説明

試料体の加工観察装置及び試料体の観察方法

【課題】 イオンビームにより試料体が切除されて観察断面が更新された際に、観察断面に対する電子ビームの焦点を合わせるようにする。
【解決手段】 試料体200にイオンビームIBを照射して観察断面202を形成するイオン銃102と、イオン銃102により形成された観察断面202に電子ビームEBを照射する電子銃104と、観察断面202と電子ビームEBの焦点との関係を調整する焦点調整部106と、イオン銃102のイオンビームIBの照射による試料体200の切除量に基づいて、焦点調整部106を制御する焦点制御部108と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料体にイオンビームを照射して観察断面を形成するイオン銃を備えた試料体の加工観察装置と、この試料体の加工観察装置を用いた試料体の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料体を観察する電子顕微鏡として、走査型電子顕微鏡(SEM)が知られている。この種の電子顕微鏡で試料体を観察する場合、試料体を所定のステージに載置し、試料体の観察面の傾斜状態に対応して電子ビームの焦点合わせを行うものが一般的である。電子ビームの焦点合わせは、対物レンズの磁界を変化させることにより行われる。
【0003】
ここで、ステージを2軸方向へ回動可能に構成し、試料体の観察面の傾斜状態がこの2軸について変化した場合でも、傾斜状態の変化に追従して電子ビームの焦点合わせを行うようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この電子顕微鏡では、エンコーダにより各軸の傾斜角度を検出して、この傾斜角度に応じて対物レンズの磁界を変化させて、焦点の補正が行われる。
【0004】
また、2つの観察面を有する試料について、各観察面の傾斜に対応して対物レンズの電流を変化させるものも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この電子顕微鏡では、各観察面の傾斜の変更位置を求めて、2つの観察面を1枚の画像で表示させるように対物レンズの電流を変化させる。
【特許文献1】特開2000−100367号公報
【特許文献2】特開2001−210263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、集束イオンビーム加工(FIB)により複数回にわたって観察断面を切除加工し、観察断面を連続的に更新していく観察方法がある。このような観察手法を用いると、試料体の切除方向についての断面の変化を観察することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1と特許文献2のいずれの電子顕微鏡であっても、イオン銃から照射されるイオンビームにより観察断面を切除すると、切除した分だけ電子ビームの焦点がずれることとなる。すなわち、各電子顕微鏡では、試料体の傾斜方向の変化に対応させて焦点補正を行うものであるから、試料体の観察断面が切除されて深さが変化した場合には対応できない。これにより、イオンビームで観察断面を更新するたびに、電子ビームの焦点を合わせる必要が生じ、断面の変化の観察が極めて煩雑なものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、試料体にイオンビームを照射して観察断面を形成するイオン銃と、前記イオン銃により形成された前記観察断面に電子ビームを照射する電子銃と、前記観察断面と前記電子ビームの焦点との関係を調整可能な焦点調整部と、前記イオン銃の前記イオンビームの照射による前記試料体の切除量に基づいて前記焦点調整部を制御する焦点制御部と、を備えたことを特徴とする試料体の加工観察装置が提供される。
【0008】
この試料体の加工観察装置においては、イオン銃によるイオンビームの照射により観察断面が形成されると、焦点制御部により試料体の切除量に基づいて観察断面と電子ビームの焦点の関係が調整される。これにより、イオンビームの照射前に電子ビームの焦点を観察断面に対して合わせておけば、照射後においても電子ビームの焦点が新たな観察断面に対して自動的に合うこととなる。
【0009】
また、本発明によれば、試料体にイオンビームを照射するイオン銃と、前記試料体に電子ビームを照射する電子銃と、を備えた試料体の加工観察装置を用いて試料体を観察するにあたり、前記イオンビームの照射により前記試料体を切除して観察断面を形成する切除工程と、前記切除工程における前記試料体の切除量に基づいて、前記観察断面と前記電子ビームの焦点との関係を調整する焦点調整工程と、前記焦点調整工程の後、前記観察断面に前記電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、を有することを特徴とする試料体の観察方法が提供される。
【0010】
