説明

誘電体セラミック及びその製造方法、並びに積層セラミックコンデンサ

【課題】Alを含む組成系であっても、高温雰囲気下、長時間の高電界印加に耐えうる高い信頼性を有する誘電体セラミック及びその製造方法、並びにこの誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサを実現する。
【解決手段】誘電体セラミックは、チタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とし、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの群から選択された少なくとも1種の希土類元素R、及びMg、Ni、Alを含有し、かつ、希土類元素R、Ni、Al及びTiを主成分とした結晶性複合酸化物が存在している。そして、この誘電体セラミックで誘電体セラミック層1a〜1gが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体セラミック及びその製造方法、並びに積層セラミックコンデンサに関し、より詳しくは小型・大容量の積層セラミックコンデンサの誘電体材料に適した誘電体セラミック及びその製造方法、並びに該誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるエレクトロニクス技術の発展に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が急速に進行している。
【0003】
この種の積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層と内部電極層とを交互に積層し、焼成処理して得られたセラミック焼結体の両端部に外部電極が形成されている。上記誘電体セラミック層を薄層化して多数積層することにより積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化を図ることができる。
【0004】
そして、例えば、特許文献1では、チタン酸バリウムを含む主成分と、Alの酸化物とを有する誘電体磁器組成物であって、前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子を有しており、前記誘電体粒子は、粒子表面から粒子内部に向かって、Alの濃度が低くなっている誘電体磁器組成物が提案されている。
【0005】
この特許文献1には、主成分及びAlの酸化物以外に、副成分としてSiOや、Y、Dy、Ho、Tb、Gd、Eu等の希土類元素の酸化物などを含むことが記載されている。
【0006】
また、この特許文献1では、チタン酸バリウムを含む主成分とAl酸化物のうち、少なくとも一部を仮焼し、これにより焼結後の誘電体層中に含有される誘電体粒子中にAlを良好に分散できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−282481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、誘電体セラミック層を薄層化すると、誘電体セラミック層に印加される電界が大きくなることから、高温負荷時における信頼性を確保することが重要となる。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、BaTiOとAl酸化物とを予め仮焼させた場合、BaがBaAlの生成に消費されるため、Tiや希土類元素が余剰状態となる。このため、その後の焼成により希土類元素とTiのみが反応してこれらの複合酸化物が生成されたり、希土類元素とSiのみ反応してこれらの複合酸化物が生成されるおそれがある。そして、特許文献1では、このような複合酸化物が生成された結果、十分な信頼性を得ることができなくなるという問題点があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、Alを含む組成系であっても、高温雰囲気下、長時間の高電界印加に耐えうる高い信頼性を有する誘電体セラミック及びその製造方法、並びにこの誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を行ったところ、チタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とし、特定の希土類元素R、Mg、Ni、Alを含む誘電体セラミックにおいて、特定の希土類元素R、Ni、Al及びTiを主成分とするR−Ni−Al−Ti−O系の結晶性複合酸化物を二次相粒子として誘電体セラミック中に存在させることにより、高温雰囲気下、高電界を長時間連続して印加しても絶縁抵抗の低下を極力抑制することができ、これにより高信頼性を確保できる誘電体セラミックを得ることができるという知見を得た。
【0012】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る誘電体セラミックは、チタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とし、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの群から選択された少なくとも1種の希土類元素(以下、「特定希土類元素」という。)R、Mg、Ni、及びAlを含有し、前記特定希土類元素R、Ni、Al及びTiを主成分とする結晶性複合酸化物が存在していることを特徴としている。
【0013】
尚、本発明では、上記結晶性複合酸化物は、金属元素の総量において、特定希土類元素Rの含有モル量が8モル%以上、Niの含有モル量が3モル%以上、Alの含有モル量が3モル%以上、Tiの含有モル量が8モル%以上、及び希土類元素RとNiとAlとTiの総含有モル量が50モル%以上の全てを満足する粒子相をいうものとする。
【0014】
また、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、所望の結晶性複合酸化物を得るためには、NiとTiの総含有量に対するAlの含有量が、モル比で0.05〜0.5であることが好ましいことが分かった。
【0015】
