説明

触媒装置

【課題】大きな電力や大きな設置スペースを必要とせず排気ガス浄化触媒を早期に活性化できる触媒装置を提供すること。
【解決手段】触媒装置は、内燃機関の排気ガス流路50に設置された触媒ケース40と、その内部に収容された光発熱体20と、排気ガス浄化触媒30と、光発熱体10に光を照射する光源10を備える。触媒ケース40の内面には鏡面加工が施されており、光源10からの光を効率よく光発熱体20に伝達できる。光発熱体20と排気ガス浄化触媒30は、一つのハニカム担体につき光発熱材コート層と触媒コート層を塗り分けることによって、一体的に構成されている。光発熱体20が排気ガス流路40の上流側に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒装置に係り、更に詳細には、光発熱材を利用した排気ガス浄化触媒装置であって、排気ガス浄化触媒が早期に活性化し得る触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動直後の排ガス浄化では、触媒層温度が活性化温度に到達しておらず浄化には十分でないため、電気加熱などの外部デバイスによる早期活性化が検討されてきた。しかし、電気加熱やマイクロ波加熱にはかなりの電力を消費するため、他の電気機器類が稼働しなくなる問題が懸念されていた。
そこで、従来は、触媒を加熱するためのヒーター用バッテリーをメインバッテリーとは別に設け、オルタネーターや充電回路を介するシステムが提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−50137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、かかる従来の触媒活性化システムにおいては、かなりの電力を要求され、しかも触媒の早期活性化のためにはそれ専用のバッテリーなどが必要となり、更には設置スペースが大きくなってしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大きな電力や大きな設置スペースを必要とせず排気ガス浄化触媒を早期に活性化できる触媒装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、光発熱材と光源を配設することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の触媒装置は、光源と、この光源からの照射光を受ける光発熱材と、排気ガス浄化触媒とを備えた排気ガス浄化装置である。
上記光発熱材、上記光源及び上記排気ガス浄化触媒が、同一の排気ガス流れ中に配置されていることを特徴とする。
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光発熱材と光源を配設することとしたため、大きな電力や大きな設置スペースを必要とせず排気ガス浄化触媒を早期に活性化できる触媒装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の触媒装置につき詳細に説明する。
上述の如く、本発明の触媒装置は、光源と、光発熱材と、排気ガス浄化触媒を備える。
ここで、光発熱材は、光を照射されることにより発熱する性質を有するが、本発明の触媒装置では、この熱が排気ガス浄化触媒に伝達され、その触媒成分を昇温し早期に活性化させる。
【0009】
このように、光発熱材は光照射により発熱するが、これは、光照射により光発熱材に生ずる正孔と電子が再結合することにより起こるものである。
なお、半導体金属酸化物では、バンドギャップエネルギー以上の光を吸収すると、荷電子帯の電子が伝導帯へ励起することにより正孔が生ずる。通常、これらが光触媒として機能する場合には、電子と正孔によりヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドアニオンなどの活性種が生成する。これらの活性種は極めて高い酸化力を有し、有機物を容易に酸化分解することができ、いわゆる光触媒の機能を発現する。
これに対し、本発明における光発熱材は発熱はするものの、光触媒のように高い酸化力を発現することなどは必須の事項ではない。
【0010】
光発熱材の具体例としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、タングステン(W)又は銅(Cu)の少なくとも1種の元素を含む酸化物、硫化物又は窒化物を挙げることができる。
また、これらの元素又は元素の組み合わせに係る酸化物、硫化物又は窒化物は、その2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
