説明

親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物及びアルミニウム合金塗装板

【課題】 アルミニウム合金材の表面に親水性、耐食性、着色性において、優れた性能を発揮する下地皮膜を形成し得る親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物並びにそれを用いたプレコートフィン材等のアルミニウム合金塗装板の提供。
【解決手段】
アルミニウムまたはアルミニウム合金板表面に親水性被覆層を形成する際に、この金属表面と親水性被覆層との間に下地被覆層を形成するため、下地被覆を形成する固形分の組成がエポキシ系樹脂の水性溶液またはエマルションと炭酸ジルコニウム塩からなり、エポキシ系樹脂100重量部に対して該炭酸ジルコニウム塩が金属換算ジルコニウムで0.01〜20重量部である親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物、これを用いた親水性被覆アルミニウムまたはアルミニウム合金板の製造方法及び該方法によって得られた熱交換器用アルミニウムフィン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、特にアルミニウム材またはアルミニウム合金(以下両者を単に「アルミニウム合金」という)材の表面に親水性・耐食性・着色性、成形加工性を付与させる皮膜を形成させるために好適な親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物、その組成物をアルミニウム合金材の表面に塗布し、皮膜を形成させた塗装アルミニウム合金板であり、特に熱交換器用アルミニウム合金フィン材に適するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料、特にアルミニウム合金材の表面は親水性に乏しいため、空調機、自動車など広範囲に使用されている熱交換器に使用さられているフィンや印刷の平板印刷版材には、殆ど親水性皮膜を被覆処理をした上で使用されている。
以下、本明細書においては、代表例として空調機の熱交換器のフィン材の場合について述べることとするが、親水性被覆をするときには他の用途においても同様な効果を有する。
【0003】
最近の空調機用熱交換器は軽量化のために熱効率の向上とコンパクト化が要求され、フィン間隔をでき得る限り狭くする設計が取り入れられてきた。
例えば空調機用熱交換器は、冷房運転中に空気中の水分がアルミニウム合金フィンの表面に凝縮水となって付着する。金属材料の表面は一般に親水性に乏しいため、この凝縮水はフィン表面に半円形もしくはフィン間にブリッジ状になって存在することになる。これはフィン間の空気の流れを妨げ、雑音、振動の発生とともに通風抵抗を増大させ、熱交換効率を著しく低下させる原因となっていた。熱交換器の熱効率を向上させるには、フィン表面の凝縮水を迅速に排除することが必要である。
【0004】
この解決法として、(1)アルミニウム合金フィン表面に高親水性皮膜を形成し、凝縮水を薄い水膜としてできるだけ早く流下せしめること、あるいは(2)アルミニウム合金フィン表面に撥水性皮膜を形成し、凝縮水を表面に付着させないようにする、ことが考えられるが、(2)の方法は、現時点では極めて困難である。
金属材表面に親水性を付与するためには、表面に親水性塗膜を被覆することが必要である。この場合、親水性組成物は材料表面に結露水滴が形成されることを防止し、材料表面の水膜を保持すること等として、親水性皮膜形成のために使用されている。
【0005】
そこで、親水性皮膜を形成させる方法が種々提案されている。、例えばクロメート処理をした後ケイ酸塩系の親水性皮膜を形成するとか、シリカを含有させた無機質皮膜を形成するなどの方法があるが、これらの方法においてはプレコートしたときにはアルミニウム合金板のカット、穿孔などの加工時において該皮膜にクラックが入って耐食性を低下させるおそれが多いこと、また硬質のシリカなどは裁断等の加工において工具摩耗を大きくさせるなどの問題がある。一方シリカなどの硬質充填材を含まない物として例えばカルボキシメチルセルロースとポリエチレングリコールを含有する組成物を塗布し、親水性の皮膜を形成させる方法(例えば特許文献1参照)などが提案されており、また、親水性付与に伴う耐食性の低下を防止し、親水性被覆の素材への固着性の向上等を目的として、従来技術はクロメート下地処理を行うことを推奨または例示している多数の提案がなされている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
