説明

質量スペクトルと略同時に吸収・発光・散乱スペクトルを分析する分析装置および分析方法、並びに、エレクトロスプレーイオン化法を用いた質量分析装置および分析方法

濃度の高い被験試料をイオン気化した分析装置(10)のイオン化室に、イオン導入量制御手段(8)を設け、イオン引出電極(9)に導入する被験試料イオンの量を制御するため、質量スペクトルの分析および吸収・発光・散乱スペクトルの分析を略同時に行うことができる分析装置を提供することができる。さらに、スプレイヤー(104)に導入される前の上記被験試料溶液を冷却する低温浴(106)と、上記スプレイヤーおよび、上記スプレイヤー(104)に導入された上記被験試料溶液を冷却する、上記スプレイヤーとは独立した構造の冷却ガス導入管(108)とを備えことにより、高電圧印加時における被験試料の加熱を効果的に抑制することが可能となることから、極低温下でのみ安定な被験試料を用いた場合であっても、質量スペクトル分析と吸収・発光・散乱スペクトル分析とを略同時に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量スペクトルと略同時に吸収・発光・散乱スペクトルを分析する分析装置および分析方法、並びに、エレクトロスプレーイオン化法を用いた質量分析装置および分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬分野等において、蛋白質や核酸などの生体高分子および、薬物の同定といった研究として、これらの分子構造の解析は重要度を増している。分子構造の解析として、特に質量分析法が知られている。また近年では、有機金属錯体の解析も盛んに行われ、上記と同じく、質量分析法が用いられている。
【0003】
質量分析法において、これまでに様々なイオン化法が研究開発されており、試料の特性に応じてこれらのイオン化法の中から最適なものが用いられる。その中の一つとして知られているエレクトロスプレーイオン化法は、エレクトロスプレー(静電噴霧)現象を利用した方法である。このイオン化法は、試料分子のイオン化に際して、高熱をかけたり高エネルギー粒子を衝突させたりしないため、非常にソフトなイオン化法であるという特徴をもつ。したがって、このエレクトロスプレーイオン化法を用いて行うエレクトロスプレーイオン化質量分析法は、蛋白質、核酸などの生体高分子および、薬物の同定、並びに有機金属錯体などの分子構造を解析する上で、これらの試料をほとんど破壊することなく、容易にイオン化できるということから、これらの試料を用いた研究分野においては、その分析手段として欠かせないものとなっている。
【0004】
また上記質量分析と同様、赤外、可視、紫外などの各種吸収・発光・散乱スペクトルも、溶液中における蛋白質等の生体高分子および、有機金属錯体等のみならず、種々の化学物質の構造情報を得るために欠くことのできない分析手段であることが知られている。なお、上記質量分析を含め、これら各種のスペクトルを利用した化合物の構造決定に際しては、最低2つ以上の異なる分析手法を用いて総合的に判断することにより、より信頼性の高い分析結果が得られる。
【0005】
このように2つの分析手法を同時に行うことができるものとしてLC−MS/NMRの(JEOL社製)ような技術が開発されているが、NMR解析は化学反応の中間体のように、非常に寿命の短い化学種の構造決定は困難である。
【0006】
一方、上述した吸収・発光・散乱スペクトルおよび、質量スペクトルは、短時間で測定が可能であるということから、非常に寿命の短い化学種の構造決定に好適である。すなわち、被験試料をこれら複数のスペクトル分析手段によって略同時に実時間で測定することが出来れば、不安定な反応中間体等の構造に関する正確な解析が可能となる。
【0007】
上述したように、吸収・発光・散乱スペクトルおよび、質量スペクトルは何れも短時間で測定が可能であるということが知られており、かつ、これらの分析手法により生体反応の直接観察、モデル金属錯体を用いた生体機能の解明、化学反応における反応中間体の解析等の重要な情報が得られる。そのため、非特許文献1(杉本直己編「生命化学のニューセントラルドクマ」化学同人出版(2002年))には、同一の被験試料を用いて、吸収・発光・散乱スペクトルおよび、質量スペクトルを略同時に実時間で測定するという技術構想が本願発明者らによって提案されている。
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1には、吸収・発光・散乱スペクトル、および、質量スペクトルの略同時測定を実現するための手段については何ら開示されていない。そのため、現状では、質量スペクトルと、吸収・発光・散乱スペクトルとを、同じ反応液から略同時にサンプリングし、分析することは不可能であった。
【0009】
この理由としては、吸収・発光・散乱スペクトル(赤外吸収スペクトル、可視・紫外吸収スペクトル、発光スペクトル、ラマン散乱スペクトル)と、質量スペクトル分析との間で、被験試料の最適濃度に差があることが挙げられる。具体的に説明すると、以下の通りである。
【0010】
一般に、質量分析を、具体的には上述したエレクトロスプレー質量分析を行うための被験試料の最適濃度は、10μmol/L以下であるのに対し、赤外吸収スペクトルを測定するための最適濃度は1mmol/L以上、可視・紫外吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定するための最適濃度は100μmol/L〜10mmol/L、ラマン散乱スペクトルを測定するための最適濃度は10μmol/L〜1mmol/Lである。すなわち、エレクトロスプレー質量分析と、各種のスペクトル測定の間には、場合によって1000倍以上の最適濃度差が存在する。したがって、同じ被験試料溶液から質量スペクトルの測定と吸収・発光・散乱スペクトルの測定とを略同時に行うことは不可能であった。
【0011】
例えば、吸収・発光・散乱スペクトル測定用に調整された比較的濃度の高い被験試料溶液を用いて質量スペクトルを測定しようとすると、イオン気化された多量の被験試料イオンが、質量分析部に流入し、高電流が流れて装置回路の損傷などが起こる可能性がある。また、比較的濃度の高い被験試料溶液を希釈することで質量スペクトルを測定しようとすると、約1000倍の希釈が必要となり、その系の状態や時間などを考慮すると、同時測定ということが実質的に困難となるため、好ましい方法ではない。
【0012】
ところで、上記エレクトロスプレーイオン化法を用いた場合であっても、イオン化の際に試料イオンの分子構造が破壊されてしまうという問題が生じていた。これは、プラチナなどの遷移金属錯体の自己集合によって高度な秩序を備えた超分子化合物などの場合に生じていた。これらの金属錯体は、エレクトロスプレーイオン化法によるイオン化に対しても不安定であり、イオン気化の際に加わる熱によって分子構造の破壊が起きていた。
【0013】
この問題を解決するために、イオン気化の際の試料イオンの加熱を抑えるための手段を設けたエレクトロスプレーイオン化法が開発された。この方法は、コールドスプレー・イオン化法と呼ばれている。コールドスプレー・イオン化法を備えるエレクトロスプレーイオン化質量分析装置として、被験試料を溶媒とともにイオン気化する段階、すなわちスプレー細管より被験試料および溶媒が排出される段階にて、冷却された気化用不活性ガスを用い、さらに、脱溶媒チャンバーまたはイオン源ブロックに対して液体窒素を用いることで、イオン気化される液滴の加熱を抑える装置が特許文献1(特開2000−285847号公報(2000年10月13日公開))に開示されている。これにより、イオン気化の際の試料イオンの加熱を抑えることが可能となった。
【0014】
さらに、ネブライジングガスの温度制御を行うことによって、ネブライジングガスを任意の温度に設定し、特許文献1のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置よりも効率的にイオン気化の際の加熱を抑える装置が特許文献2(特開2003−157793号公報(2003年5月30日公開))に開示されている。
【0015】
しかしながら、上記特許文献に開示されているエレクトロスプレーイオン化質量分析装置はそれぞれ、イオン気化される液滴の加熱を抑えるという点に着目し、加熱を抑制・低減する手段を設けたものである。すなわち、イオン気化における高電圧印加による温度上昇が原因となって生じる試料イオンの分子構造の破壊を防止する目的において冷却手段を備えている。したがって、これらのエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、−45℃以下のような極低温下でしか安定ではない試料の質量分析を行う場合には適用が困難であるという問題が生じる。
【0016】
すなわち、上述した特許文献1および2はともに、冷却手段を用いてネブライジングガスを冷却し、高電圧印加によってイオン気化される被験試料に生じる加熱を抑制するエレクトロスプレーイオン化質量分析装置である。すなわち、冷却されたネブライジングガスが、加熱による試料イオンの分子構造の破壊を防止できるというものである。しかしながら、これらは共通して、以下の2点の問題点を有する。
【0017】
まず1つ目として、上述したようなネブライジングガスによる冷却および、脱溶媒チャンバーの冷却は、高電圧が印加された後の帯電した被験試料(電荷液滴)を間接的に冷却しているに過ぎない。すなわち、被験試料には高電圧が印加された時点から熱が加えられているので、特に熱に対して非常に不安定な被験試料を分析する場合においては、既に熱が加えられてしまった被験試料は分子構造が破壊されており、これを冷却しても、何ら効果が得られず、分析が不可能となってしまう。
【0018】
すなわち、これらの文献に開示されているエレクトロスプレーイオン化質量分析装置では、高電圧を印加する前の被験試料を冷却するような手段が設けられていない。極低温下でのみ安定な被験試料を用いる場合は特に、高電圧を印加する前の被験試料の温度も、後の高電圧印加における発熱の抑制に影響を与えるため、高電圧を印加する前の被験試料の温度は少なくとも、被験試料が安定である温度、より好ましくは被験試料が安定である温度よりも低温な状態にしておく必要がある。したがって、開示されている上述したような装置では、極低温下でのみ安定な被験試料の質量分析を行うには、不十分な構成となっている。
【0019】
また、特許文献2に関しては、予め作成した補正表によって誤差を補正し、精密な温度制御を行うとしているが、温度調節器によって設定された温度と、実際の被験試料が冷却される温度との間には、差があるため、被験試料の温度が、設定された温度以上になってしまう可能性があり、上記と同じく、被験試料イオンの熱による破壊を完全に防ぐものではない。
【0020】
さらに2つ目は、これらエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の構造は、被験試料溶液を排出するキャピラリーと、上記キャピラリーと同軸形状をなし、ネブライシングガスを通すシース管とを備えたスプレイヤーを備えている。
【0021】
具体的には、上記シース管の外周が、高電圧が印加されるスプレイヤーに繋がった構造となっている。このような構造を備えている場合に、シース管に冷却したネブライジングガスを通すと、当該シース管とその外部環境との温度差から、上記シース管の外周に結露を生じる可能性が高い。なお、この現象は、本発明におけるエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の好適な被験試料として挙げられる約−45℃以下のような極低温でしか安定ではなく、熱によって不安定になる試料を用いた場合に顕著にみられる。
【0022】
すなわち、極低温下でのみ安定な被験試料は、そのイオン気化時に加えられる熱を最低限に抑えなくてはならないため、その冷却手段であるネブライジングガスの温度は、上記極低温以下となっている。このように、シース管の外周に結露を生じた場合に、上述したような構造であるエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、その結露が何らかの理由でスプレイヤーの高電圧印加部に流れてしまうと、高電圧を印加したときに漏電や感電を引き起こしてしまうという危険性がある。
【0023】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、質量スペクトルの分析および吸収・発光・散乱スペクトルの分析を略同時に行うことができる分析装置であるとともに、極低温下でしか安定ではなく、熱によって不安定になる試料を用いた場合であっても、熱による分解を生じることなく質量分析できる上記分析装置を提供し、さらに、極低温下でしか安定ではなく、熱によって不安定になる試料を用いた場合であっても、熱による分解を生じることなく質量分析できるエレクトロスプレーイオン化質量分析装置を提供することにある。
【発明の開示】