すなわち、本発明の誘電体セラミックは、前記結晶性複合酸化物中のNi及びTiの含有量の総計に対するAlの含有量は、モル比で、0.05≦Al/(Ni+Ti)≦0.5を満足していることを特徴としている。
【0016】
さらに、本発明の誘電体セラミックは、前記結晶性複合酸化物が、組成式R(Ni,Al)TiOで表わされることを特徴としている。
【0017】
また、本発明では、電気特性の発現上、誘電体セラミック中にはMgが必須の構成成分として含まれるが、焼成工程において、Niの一部がMgと置換されて該Mgが結晶性複合酸化物中に含有されることがある。そして、この場合であっても実用上十分な信頼性の確保が可能であることが分かった。特に、Ni、Ti、及びMgの総含有量に対するAlの含有量が、モル比で0.05〜0.4であり、かつAlの含有量に対するMgの含有量が、元素比で、2.5以下の場合は信頼性に殆ど影響を及ぼさないことが分かった。
【0018】
すなわち、本発明の誘電体セラミックは、Mgが、前記結晶性複合酸化物に主成分として含まれていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の誘電体セラミックは、前記結晶性複合酸化物中のNi,Ti及びMgの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比で、0.05≦Al/(Ni+Ti+Mg)≦0.4を満足し、Alの含有量に対するMgの含有量が、元素比で、0<Mg/Al≦2.5を満足していることを特徴としている。
【0020】
さらに、本発明の誘電体セラミックは、前記結晶性複合酸化物が、組成式R(Ni,Al,Mg)TiOで表わされることを特徴としている。
【0021】
尚、結晶性複合酸化物中にMgを主成分として含む場合、本発明では、上記結晶性複合酸化物は、金属元素の総量において、特定希土類元素Rの含有モル量が8モル%以上、Niの含有モル量が2モル%以上、Alの含有モル量が2モル%以上、Mgの含有モル量が2モル%以上、Tiの含有モル量が8モル%以上、及び希土類元素RとNiとAlとMgとTiの総含有モル量が50モル%以上の全てを満足する粒子相をいうものとする。
【0022】
また、上記誘電体セラミックは、少なくともR化合物、Ni化合物、Al化合物、及びTi化合物を混合し、熱処理を施すことによって結晶性複合酸化物を含む熱処理粉末を予め作製しておき、この熱処理粉末と主成分粉末とを混合し、成形加工を経て焼成処理を行うことにより製造することができる。
【0023】
すなわち、本発明に係る誘電体セラミックの製造方法は、少なくともBa化合物及びTi化合物を含むセラミック素原料を出発原料としてチタン酸バリウム系複合酸化物からなる主成分粉末を作製する主成分粉末作製工程と、少なくとも1種の特定希土類元素Rを含有した希土類化合物、Ni化合物、Al化合物、及びTi化合物を所定量秤量して熱処理を施し、結晶性複合酸化物を含む熱処理粉末を作製する熱処理粉末作製工程と、少なくとも前記主成分粉末及び前記熱処理粉末を混合して成形し、成形体を作製する成形体作製工程と、該成形体を焼成する焼成工程とを含むことを特徴としている。
【0024】
また、本発明に係る積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層されて焼成されたセラミック焼結体を備え、該セラミック焼結体の両端部に外部電極が形成された積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体セラミック層が、上述した誘電体セラミックで形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
上記誘電体セラミックによれば、チタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とし、少なくとも1種の特定希土類元素R、Mg、Al、及びNiを含有した誘電体セラミックにおいて、前記特定希土類元素R、Ni、Al及びTiを主成分とする結晶性複合酸化物が存在しているので、Alを含んでいる誘電体セラミックであっても、高温雰囲気下、高電界が長時間印加された場合に製品不良が生じるのを極力回避することができ、高信頼性を有する誘電体セラミックを得ることができる。
【0026】
また、前記結晶性複合酸化物中のNi及びTiの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比で、0.05≦Al/(Ni+Ti)≦0.5を満足しているので、高い信頼性を確実に得ることができる。
【0027】
また、R(Ni,Al)TiOで表わされる結晶性複合酸化物を誘電体セラミック中に存在させることにより、上記作用効果を容易に得ることができる。
【0028】
また、Mgが、前記結晶性複合酸化物に主成分として含まれている場合であっても、前記結晶性複合酸化物中のNi、Ti及びMgの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比で、0.05≦Al/(Ni+Ti+Mg)≦0.4を満足し、Alの含有量に対するMgの含有量が、元素比で、0<Mg/Al≦2.5を満足するので、十分に実用性に耐えうる高い信頼性を確保することができる。
【0029】
また、この場合は、R(Ni,Al,Mg)TiOで表わされる結晶性複合酸化物を誘電体セラミック中に存在させることにより、上記作用効果を容易に得ることができる。
【0030】
また、本発明に係る誘電体セラミックの製造方法によれば、少なくともBa化合物及びTi化合物を含むセラミック素原料を出発原料としてチタン酸バリウム系複合酸化物からなる主成分粉末を作製する主成分粉末作製工程と、少なくとも1種の特定希土類元素Rを含有した希土類化合物、Ni化合物、Al化合物、及びTi化合物を所定量秤量して熱処理を施し、結晶性複合酸化物を含む熱処理粉末を作製する熱処理粉末作製工程と、少なくとも前記主成分粉末及び前記熱処理粉末を混合して成形し、成形体を作製する成形体作製工程と、該成形体を焼成する焼成工程とを含むので、R−Ni−Al−Ti−O系の結晶性複合酸化物を容易に得ることができ、これにより上記誘電体セラミックを容易に製造することができる。
【0031】
