説明

誘電体磁器組成物の製造方法、電子部品及び積層セラミックコンデンサ

【課題】 積層セラミックコンデンサの誘電体層として使用し、微細な粒子から構成され、かつコンデンサを薄層化した場合においても、良好な電気特性や温度特性を有する誘電体磁器組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 チタン酸バリウムと、SiO及びCaOを主成分とするガラス成分と、添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、前記添加物成分の原料を除いて、前記チタン酸バリウムの原料と前記ガラス成分の原料を混合し、前記チタン酸バリウムの原料をBaTiOに換算したときの該BaTiO100モルに対する前記ガラス成分の原料の比率が、Ca量に換算して0〜2モル(但し、0モルと2モルを除く)である混合粉体を準備する工程と、準備された混合粉体を950℃未満で2時間超の時間、仮焼きして仮焼粉体を得る工程と、得られた仮焼粉体に前記添加物成分の原料を混合し、最終組成の誘電体原料を得る工程とを、有する誘電体磁器組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物の製造方法と、該方法により製造される誘電体磁器組成物と、該誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品とに、関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、近年、ますます小型大容量化が進んでおり、その取得容量を大きくするためには、積層セラミックコンデンサにおける1層あたりの誘電体層を薄層化することが不可欠である。
【0003】
しかしながら、誘電体層を何らの方策を講じることなしに薄層化していくと、電界強度の増加に伴って積層セラミックコンデンサの信頼性が低下し、またショート不良が多発するため、歩留まりも悪くなる傾向がある。
【0004】
こうした問題を解決する一つとして、誘電体層を構成する結晶粒を微細化する方法が考えられる。誘電体層は、誘電体粒子としての結晶粒と粒界とで構成されているから、結晶粒のサイズが大きいと、おのずと薄層化に限界が出てくるからである。その一方で、結晶粒の微細化が図れても、誘電率などの電気特性が悪ければ、電子部品市場からの要求に応えることは不可能である。
【0005】
従って、結晶粒を単に微細化するだけでなく、微細化した際においても、良好な電気特性(たとえば高い誘電率や静電容量の温度特性など)を維持することが必要である。
【0006】
ところで、積層セラミックコンデンサは、通常、内部電極層用のペーストと誘電体層用のペーストとを、シート法や印刷法等により積層し、一体同時焼成して製造される。内部電極層の導電材には、比較的安価なNiやNi合金等の卑金属が使用されている。内部電極層の導電材として卑金属を用いる場合、大気中で焼成を行なうと内部電極層が酸化してしまうため、誘電体層と内部電極層との同時焼成を、還元性雰囲気中で行なう必要がある。しかし、還元性雰囲気中で焼成すると、誘電体層が還元され、比抵抗が低くなってしまうため、非還元性の誘電体材料が提案されている。
【0007】
非還元性の誘電体材料として、現在、EIAJ(日本電子機械工業会規約)で規定するX7R特性(−55℃〜125℃の温度範囲で、25℃を基準に静電容量変化率が±15%以内)やX5R特性(−55℃〜85℃の温度範囲で、25℃を基準に静電容量変化率が±15%以内)、またはJIS規格で規定するB特性(−25〜85℃の温度範囲で、20℃を基準に静電容量変化率が±10%以内)を満足する静電容量の温度安定性の良好なものが主流とであり、種々の提案が為されている。
【0008】
たとえば、特許文献1では、チタン酸バリウムとガラス成分(Ba、Caの珪酸塩など)が前もって仮焼きされ、この仮焼きされた仮焼粉体に対して添加物成分を混合して誘電体材料を形成する「仮焼あり」の方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、チタン酸バリウムとガラス成分の混合体を950℃以上の高い温度で仮焼きするため、形成される仮焼粉体の粒径が大きくなりすぎ、結果として焼成後の結晶粒の微細化が図れず、誘電体層の薄層化が図れない不都合がある。
【0010】
なお、特許文献2や特許文献3では、チタン酸バリウム(BaTiO)において、Baの一部をCaに置換した組成式[(Ba1−x Ca)O]・TiOで表されるチタン酸バリウムカルシウムを主成分とする誘電体組成物が開示されている。具体的には、特許文献2では上記組成式中のxが0〜0.025の場合が記載されており、特許文献3では上記組成式中のxが0.02〜0.15の場合が記載されている。
【0011】
これら特許文献2及び3では、チタン酸バリウムカルシウムとガラス成分とが仮焼きされることなしに、混合され、さらに添加物成分を混合して誘電体材料を形成する「仮焼なし」の方法を採用しているが、「仮焼なし」の方法で誘電体磁器組成物を作成すると、その焼結体において、いわゆるコアシェル構造が形成され、焼結体粒径あたりの誘電率が高い値を得ることができない。
【特許文献1】特開2003−63862号公報
【特許文献2】特開平8−31232号公報
【特許文献3】特開平11−302071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、積層セラミックコンデンサの誘電体層として使用し、微細な粒子から構成され、かつコンデンサを薄層化した場合においても、良好な電気特性や温度特性を有する誘電体磁器組成物の製造方法と、
その製造方法により得られる誘電体磁器組成物と、