【0024】
まず、本願発明者らは、上記の問題点に鑑みて鋭意検討した結果、吸収・発光・散乱スペクトルの測定に用いる比較的高濃度な被験試料を用いた場合であっても、イオン気化することができ、質量スペクトルが測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0025】
すなわち、本発明に係る分析装置は、吸収スペクトル・発光スペクトル・散乱スペクトルの中の少なくとも1つを分析する吸収・発光・散乱スペクトル分析計と、質量スペクトルを分析する質量スペクトル分析計とを備えた分析装置であって、上記吸収・発光・散乱スペクトル分析計と上記質量スペクトル分析計とは、同一の被験試料を分析対象としており、上記質量スペクトル分析計内には、イオン気化された被験試料イオンのイオン量を制御するイオン導入量制御手段が備えられていることを特徴としている。
【0026】
反応中間体のように不安定な被験試料を複数のスペクトルにより解析する場合、スペクトルの分析は短時間で行う必要がある。吸収・発光・散乱スペクトルおよび、質量スペクトルは何れも短時間で測定が可能であるということが知られており、かつ、これらの分析手法は、生体反応の直接観察、モデル金属錯体を用いた生体機能の解明、化学反応における反応中間体の解析等の重要な情報が得られることが知られている。しかしながら、このような場合に、複数のスペクトルそれぞれに対して個別に被験試料溶液を設けると、それぞれの被験試料溶液の反応段階には、僅かではあっても差が生じる可能性が高いため、複数のスペクトルによる分析結果に差が生じる。そのため、同一の被験試料からこれら複数のスペクトルを分析できる装置の開発が望まれていた。
【0027】
しかしながら上述したように、これまでは、上記質量スペクトルを測定する装置において、最適濃度差の問題から、上記吸収・発光・散乱スペクトルを同時に測定できる装置は存在しなかった。
【0028】
そこで、上述した分析装置を用いることで、質量スペクトル分析では、被験試料の濃度が質量スペクトル分析における最適濃度よりも高濃度であった場合でも正常なスペクトル分析が可能となる。すなわち、最適濃度よりも高濃度でイオン気化された被験試料イオンの量を上記イオン導入量制御手段によって制御し、質量分析部に導入することができるため、正常な質量スペクトル分析が可能となる。上述したように吸収・発光・散乱スペクトル分析に用いられる被験試料の最適濃度は、質量スペクトル分析における最適濃度よりも高濃度である。したがって、本発明の分析装置は、最適濃度差の問題を解消し、質量スペクトル分析と吸収・発光・散乱スペクトル分析とを略同時に行うことができる。質量スペクトル分析と吸収・発光・散乱スペクトルル分析とを同一の被験試料を用いて、略同時に行うことができることによって、生体反応の直接観察、モデル金属錯体を用いた生体機能の解明、化学反応における反応中間体の解析等において複数のスペクトルによる解析が可能となることから信頼性の高い情報を得ることができる。
【0029】
また、本発明に係る分析装置は、上記イオン導入量制御手段が、上記質量スペクトル分析計に設けられたイオン化室内に備えられていることが好ましい。
【0030】
これにより、本発明に用いられる被験試料の濃度は、質量スペクトル分析における最適濃度よりも高濃度であっても、正常な質量スペクトル分析を行うことができる。
【0031】
すなわち、最適濃度よりも高濃度の被験試料を質量スペクトル分析に用いた場合であっても、イオン気化された多量の被験試料イオン量を上記イオン導入量制御手段によって制御できる。そのため、最適なイオン量を質量分析部に導入させることができる。したがって、質量分析部を損傷することなく、正確な質量スペクトルが分析できる。
【0032】
また、本発明に係る分析装置は、上記イオン導入量制御手段が、位置調整ノブによって位置調整できることが好ましい。
【0033】
イオン気化される被験試料イオンの量および、キャピラリーの先端からイオン引出電極(オリフィス)の方向へ排出される被験試料イオンの移動度は、被験試料を溶解させる溶媒によって異なるため、これらの条件によって質量スペクトル分析計に導入される被験試料イオン量は異なってくる。すなわち、これらの条件によって被験試料イオン量の制御量も異なってくる。
【0034】
したがって、上記イオン導入量制御手段が上記位置調整ノブによって位置調整を行うことができることにより、質量スペクトル分析計に導入される被験試料イオン量を最適な量に制御することが可能となる。
【0035】
また、本発明に係る分析装置は、上記イオン導入量制御手段が、非導電性材料であることが好ましい。
【0036】
これにより、被験試料の高電圧印加、すなわち被験試料のイオン気化を妨げることなく、質量分析部に導入される被験試料イオン量を制御することが可能となる。
【0037】
また、本発明に係る分析装置は、上記イオン導入量制御手段が、網目構造であることが好ましい。
【0038】
上述した構成とすることで、キャピラリーの先端から排出された被験試料イオン自体に影響を与えることなく、その量を制御することが可能となる。すなわち、被験試料イオンのイオン引出電極への導入量を、例えば他の電極を設けることにより制御した場合、装置全体のバランスが崩れるばかりでなく、高価なものとなってしまう。被験試料イオン全体に影響を及ぼしてしまうため、正確な質量スペクトル測定ができなくなる。
【0039】
そこで、被験試料イオンの制御を、被験試料イオンが網目を通るか通らないかによって制御する方法を用いることにより、質量分析部に導入したい被験試料イオンには何ら影響を及ぼすことなく、質量分析部に導入することができるため、正確な質量スペクトルの測定を行うことが可能となる。
【0040】
また、上記イオン導入量制御手段は、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の構造を変えるものではなく、網目構造の上記イオン導入量制御手段を従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置に付属させる構成であることから、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の製造効率を大きく変えることなく、容易に高濃度の被験試料に対応することができる分析装置を提供することが可能となる。
【0041】
また、本発明に係る分析装置において、上記イオン導入量制御手段の網目構造を構成する貫通穴の径は、1μm〜5mmの範囲であることが好ましい。
【0042】
このような構成とすることにより、多種の高濃度被験試料に対応することができる。すなわち、イオン気化される被験試料は、その種類によって濡れ性などが異なる。ここで本発明における濡れ性とは、イオン気化された被験試料のイオン導入量制御手段に対する親和性のことである。そのため、上記網目構造を構成する貫通穴の大きさは、被験試料の性質に対応する必要がある。すなわち、上記貫通穴の大きさを上記の範囲とすることで、様々な種類の高濃度被験試料に応じることができ、どのような高濃度被験試料であっても常に一定のイオン量を質量分析部に導入することが可能となる。
【0043】
したがって、様々な種類の高濃度被験試料に対して、上記貫通穴の大きさを変化させることのみで、対応することができ、正確な質量分析スペクトルを測定することが可能となる。
【0044】
ここで、上記吸収・発光・散乱スペクトル分析計とは、赤外吸収スペクトル、可視・紫外吸収スペクトル、蛍光スペクトル、ラマン散乱スペクトルの中の少なくとも1つを分析するものである。
【0045】
また、本発明に係る分析装置は、上記被験試料が、温度制御されることが好ましい。
【0046】
これにより、被験試料をより正確に測定することが可能となる。すなわち、例えば被験試料の温度によってその反応速度が遅くなるような被験試料である場合に、その反応中間体を測定しようとすると、温度を制御しながら測定されることが好ましい。したがって、上記の構成とすることにより、被験試料のより正確な情報を得ることが可能となる。
【0047】
さらに、本願発明者らは、上記の問題点に鑑みて鋭意検討した結果、スプレイヤーに導入される前の被験試料を冷却することで、イオン気化に伴い発生する熱をより効果的に抑えることができることを見出した。
【0048】
そこで、本発明に係る分析装置は、上記質量スペクトル分析計が、高電圧を印加して上記被験試料溶液をイオン気化するスプレイヤーが設けられたエレクトロスプレーイオン化質量分析計であるとともに、上記吸収・発光・散乱スペクトル分析計および質量スペクトル分析計に導入される前の上記被験試料溶液を冷却する第1冷却手段と、上記スプレイヤーと、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料とを冷却する第2冷却手段を備えていることが好ましい。
【0049】
これにより、上記の効果に加えて、イオン気化する上記被験試料に発生する熱を効果的に冷却することができる。具体的には、上記スプレイヤーに導入される前の上記被験試料溶液を第1冷却手段によって冷却することから、従来の装置と比較し、被験試料を効果的に冷却することが可能となる。
【0050】
また、本発明に係る分析装置は、上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーとは独立した構造であることが好ましい。
【0051】
これにより、上記の効果に加えて、上記被験試料は、上記第2冷却手段によって直接的に冷却されるため、高電圧印加時における当該被験試料の加熱を効果的に抑制することが可能となる。
【0052】
また、上述した構造とすることにより、上記スプレイヤーを過剰に冷却する場合であっても、ネブライジングガスをスプレイヤーの冷却手段としないため、上述したような漏電が起こる危険性はなくなる。
【0053】
また、上記の構成とすることにより、極低温下でのみ安定な被験試料の質量分析を可能にする。
【0054】
また、本発明に係る分析装置は、上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーにおける高電圧印加部を少なくとも含む領域を冷却することが好ましい。
【0055】
上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーにおける少なくとも高電圧印加部を含む領域を冷却する構成にすることで、発熱源である上記スプレイヤーの高電圧印加部およびその周辺を集中的に冷却することが可能となる。
【0056】
したがって、本発明に係る分析装置は、上記の効果に加えて、高電圧が印加される被験試料を効果的に冷却することが可能となり、イオン気化時に熱による被験試料イオンの分子構造破壊を一層抑えることが可能となる。
【0057】
また、本発明に係る分析装置は、上記第2冷却手段が、低温不活性ガスを排出するガス導入管であることが好ましい。
【0058】
これにより、上記スプレイヤーを効果的に冷却することができる。すなわち、ガス導入管の開口部を、上記スプレイヤーの冷却したい部分近傍に近づけることが可能であるため、効果的にスプレイヤーの冷却を行うことが出来る。
【0059】
また、導入管であるため、低温(極低温)の冷却ガスの温度を上げることなくスプレイヤー近くで排出することが可能となる。したがって、本発明の分析装置は、上記スプレイヤーおよび、高電圧が印加される被験試料を、効果的に冷却することが可能となり、イオン気化時に発生する熱を一層抑えることが可能となる。すなわち、イオン気化時に熱による被験試料イオンの分子構造破壊を一層抑えることが可能となる。
【0060】
また、本発明に係る分析装置は、上記低温不活性ガスの排出方向が、高電圧が印加された被験試料の排出を補助するネブライシングガスの排出方向に対して、30°〜60°傾斜していることが好ましい。
【0061】
上記低温不活性ガスの排出方向を上述した範囲にすることで、ネブライジングガスおよび被験試料の排出を妨げることなく、効果的にスプレイヤーを冷却することが可能となる。
【0062】
さらに、上記の範囲の傾斜にすることで、低温不活性ガスがネブライジングガスの排出方向に同調するように排出する。すなわち、冷却されている上記低温不活性ガスはネブライジングガスとともに、キャピラリーから排出される被験試料の移動を補助していることになる。そのため、ネブライジングガスの温度は、低温不活性ガスの温度に影響され低温になり、キャピラリーから排出された被験試料イオンの冷却を行うことも可能となる。
【0063】
また、本発明に係る分析装置は、上記低温不活性ガスの排出口における単位面積当たりの排出流量が、高電圧が印加された被験試料の排出を補助するネブライシングガスの排出口における単位面積当たりの排出流量以下であることが好ましい。
【0064】
