説明

超短波パルス光源およびそれを備えた2光子吸収記録媒体記録装置

【課題】2光子吸収記録媒体に対して高速、かつ安定に情報記録が可能な、実用的な超短パルスレーザ光源を得る。
【解決手段】一端が半導体可飽和吸収ミラー14により構成されてなる共振器と、固体レーザ媒質16と、共振器内における群速度分散を制御するための負群速度分散補償素子19と、固体レーザ媒質16を励起する励起光Lを出力する励起光学系13とを備え、繰り返し周波数1GHz以上のソリトンパルスレーザ光Lを発振するソリトンモード同期固体レーザ10と、ソリトンパルスレーザ光Lの強度変調を行うための、導波路型電気光学変調素子31およびそれに所望の情報に応じた電圧を印加する駆動ドライバ32とを備えた強度変調手段30と、強度変調されたソリトンパルスレーザ光Lmを、第2高調波に変換する非線形光学素子40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報に応じて変調可能な超短波パルス光源、およびその超短波パルス光源を備えた、非共鳴同時2光子吸収を利用して情報を記録することが可能な2光子吸収材料記録媒体への情報記録を行うための記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代高密度光記録方法として、非共鳴同時2光子吸収(以下において、単に「2光子吸収」という。)と称される非線形光学現象を利用した記録方法が注目されている。2光子吸収材は光密度が高い光の焦点でのみ誘起されるため、2光子吸収記録媒体を用いた光ディスクは面内のみならず、深さ方向に多層に記録ができることから、大容量化が可能となる。
【0003】
しかしながら、現状の2光子吸収材料の多くは2光子吸収効率が極めて低いため、従来の報告例では、情報書き込みを行うためのレーザ光源にはピークパワーの極めて高いチタンサファイアレーザのような大型のモード同期超短パルス固体レーザが用いられている。
【0004】
具体的には、上述のような2光子吸収材料を用いた記録媒体に対する情報記録を行うための記録装置が、特許文献1、2等に提案されている。
【0005】
特許文献1には、多光子吸収材料との組合せにおいて、情報記録を行うための光源として、1ps以下のパルス幅および1kHz以上の周波数のパルスレーザを発振する光源を備えた光記録再生装置が提案されており、特に、パルスレーザの波長は、多光子吸収材料の光吸収スペクトルの中心波長λaのn倍とすることについて開示されている。
【0006】
特許文献2は、記録しきい値エネルギーが10nJ以下の記録材料(多光子吸収材料)を有する記録媒体に対して、1ps以下のパルス幅のレーザ光を用い、レーザ光を記録媒体に集光する対物レンズとして開口数NAが0.6以上のものを用いることが提案されている。
【0007】
特許文献1および2では、具体的には中心波長800nm、パルス幅約100fs、繰り返し周波数80MHzのTi:Sapphire Laserであるスペクトラ・フィジックス社製のMaiTai(登録商標)を用いる例が挙げられている。
【0008】
その他、汎用超短パルスレーザとしては、イムラ社のファイバモード同期レーザなどもある。しかしながら、チタンサファイアモード同期レーザは、高価、大型かつ不安定であり、実用的な光源ではない。また、ファイバモード同期レーザは、チタンサファイアモード同期レーザと比較して、小型、低コストではあるが、パルスの繰り返し周波数が50MHz程度であり、高い転送レートでの書込みが不可能である。記録容量の向上に伴い、高い転送レートでの書き込みを行えないと、書込みに膨大な時間を要することとなり、やはり実用的な光源とはいえない。
【0009】
一方、近年、NdまたはYbをドープした固体レーザ媒質と可飽和半導体ミラーを用いたモード同期固体レーザにおいて、GHz帯の繰り返し周波数を実現し、低価格、小型、高安定性なレーザが、例えば特許文献3において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−164451号公報
【特許文献2】特開2006−196084号公報
