説明

超伝導薄膜の製造方法

【課題】超伝導薄膜の製造方法のひとつである塗布熱分解法において、結晶化の工程である本焼成に長時間を要するという問題を解決する。
【解決手段】塗布熱分解法において、基材1の上層に超伝導体の構成元素を含む塗布膜3を設ける。さらに塗布膜3表面側に表面側シード材層4を設け、仮焼成、本焼成を行う。本焼成時には、基材1側で表面に向けて結晶化が行われるとともに、前記表面側シード材層4からも基材側に向けて結晶化が行われる。この結果、両方向からの結晶化がなされることで結晶化に必要な時間が短縮される。また、基材1と塗布膜3との間にはバッファ層2を設けるのが望ましい。バッファ層2は、基材1と塗布膜3との化学反応を阻止するとともに、結晶化のシードとして機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動通信体用基地局に用いられる超伝導体フィルター、或いは電力機器用限流器の導電体に用いられる超伝導体基板や大電流輸送用の超伝導線材などに使用される超伝導薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超伝導材に関しては、1986年の高温酸化物系超伝導物質の発見以来、種々の用途開発が行われている。高温酸化物系超伝導物質は、従来の低温超伝導物質が、冷却のために液体He(4.2K)を要したのに比べて、液体N(77K)で冷却可能なため取り扱いが比較的容易であり、様々な用途が期待されている。
高温酸化物系超伝導物質の用途としては,バルク材、線材、薄膜等の形態のものがあるが、この内、薄膜の形態のものは移動通信体用基地局、無線局用基地局に用いられる超伝導体フィルター、電力機器用限流器に用いられる超伝導体基板、或いは大電流輸送用の超伝導線材等への適用が期待されている。
【0003】
高温酸化物系超伝導薄膜の特性を示す最も重要な指標として、臨界電流密度Jc値がある。Jc値を高めることにより、高温での大電流輸送が可能となる。高Jc値を得るためには、高温酸化物系超伝導薄膜の支持体の上に高温酸化物系超伝導体の結晶をc軸方向にエピタキシャル成長させる必要がある。
【0004】
現在、商業化されている高温酸化物系超伝導薄膜の製造方法は、ドイツTHEVA社のThermal Co−evaporation法である(非特許文献1参照)。同法では、超伝導体としてYBaCu7−6(YBCO)を用いている。その製造手順を説明すると、初めにYBCO超伝導薄膜を成膜する基板をターンテーブルに取り付ける。基板は回転しながら、Thermocoaxheaterにより700℃に加熱される。また、チャンバー内は2×10−5mbarの高真空に保たれている。そして、YBCO超伝導薄膜の構成金属元素であるY、Ba、CuはそれぞれThermal boatに設置され、同boatは電気抵抗により加熱される。蒸発する構成金属元素の量はquartz crystal monitorにより測定され、目的とする薄膜組成が得られるように、Thermal boatの発熱量が調節される。YBCO超伝導薄膜を構成する酸素はPocketから導入される。Pocketと回転する基板とのクリアランスは極めて小さいので、Pocket内部の酸素圧を、チャンバー内圧力の250倍に保つことが可能である。本チャンバー内で、基板は回転しながら周期的に成膜領域を通過し、構成金属元素の単原子層が基板表面に生成する。次に酸素Pocketで単原子層は酸化され、YBCO超伝導薄膜が形成される。次の回転の際には、同薄膜の上に同様のプロセスを経てYBCO単分子層が重なる。以上の課程が繰り返されることにより、YBCOがc軸方向にエピタキシャル成長する。本製造法の問題点は、装置の機構が複雑であり、高真空を要する製造方法であるため超伝導薄膜の製造コストが高く、大面積薄膜の製造が難しい点である。
【0005】
これらの問題点を解決するために現在、塗布熱分解法が開発されている(特許文献1参照)。同方法では、高温酸化物系超伝導体の構成金属元素の組成になる様に、各金属の化合物を溶媒に溶解し塗布溶液を調製する。次に塗布溶液を基板上に塗布した後に乾燥し、金属含有化合物の薄膜(塗布膜)を形成する。その後、塗布膜を加熱焼成し超伝導薄膜に変換する。この場合、加熱焼成条件は、金属含有化合物が複合金属酸化物を形成する条件であれば良く、一般には500〜1000℃である。金属含有化合物が有機化合物の場合、同成分は200〜500℃で熱分解または酸化され、複合金属酸化物の形成及び結晶化は500〜1000℃で行われる。加熱焼成時間は1〜72時間程度である。また、加熱焼成の雰囲気は空気、酸素、窒素、アルゴン等である。次に加熱焼成後、生成した複合金属酸化物薄膜を基板とともに室温まで徐冷すれば、超伝導薄膜が得られる。
【0006】
また、基板と超伝導薄膜の間にバッファ層を介在させることにより、超伝導体の結晶をc軸方向にエピタキシャル成長させ、高特性の超伝導薄膜を得る塗布熱分解法も開発されている(非特許文献2参照)。
この方法を図2に基づいて説明すると、基板10上に、シードとなるバッファ層11を形成し、その上層に前記した塗布溶液によって塗布膜12を設ける。この基板10を仮焼成することで、塗布膜12は分解されて、CO、CO、HOが生成されて放出され、構成金属元素が残って薄膜12aを形成する。この基板10を本焼成することで、薄膜12aが複合金属酸化物に変化し、さらにバッファ層11をシードとして前記複合金属酸化物の結晶化がされて超伝導薄膜13が得られる。
【特許文献1】特開昭64−65003号公報
【非特許文献1】Werner Prusseit et al.,"Series production of large area YBa2Cu3O7-films for electronic-,microwave-,and electrical powerapplications",ISS',Japan,1999,17.-19.10.99.