また、本発明に係る積層セラミックコンデンサによれば、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層されて焼成された積層焼結体を備え、該積層焼結体の両端部に外部電極が形成された積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体セラミック層が、上述した誘電体セラミックで形成されているので、高信頼性を有する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサの一実施の形態を示す断面図である。
【図2】実施例試料No.10のX線回折スペクトルを参照試料と共に示したX線回折図である。
【図3】実施例試料No.10のEDSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0034】
本発明の一実施の形態としての誘電体セラミックは、チタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とし、特定希土類元素R、Mg、Al及びNiを含有すると共に、特定希土類元素R、Al、Ni及びTiを主成分とした結晶性複合酸化物が二次相粒子として存在している。
【0035】
ここで、特定希土類元素Rとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの群から選択された少なくとも1種を使用することができる。
【0036】
また、チタン酸バリウム系複合酸化物は、一般式ABOで表わされるペロブスカイト型構造を有しており、具体的な形態としては、AサイトがBa、BサイトがTiで形成されたBaTiO、Baの一部がCa及びSrのうちの少なくとも1種の元素で置換された(Ba,Ca)TiO、(Ba,Sr)TiO、又は(Ba,Ca,Sr)TiO、Tiの一部がZr、Hfのうちの少なくとも1種の元素で置換されたBa(Ti,Zr)O、Ba(Ti,Hf)O、又はBa(Ti,Zr,Hf)O、或いはこれらの組み合わせが挙げられる。また、AサイトとBサイトとの配合モル比A/Bについても、化学量論的には1.000であるが、各種特性や焼結性等に影響を与えない程度に必要に応じてAサイト過剰、又はBサイト過剰となるように配合される。
【0037】
本実施の形態では、上述したように特定希土類元素R、Ni、Al及びTiを主成分とした結晶性複合酸化物が二次相粒子として誘電体セラミック中に存在しており、これにより高電界(例えば、18〜20kV/mm)が、高温雰囲気下、長時間(例えば、1000時間)連続して印加されても絶縁性が低下するのを極力抑制することができ、誘電体セラミック層の厚みが1.4μm程度に薄層化されても、十分に実用に耐えうる良好な信頼性を有する誘電体セラミックを得ることが可能となる。
【0038】
また、この結晶性複合酸化物は、好ましくは、Ni及びTiの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比Al/(Ni+Ti)で、0.05〜0.5となるように配合されている。
【0039】
モル比Al/(Ni+Ti)が0.05未満では、上述した二次粒子相を有する所望のR−Ni−Al−Ti−O系結晶性複合酸化物を得ることが困難であり、十分な高信頼性を確保するのが困難となる。また、モル比Al/(Ni+Ti)が、0.5を超えてしまうと、結晶性酸化物中のAlの含有モル量が多くなり、この場合も信頼性低下を招くおそれがある。
【0040】
ここで、本実施の形態では、金属元素の総量において、希土類元素Rの含有モル量が8モル%以上、Niの含有モル量が3モル%以上、Alの含有モル量が3モル%以上、Tiの含有モル量が8モル%以上、及びR、Ni、Al及びTiの総含有モル量が50モル%以上である粒子相が、R−Ni−Al−Ti−O系の結晶性複合酸化物が存在するものと見做している。
【0041】
そして、Ni及びAlの総含有量に対する希土類元素Rの含有量が、モル比で0.5の結晶性複合酸化物、すなわち組成式R(Ni,Al)TiOで表わされる結晶性複合酸化物が好んで形成される。
【0042】
尚、上記組成式ではAlはNiサイトに存在するように記載しているが、AlはTiサイトに存在していても構わない。
【0043】
また、上記誘電体セラミックでは、電気特性の発現上、Mgが必須の構成成分として含有されるが、焼成工程中でこのMgがNiの一部と置換されて上記結晶性複合酸化物中に含有される場合がある。そして、このような場合であっても、Mgの結晶性複合酸化物中における含有モル量が所定量以下であれば、信頼性に殆ど影響を及ぼすことはない。具体的には、Ni、Ti及びMgの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比で0.05〜0.4であり、Alの含有量に対するMgの含有量が元素比で2.5以下であれば信頼性に影響を及ぼすことはない。
【0044】
尚、結晶性複合酸化物中にMgを主成分として含んでいる場合、金属元素の総量において、特定希土類元素Rの含有モル量が8モル%以上、Niの含有モル量が2モル%以上、Alの含有モル量が2モル%以上、Mgの含有モル量が2モル%以上、Tiの含有モル量が8モル%以上、及びR、Ni、Al、Mg及びTiの総含有モル量が50モル%以上である粒子相が、R−Ni−Al−Mg−Ti−O系の結晶性複合酸化物が存在するものと見做すことができる。
【0045】
そして、Ni、Al及びMgの総含有量に対する希土類元素Rの含有量が、モル比で0.5の結晶性複合酸化物、すなわち組成式R(Ni,Al,Mg)TiOで表わされる結晶性複合酸化物が好んで形成される。
【0046】
尚、上述したように誘電体セラミック中には、結晶性複合酸化物が二次相粒子として存在する。そして、その存在比率は特に限定されるものではないが、任意の断面観察において、面積比率で0.3%以上が好ましい。
【0047】
また、誘電体セラミック中には、上述したように希土類元素R、Mg、Al、Niが含有されるが、その存在形態は、結晶性複合酸化物の構成成分として存在する他、主成分中に固溶する場合や結晶粒界、或いは結晶三重点に偏析する場合等、種々の形態が考えられる。
【0048】
図1は本発明に係る誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【0049】