この試料体の観察方法においては、イオン銃によるイオンビームの照射により観察断面が形成されると、この試料体の切除量に基づいて観察断面に対する電子ビームの焦点の関係が調整される。これにより、イオンビームの照射前に電子ビームの焦点を観察断面に対して合わせておけば、照射後においても電子ビームの焦点を新たな観察断面に対して簡単容易に合わせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の試料体の加工観察装置によれば、イオンビームによる試料体の切除に追従させて観察断面に対する電子ビームの焦点が自動的に調整されるので、観察断面が更新されるたびに電子ビームの焦点に関する調整を手動で行う必要がなく、試料体の断面の変化の観察を簡単容易に行うことができる。
また、本発明の試料体の観察方法によれば、イオンビームにより試料体が切除された際に切除量に基づいて観察断面に対する電子ビームの焦点が調整されるので、観察断面が更新された際に的確に電子ビームの焦点に関する調整を行うことができ、試料体の断面の変化の観察に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図面を参照しつつ、本発明の試料体の加工観察装置及び試料体の観察方法の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は本発明の第1の実施形態を示す試料体の加工観察装置の概略構成図である。
【0014】
図1に示すように、試料体の加工観察装置100は、試料体200にイオンビームIBを照射して観察断面202(図2参照)を形成するイオン銃102と、イオン銃102により形成された観察断面202に電子ビームEBを照射する電子銃104と、観察断面202と電子ビームEBの焦点との関係を調整する焦点調整部106と、イオン銃102のイオンビームIBの照射による試料体200の切除量に基づいて、焦点調整部106を制御する焦点制御部108と、を備えている。
【0015】
また、試料体の加工観察装置100は、電子ビームEBの観察断面202への照射により生じた信号を検出する検出部110と、検出部110により検出された信号に基づいて観察断面202の画像を生成する画像生成部112と、を備えている。
【0016】
図1に示すように、イオン銃102と電子銃104は、同一のチャンバー114内に配され、ステージ116に載置された試料体200に向けて、それぞれイオンビームIB及び電子ビームEBを照射する。このステージ116は、いわゆるユーセントリックチルトステージであり、試料体200を所定の範囲内で任意に傾斜させることができる。イオンビームIBの軌跡と電子ビームEBの軌跡は、ステージ116が傾斜(チルト)方向に回動しても、試料体200の高さが変わらないユーセントリック高さ付近で交叉する。すなわち、試料体200の同一箇所について、イオン銃102を用いた加工及び観察と、電子銃104を用いた観察を行うことができる。
【0017】
この試料体の加工観察装置100は、イオン銃102からイオンビームIBを試料体200へ照射することにより、FIBによる試料体200の切除を行う。これにより、試料体200を掘削して観察断面202を形成し、試料体200の内部の断面を露出させることができる。イオンビームIBのイオン源としては、ガリウムイオンが用いられる。尚、本実施形態においては、イオンビームIBの電流値及びサイズを適宜調整し、試料体200の表面に生じた二次電子または二次イオンを検出することにより、走査型イオン顕微鏡(SIM)として観察断面202を二次元的に観察することも可能となっている。
【0018】
また、この試料体の加工観察装置100は、電子銃104から電子ビームEBを試料体200へ照射して、試料体200の表面に生じた二次電子または反射電子を検出部110にて検出することにより、SEMとして観察断面202を二次元的に観察する。すなわち、図1に示すように、試料体の加工観察装置100は、電子ビームEBを試料体200上で細く集束させるための対物レンズ118と、電子ビームEBを観察断面202上で走査させるための偏向レンズ120と、を有している。コイル状の各レンズ118,120にはそれぞれ制御アンプ122,124が接続されており、対物レンズ118の磁界を変化させることで電子ビームEBの焦点が変化する。この対物レンズ118は、後述する補正フォーカス部130により制御され、いわゆるダイナミックフォーカス機能に用いられる。この試料体の加工観察装置100においては、SEMとしての表面観察に加えて、SIMとしての表面観察が可能となっており、作業者の入力操作によってSEMによる観察とSIMによる観察が切り換えられるよう構成されている。
【0019】
図2はイオンビームによる試料体の切除状態を示す説明図である。
図2に示すように、イオン銃102は、試料体200を所定の切除方向へ複数回にわたって連続的に切除する。図1に示すように、試料体の加工観察装置100は、予め設定された切除パターンが記憶された切除制御部126を有し、イオン銃102はこの切除制御部126の切除パターンに基づいて試料体200を切除する。
