイレルーム102側の第2の内部スピーカ(図15では図示省略)からも、女性用トイレルーム102へ導くための第2の案内情報が出力されてもよい。視覚障害者は、第2の案内情報と案内路110とに導かれて、女性用および男性用トイレルーム102,104のいずれか一方へ向かって歩き出すことになる。いずれに向かったかは、該当する案内路センサ118の出力信号から判断できる。或いは、視覚障害者が第1制御点156Aに立ち止まったときに、上述した第1の内部スピーカ122B1から、女性用と男性用のいずれへ行きたいかの質問を出力し、視覚障害者に白杖を振って答えてもらうなどの方法で、女性用と男性用のいずれへ行くかを判断してもよい。この判断の結果から、ステップS22で選択した女性用と男性用トイレルーム102,104の目的ブースの中から、行く方のトイレルームの目的ブースだけが選択されることになる。以下の説明では、男性用トイレルーム104へ行く場合を想定する。
【0077】
視覚障害者が男性用トイレルーム104の第2の制御点(屈曲点)156Cに向かって歩いている間、ステップS28で、視覚障害者が案内路110から外れたか否かが、該当する案内路センサ118の出力信号に基づいてチェックされ、また、ステップS30で、視覚障害者が第2制御点156Bに到達して立ち止まったか否かが、該当する制御点センサ116の出力信号に基づいてチェックされる。視覚障害者が案内路110から外れたことが検出された場合、ステップS29で、第2の内部スピーカ122B2から、視覚障害者に案内路110へ戻ってもらうための修正案内情報が出力される。
【0078】
視覚障害者が第2制御点156Bに到達して立ち止まったことが検出されると、次に、予め選択された1つの目的ブース(ここでは、第3の大便器ブース106Cであるとする)へと視覚障害者を案内する制御が実行される。その制御では、ステップS31で、目的ブース106Cが現在も依然として有効であるか(空いているか)否かがチェックされる。その結果、目的ブース106Cが現時点で有効であるならば、ステップS36で、第2の内部スピーカ122B2は停止され、続いて、視覚障害者の現在位置から目的ブース106Cまでの間の案内路110上の次の制御点156C、または、目的ブース106Cの直近の最終の制御点156Fへ視覚障害者を導くために割り当てられた内部スピーカから、上記次の制御点156Cまたは最終の制御点156Fへ視覚障害者を導くための案内情報が出力される。例えば、次の制御点156Cに割り当られた第3の内部スピーカ122B3、または、最終制御点156Fに割り当てられた第5のスピーカ122B5から、次の制御点156Cへ視覚障害者を導くための案内情報、または、最終の制御点156Fへ視覚障害者を導くための案内情報が出力される。視覚障害者は、その案内情報と案内路110に導かれて、次の制御点156Cへ向かって歩き出す。
【0079】
視覚障害者が歩いている間、ステップS37で、視覚障害者が案内路110から外れたか否かが、該当する案内路センサ118の出力信号に基づいてチェックされ、また、ステップS39で、視覚障害者が次の制御点156Cに到達して立ち止まったか否かが、該当する制御点センサ116の出力信号に基づいてチェックされる。視覚障害者が案内路110から外れたことが検出された場合、ステップS38で、次の制御点156Cに割当られた内部スピーカ156C、最終制御点に割り当てられた内部スピーカ156Fまたは他の適当な内部スピーカから、視覚障害者に案内路110へ戻ってもらうための修正案内情報が出力される。また、ブース106A、106B、106Cの使用/空の検出は常時行なわれており、その検出結果に基づく上述したステップS31の目的ブース106Cが有効かどうかのチェックも、目的ブース106Cの使用/空の状態変化に即応してリアルタイムで行なわれる。
【0080】
視覚障害者が次の制御点156Cに到達して立ち止まると、ステップS40で、到達した制御点が最終の制御点156Fかどうかが判断される。その結果、まだ、最終の制御点156Fに到達してなければ、処理はステップS31へ戻る。そして、視覚障害者が最終の制御点156に到達するまで、その先の制御点156D、156E、156Fを順次が次の制御点に設定されて、ステップS31以降のステップが繰り返される。ステップS40で、視覚障害者が目的ブース106Cの直近の最終制御点156Fに到達して立ち止まったと判断されると、ステップS41で、最終制御点156F に割り当てられた内部スピーカ122B5から、視覚障害者を目的ブース106C内に導き入れるための最終案内情報が出力される。
【0081】
ところで、ステップS31で、目的ブース106Cが有効でなくなった(使用中になった)と判断された場合には、ステップS32で、男性用トイレルーム104の他の大便器ブース106A、106B中から空ブースがサーチされる。その結果、空ブースが1つも見つからなかったならば、ステップS38で、視覚障害者の現在の位置に応じて適当な内部スピーカが選択され、選択された内部スピーカから、例えば「ブースが満室になりました。少々お待ち下さい」というような待機を依頼する待機案内情報が出力される。
【0082】
