説明

視認状況測定装置

【課題】 透過率計を用いずに撮像手段を用いて視認状況を測定し、しかも、昼夜に渡って視認状況を適切に測定する。
【解決手段】 テレビカメラ1は、大気を挟んで所定距離だけ離れた位置に設置された指標2を撮像する。指標2は、色度の異なる2つの領域A,Bを有する。処理装置3は、テレビカメラ1からの画像信号に基づいて、前記所定距離だけ離れた位置の指標2の2つの領域A,Bの色度同士の相違の度合いを求める。また、処理装置3は、この求めた度合いと、大気の混濁の影響を実質的に受けない状態における指標2の2つの領域A,Bの色度同士の相違の度合いとの比から、視程を求める。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、道路上等における視認状況を示す測定結果、例えば視程などを測定する視認状況測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】道路上等において、霧、雨、雪などにより見通しが悪くなると、交通の安全が脅かされることから、視認状況がある程度低下した際に交通規制を行うなどのために、視認状況測定装置を用いて視認状況を測定することが行われている。
【0003】従来、このような視認状況測定装置として、互いに所定距離をあけて配置された投光器及び受光器からなる透過率計(VI計)を用いた視程計測装置が使用されていた。そして、この視程計測装置では、透過率計から得られた透過率から、Koschmiederの式と呼ばれる下記の数1により、視程を算出していた。
【0004】
【数1】V=(L×logε)/logT
【0005】数1において、Vは視程(単位はm)、Lは透過率計を構成する投光器と受光器との間の距離(単位はm)、Tは透過率計(VI計)により得られる透過率、εは人間が対象物を識別するのに必要なコントラスト値(通常は経験的に0.02〜0.05としている)である。
【0006】しかしながら、透過率計を用いた視程計測装置では、視程測定専用の透過率計を設けなければならず、コストアップや設置の手数の増大が免れなかった。
【0007】そこで、近年、道路の種々の交通状況の監視をテレビカメラを用いて行うようになってきたことから、このテレビカメラを視程計測用としても兼用し得るように、テレビカメラを用いた視程計測装置が提供されるに至った。
【0008】テレビカメラを用いた従来の視程計測装置は、特許第2665739号公報に開示されており、大気中の所定距離だけ離れた位置に設置され明暗の異なる領域を有する指標をテレビカメラで撮像し、テレビカメラからの画像信号に基づいて、前記所定距離だけ離れた位置の前記指標の明領域と暗領域との明暗のコントラストを明暗コントラスト検出手段により検出し、大気の混濁の影響を受けない距離で撮像された明暗のコントラストと前記明暗コントラスト検出手段により検出された明暗のコントラストとから視程を算出するものである。
【0009】この従来の視程計測装置によれば、霧などが発生すると、その量に応じてテレビカメラで撮像した指標の明領域と暗領域との明暗のコントラストが低下するので、視程を算出することができる。そして、前記従来の視程計測装置では、テレビカメラを用い、透過率計を用いていないので、当該テレビカメラとして交通状況等の監視用のテレビカメラを兼用することができる。このため、コストダウンや設置の手数の軽減を図ることができる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従来の視程計測装置では、指標の明暗のコントラストの変化により視程を求めており、明度情報(輝度情報)を用いているので、昼間(日中)と夜間とで明るさが大きく異なり当該明度情報が大きく異なることから、昼間及び夜間のうちの一方のみでしか適切に視程を求めることができず、昼夜に渡って視程を適切に求めることができなかった。すなわち、周辺光の影響を受け光幕輝度が変化するため、昼間と夜間とではコントラストに差がでることから、前記従来の視程計測装置では、昼夜に渡る計測ができなかった。
【0011】この点について、本発明者が行った実験の結果を図10に示す。この実験結果は、次のようにして得た。図9に示す指標50と図示しないテレビカメラとを所定距離だけ離して設置し、テレビカメラで指標50を撮像した。指標50は、白と黒に塗り分けられた白領域(明領域)50Aと黒領域(暗領域)50Bとを有している。指標50は、夜間においては指標50付近に設置した照明灯からの照明光にて照明した。そして、テレビカメラからの画像信号に基づいて、白領域50Aの輝度Lと黒領域50Bの輝度Lを算出し、これらの輝度L,Lから下記の数2に従ってコントラストCを算出した。
【0012】
【数2】C=(L−L)/L