上記ネブライシングガスは、上述したように上記キャピラリーから排出される霧状の被験試料のイオン引出電極への効果的な導入を補助するためのものであるため、上記低温不活性ガスは、ネブライジングガスの排出に影響を与えない程度の排出速度である必要がある。そのため、上記ネブライシングガスの排出速度以下とすることにより、上記キャピラリーから排出される霧状の被験試料を排出方向に影響を与えることなく、スプレイヤーを冷却することが可能となる。なお、ここで排出口における単位面積当たりの排出流量とは、mL/(分×cm)の単位で表される数値である。
【0065】
また、本発明に係る分析装置は、上記第1冷却手段および第2冷却手段が、温度調節可能な構成となっていることが好ましい。
【0066】
これにより、分析する被験試料がイオン気化する最適な温度条件に制御することが可能であるため、それぞれ異なる被験試料の温度条件に合わせ、正確な分析を行うことができる。
【0067】
また、本発明に係る分析装置において、上記被験試料は、反応溶液であり、反応開始から数秒で反応が終結するものであることが好ましい。
【0068】
このような被験試料を用いる場合に、本発明に係る分析装置は、高い効果を有するものである。すなわち、同一のサンプルから、略同時に、短時間で測定を行うことのできる各種スペクトルを複数用いて測定することができるため、反応開始から数秒で反応を終結する被験試料であっても、反応中間体について正確な情報を得ることが可能となる。
【0069】
さらに、本発明に係る分析方法は、被験試料の吸収スペクトル、発光スペクトル、散乱スペクトルを分析する吸収・発光・散乱スペクトル分析工程と、上記被験試料と同一の被験試料をイオン気化して得られる被験試料イオンの量を制御して質量スペクトルを分析する質量スペクトル分析工程とからなる分析方法であって、上記吸収・発光・散乱スペクトル分析工程と上記質量スペクトル分析工程とが略同時に実時間で行われることを特徴としている。
【0070】
これにより、刻一刻と変化する化学反応溶液のような被験試料を、吸収・発光・散乱スペクトルと質量スペクトルによって、両者を略同時に、かつ、実時間で分析することができる。すなわち、これまでに問題とされてきた両者の最適濃度差の違いを、イオン気化された被験試料イオンの量を制御することによって解消することにより、化学反応の反応中間体の構造などを、得られた複数のスペクトルから正確に分析・把握することが可能となる。
【0071】
なお、上記「実時間で」とは、「経時的に」ということであり、刻一刻と変化する化学反応溶液のような被験試料を経時的に分析するということを意味している。
【0072】
また、本発明に係る分析方法は、上記質量スペクトル分析工程におけるイオン化法が、高電圧を印加して被験試料溶液をイオン気化するスプレイヤーを用いて当該被験試料の質量分析を行うエレクトロスプレーイオン化法を用いて行われるとともに、上記吸収・発光・散乱スペクトル分析工程と質量スペクトル分析工程とに供される前の上記被験試料溶液を冷却する第1冷却工程と、上記スプレイヤーおよび、上記第1冷却工程にて冷却され、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料溶液を冷却し、上記スプレイヤーに高電圧を印加して被験試料溶液をイオン気化する第2冷却工程とを含み、上記質量分析工程では、上記第2冷却工程によって冷却された上記被験試料の質量分析を行うことが好ましい。
【0073】
エレクトロスプレーイオン化法を用いることにより、被験試料は溶液状態のままで質量スペクトル分析を行うことが可能となる。また被験試料溶液を測定できることから、溶液中における反応過程を反応開始から反応終結まで実時間でスペクトルを解析することが可能となる。また、上述したようにエレクトロスプレーイオン化法はエレクトロスプレー(静電噴霧)現象を利用している。したがって、蛋白質、核酸などの生体高分子および、薬物の同定、並びに有機金属錯体などの分子構造を解析する場合に、これらの試料をほとんど破壊することがなく、容易にイオン化することができる。
【0074】
したがって、これらの試料を用いてその反応中間体等の分析を行う場合に、エレクトロスプレーイオン化法を用いることで、正確な質量スペクトルを測定することができる。
【0075】
さらに、上記の構成とすることにより、イオン気化する場合に被験試料に発生する熱によってその分子構造が破壊されることを抑制することができる。
【0076】
また、本発明に係る分析方法は、上記第2冷却工程では、上記被験試料が上記スプレイヤーに導入される前に、予め上記スプレイヤーを冷却していることが好ましい。
【0077】
これにより、上記スプレイヤーは、被験試料溶液が導入される前に予め冷却されており、被験試料溶液に高電圧が印加される直前まで、当該被験試料溶液を低温に保った状態を維持できる。したがって、被験試料溶液を効果的に冷却できることから、イオン気化する場合に被験試料に発生する熱によってその分子構造が破壊されることを抑制することができる。
【0078】
また、本発明に係る分析方法は、上記被験試料が、−45℃以下でのみ安定な試料であることが好ましい。
【0079】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記の問題を解決するために、高電圧を印加して被験試料をイオン気化するスプレイヤーを備えたエレクトロスプレーイオン化質量分析装置であって、上記スプレイヤーに導入される前の上記被験試料を冷却する第1冷却手段と、上記スプレイヤーおよび、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料を冷却する第2冷却手段とを備えていることを特徴としている。
【0080】
これにより、イオン気化する上記被験試料に発生する熱を効果的に冷却することができる。具体的に説明すると、以下の通りである。
【0081】
エレクトロスプレーイオン化質量分析装置を用いた質量分析では、上述したようにエレクトロスプレー(静電噴霧)現象を利用している。したがって、蛋白質、核酸などの生体高分子および、薬物の同定、並びに有機金属錯体などの分子構造を解析する場合に、これらの試料をほとんど破壊することがなく、容易にイオン化することができる。そのため、これらの試料を用いた研究において、この装置は、その構造解析手段の一つとして欠かせないものとなっている。
【0082】
しかしながら、上述したように、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置では、熱に不安定な有機金属錯体などを被験試料として用いた場合に、発熱に対する抑制が十分ではない。特に、極低温下でのみ安定な被験試料を分析する場合においては、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置を用いたのでは、被験試料イオンが破壊されてしまう。また、熱に対する対処法として挙げられている冷却方法に関しても、上述したように、ネブライジングガスを冷却する方法を用いた特許文献1および2では、上述した通り、それぞれに問題点があり、結果的に、極低温下でのみ安定な被験試料の分析には対応しきれない装置となっている。
【0083】
そこで、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記スプレイヤーに導入される前の上記被験試料溶液を冷却する第1冷却手段と、上記スプレイヤーおよび、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料溶液を冷却する第2冷却手段とを備えた構成とする。すなわち、イオン気化する被験試料に対して、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、2段階の冷却手段を備えている。特に第1冷却手段によって、上記スプレイヤーに導入される前の上記被験試料を冷却することから、従来の装置と比較し、被験試料を効果的に冷却することが可能となる。
【0084】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーとは独立した構造であることが好ましい。
【0085】
これにより、上記被験試料は、上記第2冷却手段によって直接的に冷却されるため、高電圧印加時における当該被験試料の加熱を効果的に抑制することが可能となる。
【0086】
すなわち、特許文献1および2に記載されているエレクトロスプレーイオン化質量分析装置では、上述したように、冷却されたネブライジングガスが通るシース管が、スプレイヤーと繋がった構造であったため、当該シース管の外周に生じた結露が、高電圧が印加されるスプレイヤーに影響し、漏電や感電を起こす可能性があった。
【0087】
そこで、上述した構造とすることにより、上記スプレイヤーを過剰に冷却する場合であっても、ネブライジングガスをスプレイヤーの冷却手段としないため、上述したような漏電が起こる危険性はなくなる。
【0088】
したがって、本発明のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、被験試料に対して2段階の冷却手段を備え、かつ、高電圧が印加される被験試料を直接冷却することから、イオン気化に伴い被験試料イオンに発生する熱を効果的に抑えることができ、極低温下でのみ安定な被験試料の質量分析を可能にする。
【0089】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーにおける少なくとも高電圧印加部を含む領域を冷却することが好ましい。
【0090】
特許文献1および2に記載されているエレクトロスプレーイオン化質量分析装置で用いられていた冷却方法とは、イオン気化時に発熱する被験試料の熱を抑え、被験試料イオンの分子構造の破壊を防止するために、液体窒素などの冷媒で冷却したネブライジングガスおよび脱溶液チャンバーを介して、間接的に帯電した被験試料を冷却するものであった。この冷却方法は、効果的に被験試料を冷却するものではなく、特に、被験試料が極低温下においてのみ安定な試料である場合に、このような不十分な冷却は分子構造の破壊を招く危険性が高いものとなる。
【0091】
そこで、上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーにおける少なくとも高電圧印加部を含む領域を冷却する構成にすることで、発熱源である上記スプレイヤーの高電圧印加部およびその周辺を集中的に冷却することが可能となる。
【0092】
したがって、高電圧が印加される被験試料を、効果的に冷却することが可能となり、イオン気化時に熱による被験試料イオンの分子構造破壊を一層抑えることが可能となる。
【0093】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記第2冷却手段が、低温不活性ガスを排出するガス導入管であることが好ましい。
【0094】
これにより、上記スプレイヤーを効果的に冷却することができる。すなわち、ガス導入管の開口部を、上記スプレイヤーの冷却したい部分近傍に近づけることが可能であるため、効果的にスプレイヤーの冷却を行うことが出来る。
【0095】
また、導入管であるため、低温(極低温)の冷却ガスの温度を上げることなくスプレイヤー近くで排出することが可能となる。
【0096】
したがって、本発明のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記スプレイヤーおよび、高電圧が印加される被験試料を、効果的に冷却することが可能となり、イオン気化時に発生する熱を一層抑えることが可能となる。すなわち、イオン気化時に熱による被験試料イオンの分子構造破壊を一層抑えることが可能となる。
【0097】
また、上述した上記第2冷却手段は、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の構造を変えるものではなく、上記第2冷却手段を従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置に付属させる構成であることから、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の製造効率を大きく変えることなく、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置を提供することが可能となる。
【0098】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記低温不活性ガスの排出方向が、高電圧が印加された被験試料溶液の排出を補助するネブライシングガスの排出方向に対して、30°〜60°傾斜していることが好ましい。
【0099】
上記ネブライシングガスとは、排出される霧状の被験試料のイオン引出電極への効果的な導入を補助するためのものである。したがって、低温不活性ガスが、上述した方向でスプレイヤーに向かって排出されることにより、低温不活性ガスはネブライジングガスの排出方向を変位させることなく、スプレイヤーを効果的に冷却することが可能となる。上述した範囲を外れ、ネブライシングガスの排出方向に対して30°未満となると、効果的に上記低温不活性ガスがスプレイヤーを冷却することができず、ネブライシングガスの排出方向に対して60°以上となると、上記低温不活性ガスの排出が、ネブライシングガスの排出方向を妨げることになる。
