説明

超音波探傷法による検査方法及び超音波探傷法による検査システム

【課題】薄肉の被検物の欠陥部を検出でき、且つ正常部の肉厚をも測定できる、超音波探傷法によるチューブ検査方法及び超音波探傷法によるチューブ検査システムを提供する。
【解決手段】超音波探傷法による検査システムであって、超音波Uを射出し、反射波I,Oを受信する探触子10と、受信信号を増幅する増幅回路214a,214bと、メモリ110と、内面からの反射波Iを認識する内面反射波認識手段208と、増幅回路214a,214bで増幅された値が、第一閾値X以上になると、受信信号を増幅した値が、第二閾値Y未満になるように、増幅回路214a,214bの増幅度を下げ、その下げた状態から増幅回路214a,214bの増幅度を所定時間まで増加させる増幅度変換手段208,215,216と、外面からの反射波Oを認識する外面反射波認識手段208と、壁の厚さを検知する厚さ検知手段111を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属等を探傷する非破壊検査の一種である超音波を利用した探傷法による検査方法及び超音波を利用した探傷法による検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な工業施設、商業施設等において金属等が建築用や機械用として広く一般に使用されている。
しかしながら、元々の母材欠陥や、老朽化によって亀裂や腐食が発生する場合もあり、欠陥の有無の検査が必要となる。
そこで、超音波探傷法による検査方法及び検査システムが開発されており、広く利用されている。
【0003】
この超音波探傷法による検査方法及び超音波探傷法による検査システム100は、超音波Uを使用し対象物を破壊することなく、チューブ等の壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する非破壊検査の一種であり、例えば、図5に示すような探触子ヘッドを、図6に示すような電気的内部構成によって制御やデータ処理等を行うものが知られている。
【0004】
探触子ヘッドは、探触子10と、振動子11と、回転ミラー12と、回転機構13と、ケーブル14と、引抜機構(図示しない)からなる。
また、電気的内部構成、高圧打込み回路101、初段アンプ102、絶縁回路103、操作表示部104、手動設定ゲインアンプ105、高速AD変換回路107、高速演算回路(CPU)108、波形表示部109、メモリ回路110、厚さ検出回路111、判定回路112、絶縁トリガー回路113などからなる。
【0005】
このような構成の超音波探傷法による検査システム100を用い、超音波Uをチューブ15内の探触子10からチューブ15内面に水浸状態で射出してチューブ15内面からの反射波Iとチューブ15外面からの反射波Oを受信してチューブ15壁Sの厚さを検知するものである。検知の際、チューブ15内面は満水状態であり、水16が含有されており、この水16は超音波Uの伝播の媒体となっている。
【0006】
探触子10の中に組み込まれた振動子11は、高圧打込み回路101からのパルス電圧による信号を受けると生成された超音波Uを射出する。これにより超音波Uの一部はチューブ15の内面で反射し、続いて、残りの超音波Uの一部がチューブ15の外面で反射する。
ここでは、これらの反射波をそれぞれ、内面波I、外面波Oと呼ぶ。内面波Iと外面波Oは、超音波Uの射出された経路をそのまま逆向きに進み、探触子10の図示しない受信部で受信され、高速演算回路108で処理されることにより、図7に示すように、時間ごとの各反射波I,Oの強度が電圧値として検出される。なお、反射界面での媒質の音響インピーダンス(密度×音速)によって超音波の反射率は決定されるため、内面波Iと外面波Oとでは位相が反転している。このため、後述する第一閾値Xは電圧のプラス側に、第二閾値Yは電圧のマイナス側に閾値を設けている。
【0007】
回転ミラー12は、振動子11から射出された超音波Uの向きを90度変えて、チューブ15壁面に超音波Uを垂直に入射させる。また、チューブ15壁面で反射された各反射波I,Oも、回転ミラー12により向きを90度変えて図示しない受信部に到達する。
