説明

超電導線およびその製造方法

【課題】基体の表面特性を改善して、優れた臨界電流特性を示す超電導線およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】金属基板を含む基体1と、この基体上に形成された超電導層を具備する超電導線であって、金属板に90%以上の圧下率の強圧延加工工程と配向熱処理工程とが施された金属板に研磨を施し、結晶粒界に形成された突起部Aを除去するとともに、突起部を構成する物質を溝部B内に堆積させて平坦化した後、基体表面上に超電導層を形成することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線およびその製造方法に係り、特に、結晶粒界の突起部を除去するとともに溝部を埋めることにより、優れた超電導特性を示す超電導線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基板を用いた高温超電導線は、一般に、2軸配向多結晶金属基板上に中間層として、下層側からCeO/YSZ/CeOの3層構造を形成し、この中間層の上にさらに超電導層を成膜したものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。超電導層は、酸化物高温超電導体であって、その組成はRE−Ba−Cu−O(RE:希土類金属)である。超電導層の上には安定化金属として銀などの金属を成膜する。
【0003】
しかしながら、配向金属基板を用いた超電導線では、その超電導層の臨界電流密度は、その超電導体の単結晶から得られる本来の臨界電流密度よりも低く、このため応用機器の開発や製作において、小型化や低コスト化の観点から問題となっていた。
【0004】
一般に、酸化物高温超電導線の製造においては、配向金属基板を強圧延加工してテープ状とし、それに配向熱処理を施して、表面層の結晶粒を2軸配向させるが、この2軸配向した基板上に、中間層をエピタキシャル成長させ、さらにその中間層の上に超電導層をエピタキシャル成長させたとき、超電導層の臨界電流特性は、超電導層内の各結晶粒の2軸配向性(超電導体結晶軸のa軸とb軸が面内にあり、そのa軸とb軸の方向が各結晶粒で揃っている状態)が高い(結晶方位が揃っている)ときに高い特性を示し、逆に一部の結晶粒の方位が大きくずれて(大傾角粒界が存在する状態)配向性が低いと、臨界電流特性が低いことが知られている。
【0005】
従来の配向金属基板の配向度は、X線極点図の半値幅で見るとΔφが7°〜10°程度であって、これに中間層を成膜すると中間層表面のΔφは6°程度になり、さらに超電導層を成膜するとΔφが6°程度とマクロスコピック的に揃っているものの、その表面層の一部に大傾角粒界が超電導層に生成されてしまい、そのため、臨界電流特性が本来の特性よりも低い結果となっていた。
【0006】
このような超電導層の低い臨界電流特性を改善するには、その結晶配向性を高める必要があり、そのためには大元(テンプレート)である配向金属基板の表面特性を、超電導層の配向性にとって最適なものにすることが必要となる。
【0007】
なお、超電導線材の表面に関する先行公知文献として、特許文献3〜9があるが、これらは超電導材の研磨方法や表面粗度について述べられているに過ぎない。
【特許文献1】特願2005−100635公報
【特許文献2】特願平11−3620号公報
【特許文献3】特願2005−56754公報
【特許文献4】特願2005−5089公報
【特許文献5】特願平11−329118号公報
【特許文献6】特願平10−269865号公報
【特許文献7】特願平06−251649号公報
【特許文献8】特願平06−114812号公報
【特許文献9】特願平05−250931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情の下になされ、基体の表面特性を改善して、優れた臨界電流特性を示す超電導線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、金属基板を含む基体と、この基体上に形成された超電導層を具備する超電導線であって、前記基体の表面は結晶粒界の溝部を有し、前記溝部が堆積物により埋められていることを特徴とする超電導線を提供する。このように基体表面の溝部が堆積物により埋められていることにより、基体表面の平坦性が向上する。