該積層セラミックコンデンサは、セラミック焼結体10に内部電極2a〜2fが埋設されると共に、該セラミック焼結体10の両端部には外部電極3a、3bが形成され、さらに該外部電極3a、3bの表面には第1のめっき皮膜4a、4b及び第2のめっき皮膜5a、5bが形成されている。
【0050】
すなわち、セラミック焼結体10は、本発明の誘電体セラミックで形成された誘電体セラミック層1a〜1gと内部電極層2a〜2fとが交互に積層されて焼成されてなり、内部電極層2a、2c、2eは外部電極3aと電気的に接続され、内部電極層2b、2d、2fは外部電極3bと電気的に接続されている。そして、内部電極層2a、2c、2eと内部電極層2b、2d、2fとの対向面間で静電容量を形成している。
【0051】
次に、上記積層セラミックコンデンサの製造方法を詳述する。
【0052】
まず、セラミック素原料として、Ba化合物、Ti化合物を用意し、必要に応じてCa化合物、Sr化合物、Zr化合物、Hf化合物等を用意する。そして、これらセラミック素原料を所定量秤量し、これら秤量物をPSZ(Partially Stabilized Zirconia:部分安定化ジルコニア)ボール等の粉砕媒体及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、950〜1150℃の温度で所定時間、仮焼処理を施し、これにより平均粒径0.1〜0.2μmのチタン酸バリウム系複合酸化物からなる主成分粉末を作製する。
【0053】
次に、特定希土類元素Rを含有した希土類化合物、Ni化合物、Al化合物、Mg化合物及びTi化合物を用意し、所定量秤量する。好ましくは結晶性複合酸化物中のNi及びTiの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比で0.05〜0.5となるように秤量し、または、結晶性複合酸化物中のNi、Mg及びTiの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比で0.05〜0.4で、かつAlに対するMgの含有量が元素比で2.5以下となるように秤量する。そして、これら秤量物を混合し、500〜1200℃の温度で熱処理を施し、結晶性複合酸化物を含む熱処理粉末を作製する。
【0054】
次いで、この熱処理粉末を解砕した後、前記主成分粉末と熱処理粉末とを所定量秤量し、粉砕媒体及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得る。
【0055】
尚、このセラミック原料粉末が、後述するように積層セラミックコンデンサの製造過程で焼成処理に付され、本発明の誘電体セラミックを形成することになる。
【0056】
次いで、上記セラミック原料粉末を有機バインダや有機溶剤、粉砕媒体と共にボールミルに投入して湿式混合し、セラミックスラリーを作製し、ドクターブレード法等によりセラミックスラリーに成形加工を施し、厚みが2μm程度又はそれ以下となるようにセラミックグリーンシートを作製する。
【0057】
次いで、内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成する。
【0058】
尚、内部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料としては、特に限定されるものではないが、低コスト化の観点からは、Ni、Cuやこれら合金を主成分とした卑金属材料を使用するのが好ましい。
【0059】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定方向に複数枚積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製する。そしてこの後、温度300〜500℃で脱バインダ処理を行ない、さらに、酸素分圧が10-9〜10-12MPaに制御されたH−N−HOガスからなる還元性雰囲気下、温度1100〜1300℃で約2時間焼成処理を行なう。これにより導電膜とセラミックグリーンシートとが共焼結され、内部電極2a〜2fが埋設されたセラミック焼結体10が得られる。
【0060】
次に、セラミック焼結体10の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、600〜800℃の温度で焼付処理を行い、外部電極3a、3bを形成する。
【0061】
尚、外部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料についても、特に限定されるものではないが、低コスト化の観点から、AgやCu、或いはこれらの合金を主成分とした材料を使用するのが好ましい。
【0062】
また、外部電極3a、3bの形成方法としては、セラミック積層体の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布した後、セラミック積層体と同時に焼成処理を施すようにしてもよい。
【0063】
そして、最後に、電解めっきを施して外部電極3a、3bの表面にNi、Cu、Ni−Cu合金等からなる第1のめっき皮膜4a、4bを形成し、さらに該第1のめっき皮膜4a、4bの表面にはんだやスズ等からなる第2のめっき皮膜5a、5bを形成し、これにより積層セラミックコンデンサが製造される。
【0064】
このように本積層セラミックコンデンサは、上述した誘電体セラミックを使用して製造されているので、誘電体セラミック層1a〜1gがより薄層化された積層セラミックコンデンサであっても、高温雰囲気下、高電界を長時間印加しても絶縁抵抗が低下するのを極力抑制することができ、高信頼性を有する積層セラミックコンデンサを容易に得ることができる。
【0065】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、R化合物、Al化合物、Ni化合物、及びTi化合物を混合して仮焼し、これによりR−Ni−Al−Ti−O系結晶性複合酸化物を含む熱処理粉末を得ているが、R化合物、Al化合物、及びNi化合物を混合し、仮焼して熱処理粉末を作製しておき、該熱処理粉末と主成分粉末とを混合し、焼成工程で主成分中のTiを結晶性酸化物粉末に固溶させ、これによりR−Ni−Al−Ti−O系結晶性複合酸化物を得るようにしてもよい。
【0066】