【0013】また、透過率計(VI計)を用い、その投光器を指標50の付近に設置するとともにその受光器を前記テレビカメラの付近に設置し、この透過率計(VI計)により透過率を計測した。そして、この透過率から、前記数1に従って視程を求めた。昼間と夜間とでそれぞれ、テレビカメラと指標50との間に人工的に霧を発生させてその発生量を変えながら、各発生量において、前述した方法でコントラストC及び視程を求めた。図10は、このようにして求めたコントラストCと視程との関係を示している。図10において、ライン■は、昼間(その際の天空照度は379ルクスであった。)において得たコントラストCと視程との関係を示し、ライン■は、夜間(その際の天空照度は2.34ルクスであった。)において得たコントラストCと視程との関係を示している。
【0014】図10からわかるように、昼間と夜間とでコントラストCが大きく異なる。このため、コントラストCに基づいて視程を求めようとすると、昼間及び夜間のうちの一方のみでしか適切に視程を求めることができず、昼夜に渡って視程を適切に求めることはできない。
【0015】本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、透過率計を用いずに撮像手段を用いて視認状況を測定することができ、しかも、昼夜に渡って視認状況を適切に測定することができる視認状況測定装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため、本発明の第1の態様による視認状況測定装置は、大気中の所定距離だけ離れた位置に設置され色度の異なる少なくとも2つの領域を有する指標を、撮像する撮像手段と、前記撮像手段からの画像信号に基づいて、前記所定距離だけ離れた位置の前記指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いを求める取得手段と、大気の混濁の影響を実質的に受けない状態における前記指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いと前記取得手段により得られた前記度合いとに基づいて、視認状況を示す測定結果を得る演算手段と、を備えたものである。
【0017】なお、前記色度は、色の三要素のうち明度(輝度)を除いたものの全体を示すものであり、本発明では可視領域のもののみならず近赤外領域等の可視領域以外の領域の波長のものも含むものとする。また、夜間においても視認状況を測定する場合には、前記指標の前記少なくとも2つの領域は、夜間においては、自発光領域又は照明光により照明される被照明領域とされる。以上の点は、後述する各態様についても同様である。
【0018】昼間であれば、霧、雨、雪等の大気の混濁が生ずると、指標からの光が霧等により散乱され、その散乱された光は撮像手段に到達しなくなる。また、太陽光が霧等により散乱される。このため、撮像手段により撮像される指標の各領域の像の色は当該散乱光により白っぽくなり、その白っぽくなる程度は撮像手段と指標との間の霧等の量に依存する。したがって、指標の各領域の色度は異なっているので、霧等の大気の混濁が生じなければ、撮像手段により撮像された指標の各領域の像の色度の相違の度合いは大きいのに対し、霧等の大気の混濁が生ずると、その霧等の量に応じて、撮像手段により撮像された指標の各領域の像が白っぽくなって同じ色度に近づいていくことになる。このように、昼間であれば、霧、雨、雪等の大気の混濁が生ずると、撮像手段により撮像された指標の各領域の像の色度が均一化し(すなわち、色度の相違の度合いが小さくなり)、その均一化の度合いは霧等の量、すなわち透過率(ひいては視程)に依存する。
【0019】一方、夜間において、撮像手段と指標との間に照明光等の周囲光が存在しない場合には、霧、雨、雪等の大気の混濁が生ずると、指標からの光が霧等により散乱され、その散乱された光は撮像手段に到達しなくなる。したがって、指標の各領域の色度は異なっていることから、霧等の大気の混濁が生じなければ、撮像手段により撮像された指標の各領域の像の色度の相違の度合いは大きいのに対し、霧等の大気の混濁が生ずると、その霧等の量に応じて、撮像手段により撮像された指標の各領域の像が黒っぽくなって同じ色度に近づいていくことになる。このように、夜間において、撮像手段と指標との間に照明光等の周囲光が存在しない場合であっても、霧、雨、雪等の大気の混濁が生ずると、撮像手段により撮像された指標の各領域の像の色度が均一化し(すなわち、色度の相違の度合いが小さくなり)、その均一化の度合いは霧等の量、すなわち透過率(ひいては視程)に依存する。なお、白と黒とは、明度(輝度)が異なるだけであり、色度は同一である。