【0100】
すなわち、上記低温不活性ガスの排出方向を上述した範囲にすることで、ネブライジングガスおよび被験試料の排出を妨げることなく、効果的にスプレイヤーを冷却することが可能となる。
【0101】
さらに、上記の範囲の傾斜にすることで、低温不活性ガスがネブライジングガスの排出方向に同調するように排出する。すなわち、冷却されている上記低温不活性ガスはネブライジングガスとともに、キャピラリーから排出される被験試料の移動を補助していることになる。そのため、ネブライジングガスの温度は、低温不活性ガスの温度に影響され低温になり、キャピラリーから排出された被験試料イオンの冷却を行うことも可能となる。
【0102】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記低温不活性ガスの排出口における単位面積当たりの排出流量が、高電圧が印加された被験試料溶液の排出を補助するネブライシングガスの排出口における単位面積当たりの排出流量以下で排出されることが好ましい。
【0103】
上記ネブライシングガスは、上述したように上記キャピラリーから排出される霧状の被験試料のイオン引出電極への効果的な導入を補助するためのものであるため、上記低温不活性ガスは、ネブライジングガスの排出に影響を与えない程度の排出速度である必要がある。そのため、上記ネブライシングガスの排出速度以下とすることにより、上記キャピラリーから排出される霧状の被験試料を排出方向に影響を与えることなく、スプレイヤーを冷却することが可能となる。なお、ここで排出口における単位面積当たりの排出流量とは、mL/(分×cm)の単位で表される数値である。
【0104】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置は、上記第1冷却手段および第2冷却手段は、温度調節可能な構成となっていることが好ましい。
【0105】
これにより、分析する被験試料がイオン気化する最適な温度条件に制御することが可能であるため、それぞれ異なる被験試料の温度条件に合わせ、正確な分析を行うことができる。
【0106】
特許文献1および2に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置では、スプレイヤーに設けられた高電圧印加部に連結したシース管に、冷却したネブライジングガスを通していたため、シース管の外周に生じた結露が、電圧が印加される部分に達し、漏電が生じる危険性があった。これは、特に、被験試料が極低温下においてのみ安定な試料である場合に、ネブライジングガスが過剰に冷却されるため、このような状況が顕著に現れる。そこで、本発明では、冷却していない通常のネブライジングガスを用いることにより、シース管の外周に結露が生じないため、漏電の危険性はない。
【0107】
したがって、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置では、被験試料およびスプレイヤーを過剰に冷却する必要があった場合であっても、その冷却をネブライジングガスによって行うものではないことから、安全なエレクトロスプレーイオン化質量分析装置を提供することが可能である。
【0108】
さらに、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析方法では、高電圧を印加して被験試料溶液をイオン気化するスプレイヤーを備えたエレクトロスプレーイオン化質量分析方法であって、上記スプレイヤーに導入される前の上記被験試料溶液を冷却する第1冷却工程と、上記スプレイヤーおよび、上記第1冷却工程にて冷却され、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料溶液を冷却する第2冷却工程とを備え、上記第2冷却工程の間に、スプレイヤーに高電圧が印加され、被験試料溶液をイオン気化することを特徴としている。
【0109】
これにより、イオン気化する場合に被験試料に発生する熱によってその分子構造が破壊されることを抑制することができる。
【0110】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析方法では、上記第2冷却工程は、上記被験試料溶液が上記スプレイヤーに導入される前に予め上記スプレイヤーを冷却していることが好ましい。
【0111】
これにより、上記スプレイヤーは、被験試料溶液が導入される前に予め冷却されており、被験試料溶液に高電圧が印加される直前まで、当該被験試料溶液を低温に保った状態を維持できる。
【0112】
したがって、被験試料溶液を効果的に冷却できることから、イオン気化する場合に被験試料に発生する熱によってその分子構造が破壊されることを抑制することができる。
【0113】
また、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析方法では、上記被験試料が、−45℃以下でのみ安定な試料であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明に係る分析装置の基本構造を示した斜視図である。
【図2】本発明に係る分析装置のイオン化室を拡大した斜視図である。
【図3】本発明に係る分析装置の実施例における鉄(III)錯体と13−HPODとの化学反応式である。
【図4】(a)は、本発明に係る分析装置の実施例における鉄(III)錯体と13−HPODとの反応開始時(0秒)の質量スペクトルを示したグラフ図および、質量数677のイオン強度を時間に対してプロットしたスペクトル分析図であり、(b)は、本発明に係る分析装置の実施例における鉄(III)錯体と13−HPODとの反応開始7秒後の質量スペクトルを示したグラフ図および、質量数929のイオン強度を時間に対してプロットしたスペクトル分析図であり、(c)は、本発明に係る分析装置の実施例における鉄(III)錯体と13−HPODとの反応開始12分後の質量スペクトルを示したグラフ図および、質量数911のイオン強度を時間に対してプロットしたスペクトル分析図である。
【図5】(a)は、本発明に係る分析装置の実施例における、測定開始(0秒)(図中(A))および7秒後(図中(B))の可視−紫外吸収スペクトルを示すグラフ図であり、(b)は、反応開始7秒後(図中(B))および12分後(図中(C))における可視−紫外吸収スペクトルを示すグラフ図である。
【図6】本発明に係る分析装置の実施例における鉄(III)錯体と、13−HPODおよびEtNとの反応を示した化学反応式である。
【図7】本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の一実施形態の基本構造を示した斜視図である。
【図8】本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の実施例に用いたマンガン(IV)メトキシ錯体の化学構造式である。
【図9】(a)は、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の実施例において測定を行ったマンガン(IV)ペルオキソ錯体を生成する化学反応式であり、(b)は、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の実施例において、マンガン(IV)ペルオキソ錯体の質量スペクトルを示したグラフ図であり、(c)は、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の実施例において検出されたマンガン(IV)ペルオキシ錯体(質量数716)のイオン強度を時間に対してプロットしたスペクトル分析図である。
【図10】本発明に係る分析装置における他の実施形態の基本構造を示した斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0115】
〔実施の形態1〕
本発明に係る分析装置の一実施形態について図1〜図4に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0116】
本実施の形態では、本発明の分析装置の基本原理について説明し、その後、本発明に係る分析装置と、本発明に係る分析方法とを詳細に説明する。
【0117】
(1)本発明の分析装置の基本原理
図2は、本発明に係る分析装置におけるイオン化室に、多量の荷電イオンが排出している様子を模式的に示したものである。上述したように、イオン化室の荷電イオンは、イオン引出電極(オリフィス)を経て、続く質量分析部において質量スペクトルが測定される。
【0118】
上述したように、被験試料の濃度が高く、上記イオン化室に多量の被験試料イオンが存在する場合、この多量の被験試料イオンがそのまま質量分析部に流入すると、高電流が流れ、装置回路の損傷などが起こる可能性がある。
【0119】
そこで、図2に示すように、図示しない上記質量分析部に流入する被験試料イオン量を制御するイオン導入制御手段8を上記イオン引出電極の導入口よりスプレイヤー側に設ける。これにより、質量分析部に導入される被験試料イオンの量は、従来の質量分析装置において最適濃度とされる濃度の被験試料をイオン気化した状態の被験試料イオン量と略同量となる。そのため、通常のイオン量で質量スペクトルの測定を行うことが可能となる。具体的に説明すると、以下の通りである。
【0120】
上記イオン導入制御手段8は、イオン化室側からイオン引出電極側に貫通する穴を複数設けた網目構造となっている。上記貫通する穴の直径は、1μm〜5mmの範囲である。この直径は、被験試料の濡れ性の問題等によって適宜設定される。被験試料として、従来の質量スペクトル測定に用いられる最適濃度の被験試料と比較して高い濃度のものが用いられた場合、イオン化室では高濃度の被験試料に高電圧を印加して、被験試料を荷電イオンにする。イオン気化した多量の被験試料イオンは、通常と同じように、イオン引出電極の方向へ移動する。しかしながら、上述した位置に設けられたイオン導入制御手段によって、イオン引出電極に導入されるイオン量は制御される。すなわち、多量に生成された被験試料イオンは、上記イオン導入制御手段の表面に付着する被験試料イオンと、上記イオン導入制御手段の貫通する穴からイオン引出電極側に通過する被験試料イオンとに分かれることで、質量分析部に導入される被験試料イオンの量を低減させることができる。
【0121】
これにより、本発明に係る分析装置は、被験試料の濃度が、分析における最適濃度よりも高濃度である場合であっても正常に質量スペクトルを測定することができる。
【0122】
(2)本発明に係る分析装置
続いて、本発明に係る分析装置について詳しく説明する。図1は、本発明にかかる分析装置の一例であって、質量分析に最適な濃度以上、すなわち最適濃度よりも高濃度に調整された被験試料を用いる分析装置10の基本構造を示した図である。図1に示す分析装置10は、吸収スペクトル・発光スペクトル・散乱スペクトルの中の少なくとも1つを分析する吸収・発光・散乱スペクトル分析計30と、質量スペクトルを分析する質量スペクトル分析計20とが備えられている。そして、吸収・発光・散乱スペクトル分析計30および質量スペクトル分析計20は、ともに被験試料の入った反応容器1と接続されており、同一の被験試料を分析対象とするものである。
【0123】
つまり、分析装置10には、被験試料に高電圧を印加し、イオン気化した被験試料イオンを、イオン化室に設けた上記イオン導入制御手段8を通過させることにより、導入される被験試料イオンの量を制御して質量スペクトルを測定する質量スペクトル分析計20が備えられているとともに、当該質量スペクトル測定の被験試料と同一の被験試料を用いて、略同時に、吸収スペクトル・発光スペクトル・散乱スペクトルを測定することのできる吸収・発光・散乱スペクトル分析計30が備えられている。
【0124】
なお、本実施の形態において説明する分析装置10は、特に、エレクトロスプレーイオン化法を備えたエレクトロスプレーイオン化質量分析装置に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0125】
分析装置10は、図1に示すように、反応容器1、不活性ガス導入管2、キャピラリー3、スプレイヤー4、マグネティックスターラコントローラー5、恒温槽6、シース管7、イオン導入量制御手段8、イオン引出電極9、スペクトル観察用プローブ12を備えている。なお、上記不活性ガス導入管2、上記キャピラリー3、上記スプレイヤー4、上記シース管7、上記イオン導入量制御手段8、上記イオン引出電極9は、上記質量スペクトル分析計20内に備えられており、上記スペクトル観察用プローブ12は、吸収・発光・散乱スペクトル分析計30内に備えられている。
【0126】