他方、ステップSS2のサーチの結果、空ブースが見つかれば、ステップS35で、見つかった空ブースの中から一つの目的ブースが選択される。目的ブースの選択の仕方としては、例えば次の(1)または(2)の方法を用いることができる。
【0083】
(1) 空ブースの中から、以前の目的ブースに最も近いブースを選択する、あるいは、
【0084】
(2) 空ブースの中から、視覚障害者の現在位置と進行方向から判断して、最も行き易い(例えば、現在位置に最も近い)ブースを選択する。
【0085】
そして、処理は既に説明したステップS36へ進む。ステップS36では、視覚障害者が現在居る位置から新たに選択された目的ブースに至るまでの案内路110上における次の制御点へ、または新たに選択された目的ブースの直近の最終制御点へ、視覚障害者を導くための案内情報が、上記次の制御点または最終制御点に割り当てられた内部スピーカから出力される。視覚障害者の現在の位置や、以前の目的ブースの位置、および新たに選択された目的ブースの位置の相対的な関係に応じて、どのような内容の案内情報が、どの内部スピーカから出力されるかが、変わってくる。上述したように、ブース106A、106B、106Cの使用/空の検出は常時行なわれており、その検出結果に基づく上述したステップS31の目的ブース106Cが有効かどうかのチェックも、目的ブース106Cの使用/空の状態変化に即応してリアルタイムで行なわれるので、前の目的ブースが使用中になった時点で、遅滞無く、新たな目的ブースへの案内情報を視覚障害者へ提供することができる。
【0086】
なお、視覚障害者を目的ブースへ案内している間に、健常者がその目的ブースへ入ってしまうことを防止するために、視覚障害者に対する案内に加えて、いずれかの内部スピーカまたは各ブースの入口近傍に設けたランプや表示器などから、健常者に対して、その目的ブースの使用を控えさせる音声のまたは視覚的な案内情報を提供するようにしてもよい。
【0087】
図17は、図16に示した案内制御例の変形例の流れを示す。
【0088】
図17に示した変形例は、ステップS50からS52で示される内部スピーカの駆動の手順が、上述した図16に示される制御と異なる。すなわち、ステップS22またはS35で、目的ブースが選択された後、ステップS50で、視覚障害者の現在位置から目的ブースに至るまでの案内路110に沿って存在する複数の内部スピーカが、目的ブースに至る順序で順次に駆動されて、所定の案内情報(例えば、所定の信号音)を出力し、これを一定の間隔で繰り返す。視覚障害者は、音の発信源の位置が移動してく方向と案内路110とに従って、目的ブースまで歩いていくことができる。そして、ステップS40で、目的ブースの直近の最終制御点に視覚障害者が到達したことが検出されると、ステップS50の複数の内部スピーカの順次的駆動が停止され、最終制御点に割り当てられた内部スピーカから、視覚障害者を目的ブースに導き入れるための最終案内情報が出力される。
【0089】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。本発明は、トイレルーム内の大便器ブースへの案内だけでなく、小便器や洗面器への案内にも、また、これらの設備から離れてトイレルーム外へ出るときの案内にも、さらには、トイレルーム以外の施設における特定設備への案内、例えば、宿泊施設での特定の部屋への案内、複数のブースを有する自販機もしくはカウンターの空いているブースへの案内(空港、駅、銀行、市役所、郵便局、遊園地など)にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムが適用された公衆トイレルームの構成例を示す平面レイアウト図。
【図2】図2Aはストライプ点字ブロックを、図2Bはドット点字ブロックを示す平面図。
【図3】本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムが適用可能な公衆トイレルームの案内路110の構成例を、女性用トイレルーム102を例にとり示す平面レイアウト図。
【図4】本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムが適用可能な公衆トイレルームの案内路110の別の構成例を、男性用トイレルーム104を例にとり示す平面レイアウト図。
【図5】本発明の一実施形態にかかる視覚障害者誘導システムの全体構成を示すブロック線図。
【図6】到来者検出の処理を示すフローチャート。
【図7】位置・空ブース検出と案内制御の処理を示すフローチャート。
【図8】到来者センサの構成例を示す平面レイアウト図。
【図9】図9Aは人が立ち止まらずに入口分岐点を通過した場合のドップラ信号の波形図、図9Bは人が入口分岐点で立ち止まった場合のドップラ信号の波形図。
【図10】図10Aは人が入口分岐点で白杖を振っている場合のドップラ信号の波形図、図10Bは人が白杖を振らずに単に往来した場合のドップラ信号の波形図。
【図11】制御点センサと案内路センサの構成例を示す平面レイアウト図。
【図12】案内路センサの別の構成例を示す平面レイアウト図。
【図13】図13Aは人が案内路上を歩いている場合のドップラ信号の波形図、図13Bは人が案内路から外れた場合のドップラ信号の波形図。