更に、親水性や耐食性等の性能のほかに、昨今、室内エアコン等においては、従来の銀白色に代わり、高級感、他のグレードとの区別の効果を出すため、意匠性が高いフィン材が求められている。しかし、一般的な表面処理が施されたフィン材は、その表面が、処理前のアルミニウム合金材と同様に銀白色に輝いている。これに対し空調機などにおいては部屋との調和や安らぎ感が必要とされており、高級感、調和感などから熱交換器のフィン材にも多種の着色が要求されてきた。しかし樹脂を含んだ塗布型クロメート処理剤は顔料や染料と反応してしまい、親水性を低下させ、あるいは稼働時に凝縮水中に流出しドレン水が着色するなどの問題があった。
【0007】
フィン材が着色していないと、表面処理が施されたコイル状のフィン用アルミニウム合金板をフィンに加工する際、または加工後の熱交換器をエアコン製品へ組み立て作業する際等において、表面処理品と無処理品とを混同して使用してしまい、各生産工程で歩留まりの低下が生じるといった問題点が発生している。これは、表面処理をしていない無処理のアルミニウム合金板が、見た目には、表面処理を行なったフィン用アルミニウム合金板と同様の銀白色の表面を有するために生じたものである。このため、表面処理を行なったものと無処理のものとの外観上の区別を容易にすること(識別性の向上)が望まれている。
【0008】
このような従来技術は一般の化成処理方法では、耐食性を満足するものの、薄膜である化成処理では、顔料などを添加しても分散できない上、薄膜であるため着色も十分にできない。また、一般の耐食性有機皮膜は、着色性は満足するものの、耐食性有機皮膜表面に親水性被覆を形成する際に、耐食性有機皮膜中の成分が親水性被覆に溶出してしまい、親水性の低下が避けられなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2000−028291号公報
【特許文献2】特開平06−322552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは、プレコートフィン材等の親水性皮膜を有するアルミニウム合金材において、親水性、耐食性、着色性に優れており、且つ成形加工時においても親水性皮膜にクラックなどが入らず、また加工時に工具摩耗の少ない成形加工性を有する親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物の開発について鋭意検討し、アルミニウム合金材の表面に親水性、耐食性、着色性において優れた性能を発揮する下地皮膜を形成し得る親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物(以下単に「親水性被覆用下地樹脂組成物」という。)を提供することにある。このような親水性被覆用下地樹脂組成物により形成された下地皮膜を有するプレコートフィン材等のアルミニウム合金塗装板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
[1] アルミニウムまたはアルミニウム合金板表面に親水性被覆層を形成する際に、この金属表面と親水性被覆層との間に下地被覆層を形成するため、下地被覆を形成する固形分の組成がエポキシ系樹脂の水性溶液またはエマルションと炭酸ジルコニウム塩からなり、エポキシ系樹脂100重量部に対して該炭酸ジルコニウム塩が金属換算ジルコニウムで0.01〜20重量部であることを特徴とする親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物、
[2] 炭酸ジルコニウム塩が、アルカリ金属を含む炭酸ジルコニウム塩である上記[1]に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物、
[3] エポキシ系樹脂が、ビスフェノール類を反応させて得られるエポキシ樹脂である上記[1]または[2]に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物、
[4] 親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物において、前記樹脂組成物に加え、顔料及び/または染料をエポキシ系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部加えている上記[1]〜[3]のいずれかに記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物、
【0012】