【非特許文献2】T Manabe et al.,"Two-dimensional large-size YBa2Cu3O7 films(30×10cm2)on CeO2-buffered sapphire by a coating pyrolysis process",Superconductor Science and Technology1,Japan,7(2004),P.354-357
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の塗布熱分解法は、以上のように構成されているので、Thermal Co−evaporation法とは異なり、装置の機構が簡素であり、高真空を必要としない大気圧下での製造方法である。そのため、超伝導薄膜の製造コストが低く、大面積薄膜の製造が容易である。しかしながら、本焼成に数時間と長時間を要するため、効率的な製造方法ではないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の様な従来の塗布熱分解法の課題を解決するために成されたものであり、本焼成に要する時間を短縮した効率的な超伝導薄膜の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の超伝導薄膜の製造方法のうち、請求項1記載の発明は、基材の上層に塗布膜を設け、その後、仮焼成を行った後に本焼成を行って前記塗布膜を超伝導薄膜にする塗布熱分解法において、前記仮焼成前に、基材上層に設けられた塗布膜表面側に表面側シード材層を設けておき、前記本焼成に際し、前記塗布膜を、前記基材側と前記表面側シード材層からそれぞれ結晶化させて超伝導薄膜を得ることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の超伝導薄膜の製造方法の発明は、請求項1記載の発明において、前記基材と塗布膜との間に、基材側シード材からなるバッファ層を介設することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の超伝導薄膜の製造方法の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記表面側シード材層のシード材は、本焼成によって得られる超伝導薄膜と同じ組成からなることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の超伝導薄膜の製造方法の発明は、請求項2記載の発明において、前記表面側シード材層のシード材と、前記基材側シード材とが同一材料からなることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の超伝導薄膜の製造方法の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記表面側シード材層は、面方向において本焼成時発生ガス分子のサイズよりも大きい隙間が分布していることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の超伝導薄膜の製造方法の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記表面側シード材層は、シード材粉末を前記塗布膜表面に塗布したものであることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、基材の上層に塗布膜を設け、その塗布膜の表面側に表面側シード材層が設けられる。表面側シード材層が塗布によって形成される場合は、塗布に際し用いた溶媒を除去し、仮焼成が行われる。溶媒の除去と仮焼成とは、一連の加熱行程によって行われるものであってもよく、別の加熱行程によって行われるものであっても良い。
【0016】
仮焼成において、塗布膜の構成金属元素の有機塩などが分解・酸化されCO、CO、HO等にガス化する。ガスは塗布膜、表面側シード材層から放散される。このため、表面側シード材層は、面方向において隙間が分布しているのが望ましい。隙間は点在するものでもよく、また隙間同士が連結されているものであってもよい。なお、結晶化用シード材が塗布膜表面に全く隙間なく設けられた場合、有機塩の分解ガスを塗布膜表面から除去することが難しくなる。上記隙間は、表面側シード材を粉末にして塗布膜の表面に適度な密度で塗布することによっても得られる。
【0017】
シード材粉末は、塗布した際の面方向において、円相当径で0.001〜1μmの大きさが望ましい。これは、0.001μm未満になると、粒子の規則性が乱れたり、酸素や水分子などの吸着ガスの影響により核生成サイトとしての機能が低下し、十分な核生成ができないからであり、1μmを越えると、これに連れて厚さが大きくなって、膜厚に対しての厚さの比率が大きくなり、表面の凹凸も大きくなるので特性低下を招くためである。また、シード材粉末の表面被覆率は、10〜95%が望ましい。これは、10%未満であると、核生成サイトとしては量的に不十分であり、95%を越えると塗布膜の構成金属元素の有機塩などが分解・酸化されて発生するCO、CO、HO、等のガスが抜けにくくなり、膜の剥離を起こす可能性があるためである。