【0020】また、夜間において、撮像手段と指標との間に照明光等の周囲光が存在する場合には、霧、雨、雪等の大気の混濁が生ずると、指標からの光が霧等により散乱され、その散乱された光は撮像手段に到達しなくなる。また、周囲光が霧等により散乱される。したがって、指標の各領域の色度は異なっていることから、霧等の大気の混濁が生じなければ、撮像手段により撮像された指標の各領域の像の色度の相違の度合いは大きいのに対し、霧等の大気の混濁が生ずると、その霧等の量に応じて、撮像手段により撮像された指標の各領域の像が周囲光の色に近づき同じ色度に近づいていくことになる。このように、夜間において、撮像手段と指標との間に照明光等の周囲光が存在する場合であっても、霧、雨、雪等の大気の混濁が生ずると、撮像手段により撮像された指標の各領域の像の色度が均一化し(すなわち、色度の相違の度合いが小さくなり)、その均一化の度合いは霧等の量、すなわち透過率(ひいては視程)に依存する。
【0021】したがって、前記第1の態様のように、撮像手段からの画像信号に基づいて、所定距離だけ離れた位置の指標の少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いを求めることにより、大気の混濁の影響を実質的に受けない状態における前記指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いと前記取得手段により得られた前記度合いとに基づいて、視認状況を示す測定結果を得ることができるのである。
【0022】そして、前記第1の態様では、従来の視程計測装置のように明暗のコントラストを利用するのではなく、色度を利用しているので、周囲の明るさの影響を受けなくなり、昼夜に渡って視認状況を適切に測定することができる。
【0023】また、前記第1の態様では、撮像手段を用い、透過率計を用いていないので、当該撮像手段として交通状況等の監視用の撮像手段を兼用することができる。このため、コストダウンや設置の手数の軽減を図ることができる。
【0024】本発明の第2の態様による視認状況測定装置は、前記第1の態様において、大気中の第1の所定距離だけ離れた位置に設置され色度の異なる少なくとも2つの領域を有する第1の指標を、撮像する第1の撮像手段と、前記第1の所定距離と異なる大気中の第2の所定距離だけ離れた位置に設置され色度の異なる少なくとも2つの領域を有する第2の指標を、撮像する第2の撮像手段と、前記第1の撮像手段からの画像信号に基づいて、前記第1の所定距離だけ離れた位置の前記第1の指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いを求める第1の取得手段と、前記第2の撮像手段からの画像信号に基づいて、前記第2の所定距離だけ離れた位置の前記第2の指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いを求める第2の取得手段と、前記第1の取得手段により得られた前記度合いと前記第2の取得手段により得られた前記度合いとに基づいて、視認状況を示す測定結果を得る演算手段と、を備えたものである。
【0025】前記第1の態様では、指標を1つだけ用い、大気の混濁の影響を実質的に受けない状態における当該指標の各領域の色度同士の相違の度合いを基準にして視認状況を示す測定結果を得ているのに対し、前記第2の態様では、異なる距離に設置した2つの指標を用い、その2つの指標の各領域の色度同士の相違の度合いの相対的な関係から視認状況を示す測定結果を得ているが、前記第2の態様によっても前記第1の態様と同様の利点が得られる。
【0026】本発明の第3の態様による視認状況測定装置は、前記第2の態様において、前記第1及び第2の撮像手段が単一のテレビカメラ又はデジタルスチルカメラで兼用されたものである。
【0027】前記第2の態様では、前記第1及び第2の撮像手段としてそれぞれ別個のテレビカメラ又はデジタルスチルカメラを用いてもよいが、前記第3の態様のように、単一のテレビカメラ又はデジタルスチルカメラで兼用すると、コストダウンを図ることができ、好ましい。
【0028】本発明の第4の態様による視認状況測定装置は、前記第1乃至第3のいずれかの態様において、前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の前記度合いは、当該色度を色度図上の座標として表す場合における当該座標間の距離に応じた値であるものである。
【0029】この第4の態様は、色度同士の相違の度合いの例として色度図上の座標間の距離に応じた値を挙げたものであるが、色度同士の相違の度合いはこの例に限定されるものではない。前記色度図としては、例えば、XYZ表色系によるxy色度図や、RGB表色系による色度図や、HVC表色系による色度図を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】本発明の第5の態様による視認状況測定装置は、前記第1乃至第4のいずれかの態様において、前記演算手段は、前記測定結果として視程又は透過率を得るものである。