[5] アルミニウムまたはアルミニウム合金板表面の少なくとも一面に、第1層として下地皮膜層、第2層として親水性被覆層からなり、第1層として請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物を用いて形成され、該下地被覆層の皮膜量が50〜10000mg/mであり、第2層としての親水性被覆層は、該親水性被覆が有機系親水性成分および無機系親水性成分のうちの少なくとも1種類以上を含有する皮膜層からなり、該親水性被覆量が、30〜5000mg/mであることを特徴とする親水性アルミニウム塗装板、
[6] 親水性被覆アルミニウム板において、親水性被覆層の表面にさらに水溶性潤滑皮膜層が形成されており、該潤滑皮膜層の被覆量が10〜5000mg/mである上記[5]に記載の親水性被覆アルミニウム板、
【0013】
[7] アルミニウムまたはアルミニウム合金板表面を脱脂処理し、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物を塗布し、焼付を行い、さらに親水性被覆を行うことを特徴とする親水性被覆アルミニウムまたはアルミニウム合金板の製造方法、
[8] 親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物を50〜10000mg/mの厚さで塗布し、100〜300℃、1〜60秒で焼付けることからなる上記[7]に記載の親水性被覆アルミニウムまたはアルミニウム合金板の製造方法、および
[9] 上記[5]または[6]に記載の親水性被覆アルミニウム板を用いることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材、を開発することにより上記の課題を解決した。
【発明の効果】
【0014】
本発明は空調機の熱交換器などに用いられる親水性被覆アルミニウム合金材において、アルミニウム金属表面と親水性被覆層の間に両者の結合を強化し、親水性、耐食性、着色性、成形加工性を改善できる下地皮膜を形成させるために好適な下地被覆用樹脂組成物を開発した。
該下地被覆用樹脂組成物は脱脂したアルミニウム合金材に直接塗布、乾燥・焼き付けする簡単な操作で下地被覆層を形成することができ、その上に従来の親水性被覆層を形成することにより、親水性、耐食性、着色性、成形加工性に優れた親水性アルミニウム塗装板を製造することができる。特にCr系化合物を全く使用していないため環境汚染の危険は全くなく、また工具摩耗も小さくて済む利点がある。
この親水性アルミニウム塗装板は、塗装厚みが薄くとも意匠性(色調、色調持続性)に優れ、また熱交換器などへの成形加工時においても親水被覆層が剥離、ひび割れなどが起きにくく、高級感の優れた空調機熱交換器などの製造に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の対象とする親水性アルミニウム合金塗装板は、アルミニウム合金板の表面に親水層を形成したプレコートアルミニウム合金塗装板であり、親水層が下地被覆層と親水被覆層の2層からなり、この下地被覆を新規な下地樹脂組成物を用いて行うことにより親水性、耐食性、着色性、成形加工性に優れた親水性アルミニウム合金塗装板を得ることに成功したものである。
【0016】
本発明において対象とするアルミニウム合金板は、通常熱交換器用として用いられているアルミニウム合金板であれば脱脂してそのまま使用出来る。
【0017】
本発明において、下地樹脂組成物に用いる有機樹脂としては、水溶性エポキシ系樹脂の水溶液及びエポキシ系樹脂の水性エマルションが挙げられる。エポキシ系樹脂は、可とう性、耐水性、耐食性、塗膜密着性、着色性のバランスが良いので好ましい。エポキシ系樹脂としては、例えばビスフェノール型、ノボラック型、グリシジルエーエル型などの環状脂肪族型、非環状脂肪族型などあるが、特に限定されるものではない。
【0018】
該エポキシ樹脂のエポキシ当量としては、特に制限されるものではないが、エマルジョン化が容易で、かつこれを塗料として用いた際の防食性に優れる点から、150〜3000g/eqであることが好ましく、160〜1800g/eqであることが特に好ましい。これらの中でも、工業的汎用性及び耐食性が良好である点から、特にビスフェノール類を反応させて得られるエポキシ樹脂で好ましい。前記ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA等が挙げられ、1種のみを単独で使用しても、2種以上の混合物として使用しても良い。この中でも、工業的汎用性から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。水溶性の樹脂であれば水溶液として使用する。
【0019】