該誘電体磁器組成物を用いて製造され、良好な電気特性や温度特性を有し、信頼性の高い積層セラミックコンデンサなどの電子部品とを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、チタン酸バリウム(BaTiO)に対して、バリウム及び/またはカルシウムを含むガラス成分の一部もしくは全てを仮焼する、「仮焼あり」の方法を用いることによって、Caの量が少ない(2モル未満)領域では誘電率が飛躍的に向上すること、及び低い仮焼温度で長い時間、仮焼きすることで、仮焼後の仮焼粉体の粒成長を抑制でき、その結果、焼成後の結晶粒の微細化が図れ、ひいては誘電体層の薄層化に寄与できること、を見出し、この知見を下に本発明を完成させるに至った。
【0014】
その一方で、Caの量が多い(2モル以上)領域ではガラス成分を仮焼き前に含めて仮焼きする「仮焼あり」の方法でも、チタン酸バリウムカルシウムとガラス成分が仮焼きされることなしに混合される「仮焼なし」の方法でも、得られる焼結体の誘電率に差がないことを確認した。
【0015】
すなわち、本発明によれば、
チタン酸バリウムと、
SiO及びCaOを主成分とするガラス成分と、
添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記チタン酸バリウムの原料と、少なくとも前記ガラス成分の原料を混合し、前記チタン酸バリウムの原料をBaTiOに換算したときの該BaTiO100モルに対する前記ガラス成分の原料の比率が、Ca量に換算して0〜2モル(但し、0モルと2モルを除く)である混合粉体を準備する工程と、
準備された混合粉体を950℃未満で2時間超の時間、仮焼きして仮焼粉体を得る工程と、
得られた仮焼粉体に前記混合粉体を準備する際に除いた原料を混合し、最終組成の誘電体原料を得る工程とを、有する誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
本発明では、混合粉体中には、チタン酸バリウムの原料の他に、少なくともガラス成分の原料が混合されていればよく、さらに添加物成分の原料の一部が混合されていてもよい。ただし、混合粉体中には、チタン酸バリウムの原料とガラス成分の原料のみが混合されており、添加物成分の原料が除かれていることが好ましい。
【0016】
すなわち、本発明によれば、
チタン酸バリウムと、
SiO及びCaOを主成分とするガラス成分と、
添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記添加物成分の原料を除いて、前記チタン酸バリウムの原料と前記ガラス成分の原料を混合し、前記チタン酸バリウムの原料をBaTiOに換算したときの該BaTiO100モルに対する前記ガラス成分の原料の比率が、Ca量に換算して0〜2モル(但し、0モルと2モルを除く)である混合粉体を準備する工程と、
準備された混合粉体を950℃未満で2時間超の時間、仮焼きして仮焼粉体を得る工程と、
得られた仮焼粉体に前記添加物成分の原料を混合し、最終組成の誘電体原料を得る工程とを、有する誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
なお、混合粉体中で除かれる添加物成分の原料は、最終組成に対する全量が好ましいが、その一部であってもよい。
【0017】
好ましくは、前記ガラス成分の原料が、SiO及びCaOを主成分とし、さらにMO(但し、Mは、Ca以外のアルカリ土類金属元素の1種以上)を含む。
好ましくは、前記ガラス成分の原料が、(Ba1−x Ca)SiO(但し、x=0.3〜0.7)であり、該(Ba1−x Ca)SiOは、好ましくは、BaCO、CaCO及びSiOを所定の組成比となるように混合し、仮焼きして作製されたものである。
【0018】
好ましくは、650℃以上で前記混合粉体を仮焼きする。
【0019】
好ましくは、前記添加物成分の原料が、少なくとも、Mg化合物と、Mn化合物及びCr化合物の一方又は双方とを含有し、
Mg化合物をMgOに、Mn化合物をMnOに、Cr化合物をCrに換算したとき、
前記BaTiO100モルに対する比率が、Mg化合物:0.1〜3モル、Mn化合物+Cr化合物:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)である。
【0020】
好ましくは、前記添加物成分の原料が、さらに、V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物から選ばれる1種または2種以上を含有し、
V化合物をVに、W化合物をWOに、Ta化合物をTaに、Nb化合物をNbに換算したとき、
前記BaTiO100モルに対する比率が、V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)である。
【0021】
好ましくは、前記添加物成分の原料が、さらに、R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上)の化合物を含有し、
Rの化合物をRに換算したとき、
前記BaTiO100モルに対する比率が、Rの化合物:0〜5モル(但し、0モルを除く)である。
【0022】
好ましくは、前記Rの化合物が、Y、DyおよびHoから選ばれる1種または2種以上の化合物である。
【0023】
特に好ましい本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、上記全ての条件を満足するケースである。
【0024】
本発明によれば、上記いずれかの方法で製造された誘電体磁器組成物であって、
結晶粒と粒界とで構成されており、
該粒界には、CaがCaOに換算して0.3重量%以下の割合で含まれている誘電体磁器組成物が提供される。
【0025】