また、上記実施の形態では、特定希土類元素R、Mg、Al及びNi以外の添加物成分については言及していないが、電気特性等の各種特性や信頼性向上の観点から、MnO、SiO、CuO等を添加物として必要に応じて含有させるのも好ましい。
【0067】
また、バリウム化合物、チタン化合物等のセラミック素原料についても、炭酸塩や酸化物、硝酸塩、水酸化物、有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物等、合成反応の形態に応じて適宜選択することができる。
【0068】
また、上述した積層セラミックコンデンサの製造過程で、Al、Sr、Zr、Fe、Hf、Na、Co等が不純物として混入し、結晶粒子内や結晶粒界に存在するおそれがあるが、コンデンサの電気特性に影響を及ぼすものではない。
【0069】
また、積層セラミックコンデンサの焼成処理で内部電極成分が結晶粒子内や結晶粒界に拡散するおそれがあるが、この場合もコンデンサの電気特性に影響を及ぼすことはない。
【0070】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0071】
〔試料の作製〕
(実施例試料No.1〜17)
セラミック素原料として、BaCO、TiOを所定量秤量し、これら秤量物をPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1050℃の温度で約2時間、仮焼し、これにより平均粒径0.12μmのBa1.01TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0072】
次に、特定希土類元素Rを含有した希土類酸化物R(RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、NiO、Al、TiOを用意した。そして、R、NiO、Al、TiOが、モル比で、R:NiO:Al:TiO=4:3:1:3となるように、これらを秤量してボールミル内で混合し、次いで1000℃の温度で2時間、熱処理し、R−Ni−Al−Ti−O系の複合酸化物粉末(熱処理粉末)を作製した。
【0073】
次いで、添加物粉末としてSiO、MnO、BaCOを用意した。そして前記主成分粉末100モル部に対し、前記複合酸化物粉末が2モル部、SiOが1.5モル部、BaCOが1.3モル部となるように、これら主成分粉末、複合酸化物粉末及び添加物粉末をそれぞれ秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0074】
次いで、上記セラミック原料粉末をエタノールやポリビニルブチラール系バインダ、及びPSZボールと共にボールミルに投入して湿式混合し、これによりセラミックスラリーを作製し、さらにドクターブレード法によりセラミックスラリーを成形し、焼成後の厚みが1.6μmとなるようにセラミックグリーンシートを作製した。
【0075】
次いで、Ni粉末を含有した内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成した。
【0076】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定枚数積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製した。そしてこの後、窒素雰囲気下、350℃の温度で脱バインダ処理を行ない、さらに、酸素分圧が10-10MPaに制御されたH−N−HOガスからなる還元性雰囲気下、温度1220℃で約3時間焼成処理を行ない、これにより導電膜とセラミック材とが共焼結されて内部電極が埋設されたセラミック焼結体を作製した。
【0077】
次に、Cu粉末及びガラスフリットを含有した外部電極用導電性ペーストをセラミック焼結体の両端面に塗布し、窒素雰囲気下、700℃の温度で焼付処理を行い、外部電極を形成し、実施例試料No.1〜17の各試料を作製した。
【0078】
得られた試料の誘電体セラミック層の厚みは1.6μmであり、外形寸法は、共に長さ:3.2mm、幅:1.6mm、厚み:0.6mm、誘電体セラミック層一層あたりの対向電極面積は2.1mm、有効積層数は200層であった。
【0079】
(比較例試料No.1〜15)
実施例試料No.1〜17と同様の方法・手順で、Ba1.01TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0080】
次に、添加物成分として実施例試料No.1〜17で使用したR、NiO、Al、SiO、MnOを用意した。そして、主成分粉末100モル部に対し、Rが2モル部、NiOが1.5モル部、Alが0.5モル部、SiOが2モル部、MnOが0.5モル部となるように、主成分粉末及びこれらの添加物粉末をそれぞれ秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0081】
そしてその後は実施例試料No.1〜17と同様の方法・手順で、比較例試料No.1〜15の各試料を作製した。
【0082】
〔試料の評価〕
実施例試料No.1〜17の各試料について、破断面を研磨し、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察し、WDX(波長分散型X線マイクロアナライザ)で組成をマッピング分析して結晶性複合酸化物を同定した。
【0083】
ここで、Rの含有モル量が8モル%以上、Niの含有モル量が3モル%以上、Alの含有モル量が3モル%以上、Tiの含有モル量が8モル%以上、及びRとNiとTiとAlの総含有モル量が50モル%以上の全てを満足する粒子相を結晶性複合酸化物が形成されていると判断した。
【0084】
また、TEM(透過型電子顕微鏡)で結晶性複合酸化物を観察し、EDS(エネルギー分散型X線検出法)で結晶性複合酸化物の組成分析を行い、Ni及びTiの含有モル量の総計に対するAlの含有モル量、すなわちモル比Al/(Ni+Ti)を算出した。
【0085】
また、モル比Al/(Ni+Ti)は、結晶性複合酸化物中の任意の3点を分析し、その平均値を算出して得た。
【0086】
次に、実施例試料No.1〜17及び比較例試料No.1〜15の各試料100個について、温度125℃で30Vの電圧を1000時間印加し(電界強度18.75kV/mm)、高温負荷試験を行い、絶縁抵抗が100kΩ以下になった試料を不良と判定して不良発生率を算出した。