【特許文献3】特開2008−28379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3に記載のような小型のモード同期固体レーザを用いることにより、実用的な2光子記録装置の実現が期待される。しかしながら、より記録容量を高めることが望ましい。そこで、上述の小型モード同期固体レーザにおいて、NbまたはYbなどをドープした固体レーザ媒質の発振波長は1μm近傍であることから、この発振光を、非線形光学素子により第2高調波として緑色光とし、この緑色光を記録光として用いることが考えられる。緑色光による2光子吸収記録を用いれば、1層当たりブルーレイディスク(BD)と同等の記録密度を達成可能となる。
【0012】
ここで、現実に所望の情報に応じた記録を行う場合には、記録光を所望の情報に応じて変調する必要がある。しかしながら、特許文献1、2等においては、光変調の具体的な方法は記載されていない。既存の光ディスク記録装置において、記録光の光変調に用いられているバルク体の電気光学変調素子は、GHz帯には対応できず、GHz帯の繰り返しの緑色パルスの光変調をいかに行うかが問題となる。光通信で用いられている導波路型電気光変調器が有望と考えられるが、可視帯域の波長で使用可能なものは作製が困難である。
【0013】
本願発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、2光子吸収記録媒体に対して高速、かつ安定に情報記録が可能な、実用的な超短パルスレーザ光源およびそれを備えた2光子吸収記録媒体記録装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の超短パルスレーザ光源は、一端が半導体可飽和吸収ミラーにより構成されてなる共振器と、該共振器内に備えられた、希土類もしくは遷移金属が添加されている固体レーザ媒質と、該共振器内における群速度分散を制御するための負群速度分散補償素子と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起光学系とを備え、繰り返し周波数1GHz以上ソリトンパルスレーザ光を発振するソリトンモード同期固体レーザと、
前記ソリトンモード同期固体レーザから発振された前記ソリトンパルスレーザ光の強度変調を行うための、導波路型電気光学変調素子および該導波路型電気光学変調素子に所望の情報に応じた電圧を印加する駆動ドライバを備えた強度変調手段と、
該強度変調手段により強度変調された前記ソリトンパルスレーザ光を、第2高調波に変換する非線形光学素子とを有していることを特徴とするものである。
【0015】
前記ソリトンモード同期固体レーザと前記導波路型電気光学変調素子との間に、前記ソリトンパルスレーザ光が該導波路型電気光学変調素子を通過することにより生じる群速度分散を補償する群速度分散補償素子を備えることが望ましい。
【0016】
ソリトンモード同期固体レーザとしては、ピークパワー100W(平均出力0.05W)以上、パルス幅1psec以下のソリトンパルスレーザ光を発振するものであることが望ましい。また、共振器が直線型共振器であり、共振器長は150mm以下、さらには75mm以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、前記ソリトンモード同期固体レーザから発振された前記ソリトンパルスレーザ光の一部を分割する、前記ソリトンモード同期固体レーザと前記導波路型電気光学変調素子との間に配置された光分割手段と、該光分割手段により分割された前記ソリトンパルスレーザ光を検出する光検出器とを備え、該光検出器からの電気信号を、前記導波路型電気光学変調素子に対して前記所望の情報に応じて印加される電圧の、クロック信号として使用することが望ましい。
【0018】
また、前記光検出器からの電気信号に基づいて、前記ソリトンモード同期固体レーザから安定した平均出力で前記ソリトンパルスレーザ光が発振されるように、前記励起光のパワーを制御する励起光駆動制御手段を備えていることが望ましい。
【0019】
前記導波路型電気光学変調素子としては、LiNbOからなるものが好適である。
【0020】
前記非線形光学素子としては、周期分極反転LiNbO素子、周期分極反転LiTaO素子および、周期分極反転KTiOPOのうちのいずれかが好適である。
【0021】