【0020】
本実施形態においては、試料体200は平板状の半導体装置であり、試料体200を傾斜させて試料体200に垂直な方向からイオンビームIBを照射する。これにより、試料体200の縦方向の断面が観察断面202として露出する。そして、観察断面202を断面と垂直な方向、すなわち奥行き方向に切除していくことにより、試料体200の面内方向の断面変化を観察することができる。切除制御部126には、この観察断面202の縦寸法、横寸法並びに1回ごとの切除厚さdが切除パターンとして記憶されている。
【0021】
焦点制御部108は、この切除パターンから試料体200の切除量に関する情報を取得するパターン取得部128を有する。そして、焦点制御部108は、試料体200が切除される都度に、観察断面202と電子ビームEBの焦点との関係を調整する。
【0022】
ここで、焦点調整部106は、観察断面202の傾斜状態に対応して設定基準点PSを中心として電子ビームEBの焦点合わせを行う補正フォーカス部130を有する。この補正フォーカス部130は、試料体200を傾斜して観察する場合に、電子ビームEBの走査位置によって電子ビームEBの焦点がずれることを抑制するものである。図1及び図2に示すように、電子銃104は鉛直方向下向きに電子ビームEBを照射するよう構成されており、試料体200の観察面が水平でない限りは補正フォーカス部130による焦点補正が必要となる。具体的には、補正フォーカス部130は、偏向レンズ120による電子ビームEBの走査と同期して、対物レンズ118の制御アンプ122に供給される電圧を変化させて、観察断面202の傾斜に対応するよう焦点の補正を行うものである。
【0023】
図1に示すように、焦点制御部108は、イオン銃102のイオンビームIBの照射による試料体200の切除量に基づいて、補正フォーカス部130の設定基準点PSを移動させる焦点基準移動部132を有する。
【0024】
図3は試料体の加工に伴って設定基準点が移動する状態を示す説明図、図4はディスプレイに表示される画像を示し、(a)は初期状態のもの、(b)は初期状態から所定の切除厚さだけ切除された状態のもの、(c)は(b)の状態から所定の切除厚さだけ切除された状態のものを示す。
焦点基準移動部132は、観察断面202が切除されると、図3に示すように同じ高さとなるように設定基準点PSを移動させる。具体的には、焦点基準移動部132は、図4に示すように、設定基準点PSを画像の下側から上側へ移動させていく。ここで、本実施形態においては、画像生成部112により得られる観察断面202の二次元的な画像は、試料体200の表面側が上側に、裏面側が下側に表示されるようになっている。尚、観察断面202の表示態様は、検出部110の設置状態により変化するものであり、例えば、試料体200の裏面側が上側に、表面側が下側に表示される場合もある。
【0025】
以上のように構成された試料体の加工観察装置100を用いた試料体200の観察方法の一例について具体的に説明する。
この試料体200の観察方法は、イオンビームIBの照射により試料体200を切除して観察断面202を形成する切除工程と、切除工程における試料体200の切除量に基づいて、観察断面202と電子ビームEBの焦点との関係を調整する焦点調整工程と、焦点調整工程の後、観察断面202に電子ビームEBを照射する電子ビーム照射工程と、を有する。本実施形態においては、焦点調整工程は、試料体200の切除量に基づいて設定基準点を移動させる焦点基準移動工程を含む。
【0026】
まず、平板状の試料体200を略水平な載置部を有するステージ116に載置する。このとき、観察断面202が形成される試料体200の断面部分がユーセントリック高さとなるよう載置する。そして、図2に示すように、試料体200をイオン銃102により切除可能なようにステージ116を傾斜させる。本実施形態においては、このステージ116の水平方向に対する傾斜角θyは約50°である。
【0027】
試料体200を傾斜させた後、まず、イオン銃102における電流値が比較的大きい状態でイオンビームIBによる試料体200の粗削りを行う。そして、構造解析を行う断面の近傍まで掘り進めた後、電流値を小さくして断面をクリーニングする。これにより、SEMによる観察に適した観察断面202が形成される。
【0028】
この状態で、観察断面202に対する電子ビームEBの焦点の初期調整を行う。ここで、図2に示すように、電子ビームEBは、電子銃104から鉛直方向下向きに照射されることから、観察断面202に対して約40°のなす角で入射する。これにより、観察断面202の縦方向に電子ビームEBを走査させると観察断面202に対して焦点がずれることとなり、前述の補正フォーカス部130による焦点合わせが必要となる。
【0029】
本実施形態においては、図4(a)に示すように、補正フォーカス部130による焦点合わせは、設定基準点PSが画像における最下点となるよう行う。この焦点の初期調整は、オートフォーカス機能を用いて行ってもよいし、作業者が手動で行ってもよい。