また、回転機構13はベアリングからなり、水流によって回転する回転ミラー12を回転自在に支持する。ケーブル14は、探触子10に電源を供給するとともに、探触子10で受信した信号を初段アンプ102へ伝える。
【0008】
次に、それぞれの回路の説明を工程順に行う(図6参照)。
高圧打込み回路101は、50Ωの負荷に対して、DC12V電源から電圧250Vで、立ち上がり時間10nsecのパルス電圧信号を生成し、探触子10に送信する。送信された信号に基づき、探触子10の振動子11から超音波Uが射出される。
初段アンプ102は、探触子10の受信部で受信した信号をこの後の回路で処理しやすいように増幅する。
絶縁回路103は、増幅された信号の直流成分(ノイズ)をカットし、交流成分だけを伝える。
【0009】
操作表示部104は、探触子10の連続計測制御、各反射波I,O検出に最適なゲインや第一閾値X及び第二閾値Y等の各種設定と、設定後の設定値などを表示する。
手動設定ゲインアンプ105は、操作表示部104で設定したゲインにて信号を増幅する。操作表示部104では、内面波I、外面波Oのそれぞれの検出に最適なゲインが設定されている。
【0010】
高速AD変換回路107は、信号を高速演算回路108にて、処理するため、アナログ信号を高速にデジタル信号に変換する。
【0011】
高速演算回路108は、回路全体の制御を行うとともに、増幅回路102,105で増幅され、高速AD変換回路107で変換された信号の値が、予め記憶された第一閾値X以上になると、内面波Iと認識して、その時間と、時間ごとの内面波Iの強度をメモリ回路110に記憶させる。そして、所定時間以降に、増幅回路102,105で増幅され、さらに高速AD変換回路107で変換された信号の値が、予め記憶された第二閾値Y以上になると、外面波Oと認識して、その時間と、時間ごとの外面波Oの強度をメモリ回路110に記憶させる。
そのときの波形は、波形表示部109においてグラフとして表示される。これには、2次元的に信号強度を表すものや、チューブ15の厚さの変化を表すものがある。また、複数の色を用いて表示することで、チューブ15の厚さの変化を3次元的に表現するものもある。なお、高速演算回路108は、連続計測できるように探触子10が組込まれた探触子ヘッドの自動引き抜きによる制御も行う。
【0012】
メモリ回路110は、ROMとRAMとを含み、ROMには、探触子10の制御プログラム、波形解析の基本プログラム等が記憶され、RAMには、ゲインや閾値X,Y等の各種設定値や、内面波Iが第一閾値Xを超えた時間、外面波Oが第二閾値Yを超えた時間、時間ごとの反射波強度等が記憶されている。これらを必要に応じて、高速演算回路108や厚さ検出回路111に出力する。
厚さ検出回路111は、メモリ回路110に記憶させた内面波Iと外面波Oの受信時間の差T(図7参照)にチューブ15中での音速を乗じ、その値を1/2にすることで、チューブ15壁の厚さを検知する。
判定回路112は、厚さ検出回路111で検知されたチューブ15壁の厚さに基づき、チューブ15に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否の判定を行い、その結果をメモリ回路110に記憶させる。合否の判定については、波形表示部109において表示される。
【0013】
なお、絶縁トリガー回路113は、高速演算回路108のアナログ回路に対する高圧パルスの影響を避けるため、超音波打込みタイミング信号を絶縁して高圧打込み回路101に伝える。
【0014】
以上のような探触子10と回路構成により、測定と解析を、例えば1mmピッチで回転機構13により回転しつつ、引抜機構(図示しない)で探触子10が組込まれた探触子ヘッドをチューブ15から引き抜きながら連続的に行うことで、チューブ15の広い範囲に渡り、隈なく、チューブ15壁の厚さの検査と合否の判定を実施することができる。
【0015】
ここで、チューブ15に亀裂等の欠陥部が存在すると、この欠陥部にて超音波Uが反射し外面波Oが発生する。これを特別に欠陥波Kと呼ぶ。