前記負群速度分散補償素子が、負分散量が−3000fs以上かつ0fs以下であり、透過率が0.1%以上かつ3%以下である負分散ミラーからなり、該負分散ミラーが前記共振器の他端を構成しているものであることが望ましい。
【0022】
本発明の2光子吸収記録媒体記録装置は、上記本発明の超短パルスレーザ光源を、2光子吸収記録媒体に対して情報を記録するための記録光光源として備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の超短パルスレーザ光源は、ソリトンモード同期固体レーザからの発振された繰り返し周波数1GHz以上のソリトンパルスレーザ光を、強度変調手段により変調した後に、第2高調波に変換するように構成しており、第2高調波に変換する前の、基本波で強度変調を行うので、強度変調手段として、既存の導波路型電気光学変調素子を用いることができる。この超短パルスレーザ光源を用いれば、2光子吸収記録媒体への情報記録が可能である。特に、繰り返し周波数1GHz以上、ピークパワー100W以上、パルス幅1psec以下の超短パルスレーザ光を用いれば、極めて実用的な高い転送レートでの情報記録を実現することができる。本超短パルスレーザ光源は、小型のソリトンモード同期固体レーザを用いることができるので、全体として小型に構成することができ、安定かつコストを抑制した実用的な記録再生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の超短パルスレーザ光源
【図2】本発明の実施形態の2光吸収記録媒体記録装置
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の超短パルスレーザ光源および2光子吸収記録媒体の記録装置の実施形態について説明する。
【0026】
「超短パルスレーザ光源」
まず、本実施形態の超短パルスレーザ光源1について説明する。図1は、本実施形態における超短パルスレーザ光源1の概略構成を示す模式図である。図示の通り、本実施形態の超短パルスレーザ光源1は、繰り返し周波数1GHz以上、ピークパワー100W以上、パルス幅1psec以下のソリトンパルスレーザ光を発振するソリトンモード同期固体レーザ10と、ソリトンモード同期固体レーザ10から発振されたソリトンパルスレーザ光Lの強度変調を行うための、導波路型電気光学変調素子31および該導波路型電気光学変調素子31に所望の情報に応じた電圧を印加する駆動ドライバ32とを備えた強度変調手段30と、該強度変調手段30により強度変調されたソリトンパルスレーザ光Lmを、第2高調波に変換する非線形光学素子40とを有してなる。
【0027】
ソリトンモード同期固体レーザ10は、共振器の一端を構成するSESAM(半導体可飽和吸収ミラー)14と、共振器の他端を構成する出力ミラーを兼ねた負分散ミラー19と、このSESAM14および負分散ミラー19で構成される共振器の内部に配置された固体レーザ媒質16と励起光Lを共振器光軸に対して斜め方向から入力させる励起光学系13と、共振器光軸に対してブリュースタ角になるように共振器内に配置され、励起光学系13により入射された励起光Lを、固体レーザ媒質16に向けて反射すると共に、共振器内で共振する発振光Lを透過する、共振器内に配されたダイクロイックミラー18とから構成されている。
励起光学系13は励起光Lを射出する半導体レーザ11と励起光Lを固体レーザ媒質上で収束させるためのセルフォックレンズ12を備えている。
【0028】
以上の構成においては、励起光学系13により共振器光軸に対して斜めに入射された励起光Lがダイクロイックミラー18により反射されて固体レーザ媒質16に入力され、これによって固体レーザ媒質16が励起されて発生した光が共振器の作用で発振する。レーザ発振光(パルスレーザ光)Lは出力ミラー(負分散ミラー)19を一部透過し外部に出力される。本構成の装置においては、共振器内で共振するレーザ発振光LのビームウェストがSESAM14上にのみ形成されている。なお、固体レーザ媒質16とSESAM14とは、固体レーザ媒質16に発振光Lのビームウェストが形成されていなくても十分な発振を行うことができる程度に近接配置されている。
【0029】