本発明に係る電子部品は、上記誘電体磁器組成物で構成された誘電体層を有する。電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【0026】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、上記誘電体磁器組成物で構成された誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体を有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、Baの一部を置換するCaの量が少ない領域において、チタン酸バリウムと特定組成のガラス成分を仮焼きした仮焼粉体を用いて誘電体原料を形成する。その結果、仮焼きせずに、各原料を混合して誘電体原料を形成した場合と比較して、焼成後の磁器組成物(焼結体)の誘電率が飛躍的に向上する。また、本発明では、低い仮焼温度(950℃未満)で、長い時間(2時間超)、仮焼きする。このため、仮焼後の仮焼粉体の粒径の肥大を抑制でき、その結果、焼成後の結晶粒の微細化を図ることができ(たとえば結晶粒の平均粒径を0.3μm以下にできる)、ひいては誘電体層の薄層化(たとえば誘電体層の一層あたりの厚みを4.5μm以下にできる)に寄与できる。
【0028】
すなわち、本発明によれば、積層セラミックコンデンサの誘電体層として使用し、微細な粒子から構成され、かつコンデンサを薄層化した場合においても、良好な電気特性や温度特性を有する誘電体磁器組成物の製造方法と、その製造方法により得られる誘電体磁器組成物と、該誘電体磁器組成物を用いて製造され、良好な電気特性や温度特性を有し、信頼性の高い積層セラミックコンデンサなどの電子部品とを、提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2は本実施例におけるガラス成分原料中のCa量と結晶粒1μmあたりの比誘電率εとの関係を示すグラフである。
【0030】
本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法について説明する前に、まず、電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサについて説明する。
【0031】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両側端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。
【0032】
一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0033】
コンデンサ素子本体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
【0034】
誘電体層2は、本発明の製造方法により得られる誘電体磁器組成物を含有する。
【0035】
本発明の製造方法により得られる誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムと、SiO及びCaOを主成分とするガラス成分と、添加物成分とを有する誘電体磁器組成物で構成してある。
【0036】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、結晶粒(グレイン)と粒界で構成される。 結晶粒は、組成式[(Ba1−x Ca)O]・TiOで表され、前記組成式中のxが0〜0.02(但し、0と0.02を除く)であるチタン酸バリウムカルシウムを主成分とする。結晶粒の平均粒径(=グレインサイズG.S.)は、0.3μm以下、好ましくは0.28μm以下と微細化されている。平均粒径の下限は特に限定されないが、通常0.02μm程度である。
【0037】
粒界は、誘電体材料(ガラス成分中のSiOの大半、CaOの極一部、添加物成分の一部)あるいは内部電極材料を構成する材質の酸化物や、別途添加された材質の酸化物、さらには工程中に不純物として混入する材質の酸化物を成分とし、通常は主としてガラスないしガラス質で構成される。特に、本実施形態の粒界には、粒内(中心部)と比較してCaがCaOに換算して5倍以下、好ましくは3倍以下で含有されている。(粒界のCaO量/粒内のCaO量)が多すぎると誘電率が低下する。
【0038】
なお、Siについては、結晶粒内へ固溶し難い性質を持っており、混合粉体の仮焼きの際に、粒界へと押し出され、その大半が粒界中に収まるものと考えられる。本実施形態での粒界には、SiがSiOに換算して0.5〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%含有されている。
【0039】
添加物成分は、本実施形態では、
Mg酸化物と、
Mn酸化物及びCr酸化物の一方又は双方と、
V酸化物、W酸化物、Ta酸化物及びNb酸化物から選ばれる1種または2種以上と、
R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上、好ましくはY、Dy及びHoから選ばれる1種または2種以上)の酸化物とを、含有することが好ましい。
【0040】
本明細書では、誘電体磁器組成物を構成する各酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各成分の上記比率は、各成分を構成する酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物に換算して求める。
【0041】
誘電体層2の積層数や厚み等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよいが、本実施形態では、一対の内部電極層3に挟まれる誘電体層2の厚みは、4.5μm以下、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは2.5μm以下と薄層化されている。
【0042】
内部電極層3は、実質的に電極として作用する卑金属の導電材で構成されることが好ましい。導電材として用いる卑金属としては、Ni又はNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,Co,CuおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.05〜3μm、特に0.1〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0043】
