試料評価装置及び試料評価方法
【課題】結晶性試料を傾斜させずに該結晶性試料を評価することが可能な試料評価装置及び試料評価方法を提供すること。
【解決手段】試料Sに電子線EBを透過させることによりZOLZ図形39を得るステップS1と、ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、電子線EBが透過した部分の試料Sの厚さtと格子湾曲量Δθとを求めるステップS2とを有する試料評価方法による。
【解決手段】試料Sに電子線EBを透過させることによりZOLZ図形39を得るステップS1と、ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、電子線EBが透過した部分の試料Sの厚さtと格子湾曲量Δθとを求めるステップS2とを有する試料評価方法による。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料評価装置及び試料評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶材料に応力が加わると格子歪みが生じ、結晶材料のバンド構造が変化することが知られている。特に、半導体装置の高集積化及び微細化に伴って発生する格子歪みは、電子デバイスの素子特性を左右する重要な因子であるため、格子歪みを制御することで半導体装置の劣化を防止できる。
【0003】
一方、そのような格子歪みを積極的に利用して、シリコン単結晶やGaAs結晶よりなる半導体基板を用いて作製される電子デバイスの電気的特性を向上させる試みもなされている。
【0004】
従って、電子デバイスを構成する結晶性材料の格子歪みやその原因となっている応力を測定することは、所望の電子デバイスを設計するために重要である。
【0005】
電子デバイスの製造工程に有用なマイクロメートル以下の微小領域の応力の測定方法としては、ラマン分光法と電子回折法がある。これらのうち、電子回折法は、数ナノメートルという微細な空間分解能を有するため、微細構造の半導体装置に特に有効である。
【0006】
電子回折法は、更に収束電子回折法とSplit-HOLZ (High Order Laue Zone)法とに大別される。
【0007】
収束電子回折法は、特許文献1に開示されるように、HOLZ図形の幾何模様の変化量から応力値を測定する手法であり、STI(Shallow Trench Isolation)用の溝で囲まれたシリコン基板のように、複数の応力源に囲まれた系に適用される。
【0008】
これに対し、Split-HOLZ法は、特許文献2に開示されるようにHOLZ線の分裂幅から格子歪みを測定する手法であり、コンタクトプラグからシリコン基板が受ける応力のように、応力源が測定対象上に積層されている系に適用される。
【0009】
図1及び図2は、そのSplit-HOLZ法について模式的に示す図である。
【0010】
図1に示されるように、Split-HOLZ法では、電子線EBの入射方位Aを結晶性試料1の晶帯軸Bから5度以上傾斜させることにより、電子線EBの波長と格子面の間隔との関係がブラッグの反射条件を満たすようにし、格子面に対応したHOLZ線3を得る。
【0011】
ところが、このように結晶性試料1を傾斜させたのでは、図2に示されるように、電子線EBの透過長Lが結晶性試料1の厚みTよりも長くなる。そのため、傾斜角が無い場合と比較して、結晶性試料1の構成原子と電子線EBとの衝突回数が多くなるので、電子線EBが横方向に広がり易くなり、その広がり領域4の幅Wが広くなってしまう。広がり領域4に含まれる二点P、Qは分解して観察することができないので、結晶性試料1を傾斜させるSplit-HOLZ法では空間分解能が低下するという問題が発生する。
【0012】
これと同様に、HOLZ像を取得する必要のある収束電子回折法でも、空間分解能の低下という問題がある。
【0013】
更に、Split-HOLZ法では、結晶性試料1の応力値は測定できるものの、応力の向きが測定できないという不都合もある。
【特許文献1】特開2004−77247号公報
【特許文献2】特開2007−93344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、結晶性試料を傾斜させずに該結晶性試料を評価することが可能な試料評価装置及び試料評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一観点によれば、(S1) 結晶性試料に電子線を透過させることによりZOLZ(Zeroth-Order Laue Zone)図形を得るステップと、(S2) ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記電子線が透過した部分の前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求めるステップとを有する試料評価方法が提供される。
【0016】
また、本発明の別の観点によれば、結晶性試料に電子線を透過させることにより、前記結晶性試料のZOLZ図形を取得する電子顕微鏡と、前記電子顕微鏡により取得した前記ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求める処理装置とを有する試料評価装置が提供される。
【0017】
次に、本発明の作用について説明する。
【0018】
本発明によれば、結晶性試料に電子線を透過して得られるZOLZ図形を利用し、試料厚さと格子湾曲量とを求める。ZOLZ図形は、結晶性試料の晶帯軸やn回軸を電子線の侵入方向から傾けなくても得られるので、ZOLZ図形を利用する本発明は、収束電子回折法やSplit-HOLZ法を用いる従来例よりも空間分解能を向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、結晶性試料を傾斜させずに得られるZOLZ図形を利用するので、従来例よりも空間分解能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(1)第1実施形態
図3は、本実施形態に係る試料評価装置の構成図である。
【0022】
その試料評価装置10は、走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope: STEM)11を備える。
【0023】
評価対象である結晶性試料Sは試料制御装置17により保持されており、走査レンズ系制御装置13により偏向された電子ビームEBがその結晶性試料Sに入射される。結晶性試料Sを透過した電子ビームEBは、透過レンズ系制御装置15により偏向され、CCDカメラ等の画像取込装置12上でZOLZ (Zeroth-Order Laue Zone)図形を形成する。
【0024】
また、試料評価装置10には処理装置18が付属している。その処理装置18は、走査レンズ系制御用入力装置14と透過レンズ系制御用入力装置16を介して、走査レンズ系制御装置13と透過レンズ系制御装置15とを制御し、電子ビームEBが結晶性材料Sの所望の位置に入射するようにする。
【0025】
更に、処理装置18は、試料制御装置17を制御することにより、結晶性材料Sの表面に垂直な方向から電子ビームEBが入射するようにする。また、処理装置18には、測定等に必要な情報を外部から入力するためのキーボード等の入力装置20と、評価結果等を保存するための記憶装置19も接続される。
【0026】
その処理装置18には画像取込装置12とCRT等の表示装置21等が接続されており、試料SのZOLZ図形が表示装置21に表示される。
【0027】
図4は、ZOLZ図形の一例を示す図である。
【0028】
この例では、シリコン単結晶の[110]方位から電子線を入射して得られたZOLZ図形30が示されている。
【0029】
本明細書におけるZOLZ図形30は、結晶性材料Sの異なる結晶面に対応した四つの円形の回折像31〜34に囲まれた領域に現れる干渉縞として定義される。
【0030】
図5は、ZOLZ図形の他の例を示す図である。このZOLZ図形35は、シリコン単結晶の[100]方位から電子線を入射して得られたものである。
【0031】
図4と図5を比較して分かるように、電子線の入射方向が異なればZOLZ図形30、35の幾何学的特徴(形、模様等)も異なる。
【0032】
次に、上記した試料評価装置を用いた試料評価方法について説明する。
【0033】
図6は、評価の対象となる電子デバイスの断面図である。
【0034】
その電子デバイス50では、シリコン単結晶基板40の活性領域がSTI用の素子分離絶縁膜41で囲まれており、その活性領域にポリシリコンよりなるゲート電極42とコバルトシリサイド層等の高融点金属シリサイド層45とが形成されている。なお、素子分離絶縁膜41としては、通常は酸化シリコン膜が形成される。
【0035】
そして、シリコン単結晶基板40の上側全面に、酸化シリコン膜等の層間絶縁膜44が形成され、層間絶縁膜44のコンタクトホール内にコンタクトプラグ43が形成される。
【0036】
そのような電子デバイス50では、素子分離絶縁膜41、ゲート電極42、及びコンタクトプラグ43からシリコン単結晶基板40に図示の方向の応力47〜49が印加され、これらの応力によって電子デバイスの電気的特性が変動する。
【0037】
その応力は以下のようにして求められる。
【0038】
図7は、上記の電子デバイス50から切り出された試料Sを用いて、試料評価装置10においてZOLZ図形を取得する様子を模式的に表す図である。
【0039】
ZOLZ図形39は、試料Sの結晶面に対応した電子線EBの複数の回折波が干渉して得られるものであって、電子線EBの入射方位Aをシリコン単結晶基板40の晶帯軸Bから傾斜させずに、試料Sの表面に垂直な方向から電子線EBを入射して得ることができる。そのため、本実施形態では、収束電子回折法やSplit-HOLZ法等を用いた従来例と比較して、電子線EBがシリコン単結晶基板40内を透過する透過長が短くなるので、シリコン単結晶基板40内での電子線EBの広がり幅が小さくなり、空間分解能を向上させることが可能となる。
【0040】
なお、ZOLZ図形39は、電子線EBの入射方位Aを対称軸とするような対称性が試料に存在すれば現れるものである。従って、試料にn回軸(n:自然数)が存在する場合、電子線EBの入射方位Aをそのn回軸に一致させても、ZOLZ図形39を得ることができる。