固体レーザ媒質16としては、例えば、760nm〜1100nm程度の範囲で発振波長を実現できる固体レーザ結晶のうち、対象とする記録媒体の特性に応じた発振波長を実現できる固体レーザ結晶を適宜選択して使用する。具体的には、Yb:KGW(KGd(WO)、Yb:KYW(KY(WO)、Yb:YAG(YAl12)、Yb:Y、Yb:Sc、Yb:Lu、Yb:GdCOB(CaGdO(BO)、Yb:SYS(SrY(SiO)、Yb:BOYS(SrY(BO)、Yb:YVO、Yb:GdVO、Alexandrite(Cr:BeAl)、Cr:LiSAF(LiSrAlF)、Cr:LiSGAF(LiSrGaF)、Cr:LiCAF(LiCaAlF)、Cr:forsterite(MgSiO)、Cr:YAG(YAl12)、Cr:CaGeO、Ti:Al、Nd:Glass、及びEr:Yb:Glassなどが挙げられる。なお、例えば、Yb:KYWにより1045nm、Yb:YAGにより1030nm〜1100nm、Yb:KGWにより1000nmあるいは1045nm、Yb:Y23により1075nm、Yb:Sc23により、1041nm、Nd:Glassにより1060nmのそれぞれ発振波長を得ることができる。またCr:LiSAF、Cr:LiCAF、アレキサンドライトなどを用いれば、760nm〜1000nmの発振波長を得ることができる。
【0030】
また、固体レーザ媒質16の厚みと希土類の添加濃度は、励起光を十分に、例えば90%の効率で吸収することが出来るように設定する。
【0031】
負分散ミラー19は、共振器内の群速度分散を補償し、かつ、共振器内の光パルスの高いピークパワーにより固体レーザ媒質16において生ずる自己位相変調による正のチャープも補償する役割を担う。分散量は動作条件にも依存するが、0〜−3000fsec程度の範囲内の分散量であることが好ましい。なお、分散量は、共振器内の全体の群速度分散が0以下となるように設定する。また、負分散ミラー19の透過率Tは、ミラー設計により、例えば出力結合率をおよそ0.5〜3%程度の範囲内に設定することで、最適な出力取り出しが可能である。
【0032】
負分散ミラー19の曲率半径は、共振器のガウスビーム伝搬設計により算出決定されるが、共振器スポット径(発振光のビームウェスト)を出来るだけ小さくするため、おおよそ共振器長と同程度の曲率半径を持たせ、ヘミスフェリカル型とすることが好適である。これにより、共振器スポットをおよそ50μm直径程度に抑えることができ、短共振器長化に伴うQスイッチ現象を回避することができる。また、これと同時に、励起光のスポット径との空間的な整合を良好に取ることができ、高効率化を図ることができる。
【0033】
ダイクロイックミラー18は、励起光Lの波長に対して高反射で、発振光Lの波長に対して低反射のコーティングが施されており、これにより高効率な励起及び低内部損失が実現される。
【0034】
本実施形態のモード同期固体レーザ10は、共振器長は150mm以下、さらには75mm以下であることが好ましい。また、共振器長150mm以下とすることにより繰り返し周波数を1GHz以上、75mm以下とすることにより繰り返し周波数2GHz以上が実現できる。
【0035】
本実施形態のモード同期固体レーザ10は、負分散ミラー19から出力された発振光Lの一部を反射するビームスプリッタ20、ビームスプリッタ20により反射された発振光Lの一部を受光して電気信号に変換する光検出器(フォトディテクタ)22を備え、フォトディテクタ22からの電気信号を、強度変調手段30において、駆動ドライバ32が電気光学変調素子31に対して電圧を印加する際のクロック信号として用いている。
【0036】
また、フォトディテクタ22からの電気信号は、ローパスフィルタ24を介して半導体レーザ11の出力を制御するLD駆動ドライバ25にも入力され、フォトディテクタ22で検出される光強度が略一定となるように半導体レーザ11に印加する電圧を制御するために用いられている。すなわち、本実施形態においては、ビームスプリッタ20、フォトディテクタ22、ローパスフィルタ24およびLD駆動ドライバ25により、励起光駆動制御手段が構成されている。
【0037】