【0018】
次工程である本焼成時には、基材側から塗布膜表面側の方向へ結晶化が進む。基材と塗布膜との間にバッファ層を介在させることでバッファ層をシードとしてc軸方向への結晶成長がなされる。同時に、塗布膜表面側の表面側シード材層からも結晶化が進む。これにより塗布膜全体を結晶化させるための時間が、基材側からのみ結晶化させるよりも大幅に短縮される。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明では、基材の上層に塗布膜を設け、その後、仮焼成を行った後に本焼成を行って前記塗布膜を超伝導薄膜にする塗布熱分解法において、前記仮焼成前に、基材上層に設けられた塗布膜表面側に表面側シード材層を設けておき、前記本焼成に際し、前記塗布膜を、前記基材側と前記表面側シード材層からそれぞれ結晶化させて超伝導薄膜を得るので、結晶化を早期に完了することが可能である。これにより、本焼成に要する時間を短縮し効率的な超伝導薄膜の製造方法を提供することができる。
【0020】
また、基材と塗布膜との間にバッファ層を介在させる場合、バッファ層をシードとする結晶は、ほぼc軸方向にエピタキシャル成長しているが、シード材粉末を塗布して表面側シード材層を形成する際には、表面側シード材層をシードとした結晶は多結晶体となる。この多結晶体の結晶粒界は、ピン止め点として作用し、得られる超伝導薄膜の臨界電流密度を増大させることが可能である。また、多結晶体に磁場を印可することにより、結晶のc軸配向性を高め、臨界電流密度を増大させることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
本発明は塗布熱分解法で形成されるいずれの高温酸化物系超伝導体の製造にも適用可能である。超伝導体の例として現在実用化が検討されているビスマス系酸化物BiSrCaCu20x(Bi−2212).BiSrCaCu30y(Bi−2223)、イットリウム系酸化物YBaCu7−6(YBCO)などが挙げられるが、本発明は、これら超伝導体の種別が限定されるものではない。本実施形態では、超伝導体としてYBCOを用いる場合について以下に説明する。
【0022】
基材としては、各種の材料及び形状のものを使用できる。例えば材料としては銅、チタン、鉛、ステンレス等の金属やアルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物、炭化ケイ素等のセラミックスなどが用いられる。また、形状としては曲面、平面のいずれも可能であり、例えば板状、棒状、コイル状、繊維状、不織布状、管状等の任意の形状が可能である。また、多孔質のものでも良い。
【0023】
本実施形態では、基材としてサファイア(α−Al)単結晶(R面)基板を用いるものとする。その理由としては、限流器応用超伝導薄膜の基板材料としては、熱伝導度や耐熱衝撃性が高く大面積化が可能なサファイアが最適と考えられているからである。
サファイア基板1は超伝導薄膜の支持体として機能する。また、電力機器用限流器の導電体として超伝導体基板に超伝導薄膜を使用する場合、限流器動作時に超伝導体に発生する多量の熱を冷却媒体に速やかに移動し、超伝導状態を回復する。そのためにも熱伝導度の高いサファイア基板が好ましい。
【0024】
しかし、サファイアはYBCO超伝導体と化学反応を起こすだけではなく、結晶構造が異なり格子不整合性が大きいので、サファイア基板1上に直接YBCOをc軸方向にエピタキシャル成長させることは困難である。そのため、YBCOとサファイアとの中間の格子定数を有するセリアをバッファ層2としてサファイア基板1上に形成し、格子不整合性を緩和する。それと共に、化学反応も抑制する。本実施形態では,サファイア基板上に真空蒸着法によりセリアバッファ層2を100nm形成する。本バッファ層2はナノメータレベルで平坦な表面を有するので、バッファ層2上へYBCOをc軸方向へエピタキシャル成長することが可能である。なお、本発明としては、基板材質の選定によってはバッファ層を設けることなく超伝導薄膜の製造を行うことも可能である。バッファ層2の形成は、反応性真空蒸着法、スパッタリング法などにより行うことができる。ただし、本発明としては、バッファ層の形成方法が特に限定されるものではなく、その厚さも適宜の変更が可能である。
【0025】