外部電極4は、通常Ni,Pd,Ag,Au,Cu,Pt,Rh,Ru,Ir等の少なくとも1種又はそれらの合金で構成される。通常は、Cu,Cu合金、Ni又はNi合金等や、Ag,Ag−Pd合金、In−Ga合金等が使用される。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0044】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1を製造する方法の一例を説明する。
【0045】
(1)本実施形態では、焼成後に図1に示す誘電体層2を形成するための焼成前誘電体層を構成することとなる誘電体層用ペーストと、焼成後に図1に示す内部電極層3を形成するための焼成前内部電極層を構成することとなる内部電極層用ペーストを準備する。また、外部電極用ペーストも準備する。
【0046】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0047】
(1−1)本実施形態で用いる誘電体原料は、上述した誘電体磁器組成物を構成する各原料を所定の組成比で含有する。このため、まずは、上記各原料たるチタン酸バリウム原料と、ガラス成分原料と、添加物成分原料とを準備する。
【0048】
チタン酸バリウム原料としては、ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有し、A/B値(組成式ABOにおけるAサイトを構成する成分のモル数を、Bサイトを構成する成分のモル数で除した値)が、好ましくは0.990〜1.035、より好ましくは0.995〜1.02、さらに好ましくは1.000〜1.009であるものが用いられる。
【0049】
A/B値が小さすぎると、粒成長を生じ、高温負荷寿命が悪化する傾向にあり、A/B値が大きすぎると、焼結性が低下し、焼成が困難になる傾向にある。
【0050】
A/B値の測定は、蛍光X線分析法やIPC分析などにより行うことができる。蛍光X線分析法では、チタン酸バリウムにX線を照射することにより発生する各構成元素の特性X線を検出することにより、チタン酸バリウム中に存在する各成分の存在比を重量比で測定することができる。そして、各成分の重量比より、各元素のモル数を計算し、Aサイトに入る元素(Ba)のモル数を、Bサイトに入る元素(Ti)のモル数で除すことによりA/B値を求めることができる。
【0051】
本実施形態では、好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.03〜0.27μmの平均粒径を持つチタン酸バリウム原料を用いる。粒径が大きすぎると焼成後の結晶粒の微細化が困難となる傾向にあり、小さすぎると原料粉末が非常に微細であるため、製造時における原料粉末の分散が著しく困難となり分散不良が発生し、コンデンサとしての性能の低下の原因となる傾向にある。
【0052】
チタン酸バリウム原料の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、固相法、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法などが例示される。
【0053】
ガラス成分原料としては、SiO及びCaOを主成分とするものが用いられる。ガラス成分原料中のSiOは焼結助剤として作用し、CaOは静電容量の温度特性を改善する効果を示す。
【0054】
ガラス成分原料は、SiO及びCaOを主成分としていればよく、その他の酸化物を含有していてもよい。その他の酸化物としては、Ca以外のアルカリ土類金属の酸化物であることが好ましい。Ca以外のアルカリ土類金属としては、好ましくはBa、Srであり、より好ましくは少なくともBaである。つまり、上述したガラス成分原料は、SiO及びCaOを主成分とし、さらに少なくともBaOを含むものであることが特に好ましい。この場合のCa以外のアルカリ土類金属の酸化物は、CaOと同様の作用を発揮する。
【0055】
本実施形態で用いるガラス成分原料は、混合物の形態でもよいし、あるいは複合酸化物の形態で用いてもよい。ただし、本実施形態では、混合物の形態よりも融点が低くなる複合酸化物の形態で用いることが好ましい。
【0056】
混合物の形態としては、Ca化合物(CaOやCaCOなど)+Si化合物(SiOなど)+Ba化合物(BaOやBaCOなど)や、Ca化合物+Si化合物+Sr化合物(SrOやSrCOなど)などが例示される。
【0057】
複合酸化物の形態としては、(Ba1−x Ca)SiOや、(Sr1−x Ca)SiOなどが例示される。上記式中のxは、好ましくは0.3〜0.7であり、さらに好ましくは0.35〜0.50である。xが小さすぎると温度特性が劣化する傾向があり、xが大きすぎると誘電率が低下する傾向がある。
【0058】
本実施形態では、添加物成分原料として、
Mg化合物と、
Mn化合物及びCr化合物の一方又は双方と、
V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物から選ばれる1種または2種以上と、
R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上、好ましくはY、Dy及びHoから選ばれる1種または2種以上)の化合物とを、用いる場合を例示する。
【0059】
Mg化合物は、容量温度特性を平坦化させる効果および粒成長を抑制する効果がある。Mn化合物及びCr化合物は、焼結を促進する効果と、IR(絶縁抵抗)を高くする効果と、高温負荷寿命を向上させる効果とがある。V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物は、高温負荷寿命を向上させる効果がある。Rの化合物は、主として、高温負荷寿命を向上させる効果を示す。
【0060】
なお、Mg化合物とは酸化マグネシウム及び/又は焼成後に酸化マグネシウムになる化合物を意味し、Mn化合物とは酸化マンガン及び/又は焼成後に酸化マンガンになる化合物を意味し、Cr化合物とは酸化クロム及び/又は焼成後に酸化クロムになる化合物を意味する。