上記反応容器1は、上述したような被験試料を含む溶液が入れられ、後述する上記恒温槽6に設置され、所定温度に制御される。また、上記反応容器1内には、同じく後述する上記マグネティックスターラコントローラー5により容器内の被験試料溶液を攪拌するためのマグネティックスターラがある。したがって、上記反応容器1は、上記恒温槽6に設置され、温度制御された状態で、被験試料を攪拌し、被験試料の温度を均一にすることができる。さらに、上記反応容器1の上部は、後述する不活性ガス導入管2とキャピラリー3とスペクトル観察用プローブ12が配置されており、これらを固定する目的で上記反応容器1の上部には、ゴム栓が配置されている。上記反応容器1の構造としては、上記恒温槽6に設置可能な構造であればよく、その材質は例えばガラスやステンレスを用いることができる。
【0127】
なお、上記マグネティックスターラコントローラー5は、上述したように、上記恒温槽6に設置された上記反応容器1内の被験試料溶液を攪拌するために設けられている。本実施の形態においては、上述した攪拌手段として上記マグネティックスターラコントローラー5を挙げたが、これに限定されるものではなく、被験試料溶液の温度および被験試料溶液濃度を均一にすることが出来る攪拌手段が備えられているものであればよく、機械式のものであってもよい。
【0128】
なお、被験試料溶液の溶媒としては、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置によって分析される被験試料溶液の溶媒を用いればよく、被験試料の性質に応じて適宜用いることができるが、メタノールまたは後述するようなアセトニトリル溶液であることが好ましい。また被験試料溶液の濃度としては、エレクトロスプレーによる被験試料のイオン化効率によって異なるが、蛋白質や核酸などの高分子化合物では、約1〜20pmol/μLの範囲が好ましく、1000Da以下の低分子化合物では、約1〜50ng/μLの範囲が好ましい。
【0129】
上記不活性ガス導入管2は、その一端が上記反応容器1の上部、具体的には、上記不活性ガス導入管2の一端が、上記反応容器1内の被験試料溶液に接触しない部分にあり、もう一方の端からは、図示しない不活性ガス源から不活性ガスが導入される。導入される上記不活性ガスの圧力は、図示しない圧力調整器によって調整される。上記不活性ガスの圧力が調整されることによって、上記反応容器1内の被験試料溶液は、後述する上記キャピラリー3を通じて上記スプレイヤー4に送り込まれる。具体的には、上記キャピラリー3から上記スプレイヤー4に送り込まれる被験試料溶液の流量が、好ましくは2〜4μL/分、より好ましくは約3μL/分となるように、上記不活性ガスの圧力が調整されることが好ましい。上記不活性ガス導入管2の構造としては、例えば内径0.8mm、外径1.58mmのPTFEチューブを用いることができるが、本実施の形態における上記不活性ガス導入管2はこれに限定されるものではない。なお、上記不活性ガスには、例えばアルゴンガスなどを用いることができる。
【0130】
上記キャピラリー3は、上記反応容器1と上記スプレイヤー4とを繋いでおり、上記反応容器1内の被験試料溶液は、上記不活性ガス導入管2から導入された不活性ガスによる圧力によって上記キャピラリー3に通され、上記スプレイヤー4に送り込まれる。上記キャピラリー3の長さは、上記恒温槽6によって温度制御された被験試料溶液の温度変化を極力防ぐため、かつ、測定時間のずれを極力小さくするために、比較的短いものが好ましく、例えば長さ20cmで、内径0.075mmの不活性化シリカキャピラリーチューブを用いることができるが、本実施の形態における上記キャピラリー3はこれに限定されるものではない。
【0131】
上記スプレイヤー4は、後述する上記シース管7が、上記キャピラリー3と同軸形状に構成された二重構造となっている。上記スプレイヤー4に高電圧がかけられることにより、上記キャピラリー3に導入された被験試料溶液をキャピラリー3の一端から排出する。上記スプレイヤー4に印加される電圧は、約3〜6kVの範囲であることが好ましく、約4〜5kVの範囲であることがより好ましい。
【0132】
なお、オペレーターは、被験試料の分析スペクトルを見ながら、上記スプレイヤー4の先端を図示しない位置調整ノブによって最適な位置に調整することによっても、最適な分析スペクトルを得ることが可能である。
【0133】
上記恒温槽6は、上述したように上記反応容器1内の被験試料溶液を温度制御するための温度制御手段として設けられる。上記恒温槽6としては、例えば水を入れた恒温槽6を温度制御し、恒温槽6の中に上記反応容器1を入れることで反応容器1内の被験試料溶液の温度を制御することができる。また、例えば被験試料溶液を氷点下の温度に制御を行う場合には、液体窒素を用いることができ、液体窒素の中に上記反応容器1を浸すことで、被験試料溶液を冷却することができる。液体窒素を用いることにより、被験試料として極低温のような低温でのみ安定な被験試料の測定を可能にする。
【0134】
さらに、上記恒温槽6のように被験試料の温度を制御するための温度制御手段としては、上述したように水などの冷媒に限定されるものではなく、上記反応容器1を密着して保持できるような構造が備えられた金属を用いることも可能である。すなわち、この金属を電子機器などによって温度制御することで、この金属と密着した形で上記反応容器1を設置し、反応容器1内の被験試料溶液の温度を制御することも可能である。上記金属には、銅やアルミなどの熱伝導率が比較的高いものが好ましい。
【0135】
上記シース管7は、上述したように、上記キャピラリー3の外側にこれと同軸形状に構成されており、図示しないネブライジングガス供給源から供給されたネブライジングガスを、上記キャピラリー3から排出される被験試料と同軸方向に排出する。
【0136】
上記イオン導入量制御手段8は、上記スプレイヤー4に高電圧が印加され、上記キャピラリー3の先端から排出される被験試料イオンの、上記イオン引出電極9に導入される量を制御するために設けられている。具体的に説明すると以下の通りである。
【0137】
上記イオン導入量制御手段8は、イオン化室内に、図示しない支持手段によって支持されている。具体的には、被験試料がイオン気化されながら上記キャピラリー3の先端から排出される位置から、上記イオン引出電極9までの間に備えられ、上記イオン導入量制御手段8が、イオン気化された被験試料イオンの移動方向に略垂直になるように設けられている。
【0138】
上記イオン導入量制御手段8は、複数の貫通穴によって構成される網目構造を備えているものが好ましく、上記貫通穴の開口部が、上記キャピラリー3からの被験試料イオンの排出側と、上記イオン引出電極9の導入側とに向けられるように設けられることが好ましい。上記イオン導入量制御手段8の大きさとしては、キャピラリー3から排出されてイオン引出電極9方向へ拡散する被験試料イオンの拡散範囲を網羅する大きさであることが好ましく、少なくとも上記イオン引出電極9の導入口を覆う大きさであることが好ましい。上記イオン導入量制御手段8の大きさが、被験試料イオンの拡散範囲を網羅する大きさである場合は、イオン導入量制御手段8の設置位置は、上述した位置、すなわち被験試料がイオン気化されながら上記キャピラリー3の先端から排出される位置から、上記イオン引出電極9までの間に備えられればよく、特に限定されるものではない。しかしながら、上記イオン導入量制御手段8の大きさが上記拡散範囲を網羅するものではない場合、イオン導入量制御手段8の設置位置は、上記イオン引出電極9の導入口付近であることが好ましい。この理由としては、上記イオン導入量制御手段8の大きさが被験試料イオンの拡散範囲を網羅していない場合に、上記イオン導入量制御手段8をキャピラリー3側に設けてしまうと、上記イオン導入量制御手段8の制御範囲以外に拡散した被験試料イオンが上記イオン引出電極9に導入されてしまう可能性があるため、上記イオン導入量制御手段8による被験試料イオン量の正確な制御が困難になるためである。また、上記貫通穴は、直径が1μm〜5mmの範囲であることが好ましい。上記の範囲とする理由は、イオン気化される被験試料は、その種類によって濡れ性などが異なるためであり、その性質の違いによって直径を適宜設定することが好ましい。また、上記イオン導入量制御手段8の厚みは、比較的薄いものが好ましい。具体的には、1μm〜1mmの範囲であることが好ましい。なお、上記イオン導入量制御手段8の厚みとは、被験試料イオンの移動方向に対するイオン導入量制御手段8の幅のことである。上記の範囲とする理由は、イオン導入量制御手段8の厚みが比較的厚いものになると、被験試料イオンが上記貫通穴を通過中に貫通穴の壁に付着してしまい、上記イオン導入量制御手段8による制御を正確に行うことができないためである。
【0139】
また、上記イオン導入量制御手段8は、オペレーターが被験試料の分析スペクトルを見ながら、図示しない位置調整ノブによって当該イオン導入量制御手段8の位置を最適な位置に調整することができる。これにより、最適な分析スペクトルを得ることが可能である。
【0140】
なお、上記イオン導入制御手段8は、着脱可能な構造となっており、被験試料の濃度が、質量スペクトル測定に最適な濃度である場合には、図2に示す位置から取り除くことも可能である。すなわち、本実施の形態における分析装置10は、必ずしも質量スペクトル測定と同時に吸収・発光・散乱スペクトル測定を行うものではなく、両者を独立して測定することも可能である。
【0141】
以上のように、本実施の形態における上記分析装置10は、従来の質量分析装置とは異なり、上記イオン導入量制御手段8を、上記キャピラリー3先端から上記イオン引出電極9までの間に設けることにより、質量分析に最適な被験試料濃度よりも高い濃度の被験試料を用いた場合であっても、正確な質量分析を行うことが可能となる。すなわち、本実施の形態の分析装置10は、質量分析に最適な被験試料濃度よりも高い濃度を最適濃度にもつ吸収・発光・散乱スペクトルの測定を、質量分析と同一被験試料から略同時に行うことが可能となる。
【0142】
上記イオン引出電極9は、スプレイヤー4から排出された帯電した被験試料を、当該イオン引出電極9へ誘導する。誘導され、上記イオン引出電極9を通った荷電被験試料イオンは、図示しない質量分析部によって質量数を分析される。
【0143】
上記スペクトル観察用プローブ12は、上述したように、その一端が上記反応容器1内の被験試料内に位置するように設けられている。上記スペクトル観察用プローブ12によって、上記反応容器1内の被験試料の吸収スペクトル・発光スペクトル・散乱スペクトルが測定される。
【0144】
なお、本実施の形態における分析装置10のイオン化法としては、エレクトロスプレーイオン化法を用いて行われることが好ましい。エレクトロスプレーイオン化法を用いることにより被験試料は溶液状態のまま質量スペクトル分析を行うことが可能となる。また被験試料溶液を測定できることから、溶液中における反応開始から反応終結までの過程を実時間にてスペクトル解析することが可能となる。また、上述したようにエレクトロスプレー(静電噴霧)現象を利用している。したがって、蛋白質、核酸などの生体高分子および、薬物の同定、並びに有機金属錯体などの分子構造を解析する場合に、これらの試料をほとんど破壊することがなく、容易にイオン化することができる。
【0145】
したがって、これらの試料を用いてその反応中間体等の分析を行う場合に、エレクトロスプレーイオン化法を用いることで、正確な質量スペクトルを測定することができる。
【0146】
なお、本実施の形態に係る上記分析装置10は、質量スペクトルと吸収スペクトル、質量スペクトルと発光スペクトルといった2つのスペクトルの同時測定だけでなく、質量スペクトルと吸収スペクトルと発光スペクトルといった3つ以上のスペクトル、さらには、質量スペクトルと吸収スペクトルと発光スペクトルと散乱スペクトルといった4つのスペクトルを略同時に分析するものであってもよい。このように、オペレーターによって複数のスペクトルの中から適宜選択して分析を行うこともできるため、上記分析装置10には、図示しないスペクトル選択手段が設けられている。
【0147】
(3)本発明に係る分析方法
次に、上述した本発明に係る分析方法について説明する。
【0148】
分析方法は、まず、被験試料に溶媒を加えることによって被験試料溶液を調整し、当該被験試料溶液を、上記反応容器1に入れ、温度調節した上記恒温槽6に設置する。上記反応容器1内の被験試料溶液は、マグネティックスターラコントローラー5によって制御されたマグネティックスターラによって攪拌される。
【0149】
次に、上記不活性ガス導入管2の一端に繋がれている不活性ガスの圧力調整器を調整することにより、不活性ガスが反応容器1内に排出され、被験試料溶液はキャピラリー3を介してスプレイヤー4へ導入される。スプレイヤー4に導入された被験試料溶液は、高電圧が印加され、キャピラリー3の先端から排出される。
【0150】