【0041】
また、試料評価装置10では、電子線EBの横方向への走査速度と画像取込装置12のシャッタ速度とを同期させることにより、試料Sにおける電子線EBの入射点でのZOLZ図形39を連続的に取り込むことができる。例えば、電子線EBの走査を一次元で行うと、試料Sの線上の複数点でのZOLZ図形を得ることができ、走査を二次元で行うと試料Sの一部領域内の複数点でのZOLZ図形をえることができる。このように走査する際、走査レンズ系制御装置13で設定される電子線EBの偏向量を記録しておけば、得られたZOLZ像が試料Sのどの位置におけるものなのかを把握することができる。
【0042】
また、表示装置21には試料Sの電子透過像であるSTEM像も表示され、そのSTEM像を見ながら電子線EBの走査位置を確認することもできる。
【0043】
ところで、このようなZOLZ図形39を得るには、電子線EBが透過できる程度に薄い厚さに試料Sを切り出す必要がある。試料Sの厚さは、典型的には500nm程度である。
【0044】
このように試料Sを薄く切り出すと、電子デバイス50(図6参照)において発生していた応力47〜49によって、シリコン単結晶40中の結晶が伸縮するため、試料Sの厚さtが場所によって異なるようになる。
【0045】
図7の例では、高融点金属シリサイド層45の引っ張り応力によってシリコン単結晶基板40の表面側(素子分離絶縁膜41側)が伸長されている様子を誇張してある。
【0046】
更に、応力源である高融点金属シリサイド層45に近い部分のシリコン単結晶では、応力によって結晶格子の配列が歪むようになる。その歪みを表す指標に格子湾曲量Δθがある。
【0047】
図8は、その格子湾曲量Δθの定義を説明するための模式図である。
【0048】
格子湾曲量Δθを定義するにあたっては、隣接する結晶格子C1、C2が段階的に変位するものとする。応力が存在せず変位が無い場合には結晶格子C2は図の点線の位置にあるが、応力が存在する場合には結晶格子C2は変位ベクトルΔRだけ変位する。変位ベクトルΔRは、結晶格子C1、C2の対応する点同士を結ぶベクトルR0、R1の差として定義される。そして、格子湾曲量Δθは、これらのベクトルR0、R1の成す角として定義される。
【0049】
電子デバイス50内に発生していた応力は、上記の試料厚さt及び格子湾曲量Δθという形で試料Sに痕跡を残す。そして、既述のZOLZ図形は、試料厚さtと格子湾曲量Δθとによってその幾何学的特徴が変化するので、ZOLZ図形の幾何学的特徴を基にして、以下のようにして電子デバイス50内に発生していた応力を推測することができる。
【0050】
本実施形態では、まず、厚さtと格子湾曲量Δθとを変えながら、シミュレーションにより複数のZOLZ計算像を予め求めておく。
【0051】
図9は、得られたZOLZ計算像M1〜M9の一例を示す図である。この例では、シリコン単結晶の[100]方位から電子線を入射した場合を想定している。
【0052】
これら複数のZOLZ計算像M1〜M9は、厚さtと格子湾曲量Δθとに対応させて、既述の記憶装置19に第1データベース52として格納される。
【0053】
電子回折図形を計算により得る方法としては、運動学的理論に基づいた方法と、多波動力学的理論に基づいた方法とがある。収束電子回折法で用いるHOLZ図形は運動学的理論により理解される。これに対し、本実施形態のようなZOLZ図形は、結晶内の電子の定在波が干渉して現れるものであるため、多波動力学的理論を用いて次のように計算により算出される。
【0054】
まず、電子の入射側からn層の結晶格子を積層してなる材料中に高速電子が入射すると、電子は次の式(1)のように振舞う。
【0055】
【数1】
ここで、Ψnは電子の全波動関数、Φni(ki・r)は第n層でのBloch波、kは波数ベクトル、rは実空間ベクトル、αiは励起振幅である。ここで、(n-1)層とn層の結晶格子の変位ベクトルをΔR(図8参照)とすると、湾曲した結晶の第n層における励起振幅αjは、
【0056】
【数2】
と表される。なお、式(2)において、Cigは固有ベクトルである。また、式(1)のΦni(ki・r)は次のように表される。
【0057】
【数3】
ここで、λiは固有値、tは試料の厚さである。これらの式においてt(試料厚さ)とΔRが本実施形態における重要因子となる。
【0058】
これら式(1)〜(3)に従って電子の全波動関数Ψnを求め、その絶対値の二乗を表示すると、既述の図9のようなZOLZ計算像M1〜M9を得ることができる。
【0059】
なお、全波動関数Ψnの求め方は上記に限定されない。上記に代えて、市販の波動関数用のシミュレーションソフトを用いて全波動関数Ψnを求めてもよい。
【0060】
また、多波動力学的理論による全波動関数Ψnの算出方法については、以下の刊行物にも記載があり、その記載に従って全波動関数Ψnを算出してもよい。
【0061】
刊行物1…Electron Microscopy of Thin Crystals (P. Hirch, A.Howie, R. Nicholson, D.W. Pashley and M.J. Whelan; Krieger Publishing Company, Florida) p.208.
刊行物2…Electron Microdiffraction (J.C.H Spence and J.M. Zuo;Plenum Publishing Corporation, NY) p.29.
刊行物3…回折結晶学(金属物性基礎講座 第3巻; 丸善)p.221.
このようにして得られたZOLZ計算像を用いて、本実施形態では次のようにして試料の評価を行う。
【0062】
図10は、本実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。
【0063】
図10の最初のステップS1では、STEM11において試料Sに電子線EBを透過させることにより、例えば図11に示されるようなZOLZ図形60を得る。
【0064】
次に、ステップS2に移る。
【0065】
ステップS2はサブステップP1、P2を有しており、最初のサブステップP1では、第1データベース52(図9)を参照して、試料厚さtと格子湾曲量Δθを変えて得られた複数のZOLZ計算像M1〜M9の中から、幾何学的特徴がステップS1で得たZOLZ図形60(図11参照)に最も近いZOLZ計算像M6を選出する。
【0066】
その選出は、オペレータが目視で行ってもよいし、処理装置18において自動で行うようにしてもよい。
【0067】
目視で行う場合は、縞の本数や縞の形状等の幾何学的特徴を頼りにしてZOLZ計算像M6を選出する。
【0068】
一方、処理装置18で行う場合は、まず、ZOLZ図形60とZOLZ計算像M1〜M9のそれぞれをm個のセルR1〜Rmに分割する。そして、各セルR1〜Rmの各々においてZOLZ図形60とZOLZ計算像M1〜M9の強度の差を算出する。例えば、第nセルにおけるZOLZ図形60とZOLZ計算像M1のそれぞれの強度をIn、Jnとする場合、強度の差はIn−Jnとなる。次いで、その差In−Jnの二乗(In−Jn)2の全てのセルR1〜Rmについての総和Gを次の式(4)のように求める。
【0069】
【数4】
そして、総和Gが最も小さくなるZOLZ計算像M6を選出する。
【0070】
なお、ZOLZ図形60とZOLZ計算像M1〜M9では、その強度が大きく異なるのが普通である。従って、強度の違いを低減するための定数kを適当に定め、式(4)のJnに代えて積kJnを用いてもよい。
【0071】
次いで、サブステップP2に移り、上記のように選出されたZOLZ計算像M6の試料厚さt(230nm)と格子湾曲量Δθ(2mrad)のそれぞれを、試料Sの厚さ及び格子湾曲量として求める。
【0072】
以上により、処理装置18を用いたステップS2が終了する。
【0073】
次に、ステップS3に移る。本ステップでは、図12に示すように、上記のステップS1、S2に従って、試料Sの評価領域(第1の部分)bと基準領域(第2の部分)aのそれぞれの厚さtを求める。
【0074】
図12の例では、評価領域bにおける厚さが230nmで、基準領域aにおける厚さが190nmである。なお、この例では、シリコン単結晶基板40の[100]方位から電子を入射している。
【0075】
続いて、ステップS4に移り、評価領域bと基準領域aのそれぞれの厚さの大小関係から、試料Sに加わっていた応力の向きを判断する。
【0076】
この例では、応力源である高融点金属シリサイド層45に近い評価領域bの方が厚さが厚いことから、高融点金属シリサイド層45の引張り応力により評価領域bのシリコン単結晶基板40が引っ張られていたと判断できる。
【0077】
図13は、図12とは別の試料での評価結果を示す図である。
【0078】
図13の例では、シリコン単結晶基板40の[110]方位から電子を入射して評価を行った。この場合でも、評価領域bの厚さ(430nm)が基準領域aの厚さ(390nm)よりも厚いので、シリコン単結晶基板40が金属シリサイド層45から引っ張り応力を受けていたと判断できる。
【0079】
なお、このような応力の向きの判断は、応力源の位置を考慮して行う必要がある。例えば、応力源がシリコン基板40の裏面側にある場合に図12及び図13と同様の結果が得られた場合には、シリコン基板40がその応力源から圧縮応力を受けたために基準領域aの厚さが薄くなり、評価領域bの厚さが基準領域aの厚さよりも相対的に厚くなったと判断される。
【0080】
以上により、本実施形態に係る試料評価方法の主要ステップを終了する。
【0081】
上記した本実施形態では、第1データベース52(図9参照)と実際のZOLZ図形60(図11参照)を利用することにより、試料Sの格子湾曲量Δθだけでなく、試料Sの厚さtをも求めることができる。
【0082】
これにより、図12、図13を参照して説明したように、厚さtに基づいて応力の向きを判断することができるようになる。
【0083】
しかも、収束電子回折法(特許文献1)やSplit-HOLZ法(特許文献2)では、図2のように電子線EBの入射方位Aを結晶材料の晶帯軸Bから5度以上傾斜させるため空間分解能が低下するのに対し、ZOLZ図形を取得するためにはこのように試料Sを傾斜させる必要が無いため、従来例よりも分解能を向上させることができる。例えば、試料Sの厚さが250nmの場合、従来例では空間分解能が65nm程度であるが、本実施形態では15nm程度の分解能を得ることができる。