なお、光発熱材の粒子径は、特に限定されるものではなないが、平均粒子径で1μm以下にすることが好ましい。粒子径が小さいほど発熱量が大きい傾向にあり、ある程度の大きさに制御することにより、排気ガス浄化触媒の早期活性化を促進することができる。
【0012】
次に、光源としては、光発熱材を発熱させることができる波長帯域の光を照射できれば十分であるが、電子と正孔の再結合による発熱と、赤外線の振動活性による加熱を考慮すると、紫外〜赤外領域、具体的には0.2〜1000μmの波長帯域の光を照射できることが好ましい。
代表的には、キセノンランプ、ハロゲンランプ及びLEDランプなどを光源として用いることができる。
【0013】
次に、排気ガス浄化触媒としては、特に限定されるものではなく、内燃機関の排気ガスを浄化、例えば炭化水素類(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化したり、窒素酸化物(NOx)を還元できれば十分であり、従来公知のものを用いることができる。
具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)などの貴金属や、CeO、ZrOなどの助触媒や、アルミナやシリカなどの高比表面積基材、ゼオライトなどの吸着材などを含有するものがある。
また、機能的には、いわゆる三元触媒、NOx吸収還元触媒、HCトラップ触媒などを例示することができる。
【0014】
かかる排気ガス浄化触媒については、各種成分を含む触媒をペレット状に形成してもよいが、自動車などの内燃機関用途においては、ハニカム状モノリス担体などの一体構造型担体に担持、具体的には、各種成分を含む触媒層をコートして用いることが好ましい。
ハニカム状モノリス担体としては、コージェライトやシリカなどのセラミックス製の担体や、ステンレス製のメタル担体などを挙げることができる。
【0015】
なお、上述の光発熱材は、光発熱材粒子を用いて成形したり、適当な容器に充填することのより一体化し、光発熱体とすることができるが、上述のような一体構造型担体に担持し、これを光発熱体とすることもできる。
【0016】
次に、光発熱材と排気ガス浄化触媒との配置態様につき説明する。
本発明において、基本的には、光発熱材と排気ガス浄化触媒は、光発熱材が発生した熱を排気ガス浄化触媒に伝達できる同一の排気ガス流れ中にあれば十分であるが、その伝達効率を考慮すると、光発熱材と排気ガス浄化触媒の触媒成分とが近接ないしは接触していることが好ましい。
【0017】
上述の如く、本発明の触媒装置では、原則として、光源と、光発熱材と、排気ガス浄化触媒が同一の排気ガス流れ中に配置されるが、光源は、光発熱材に照射光を伝達できる位置にあればよく、必ずしも排気ガス流に曝される必要はない。
なお、本発明において、「同一の排気ガス流」とは、起源が同一である排気ガス流をいい、排気ガス流れが分岐した場合は、本流のみならず分岐した流れも含まれる。
【0018】
配置態様の一例としては、まず、排気ガス浄化触媒がハニカム担体に触媒層をコートして形成される場合、この触媒層に光発熱材が含まれている配置を挙げることができる。
具体的には、排気ガス浄化触媒の各種成分と光発熱材を混合してスラリー化し、この混合スラリーをハニカム担体にコートし、乾燥や焼成を行い、光発熱材を含む触媒層を形成すればよい。また、触媒層を形成後に、光発熱材を含む液体を触媒層に含浸させてもよい。
【0019】
配置態様の他の例としては、光発熱材を含むハニカム担体に排気ガス浄化触媒の触媒層を形成した配置を挙げることができる。
例えば、ハニカム担体に光発熱材のコート層を形成しその上に排気ガス浄化触媒の触媒層を形成する場合の他、触媒層の上層及び/又は下層に光発熱材のコート層を形成すればよい。
また、表面近傍に光発熱材を埋設したハニカム担体を作製し、かかるハニカム担体に排気ガス浄化触媒の触媒層をコートしてもよく、更には、光発熱材とセラミックスなどを混合・成形・焼成してハニカム担体を作製し、かかる光発熱材含有ハニカム担体に触媒層をコートしてもよい。
【0020】
配置態様の更に他の例としては、光発熱材を用いて上述のように光発熱体を形成し、この光発熱体と排気ガス浄化触媒とを近接ないしは接触させた配置を挙げることができる。
例えば、ハニカム担体に光発熱材を担持して光発熱体を構成し、この光発熱体に近接ないしは接触させて、触媒コート層を有するハニカム担体(排気ガス浄化触媒)を配置すればよい。
【0021】
このような配置態様の場合、排気ガス流路の上流側に光発熱体を配置し、その下流側に排気ガス浄化触媒を配置することができる。
このような配置にすれば、光発熱材の熱が排ガス流によって下流側の排気ガス浄化触媒に伝搬され易くなり、熱伝達効率が向上する。
この一方、排気ガス流路の下流側に光発熱体を配置し、その上流側に排気ガス浄化触媒を配置してもよい。