上記キャピラリー3の先端から排出された多量の帯電した霧状の粒子被験試料は、その後、蒸発および、冷却された窒素ガスである乾燥ガスによって溶媒を失い、粒子の大きさを小さくし、溶媒から解放された多量の荷電被験試料イオンは、ついには粒子から離れていくと考えられる。粒子から離れた荷電被験試料イオンは、上記イオン導入量制御手段8によってその量を制御され、上記イオン引出電極9の導入口に導入される。上記イオン引出電極9に導入された最適量の荷電被験試料イオンは、図示しない質量分析部によって分析される。上述の手順で実施されるのが質量スペクトル分析工程である。
【0151】
本発明の分析方法では、上述した質量スペクトル分析工程と略同時並行に上記反応容器1内の被験試料溶液は、上記スペクトル観察用プローブ12によって、吸収・発光・散乱スペクトルのうち少なくとも1つのスペクトル分析が行われる。この工程が、吸収・発光・散乱スペクトル分析工程である。
【0152】
なお、本実施の形態に係る上記分析方法は、質量スペクトルと吸収スペクトル、質量スペクトルと発光スペクトルといった2つのスペクトルの同時測定だけでなく、質量スペクトルと吸収スペクトルと発光スペクトルといった3つ以上のスペクトル、さらには、質量スペクトルと吸収スペクトルと発光スペクトルと散乱スペクトルといった4つのスペクトルを略同時に分析するものであってもよい。このような場合は、図示しないスペクトル選択手段によって分析しようとするスペクトルを適宜選択することができる。
【0153】
〔実施の形態2〕
(1)本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析装置
本発明のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の一実施形態について図7に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0154】
本発明における上記エレクトロスプレーイオン化質量分析装置120は、上述したようにエレクトロスプレー(静電噴霧)現象を利用した非常にソフトなイオン化法を用いている。そのため、蛋白質、核酸などの生体高分子および、薬物の同定、並びに有機金属錯体などの分子構造を被験試料とする場合に欠かせない分析手段となっている。特に、上記エレクトロスプレーイオン化質量分析装置120は、実質的に極低温でしか安定ではなく、熱によって不安定になる被験試料に対して好適な分析手段である。なお、極低温でしか安定ではない被験試料とは、本実施の形態においては、約−45℃の温度を極低温とし、約−45℃下でのみ安定な試料としては、例えば後述するマンガン(IV)ペルオキソ錯体や金属ハイドロペルオキソ錯体が挙げられるが、本発明に好適な被験試料としてはこれに限定されるものではない。
【0155】
図7は、本発明におけるエレクトロスプレーイオン化質量分析装置120の構成を示す模式図である。上記エレクトロスプレーイオン化質量分析装置120は、反応容器101、不活性ガス導入管102、キャピラリー103、スプレイヤー104、マグネティックスターラコントローラー105、低温浴106(第1冷却手段)、シース管107、冷却ガス導入管108(第2冷却手段)、イオン引出電極109から構成されている。
【0156】
上記反応容器101は、上述したような被験試料を含む溶液が入れられ、後述する上記低温浴106に設置され、所定温度に制御される。また、上記反応容器101内には、同じく後述する上記マグネティックスターラコントローラー105により容器内の被験試料溶液を攪拌するためのマグネティックスターラがある。したがって、上記反応容器101は、上記低温浴106に設置され、冷却された状態で、被験試料を攪拌し、被験試料の温度を均一にすることができる。さらに、上記反応容器101の上部は、不活性ガス導入管102およびキャピラリー103が配置されており、これらを固定する目的で上記反応容器101の上部には、ゴム栓が配置されている。上記反応容器101の構造としては、上記低温浴106に設置可能な構造であればよく、その材質は例えばガラスやステンレスを用いることができる。
【0157】
なお、上記マグネティックスターラコントローラー105は、上述したように、上記低温浴106に設置された上記反応容器101内の被験試料溶液を攪拌するために設けられているが、本実施の形態においては上記マグネティックスターラコントローラー105に限定されるものではなく、被験試料溶液の温度を均一にすることが出来る攪拌手段が備えられているものであればよく、機械式のものであってもよい。
【0158】
なお、被験試料溶液の溶媒としては、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置によって分析される被験試料溶液の溶媒を用いればよく、被験試料の性質に応じて適宜用いることができるが、アセトニトリルまたはメタノール単独のものか、後述するようなメタノール−ジクロロメタン溶液であることが好ましい。また被験試料溶液の濃度としては、エレクトロスプレーによる被験試料のイオン化効率によって異なるが、蛋白質や核酸などの高分子化合物では、約1〜20pmol/μLの範囲が好ましく、1000Da以下の低分子化合物では、約1〜50ng/μLの範囲が好ましい。また、特にエレクトロスプレーイオン化質量分析装置120に好適である−45℃のような極低温でしか安定ではない被験試料では、その濃度が100μmol/Lであるものを用いることができる。
【0159】
上記不活性ガス導入管102は、その一端が上記反応容器101の上部、具体的には、上記不活性ガス導入管102の一端が、上記反応容器101内の被験試料溶液に接触しない部分にあり、もう一方の端からは、図示しない不活性ガス源から不活性ガスが導入される。導入される上記不活性ガスの圧力は、図示しない圧力調整器によって調整される。上記不活性ガスの圧力が調整されることによって、上記反応容器101内の被験試料溶液は、後述する上記キャピラリー103を通じて上記スプレイヤー104に送り込まれる。上記不活性ガス導入管102の構造としては、例えば内径0.8mm、外径1.58mmのPTFEチューブを用いることができるが、本実施の形態における上記不活性ガス導入管102はこれに限定されるものではない。なお、上記不活性ガスには、例えばアルゴンガスなどを用いることができる。
【0160】
上記キャピラリー103は、上記反応容器101と上記スプレイヤー104とを繋いでおり、上記反応容器101内の被験試料溶液は、上記不活性ガス導入管102から導入された不活性ガスによる圧力によって上記キャピラリー103に通され、上記スプレイヤー104に送り込まれる。上記キャピラリー103の長さは、上記低温浴106によって冷却された被験試料溶液の温度上昇を極力防ぐため、比較的短いものが好ましく、例えば20cmの内径0.075mmの不活性化シリカキャピラリーチューブを用いることができるが、本実施の形態における上記キャピラリー103はこれに限定されるものではない。
【0161】
上記スプレイヤー104は、後述する上記シース管107が、上記キャピラリー103と同軸形状に構成された二重構造となっている。上記スプレイヤー104に高電圧がかけられることにより、上記キャピラリー103に導入された被験試料溶液を上記キャピラリー103の一端から排出する。上記スプレイヤー104に印加される電圧は、約3〜6kVの範囲であることが好ましく、約4〜5kVの範囲であることがより好ましい。
【0162】
上記低温浴106は、上述したように上記反応容器101内の被験試料溶液を冷却するために設けられる。被験試料溶液を冷却するために、例えば液体窒素を用いることができ、液体窒素の中に上記反応容器101を浸すことで、被験試料溶液を冷却することができる。上述したように本発明では、−45℃以下でのみ安定な試料であっても被験対象として分析ができるようにしている。したがって、被験試料溶液の温度を−45℃以下に保つことが可能であれば、液体窒素に限定されるものではなく、他の温度調節手段により被験試料溶液の温度を制御するものであってもよい。
【0163】
さらに、上記低温浴106は、液体窒素などの冷媒に限定されるものではなく、上記反応容器101を密着して保持できるような構造が備えられた金属を用いることも可能である。すなわち、この金属を電子機器などの温度調節手段によって低温に制御することで、この金属と密着した形で上記反応容器101を設置し、反応容器101内の被験試料溶液の温度を低温に保つ構成とすることも可能である。上記金属には、銅やアルミなどの熱伝導率が比較的高いものが好ましい。
【0164】
上記シース管107は、上述したように、上記キャピラリー103の外側にこれと同軸形状に構成されており、図示しないネブライジングガス供給源から供給されたネブライジングガスを、上記キャピラリー103から排出される被験試料と同軸方向に排出する。上記ネブライジングガスの排出は、高電圧が印加されて上記キャピラリー103から排出される霧状の被験試料のイオン引出電極への効果的な導入を補助する。
【0165】
なお、ネブライシングガスの温度は、通常の温度で用いられることが好ましい。これにより、従来のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置で問題となったシース管の外周の結露が発生しないため、上記スプレイヤー104に高電圧を印加した場合に上記結露を介した漏電(感電)する危険性は生じない。
【0166】
上記冷却ガス導入管108は、高電圧が印加される上記スプレイヤー104を冷却し、上記キャピラリー103から排出される被験試料溶液の温度上昇を抑制するために設けられている。具体的に説明すると以下の通りである。
【0167】
上記冷却ガス導入管108は、図示しない支持手段によって支持されている。具体的には、上記スプレイヤー104の高電圧印加部、すなわち上記キャピラリー103の被験試料が高電圧の印加によって加熱され始める位置から当該被験試料が上記キャピラリー103から排出されるまでの図中の斜線部分で示される部分に、上記冷却ガス導入管108から排出する低温不活性ガスが向けられるように上記支持手段により支持される。
【0168】
より詳細には、上記低温不活性ガスの排出方向が、ネブライジングガスおよび被験試料溶液の排出方向に対して30°〜60°傾斜していることが好ましく、約45°傾斜していることがより好ましい。上記の範囲とする理由は、ネブライシングガスの排出方向に対して30°未満となると、効果的に上記低温不活性ガスがスプレイヤーを冷却することができず、ネブライシングガスの排出方向に対して60°以上となると、上記低温不活性ガスの排出が、ネブライシングガスの排出方向を妨げることになるためである。すなわち、上記低温不活性ガスの排出方向をネブライジングガスおよび被験試料溶液の排出方向に対して30°〜60°の範囲内にすることで、ネブライジングガスおよび被験試料の排出を妨げることなく、効果的にスプレイヤーを冷却することが可能となる。
【0169】
また、上記低温不活性ガスの排出口における単位面積当たりの排出流量は、上記シース管107から排出されるネブライシングガスの排出口における単位面積当たりの排出流量以下であることが好ましい。上記ネブライシングガスは、上述したように上記キャピラリーから排出される霧状の被験試料のイオン引出電極への効果的な導入を補助するためのものであるため、上記低温不活性ガスの排出口における単位面積当たりの排出流量は、ネブライジングガスの排出口における単位面積当たりの排出速度および、排出方向に影響を与えない程度である必要があるためである。そこで、排出口において、例えば500mL/(分×cm)の低温不活性ガスを用いることができる。
【0170】
これら2つの条件を備えた上記冷却ガス導入管108を用いることによって、上記冷却ガス導入管108から排出される上記低温不活性ガスが、上記シース管107から排出されるネブライジングガスおよび、上記キャピラリー103から排出される被験試料溶液の排出を妨げることなく、上記スプレイヤー104を冷却することが可能となる。
【0171】
なお、上記冷却ガス導入管108には、例えば内径0.6mmのテフロン(登録商標)チューブを用いることができるが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。
【0172】
これにより、本実施の形態における上記エレクトロスプレーイオン化質量分析装置120は、特許文献1および2に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置とは異なり、上記冷却ガス導入管108を、高電圧が印加されるスプレイヤー104とは独立した構造で設けることにより、上記冷却ガス導入管108の外側に結露を発生した場合であっても、上記スプレイヤー104には結露が発生しない。すなわち、特許文献1および2に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置において挙げられていた課題である上記スプレイヤー104の結露が原因の漏電(感電)は、上記エレクトロスプレーイオン化質量分析装置120では発生しない。したがって、上記エレクトロスプレーイオン化質量分析装置120は、極低温のような温度でのみ安定な試料を分析する場合であっても、上記スプレイヤー104を十分冷却することができ、同時に被験試料溶液のイオン気化に伴う温度上昇を抑制することが可能となることから、安全で正確な分析が可能となる。