【0010】
このような本発明の第1の態様に係る超電導線において、前記基体の表面は、{100}<001>に完全配向または結晶軸の<001>に対するずれ角が25°以下に配向しているものとすることができる。このように、電流を流す方向(金属基板の圧延方向)の結晶配向を揃えることにより、その上に形成される超電導層に電流が流れやすくなる。また、前記基体表面に中間層を形成することができる。ここで、中間層を形成することにより、金属基板から超電導層への金属原子の拡散を防止することができる。更に、前記基体の表面は、Ni、Fe、Cu、及びAgからなる群から選ばれた金属の1種またはそれを含む合金からなるものとすることができる。これらの金属は立方晶のため、結晶軸が配向しやすい。
【0011】
なお、前記基体表面の前記溝部を含まない結晶粒内の表面粗さRa1と、前記溝部を含む結晶粒界部分の表面粗さRa2の差分が、50nm以下であることが望ましい。このように結晶粒内と結晶粒界の差を小さくすることで、基体表面全体の粗さが均一化される。
【0012】
本発明の第2の態様は、金属板に90%以上の圧下率の強圧延加工を施す圧延加工工程と、前記圧延加工が施された前記金属板を還元性雰囲気中で配向熱処理を施す配向熱処理工程と、前記配向熱処理が施された、結晶粒界に突起部と溝部を表面に有する前記金属板に研磨を施し、前記突起部を除去するとともに、除去された突起部を構成する物質を前記金属板の表面の溝部内に堆積させる研磨・堆積工程と、前記研磨・堆積工程が施された前記金属板上に超電導層を形成する超電導層形成工程とを具備することを特徴とする超電導線の製造方法を提供する。このように基体表面の溝部が堆積工程により埋められていることにより、基体表面の平坦性が向上する。
【0013】
この場合、前記研磨工程は、機械研磨、化学的機械研磨、又はそれらの組み合わせによる研磨方法により行うことができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、金属板に90%以上の圧下率の強圧延加工を施す圧延加工工程と、前記圧延加工が施された前記金属板を還元性雰囲気中で配向熱処理を施す配向熱処理工程と、前記配向熱処理が施された、結晶粒界の突起部と溝部を表面に有する前記金属板に研磨を施し、前記突起部を除去する研磨工程と、めっき処理を施して前記溝部内に堆積物を堆積する堆積工程と、前記めっき処理が施された前記金属板上に超電導層を形成する超電導層形成工程とを具備することを特徴とする超電導線の製造方法を提供する。このように基体表面の溝部がめっき処理による堆積工程によって、埋められていることにより、体表面の平坦性が向上する。
【0015】
この場合、前記研磨工程は、電解研磨、化学研磨、機械研磨、化学的機械研磨、又はそれらの組み合わせによる研磨方法により行うことができる。例えば、電解研磨、化学研磨、又はそれらの組み合わせにより研磨を行うことができ、あるいは機械研磨、化学的機械研磨、又はそれらの組み合わせにより研磨を行った後、電解研磨、化学研磨、又はそれらの組み合わせにより研磨を行うことができる。なお、機械研磨や化学的機械研磨などで除去された突起部を構成する物質を金属板の表面の溝部内に堆積させた後にめっき処理を行ってもよい。
【0016】
なお、以上の超電導線の製造方法において、前記超電導層を形成する前の前記金属板表面に中間層を形成することが出来る。ここで、中間層を形成することにより、金属基板から超電導層への金属原子の拡散を防止することができる。また、前記中間層の表面を研磨することができる。このように、更に中間層の表面を研磨することにより、中間層の表面をより平坦化することができ、超電導層の超電導特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、基体表面を研磨し、溝部内を堆積物で埋めることにより、基体表面の平坦性が向上し、その上に超電導層を形成することにより、超電導特性の非常に優れた超電導線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