【0030】
焦点の初期調整が完了した後、試料体200の観察を開始する。まず、SEMにより初期状態の観察断面202の画像を取得して画像情報を記憶部134に記憶させる。この後、切除制御部126に記憶された切除パターンに基づいてFIBにより観察断面202を切除して更新する(切除工程)。試料体200が傾斜した状態で観察断面202が切除されると、観察断面202と電子銃104の距離が変化し、観察断面202における補正フォーカス部130の設定基準点PSにおいて電子ビームEBの焦点が合わない状態となる。
【0031】
ここで、観察断面202が更新されると、図3に示すように、切除された分だけ焦点基準移動部132により補正フォーカス部130の設定基準点PSが移動する(焦点調整工程)。具体的には、更新前の観察断面202における補正フォーカス部130の設定基準点PSを更新後の観察断面202上に移動させる。すなわち、図4(b)に示すように、観察断面202の画像中では設定基準点PSを上方へ移動させることとなる。これにより、移動後の設定基準点PSにおいては、電子ビームEBの焦点が合った状態となる。
【0032】
ここで、設定基準点PSの移動量δは、FIB加工により試料体200の切除厚さをd、ステージ116の水平方向に対する傾斜角θyとすると、
δ=d/cosθy
の式から算出される。これにより、切除厚さd及び傾斜角θyがともに既知であることから、焦点基準移動部132において更新後の観察断面202において焦点の合う移動量δが正確に算出される。
【0033】
この後、観察断面202に電子ビームEBを照射して(電子ビーム照射工程)、SEMにより初期状態の観察断面202の画像を取得して画像情報を記憶部134に記憶させる。このとき、観察断面202の傾斜角度は、初期状態から変化がないので、補正フォーカス部130による観察断面202の傾斜に対する対物レンズ118への電流の補正割合については特に変更する必要はない。
【0034】
この後、切除パターンに記憶されている回数だけFIBによる観察断面202の切除と、SEMによる観察断面202の画像の取得を繰り返す。すなわち、切除工程、焦点調整工程及び電子ビーム照射工程を、この順で複数回繰り返す。これにより、図4(b)及び図4(c)に示すように、試料体200の切除方向についての断面の変化を観察することができる。この観察断面202の切除動作と画像取得動作は、1回切除する都度に作業者に画像を確認させてから所定の操作入力があった後に切除動作に移行するようにしてもよいし、一括して複数回の切除及び画像の取得を行うようにしてもよい。
尚、ここでは理解を容易にするために、設定基準点PSの移動位置が観察断面202のパターンに一致している例で説明した。しかし、通常は設定基準点PSの移動位置は、切除厚さdや傾斜角θyで決定するので、必ずしも観察断面202のパターンの位置に対応するとは限らない。
【0035】
このように、本実施形態の試料体の加工観察装置100によれば、イオン銃102によるイオンビームIBの照射により観察断面202が形成されると、焦点制御部108により試料体200の切除量に基づいて観察断面202と電子ビームEBの焦点の関係が調整される。これにより、イオンビームIBの照射前に電子ビームEBの焦点を観察断面202に対して合わせておけば、照射後においても電子ビームEBの焦点が新たな観察断面202に対して自動的に合うこととなる。
【0036】
従って、イオンビームIBによる試料体200の切除に追従させて観察断面202に対する電子ビームEBの焦点が自動的に調整されるので、観察断面202が更新されるたびに電子ビームEBの焦点に関する調整を手動で行う必要がなく、試料体200の断面の変化の観察を簡単容易に行うことができる。
【0037】
また、焦点調整を切除量に基づいて行うようにしたので、電子ビームEBを観察断面202に照射して検出部110で検出される信号をもとに調整を行う必要がなく、焦点調整を短時間で行うことができる。また、焦点調整時に電子ビームEBの照射により、観察断面202が変質するおそれもなく、実用に際して極めて有利である。
【0038】
また、既存の補正フォーカス部130の設定基準点PSを移動させるようにしたので、複雑な焦点調整を行う必要がなく、対物レンズ118の制御が簡単容易である。特に、初期状態で設定基準点PSが観察断面202における試料体200の裏面側に位置しているので、切除される都度に設定基準点PSを単に試料体200の表面側に移動させればよいし、試料体200の加工につれて設定基準点PSが観察断面202から外れることもない。すなわち、作業者は、電子ビームEBの焦点が合っているかを画面上で確認することができる。
【0039】
尚、第1の実施形態においては、補正フォーカス部130の設定基準点PSを移動させて焦点調整を行うものを示したが、補正フォーカス部130と独立して対物レンズ118の電流値を変更して焦点調整を行ってもよい。この場合、焦点調整部106は電子ビームEBの焦点位置DFを調整する位置調整部を有し、焦点調整部106はイオン銃102のイオンビームIBの照射による試料体200の切除量に基づいて焦点位置DFを変更する位置変更部を有する。そして、焦点調整工程は、試料体200の切除量に基づいて焦点位置DFを変更する位置変更工程を含む。図5は焦点位置DFを変更して焦点合わせを行う一例の説明図であり、焦点位置DFを鉛直下向きに移動させていくものを示している。