【0173】
さらに上述したように、被験試料溶液は予め上記低温浴106において冷却されており、イオン気化に伴う被験試料の発熱を極力抑えることができる。これにより、極低温のような温度でのみ安定な試料であっても、イオン気化に伴う加熱が原因となる試料イオンの分子構造の破壊を抑制することができる。
【0174】
なお、冷却ガス導入管108は上述した低温浴106と同じく、温度調節手段によって温度調節が可能な構成となっている。これにより、被験試料の温度特性、すなわち被験試料の構造が最も安定である温度に基づいて冷却を行うことが可能となる。したがって、それぞれ異なる被験試料の温度条件に合わせられるため、イオン気化における分子構造の破壊を抑制することが可能となり、正確な分析を行うことができる。
【0175】
上記イオン引出電極109は、スプレイヤー104から排出された帯電した被験試料を、当該イオン引出電極109へ誘導する。誘導され、上記イオン引出電極109を通った荷電被験試料イオンは、図示しない質量分析計によって分析される。
【0176】
オペレーターは、被験試料の分析スペクトルを見ながら、上記スプレイヤー104の先端を図示しない位置調整ノブによって最適な位置に調整することができ、最適な分析スペクトルを得ることが可能である。
【0177】
(2)本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析方法
次に、本発明に係るエレクトロスプレーイオン化質量分析方法について説明する。
【0178】
エレクトロスプレーイオン化質量分析方法は、まず、被験試料に溶媒を加えることによって被験試料溶液を調整し、当該被験試料溶液を、上記反応容器101に入れ、温度調節した上記低温浴106に設置し、冷却する(第1冷却工程)。この第1冷却工程においては、マグネティックスターラコントローラー105によって制御されたマグネティックスターラによって、被験試料溶液を攪拌する。
【0179】
上記スプレイヤー104は、上記冷却ガス導入管108を通して供給される−45℃に調整された低温不活性ガスによって、被験試料溶液が導入される前に、予め冷却する。
【0180】
次に上記不活性ガス導入管102の一端に繋がれている不活性ガスの圧力調整器を調整することにより、不活性ガスが反応容器101内に排出され、被験試料溶液はキャピラリー103を介してスプレイヤー104へ導入される。スプレイヤー104に導入された被験試料溶液は、冷却ガス導入管108によって冷却されながら(第2冷却工程)、高電圧が印加される。高電圧が印加された被験試料溶液は、キャピラリー3の先端から静電噴霧現象によって排出される。
【0181】
上記キャピラリー103の先端から排出された帯電した霧状の粒子被験試料は、その後、蒸発および、冷却された窒素ガスである乾燥ガスによって溶媒を失い、粒子の大きさを小さくし、溶媒から解放された荷電被験試料イオンは、ついには粒子から離れていくと考えられる。粒子から離れた荷電被験試料イオンが、上記イオン引出電極109を通って図示しない質量分析計に導入され、質量分析が行われる(質量分析工程)。
【0182】
なお、上記質量分析計としては、一般的なエレクトロスプレーイオン化質量分析に用いられる従来公知の質量分析計を用いればよく、特に限定されるものではない。
【0183】
また、本発明は、上記した実施の形態1において説明した分析装置1に、本実施の形態の冷却ガス導入管を備えた構成としてもよい。すなわち、図10に示すように、本発明の分析装置は、低温浴106と、冷却ガス導入管108とを備えるとともに、吸収・発光・散乱スペクトル分析計30を備えた分析装置10’としてもよい。低温浴106および冷却ガス導入管108を用いて温度制御されることによって、例えば被験試料の温度によってその反応速度が遅くなるような被験試料である場合に、その反応中間体の測定を良好に実施することができる。また、冷却ガス導入管108によって、高電圧印加時における被験試料の加熱を効果的に抑制することが可能となることから、分析装置10’の構成とすることにより、極低温下でのみ安定な被験試料を用いた場合であっても、質量スペクトル分析と吸収・発光・散乱スペクトル分析とを略同時に行うことができる。
【0184】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0185】
〔実施例1:分析装置〕
本発明の分析装置の実施例として、図1に示す分析装置10を用いて、鉄(III)錯体を用いる酸化反応の機構解明に利用した実施例について説明する。具体的に説明すると以下の通りである。鉄(III)錯体は、基質に2つの酸素を添加する酵素であるリポキシゲナーゼの活性中心モデル錯体として人工的に合成されたものである(Seiji,Ogo;Ryo,Yamahara;Mark,Roach;Tomoyoshi,Suenobu;Michihiko,Aki;Takashi,Ogura;Teizo,Kitagawa;Hideki,Masuda;Shunichi,Fukuzumi;Yoshihito,Watanabe.Inorg.Chem.2002,41,5513−5520.)。なお、本実施例では、上記鉄(III)錯体と13−HPOD(13(S)−HydroPeroxy(9Z,11E)−OctadecaDienoic acid)との反応を、本実施例による質量スペクトルと、可視−紫外吸収スペクトルとの同時測定によって分析した結果を示すものである。
【0186】
図3は、本実施例における上記鉄(III)錯体と上記13−HPODとの化学反応式を示したものである。
【0187】
なお、本酵素モデル反応の詳細な検討は、生物の代謝・老化機構の解明に重要な知見を与えるだけでなく、新規酸化反応触媒の開発にも非常に有用な知見を与える。
【0188】
上記鉄(III)錯体を、図1に示した反応容器1中において、不活性ガス雰囲気下で、完全に脱気および脱水したアセトニトリルを用いて、鉄(III)錯体のアセトニトリル溶液を調整した(3mL、500μM)。得られた溶液は、上記恒温槽6によって−40℃〜50℃に維持され、マグネティックスターラコントローラー5によって制御されたマグネティックスターラによって攪拌した。
【0189】
次に、上記不活性ガス導入管2の一端に繋がれているアルゴンガスの圧力を調整することにより、キャピラリー3を通過する被験試料の流量が約3μL/分になるように調整し、被験試料の質量スペクトルおよび可視−紫外吸収スペクトルの分析を開始した。
【0190】
次に、上記鉄(III)錯体のアセトニトリル溶液が入った上記反応容器1内に13−HPOD(分子量312.4)を鉄(III)錯体に対して5当量のmol比になるようにシリンジを用いて加えた(2.3mg、7.4μmol)。さらに13−HPODの活性化のために塩基Et3N(トリエチルアミン、分子量101.2)を、上記鉄(III)錯体に対して1当量のmol比で加える(150μL、1.5μmol)ことにより反応を開始した。以上の被験試料のエレクトロスプレー質量スペクトル(陽イオンモード)および可視−紫外吸収スペクトルの同時測定の分析を行った。分析の結果を、図4および図5に示す。図4には、エレクトロスプレー質量スペクトルの測定結果を示す。なお、図4(a)には、反応開始(0秒)におけるエレクトロスプレー質量スペクトル、図4(b)には、反応開始から7秒後におけるエレクトロスプレー質量スペクトル、図4(c)には、反応開始から12分後におけるエレクトロスプレー質量スペクトルを示す。また、図4(a)〜(c)それぞれの反応時間において得られる最大のスペクトルについて、そのイオン強度を時間に対してプロットしたスペクトル分析図も示す。図5には、可視−紫外吸収スペクトルの測定結果を示す。図5(a)には、測定開始(0秒)(図中(A))および7秒後(図中(B))における可視−紫外吸収スペクトル、図5(b)には反応開始7秒後(図中(B))および12分後(図中(C))における可視−紫外吸収スペクトルを示す。
【0191】
その結果、鉄(III)錯体(分子量677)は、反応開始後直ちに(7秒以内に)質量数929の中間体に変換され、反応開始後約12分後には化合物(分子量911)に完全に変換されることが分かった。図6は、鉄(III)錯体と、13−HPODおよびEt3Nとの反応を示した化学反応式である。
【0192】
なお、本実施例に示したような早い、すなわち7秒以内に1段階目の反応が終了するような反応過程を追跡することは、エレクトロスプレー質量スペクトルおよび可視−紫外吸収スペクトルをそれぞれ単独で測定していたのでは、両スペクトル間の微妙な因果関係や時間的関係を容易に解析することは非常に困難である。しかしながら、本発明によればエレクトロスプレー質量スペクトルと可視−紫外吸収スペクトルとを略同時に実時間で測定することができるので、両スペクトル間の微妙な因果関係や時間的関係を容易に解析することができ、反応中間体に関する重要な知見を得ることができた。
【0193】
さらに、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【0194】
例えば、本発明には、被験試料の質量スペクトルと吸収・発光・散乱スペクトルが略同時に実時間で測定できる方法とその装置も含まれる。
【0195】
また、上記質量スペクトルの測定には、エレクトロスプレー質量分析機器を用いることも本発明に含まれる。
【0196】
また、略同時に実時間で測定できる方法とその装置には、質量スペクトルと吸収スペクトル、質量スペクトルと発光スペクトルといった2つのスペクトルの同時測定だけでなく、質量スペクトルと吸収スペクトルと発光スペクトルといった3つ以上のスペクトルの同時測定方法とその装置をも含めることも本発明に含まれる。
【0197】
また、被験試料の分析方法において、吸収・発光・散乱スペクトルの測定に必要である高い濃度に調整された被験試料のスペクトルを測定すると同時に、高い濃度の試料を導入することができるように改良を加えたイオン化室を装着するエレクトロスプレー質量分析装置に上記被験試料を不活性ガス圧を利用して送り込み、被験試料の質量スペクトルを測定することも本発明に含まれる。
【0198】
また、上述した高い濃度の試料を導入することができるように改良を加えたイオン化室とは、荷電イオンの質量分析部への導入口であるイオン引出電極(オリフィス)の手前に網目状のプラスチック製のイオン導入量制御板を設置されたイオン化室であることも本発明に含まれる。
【0199】
また、上記網目状のプラスチック製のイオン導入量制御板の位置は前後、左右、上下に移動可能であることも本発明に含まれる。
【0200】
〔実施例2:エレクトロスプレーイオン化質量分析装置〕
本発明のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置の実施例として、図7に示すエレクトロスプレーイオン化質量分析装置120を用いて、低温下におけるマンガン錯体の質量分析を測定した。具体的に説明すると以下の通りである。
【0201】
図8に示すのは、本実施例に用いたマンガン(IV)ペルオキソ錯体の化学構造式を示したものである。以下に上記マンガン(IV)ペルオキソ錯体の質量分析方法を説明する。
【0202】
まずマンガン(IV)メトキシ錯体を、完全に脱気および脱水したジクロロメタンおよびメタノールを用いて、マンガン(IV)メトキシ錯体の3%メタノール−ジクロロメタン溶液(5mL、100μM)を調整した。マンガン(IV)メトキシ錯体の3%メタノール−ジクロロメタン溶液は、図7に示した上記反応容器101内に入れ、上記低温浴106によって−45℃に維持し、マグネティックスターラコントローラー105によって制御されたマグネティックスターラによって攪拌した。
【0203】
次に上記スプレイヤー104を、上記冷却ガス導入管108を通して供給される−45℃に調整された窒素ガスで冷却した。上記不活性ガス導入管102の一端に繋がれているアルゴンガスの圧力を調整することにより、キャピラリー103を通過する被験試料であるマンガン(IV)メトキシ錯体の3%メタノール−ジクロロメタン溶液の流量が約3μL/分になるように調整し、被験試料の質量スペクトルの分析を開始した。
【0204】