導波路型電気光学変調素子31としては、LiNbOからなるものが好適である。導波路型の変調素子はロスが大きいことから、一般に、従来の光ディスク記録装置においては用いられていない。しかしながら、ソリトンモード同期固体レーザ10は導波路型の変調素子におけるロスにも十分に耐えうる出力を行うことができる。また、ソリトンパルスレーザ光Lは、導波路型電気光学変調素子31を通過する際、正のチャープを受けるためにパルス幅が広がり、さらに平均出力が低下するが、本実施形態の超短パルスレーザ光源1は、ソリトンモード同期固体レーザ10と、導波路型電気光学変調素子31との間に、ソリトンパルスレーザ光Lが導波路型電気光学変調素子31を通過することにより生じる群速度分散を補償する群速度分散補償素子35を備えている。この群速度分散補償素子35を備えているので、導波路型電気光学変調素子31により生じる正のチャープを補償し、パルス幅の広がりを抑制することができる。なお、光学変調素子31によるパルス幅の広がりが許容範囲であれば、群速度分散補償素子35は備えなくてもよい。
【0038】
非線形光学素子としてはモード同期固体レーザ10の発振光波長に対し分極反転周期が最適な値に設定された周期分極反転素子を用いる。具体的には、PPKTP(周期分極反転KTiOPO)、PPLN(周期分極反転LiNbO)、PPLT(周期分極反転LiTaO)が好適である。
【0039】
なお、本実施形態の超短パルスレーザ光源1は、さらにソリトンモード同期固体レーザ10から発振されたレーザ光Lを光学変調素子31に集光する集光レンズ36、光学変調素子31により変調されたレーザ光Lmをコリメートするコリメータレンズ41、さらにそのレーザ光Lmを非線形光学素子40に集光する集光レンズ42、非線形光学素子40から出力された光をコリメートするコリメータレンズ43を備えている。また、非線形光学素子40を透過した近赤外光と第2高調波とを分離するためのフィルタ44を備えている。フィルタ44により透過されるのは第2高調波超短パルスレーザ光Lwである。
【0040】
次に、上記一実施形態のモード同期固体レーザ10のレーザ構成部品について、具体的な構成例(実施例)を説明する。
【0041】
励起光学系13の半導体レーザ11としては、例えば中心波長980nm、エミッタ幅50μm、最大出力2.7Wの励起光を出力する半導体レーザ(オプトエナジー社製)を用いた。セルフォックレンズ12は、半導体レーザ11から出射された励起光を集光スポット径が略50μmφとなるように固体レーザに集光させるものである。
【0042】
固体レーザ媒質16として、厚みが1.5mm、Ybの添加濃度が5at%のYb:KYW(Yb:KY(WO42)を用いた。固体レーザ媒質16の両面は光学研磨され、発振光の波長1045±10nmに対し反射率が0.2%以下の反射防止コーティングが施されている。
【0043】
SESAM14としては、波長1045nmに対し、変調深さ(ΔR)が0.4%、飽和フルーエンス(Fsat)が70μJ/cmのものを用いた。
【0044】
負分散ミラー19は、凹面側に、分散量が−800fsec、発振光の波長1045±10nmの透過率が1.8%となるコーティングが施されており、平面側に発振光の波長1045±10nmに対し、反射率が1%以下の反射防止コーティングが施されている。また、ミラー面(凹面)の曲率半径は50mmである。
負分散ミラー19とSESAM14との距離、すなわち共振器長は約50mmとした。
【0045】
ダイクロイックミラー18は、励起光の波長に対して反射率が95%以上で、発振光の波長に対して反射率が0.2%以下のコーティングが施されているものを用いた。
【0046】
本発明者は、上記構成例のモード同期固体レーザ10により、中心波長1045nm、平均出力700mW、パルス幅220fsec、繰り返し周波数2.85GHzの超短パルスレーザ光を出力できることを確認した。
【0047】
ビームスプリッタ20としては、発振光の波長1045±10nmに対し、反射率が1%の反射防止コーティングが施された石英板を用いた。この石英板により反射された光が高速フォトディテクタ22により検出される。一方、石英板を通過したパルスレーザ光Lを群速度分散素子に集光するための集光レンズ36としては、焦点距離4.5mmのマクロアートレンズを用いた。
【0048】
本構成例では、群速度分散補償素子35を備えず、マクロアートレンズは、パルスレーザ光Lを、導波路型電気光学変調素子31に接続されている図示しないファイバに結合するように構成した。