本発明において、下地樹脂組成物を構成する炭酸ジルコニウム塩(以下ジルコニウムを「Zr]と記載することがある。)としては、炭酸Zr塩を添加することにより、塗膜形成時にZr化合物がアルミニウム合金表面からエポキシ樹脂と架橋し、アルミニウム合金界面付近にZr濃度が濃い濃度勾配を持つ皮膜を形成する。アルミニウム合金界面以外にも下地皮膜中にはZrが多く存在することから、前述の下地皮膜表面に親水性被覆を形成する際、下地皮膜中のエポキシ樹脂の未反応成分が移行するのをZr塩がブロックする。よって、親水性皮膜を形成しても、優れた親水性を保持でき、その上、Zr化合物の添加による緻密な皮膜構造により、塗膜の透水率があがり、更に優れた耐食性を示す。
【0020】
そのうえ、炭酸Zr塩は、顔料等の分散に用いられる界面活性剤に悪影響を起こさないため顔料等の分散性に優れる。
炭酸Zr塩としては、特に制限はない。例えば、炭酸Zrアンモニウム、炭酸Zrカリウム、炭酸Zrナトリウム、炭酸Zrルビシウム等の炭酸Zr塩などが挙げられる。
上記の中でも、樹脂組成物中における塗装環境、工業汎用性の点から、炭酸Zrカリウムが特に好ましい。
【0021】
エポキシ系樹脂及び炭酸Zr塩の添加割合は、エポキシ系樹脂100重量部に対して、金属換算にてZr元素が0.01〜20重量部、好ましくは、0.05〜10重量部である。Zr元素が0.01重量部より低いと、下地皮膜中の未架橋成分と推測されるものが移行するのをブロックすることができなくなり、親水性の低下をまねく。反対に20重量部より多く配合しても、その効果は飽和し、不経済である。
【0022】
また、下地樹脂組成物に顔料または染料を含有させることにより、意匠性を付与することができる。顔料及び染料を下地樹脂組成物に含有させた下地皮膜を形成した後、その表面に親水性皮膜を形成することにより、成形加工後に顔料が表面に露出しなく、結露水や水滴が付着しても顔料の溶出が抑えることが可能である。顔料または染料は、塗料分野で汎用に使用されているものであれば特に限定されない。顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、酸化鉄、カーボンブラック等の無機顔料、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾール系、ペリレン系、ペリノン系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系等の有機顔料が挙げられる。
【0023】
また、染料としては直接染料や反応染料、酸性染料、カチオン染料、バット染料、媒染染料等が挙げられる。上記の顔料または染料は、単独もしくは2種類以上が含有されていても差し支えない。また、顔料または染料の配合量は、エポキシ系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部であり、好ましくは、0.5〜5重量部である。顔料の配合量が10重量部を超えると、皮膜成分のエポキシ系樹脂が十分にする皮膜形成できず、皮膜欠陥を生み、耐食性を低下してしまい、フィン表面に結露した水に顔料が溶け出してしまい、0.1重量部未満であると、皮膜が十分に着色しない。
【0024】
また固形分としてエポキシ樹脂を使用しているため、顔料や染料と下地被覆用樹脂組成物間の反応や樹脂成分との反応による親水性劣化の危険がなく、また顔料や染料の溶解流出の問題もない。従って意匠性を付与するため、必要に応じて顔料及び染料を使用することができる。また目的に応じて貯蔵中の腐敗防止を目的に有機銅系、有機ヨード系、イミダゾール系、イソチアゾリン系、ピリチオン系、トリアジン系、銀系等の抗菌・抗黴作用を有する防腐剤や、タンニン酸、没食子酸、フイチン酸、ホスフィン酸等の防錆剤や、ポリアルコールのアルキルエステル類、ポリエチレンオキサイド縮合物等のレベリング剤や、相溶性を損なわない範囲で添加されるポリアクリルアミド、ポリビニルアセトアミド等の充填剤や、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩系等の界面活性剤、酸化亜鉛、酸化シリコン(シリカ)、酸化アルミ(アルミナ)、酸化チタン等の無機酸化物等を添加することができる。
【0025】
そして、本発明の親水性被覆のための親水性被覆用下地樹脂組成物をアルミニウム合金板の表面に塗布する方法については、特に制限はない。
例えば、本発明の親水性被覆用下地樹脂組成物は、熱交換器用アルミニウム合金板の表面を脱脂処理して乾燥したのち、その表面に本樹脂組成物を塗布し、焼き付けて皮膜を形成する。
【0026】