本発明の一実施形態に係る超電導線は、2軸配向金属基板上に超電導層を形成してなり、その超電導特性を改善するために、金属基板を含む基体の表面の結晶粒界における、いわゆる「グルーブ」と呼ばれる突起部及び溝部に着目してなされた。
【0020】
本実施形態において、金属基板としては、少なくとも表面が、ニッケルまたはその合金、鉄またはその合金、銅またはその合金、銀またはその合金であるものが望ましい。ニッケルまたはその合金としては、例えばNi−3at%W、Ni−5at%W、Ni−7at%WなどのNi−W合金、Ni−Co、Ni−Fe、Ni−Mn、Ni−Cr、Ni−Vなどを挙げることができる。鉄またはその合金としては、例えばFe−Cr、Fe−Co、Fe−Mn、Fe−Cu、Fe−Snなどを挙げることができる。銅またはその合金としては、例えばCu−Cr、Cu−Mo、Cu−W、Cu−V、Cu−Snなどを挙げることができる。また、銀またはその合金としては、例えばAg−Mn、Ag−Mg、Ag−Mo、Ag−Crなどを挙げることができる。
【0021】
これら金属基板の表面金属は、結晶系が面心立方結晶系に属し、強圧延加工を行い易いという利点がある。このような強圧延加工と熱処理により、表面が2軸配向され、超電導層の形成のための下地として好適に用いることができる。
【0022】
また、金属基板の強度や耐熱性を高めることや、金属基板の磁性を低くするなどのために、基板の芯となる部分に表面層と異なる金属を用いることもできる。ここで表面層と異なる芯材として、Ni−W合金、Ni−Fe合金、Ni−Mn合金、Ni−Co合金、Ni−Mg合金、Ni−V合金、Ni−Coなどの耐熱性と高強度と低磁性の特性を有する金属であればその種類を問わない。これら芯材としての金属は、表面金属よりも高い強度を有しているので、複合則から、例えば同じ厚さの基板に対して、組み合わせない基板よりも強度を向上させることができる。
【0023】
以上のような金属基板は、表面金属を2軸配向させるために、90%以上の加工率で強圧延加工し、ついで還元性雰囲気で500℃以上で熱処理する。ここで、特に望ましい配向熱処理は、アルゴンガスに水素を3%から7%程度混合した還元ガスを熱処理炉に流し、熱処理温度を900℃から1200℃の間とし、基板のその熱処理温度にさらされている時間は、配向率と配向度と表面結晶粒径の大きさの兼ね合いから選ぶが、少なくとも10分以上とすることである。
【0024】
なお、90%以上の加工率の「加工率」とは、圧延における「圧下率」のことであり、圧延前と圧延後の厚みの差を圧延前の厚みで除して100を乗じた値である。
【0025】
このような強圧延加工及び配向熱処理により、金属基板の表面を{100}<001>に2軸配向あるいはほぼ2軸配向させることができる。このように、電流を流す方向(金属基板の圧延方向)の結晶配向を揃えることにより、その上に形成される超電導層に電流が流れやすくなり、臨界電流を向上させることができる。
【0026】
しかし、このように強圧延加工及び配向熱処理の2つの処理が施されると、金属基板の表面には、結晶粒界において、図1(a)に示すように、いわゆる「グルーブ」と呼ばれる突起部Aと溝部Bとが発生する。溝部Bの深さは、熱処理温度高いほど及び/又は熱処理時間が長いほど、深く形成されるものと考えられる。このような「グルーブ」の存在は、金属基板表面に中間層を成膜した場合に、中間層にクラックを生じさせたり、超電導層を成膜した場合に超電導特性の低い巨大結晶粒成長を生じさせたりする。
【0027】
本実施形態では、配向熱処理の後に、金属基板表面を研磨することにより、このような問題の解消を図っている。即ち、2軸配向あるいは2軸にほぼ配向した配向金属基板1の表面に、機械研磨、化学的機械研磨、それら組み合わせた研磨などの研磨処理を施している。その結果、図1(b)に示すように、突起部Aは除去されるとともに、図1(c)に示すように、溝部Bは堆積物Cで埋められる。
【0028】
ここで、溝部Bは堆積物Cで実質的に埋められているとは、後述する図2の示すグルーブの溝部を含む領域3(10μm四方)の表面粗さRa2が50nm以下である場合をいう。
【0029】
この場合、溝部B内を埋める堆積物は、研磨により除去された突起部Aの研磨滓であるが、研磨粒の一部を含む場合もある。いずれの堆積物も溝部B内に強固に堆積し、後の洗浄工程においても溝部B内から脱離することはない。