【0040】
また、第1の実施形態においては、焦点制御部108がパターン取得部128を有し試料体200の切除パターンを取得して焦点調整を行うものを示したが、焦点制御部108が、検出部110により検出された信号を、観察断面202の切除前後で比較して、切除量に関する情報を取得する比較取得部を有するものであってもよい。この場合、例えば、画像生成部112により生成された切除前後の画像情報を比較するものであってもよいし、観察断面202から放出された二次電子、反射電子等の量を比較するものであってもよい。ここで、切除前後の画像情報を比較する場合は、生成された画像における観察視野のずれ量により切除量を算出してもよいし、グレースケールのコントラストを比較して切除量を算出するようにしてもよい。
【0041】
ここで、図6及び図7を参照して、観察視野のずれ量により切除量を算出する場合について説明する。図6及び図7は第1の実施形態の変形例を示すものであり、図6は試料体の加工に伴って設定基準点が移動する状態を示す説明図、図7はディスプレイに表示される画像を示し初期状態から所定の切除厚さだけ切除された状態のものである。前述のように、観察断面202の加工が進むにつれて、観察断面202は画像中においては上方へ移動していく(図7参照)。このとき、観察断面202の上方への移動量をpとすると、切除厚さdはp/cosθyであるから、設定基準点PSの補正量δは、
δ=d/cosθy=p/cos2θy
の式で表されることとなる(図6参照)。このように、観察視野のずれ量からも補正量δの算出が可能である。この観察断面202の上方への移動量は、例えば、図7に示すような設定基準点PSの画面上の移動量により取得してもよいし、観察断面202における目印となる部分の画面上の移動量により取得してもよい。
【0042】
ここで、本実施形態においては、電子銃104がステージ116の鉛直上方に配されるとともにイオン銃102がステージ116の斜め上方に配されるものを示したが、例えば、イオン銃102がステージ116の鉛直上方に配され電子銃104がステージ116の斜め上方に配されるものであってもよく、イオン銃102と電子銃104の配置位置は任意である。第1の実施形態では、設定基準点PSの移動量を、ステージ116の水平方向に対する試料体200の傾斜角θyに基づいて求めている。試料体200を傾斜させ、上方から電子ビームEBを照射するタイプの加工観察装置100では試料体200の傾斜角θyがモニタ容易なため便利である。しかし、試料体200を傾斜させず、電子ビームEBをステージ116の斜め上方から照射した場合など、一般的には、観察断面202と電子ビームEBのなす角と切除厚さdに基づいて設定基準点PSの移動量を求めれば良い。
【0043】
図8は本発明の第2の実施形態を示す試料体の加工観察装置の模式的な概略構成図である。
図8に示すように、試料体の加工観察装置300は、試料体200にイオンビームIBを照射して観察断面202を形成するイオン銃102と、イオン銃102により形成された観察断面202に電子ビームEBを照射する電子銃104と、観察断面202と電子ビームEBの焦点との相対位置を調整可能な焦点調整部306と、イオン銃102のイオンビームIBの照射による試料体200の切除量に基づいて、焦点調整部306を制御して相対位置を調整する焦点制御部308と、を備えている。
【0044】
また、試料体の加工観察装置300は、電子ビームEBの観察断面202への照射により生じた信号を検出する検出部110と、検出部110により検出された信号に基づいて観察断面202の画像を生成する画像生成部112と、を備えている。
【0045】
試料体の加工観察装置300においては、ステージ316は、傾斜方向への回動移動に加えて、傾斜面の一方向(以下、X方向という)への移動と、傾斜面にてこれと直交する方向(以下、Y方向という)への移動が許容されている。焦点調整部306は、試料体200が載置されたステージ316を移動させる駆動制御部336を有する。すなわち、駆動制御部336を用いてステージ316をX方向及びY方向へ移動することにより、観察断面202と電子ビームEBの焦点の相対位置が調整される。
【0046】
本実施形態においては、駆動制御部336は、ステージ316側に設けられたピエゾ素子338の通電制御を行う。ここで、図9はステージの概略説明図である。図9に示すように、ステージ316のX方向及びY方向への移動は、それぞれピエゾ素子338の伸張、収縮により実現される。
【0047】
焦点制御部308は、この切除パターンから試料体200の切除量に関する情報を取得するパターン取得部128を有する。そして、焦点制御部308は、試料体200が切除される都度に、切除方向に試料体が切除された分だけ相対位置を調整する。