【図14】ブース使用センサの構成例を示す平面レイアウト図。
【図15】男性用トイレルームを例に取り、入口スピーカと複数の内部スピーカの配置例を示した平面レイアウト図。
【図16】図15に示した男性用トイレルームにおける案内制御の処理手順例を示すフローチャート。
【図17】図16に示した案内制御例の変形例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0091】
100 公衆トイレルーム
102 女性用トイレルーム
104 男性用トイレルーム
106 大便器ブース
110 案内路
112A ストライプ点字ブロック
112B ドット点字ブロック
114 到来者センサ
115 到来者センサのセンシング領域
116 制御点センサ
117 制御点センサのセンシング領域
118 案内路センサ
119 案内路センサのセンシング領域
120 ブース使用センサ
122A 入口スピーカ
122B 内部スピーカ
130 センサ部
132 制御部
134 案内出力部
140 到来者検出部
142 位置検出部
144 空ブース検出部
146 案内制御部
148 案内情報データベース
114A、116A、118A、118C 遠隔物体センサ
114B、116B、118B 圧力センサ
152 入口分岐点
156A、156B、156C、156D、156E、156F 制御点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設備を有する施設において、視覚障害者を前記複数の設備の中から選ばれた目的設備へと案内するための視覚障害者誘導システムであって、
前記複数の設備の使用中/空状況を検出する施設使用検出手段と、
前記施設使用検出手段に応答して、空き設備の中から前記目的設備を選択し、前記目的設備として既に選択された設備が使用中になった場合には、別の空き設備の中から前記目的設備を選択しなおす目的設備選択手段と、
前記施設内の視覚障害者に対して案内情報を出力する案内情報出力手段と、
前記目的設備選択手段により選択された前記目的設備へ導くための案内情報を、前記案内情報出力手段に出力させ、前記目的設備が変更された場合には、変更後の前記的設備に応じた案内情報を、前記案内情報出力手段から出力させなおす制御手段と
を備えた視覚障害者誘導システム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記施設内での視覚障害者の位置を検出する位置検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記位置検出手段により検出された前記視覚障害者の位置から、前記目的設備へと導くための案内情報を、案内情報出力手段に出力させる視覚障害者誘導システム。
【請求項3】
請求項1記載のシステムにおいて、
案内情報出力手段は、前記施設内の複数の箇所の各々から前記案内情報の音声を出力する音声出力手段を含み、
前記制御手段は、前記目的設備の位置に応じて、前記施設内の複数の箇所の中から1以上の箇所を選び、前記音声出力手段を駆動して、選ばれた箇所から、前記目的設備へと導くための案内情報の音声を出力させる視覚障害者誘導システム。
【請求項4】
請求項3記載のシステムにおいて、
前記施設内での視覚障害者の位置を検出する位置検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記目的設備の位置だけでなく、前記位置検出手段により検出された前記視覚障害者の位置にも応じて、前記施設内の複数の箇所の中から選ばれる1以上の箇所を変更する視覚障害者誘導システム。
【請求項5】
請求項2または4記載のシステムにおいて、
前記位置検出手段は、能動波センサ、受動赤外線センサまたは機械作用センサを用いて検出を行なう視覚障害者誘導システム。
【請求項6】
請求項3記載のシステムにおいて、
前記制御手段は、前記音声出力手段を駆動して、前記施設内の前記複数の箇所から、前記視覚障害者を前記目的設備に導くための所定の経路に沿った順序で順番に、前記案内情報の音声を出力させる視覚障害者誘導システム。
【請求項7】
複数の設備を有する施設において、視覚障害者を前記複数の設備の中から選ばれた目的設備へと案内するための視覚障害者誘導方法であって、
前記複数の設備の使用中/空状況を検出するステップと、
検出された空き設備の中から前記目的設備を選択し、前記目的設備として既に選択された設備が使用中になった場合には、別の空き設備の中から前記目的設備を選択しなおすステップと、
選択された前記目的設備へ導くための案内情報を、前記施設内の視覚障害者に提供し、前記目的設備が変更された場合には、変更後の前記的設備に応じた案内情報を前記視覚障害者に提供しなおすステップと
を有する視覚障害者誘導方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−141116(P2007−141116A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336626(P2005−336626)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】