【0030】
なお、堆積物は、ICP(Inductively Coupled Plasma(誘導結合プラズマ))分析、EDX(エネルギー分散型X線分析)、SEM(走査型電子顕微鏡)&EPMA(X線マイクロアナライザー)等により分析することが可能である。
【0031】
研磨方法としては、電解研磨、化学研磨、それら組み合わせた研磨を採用することも可能であるが、これらの研磨によっては、突起部Aを除去することはできるが、溝部B内を埋めることはできない。この場合には、研磨処理を施した後、めっき等の表面処理により、別途、溝部B内を埋めることが必要となる。この場合、機械研磨又は化学的機械研磨を行なった後に電解研磨や化学研磨を行い、その後、めっき等の表面処理を行うことにより、より平坦性を向上させることができる。なお、電解研磨は、処理速度が速く、また処理コストが低いという利点がある。
【0032】
ここで、研磨に関しては、機械研磨において、研磨粒はダイアモンド粒や酸化物粒、特に酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化鉄などが望ましく、またその溶液(研磨液)は水や界面活性剤や油類や有機溶剤やそれらの混合液、あるいは水に蟻酸や酢酸や硝酸などの酸、あるいは水に水酸化ナトリウムなどのアルカリを混合した溶液であればよいが、特に石けん水が望ましい。
【0033】
化学研磨において、研磨液は、基板表面と化学反応する化学溶液であって、例えば硝酸、硫酸、蟻酸、酢酸、塩酸、フッ酸、クロム酸、過酸化水素、シュウ酸、テトラリン酸、氷酢酸などの液体あるいはその混合溶液で、さらにその混合溶液に飽和アルコールやスルホン酸類などの促進剤を混合した溶液が望ましい。
【0034】
化学的機械研磨においては、研磨粒は上記機械研磨の粒でよく、そこに化学研磨の溶液を含む研磨溶液(スラリー)を用いる。
【0035】
電解研磨では、基板を電解液に浸して、基板を陽極として通電して電解反応で基板表面を研磨する。この電解液は、酸やアルカリでよく、特に硝酸、リン酸、クロム酸、過酸化水素、水酸化カリウム、シアン化カリウムなどが望ましい。
【0036】
以上のような研磨処理を行うことにより(場合によっては引き続きめっき処理を行うことにより)、平坦性が大幅に向上し、その上に成膜される中間層や超電導層の結晶粒が平坦化されて、配向度が改善され、超電導線の特性を著しく高めることができる。
【0037】
基板表面の平坦性は、図2に示すように、結晶内におけるグルーブを含まない領域4(10μm四方)の表面粗さRa1と、長さ10μm以上のグルーブの溝部が埋められた領域3(10μm四方)の表面粗さRa2との差を好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下とすることにより、中間層や超電導層の成膜による粒界に起因したクラックの発生の防止や、中間層や超電導層の結晶粒径のさらなる微細化が可能になり、超電導特性が著しく向上する。
【0038】
特に、中間層において発生するクラック(下地配向金属基板の結晶粒界の近傍に多く見られるクラック)を解消することができるので、超電導線として曲げなどの条件下でも、超電導特性を良好に保持することが可能になる。
【0039】
なお、表面粗さRaとは、JIS B 0601-2001において規定する表面粗さパラメータの「高さ方向の振幅平均パラメータ」における算術平均粗さRaである。
【0040】
また、基板表面の溝部が埋められている状態は、SEM又はレーザー顕微鏡により確認することができる。
【0041】
金属基板上には、中間層を形成することができる。中間層を形成することにより、金属基板から超電導層への金属原子の拡散を防止することができる。なお、中間層に対しても研磨を施すことが望ましい。金属基板表面の研磨処理により平坦性の良好な中間層を形成することが可能であるが、更に中間層の表面を研磨することにより、中間層の表面をより平坦化することができ、超電導層の超電導特性を向上させることができる。
【0042】
中間層としては、酸化物、特に金属基板の表面を構成する金属の酸化物を用いることができる。
【0043】