【0087】
表1は実施例試料No.1〜17及び比較例試料No.1〜15の特定希土類元素Rの種類(実施例試料No.16、17については種類とモル比)、結晶性複合酸化物の存在の有無、モル比Al/(Ni+Ti)及び高温負荷試験の測定結果を示している。
【0088】
【表1】

【0089】
比較例試料No.1〜15は、R−Ni−Al−Ti−O系の複合酸化物を別途作製することなく、主成分粉末に対し、直接、R、NiO、Alを添加している。すなわち、結晶性複合酸化物が存在しないため、高温負荷試験での不良発生率が38〜100%となり、信頼性に欠けることが分かった。
【0090】
これに対し実施例試料No.1〜17は、誘電体セラミックが結晶性複合酸化物を含有しているので、高温負荷試験を行っても不良品が発生せず、信頼性に優れていることが確認された。
【0091】
また、実施例試料No.10について、XRD(X線回折装置)及びEDSを使用して結晶構造を調べた。尚、特性X線としては、いずれもCuΚαを使用した。
【0092】
図2は、XRDを使用して得られたX線回折スペクトルであり、横軸が回折角2θ(°)、縦軸がX線強度(a.u.)である。この図2では、結晶構造がY(Ni,Al)TiOと同一のYNiTiOを参照試料として示している。
【0093】
結晶性複合酸化物であるY(Ni,Al)TiOのピークがYNiTiOのピークと同一箇所で出現しており、Y(Ni,Al)TiOが形成されていることが確認された。
【0094】
図3は、実施例試料No.10のEDSスペクトルであり、横軸がエネルギー、縦軸は計数値を示している。
【0095】
この図3から明らかなように、Ni、Al、Y及びTiのそれぞれの出現位置でピークが出現しており、結晶性複合酸化物が存在していることが確認された。
【実施例2】
【0096】
〔試料の作製〕
〔実施例1〕と同様の方法・手順で、Ba1.01TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0097】
次に、Y、NiO、Al、TiOを用意し、表2に示すようにY、NiO、Al、TiOが、モル比で、Y:NiO:AlO3/2、TiO=2:x:y:xとなるように秤量した。そして、これら秤量物をボールミルで混合し、1025℃で熱処理し、Y−Ni−Al−Ti−O系の複合酸化物粉末を得た。
【0098】
次に、上記主成分粉末100モル部に対し、前記複合酸化物粉末が2モル部、BaCOが(x−0.2)モル部、SiOが1.5モル部、MnOが0.5モル部となるように、これらをボールミルで混合し、セラミック原料粉末を得た。
【0099】
その後は〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μm、1.4μmの各2種類の実施例試料No.21〜26、及び比較例試料No.21、22を作製した。
【0100】
〔試料の評価〕
〔実施例1〕と同様、各試料について、TEM−EDSを使用し、結晶性複合酸化物の組成分析を行い、さらに高温負荷試験を行った。
【0101】
表2は実施例試料No.21〜26及び比較例試料No.21、22における複合酸化物素原料のモル比(x,y,x)、モル比Al/(Ni+Ti)及び高温負荷試験の測定結果を示している。
【0102】
【表2】

【0103】
比較例試料No.21は、モル比Al/(Ni+Ti)が0.02と小さいため、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmでは不良発生率が36%に留まったが、厚みが1.4μmの薄膜になると、全数が不良品となった。
【0104】
比較例試料No.22は、モル比Al/(Ni+Ti)が0.63と大きいため、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmでは不良発生率は8%に留まったが、厚みが1.4μmの薄膜になると、全数が不良品となった。
【0105】
これに対し実施例試料No.21〜26は、モル比Al/(Ni+Ti)が0.05〜0.50と適度なモル比であるため、不良発生率が飛躍的に低減されることが分った。特に、モル比Al/(Ni+Ti)が0.16〜0.50の範囲では誘電体セラミック層の厚みを1.4μmに薄層化しても、不良品が発生しないことが確認された。
【実施例3】
【0106】
〔試料の作製〕
〔実施例1〕と同様の方法・手順でBa1.01TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0107】
次に、Y、NiO、Al、MgO、TiOを用意し、表3に示すようにY、NiO、Al、MgO、TiOがモル比でY:NiO:AlO3/2:MgO:TiO=2:x:y:z:(x+z)となるように秤量した。そして、これら秤量物をボールミルで混合し、1050℃で熱処理し、Y−Ni−Al−Mg−Ti−O系の複合酸化物粉末を得た。
【0108】
次に、上記主成分粉末100モル部に対し、前記複合酸化物粉末が1モル部、SiOが1.5モル、MnOが0.1モル部、CuOが0.3モル部となるように、これらをボールミルで混合し、セラミック原料粉末を得た。
【0109】
その後は〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μm、1.4μmの各2種類の実施例試料No.31〜43、及び比較例試料No.31〜33を作製した。
【0110】
〔試料の評価〕
〔実施例2〕と同様、各試料について、TEM−EDSを使用し、結晶性複合酸化物の組成分析を行い、さらに高温負荷試験を行った。
【0111】
尚、結晶性複合酸化物は、Yの含有モル量が8モル%以上、Niの含有モル量が2モル%以上、Alの含有モル量が2モル%以上、Mgの含有モル量が2モル%以上、Tiの含有モル量が8モル%以上、及びYとNiとMgとTiとAlの総含有モル量が50モル%以上の全てを満足する粒子相を結晶性複合酸化物が形成されていると判断した。
【0112】
表3は実施例試料No.31〜43及び比較例試料No.31〜33における複合酸化物素原料のモル比(x,y,z,(x+z))、モル比Al/(Ni+Ti+Mg)及び高温負荷試験の測定結果を示している。