【0061】
V化合物とは酸化バナジウム及び/又は焼成後に酸化バナジウムになる化合物を意味し、W化合物とは酸化タングステン及び/又は焼成後に酸化タングステンになる化合物を意味し、Ta化合物とは酸化タンタル及び/又は焼成後に酸化タンタルになる化合物を意味し、Nb化合物とは酸化ニオブ及び/又は焼成後に酸化ニオブになる化合物を意味する。
【0062】
Rの化合物とはR酸化物及び/又は焼成後にR酸化物になる化合物を意味する。
【0063】
(1−2)次に、本実施形態では、添加物成分原料を除いて、チタン酸バリウム原料とガラス成分原料とを混合し、混合粉体を得る。
【0064】
ガラス成分原料の混合量は、SiO及びCaOともに、BaTiO100モルに対して同量であって、かつ0〜2モル(但し、0モルと2モルを除く)、好ましくは0〜0.6モル(但し、0モルを除く)である。SiOの含有量が多すぎると比誘電率が低下する傾向にあり、0モルであると焼結できない。CaOの含有量が多すぎると焼結性が悪化すると共に、仮焼なしの場合と比較して飛躍的な比誘電率の向上が望めず、0モルであると異常粒成長が生じる。
【0065】
ガラス成分原料がBaOなどのその他の酸化物を含有する場合には、CaOとその他の酸化物の合計で、上記モル数となるように、添加することが好ましい。
【0066】
本発明者らは、上記範囲でガラス成分原料を添加し、後述の仮焼きに供することで、仮焼後の仮焼粉体の粒径の肥大を抑制でき、その結果、焼成後の結晶粒の平均粒径を0.3μm以下にでき、ひいては誘電体層の一層あたりの厚みを4.5μm以下にできることを見出した。
【0067】
(1−3)次に、この混合粉体を仮焼きして仮焼粉体を得る。
【0068】
本発明では、低い仮焼き保持温度で、仮焼きを行う点に特徴がある。
【0069】
仮焼き保持温度は、950℃未満、好ましくは945℃以下、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは850℃以下、特に好ましくは800℃以下である。仮焼きの保持温度が高すぎると、仮焼粉体の平均粒径が0.3μm以上と大きくなりすぎることに伴い、焼結後の誘電体磁器組成物中のグレインサイズが0.3μmを超え、結果的に誘電体層2の薄層化が困難となる傾向がある。なお、グレインサイズが0.3μmを超えた場合に誘電体層2の薄層化が困難となる理由は、ショート不良が増加することによる。その一方で、仮焼き保持温度が低すぎると、反応が不十分となる不都合を生じるので、その下限は、好ましくは650℃、より好ましくは700℃、さらに好ましくは750℃である。
【0070】
また、本発明では、長い仮焼き保持時間で、仮焼きを行う点にも特徴がある。
【0071】
仮焼き保持時間は、2時間超、好ましくは2.5時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは4時間以上である。上述したように本発明では低い仮焼き保持温度で仮焼きを行うが、この場合に仮焼き保持時間が短すぎると、
仮焼後の粗粒さらには焼結体に粗粒が多くなる。その一方で、仮焼き保持時間が長すぎると、仮焼粉の粒径が大きくなり、しかも経済的ではないので、その上限は、好ましくは12時間、より好ましくは10時間である。
【0072】
その他の仮焼き条件は、次に示す条件で行うことが好ましい。昇温速度:50〜400℃/時間、特に100〜300℃/時間、雰囲気:空気中および窒素中、である。
【0073】
(1−4)次に、仮焼粉体をアルミナロールなどで粗粉砕した後、添加物成分原料を混合して、最終組成にする。
【0074】
前記BaTiO100モルに対する添加物成分原料の混合量(比率)は、次の通りである。
Mg化合物をMgOに、Mn化合物をMnOに、Cr化合物をCrに、V化合物をVに、W化合物をWOに、Ta化合物をTaに、Nb化合物をNbに、Rの化合物をRに換算したとき、
好ましくは、
Mg化合物:0.1〜3モル、
Mn化合物+Cr化合物:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)、
V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)、
Rの化合物:0〜5モル(但し、0モルを除く)であり、
より好ましくは、
Mg化合物:0.5〜2.0モル、
Mn化合物+Cr化合物:0〜0.25モル(但し、0モルを除く)、
V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0.01〜0.1モル、
Rの化合物:1〜3.5モルである。
Mg化合物の添加量が少なすぎると異常粒成長が生じる傾向にあり、多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。Mn化合物及びCr化合物の合計添加量が多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物の合計添加量が多すぎると、IRが著しく低下する傾向にある。Rの化合物の添加量が多すぎると焼結性が悪化する傾向にある。
【0075】
その後、この混合粉末を、必要に応じて、ボールミルなどで純水などの分散媒とともに混合し、乾燥することによって、誘電体原料を得る。
【0076】
なお、上記成分で構成される誘電体原料は、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0077】
なお、誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0078】
塗料化する前の状態で、誘電体原料の平均粒径は、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.1〜0.28μm程度とされる。
【0079】