実施例
以下に本発明の実施例を示し、本発明について具体的に説明する。
【0044】
実施例1
図3は、本発明の一実施例に係る配向金属基板を用いた超電導線の断面構成図である。図3において、厚さ100μmの配向金属基板11上に、合計の厚さ300μmの3層の中間層12が形成され、この中間層12上に厚さ1μmの超電導層13及び厚さ約5μmの銀層14が形成されて、超電導線が構成されている。
【0045】
図3に示す超電導線は、以下のようにして製造される。まず、市販されている外径25mm×長さ1000mmのNi−5at%W製の丸棒を、圧延加工率95%となるように厚さ0.1mmに圧延してテープ状とし、さらに幅が10mmになるようにスリットした。
【0046】
このテープ線を長さ200mについて、リールトゥリール式の連続配向熱処理装置(炉の長さ2m)に取り付けて、搬送速さ3m/時間にて、1100℃の配向熱処理を施した。このとき、炉内はアルゴンガスに水素3%の混合ガス雰囲気として還元熱処理することで、2軸配向させた。
【0047】
このように配向熱処理されたテープ線の表面を調べたところ、X線ディフラクションメーターで(100)結晶軸の配向率P=99%となり、X線極点図では2軸結晶配向度Δφ=6.7°であった。
【0048】
ここで結晶粒の配向率とは、X線回折装置でいわゆるθ−2θ測定での回折強度比として、(111)軸と(200)軸の強度をそれぞれP1とP2とした時に、下記式で表されるPをいう。
【0049】
P=〔P2/(P1+P2)〕×100(%)
このPが90%程度を超える場合が高配向と呼ばれている。
【0050】
さらに、レーザー顕微鏡の観察から結晶粒界に、いわゆるグルーブと呼ばれる突起部が見られ、原子間力顕微鏡(AFM)による、そのグルーブを含む10μm角の表面粗さRa2は270nmであり、グルーブを含まない部分(結晶粒内部)の10μm角の表面粗度Ra1は28nmであった。
【0051】
このようにして得た配向金属基板11に、図4に示す連続式機械研磨装置を用いて表面を機械研磨して、結晶粒界のグルーブを研磨した。
【0052】
即ち、供給ドラム21からの配向金属基板11は、研磨室22内において研磨される。研磨室22内には、支持台23及び研磨ヘッド24が配置され、スラリー供給器25から研磨スラリーが研磨ヘッド24に供給される。配向金属基板11は支持台23と研磨ヘッド24との間を走行しつつ連続的に研磨される。
【0053】
研磨された後の配向金属基板11は、研磨室22を出て洗浄室26に入り、洗浄機27により洗浄された後、乾燥室28においてエアーナイフ29により乾燥される。乾燥された配向金属基板11は、巻き取りドラム30に巻き取られる。
【0054】
研磨では、粒度が異なる2種類の研磨材を用意した。研磨材は酸化アルミニウムの微粒子(粒径約1μm)と水を主成分とするスラリー(研磨粒混合液)と、同じく酸化アルミニウムの微粒子(粒径約0.02μm)と水を主成分とするスラリーであった。
【0055】
図4に示す連続式機械研磨装置は、テープ線をリールトゥリール式に連続搬送可能となっており、搬送時には送り出しドラム21と巻き取りドラム30が連携して張力を調整することができる機構を備えている。この装置の配向金属基板11のパスライン上に、円盤状の研磨ヘッド24が2機セットされてあり、この研磨ヘッド24を配向金属基板11に押しつけながら回転させてスラリーを流し込み、配向金属基板11を搬送することで連続研磨を行った。研磨ヘッド24は、ダイアモンド微粒子を表面に取り付けた円盤であり、連続研磨では、前段に粒径の大きい方を、後段に粒径の細かい方のスラリーを適用した。
【0056】
以上のように研磨された配向金属基板11の一部を取り出して、その表面粗さをAFM装置で、また配向度をX線極点図で測定した。なお、配向金属基板11の表面をSEMで観察したところ、溝部が埋められているのが確認された。これは、研磨により削り取られた突起部の研磨滓が溝部内に強固に堆積したものである。
【0057】