【0084】
また、電子デバイスに使用されるシリコン単結晶基板の面方位は、通常は(110)や(100)であるため、試料を傾斜させずに[110]方位や[100]方位から電子線を入射できることは、デバイスの実際の製造工程において大きな利点である。
【0085】
図14及び図15は、本実施形態に従って求めた試料Sの厚さtと格子湾曲量Δθの表示例である。
【0086】
図14の例では、同一線上の領域P1〜P6を測定しており、これらの領域における厚さtや格子湾曲量Δθがグラフの形で表されている。
【0087】
一方、図15の例では、平面内の一部領域Uを測定しており、その領域Uでの厚さtや格子湾曲量Δθが濃淡で表現された二次元分布が得られる。
【0088】
t、Δθのこのような分布を電子デバイスの製造工程にフィードバックすることにより、応力が制御されたデバイス構造を得ることができ、設計通りの特性を有するデバイス時間を短時間に開発することが可能となる。
【0089】
(2)第2実施形態
第1実施形態で使用した第1データベース52(図9参照)では、立方晶系であるシリコン単結晶の[100]方位から電子線を入射した場合のZOLZ計算像が格納されていた。この場合のZOLZ計算像は比較的単純な形状であるため、実際のZOLZ像60との比較をオペレータが目視で行うことも可能であった。
【0090】
ところが、立方晶系の試料では、電子線の入射方向が[100]方位ではない場合に、ZOLZ像が複雑になる場合がある。
【0091】
図16は、シリコン単結晶の[110]方位から電子線を入射した場合のZOLZ計算像51である。これに示されるように、電子線の入射方向が[110]方位の場合には、ZOLZ計算像51の干渉縞が複雑となり、ZOLZ計算像51と実際のZOLZ図形との比較をオペレータが目視で行うのは困難となる。
【0092】
本実施形態は、ZOLZ計算像やZOLZ図形がこのように複雑な場合に特に有効である。
【0093】
図17は、本実施形態で使用される第2データベース53の模式図である。
【0094】
その第2データベース53は、第1実施形態に従って計算されたZOLZ計算像のフーリエ変換像F1〜F4を厚さtと格子湾曲量Δθとに対応させてなり、例えば記憶装置19に格納される。
【0095】
このような第2データベース53を利用して、本実施形態では既述のステップS2を次のようにして行う。
【0096】
まず、第2データベース53中のフーリエ変換像F1〜F4の中から、大きさVと縦横比β/αがステップS1で得たZOLZ図形60(図11参照)のフーリエ変換像に最も近いものを選出する。なお、この場合の大きさVとしては、各フーリエ変換像F1〜F4の面積を採用してもよいし、これらの像の長さ(α又はβ)を採用してもよい。
【0097】
ここで、フーリエ変換像F1〜F4の周縁部では像の濃淡が不明瞭となることが多いので、上記の選出に際しては、各フーリエ変換像F1〜F4とZOLZ図形60のフーリエ変換像の中で特定の閾値以上の強度の特定部分のみを抽出し、該特定部分同士を比較するのが好ましい。
【0098】
そして、このように選出されたフーリエ変換像の試料厚さtと格子湾曲量Δθのそれぞれを、試料Sの厚さ及び格子湾曲量として求める。
【0099】
このようにフーリエ変換像を基にすることで、ZOLZ図形60が複雑な場合であっても、ZOLZ図形60のフーリエ変換像に最も近いフーリエ変換像F1〜F4をオペレータが手作業で容易に選出することができるようになる。
【0100】
なお、このように手作業で行う代わりに、上記の選出作業を処理装置18(図3参照)で行うようにしても勿論よい。
【0101】
(3)第3実施形態
上記した第1、第2実施形態では、第1、第2データベース52、53を参照して、ZOLZ計算像と実際のZOLZ図形とを直接比較した。
【0102】
これに対し、本実施形態では、ZOLZ図形の幾何学的特徴を具体的に抽出することで、以下のようにして試料Sの厚さtと格子湾曲量Δθとを求める。
【0103】
図18は、幾何学的特徴の抽出の仕方について説明するための模式図である。
【0104】
同図に示されるZOLZ図形61は、縞模様が比較的単純となる[100]方位からシリコン単結晶に電子線を入射した場合に得られたものである。
【0105】
本実施形態では、そのようなZOLZ図形61の幾何学的特徴として、横の長さaと縦の長さbとの比b/a、及び縞本数cとを抽出する。この例では縦横比b/aは1.6となる。
【0106】
一方、縞本数cは、ZOLZ図形61の暗部の縞の本数であってもよいし、明部の縞の本数であってもよい。暗部を採用する場合、図18の例では縞本数cは3となる。
【0107】
図19は、ZOLZ計算像の縦横比b/aと格子湾曲量Δθとの関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。また、図20は、縦横比b/aと試料厚さtとの関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。これらのグラフは、例えば第1データベース52(図9参照)中のZOLZ計算像M1〜M9のそれぞれの縞本数や縦横比b/aから得ることができる。
【0108】
本実施形態では、これらのグラフを用いて、ZOLZ図形61に対応する格子湾曲量Δθと試料厚さtとを求める。
【0109】
例えば、ZOLZ図形61は、縦横比b/aが1.6で縞本数cが3であるから、図19のグラフから格子湾曲量Δθが3mradであることが理解される。
【0110】
このように、ZOLZ図形の縦横比b/aと縞本数cとを利用すると、対応する格子湾曲量Δθや試料厚さtを比較的簡単に求めることができる。
【0111】
特に、シリコンのような立方晶系の試料では、[100]方位から電子線を入射するとZOLZ図形の縞模様が単純となって縞本数cを計数し易くなるので、本実施形態を適用することで格子湾曲量Δθや試料厚さtを簡便に求めることができる。
【0112】
(4)第4実施形態
第1実施形態では、試料厚さtに基づいて応力の向きのみを求めた。これに対し、本実施形態では、以下のようにして応力の大きさを定量的に求める。
【0113】
図21は、本実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。なお、本フローチャートが第1実施形態と異なるのはステップS5〜S7のみである。
【0114】
本実施形態では、ステップS5において、試料Sにおいて電子線EBが当たる位置を変えながら、第1実施形態のステップS1、S2を繰り返すことにより、試料Sの複数の位置における格子湾曲量Δθを求める。
【0115】
これにより、例えば図22に示されるように、高融点金属シリサイド層45とシリコン単結晶基板40との界面からの距離Lに応じて格子湾曲量Δθの測定値をプロットする。
【0116】
次いで、ステップS6に移る。本ステップでは、図22に示されるように、距離Lと格子湾曲量Δθとの関係を示す格子湾曲量曲線K1〜K3を、試料Sに加わる応力を変えて計算により複数本求める。この例では、試料Sと同じ構造の計算モデルを構築し、応力が100MPa、500MPa、及び1GPaの各場合の格子湾曲量曲線K1〜K3を有限要素法により求めている。
【0117】
続いて、ステップS7に移り、複数本の格子湾曲量曲線K1〜K3の中から、ステップS5で求めた格子湾曲量Δθの傾向を最もよく近似するものを選出する。図22の例では、応力が1GPaの格子湾曲量曲線K1が選出される。そして、選出された格子湾曲量曲線K1に対応する応力(1GPa)が、電子デバイス50から切り出される前の試料Sに加わっていたものと推定する。
【0118】
以上により、本実施形態の主要ステップが終了する。
【0119】
このように、本実施形態では、格子湾曲量Δθの傾向を最もよく近似する格子湾曲量曲線K1を選出し、その曲線K1に対応する応力が試料Sに印加されていたとみなすので、応力の大きさを定量的に求めることが可能となる。
【0120】
以下に、本発明の特徴を付記する。
【0121】
(付記1) (S1) 結晶性試料に電子線を透過させることによりZOLZ図形を得るステップと、
(S2) ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記電子線が透過した部分の前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求めるステップと、
を有することを特徴とする試料評価方法。
【0122】
(付記2) 前記ステップ(S2)は、
(P1) 試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像の中から、幾何学的特徴が前記ZOLZ図形に最も近いZOLZ計算像を選出するステップと、
(P2) 前記選出されたZOLZ計算像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めるステップとを有することを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0123】
(付記3) 前記ステップ(P1)は、
前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像のそれぞれを複数のセルに分割し、該セルの各々において前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像の強度の差を算出して、前記差の二乗の総和が最小になるZOLZ計算像を選出することにより行われることを特徴とする付記2に記載の試料評価方法。
【0124】
(付記4) 前記ステップ(S2)は、
試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像のフーリエ変換像の中から、大きさと縦横比が前記ZOLZ図形のフーリエ変換像に最も近いものを選出し、該選出されたフーリエ変換像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めて行われることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0125】