【0048】
また、焦点制御部308は、イオンビームIBの照射により試料体200が切除されて観察断面202が更新されると、更新前後で観察断面202と電子ビームEBの焦点の相対位置を維持するよう駆動制御部336を用いてステージ316を移動させるステージ移動部340を有する。
【0049】
以上のように構成された試料体の加工観察装置300を用いた試料体200の観察方法の一例について具体的に説明する。
【0050】
この試料体200の観察方法は、イオンビームIBの照射により試料体200を切除して観察断面202を形成する切除工程と、切除工程における試料体200の切除量に基づいて、観察断面202と電子ビームEBの焦点との相対位置を調整する焦点調整工程と、焦点調整工程の後、観察断面202に電子ビームEBを照射する電子ビーム照射工程と、を有する。
【0051】
まず、前記実施形態と同様に、観察断面202が形成される試料体200の断面部分がユーセントリック高さとなるように、試料体200をステージ316に載置する。そして、図9に示すように、試料体200をイオン銃102により切除可能なようにステージ316を傾斜させる。試料体200を傾斜させた後、イオン銃102による粗削り及び断面のクリーニングにより観察断面202を形成する。
【0052】
この状態で、観察断面202に対する電子ビームEBの焦点の初期調整を行う。ここで、電子ビームEBは、電子銃104から鉛直方向下向きに照射されることから、観察断面202に対して約40°のなす角で入射する(図8参照)。これにより、観察断面202の縦方向に電子ビームEBを走査させると観察断面202に対して焦点がずれることとなり、前述の補正フォーカス部130による焦点合わせが必要となる。本実施形態においては、補正フォーカス部130の設定基準点PSの位置は任意である。
【0053】
焦点の初期調整が完了した後、試料体200の観察を開始する。まず、SEMにより初期状態の観察断面202の画像を取得して画像情報を記憶部134に記憶させる。この後、切除制御部126に記憶された切除パターンに基づいてFIBにより観察断面202を切除して更新する(切除工程)。試料体200が傾斜した状態で観察断面202が切除されると、観察断面202と電子銃104の距離が変化し、観察断面202における補正フォーカス部130の設定基準点PSにおいて電子ビームEBの焦点が合わない状態となる。
【0054】
ここで、観察断面202が更新されると、切除量に基づいてステージ移動部340によりステージ316が移動する(焦点調整工程)。このように、本実施形態においては、焦点調整工程はステージ移動工程を含む。具体的には、観察断面202と電子銃104の相対位置が変化しない位置まで、ステージ116を電子銃104側に近づける。これにより、ステージ116が移動した後、電子ビームEBの焦点が観察断面202に合った状態となる。
【0055】
このとき、ステージ116はピエゾ素子338への通電により制御されることからナノメータオーダの比較的微小な移動が可能であり、イオンビームIBによる切除がナノメータオーダの比較的微小な量であったとしても、ステージ116を的確に移動させることができる。
【0056】
この後、観察断面202に電子ビームEBを照射して(電子ビーム照射工程)、SEMにより初期状態の観察断面202の画像を取得して画像情報を記憶部134に記憶させる。このとき、観察断面202の傾斜角度は、初期状態から変化がないので、補正フォーカス部130による観察断面202の傾斜に対する対物レンズ118への電流の補正割合については特に変更する必要はない。さらに、観察断面202と電子銃104の相対位置が変化しないので、画像生成部112において生成される画像の視野も変化しない。
【0057】
この後、切除パターンに記憶されている回数だけFIBによる観察断面202の切除と、SEMによる観察断面202の画像の取得を繰り返す。これにより、試料体200の切除方向についての断面の変化を観察することができる。この観察断面202の切除動作と画像取得動作は、1回切除する都度に作業者に画像を確認させてから所定の操作入力があった後に切除動作に移行するようにしてもよいし、一括して複数回の切除及び画像の取得を行うようにしてもよい。
【0058】
このように、本実施形態の試料体の加工観察装置100によっても、イオン銃102によるイオンビームIBの照射により観察断面202が形成されると、焦点制御部308により試料体200の切除量に基づいて観察断面202と電子ビームEBの焦点の相対位置が調整される。これにより、イオンビームIBの照射前に電子ビームEBの焦点を観察断面202に対して合わせておけば、照射後においても電子ビームEBの焦点が新たな観察断面202に対して自動的に合うこととなる。
【0059】
従って、イオンビームIBによる試料体200の切除に追従させて観察断面202に対する電子ビームEBの焦点が自動的に調整されるので、観察断面202が更新されるたびに電子ビームEBの焦点に関する調整を手動で行う必要がなく、試料体200の断面の変化の観察を簡単容易に行うことができる。