このように研磨処理が施された配向金属基板11の表面に、連続式エレクトロンビーム蒸着装置を用いて、蒸着部位の配向基板温度を約800℃に加熱してCeOからなるシード層を成膜レート1nm/s、真空度約1×10−2Paの条件で、約100nmの厚さに成膜した。また、このシード層の上に、スパッター法にて700℃で真空度約5×10−3Paの条件で、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)膜を100nmの厚さに成膜し、更にこの上にCeO膜をスパッター法にて約100nmの厚さに成膜し、3層構造の中間層を形成した。
【0058】
次に、基板を850℃に加熱し、中間層の上に、YBCO超電導体を、有機金属気相成長法(MOCVD法)によって、約1μmの厚さに形成した。
【0059】
そして、YBCO超電導層の上面に銀を高周波スパッター装置を用いて約1μmの厚さに蒸着して電極部を形成した。
【0060】
このようにして得た超電導線の銀面に、4端子法で臨界電流を測定するために、電流リード線と電圧リード線をハンダ接続し、液体窒素に浸漬した状態で通電して、臨界電流を計測した。
【0061】
基板表面の結晶粒界のグルーブの溝による超電導特性の影響を調べるために、上記の研磨工程での研磨ヘッド圧力と粒子の粒径を同一とし、搬送速さを変えて、グルーブの溝部の埋まり方の水準が複数となるように実験した。このグルーブの溝部の埋まり方を定量化するために、図2におけるグルーブを含まない領域4のRa1とグルーブを含む領域3のRa2の差が約130nm、約100nm、約80nm、約60nm、約50nm、約20nm、約10nm、約5nmになるようにして、上記と同様の工程で超電導線を製作した。その結果を下記表1に示す。
【表1】

【0062】
上記表1から、各配向金属基板のΔφは、ほぼ6°台前半に揃っていることから、ほとんど同じ結晶粒方位を有していることが分かる。これに中間層と超電導層を成膜した超電導特性は、表面粗度が微粒になるに従い臨界電流特性も向上するが、本実施例の結晶粒界のグルーブを含まない領域4のRa1とグルーブを含む領域3のRa2の差が50nm以下で、臨界電流が実用的に求められている200A以上となり、望ましくは10nm以下で、臨界電流が400A以上となり、臨界電流特性が飛躍的に向上することが分かる。
【0063】
実施例2
本実施例では、クラッド式の配向金属基板を用いた例を示す。ここでクラッド式とは、中心部と表面部に異なる金属を配置した構造を指すもので、図5に示すとおり、2層(a)や3層(b)や4層(c)の層数があるが、ここでは特に図5(b)に示す3層のサンドイッチ構造の場合について述べる。この3層構造では、中心部の強度が表面部よりも高いことが望ましい。
【0064】
まず、外径40mm/内径25mm、長さ50mmの市販のNi−3at%W管内に、外径24.8mm、長さ40mmのNi−7at%Wの丸棒を挿入し、Ni−3at%W管の両端に、管のふたとしてNi−3at%W製の円盤(外径40mm)を電子ビーム溶接して、ビレットを組み立てた。
【0065】
このビレットを押し出し機で押し出し、ロール圧延とスリット加工によって、厚さ0.1mm、幅10mm、長さ50mのテープに仕上げた。このとき、表面のNi合金層の厚さは、約10μmであった。これにより、加工率は90%以上を確保した。
【0066】
このテープ線をパンケーキ状に巻いたコイルを箱形の熱処理炉内に設置し、アルゴンガスと水素の混合ガス雰囲気で1100℃×3時間保持し、配向熱処理(バッチ式配向熱処理)した。その結果、最外層のNi−3at%W層が2軸配向した。
【0067】
Ni−3at%W層を調べたところ、P=99%となり、X線極点図では2軸結晶配向度Δφ=6.9°で、原子間力顕微鏡(AFM)による結晶粒界のグルーブを含む10μm角の表面粗さRa2は、約270nmであって、結晶粒内のグルーブを含まない10μm角の表面粗度Ra1は32nmであった。
【0068】
また、引っ張り試験を室温で行ったところ、0.2%耐力は900MPaであった。従って、高配向かつ高強度の金属基板を得ることができた。
【0069】
この配向金属基板に図6に示す連続式電解研磨装置を用いて表面を電解研磨した。即ち、送り出しドラム31からの配向金属基板11は、絶縁されたリール32を介して電解液槽33内において電解研磨される。電解液槽33内には、マイナス電極34が配置され、このマイナス電極34と配向金属基板11との間に通電することにより電解研磨が行われる。