導波路型電気光学変調素子31としては、Photoline technologies社のNIR-MX-LN-seriesを用いた。
【0049】
上記構成により、モード同期固体レーザからのパルスレーザ光Lを、導波路型電気光学変調素子31に約70%カップリングすることができ、非変調(電圧OFF)時に平均出力500mW、パルス幅400fsecのパルスレーザ光を電気光学変調素子31から出力させることができた。なお、群速度分散補償素子35を備えた場合、平均出力400mW、パルス幅250fsとすることができた。
【0050】
非線形光学素子40としては、発振波長1045nmに対応した反転ドメインが形成されている、長さ4.8mmのPPKTP結晶を用いた。
【0051】
電気光学変調素子31から出力したレーザ光Lmは、コリメータレンズ41および集光レンズ42によりPPKTP結晶に集光され、PPLTP結晶により第二高調波(SHG)に変換された光は、フィルタ44を透過して出力光Lwとして本実施形態の超短パルスレーザ光源1から出力される。
【0052】
上記の非変調時の超短パルスレーザ光Lmを非線形光学素子で第2高調波に変化することにより、波長522nm、パルス幅450fsec、平均出力40mW、ピークパワー30Wの緑色の超短パルスレーザ光を得ることができた。また、変調手段30により、フォトディテクタ22にからの電気信号をクロック信号として用いた変調制御を行うことにより、任意のタイミングで緑色パルス光を取り出すこともできた。
【0053】
本実施形態の超短パルスレーザ光源を用いることにより極めて実用的な2光子吸収記録媒体への記録が実現可能となる。
【0054】
上記構成例では固体レーザ媒質として、Yb:KYWを用いたが、固体レーザ媒質のレーザ結晶および添加物(希土類あるいは遷移金属)との組合せを適宜選択することにより、760nm〜1100nmの発振波長を達成可能であり、SHG素子と組み合わせることにより、第2高調波としては、380nm〜550nmの波長のレーザ光を出力可能である。
【0055】
<2光子吸収記録媒体の記録再生装置>
次に、上述の超短パルスレーザ光源1を備えた、本発明の2光子吸収記録媒体の記録装置の実施形態として、2光子吸収記録媒体から情報を読み出すための再生機能をさらに備えた記録再生装置2について説明する。
【0056】
図2は、本実施形態の2光子吸収記録媒体の記録再生装置2の概略構成図を示すものである。本実施形態の記録再生装置2において記録および再生に供される記録媒体102の記録層102aには2光子吸収材料が備えられており、例えば、波長380〜550nmの記録光の照射により2光子吸収を生じて情報記録が可能なものである。記録層は、読出し光の屈折率を変化させた反射光(波長は読出し光と同一)を信号光として生じるものであってもよいし、読出し光の照射により信号光として、例えば波長420〜700nmの蛍光を生じるものであってもよいが、本実施形態においては、信号光として蛍光を生じるものを用いている場合について説明する。
【0057】
本実施形態の2光子吸収記録媒体記録再生装置2は、2光子吸収記録媒体102の記録層102aに対して、2光子吸収を誘起して情報を記録するための記録光Lwとして、繰り返し周波数1GHz以上の超短パルスレーザ光を出力する、上述の超短パルスレーザ光源1と、2光子吸収記録媒体102から情報を読み出すための読取光Lrを出力する読出用レーザ光源104と、読取光Lrが照射された2光子吸収記録媒体102からの信号光(ここでは、蛍光)Lsを検出する光検出器105とを備えている。
【0058】
また、本記録再生装置2は、超短パルスレーザ光源1からの超短パルスレーザ光Lwをコリメートするコリメータレンズ70、超短パルスレーザ光Lwを記録媒体102に向けて反射し、読取光Lrを透過させるダイクロイックビームスプリッタ109、ダイクロイックビームスプリッタ109と記録媒体102との間に、ハーフミラー110および対物レンズ112を備えている。対物レンズ112は収差補正機能を有している。記録光である超短パルスレーザ光Lwは、ダイクロイックビームスプリッタ109で反射され、ハーフミラー110、対物レンズ112を介して記録媒体102上に照射される。また、読み出し光源104からの読取光Lrは、ダイクロイックビームスプリッタ109、ハーフミラー110および対物レンズ112を介し記録媒体102上に照射される。