(付記5) 前記結晶性試料として立方晶系の試料を用い、該試料の[110]方位から前記電子線を透過させることを特徴とする付記4に記載の試料評価方法。
【0126】
(付記6) 前記ステップ(S2)において、前記幾何学的特徴として、前記ZOLZ図形の縞本数と、該ZOLZ図形の縦横比とを用いることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0127】
(付記7) 前記結晶性試料として立方晶系の試料を用い、該試料の[100]方位から前記電子線を透過させることを特徴とする付記6に記載の試料評価方法。
【0128】
(付記8) (S3) 前記ステップ(S1)、(S2)に従って、前記結晶性試料の第1の部分と第2の部分のそれぞれの厚さを求めるステップと
(S4) 前記第1の部分と前記第2の部分のそれぞれの前記厚さの大小関係から、前記結晶性試料に加わっていた応力の向きを判断することを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0129】
(付記9) 前記ステップ(S4)において、前記第1の部分の前記厚さが前記第2の部分よりも厚い場合、該第1の部分には前記第2の部分よりも強い引張り応力が印加されていたか、或いは前記第2の部分には前記第1の部分よりも強い圧縮応力が印加されていたものと判断することを特徴とする付記8に記載の試料評価方法。
【0130】
(付記10) (S5) 前記ステップ(S1)、(S2)に従って、前記結晶性試料の複数の部分の前記格子湾曲量を求めるステップと、
(S6) 前記結晶性試料の位置と格子湾曲量との関係を示す格子湾曲量曲線を、前記結晶性試料のモデルに加わる応力を変えて計算により複数本求めるステップと、
(S7) 前記複数本の格子湾曲量曲線の中から、前記ステップ(S3)で求めた格子湾曲量の傾向を最もよく近似するものを選出し、該選出された格子湾曲量曲線に対応する応力が、前記結晶性試料に印加されていたものと推定するステップとを更に有することを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0131】
(付記11) 前記ステップ(S1)において、前記結晶性試料の表面に垂直な方向から前記電子線を透過させることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0132】
(付記12) 前記ステップ(S1)において、前記結晶性試料のn回軸に平行な方向から前記電子線を透過させることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0133】
(付記13) 前記ステップ(S1)において、前記結晶性試料の晶帯軸の方向から前記電子線を透過させることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0134】
(付記14) 結晶性試料に電子線を透過させることにより、前記結晶性試料のZOLZ図形を取得する電子顕微鏡と、
前記電子顕微鏡により取得した前記ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求める処理装置と、
を有することを特徴とする試料評価装置。
【0135】
(付記15) 前記処理装置は、複数のZOLZ計算像を試料厚さと格子湾曲量に対応させてなる第1データベースを参照し、前記複数のZOLZ計算像の中から幾何学的特徴が前記ZOLZ図形に最も近いZOLZ計算像を選出して、該選出されたZOLZ計算像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めることを特徴とする付記14に記載の試料評価装置。
【0136】
(付記16) 前記処理装置における前記ZOLZ計算像の算出は、前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像のそれぞれを複数のセルに分割し、該セルの各々において前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像の強度の差を算出して、前記差の二乗の総和が最小になるZOLZ計算像を選出して行われることを特徴とする付記15に記載の試料評価方法。
【0137】
(付記17) 前記処理装置は、複数のZOLZ計算像のフーリエ変換像を試料厚さと格子湾曲量に対応させてなる第2データベースを参照し、前記複数のフーリエ変換像の中から、大きさと縦横比が前記ZOLZ図形のフーリエ変換像に最も近いものを選出し、該選出されたフーリエ変換像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めることを特徴とする付記14に記載の試料評価装置。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、従来例に係るSplit-HOLZ法について模式的に示す図である。
【図2】図2は、従来例に係るSplit-HOLZ法で空間分解能が低下することを説明するための断面図である。
【図3】図3は、本発明の各実施形態で使用される試料評価装置の構成図である。
【図4】図4は、本発明の各実施形態で得られるZOLZ図形の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の各実施形態で得られるZOLZ図形の別の例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の各実施形態において評価対象となる電子デバイスの断面図である。
【図7】図7は、図6の電子デバイスを切り出して得られた試料を用いて、ZOLZ図形を取得する様子を模式的に表す図である。
【図8】図8は、格子湾曲量の定義を説明するための模式図である。
【図9】図9は、本発明の第1実施形態において得られたZOLZ計算像の一例を示す図である。
【図10】図10は、本発明の第1実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。
【図11】図11は、本発明の第1実施形態で得られたZOLZ図形を示す図である。
【図12】図12は、本発明の第1実施形態のステップS3について説明するための図である。
【図13】図13は、図12とは電子線の入射方向を変えた場合における、本発明の第1実施形態のステップS3について説明するための図である。
【図14】図14は、本発明の第1実施形態に従って求めた試料の厚さと格子湾曲量の表示例(その1)である。
【図15】図15は、本発明の第1実施形態に従って求めた試料の厚さと格子湾曲量の表示例(その2)である。
【図16】図16は、シリコン単結晶の[110]方位から電子線を入射した場合のZOLZ計算像である。
【図17】図17は、本発明の第2実施形態で使用される第2データベースの模式図である。
【図18】図18は、本発明の第3実施形態において、ZOLZ図形の幾何学的特徴の抽出の仕方について説明するための模式図である。
【図19】図19は、本発明の第3実施形態において、ZOLZ計算像の縦横比と格子湾曲量との関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。
【図20】図20は、本発明の第3実施形態において、ZOLZ計算像の縦横比と試料厚さとの関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。
【図21】図21は、本発明の第4実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。
【図22】図22は、本発明の第4実施形態のステップS5とS6について説明するための図である。
【符号の説明】
【0139】
1…結晶性試料、3…HOLZ線、4…広がり領域、10…試料評価装置、11…走査透過型電子顕微鏡、12…画像取込装置、13…走査レンズ系制御装置、14…走査レンズ系制御用入力装置、15…透過レンズ系制御装置、16…透過レンズ系制御用入力装置、17…試料制御装置、18…処理装置、19…記憶装置、20…入力装置、21…表示装置、30、35、39、60、61…ZOLZ図形、31〜34…回折像、40…シリコン単結晶基板、41…素子分離絶縁膜、42…ゲート電極、43…コンタクトプラグ、44…層間絶縁膜、45…高融点金属シリサイド層、47〜49…応力、50…電子デバイス、51…ZOLZ計算像、52…第1データベース、53…第2データベース、EB…電子線、S…試料、A…電子線の入射方位、B…晶帯軸、C1、C2…結晶格子、U…一部領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料評価装置及び試料評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶材料に応力が加わると格子歪みが生じ、結晶材料のバンド構造が変化することが知られている。特に、半導体装置の高集積化及び微細化に伴って発生する格子歪みは、電子デバイスの素子特性を左右する重要な因子であるため、格子歪みを制御することで半導体装置の劣化を防止できる。
【0003】
一方、そのような格子歪みを積極的に利用して、シリコン単結晶やGaAs結晶よりなる半導体基板を用いて作製される電子デバイスの電気的特性を向上させる試みもなされている。
【0004】
従って、電子デバイスを構成する結晶性材料の格子歪みやその原因となっている応力を測定することは、所望の電子デバイスを設計するために重要である。
【0005】
電子デバイスの製造工程に有用なマイクロメートル以下の微小領域の応力の測定方法としては、ラマン分光法と電子回折法がある。これらのうち、電子回折法は、数ナノメートルという微細な空間分解能を有するため、微細構造の半導体装置に特に有効である。
【0006】
電子回折法は、更に収束電子回折法とSplit-HOLZ (High Order Laue Zone)法とに大別される。
【0007】
収束電子回折法は、特許文献1に開示されるように、HOLZ図形の幾何模様の変化量から応力値を測定する手法であり、STI(Shallow Trench Isolation)用の溝で囲まれたシリコン基板のように、複数の応力源に囲まれた系に適用される。
【0008】