【0031】この第5の態様は測定結果の形態の例を挙げたものであるが、視認状況を示す測定結果の形態はこれらに限定されるものではない。
【0032】なお、前記第1乃至第5の態様において、撮像手段としては、例えば、テレビカメラを用いてもよいし、デジタルスチルカメラを用いてもよい。
【0033】
【発明の実施の形態】以下、本発明による視認状況測定装置について、図面を参照して説明する。
【0034】[第1の実施の形態]
【0035】図1は、本発明の第1の実施の形態による視認状況測定装置を示す概略斜視図である。図2は、図1中の処理装置3の構成を示す概略ブロック図である。図3は、設置時の処理と処理装置3の動作の一例を示す概略フローチャートである。図4は、本実施の形態による視認状況測定装置の動作原理を説明するためのCIE1931XYZ表色系のxy色度図である。図5は、本実施の形態による視認状況測定装置の動作原理に関連する実験結果を示す図である。
【0036】本実施の形態による視認状況測定装置は、図1に示すように、指標2を撮像する撮像手段としてのテレビカメラ1と、テレビカメラ1からの画像信号を処理して、視認状況を示す測定結果として視程を出力する処理装置3とを備えている。本実施の形態では、指標2は、視程測定専用として構成され、異なる色度(本実施の形態では、赤と青であるが、その色度は限定されるものではない)を持つ2つの領域A,Bを有する板部材で構成されている。図面には示していないが、指標2は、夜間においては照明光により照明されるようになっている。領域A,Bを自発光領域として構成してもよい。この場合、例えば、LED等の発光素子を多数配設して構成したり、内部に蛍光灯を設けて着色半透明板が発光するように構成したりすればよい。なお、領域A,Bは面積の著しく小さいスポット的な領域であってもよいが、後述するように色度を求める際に平均化して精度を高めることができるように、ある程度の大きさの面積を有していることが好ましい。
【0037】テレビカメラ1は、道路4の路肩に立設された支柱5により支持され、大気を挟んで指標2から所定距離だけ離れた位置に設置されている。本実施の形態では、テレビカメラ1としていわゆるフルカラーのカメラが用いられているが、必ずしもフルカラーである必要はない。
【0038】処理装置3は、テレビカメラ1からの画像信号をA/D変換するA/D変換器10と、A/D変換器でA/D変換された画像データをR,G,Bの各画像データに分離してそれぞれ格納する画像メモリ11R,11G,11Bと、CPU12と、後述する処理を行うために必要な動作をCPU12に実現させるためのプログラムやデータ等を記憶するメモリ13と、処理結果として視程を出力する出力ユニット14とを備えている。
【0039】本実施の形態による視認状況測定装置の動作について、図3を参照して説明する。図3中のステップS1〜S5は、本装置の設置時にのみ行われる前処理である。テレビカメラ1、指標2及び処理装置3を据え付けた後、まず、テレビカメラ1で撮像された画像における領域Aの像の位置及び領域Bの像の位置を設定する(ステップS1,S2)。これは、画像からマスクにより領域A,Bの像を取り出すための位置の設定であり、設置者が撮像された画像をモニタ(図示せず)で見ながら、入力装置(図示せず)でそれらの位置を指定することにより、行われる。
【0040】その後、前記入力装置からの指令に応答して、処理装置3は、大気の混濁の影響を実質的に受けない状態においてテレビカメラ1から得られた画像データに基づいて、領域A,Bの像の色度をそれぞれ算出する(ステップS3,S4)。この処理に用いる画像としては、図1に示すような設置状態においてテレビカメラ1と指標2との間に霧、雨、雪等の大気の混濁がない状態で取得した画像を用いてもよいし、指標2を所定の設置場所に設置する前に指標2をテレビカメラ1に十分に近づけた状態で(すなわち、大気の混濁の影響を実質的に受けない距離で)所得した画像を用いてもよい。
【0041】ここで、ステップS3における領域Aの色度の算出について説明する。本実施の形態では、前記画像における領域Aの各画素のR値の平均値、G値の平均値、B値の平均値を求め、これらの値から、領域Aの色度としてXYZ表色系におけるx値及びy値を周知の変換式に従って求める。このx値及びy値はXYZ表色系によるxy色度図の座標を示すことになる。図4中の点Aは、領域Aの色度の初期値を示す。同様に、ステップS4において、前記画像における領域Bの各R値の平均値、G値の平均値、B値の平均値を求め、これらの値から、領域Bの色度としてXYZ表色系におけるx値及びy値を求める。図4中の点Bは、領域Bの色度の初期値を示す。