【0059】
記録媒体102と、記録媒体102からの信号光Lsを検出する光検出器105との間には、信号光Lsを透過し、記録光波長を反射するダイクロイックビームスプリッタ113および共焦点光学系が配置されている。共焦点光学系は、レンズ121a、121bおよびピンホール122からなる。信号光Lsはハーフミラー110により反射され、ダイクロイックビームスプリッタ113を透過して共焦点光学系を経て光検出器105により検出される。
【0060】
また、本記録再生装置は、記録光Lwの集光位置を記録媒体の記録層における深さ方向に変化させる機構として、対物レンズ112を光軸に沿って移動させる駆動機構119を備えている。集光位置の補正手段として、ダイクロイックビームスプリッタ113で反射された戻り光Lw’を検出する光検出器106を備えており、駆動機構119は、光検出器106か羅の信号を受け、焦点位置の補正を行うよう構成されている。ダイクロイックビームスプリッタ113と光検出器106との間には、レンズ124a、124bおよびピンホール125からなる共焦点光学系を備えている。
なお、対物レンズを移動させる駆動機構119の代わりに記録媒体をレーザ光の軸方向に移動する機構を備え、記録媒体を軸方向に移動させることにより焦点位置の集光深さ方向に変化させるよう構成することもできるし、両者を移動可能に構成してもよい。
【0061】
読出用レーザ光源104は、対象となる2光子記録媒体に応じた読取光Lrを出力することができるものであればよい。
【0062】
上記構成の2光子吸収記録媒体の記録再生装置2においては、情報の記録時には、超短パルスレーザ光源1が、記録すべき情報に応じて強度変調器により変調させた超短パルスレーザ光Lwを出力して、該パルスレーザLwを記録媒体102に対して照射させることにより、記録媒体102の記録層への情報の書き込みを行う。光源1から出力されたパルスレーザ光Lwは、ダイクロイックビームスプリッタ109により記録媒体102に向けて反射され、ハーフミラー110および対物レンズ112を経て記録媒体102に照射される。このとき、対物レンズ112が駆動機構119により駆動され、所望の深さ方向位置にパルスレーザ光Lwを集光させる。このレーザ光Lwの集光領域のみで2光子吸収が生じ、集光領域の材料物性が変化し、読出し光の照射により蛍光を生じる化合物となる。なお、パルスレーザ光Lwの照射時に、記録媒体102からの戻り光Lw’は、パルスレーザ光Lwの光軸上を逆向きに進行し、ハーフミラー110により反射され、さらにダイクロイックビームスプリッタ113で反射されて、共焦点光学系を介して光検出器106により検出され、光検出器106からの信号により駆動機構119は、焦点位置の補正を行う。
【0063】
一方、読出し時には、読出用レーザ光源104からの読取光Lrはダイクロイックビームスプリッタ109を透過して、記録用のパルスレーザ光Lwの光軸と同軸上を進行し、ハーフミラー110、対物レンズ112を経て記録媒体102の記録層102aに照射される。この照射により、記録領域からは蛍光が信号光Lsとして発生する。この信号光Lsが、読取光Lrの光軸上を逆向きに進行し、ハーフミラー110により反射されて、ダイクロイックビームスプリッタ113および共焦点光学系を介して光検出器105により検出されることにより情報の読出しがなされる。
【0064】
このように、本記録再生装置2は、上述の超短パルスレーザ光源1を備えているので、記録すべき情報に応じて変調された緑色パルス光を記録光として用い、実用的な2光子吸収記録媒体へ記録を実現することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 超短パルスレーザ光源
2 2光子吸収記録媒体記録再生装置
10 ソリトンモード同期固体レーザ
11 半導体レーザ
12 セルフォックレンズ
13 励起光学系
14 半導体可飽和吸収ミラー
16 固体レーザ媒質
18 ダイクロイックミラー
19 負分散ミラー(負群速度分散補償素子)
20 ビームスプリッタ
22 フォトディテクタ
24 ローパスフィルタ
25 LD駆動ドライバ
30 強度変調手段