【0060】
また、焦点調整を切除量に基づいて行うようにしたので、電子ビームEBを観察断面202に照射して検出部110で検出される信号をもとに調整を行う必要がなく、焦点調整を短時間で行うことができる。また、焦点調整時に電子ビームEBの照射により、観察断面202が変質するおそれもなく、実用に際して極めて有利である。
【0061】
尚、第2の実施形態においては、ピエゾ素子338によりステージ316を駆動させるものを示したが、例えば、図10に示すように、ステージ316を平行に移動させる回動軸部を備えた微小可動機構342を用いて駆動させるようにしてもよい。また、ステージ316の移動方向もX方向及びY方向に限定されず、Z方向に移動したり、電子銃104に向かって移動するよう構成してもよく、観察断面202の更新前後で試料体200と電子ビームEBの焦点の相対位置が維持されれば駆動制御部336の構成は問わない。
【0062】
また、第2の実施形態の焦点制御部308が、ステージ移動部340に加えて、第1の実施形態の焦点基準移動部132のような電子ビームEBの焦点側の調整を行うものをさらに有する構成としてもよい。この場合、例えば、試料体200の加工の切除量に応じてステージ316の移動と電子ビームEBの焦点側の調整とを択一的に選択してもよいし、これらの協働により観察断面202と電子ビームEBの焦点の相対位置を調整してもよい。
【0063】
また、検出部110により検出された信号を観察断面202の切除前後で比較して切除量に関する情報を取得する比較取得部をさらに備えてもよいし、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す試料体の加工観察装置の概略構成図である。
【図2】イオンビームによる試料体の切除状態を示す説明図である。
【図3】試料体の加工に伴って設定基準点が移動する状態を示す説明図である。
【図4】図3のA−A端面図であってディスプレイに表示される画像を示し、(a)は初期状態のもの、(b)は初期状態から所定の切除厚さだけ切除された状態のもの、(c)は(b)の状態から所定の切除厚さだけ切除された状態のものを示す。
【図5】第1の実施形態の変形例を示すものであり、試料体の加工に伴って焦点位置が移動する状態を示す説明図である。
【図6】第1の実施形態の変形例を示すものであり、試料体の加工に伴って設定基準点が移動する状態を示す説明図である。
【図7】図6のB−B端面図であってディスプレイに表示される画像を示し、初期状態から所定の切除厚さだけ切除された状態のものである。
【図8】本発明の第2の実施形態を示す試料体の加工観察装置の概略構成図である。
【図9】ステージの概略説明図である。
【図10】変形例を示すステージの概略説明図である。
【符号の説明】
【0065】
100 試料体の加工観察装置
102 イオン銃
104 電子銃
106 焦点調整部
108 焦点制御部
110 検出部
112 画像生成部
114 チャンバー
116 ステージ
118 対物レンズ
120 偏向レンズ
122 制御アンプ
124 制御アンプ
126 切除制御部
128 パターン取得部
130 補正フォーカス部
132 焦点基準移動部
134 記憶部
200 試料体
202 観察断面
300 試料体の加工観察装置
306 焦点調整部
308 焦点制御部
316 ステージ
336 駆動制御部
338 ピエゾ素子
340 ステージ移動部
EB 電子ビーム
IB イオンビーム
PS 設定基準点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料体にイオンビームを照射して観察断面を形成するイオン銃と、
前記イオン銃により形成された前記観察断面に電子ビームを照射する電子銃と、
前記観察断面と前記電子ビームの焦点との関係を調整可能な焦点調整部と、
前記イオン銃の前記イオンビームの照射による前記試料体の切除量に基づいて前記焦点調整部を制御する焦点制御部と、を備えたことを特徴とする試料体の加工観察装置。
【請求項2】
前記焦点調整部は、前記観察断面の傾斜状態に対応して設定基準点を中心として前記電子ビームの焦点合わせを行う補正フォーカス部を有し、
前記焦点制御部は、前記イオン銃の前記イオンビームの照射による前記試料体の切除量に基づいて前記設定基準点を移動させる焦点基準移動部を有することを特徴とする請求項1に記載の試料体の加工観察装置。
【請求項3】
前記焦点調整部は、前記電子ビームの焦点位置を調整する位置調整部を有し、
前記焦点制御部は、前記イオン銃の前記イオンビームの照射による前記イオン銃の前記イオンビームの照射による前記試料体の切除量に基づいて前記焦点位置を変更する位置変更部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の試料体の加工観察装置。
【請求項4】
前記焦点調整部は、前記試料体が載置されたステージを移動させる駆動制御部を有し、