【0113】
【表3】

【0114】
比較例試料No.31は、モル比Al/(Ni+Ti+Mg)が0.51と大きいため、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmでは不良発生率は23%に留まったが、厚みが1.4μmの薄膜になると、全数が不良品となった。
【0115】
また、比較例試料No.32、33は、元素比Mg/Alが2.7〜2.8と大きいため、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmでは不良発生率は8〜10%に留まったが、厚みが1.4μmの薄膜になると、不良発生率は67〜78%に増加した。
【0116】
これに対し実施例試料No.31〜43は、モル比Al/(Ni+Ti+Mg)が0.05〜0.40と適度なモル比であり、元素比Mg/Alが2.5以下であるので、不良発生率が大幅に抑制されることが分った。
【実施例4】
【0117】
〔試料の作製〕
(実施例No.51)
セラミック素原料として、BaCO、CaCO、SrCO、TiOを用意した。そしてこれらセラミック素原料を所定量秤量してPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1100℃の温度で約2時間、仮焼処理を施し、これにより平均粒径0.12μmの、(Ba0.965Ca0.020Sr0.0151.012TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0118】
そしてその後は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmと1.4μmの2種類の実施例試料No.51の試料を作製した。
【0119】
〔実施例試料No.52〕
セラミック素原料として、BaCO、TiO、及びZrOを用意した。そしてこれらセラミック素原料を所定量秤量してPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1100℃の温度で約2時間、仮焼処理を施し、これにより平均粒径0.12μmの、Ba(Ti0.95Zr0.15)Oからなる主成分粉末を作製した。
【0120】
そしてその後は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmと1.4μmの2種類の実施例試料No.52の試料を作製した。
【0121】
〔実施例試料No.53〕
セラミック素原料として、BaCO、CaCO、SrCO、TiO、及びZrOを用意した。そしてこれらセラミック素原料を所定量秤量してPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1100℃の温度で約2時間、仮焼処理を施し、これにより平均粒径0.12μmの(Ba0.965Ca0.020Sr0.0151.012(Ti0.95Zr0.15)Oからなる主成分粉末を作製した。
【0122】
そしてその後は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmと1.4μmの2種類の実施例試料No.53の試料を作製した。
【0123】
〔実施例試料No.54〕
〔実施例1〕と同様の方法・手順で、Ba1.01TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0124】
次いで、複合酸化物素原料としてY、NiO、Alを用意し、Y:NiO、Al=4:3:1のモル比となるように秤量した。そして、これら秤量物量をボールミル内で混合し、1025℃で熱処理を行って、Y−Ni−Al−O系の複合酸化物粉末を作製した。
【0125】
前記主成分粉末100モル部に対し、前記複合酸化物粉末が2モル部、SiOが1.5モル部となるように、これらをそれぞれ秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0126】
そしてその後は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmと1.4μmの2種類の実施例試料No.54の試料を作製した。
【0127】
〔実施例試料No.55〕
〔実施例1〕と同様の方法・手順で、Ba1.01TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0128】
次いで、複合酸化物素原料としてY、NiO、Al、TiO、MnOを用意し、Y:NiO、Al:TiO:MnO=4:3:1:3:1のモル比となるように秤量した。そして、これら秤量物量をボールミル内で混合し、1000℃で熱処理を行って、Y−Ni−Al−Ti−Mn−O系の複合酸化物粉末を作製した。
【0129】
前記主成分粉末100モル部に対し、前記複合酸化物粉末が2モル部、SiOが1.5モル部、BaCOが1.3モル部となるように、これらをそれぞれ秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0130】
そしてその後は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmと1.4μmの2種類の実施例試料No.55の試料を作製した。
【0131】
〔実施例試料No.56〕
〔実施例1〕と同様の方法・手順で、Ba1.01TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0132】
次いで、複合酸化物素原料としてY、NiO、Al、TiO、CuOを用意し、Y:NiO、Al:TiO:CuO=20:15:5:15:3のモル比となるように秤量した。そして、これら秤量物量をボールミル内で混合し、1000℃で熱処理を行って、Y−Ni−Al−Ti−Cu−O系の複合酸化物粉末を作製した。
【0133】
主成分粉末100モル部に対し、前記複合酸化物粉末が2モル部、SiOが1.5モル部、MnOが0.5モル部、BaCOが1.3モル部となるように、これらをそれぞれ秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0134】