31 導波路型電気光学変調素子
32 駆動ドライバ
35 群速度分散補償素子
40 非線形光学素子
102 記録媒体
102a 記録層
104 読出用レーザ光源
105、106 光検出器
109、113 ダイクロイックビームスプリッタ
110 ハーフミラー
112 対物レンズ
119 駆動機構
L 発振光(ソリトンパルスレーザ光)
Lr 読取光
Ls 信号光
Lw 記録光(高調波超短パルスレーザ光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が半導体可飽和吸収ミラーにより構成されてなる共振器と、該共振器内に備えられた、希土類もしくは遷移金属が添加されている固体レーザ媒質と、該共振器内における群速度分散を制御するための負群速度分散補償素子と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起光学系とを備え、繰り返し周波数1GHz以上のソリトンパルスレーザ光を発振するソリトンモード同期固体レーザと、
前記ソリトンモード同期固体レーザから発振された前記ソリトンパルスレーザ光の強度変調を行うための、導波路型電気光学変調素子および該導波路型電気光学変調素子に所望の情報に応じた電圧を印加する駆動ドライバを備えた強度変調手段と、
該強度変調手段により強度変調された前記ソリトンパルスレーザ光を、第2高調波に変換する非線形光学素子とを有していることを特徴とする超短パルスレーザ光源。
【請求項2】
前記ソリトンモード同期固体レーザと前記導波路型電気光学変調素子との間に、前記ソリトンパルスレーザ光が該導波路型電気光学変調素子を通過することにより生じる群速度分散を補償する群速度分散補償素子を備えたことを特徴とする請求項1記載の超短パルスレーザ光源。
【請求項3】
前記ソリトンモード同期固体レーザから発振された前記ソリトンパルスレーザ光の一部を分割する、前記ソリトンモード同期固体レーザと前記導波路型電気光学変調素子との間に配置された光分割手段と、
該光分割手段により分割された前記ソリトンパルスレーザ光を検出する光検出器とを備え、
該光検出器からの電気信号を、前記導波路型電気光学変調素子に対して前記所望の情報に応じて印加される電圧の、クロック信号として使用することを特徴とする請求項1または2記載の超短パルスレーザ光源。
【請求項4】
前記光検出器からの電気信号に基づいて、前記ソリトンモード同期固体レーザから安定した平均出力で前記ソリトンパルスレーザ光が発振されるように、前記励起光のパワーを制御する励起光駆動制御手段を備えたことを特徴とする請求項3記載の超短パルスレーザ光源。
【請求項5】
前記導波路型電気光学変調素子が、LiNbOからなるものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の超短パルスレーザ光源。
【請求項6】
前記非線形光学素子が、周期分極反転LiNbO素子、周期分極反転LiTaO素子および、周期分極反転KTiOPOのうちのいずれかからなることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の超短パルスレーザ光源。
【請求項7】
前記負群速度分散補償素子が、負分散量が−3000fs以上かつ0fs以下であり、透過率が0.1%以上かつ3%以下である負分散ミラーからなり、該負分散ミラーが前記共振器の他端を構成していることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の超短パルスレーザ光源。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載の超短パルスレーザ光源を、2光子吸収記録媒体に対して情報を記録するための記録光光源として備えたことを特徴とする2光子吸収記録媒体記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−258120(P2010−258120A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104680(P2009−104680)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】