かかる配置態様によれば、温度が上昇し難い排気ガス浄化触媒の下流側部位を効果的に活性化させることができ、触媒全体を均一的に活性化させ易くなる。
【0022】
なお、上述のような排気上流側又は下流側に光発熱体、下流側又は上流側に排気ガス浄化触媒を配置する配置態様に類した配置は、一つのハニカム担体に光発熱材のコート層と排気ガス浄化触媒の触媒層を塗り分けることによっても実現できる。
即ち、例えば、ハニカム担体の排気上流側の部分に光発熱材コート層を形成し、その下流側に触媒コート層を形成すればよい。
なお、この場合、光発熱材コート層の長さは、代表的にはハニカム担体の上流側端部から2〜5cm程度で十分であり、この程度の長さがあれば、エンジン始動直後の排気ガス浄化触媒を、光発熱材の発熱により早期に活性化することが可能である。
【0023】
本発明の触媒装置においては、内面が光反射性を有するケースであって、上述の光発熱材又は光発熱体と排気ガス浄化触媒を収容するケースを設けることができる。
このように、具体的には、内面が鏡面加工されているケース内に光発熱材や光発熱体と排気ガス浄化触媒を収容すれば、光源からの光が効率良く光発熱材又は光発熱体に伝達され、排気ガス浄化触媒の早期活性化を促進できる。
【0024】
なお、本発明は、排気ガス浄化触媒の早期活性化を実現するものであるため、排気ガス浄化触媒が活性化する前に、光発熱材を発熱させることが肝要である。
よって、例えば、温度センサーや空燃比(A/F)センサなどの活性化検知センサを設置し、この活性化検知センサからの信号に応じて、光源から光発熱材に光を照射すれば、本発明の触媒装置による排気ガス浄化触媒の早期活性化が、効果的に享有できることになる。
【0025】
図1に、本発明の触媒装置の一実施形態を示す。
同図において、この触媒装置は、内燃機関の排気ガス流路50に設置された触媒ケース40と、その内部に収容された光発熱体20と、排気ガス浄化触媒30と、光発熱体10に光を照射する光源10を備えている。また、矢印Fは排気ガスの流れ方向を示している。
【0026】
本実施形態において、触媒ケース40の内面には鏡面加工が施されており、光源10からの光を効率よく光発熱体20に伝達できるようになっている。また、光源10の電源は機関、具体的には自動車に搭載されたバッテリーに接続されている(図示せず)。
【0027】
また、本実施形態において、光発熱体20と排気ガス浄化触媒30は、一つのハニカム担体につき光発熱材コート層と触媒コート層を塗り分けることによって、一体的に構成されている。また、光発熱体20が排気ガス流路40の上流側に配設されており、光発熱体20から排気ガス浄化触媒30への熱伝達が良好なものとなっている。
更に、本実施形態においては、排気ガス浄化触媒30の温度を測定する温度センサー(図示せず)が設置されており、触媒温度を測定できるようになっている。測定した触媒温度データは、図示しない演算装置に送信されるようになっており、予め演算装置に格納されている触媒活性化温度データと触媒温度データとを対比することにより、光源10からの光照射を制御できる構成となっている。
【0028】
以上のような構成を有する本実施形態の触媒装置においては、光発熱材20のコート幅Wを2cm程度とし、エンジン始動時に光源10から光を照射すれば、排気ガス浄化触媒30を早期に活性化することができる。
また、温度センサーからの触媒温度データに応じて、光源10からの光照射をON・OFFするなど制御できるので、排気ガス浄化触媒30の活性化前に効果的に光照射を実行できる。
【0029】
図2は、本発明の触媒装置の多の実施形態を示す断面図である。
同図に示すように、本実施形態の触媒装置は、図1に示した実施形態に対し、光発熱材20と排気ガス浄化触媒30の配置関係が排気ガス流Fの方向に関して逆転しているが、それ以外の構成は同一である。
本実施形態の触媒装置によれば、温度が上昇し難い排気ガス浄化触媒30の下流側部位を効果的に活性化させることができ、触媒全体を均一的に活性化させ易くなる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
内径3mmの直管の一部に縦40mm、横20mmのフラット部を設けたパイレックス(登録商標)ガラス製の反応管に、Pt1質量%担持Alと平均粒子径520nmのFeを質量比1:1で混合して成る触媒粉末を充填し、触媒層を形成した。この触媒層にキセノンランプ(出力1300W;100V×13A)からの光を20cmの距離から照射し、触媒層の温度の経時変化を測定した。得られた結果を図3に示す。なお、触媒層の温度は、反応管上部からシース型熱伝対を触媒層に直接挿入して測定した。
また、反応管にCOとOガス(体積比1:2.4)を流通させ、キセノンランプの照射によるCO酸化性能の経時変化を測定した。得られた結果を図2に併記する。