マンガン(IV)メトキシ錯体の3%メタノール−ジクロロメタン溶液が入った上記反応容器101内に、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)のジクロロメタン溶液(100mM)をマンガン(IV)メトキシ錯体に対して5当量のmol比になるようにシリンジを用いて加えた(25μL)。上記の反応を図9(a)に示す。本実施例より得られた質量スペクトルを、図9(b)に示す。その結果、マンガン(IV)メトキシ錯体は、直ちに質量数716の化合物に変換されることが分かった。上記化合物が、マンガン(IV)ペルオキソ錯体である。また、図9(c)は、質量数716の上記マンガン(IV)ペルオキソ錯体のイオン強度を、時間に対してプロットしたスペクトル分析図である。図9(c)に示されるように、被験試料を室温にすると、上記マンガン(IV)ペルオキソ錯体のスペクトルが直ちに得られなくなり、マンガン(IV)ペルオキソ錯体が分解されることが示された。すなわち、上記マンガン(IV)ペルオキソ錯体は、室温による測定では検出不可能であることがわかった。
【0205】
なお、本実施例におけるマンガン(IV)ペルオキソ錯体の検出は、これまでほとんど例のない4価のマンガン錯体を触媒とする酸化反応機構の解明にとって重要であり、新規の酸化反応触媒の開発に非常に有用な知見を与えるものである。
【0206】
以上のように、被験試料自体が熱に不安定な化合物である場合に、そのエレクトロスプレー質量スペクトルを検出するためには、本発明のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置およびその方法が、非常に効果的であることがわかった。
【0207】
さらに、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【0208】
例えば、本発明には、エレクトロスプレー質量分析において、低温に保った被験試料を、不活性ガス圧を利用してスプレイヤーに送り込むと同時に、スプレイヤーを不活性ガスで直接冷却しながらイオン化を行い、熱に不安定な被験試料の質量を分析する低温質量分析およびその装置も含まれる。
【0209】
また、スプレイヤーを冷却するための冷却ガス導入管と高電圧が印加されるスプレイヤーとが完全に独立した構造を有する低温質量分析方法およびその装置も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明の分析装置および分析方法は、蛋白質、核酸などの生体高分子や、刻一刻と変化する化学反応溶液のような被験試料の分析に対して、その利用が大いに期待できるものであり、反応中間体の構造などを容易に分析・把握することが可能となる。さらに、蛋白質、核酸などの生体高分子の分野における利用に限られることなく、極低温のような低温下でのみ安定な錯体などの試料の質量分析に対してもその利用が大いに期待できる。
【0211】
従って、本発明の分析装置および分析方法を用いることによって、化学反応の中間体のような非常に不安定な化学種の観測において非常に有用であり、これらから得られた知見を解析することにより、新規医薬品の開発および、化学反応触媒の開発等への利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収スペクトル・発光スペクトル・散乱スペクトルの中の少なくとも1つを分析する吸収・発光・散乱スペクトル分析計と、
質量スペクトルを分析する質量スペクトル分析計と
を備えた分析装置であって、
上記吸収・発光・散乱スペクトル分析計と上記質量スペクトル分析計とは、同一の被験試料を分析対象としており、
上記質量スペクトル分析計内には、イオン気化された被験試料イオンのイオン量を制御するイオン導入量制御手段が備えられていることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
上記イオン導入量制御手段が、上記質量スペクトル分析計に設けられたイオン化室内に備えられていることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
上記イオン導入量制御手段は、位置調整ノブによって位置調整できることを特徴とする請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
上記イオン導入量制御手段は、非導電性材料であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項5】
上記イオン導入量制御手段は、網目構造であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項6】
上記網目構造を構成する貫通穴の径は、1μm〜5mmの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
上記吸収・発光・散乱スペクトル分析計は、赤外吸収スペクトル、可視・紫外吸収スペクトル、蛍光スペクトル、ラマン散乱スペクトルの中の少なくとも1つを分析するものであることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項8】
上記被験試料は、温度制御されることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項9】
上記質量スペクトル分析計が、高電圧を印加して上記被験試料溶液をイオン気化するスプレイヤーが設けられたエレクトロスプレーイオン化質量分析計であるとともに、
上記吸収・発光・散乱スペクトル分析計および質量スペクトル分析計に導入される前の上記被験試料を冷却する第1冷却手段と、
上記スプレイヤーおよび、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料を冷却する第2冷却手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項10】
上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーとは独立した構造であることを特徴とする請求項9に記載の分析装置。
【請求項11】
上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーにおける高電圧印加部を少なくとも含む領域を冷却することを特徴とする請求項9または10に記載の分析装置。
【請求項12】
上記第2冷却手段が、低温不活性ガスを排出するガス導入管であることを特徴とする請求項9から11の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項13】
上記低温不活性ガスの排出方向が、高電圧が印加された被験試料の排出を補助するネブライシングガスの排出方向に対して、30°〜60°傾斜していることを特徴とする請求項12に記載の分析装置。
【請求項14】
上記低温不活性ガスの排出口における単位面積当たりの排出流量は、高電圧が印加された被験試料の排出を補助するネブライシングガスの排出口における単位面積当たりの排出流量以下であることを特徴とする請求項12または13に記載の分析装置。
【請求項15】
上記第1冷却手段および第2冷却手段は、温度調節可能な構成となっていることを特徴とする請求項9から14の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項16】
上記被験試料は、反応溶液であり、反応開始から数秒で反応が終結するものであることを特徴とする請求項1から15の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項17】
被験試料の吸収スペクトル、発光スペクトル、散乱スペクトルを分析する吸収・発光・散乱スペクトル分析工程と、
上記被験試料と同一の被験試料をイオン気化して得られる被験試料イオンの量を制御して質量スペクトルを分析する質量スペクトル分析工程
とからなる分析方法であって、
上記吸収・発光・散乱スペクトル分析工程と上記質量スペクトル分析工程とが略同時に実時間で行われることを特徴とする分析方法。
【請求項18】
上記質量スペクトル分析工程におけるイオン化法が、高電圧を印加して被験試料溶液をイオン気化するスプレイヤーを用いて当該被験試料の質量分析を行うエレクトロスプレーイオン化法を用いて行われるとともに、
上記吸収・発光・散乱スペクトル分析工程と質量スペクトル分析工程とに供される前の上記被験試料溶液を冷却する第1冷却工程と、
上記スプレイヤーおよび、上記第1冷却工程にて冷却され、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料溶液を冷却し、上記スプレイヤーに高電圧を印加して被験試料溶液をイオン気化する第2冷却工程とを含み、
上記質量分析工程では、上記第2冷却工程によって冷却された上記被験試料の質量分析を行うことを特徴とする請求項17に記載の分析方法。
【請求項19】
上記第2冷却工程では、上記被験試料が上記スプレイヤーに導入される前に、予め上記スプレイヤーを冷却していることを特徴とする請求項18に記載の分析方法。
【請求項20】
上記被験試料が、−45℃以下でのみ安定な試料であることを特徴とする請求項17から19の何れか1項に記載の分析方法。
【請求項21】
高電圧を印加して被験試料をイオン気化するスプレイヤーを備えたエレクトロスプレーイオン化質量分析装置であって、
上記スプレイヤーに導入される前の上記被験試料を冷却する第1冷却手段と、
上記スプレイヤーおよび、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料を冷却する第2冷却手段と
を備えていることを特徴とするエレクトロスプレーイオン化質量分析装置。
【請求項22】
上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーとは独立した構造であることを特徴とする請求項21に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置。
【請求項23】
上記第2冷却手段が、上記スプレイヤーにおける高電圧印加部を少なくとも含む領域を冷却することを特徴とする請求項21または22に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置。
【請求項24】
上記第2冷却手段が、低温不活性ガスを排出するガス導入管であることを特徴とする請求項21から23の何れか1項に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置。
【請求項25】
上記低温不活性ガスの排出方向が、高電圧が印加された被験試料の排出を補助するネブライシングガスの排出方向に対して、30°〜60°傾斜していることを特徴とする請求項24に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置。
【請求項26】
上記低温不活性ガスの排出口における単位面積当たりの排出流量は、高電圧が印加された被験試料の排出を補助するネブライシングガスの排出口における単位面積当たりの排出流量以下であることを特徴とする請求項24または25に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置。
【請求項27】
上記第1冷却手段および第2冷却手段は、温度調節可能な構成となっていることを特徴とする請求項21から26の何れか1項に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析装置。
【請求項28】
高電圧を印加して被験試料をイオン気化するスプレイヤーを用いて当該被験試料の質量分析を行うエレクトロスプレーイオン化質量分析方法であって、
上記スプレイヤーに導入される前の上記被験試料を冷却する第1冷却工程と、
上記スプレイヤーおよび、上記第1冷却工程にて冷却され、上記スプレイヤーに導入された上記被験試料を冷却し、上記スプレイヤーに高電圧を印加して被験試料をイオン気化する第2冷却工程と、
上記第2冷却工程によって冷却された上記被験試料の質量分析を行う質量分析工程
とからなることを特徴とするエレクトロスプレーイオン化質量分析方法。
【請求項29】
上記第2冷却工程では、上記被験試料が上記スプレイヤーに導入される前に予め上記スプレイヤーを冷却していることを特徴とする請求項28に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析方法。
【請求項30】
上記被験試料が、−45℃以下でのみ安定な試料であることを特徴とする請求項28または29に記載のエレクトロスプレーイオン化質量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【国際公開番号】WO2005/083416
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510435(P2006−510435)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002934
【国際出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】