塗布方法としては、例えば、ロールスクイズ法、ケミコーター法、ロールコーター法、エアナイフ法、浸漬法、スプレー法、静電塗装法等があげられ、乾燥・焼付は一般的な加熱法、誘電加熱法などにより行うことができる。これらの方法のうち皮膜の均一性、生産性からロールコーター法が好ましい。そして、ロールコーター法としては、塗布量管理に便利なグラビアロールを用いる方法や、厚塗りするのに便利なナチュラルコート方式や、塗布面を綺麗に仕上げるのに有利なリバースコート方式等を採用することができる。塗装形成する際に行う加熱条件は、焼付け温度(到達表面温度)は100〜300℃、好ましくは、140〜280℃である。焼付時間は1〜60秒で行うことが好ましい。
【0027】
塗装における焼付け温度が低かったり、焼付け時間が短かったりすると、皮膜が十分に硬化・形成されず、塗膜密着性や耐食性の低下に繋がる。反対に、塗装における焼付け温度が高かったり、焼付け温度が長かったりすると、エポキシ系樹脂がオーバーベークとなり、塗膜変色や成形性(切断時における塗膜のクラックや剥離)の劣化が発生させる。
【0028】
本発明のアルミニウム合金塗装板は、上記親水性被覆用下地樹脂組成物を塗布した後、親水性表面処理剤を塗布、焼付けを行い、その表面に親水性被覆層を形成することにより得られる。即ち第1層として、アルカリ金属を含有する炭酸Zr塩を含有し、エポキシ系樹脂を主成分する親水性被覆用下地樹脂組成物皮膜を50〜10000mg/mの厚さで形成し、更に第2層として、親水性被覆層を30〜5000mg/m形成する。第1層には、上記成分の他に顔料及び染料を含有することにより、意匠性を付与することができる。
【0029】
第1層の皮膜量としては、50〜10000mg/mである。第1層の皮膜量が50mg/m未満であると、十分な耐食性が得られない。また、10000mgを超えても、耐食性が飽和し、不経済である。好ましくは、100〜7000mg/m、より好ましくは200〜5000mg/m程度であるのがよい。第2層の膜厚としては、30〜5000mg/mである。第2層の膜厚が30mg/m未満であると、下地皮膜層を十分に覆うことができず、十分な親水性が得られない。また、5000mg/mを超えても、親水性が飽和し、不経済である。好ましくは、100〜3000mg/m、より好ましくは300〜2000mg/m程度であるのがよい。
【0030】
第1層の下地皮膜層を形成する方法としては、親水性被覆用下地樹脂組成物を用い、塗布・焼付けすることが挙げられる。下地皮膜層を形成したのち、第2層の親水性処理剤を塗布・焼付けすることが挙げられる。第1層の形成方法は、前述した方法で構わない。
【0031】
第2層の親水性被覆層としては、親水性を有するものであれば特に制限はなく、有機系親水性成分、無機系親水性成分を少なくともいずれか1種類以上を含有することにより、表面に親水性を付与させる。
親水性被覆層が有機系親水性成分であるときは、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂、アクリルアミド、アクリル酸あるいはアクリルエステルといった(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が適しており、これらの2種以上の混合物、共重合体であってもよい。
これらの基剤樹脂は自己架橋型のものであってもよく、必要に応じヘキサブチロールメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミン等のメラミン化合物、エポキシ基を有する化合物、ブチロール基を付加させた尿素あるいはイソシアナート基を有する化合物といった硬化剤が添加されていてもよい。
【0032】
親水性被覆層が無機系親水性成分であるときは、水ガラスあるいはコロイダルシリカ等などが挙げられ、皮膜性状を調整するために、有機系親水性成分から選ばれる1種以上の成分との複合系としてもよい。第2層の形成方法は、前述した方法で構わない。
【0033】
更に、上記の親水性被覆層の表面に水溶性潤滑層を形成するときは、その潤滑性によりアルミニウム合金板のプレス加工を行なった場合に、成形性がさらに向上する。該水溶性潤滑層としては、水溶性であり且つ優れた潤滑性を有するものであれば、特に限定するものではない。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシエチレン系物質等が挙げられる。
【0034】
なお、水溶性潤滑層を形成する方法は、親水性被覆層を形成したのち、水溶性潤滑剤を含有する処理剤を塗布・焼付けすることにより、水溶性潤滑層を形成する方法や親水性被覆層を形成する際、水溶性潤滑剤を含有させた親水性処理剤を塗布する方法などが挙げられるが、特に限定するものではない。
【0035】
水溶性潤滑層の皮膜量としては、10〜5000mg/mである。潤滑の皮膜量が10mg/m未満であると、皮膜が十分に形成されず、成形性向上の効果が見られない。また、5000mg/mを超えても、それ以上の成形性向上が期待できず不経済である。好ましくは、50〜2000mg/m、より好ましくは100〜1000mg/m程度であるのがよい。