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、例えばエチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂などの通常の各種バインダを用いることができる。溶剤も、特に限定されるものではなく、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン、キシレン、エタノールなどの有機溶剤が用いられる。
【0080】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と、水中に水溶性バインダを溶解させたビヒクルを混練して、形成することもできる。水溶性バインダは、特に限定されるものではなく、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョンなどが用いられる。
【0081】
内部電極層用ペーストは、上述した各種導電性金属や合金からなる導電材料あるいは焼成後に上述した導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。
【0082】
外部電極用ペーストも、この内部電極層用ペーストと同様にして調製される。
【0083】
各ペーストの有機ビヒクルの含有量は、特に限定されず、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されても良い。
【0084】
(2)次に、上記誘電体原料を含有する誘電体層用ペーストと、内部電極層用ペーストとを用いて、焼成前誘電体層と焼成前内部電極層とが積層されたグリーンチップを作製し、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を経て形成された、焼結体で構成されるコンデンサ素子本体10に、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成して、積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0085】
本実施形態では、チタン酸バリウムとガラス成分の混合粉体を低い仮焼き温度で長い時間で仮焼きする。次に、仮焼きして得られた仮焼粉体に対して添加物成分を混合して誘電体原料を得る。次に、この誘電体原料を用いて誘電体磁器組成物で構成される誘電体層2を形成する。その結果、焼成後の結晶粒の微細化が可能となり、誘電体層を薄層化した場合においても、良好な電気特性(たとえば高い比誘電率)や、B特性を満足する良好な温度特性を有する積層セラミックコンデンサ1を得ることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0087】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記組成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0089】
実施例1
誘電体原料の作製
まず、チタン酸バリウム原料、ガラス成分原料及び添加物成分原料を用意した。
【0090】
チタン酸バリウム原料としては、平均粒径0.17μmのBaTiOを用いた。
【0091】
ガラス成分原料としては、BaCO,CaCOおよびSiOを表1に示す割合でボールミルにより16時間湿式混合し、乾燥後、1150℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルにより100時間湿式粉砕することにより得られた複合酸化物(あるいは酸化物)を用いた。
【0092】
添加物成分原料としては、平均粒径が0.01〜0.1μmの、MgO、MnO、Y及びVを用いた。
【0093】
試料1〜11においては、BaTiOとガラス成分原料を混合し、水を溶媒としてボールミルで16時間混合した。その後130℃で熱風乾燥することにより、混合粉体を準備した。混合粉体は、100モルのBaTiOに対して0.3〜10モル(表1参照)のガラス成分原料が含有してあった。なお、表1中の「Ca量」が、本発明でいう「Ca量に換算したときのガラス成分原料の添加量」に相当する。
【0094】
次に、得られた混合粉体を#300メッシュパスに通した後、φ55に成型し、仮焼き後のSSAが6m/gとなるような温度T1(750℃以上950℃未満)で、4時間、空気中で仮焼きを行い、仮焼粉体を得た。
【0095】
仮焼粉体の平均粒径の測定
得られた仮焼粉体を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、個々の粒子の粒径を画像処理を用いて円相当径を測定した。ここでの平均粒径は、測定点数250点の円相当径の平均値とした。評価基準は0.3μm未満である場合を良好としたが、いずれの試料も0.3μm未満であり、良好であることが確認できた(試料1〜11)。
【0096】
次に、仮焼粉体を解砕し、#300メッシュパスを通した後、さらにこの解砕粉に対して、添加物成分原料としてのMgO、MnO、Y、Vを添加し、再び水混合を行った。その後、熱風乾燥させて誘電体原料を得た。
【0097】
試料1−1〜11−1においては、BaTiOと、ガラス成分原料(添加割合は表1を参照)と、添加物成分原料としてのMgO、MnO、Y、Vとを混合し、水を溶媒としてボールミルで16時間混合した。その後130℃で熱風乾燥することにより、誘電体原料を得た。
【0098】
誘電体原料は、100モルのBaTiOに対して、0.3〜10モル(表1参照)のガラス成分原料と、MgO:1.2モル、MnO:0.1モル、Y:0.75モル、V:0.05モルが含有してあった。
【0099】
得られた誘電体原料にポリビニルブチラール樹脂およびエタノール系の有機溶媒を添加し、再度ボールミルで混合し、ペースト化して誘電体層用ペーストを得た。
次に、Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極用ペーストを得た。