【0070】
電解研磨された後の配向金属基板11は、電解液槽33を出て水洗・乾燥室35に入り、洗浄及び乾燥された後、巻き取りドラム36に巻き取られる。
【0071】
電解研磨条件を下記表2に示す。
【表2】

【0072】
以上のような電解研磨では、図1に示す突起部Aを除去することはできるが、溝部Bを埋めることはできない。そのため、溝部Bを埋めるために、表面に電解ニッケルめっきを施した。このときのめっき浴は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硼酸を主成分とするいわゆるワット浴でよく、それ以外のニッケルめっき浴でも構わない。ここでは、下記表3に示すめっき浴を用意して、この浴の中に陽極に純ニッケルを電極とし、陰極に研磨した配向基板を取り付け、配向基板表面にニッケルめっきを施した。このときの通電電流は、0.3Aであり、めっき処理時間は1分間であった。
【表3】

【0073】
この配向金属基板11の表面に、連続式エレクトロンビーム蒸着装置を用いて、蒸着部位の配向基板温度を約800℃に加熱してCeOからなるシード層を成膜レート1nm/s、真空度約1×10−2Paの条件で、約100nmの厚さに成膜した。また、このシード層の上に、スパッター法にて700℃で真空度約5×10−3Paの条件で、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)膜を100nmの厚さに成膜し、更にこの上にCeO膜をスパッター法にて約100nmの厚さに成膜し、3層構造の中間層を形成した。
【0074】
次に、基板を850℃に加熱し、中間層の上に、YBCO超電導体を、有機金属気相成長法(MOCVD法)によって、約1μmの厚さに形成した。
【0075】
そして、YBCO超電導層の上面に銀を、高周波スパッター装置を用いて約1μmの厚さに蒸着して電極部を形成した。
【0076】
このようにして得た超電導線の銀面に、4端子法で臨界電流を測定するために、電流リード線と電圧リード線をハンダ接続し、液体窒素に浸漬した状態で通電して、臨界電流を計測した。
【0077】
基板表面の結晶粒界のグルーブの溝による超電導特性の影響を調べるために、上記の研磨工程での研磨ヘッド圧力と粒子の粒径を同一とし、搬送速さを変えて、グルーブの溝部の埋まり方の水準が複数となるように実験した。このグルーブの溝部の埋まり方を定量化するために、図2におけるグルーブを含まない領域4のRa1とグルーブを含む領域3のRa2の差が約200nm、約100nm、約80nm、約60nm、約50nm、約20nm、約10nm、約5nmになるようにして、上記と同様の工程で超電導線を製作した。その結果を下記表4に示す。
【表4】

【0078】
上記表4から、各配向金属基板のΔφは、ほぼ6°台前半に揃っていることから、ほとんど同じ結晶粒方位を有していることが分かる。これに中間層と超電導層を成膜した超電導特性は、表面粗度が微粒になるに従い臨界電流特性も向上するが、本実施例の結晶粒界のグルーブを含まない領域4のRa1とグルーブを含む領域3のRa2の差が50nm以下で、臨界電流が実用的に求められている200A以上となり、望ましくは10nm以下で、臨界電流が400A以上となり、臨界電流特性が飛躍的に向上することが分かる。
【0079】
実施例3
Ra2(溝部を含む領域の平均粗さ)を変化させたことを除いて、実施例1と同様にして、超電導線を製作し、それらの臨界電流を測定した。その結果を下記表5に示す。
【表5】

【0080】
上記表5から、Ra2が50nm以下となると臨界電流が実用的に求められている200A以上となり、向上することがわかる。この結果から、Ra2が50nm以下で、実質的に溝部が埋められていると言うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】研磨処理による本発明の原理を説明するための図である。
【図2】基板表面の平坦性を示す領域4における表面粗さRa1と領域3における表面粗さRa2の差を説明する図である。
【図3】本発明の一実施例に係る配向金属基板を用いた超電導線の断面構成図である。
【図4】連続式機械研磨装置を示す図である。