【0032】
(比較例2)
触媒粉末をPt1質量%担持Alとし、Feを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。得られた結果を図2に示す。
【0033】
図2において、照射時間と触媒層温度との関係から算出すると、光照射により昇温した場合の比較例1の触媒層の発熱速度は87.6℃/minであった。一方、実施例1の触媒層の発熱温度は461.4℃に達した。
また、実施例1と比較例1のCO生成率の対比から、キセノンランプの照射のみの加熱によって、コールドエミッションが半減できたことも分かる。
【0034】
(実施例3)
触媒粉末の代わりにFeなど下記の表1に示す各種の光発熱材を用い、キセノンランプの照射時間を20秒間とした以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、各種の光発熱材の発熱温度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の触媒装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の触媒装置の多の実施形態を示す断面図である。
【図3】光照射による触媒層温度とCO酸化性能の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
10 光源
20 光発熱体
30 排気ガス浄化触媒
40 触媒ケース
50 排気ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、この光源からの照射光を受ける光発熱材と、排気ガス浄化触媒とを備えた排気ガス浄化装置であって、
上記光発熱材、上記光源及び上記排気ガス浄化触媒が、同一の排気ガス流れ中に配置されていることを特徴とする触媒装置。
【請求項2】
上記排気ガス浄化触媒が一体構造型担体に触媒層を形成して成り、この触媒層に上記光発熱材が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の触媒装置。
【請求項3】
上記排気ガス浄化触媒が一体構造型担体に触媒層を形成して成り、この一体構造型担体に上記光発熱材が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒装置。
【請求項4】
上記光発熱材と上記排気ガス浄化触媒を収容するケースを有し、このケースの内面が光反射性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の触媒装置。
【請求項5】
上記光発熱材を含有する光発熱体を有し、この光発熱体と上記排気ガス浄化触媒が近接又は接触していることを特徴とする請求項1に記載の触媒装置。
【請求項6】
上記光発熱体が、上記排気ガス浄化触媒の排気ガス上流側に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の触媒装置。
【請求項7】
上記光発熱体と上記排気ガス浄化触媒を収容するケースを有し、このケースの内面が光反射性を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の触媒装置。
【請求項8】
上記排気ガス浄化触媒の活性化を検知する活性化検知センサーを有し、この活性化検知センサーから活性化信号を得る前に、上記光源から光を照射することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の触媒装置。
【請求項9】
上記光発熱材が、鉄、コバルト、バナジウム、セリウム、チタン、タングステン及び銅から成る群より選ばれた少なくとも1種の元素の酸化物、硫化物、窒化物又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の触媒装置。
【請求項10】
上記光発熱材の粒子径が1μm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の触媒装置。
【請求項11】
上記光源からの照射光が、紫外領域から赤外領域の光を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の触媒装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−133332(P2010−133332A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310006(P2008−310006)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】