そしてその後は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmと1.4μmの2種類の実施例試料No.56の試料を作製した。
【0135】
〔試料の評価〕
実施例1と同様の方法・手順により、各試料について、TEM−EDSを使用し、結晶性複合酸化物の組成分析を行い、さらに高温負荷試験を行った。
【0136】
表4は実施例試料No.51〜56の主成分組成とモル比Al/(Ni+Ti)、及び高温負荷試験の結果を示している。
【0137】
【表4】

【0138】
実施例試料No.51〜53から明らかなように、チタン酸バリウムにおいて、Baの一部をCa、Srで置換したり、或いはTiの一部をZrで置換した場合であっても、別途Y−Ni−Al−Ti−O系の結晶性複合酸化物を作製し、これを主成分粉末に添加して焼成することにより、誘電体セラミック層には前記結晶性複合酸化物が存在することから、高い信頼性が得られることが分かった。尚、Tiの一部をHfで置換した場合も同様の結果を得ることができることを確認している。
【0139】
実施例試料No.54は、Y、NiO、Alを混合して熱処理し、これらの複合酸化物粉末を主成分粉末に添加したものである。この場合もY−Ni−Al−Ti−O系の結晶性複合酸化物が存在するため、誘電体セラミック層の厚みが1.6μmで高い信頼性が得られたが、厚みが1.4μmに薄層化した場合は不良品が発生し、不良発生率が10%となった。
【0140】
これは、R−Ni−Al−Ti−O系結晶性複合酸化物を予め作製するのではなく、焼成工程で、主成分中のTiをR−Ni−Al−O系結晶性複合酸化物に固溶させ、これによりR−Ni−Al−Ti−O系結晶性複合酸化物を得るようにしているためと思われる。すなわち、信頼性向上の観点からは、結晶性複合酸化物を別途作製し、この結晶性複合酸化物を主成分粉末に混合させるのが好ましいと考えられる、このことは実施例試料No.54と実施例試料No.12(表2)との対比からも推測される。
【0141】
また、実施例試料No.55、56は、Y、Ni、Al、及びTiに加え、MnやCuを混合し、熱処理してY−Ni−Al−Ti−Mn−O系又はY−Ni−Al−Ti−Cu−O系の複合酸化物を形成している。この場合も、他の実施例試料と同様、高い信頼性が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
特定の希土類元素R、Ni、Al、Mgを含むチタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とする誘電体セラミックにおいて、高温雰囲気に長時間晒しても高信頼性を得ることができる。
【符号の説明】
【0143】
1a〜1g 誘電体セラミック層
2a〜2f 内部電極層
3 外部電極
10 セラミック焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とし、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの群から選択された少なくとも1種の希土類元素R、Mg、Ni、及びAlを含有し、
前記希土類元素R、Ni、Al及びTiを主成分とする結晶性複合酸化物が存在していることを特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
前記結晶性複合酸化物中のNi及びTiの含有量の総計に対するAlの含有量は、モル比で、
0.05≦Al/(Ni+Ti)≦0.5
を満足していることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
前記結晶性複合酸化物は、組成式R(Ni,Al)TiOで表されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
Mgが、前記結晶性複合酸化物に主成分として含まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミック。
【請求項5】
前記結晶性複合酸化物中のNi、Ti及びMgの含有量の総計に対するAlの含有量が、モル比で、
0.05≦Al/(Ni+Ti+Mg)≦0.4
を満足し、Alの含有量に対するMgの含有量が、元素比で、
0<Mg/Al≦2.5
を満足していることを特徴とする請求項4記載の誘電体セラミック。
【請求項6】
前記結晶性複合酸化物は、組成式R(Ni,Al,Mg)TiOで表されることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の誘電体セラミック。
【請求項7】
少なくともBa化合物及びTi化合物を含むセラミック素原料を出発原料としてチタン酸バリウム系複合酸化物からなる主成分粉末を作製する主成分粉末作製工程と、
Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの群から選択された少なくとも1種の希土類元素Rを含有した希土類化合物、Ni化合物、Al化合物、及びTi化合物を所定量秤量して熱処理を施し、結晶性複合酸化物を含む熱処理粉末を作製する熱処理粉末作製工程と、
少なくとも前記主成分粉末及び前記熱処理粉末を混合して成形し、成形体を作製する成形体作製工程と、
該成形体を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする誘電体セラミックの製造方法。
【請求項8】
誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層されて焼成されたセラミック焼結体を備え、該セラミック焼結体の両端部に外部電極が形成された積層セラミックコンデンサにおいて、
前記誘電体セラミック層が、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の誘電体セラミックで形成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−241636(P2010−241636A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91933(P2009−91933)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】