【図5】クラッド式の配向金属基板を用いた例を示す断面図である。
【図6】連続式電解研磨装置を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1,11…配向金属基板、A…突起部、B…溝部、C…堆積物、2…結晶粒界、3…グルーブを含む領域、4…グルーブを含まない領域、12…中間層、13…超電導層、14…銀層、21…供給ドラム、22…研磨室、23…支持台、24…研磨ヘッド、25…スラリー供給器、26…洗浄室、27…洗浄機、28…乾燥室、2…エアーナイフ、30…巻き取りドラム、31…送り出しドラム、32…リール、33…電解液槽、34…マイナス電極、35…水洗・乾燥室、36…巻き取りドラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板を含む基体と、この基体上に形成された超電導層を具備する超電導線であって、前記基体の表面は結晶粒界の溝部を有し、前記溝部が堆積物により埋められていることを特徴とする超電導線。
【請求項2】
前記基体の表面は、{100}<001>に完全配向または結晶軸の<001>に対するずれ角が25°以下に配向していることを特徴とする請求項1に記載の超電導線。
【請求項3】
前記基体の表面に中間層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の超電導線。
【請求項4】
前記基体の表面は、Ni、Fe、Cu、及びAgからなる群から選ばれた金属の1種またはそれを含む合金からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線。
【請求項5】
前記基体の表面の前記溝部を含まない結晶粒内の領域の表面粗さRa1と、前記溝部を含む結晶粒界部分の表面粗さRa2の差分が50nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導線。
【請求項6】
金属板に90%以上の圧下率の強圧延加工を施す圧延加工工程と、
前記圧延加工が施された前記金属板を還元性雰囲気中で配向熱処理を施す配向熱処理工程と、
前記配向熱処理が施された、結晶粒界に突起部と溝部を表面に有する前記金属板に研磨を施し、前記突起部を除去するとともに、除去された突起部を構成する物質を前記金属板の表面の溝部内に堆積させる研磨・堆積工程と、
前記研磨・堆積工程が施された前記金属板上に超電導層を形成する超電導層形成工程とを具備することを特徴とする超電導線の製造方法。
【請求項7】
前記研磨工程が、機械研磨、化学的機械研磨、又はそれらの組み合わせによる研磨方法により行われることを特徴とする請求項6に記載の超電導線の製造方法。
【請求項8】
金属板に90%以上の圧下率の強圧延加工を施す圧延加工工程と、
前記圧延加工が施された前記金属板を還元性雰囲気中で配向熱処理を施す配向熱処理工程と、
前記配向熱処理が施された、結晶粒界の突起部と溝部を表面に有する前記金属板に研磨を施し、前記突起部を除去する研磨工程と、
めっき処理を施して前記溝部内に堆積物を堆積する堆積工程と、
前記めっき処理が施された前記金属板上に超電導層を形成する超電導層形成工程とを具備することを特徴とする超電導線の製造方法。
【請求項9】
前記研磨工程が、電解研磨、化学研磨、機械研磨、化学的機械研磨、又はそれらの組み合わせによる研磨方法により行われることを特徴とする請求項8に記載の超電導線の製造方法。
【請求項10】
前記超電導層を形成する前の前記金属板表面に中間層を形成する工程を更に具備することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の超電導線の製造方法。
【請求項11】
前記中間層の表面を研磨する工程を更に具備することを特徴とする請求項10に記載の超電導線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−311222(P2008−311222A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125217(P2008−125217)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】