【0036】
このようにして得られるアルミニウム合金塗装板は、その表面にプレス成形加工用の揮発性プレス油を塗布してからスリット加工やコルゲート加工等の成形加工を施すことにより、所望のフィン形状からなる熱交換器用フィン材となる。このようなプレコートアルミニウム合金フィン材は、例えば空調機用熱交換器のフィン材として好適に用いられるが、フィン材間の結露を防止する用途であれば、空調機用熱交換器に限定されるものではない
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
[測定方法]
(1)耐食性:JIS Z2371に基づき、SST480時間行い、レイティングナンバー(L.N.)により耐食性を測定した。
(2)親水性:ゴニオメーターで純水の接触角を測定した。
◎ :接触角が10°以下
○ :接触角が10゜を越え、20°以下
△ :接触角が20゜を越え、30゜以下
× :接触角が30゜を越える
【0038】
(3)意匠性:−色調−
着色性所定の下地処理及び所定の塗料組成物で塗装したアルミニウム合金板の着色状態を色差計にてE値を測定し、顔料を加えない同様な塗装板との差をΔE*とし、着色の度合いとした。◎および○を、性能を満足する合格とした。
◎ :7≦ΔE*
○ :5<ΔE*≦7
△ :3<ΔE*≦5
× : ΔE*≦3
【0039】
(4)意匠性:−色調持続性−
顔料を分散した親水性被覆アルミニウム合金板の親水性被覆面を外側にして180°折り曲げ、折り曲げた親水性被覆アルミニウム合金板を25℃の水に240時間浸漬させ、浸漬前後の色差をΔE*の減少量にて測定した。
◎ : ΔE*≦0.5
○ :0.5<ΔE*≦1
△ : 1<ΔE*≦3
× : 3<ΔE*
【0040】
(5)成形性:実機フィンプレスにてドローレス成形を実施した状況で評価した。
(成形条件)
揮発性プレスオイル:AF−2C(出光興産)を使用し、しごき率は58%、成形スピードは250spmで実施した。
(評価)
◎ :非常に良好
○ :良好
△ :カラー部内面にキズ発生
× :不良(座屈、カラー飛び発生)
【0041】
(6)塗装環境: 下地樹脂組成物をロールコーターにて塗布・焼付けを行なった際、臭気が発生するか、官能試験にて行なった。
○ :臭気 なし
△ :臭気 若干あり
× :臭気 あり
【0042】
〔実施例1〜26〕
表1および表2に示すエポキシ系樹脂100重量部、アルカリ金属を含有する炭酸Zr塩として炭酸Zrカリウム塩(実施例5は炭酸Zrアンモニウム塩を使用)を表1〜2に示す量、表1〜2に示すように顔料を配合した親水性被覆用下地樹脂組成物を調製した。
得られた各実施例及び比較例の樹脂組成物について、アルミニウム合金板(1100−H24材、0.100mm厚さ)を弱アルカリ脱脂、水洗、乾燥後、親水性被覆用下地樹脂組成物をロールコーターにて塗布し、表面温度(PMT)250℃で20秒焼付けし、所定の皮膜量の下地被覆アルミニウム合金板を得た。
【0043】
得られた下地被覆アルミニウム合金板に表1〜2に示す各種親水性処理剤をロールコーターにて塗布・焼付けし、親水性被覆アルミニウム合金板を得た。
得られた親水性被覆アルミニウム合金板について、耐食性、親水性、意匠性(色調、色調持続性)、成形性、成形性を以下の方法で測定した。その結果を、表3に示す。また水溶性潤滑層については、所定量のポリエチレングリコール(PEG)を混合した親水性処理剤をロールコーターにて塗布・焼付けを行い、親水性被覆層、水溶性潤滑層を同時に形成した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
[比較例1〜6]
比較例1及び比較例2は塗布型クロメート処理(Cr=10mg/m)を行った。比較例1はクロメート処理のみであり塗布型クロメートしか存在しないので、親水性、成形性を満足することは出来なかった。比較例2は、塗布型クロメート層にアクリル+ポリビニルアルコール系親水性被覆層を形成しているため、高い耐食性を満足することは出来なった。比較例3、4は、エポキシ系樹脂の代わりにウレタン系樹脂を使用しているため、耐食性・親水性とも満足することは出来なかった。比較例5、6は、炭酸Zr塩を含んでいないか、または含んでいても所定量より少なかったため、親水性を満足することは出来なかった。これらの配合比を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すように本発明例は、いずれも耐食性、親水性、成形性に不具合は見られず、十分に満足している。これらの中でも、実施例5以外の本発明例は、炭酸Zrカリウム塩を用いているため、塗装環境にも優れている。