【0042】その後、ステップS5において、処理装置3は、ステップS3で取得した領域Aの色度の初期値とステップS4で取得した領域Bの色度の初期値との相違の度合いとして、色度距離の初期値を算出し、これをメモリ13に格納する。色度距離とは、2つの色度を色度図上の座標として表す場合における当該座標間の距離をいうものとする。ステップS5では、具体的には、図4中の点Aと点Bとの間の距離である色度距離の初期値Kを下記数3に従って求める。ただし、点Aの座標を(x01,y01)、点Bの座標を(x02,y02)とする。
【0043】
【数3】K={(x01−x02+(y01−y021/2
【0044】以上説明したステップS1〜S5の前処理の後、ステップS6〜S11の本測定処理が行われる。テレビカメラ1からは、順次新たな画像が得られる。
【0045】まず、テレビカメラ1から新たな画像が得られると、処理装置3は、ステップS3,S4と同様に、当該画像の領域A,Bの像の色度をそれぞれ算出する(ステップS6,S7)。図4中の点AはステップS6で得た領域Aの色度の一例を示し、図4中の点BはステップS7で得た領域Bの色度の一例を示す。図4に示す点A及び点Bの例は、テレビカメラ1と指標2との間にある程度霧が発生した状態を示している。霧が発生したことにより、領域Aの色度と領域Bの色度とがある程度均一化し、点Aと点Bとの間の距離(色度距離)が点Aと点Bとの間の距離(色度距離の初期値)より短くなっている。
【0046】次に、処理装置3は、ステップS5と同様に、ステップS6で算出した領域Aの色度とステップS7で算出した領域Bの色度との相違の度合いとして、図4中の点Aと点Bとの間の距離である色度距離Kを算出する(ステップS8)。
【0047】次いで、処理装置3は、ステップS8で算出した色度距離KとステップS5で予め算出した色度距離Kとの比K/Kを算出する(ステップS9)。
【0048】その後、処理装置3は、予め実験的に求めた式又はテーブルに従って、ステップS9で算出した比を視程に換算し(ステップS10)、ステップS10で得た視程を外部へ出力し(ステップS11)、ステップS6へ戻り、ステップS6〜S11の処理を繰り返す。
【0049】ここで、以上の動作により視程が適切に得られる裏付けとして本発明者が得た、図5に示す実験結果について説明する。この実験結果は、次のようにして得た。図1と同様の構成において、図10に示す実験結果を得たのと同様に、透過率計(VI計)を用い、その投光器を指標2の付近に設置するとともにその受光器をテレビカメラ1の付近に設置し、この透過率計(VI計)により透過率を計測した。そして、この透過率から、前記数1に従って視程を求めた。また、テレビカメラ1の付近に色彩輝度計を設置し、この色彩輝度計によって指標2の領域A,BのXYZ表色系におけるx値及びy値をそれぞれ計測し、その計測値から領域Aの色度と領域Bの色度との間の色度距離を算出した。そして、昼間と夜間とでそれぞれ、テレビカメラ1と指標2との間に人工的に霧を発生させてその発生量を変えながら、各発生量において、前述した方法で視程及び色度距離を求めた。図5は、このようにして求めた視程と色度距離との関係を示している。図5において、ライン■は、昼間(その際の天空照度は264ルクスであった。)において得た視程と色度距離との関係を示し、ライン■は、夜間(その際の天空照度は2.34ルクスであった。)において得た視程と色度距離との関係を示している。なお、図5中、Kは霧、雨、雪等の大気の混濁がない状態で計測した領域Aの色度と領域Bの色度との間の色度距離を示している。
【0050】図5からわかるように、昼間と夜間とで色度距離はほとんど同じであり、視程に従って色度距離が変化し、色度距離から視程を適切に求めることができることがわかる。したがって、本実施の形態によれば、前述した動作により、昼夜に渡って、視程を適切に求めることができるのである。
【0051】なお、本実施の形態では、前述したように、色度距離Kから直接に視程に換算するのではなく、比K/Kを求め、この比K/Kを視程に換算しているので、指標2の各領域A,Bの色度が種々に異なっていても、特別に較正することなく、視程を適切に得ることができる
【0052】また、本実施の形態によれば、テレビカメラ1を用い、透過率計を用いていないので、テレビカメラ1として交通状況等の監視用のものを兼用することができる。このため、コストダウンや設置の手数の軽減を図ることができる。