得られた誘電体層用ペーストを用いてドクターブレード法により、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。この上に内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により印刷した。その後、ふたとなるグリーンシートをPETフィルムから剥離し、厚さが約300μmとなるように複数枚積層し、その上に内部電極用ペーストを印刷したシートをPETフィルムから剥離しつつ所望の枚数(この場合は5枚)積層し、更に再びふたとなるグリーンシートを積層し、圧着して、グリーンチップを得た。なお、このとき、グリーン状態の誘電体層の厚みは、4.5μmとした。
次いで、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、チップ焼結体を得た。
脱バインダ処理条件は、昇温速度:32.5℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1180〜1240℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガスとした。アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガスとした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウェッターを用いた。
得られた焼結体のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4であった。
【0100】
焼結体(誘電体磁器組成物)中の粒界中のCaO量の測定
得られた焼結体を厚み10μmまで加工した後、イオンミリングにより試料をさらに薄片化した。その後、走査型透過電子顕微鏡(TEM)にて観察を行い、結晶粒(グレイン)と粒界により構成されていることを確認した。さらにその試料において粒界部と結晶粒内のCa量の定量分析を行った。任意の粒界部20点の平均として、粒界中のCaO量の測定を行った。結果を表1に示す。
焼結体中の結晶粒の平均粒径の測定
得られた焼結体を研磨し、エッチングを施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて研磨面の観察を行い、コード法によって、結晶粒(グレイン)の形状を球と仮定して、該結晶粒の平均粒径を測定した。結晶粒の平均粒径は、測定点数250点の平均値とした。評価基準は、グレインサイズG.S.が0.3μm以下である場合を良好とした。結果を表1に示す。
誘電体厚みの測定
得られた焼結体を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨し、その研磨面の複数箇所を金属顕微鏡で観察した。次に、金属顕微鏡で観察した画像についてデジタル処理を行うことにより焼結後の誘電体層の平均厚みを求めた。各試料の誘電体層の平均厚みは、3.5μmであった。
【0101】
コンデンサ試料の作製
得られたチップ焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0102】
コンデンサ試料の特性評価
得られた各コンデンサ試料について、結晶粒1μmあたりの比誘電率ε及び静電容量の温度特性(TC)を評価した。
【0103】
結晶粒1μmあたりの比誘電率εについては、まず、得られたコンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4284)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1Vrms/μmの条件下で、静電容量Cを測定した。そして、得られた静電容量から、比誘電率ε(単位なし)を算出した。次に、得られた比誘電率εを、上記方法によって測定した結晶粒の平均粒径で除し、結晶粒1μmあたりの比誘電率εを求めた。結晶粒1μmあたりの比誘電率は大きいほど好ましい。本実施例での評価基準は、結晶粒1μmあたりの比誘電率が10000以上である場合を良好とした。
【0104】
静電容量の温度特性TCについては、EIAJ規格のX5R特性について評価した。つまり、コンデンサ試料に対し、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で、静電容量を測定し、基準温度を25℃としたとき、−55〜85℃の温度範囲内で、温度に対する静電容量変化率(ΔC/C)がEIAJ規格のX5R特性を満足する(±15%以内)かどうかを調べ、満足する場合を○、満足しない場合を×とした。
【0105】
結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1に示すように、混合粉体中の100モルのBaTiOに対するガラス成分原料の含有量がCa量に換算して2モル以上の試料7〜9及び7−1〜9−1では、仮焼ありでもなしでも、結晶粒1μmあたりの比誘電率εの値に差はない。ガラス成分原料の含有量がCa量に換算して0モルの試料10,11,10−1及び11−1についても同様である。
【0108】
これに対し、混合粉体中の100モルのBaTiOに対するガラス成分原料の含有量がCa量に換算して0モル超2モル未満の試料1〜6及び1−1〜6−1では、ほぼ10000以上のεが得られているが、図2に示すように仮焼ありの試料1〜6の方が、仮焼なしの試料1−1〜6−1と比較して、結晶粒1μmあたりの比誘電率εが向上していることが確認できる。特に、Ca換算のガラス成分原料の含有量が0.6モル以下の場合に、εの飛躍的な向上が見られる(試料1〜4と試料1−1〜4−1を比較)。
【0109】
温度特性TCについては、仮焼きありの試料では、混合粉体中の100モルのBaTiOに対するガラス成分原料の含有量がCa量に換算して2.0モル以上ではX5R特性を満たさない。また、仮焼きなしの試料では、Ca量に換算して0.6〜4.0モルの範囲でX5R特性を満たすが、0.6モル未満ではX5R特性を満たさない。
【0110】
実施例2
混合粉体の仮焼温度を表2に示すように変化させた場合の、仮焼粉体の平均粒径を実施例1と同様にして算出した。結果を表2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