これに対し、Split-HOLZ法は、特許文献2に開示されるようにHOLZ線の分裂幅から格子歪みを測定する手法であり、コンタクトプラグからシリコン基板が受ける応力のように、応力源が測定対象上に積層されている系に適用される。
【0009】
図1及び図2は、そのSplit-HOLZ法について模式的に示す図である。
【0010】
図1に示されるように、Split-HOLZ法では、電子線EBの入射方位Aを結晶性試料1の晶帯軸Bから5度以上傾斜させることにより、電子線EBの波長と格子面の間隔との関係がブラッグの反射条件を満たすようにし、格子面に対応したHOLZ線3を得る。
【0011】
ところが、このように結晶性試料1を傾斜させたのでは、図2に示されるように、電子線EBの透過長Lが結晶性試料1の厚みTよりも長くなる。そのため、傾斜角が無い場合と比較して、結晶性試料1の構成原子と電子線EBとの衝突回数が多くなるので、電子線EBが横方向に広がり易くなり、その広がり領域4の幅Wが広くなってしまう。広がり領域4に含まれる二点P、Qは分解して観察することができないので、結晶性試料1を傾斜させるSplit-HOLZ法では空間分解能が低下するという問題が発生する。
【0012】
これと同様に、HOLZ像を取得する必要のある収束電子回折法でも、空間分解能の低下という問題がある。
【0013】
更に、Split-HOLZ法では、結晶性試料1の応力値は測定できるものの、応力の向きが測定できないという不都合もある。
【特許文献1】特開2004−77247号公報
【特許文献2】特開2007−93344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、結晶性試料を傾斜させずに該結晶性試料を評価することが可能な試料評価装置及び試料評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一観点によれば、(S1) 結晶性試料に電子線を透過させることによりZOLZ(Zeroth-Order Laue Zone)図形を得るステップと、(S2) ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記電子線が透過した部分の前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求めるステップとを有する試料評価方法が提供される。
【0016】
また、本発明の別の観点によれば、結晶性試料に電子線を透過させることにより、前記結晶性試料のZOLZ図形を取得する電子顕微鏡と、前記電子顕微鏡により取得した前記ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求める処理装置とを有する試料評価装置が提供される。
【0017】
次に、本発明の作用について説明する。
【0018】
本発明によれば、結晶性試料に電子線を透過して得られるZOLZ図形を利用し、試料厚さと格子湾曲量とを求める。ZOLZ図形は、結晶性試料の晶帯軸やn回軸を電子線の侵入方向から傾けなくても得られるので、ZOLZ図形を利用する本発明は、収束電子回折法やSplit-HOLZ法を用いる従来例よりも空間分解能を向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、結晶性試料を傾斜させずに得られるZOLZ図形を利用するので、従来例よりも空間分解能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(1)第1実施形態
図3は、本実施形態に係る試料評価装置の構成図である。
【0022】
その試料評価装置10は、走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope: STEM)11を備える。
【0023】
評価対象である結晶性試料Sは試料制御装置17により保持されており、走査レンズ系制御装置13により偏向された電子ビームEBがその結晶性試料Sに入射される。結晶性試料Sを透過した電子ビームEBは、透過レンズ系制御装置15により偏向され、CCDカメラ等の画像取込装置12上でZOLZ (Zeroth-Order Laue Zone)図形を形成する。
【0024】
また、試料評価装置10には処理装置18が付属している。その処理装置18は、走査レンズ系制御用入力装置14と透過レンズ系制御用入力装置16を介して、走査レンズ系制御装置13と透過レンズ系制御装置15とを制御し、電子ビームEBが結晶性材料Sの所望の位置に入射するようにする。
【0025】
更に、処理装置18は、試料制御装置17を制御することにより、結晶性材料Sの表面に垂直な方向から電子ビームEBが入射するようにする。また、処理装置18には、測定等に必要な情報を外部から入力するためのキーボード等の入力装置20と、評価結果等を保存するための記憶装置19も接続される。
【0026】
その処理装置18には画像取込装置12とCRT等の表示装置21等が接続されており、試料SのZOLZ図形が表示装置21に表示される。
【0027】
図4は、ZOLZ図形の一例を示す図である。
【0028】
この例では、シリコン単結晶の[110]方位から電子線を入射して得られたZOLZ図形30が示されている。
【0029】
本明細書におけるZOLZ図形30は、結晶性材料Sの異なる結晶面に対応した四つの円形の回折像31〜34に囲まれた領域に現れる干渉縞として定義される。
【0030】
図5は、ZOLZ図形の他の例を示す図である。このZOLZ図形35は、シリコン単結晶の[100]方位から電子線を入射して得られたものである。
【0031】
図4と図5を比較して分かるように、電子線の入射方向が異なればZOLZ図形30、35の幾何学的特徴(形、模様等)も異なる。
【0032】
次に、上記した試料評価装置を用いた試料評価方法について説明する。
【0033】
図6は、評価の対象となる電子デバイスの断面図である。
【0034】
その電子デバイス50では、シリコン単結晶基板40の活性領域がSTI用の素子分離絶縁膜41で囲まれており、その活性領域にポリシリコンよりなるゲート電極42とコバルトシリサイド層等の高融点金属シリサイド層45とが形成されている。なお、素子分離絶縁膜41としては、通常は酸化シリコン膜が形成される。
【0035】
そして、シリコン単結晶基板40の上側全面に、酸化シリコン膜等の層間絶縁膜44が形成され、層間絶縁膜44のコンタクトホール内にコンタクトプラグ43が形成される。
【0036】
そのような電子デバイス50では、素子分離絶縁膜41、ゲート電極42、及びコンタクトプラグ43からシリコン単結晶基板40に図示の方向の応力47〜49が印加され、これらの応力によって電子デバイスの電気的特性が変動する。
【0037】
その応力は以下のようにして求められる。
【0038】
図7は、上記の電子デバイス50から切り出された試料Sを用いて、試料評価装置10においてZOLZ図形を取得する様子を模式的に表す図である。
【0039】
ZOLZ図形39は、試料Sの結晶面に対応した電子線EBの複数の回折波が干渉して得られるものであって、電子線EBの入射方位Aをシリコン単結晶基板40の晶帯軸Bから傾斜させずに、試料Sの表面に垂直な方向から電子線EBを入射して得ることができる。そのため、本実施形態では、収束電子回折法やSplit-HOLZ法等を用いた従来例と比較して、電子線EBがシリコン単結晶基板40内を透過する透過長が短くなるので、シリコン単結晶基板40内での電子線EBの広がり幅が小さくなり、空間分解能を向上させることが可能となる。
【0040】
なお、ZOLZ図形39は、電子線EBの入射方位Aを対称軸とするような対称性が試料に存在すれば現れるものである。従って、試料にn回軸(n:自然数)が存在する場合、電子線EBの入射方位Aをそのn回軸に一致させても、ZOLZ図形39を得ることができる。
【0041】
また、試料評価装置10では、電子線EBの横方向への走査速度と画像取込装置12のシャッタ速度とを同期させることにより、試料Sにおける電子線EBの入射点でのZOLZ図形39を連続的に取り込むことができる。例えば、電子線EBの走査を一次元で行うと、試料Sの線上の複数点でのZOLZ図形を得ることができ、走査を二次元で行うと試料Sの一部領域内の複数点でのZOLZ図形をえることができる。このように走査する際、走査レンズ系制御装置13で設定される電子線EBの偏向量を記録しておけば、得られたZOLZ像が試料Sのどの位置におけるものなのかを把握することができる。
【0042】
また、表示装置21には試料Sの電子透過像であるSTEM像も表示され、そのSTEM像を見ながら電子線EBの走査位置を確認することもできる。
【0043】
ところで、このようなZOLZ図形39を得るには、電子線EBが透過できる程度に薄い厚さに試料Sを切り出す必要がある。試料Sの厚さは、典型的には500nm程度である。
【0044】
このように試料Sを薄く切り出すと、電子デバイス50(図6参照)において発生していた応力47〜49によって、シリコン単結晶40中の結晶が伸縮するため、試料Sの厚さtが場所によって異なるようになる。
【0045】
図7の例では、高融点金属シリサイド層45の引っ張り応力によってシリコン単結晶基板40の表面側(素子分離絶縁膜41側)が伸長されている様子を誇張してある。
【0046】
更に、応力源である高融点金属シリサイド層45に近い部分のシリコン単結晶では、応力によって結晶格子の配列が歪むようになる。その歪みを表す指標に格子湾曲量Δθがある。
【0047】
図8は、その格子湾曲量Δθの定義を説明するための模式図である。
【0048】
格子湾曲量Δθを定義するにあたっては、隣接する結晶格子C1、C2が段階的に変位するものとする。応力が存在せず変位が無い場合には結晶格子C2は図の点線の位置にあるが、応力が存在する場合には結晶格子C2は変位ベクトルΔRだけ変位する。変位ベクトルΔRは、結晶格子C1、C2の対応する点同士を結ぶベクトルR0、R1の差として定義される。そして、格子湾曲量Δθは、これらのベクトルR0、R1の成す角として定義される。
【0049】
電子デバイス50内に発生していた応力は、上記の試料厚さt及び格子湾曲量Δθという形で試料Sに痕跡を残す。そして、既述のZOLZ図形は、試料厚さtと格子湾曲量Δθとによってその幾何学的特徴が変化するので、ZOLZ図形の幾何学的特徴を基にして、以下のようにして電子デバイス50内に発生していた応力を推測することができる。
【0050】