次に、YBCO超伝導薄膜の構成金属元素Y、Ba、Cuの有機塩(アセチルアセトナト)を溶媒に溶かし塗布溶液とし、バッファ層2上に塗布する。なお、塗布溶液の溶質はアセチルアセトナトには限定されず、後続の焼成工程において酸化物を形成する化合物であれば良い。一般には、1000℃以下、特に200〜900℃で熱分解する様な化合物であれば良い。例えばアルコキシド、有機酸塩、無機酸塩、金属のハロゲン化物、水酸化物、酸化物等が挙げられる。具体的には、ナフテン酸、2−エチルヘキサン酸、カプリル酸、ステアリン酸、ラウリン酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸,フェノール、カテコール、安息香酸、サリチル酸、硝酸、炭酸、塩酸等の有機酸または無機酸の金属塩や、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、2−ペンテン−4−オン−2−オール等のアルコールの金属アルコキシド等が例示される。
【0026】
また、塗布溶液の溶媒としては上記の金属含有化合物を溶解しえるものであれば良く、下記の各種のものを単独または混合物の形で使用することができる。この様な溶媒としては、例えば、ヘキサン,オクタン、ベンゼン、トルエン、テトラリン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール等のアルコール類、アセトン,メチルエチルケトン,アセチルアセトン等のケトン類、ジブチルエーテル等のエーテル頬、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸,カプリル酸,ラウリン酸、ステアリン酸、ナフテン酸、リノール酸、オレイン酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸、フェノール、p−トルイル酸等の有機酸類、ブチルブチレート等のエステル類、ジメチルアミン、アニリン等のアミン類、N−メチルアセトアミド、フォルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等の硫黄含有化合物、ピリジン、フルフラール等の複素環物質類等が挙げられる。その他に、硝酸水溶液、アンモニア水溶液や水等も挙げられる。本実施例では、ブタノール、酪酸、フルフラールを用いた。
【0027】
塗布溶液中の各金属元素のモル比は、Y:Ba:Cu=1:2:3とする。また、塗布溶液の塗布は、例えばスピンコーティング、スクリーン印刷、浸漬法、スプレー法、刷毛塗り法等の通常の方法で行うことができる。本案実施例ではスピンコーティングを実施した。次に、空気中で加熱・乾燥することにより溶媒を除去し,塗布膜3とする。なお、溶媒の除去方法は加熱・乾燥に限定されず、例えば減圧・乾燥或いは加熱・乾燥との組み合わせでも良い。また、溶媒は完全に除去する必要は無く、幾分残存しても良い。
【0028】
その後、塗布膜3の表面に結晶化用シード材の溶液を更に塗布する。シード材はYBCO超伝導体の微粉末である。微粉末は1ミクロンからサブミクロン程度のサイズであり、一個の粒子はほぼ単結晶に近い状態である。該微粉末は、シード材結晶を機械的に粉砕すること等によって得ることができる。好適なシード材粉末は、塗布した際の面方向において、0.001〜1μmの円相当径を有するのが望ましい。また、シード材溶液の塗布量は、シード材表面被覆率で10〜95%の範囲内とするのが望ましい。
次に適当な温度で加熱することによりシード材塗布物から溶媒を除去し、シード材を塗布膜表面に均一に担持させて表面側シード材層4を形成する。表面側シード材層4では、シード材粉末が適度な密度で配置されていることで、隙間4aが同程度の間隔で分布している。
【0029】
次に、上記基板1を、仮焼成として所定の速度で、例えば500[℃]に昇温し、所定時間大気中に保持する。仮焼成において、YBCO超伝導薄膜の構成金属元素Y、Ba、Cuの有機塩(アセチルアセトナト〉の分子内結合は熱分解によって切断され、C、Hはそれぞれ大気中の酸素により酸化されCO、CO、HOガスに転化する。これらのガスは、塗布膜3に担持された表面側シード材層4の微粉末シード材の隙間4aから、大気中に除去される。シード材が塗布膜3の表面を隙間なく覆っていると、上記ガスの除去が困難になり、仮焼成を実施できないおそれがある。仮焼成の結果、塗布膜3は、超伝導薄膜を構成する元素が残った薄膜3aとなる。
【0030】
その後、基板1を室温まで徐冷し、不活性ガスArと酸素との混合ガスの流通下で、例えば750[℃]近辺で焼成する。本工程では、酸素分圧を精密に制御し、10Paから10Paへ二段階に切り替えるのが望ましい。本焼成を実施することにより、薄膜3a中に酸素が取り込まれて複合金属酸化物に転換されるとともに、セリアバッファ層2上でYBCO超伝導体の結晶がc軸方向にエピタキシャル成長する。この場合、結晶化は基板1上のバッファ層2をシードとして薄膜3a表面の方向へ進む。さらに本発明では、薄膜3a表面に担持された表面側シード材層4のシード材をシードとして、バッファ層2の方向へ向けて表面側から結晶化が進みYBCO超伝導薄膜5が得られる。以上のように、本焼成時に基板1上のバッファ層2をシードとして結晶化が進行すると同時に、薄膜3a表面上の表面側シード材層4からも対向するようにして結晶化が進行するので、結晶化は早期に完了する。また、超伝導薄膜5の表面側には、シード材層4のシード材をシードとして結晶化した多結晶体6aが生成され、シード材4aとともに、結晶粒界がピン止め作用を果たす効果もある。