【0053】ところで、図5中の横軸の視程は、前述したように、透過率計(VI計)により計測した透過率を前記数1に従って変換したものであるので、前記比K/Kから透過率に換算することもできる。したがって、処理装置3は、視認状況を示す測定結果として、視程を出力する代わりに、透過率を出力することも可能である。このように、測定結果として透過率を出力することも可能であるので、本実施の形態による装置は、視認状況測定装置として用いることができるのみならず、火災感知やスモッグ測定等のためなどの他の用途のために透過率を計測する透過率計測装置としても、用いることができる。
【0054】本実施の形態では、視認状況を測定するためにそれ専用の指標2を用いていたが、例えば、指標2に代えて、任意の交通標識や看板など、色度の異なる領域を有するものであればいずれのものであっても適宜指標として用いることができる。専用の指標2に代えて指標として用いることができるものの例として、図6に交通案内標識を示す。図6において、領域は緑色の領域、領域は白色の領域であり、両者の色度は互いに異なっている。
【0055】[第2の実施の形態]
【0056】図7は、本発明の第2の実施の形態による視認状況測定装置を示す概略斜視図である。図7において、図1中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。図8は、本実施の形態による視認状況測定装置における設置時の処理と処理装置3の動作の一例を示す概略フローチャートである。
【0057】本実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる所は、本実施の形態では、図1に示すように単一の指標2ではなく2つの指標22,23が用いられている点と、設置時の処理と処理装置3の動作が図8に示すようになっている点のみである。
【0058】指標22とテレビカメラ1との間の距離と指標23とテレビカメラ1との間の距離とは異なっており、テレビカメラ1に対して指標23の方が指標22より近い側に配置されている。本実施の形態では、テレビカメラ1の視野内に両方の指標22,23が同時に入るようになっている。もっとも、指標22,23をそれぞれ別々のテレビカメラで撮像するようにしてもよい。
【0059】また、指標22,23は、指標2と同一の構成を有している。指標22は、異なる色度を持つ2つの領域22A,22Bを有している。指標23は、異なる色度を持つ2つの領域23A,23Bを有している。領域22A,23Aは指標22の領域Aと同一であるとともに、領域22B,23Bは指標2の領域Bと同一となっている。もっとも、指標22,23は、必ずしも同じ構成を有する必要はない。
【0060】本実施の形態による視認状況測定装置の動作について、図8を参照して説明する。図8中のステップS21〜S24は、本装置の設置時にのみ行われる前処理である。テレビカメラ1、指標2及び処理装置3を据え付けた後、まず、テレビカメラ1で撮像された画像における領域22A,22B,23A,23Bの像の位置をそれぞれ設定する(ステップS21〜S24)。これは、画像からマスクにより領域22A,22B,23A,23Bの像を取り出すための位置の設定であり、設置者が撮像された画像をモニタ(図示せず)で見ながら、入力装置(図示せず)でそれらの位置を指定することにより、行われる。
【0061】以上説明したステップS21〜S24の前処理の後、ステップS25〜S33の本測定処理が行われる。
【0062】まず、テレビカメラ1から新たな画像が得られると、処理装置3は、図3中のステップS6,S7と同様に、当該画像の領域22A,22B,23A,23Bの像の色度をそれぞれ算出する(ステップS25〜S28)。
【0063】次に、処理装置3は、図3中のステップS8と同様に、ステップS25,S26で得た指標22の領域22A,22Bの色度間の色度距離Kを算出し(ステップS29)、ステップS27,S28で得た指標23の領域23A,23Bの色度間の色度距離Kを算出する(ステップS30)。
【0064】次いで、処理装置3は、ステップS29で算出した色度距離KとステップS30で算出した色度距離Kとの比K/Kを算出する(ステップS31)。
【0065】その後、処理装置3は、予め実験的に求めた式又はテーブルに従って、ステップS31で算出した比を視程に換算し(ステップS32)、ステップS32で得た視程を外部へ出力し(ステップS33)、ステップS25へ戻り、ステップS25〜S33の処理を繰り返す。
【0066】本実施の形態では、図3中のステップS5で求めたような色度距離の初期値は求めずに、異なる距離に設置された指標22,23の色度距離K,Kの相対的な関係である比K/Kから視程を得ているが、前記第1の実施の形態と同様の利点が得られる。