本実施形態では、まず、厚さtと格子湾曲量Δθとを変えながら、シミュレーションにより複数のZOLZ計算像を予め求めておく。
【0051】
図9は、得られたZOLZ計算像M1〜M9の一例を示す図である。この例では、シリコン単結晶の[100]方位から電子線を入射した場合を想定している。
【0052】
これら複数のZOLZ計算像M1〜M9は、厚さtと格子湾曲量Δθとに対応させて、既述の記憶装置19に第1データベース52として格納される。
【0053】
電子回折図形を計算により得る方法としては、運動学的理論に基づいた方法と、多波動力学的理論に基づいた方法とがある。収束電子回折法で用いるHOLZ図形は運動学的理論により理解される。これに対し、本実施形態のようなZOLZ図形は、結晶内の電子の定在波が干渉して現れるものであるため、多波動力学的理論を用いて次のように計算により算出される。
【0054】
まず、電子の入射側からn層の結晶格子を積層してなる材料中に高速電子が入射すると、電子は次の式(1)のように振舞う。
【0055】
【数1】
ここで、Ψnは電子の全波動関数、Φni(ki・r)は第n層でのBloch波、kは波数ベクトル、rは実空間ベクトル、αiは励起振幅である。ここで、(n-1)層とn層の結晶格子の変位ベクトルをΔR(図8参照)とすると、湾曲した結晶の第n層における励起振幅αjは、
【0056】
【数2】
と表される。なお、式(2)において、Cigは固有ベクトルである。また、式(1)のΦni(ki・r)は次のように表される。
【0057】
【数3】
ここで、λiは固有値、tは試料の厚さである。これらの式においてt(試料厚さ)とΔRが本実施形態における重要因子となる。
【0058】
これら式(1)〜(3)に従って電子の全波動関数Ψnを求め、その絶対値の二乗を表示すると、既述の図9のようなZOLZ計算像M1〜M9を得ることができる。
【0059】
なお、全波動関数Ψnの求め方は上記に限定されない。上記に代えて、市販の波動関数用のシミュレーションソフトを用いて全波動関数Ψnを求めてもよい。
【0060】
また、多波動力学的理論による全波動関数Ψnの算出方法については、以下の刊行物にも記載があり、その記載に従って全波動関数Ψnを算出してもよい。
【0061】
刊行物1…Electron Microscopy of Thin Crystals (P. Hirch, A.Howie, R. Nicholson, D.W. Pashley and M.J. Whelan; Krieger Publishing Company, Florida) p.208.
刊行物2…Electron Microdiffraction (J.C.H Spence and J.M. Zuo;Plenum Publishing Corporation, NY) p.29.
刊行物3…回折結晶学(金属物性基礎講座 第3巻; 丸善)p.221.
このようにして得られたZOLZ計算像を用いて、本実施形態では次のようにして試料の評価を行う。
【0062】
図10は、本実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。
【0063】
図10の最初のステップS1では、STEM11において試料Sに電子線EBを透過させることにより、例えば図11に示されるようなZOLZ図形60を得る。
【0064】
次に、ステップS2に移る。
【0065】
ステップS2はサブステップP1、P2を有しており、最初のサブステップP1では、第1データベース52(図9)を参照して、試料厚さtと格子湾曲量Δθを変えて得られた複数のZOLZ計算像M1〜M9の中から、幾何学的特徴がステップS1で得たZOLZ図形60(図11参照)に最も近いZOLZ計算像M6を選出する。
【0066】
その選出は、オペレータが目視で行ってもよいし、処理装置18において自動で行うようにしてもよい。
【0067】
目視で行う場合は、縞の本数や縞の形状等の幾何学的特徴を頼りにしてZOLZ計算像M6を選出する。
【0068】
一方、処理装置18で行う場合は、まず、ZOLZ図形60とZOLZ計算像M1〜M9のそれぞれをm個のセルR1〜Rmに分割する。そして、各セルR1〜Rmの各々においてZOLZ図形60とZOLZ計算像M1〜M9の強度の差を算出する。例えば、第nセルにおけるZOLZ図形60とZOLZ計算像M1のそれぞれの強度をIn、Jnとする場合、強度の差はIn−Jnとなる。次いで、その差In−Jnの二乗(In−Jn)2の全てのセルR1〜Rmについての総和Gを次の式(4)のように求める。
【0069】
【数4】
そして、総和Gが最も小さくなるZOLZ計算像M6を選出する。
【0070】
なお、ZOLZ図形60とZOLZ計算像M1〜M9では、その強度が大きく異なるのが普通である。従って、強度の違いを低減するための定数kを適当に定め、式(4)のJnに代えて積kJnを用いてもよい。
【0071】
次いで、サブステップP2に移り、上記のように選出されたZOLZ計算像M6の試料厚さt(230nm)と格子湾曲量Δθ(2mrad)のそれぞれを、試料Sの厚さ及び格子湾曲量として求める。
【0072】
以上により、処理装置18を用いたステップS2が終了する。
【0073】
次に、ステップS3に移る。本ステップでは、図12に示すように、上記のステップS1、S2に従って、試料Sの評価領域(第1の部分)bと基準領域(第2の部分)aのそれぞれの厚さtを求める。
【0074】
図12の例では、評価領域bにおける厚さが230nmで、基準領域aにおける厚さが190nmである。なお、この例では、シリコン単結晶基板40の[100]方位から電子を入射している。
【0075】
続いて、ステップS4に移り、評価領域bと基準領域aのそれぞれの厚さの大小関係から、試料Sに加わっていた応力の向きを判断する。
【0076】
この例では、応力源である高融点金属シリサイド層45に近い評価領域bの方が厚さが厚いことから、高融点金属シリサイド層45の引張り応力により評価領域bのシリコン単結晶基板40が引っ張られていたと判断できる。
【0077】
図13は、図12とは別の試料での評価結果を示す図である。
【0078】
図13の例では、シリコン単結晶基板40の[110]方位から電子を入射して評価を行った。この場合でも、評価領域bの厚さ(430nm)が基準領域aの厚さ(390nm)よりも厚いので、シリコン単結晶基板40が金属シリサイド層45から引っ張り応力を受けていたと判断できる。
【0079】
なお、このような応力の向きの判断は、応力源の位置を考慮して行う必要がある。例えば、応力源がシリコン基板40の裏面側にある場合に図12及び図13と同様の結果が得られた場合には、シリコン基板40がその応力源から圧縮応力を受けたために基準領域aの厚さが薄くなり、評価領域bの厚さが基準領域aの厚さよりも相対的に厚くなったと判断される。
【0080】
以上により、本実施形態に係る試料評価方法の主要ステップを終了する。
【0081】
上記した本実施形態では、第1データベース52(図9参照)と実際のZOLZ図形60(図11参照)を利用することにより、試料Sの格子湾曲量Δθだけでなく、試料Sの厚さtをも求めることができる。
【0082】
これにより、図12、図13を参照して説明したように、厚さtに基づいて応力の向きを判断することができるようになる。
【0083】
しかも、収束電子回折法(特許文献1)やSplit-HOLZ法(特許文献2)では、図2のように電子線EBの入射方位Aを結晶材料の晶帯軸Bから5度以上傾斜させるため空間分解能が低下するのに対し、ZOLZ図形を取得するためにはこのように試料Sを傾斜させる必要が無いため、従来例よりも分解能を向上させることができる。例えば、試料Sの厚さが250nmの場合、従来例では空間分解能が65nm程度であるが、本実施形態では15nm程度の分解能を得ることができる。
【0084】
また、電子デバイスに使用されるシリコン単結晶基板の面方位は、通常は(110)や(100)であるため、試料を傾斜させずに[110]方位や[100]方位から電子線を入射できることは、デバイスの実際の製造工程において大きな利点である。
【0085】
図14及び図15は、本実施形態に従って求めた試料Sの厚さtと格子湾曲量Δθの表示例である。
【0086】
図14の例では、同一線上の領域P1〜P6を測定しており、これらの領域における厚さtや格子湾曲量Δθがグラフの形で表されている。
【0087】
一方、図15の例では、平面内の一部領域Uを測定しており、その領域Uでの厚さtや格子湾曲量Δθが濃淡で表現された二次元分布が得られる。
【0088】
t、Δθのこのような分布を電子デバイスの製造工程にフィードバックすることにより、応力が制御されたデバイス構造を得ることができ、設計通りの特性を有するデバイス時間を短時間に開発することが可能となる。
【0089】
(2)第2実施形態
第1実施形態で使用した第1データベース52(図9参照)では、立方晶系であるシリコン単結晶の[100]方位から電子線を入射した場合のZOLZ計算像が格納されていた。この場合のZOLZ計算像は比較的単純な形状であるため、実際のZOLZ像60との比較をオペレータが目視で行うことも可能であった。
【0090】
ところが、立方晶系の試料では、電子線の入射方向が[100]方位ではない場合に、ZOLZ像が複雑になる場合がある。
【0091】
図16は、シリコン単結晶の[110]方位から電子線を入射した場合のZOLZ計算像51である。これに示されるように、電子線の入射方向が[110]方位の場合には、ZOLZ計算像51の干渉縞が複雑となり、ZOLZ計算像51と実際のZOLZ図形との比較をオペレータが目視で行うのは困難となる。
【0092】
本実施形態は、ZOLZ計算像やZOLZ図形がこのように複雑な場合に特に有効である。
【0093】
図17は、本実施形態で使用される第2データベース53の模式図である。
【0094】
その第2データベース53は、第1実施形態に従って計算されたZOLZ計算像のフーリエ変換像F1〜F4を厚さtと格子湾曲量Δθとに対応させてなり、例えば記憶装置19に格納される。
【0095】
このような第2データベース53を利用して、本実施形態では既述のステップS2を次のようにして行う。
【0096】