【0031】
なお、上記実施形態では、塗布膜の形成、表面側シード材層の形成、仮焼成、本焼成による超伝導薄膜の形成を行う一連の工程について説明をしたが、上記工程を繰り返し行うことで超伝導薄膜の厚肉化を図ることも可能であり、その場合、表面側シード材層の形成は、超伝導薄膜の形成毎に行ってもよく、最終の超伝導薄膜の形成に際してのみ塗布膜上に設けるようにしてもよい。
【0032】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明をしたが、本発明は上記説明の内容に限定をされるものではなく、本発明を逸脱しない範囲で当然に変更が可能である。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の一実施例を比較例と比較しつつ説明する。
上記実施形態で説明した条件および工程に基づいてYBCO超伝導薄膜を製造した。なお、表面側シード材層に用いる粉末シード材は、円相当径で0.1μmに調整し、50%の表面被覆率で塗布膜表面に塗布した。製造の結果得られた超伝導薄膜の膜厚は0.25μmであり、本焼成に要する保持時間は1時間であった。また、得られた超伝導薄膜の臨界電流密度は1.2MA/cmであった。
【0034】
(比較例)
比較例として、表面側シード材層を設けない以外は、上記実施形態と同様にして塗布熱分解法を実施した。
すなわち、基板、バッファ層、塗布膜は上記の実施形態と同じものを用いた。その後、実施例と同じ方法で仮焼成を行った。次に、本焼成も実施形態と同じ方法で行ったが、結晶化は、基板上のバッファ層をシードとして塗布膜表面の方向にのみ進行した。結晶化を完了するのに長時間を要し、本焼成に要した保持時間は実施例に比べて長く、2時間であった。また、得られた超伝導薄膜の膜厚は0.23μmであった。更に、臨界電流密度は0.8MA/cmであり、実施例に比べて低かった。
【0035】
臨界電流密度に差異がある理由は以下の様に推定される。すなわち、バッファ層をシードとした結晶は、ほぼc軸方向にエピタキシャル成長しているが、表面側シード材をシードとした結晶は多結晶体である。そのため結晶粒界がピン止め点として作用し、臨界電流密度が増大したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態の製造方法を示す工程図である。
【図2】従来の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0037】
1 サファイヤ基板
2 バッファ層
3 塗布膜
4 表面側シード材層
5 YBCO超伝導薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上層に塗布膜を設け、その後、仮焼成を行った後に本焼成を行って前記塗布膜を超伝導薄膜にする塗布熱分解法において、前記仮焼成前に、基材上層に設けられた塗布膜表面側に表面側シード材層を設けておき、前記本焼成に際し、前記塗布膜を、前記基材側と前記表面側シード材層からそれぞれ結晶化させて超伝導薄膜を得ることを特徴とする超伝導薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記基材と塗布膜との間に、基材側シード材からなるバッファ層を介設することを特徴とする請求項1記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記表面側シード材層のシード材は、本焼成によって得られる超伝導薄膜と同じ組成からなることを特徴とする請求項1または2に記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記表面側シード材層のシード材と、前記基材側シード材とが同一材料からなることを特徴とする請求項2記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記表面側シード材層は、面方向において本焼成時発生ガス分子のサイズよりも大きい隙間が分布していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超伝導薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記表面側シード材層は、シード材粉末を前記塗布膜表面に塗布したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超伝導薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302507(P2007−302507A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132120(P2006−132120)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】