表2に示すように、仮焼温度が950℃以上であると、仮焼粉体の平均粒径が0.3μm以上となり、表中では省略しているが、焼結後の誘電体磁器組成物中のグレインサイズが0.3μmを超え、結果的に誘電体層2の薄層化が困難となる。その一方で、仮焼温度が950℃未満であると、仮焼粉体の平均粒径が0.3μm未満となり、表中では省略しているが、焼結後の誘電体磁器組成物中のグレインサイズが0.3μm以下となり、誘電体層2の薄層化が期待される。
【0113】
実施例3
実施例2の試料3−9をベースにし(仮焼温度850℃、仮焼時間4時間)、混合粉体の仮焼時間を1.5時間、2時間、2.5時間、3時間と変化させた場合の、仮焼粉体の平均粒径を実施例1と同様にして算出した。
【0114】
その結果、仮焼時間が2時間、1.5時間と短いと、仮焼粉に粗粒が多くなることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は本実施例におけるガラス成分原料中のCa量と結晶粒1μmあたりの比誘電率εとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0116】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムと、
SiO及びCaOを主成分とするガラス成分と、
添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記チタン酸バリウムの原料と、少なくとも前記ガラス成分の原料を混合し、前記チタン酸バリウムの原料をBaTiOに換算したときの該BaTiO100モルに対する前記ガラス成分の原料の比率が、Ca量に換算して0〜2モル(但し、0モルと2モルを除く)である混合粉体を準備する工程と、
準備された混合粉体を950℃未満で2時間超の時間、仮焼きして仮焼粉体を得る工程と、
得られた仮焼粉体に前記混合粉体を準備する際に除いた原料を混合し、最終組成の誘電体原料を得る工程とを、有する誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
チタン酸バリウムと、
SiO及びCaOを主成分とするガラス成分と、
添加物成分とを有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記添加物成分の原料を除いて、前記チタン酸バリウムの原料と前記ガラス成分の原料を混合し、前記チタン酸バリウムの原料をBaTiOに換算したときの該BaTiO100モルに対する前記ガラス成分の原料の比率が、Ca量に換算して0〜2モル(但し、0モルと2モルを除く)である混合粉体を準備する工程と、
準備された混合粉体を950℃未満で2時間超の時間、仮焼きして仮焼粉体を得る工程と、
得られた仮焼粉体に前記添加物成分の原料を混合し、最終組成の誘電体原料を得る工程とを、有する誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス成分の原料が、SiO及びCaOを主成分とし、さらにMO(但し、Mは、Ca以外のアルカリ土類金属元素の1種以上)を含む、請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス成分の原料が、(Ba1−x Ca)SiO(但し、x=0.3〜0.7)である、請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項5】
前記(Ba1−x Ca)SiOが、BaCO、CaCO及びSiOを所定の組成比となるように混合し、仮焼きして作製されたものである請求項4に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
650℃以上で前記混合粉体を仮焼きする請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
前記添加物成分の原料が、少なくとも、Mg化合物と、Mn化合物及びCr化合物の一方又は双方とを含有し、
Mg化合物をMgOに、Mn化合物をMnOに、Cr化合物をCrに換算したとき、
前記BaTiO100モルに対する比率が、
Mg化合物:0.1〜3モル、
Mn化合物+Cr化合物:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)である、請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項8】
前記添加物成分の原料が、さらに、V化合物、W化合物、Ta化合物及びNb化合物から選ばれる1種または2種以上を含有し、
V化合物をVに、W化合物をWOに、Ta化合物をTaに、Nb化合物をNbに換算したとき、
前記BaTiO100モルに対する比率が、
V化合物+W化合物+Ta化合物+Nb化合物:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)である、請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
前記添加物成分の原料が、さらに、R(但し、Rは、Sc、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選ばれる1種又は2種以上)の化合物を含有し、
Rの化合物をRに換算したとき、
前記BaTiO100モルに対する比率が、
Rの化合物:0〜5モル(但し、0モルを除く)である、請求項1〜8のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−27939(P2006−27939A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207510(P2004−207510)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】