まず、第2データベース53中のフーリエ変換像F1〜F4の中から、大きさVと縦横比β/αがステップS1で得たZOLZ図形60(図11参照)のフーリエ変換像に最も近いものを選出する。なお、この場合の大きさVとしては、各フーリエ変換像F1〜F4の面積を採用してもよいし、これらの像の長さ(α又はβ)を採用してもよい。
【0097】
ここで、フーリエ変換像F1〜F4の周縁部では像の濃淡が不明瞭となることが多いので、上記の選出に際しては、各フーリエ変換像F1〜F4とZOLZ図形60のフーリエ変換像の中で特定の閾値以上の強度の特定部分のみを抽出し、該特定部分同士を比較するのが好ましい。
【0098】
そして、このように選出されたフーリエ変換像の試料厚さtと格子湾曲量Δθのそれぞれを、試料Sの厚さ及び格子湾曲量として求める。
【0099】
このようにフーリエ変換像を基にすることで、ZOLZ図形60が複雑な場合であっても、ZOLZ図形60のフーリエ変換像に最も近いフーリエ変換像F1〜F4をオペレータが手作業で容易に選出することができるようになる。
【0100】
なお、このように手作業で行う代わりに、上記の選出作業を処理装置18(図3参照)で行うようにしても勿論よい。
【0101】
(3)第3実施形態
上記した第1、第2実施形態では、第1、第2データベース52、53を参照して、ZOLZ計算像と実際のZOLZ図形とを直接比較した。
【0102】
これに対し、本実施形態では、ZOLZ図形の幾何学的特徴を具体的に抽出することで、以下のようにして試料Sの厚さtと格子湾曲量Δθとを求める。
【0103】
図18は、幾何学的特徴の抽出の仕方について説明するための模式図である。
【0104】
同図に示されるZOLZ図形61は、縞模様が比較的単純となる[100]方位からシリコン単結晶に電子線を入射した場合に得られたものである。
【0105】
本実施形態では、そのようなZOLZ図形61の幾何学的特徴として、横の長さaと縦の長さbとの比b/a、及び縞本数cとを抽出する。この例では縦横比b/aは1.6となる。
【0106】
一方、縞本数cは、ZOLZ図形61の暗部の縞の本数であってもよいし、明部の縞の本数であってもよい。暗部を採用する場合、図18の例では縞本数cは3となる。
【0107】
図19は、ZOLZ計算像の縦横比b/aと格子湾曲量Δθとの関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。また、図20は、縦横比b/aと試料厚さtとの関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。これらのグラフは、例えば第1データベース52(図9参照)中のZOLZ計算像M1〜M9のそれぞれの縞本数や縦横比b/aから得ることができる。
【0108】
本実施形態では、これらのグラフを用いて、ZOLZ図形61に対応する格子湾曲量Δθと試料厚さtとを求める。
【0109】
例えば、ZOLZ図形61は、縦横比b/aが1.6で縞本数cが3であるから、図19のグラフから格子湾曲量Δθが3mradであることが理解される。
【0110】
このように、ZOLZ図形の縦横比b/aと縞本数cとを利用すると、対応する格子湾曲量Δθや試料厚さtを比較的簡単に求めることができる。
【0111】
特に、シリコンのような立方晶系の試料では、[100]方位から電子線を入射するとZOLZ図形の縞模様が単純となって縞本数cを計数し易くなるので、本実施形態を適用することで格子湾曲量Δθや試料厚さtを簡便に求めることができる。
【0112】
(4)第4実施形態
第1実施形態では、試料厚さtに基づいて応力の向きのみを求めた。これに対し、本実施形態では、以下のようにして応力の大きさを定量的に求める。
【0113】
図21は、本実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。なお、本フローチャートが第1実施形態と異なるのはステップS5〜S7のみである。
【0114】
本実施形態では、ステップS5において、試料Sにおいて電子線EBが当たる位置を変えながら、第1実施形態のステップS1、S2を繰り返すことにより、試料Sの複数の位置における格子湾曲量Δθを求める。
【0115】
これにより、例えば図22に示されるように、高融点金属シリサイド層45とシリコン単結晶基板40との界面からの距離Lに応じて格子湾曲量Δθの測定値をプロットする。
【0116】
次いで、ステップS6に移る。本ステップでは、図22に示されるように、距離Lと格子湾曲量Δθとの関係を示す格子湾曲量曲線K1〜K3を、試料Sに加わる応力を変えて計算により複数本求める。この例では、試料Sと同じ構造の計算モデルを構築し、応力が100MPa、500MPa、及び1GPaの各場合の格子湾曲量曲線K1〜K3を有限要素法により求めている。
【0117】
続いて、ステップS7に移り、複数本の格子湾曲量曲線K1〜K3の中から、ステップS5で求めた格子湾曲量Δθの傾向を最もよく近似するものを選出する。図22の例では、応力が1GPaの格子湾曲量曲線K1が選出される。そして、選出された格子湾曲量曲線K1に対応する応力(1GPa)が、電子デバイス50から切り出される前の試料Sに加わっていたものと推定する。
【0118】
以上により、本実施形態の主要ステップが終了する。
【0119】
このように、本実施形態では、格子湾曲量Δθの傾向を最もよく近似する格子湾曲量曲線K1を選出し、その曲線K1に対応する応力が試料Sに印加されていたとみなすので、応力の大きさを定量的に求めることが可能となる。
【0120】
以下に、本発明の特徴を付記する。
【0121】
(付記1) (S1) 結晶性試料に電子線を透過させることによりZOLZ図形を得るステップと、
(S2) ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記電子線が透過した部分の前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求めるステップと、
を有することを特徴とする試料評価方法。
【0122】
(付記2) 前記ステップ(S2)は、
(P1) 試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像の中から、幾何学的特徴が前記ZOLZ図形に最も近いZOLZ計算像を選出するステップと、
(P2) 前記選出されたZOLZ計算像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めるステップとを有することを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0123】
(付記3) 前記ステップ(P1)は、
前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像のそれぞれを複数のセルに分割し、該セルの各々において前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像の強度の差を算出して、前記差の二乗の総和が最小になるZOLZ計算像を選出することにより行われることを特徴とする付記2に記載の試料評価方法。
【0124】
(付記4) 前記ステップ(S2)は、
試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像のフーリエ変換像の中から、大きさと縦横比が前記ZOLZ図形のフーリエ変換像に最も近いものを選出し、該選出されたフーリエ変換像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めて行われることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0125】
(付記5) 前記結晶性試料として立方晶系の試料を用い、該試料の[110]方位から前記電子線を透過させることを特徴とする付記4に記載の試料評価方法。
【0126】
(付記6) 前記ステップ(S2)において、前記幾何学的特徴として、前記ZOLZ図形の縞本数と、該ZOLZ図形の縦横比とを用いることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0127】
(付記7) 前記結晶性試料として立方晶系の試料を用い、該試料の[100]方位から前記電子線を透過させることを特徴とする付記6に記載の試料評価方法。
【0128】
(付記8) (S3) 前記ステップ(S1)、(S2)に従って、前記結晶性試料の第1の部分と第2の部分のそれぞれの厚さを求めるステップと
(S4) 前記第1の部分と前記第2の部分のそれぞれの前記厚さの大小関係から、前記結晶性試料に加わっていた応力の向きを判断することを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0129】
(付記9) 前記ステップ(S4)において、前記第1の部分の前記厚さが前記第2の部分よりも厚い場合、該第1の部分には前記第2の部分よりも強い引張り応力が印加されていたか、或いは前記第2の部分には前記第1の部分よりも強い圧縮応力が印加されていたものと判断することを特徴とする付記8に記載の試料評価方法。
【0130】
(付記10) (S5) 前記ステップ(S1)、(S2)に従って、前記結晶性試料の複数の部分の前記格子湾曲量を求めるステップと、
(S6) 前記結晶性試料の位置と格子湾曲量との関係を示す格子湾曲量曲線を、前記結晶性試料のモデルに加わる応力を変えて計算により複数本求めるステップと、
(S7) 前記複数本の格子湾曲量曲線の中から、前記ステップ(S3)で求めた格子湾曲量の傾向を最もよく近似するものを選出し、該選出された格子湾曲量曲線に対応する応力が、前記結晶性試料に印加されていたものと推定するステップとを更に有することを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0131】
(付記11) 前記ステップ(S1)において、前記結晶性試料の表面に垂直な方向から前記電子線を透過させることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0132】
(付記12) 前記ステップ(S1)において、前記結晶性試料のn回軸に平行な方向から前記電子線を透過させることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0133】