前記焦点制御部は、前記イオンビームの照射により前記試料体が切除されて前記観察断面が更新されると、更新前後で前記ステージと前記電子銃の相対位置を維持するよう前記駆動制御部を用いて前記ステージを移動させるステージ移動部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の試料体の加工観察装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記ステージ側に設けられたピエゾ素子の通電制御を行うことを特徴とする請求項4に記載の試料体の加工観察装置。
【請求項6】
前記イオン銃は前記試料体を複数回にわたって切除し、
前記焦点制御部は、前記試料体が切除される都度に、前記観察断面と前記電子ビームの焦点との関係を調整することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の試料体の加工観察装置。
【請求項7】
前記イオン銃は予め設定された切除パターンに基づいて前記試料体を切除し、
前記焦点制御部は、前記切除パターンから前記試料体の前記切除量に関する情報を取得するパターン取得部を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の試料体の加工観察装置。
【請求項8】
前記電子ビームの前記観察断面への照射により生じた信号を検出する検出部を具備し、
前記焦点制御部は、前記検出部により検出された信号を、前記観察断面の切除前後で比較して、前記切除量に関する情報を取得する比較取得部を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の試料体の加工観察装置。
【請求項9】
試料体にイオンビームを照射するイオン銃と、前記試料体に電子ビームを照射する電子銃と、を備えた試料体の加工観察装置を用いて試料体を観察するにあたり、
前記イオンビームの照射により前記試料体を切除して観察断面を形成する切除工程と、
前記切除工程における前記試料体の切除量に基づいて、前記観察断面と前記電子ビームの焦点との関係を調整する焦点調整工程と、
前記焦点調整工程の後、前記観察断面に前記電子ビームを照射する電子ビーム照射工程と、を有することを特徴とする試料体の観察方法。
【請求項10】
前記試料体の加工観察装置は、前記観察断面の傾斜状態に対応して設定基準点を中心として前記電子ビームの焦点合わせを行う補正フォーカス部を有し、
前記焦点調整工程は、前記試料体の切除量に基づいて前記設定基準点を移動させる焦点基準移動工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の試料体の観察方法。
【請求項11】
前記試料体の加工観察装置は、前記電子ビームの焦点位置を調整する位置調整部を有し、
前記焦点調整工程は、前記試料体の切除量に基づいて前記焦点位置を変更する位置変更工程を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の試料体の観察方法。
【請求項12】
前記試料体の加工観察装置は、前記試料体が載置されるステージと、前記ステージを移動させる駆動制御部を備え、
前記焦点調整工程は、前記イオンビームの照射により前記試料体が切除されて前記観察断面が更新されると、更新前後で前記ステージと前記電子銃の相対位置を維持するよう前記駆動制御部を用いて前記ステージを移動させるステージ移動工程を含むことを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の試料体の観察方法。
【請求項13】
前記切除工程、前記焦点調整工程及び前記電子ビーム照射工程を、この順で複数回繰り返すことを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載の試料体の観察方法。
【請求項14】
前記切除工程にて、前記イオン銃は予め設定された切除パターンに基づいて前記試料体を切除し、
前記焦点調整工程にて、前記切除パターンから前記試料体の前記切除量に関する情報を取得するようにしたことを特徴とする請求項9から13のいずれか一項に記載の試料体の観察方法。
【請求項15】
前記加工観察装置は前記電子ビームの前記観察断面への照射により生じた信号を検出する検出部を具備し、
前記焦点調整工程にて、前記検出部により検出された信号を、前記観察断面の切除前後で比較して、前記切除量に関する情報を取得することを特徴とする請求項9から14のいずれか一項に記載の試料体の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−294354(P2006−294354A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111441(P2005−111441)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】