【0067】以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0068】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、透過率計を用いずに撮像手段を用いて視認状況を測定することができ、しかも、昼夜に渡って視認状況を適切に測定できる視認状況測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態による視認状況測定装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1中の処理装置3の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】図1に示す視認状況測定装置の設置時の処理と処理装置の動作の一例を示す概略フローチャートである。
【図4】図1に示す視認状況測定装置の動作原理を説明するためのCIE1931XYZ表色系のxy色度図である。
【図5】図1に示す視認状況測定装置の動作原理に関連する実験結果を示す図である。
【図6】指標として用い得る交通案内標識の例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態による視認状況測定装置を示す概略斜視図である。
【図8】図7に示す視認状況測定装置の設置時の処理と処理装置の動作の一例を示す概略フローチャートである。
【図9】従来の視程計測装置に関連して行った実験において用いた指標を示す図である。
【図10】従来の視程計測装置に関連して行った実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
1 テレビカメラ
2,22,23 指標
3 処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 大気中の所定距離だけ離れた位置に設置され色度の異なる少なくとも2つの領域を有する指標を、撮像する撮像手段と、前記撮像手段からの画像信号に基づいて、前記所定距離だけ離れた位置の前記指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いを求める取得手段と、大気の混濁の影響を実質的に受けない状態における前記指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いと前記取得手段により得られた前記度合いとに基づいて、視認状況を示す測定結果を得る演算手段と、を備えたことを特徴とする視認状況測定装置。
【請求項2】 大気中の第1の所定距離だけ離れた位置に設置され色度の異なる少なくとも2つの領域を有する第1の指標を、撮像する第1の撮像手段と、前記第1の所定距離と異なる大気中の第2の所定距離だけ離れた位置に設置され色度の異なる少なくとも2つの領域を有する第2の指標を、撮像する第2の撮像手段と、前記第1の撮像手段からの画像信号に基づいて、前記第1の所定距離だけ離れた位置の前記第1の指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いを求める第1の取得手段と、前記第2の撮像手段からの画像信号に基づいて、前記第2の所定距離だけ離れた位置の前記第2の指標の前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の度合いを求める第2の取得手段と、前記第1の取得手段により得られた前記度合いと前記第2の取得手段により得られた前記度合いとに基づいて、視認状況を示す測定結果を得る演算手段と、を備えたことを特徴とする視認状況測定装置。
【請求項3】 前記第1及び第2の撮像手段が単一のテレビカメラ又はデジタルスチルカメラで兼用されたことを特徴とする請求項2記載の視認状況測定装置。
【請求項4】 前記少なくとも2つの領域の色度同士の相違の前記度合いは、当該色度を色度図上の座標として表す場合における当該座標間の距離に応じた値であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の視認状況測定装置。
【請求項5】 前記演算手段は、前記測定結果として視程又は透過率を得ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の視認状況測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2002−14038(P2002−14038A)
【公開日】平成14年1月18日(2002.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−196223(P2000−196223)
【出願日】平成12年6月29日(2000.6.29)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】