(付記13) 前記ステップ(S1)において、前記結晶性試料の晶帯軸の方向から前記電子線を透過させることを特徴とする付記1に記載の試料評価方法。
【0134】
(付記14) 結晶性試料に電子線を透過させることにより、前記結晶性試料のZOLZ図形を取得する電子顕微鏡と、
前記電子顕微鏡により取得した前記ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求める処理装置と、
を有することを特徴とする試料評価装置。
【0135】
(付記15) 前記処理装置は、複数のZOLZ計算像を試料厚さと格子湾曲量に対応させてなる第1データベースを参照し、前記複数のZOLZ計算像の中から幾何学的特徴が前記ZOLZ図形に最も近いZOLZ計算像を選出して、該選出されたZOLZ計算像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めることを特徴とする付記14に記載の試料評価装置。
【0136】
(付記16) 前記処理装置における前記ZOLZ計算像の算出は、前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像のそれぞれを複数のセルに分割し、該セルの各々において前記ZOLZ図形と前記ZOLZ計算像の強度の差を算出して、前記差の二乗の総和が最小になるZOLZ計算像を選出して行われることを特徴とする付記15に記載の試料評価方法。
【0137】
(付記17) 前記処理装置は、複数のZOLZ計算像のフーリエ変換像を試料厚さと格子湾曲量に対応させてなる第2データベースを参照し、前記複数のフーリエ変換像の中から、大きさと縦横比が前記ZOLZ図形のフーリエ変換像に最も近いものを選出し、該選出されたフーリエ変換像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めることを特徴とする付記14に記載の試料評価装置。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、従来例に係るSplit-HOLZ法について模式的に示す図である。
【図2】図2は、従来例に係るSplit-HOLZ法で空間分解能が低下することを説明するための断面図である。
【図3】図3は、本発明の各実施形態で使用される試料評価装置の構成図である。
【図4】図4は、本発明の各実施形態で得られるZOLZ図形の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の各実施形態で得られるZOLZ図形の別の例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の各実施形態において評価対象となる電子デバイスの断面図である。
【図7】図7は、図6の電子デバイスを切り出して得られた試料を用いて、ZOLZ図形を取得する様子を模式的に表す図である。
【図8】図8は、格子湾曲量の定義を説明するための模式図である。
【図9】図9は、本発明の第1実施形態において得られたZOLZ計算像の一例を示す図である。
【図10】図10は、本発明の第1実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。
【図11】図11は、本発明の第1実施形態で得られたZOLZ図形を示す図である。
【図12】図12は、本発明の第1実施形態のステップS3について説明するための図である。
【図13】図13は、図12とは電子線の入射方向を変えた場合における、本発明の第1実施形態のステップS3について説明するための図である。
【図14】図14は、本発明の第1実施形態に従って求めた試料の厚さと格子湾曲量の表示例(その1)である。
【図15】図15は、本発明の第1実施形態に従って求めた試料の厚さと格子湾曲量の表示例(その2)である。
【図16】図16は、シリコン単結晶の[110]方位から電子線を入射した場合のZOLZ計算像である。
【図17】図17は、本発明の第2実施形態で使用される第2データベースの模式図である。
【図18】図18は、本発明の第3実施形態において、ZOLZ図形の幾何学的特徴の抽出の仕方について説明するための模式図である。
【図19】図19は、本発明の第3実施形態において、ZOLZ計算像の縦横比と格子湾曲量との関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。
【図20】図20は、本発明の第3実施形態において、ZOLZ計算像の縦横比と試料厚さとの関係について、縞本数毎にプロットして得られたグラフである。
【図21】図21は、本発明の第4実施形態に係る試料評価方法について説明するためのフローチャートである。
【図22】図22は、本発明の第4実施形態のステップS5とS6について説明するための図である。
【符号の説明】
【0139】
1…結晶性試料、3…HOLZ線、4…広がり領域、10…試料評価装置、11…走査透過型電子顕微鏡、12…画像取込装置、13…走査レンズ系制御装置、14…走査レンズ系制御用入力装置、15…透過レンズ系制御装置、16…透過レンズ系制御用入力装置、17…試料制御装置、18…処理装置、19…記憶装置、20…入力装置、21…表示装置、30、35、39、60、61…ZOLZ図形、31〜34…回折像、40…シリコン単結晶基板、41…素子分離絶縁膜、42…ゲート電極、43…コンタクトプラグ、44…層間絶縁膜、45…高融点金属シリサイド層、47〜49…応力、50…電子デバイス、51…ZOLZ計算像、52…第1データベース、53…第2データベース、EB…電子線、S…試料、A…電子線の入射方位、B…晶帯軸、C1、C2…結晶格子、U…一部領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1) 結晶性試料に電子線を透過させることによりZOLZ(Zeroth-Order Laue Zone)図形を得るステップと、
(S2) ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記電子線が透過した部分の前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求めるステップと、
を有することを特徴とする試料評価方法。
【請求項2】
前記ステップ(S2)は、
(P1) 試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像の中から、幾何学的特徴が前記ZOLZ図形に最も近いZOLZ計算像を選出するステップと、
(P2) 前記選出されたZOLZ計算像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めるステップとを有することを特徴とする請求項1に記載の試料評価方法。
【請求項3】
前記ステップ(S2)は、
試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像のフーリエ変換像の中から、大きさと縦横比が前記ZOLZ図形のフーリエ変換像に最も近いものを選出し、該選出されたフーリエ変換像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めて行われることを特徴とする請求項1に記載の試料評価方法。
【請求項4】
前記ステップ(S2)において、前記幾何学的特徴として、前記ZOLZ図形の縞本数と、該ZOLZ図形の縦横比とを用いることを特徴とする請求項1に記載の試料評価方法。
【請求項5】
結晶性試料に電子線を透過させることにより、前記結晶性試料のZOLZ図形を取得する電子顕微鏡と、
前記電子顕微鏡により取得した前記ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求める処理装置と、
を有することを特徴とする試料評価装置。
【請求項1】
(S1) 結晶性試料に電子線を透過させることによりZOLZ(Zeroth-Order Laue Zone)図形を得るステップと、
(S2) ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記電子線が透過した部分の前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求めるステップと、
を有することを特徴とする試料評価方法。
【請求項2】
前記ステップ(S2)は、
(P1) 試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像の中から、幾何学的特徴が前記ZOLZ図形に最も近いZOLZ計算像を選出するステップと、
(P2) 前記選出されたZOLZ計算像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めるステップとを有することを特徴とする請求項1に記載の試料評価方法。
【請求項3】
前記ステップ(S2)は、
試料厚さと格子湾曲量を変えて得られた複数のZOLZ計算像のフーリエ変換像の中から、大きさと縦横比が前記ZOLZ図形のフーリエ変換像に最も近いものを選出し、該選出されたフーリエ変換像に対応する試料厚さと格子湾曲量のそれぞれを、前記結晶性試料の厚さ及び格子湾曲量として求めて行われることを特徴とする請求項1に記載の試料評価方法。
【請求項4】
前記ステップ(S2)において、前記幾何学的特徴として、前記ZOLZ図形の縞本数と、該ZOLZ図形の縦横比とを用いることを特徴とする請求項1に記載の試料評価方法。
【請求項5】
結晶性試料に電子線を透過させることにより、前記結晶性試料のZOLZ図形を取得する電子顕微鏡と、
前記電子顕微鏡により取得した前記ZOLZ図形の幾何学的特徴と、試料厚さ及び格子湾曲量との対応関係に基づいて、前記結晶性試料の厚さと格子湾曲量とを求める処理装置と、
を有することを特徴とする試料評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−2748(P2009−2748A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162944(P2007−162944)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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