上記の発明例の中でも、顔料を含んでいるものは、意匠性を付与している。更に、本発明例20〜22は、親水性被覆層の上にポリエチレングリコール層を形成しているので、更に成形性が優れている。
【0050】
実施例23は、顔料が少なかったため、意匠性(着色)を十分満足することは出来なかった。実施例26は、親水性被覆層の被覆量が少なかったため、親水性を満足することは出来なかった。実施例27は、親水性処理剤に顔料を入れたため、加工したサンプルでは、顔料が溶出してしまい、色調を維持することが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の下地皮膜を形成させるために好適な下地被覆用樹脂組成物を用いた親水性アルミニウム塗装板は、耐食性、親水性に優れ、塗装厚みが薄くとも意匠性(色調、色調持続性)に優れ、また熱交換器などへの成形加工時においても親水被覆層が剥離、ひび割れなどが起きにくく、加工時において特に着色することにより高級感の優れた空調機熱交換器などの製造に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金板表面に親水性被覆層を形成する際に、この金属表面と親水性被覆層との間に下地被覆層を形成するため、下地被覆を形成する固形分の組成がエポキシ系樹脂の水性溶液またはエマルションと炭酸ジルコニウム塩からなり、エポキシ系樹脂100重量部に対して該炭酸ジルコニウム塩が金属換算ジルコニウムで0.01〜20重量部であることを特徴とする親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
炭酸ジルコニウム塩が、アルカリ金属を含む炭酸ジルコニウム塩である請求項1に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ系樹脂が、ビスフェノール類を反応させて得られるエポキシ樹脂である請求項1または2に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物において、前記樹脂組成物に加え、顔料及び/または染料をエポキシ系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部加えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物。
【請求項5】
アルミニウムまたはアルミニウム合金板表面の少なくとも一面に、第1層として下地皮膜層、第2層として親水性被覆層からなり、第1層として請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物を用いて形成され、該下地被覆層の皮膜量が50〜10000mg/mであり、第2層としての親水性被覆層は、該親水性被覆が有機系親水性成分および無機系親水性成分のうちの少なくとも1種類以上を含有する皮膜層からなり、該親水性被覆量が、30〜5000mg/mであることを特徴とする親水性アルミニウム塗装板。
【請求項6】
親水性被覆アルミニウム板において、親水性被覆層の表面にさらに水溶性潤滑皮膜層が形成されており、該潤滑皮膜層の被覆量が10〜5000mg/mである請求項5に記載の親水性被覆アルミニウム板。
【請求項7】
アルミニウムまたはアルミニウム合金板表面を脱脂処理し、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物を塗布し、焼付を行い、さらに親水性被覆を行うことを特徴とする親水性被覆アルミニウムまたはアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項8】
親水性被覆のための下地被覆用樹脂組成物を50〜10000mg/mの厚さで塗布し、100〜300℃、1〜60秒で焼付けることからなる請求項7に記載の親水性被覆アルミニウムまたはアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項9】
請求項5または6に記載の親水性被覆アルミニウム板を用いることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材。

【公開番号】特開2006−348238(P2006−348238A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179307(P2005−179307)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】