欠陥部が存在する場合には、その位置は外面よりも探触子10側であるので、欠陥波Kの進む行程は短くなり、外面波Oよりも短い時間で探触子10の受信部まで戻ってくる。この場合、判定回路112によって、正常部よりも薄肉であると認識されるので、欠陥部の存在が判明する。
しかも、測定は連続的に行われるので、欠陥部が円状のものか、筋状のものなのか判別でき、欠陥部がチューブ15のどの位置に存在するかも容易にわかる。
【0016】
ここで、欠陥部が内面近くにある場合や、被検物が薄肉の場合には、内面波Iに続いて欠陥波Kや外面波Oが短い時間差Tで探触子10の受信部まで到達する。一般的に、振動子11から射出された超音波Uはある程度の広がりを持っており、各反射波I,K,Oも同様にある程度の広がりを持っている。したがって、内面波Iに続いて欠陥波Kや外面波Oが短い時間差で探触子10の受信部に到達する場合には、内面波Iの広がりと、欠陥波Kや外面波Oの広がりとが重なってしまう。
つまり、内面波Iの信号強度が第二閾値Y未満(電圧が0と第二閾値Yとの間)に下りきってない状態で、欠陥波Kや外面波Oが探触子10の受信部に到達して(マイナス方向の電圧値が)第二閾値Yを超えてしまうので、各反射波I,K,Oを判別できないという問題がある。
【0017】
それどころか、図8に示すように、重なった波形の重ね合わせにより、偶然定期的に閾値X,Yを超えてしまい、これを内面波Iや外面波Oが検出されたものとして高速演算回路108が誤認してしまうことがある。
具体的には、図8及び図9においては、厚さ3mmのチューブ15を検査しているにも関わらず、誤認されて厚さ0.65mmの均一肉厚のチューブ15であるという検査結果が出ている。
図5及び図6に示した探触子ヘッドと回路構成によれば、厚さ3mmのチューブ15に対して、1.5mm以上の欠陥部によってその部位の厚さが1.5mm以下になるような場合には正確な厚さを算出することは困難であった。
【0018】
この対策として、所定のピッチで探触子が連続計測する超音波探触装置において、各探傷位置でのデータと、それに隣り合う探傷位置でのデータの差分を求めて欠陥を検出するものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−243703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献1に記載された超音波探傷装置の場合、各探傷位置におけるデータと、隣り合う探傷位置におけるデータの差分を求めることにより、欠陥波に重なっている内面波のデータを除去するので、欠陥波しか検出されない。
すなわち、ある探傷位置と、それに隣り合う探傷位置はどちらがどれだけ当該超音波探傷装置の近くに存在しているかを判断しているだけなので、欠陥のない正常な被検物においては、欠陥部無しとの判定はできるが、肉厚自体の測定はできないという問題がある。
【0020】
そこで、本発明の目的とするところは、従来は検出困難であった薄肉の被検物の欠陥部を検出でき、且つ正常部の肉厚をも測定できる、超音波探傷法によるチューブ検査方法及び超音波探傷法によるチューブ検査システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の超音波探傷法による検査方法は、超音波(U)を板面に射出して板内面からの反射波(I)と板外面からの反射波(O)を受信して板の厚さを検知し、板面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査方法であって、受信信号を増幅した値が第一閾値(X)以上になると板内面からの反射波(I)と認識して、その時間を記憶し、受信信号を増幅した値が第二閾値(Y)未満になるように増幅度を下げるとともに、増幅度を所定時間まで徐々に増加し、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値(Y)以上になると板外面からの反射波(O)と認識して、その時間を記憶し、両反射波(I,O)の受信時間の差に対応して板の厚さを検知することを特徴とする。
【0022】
また、請求項2に記載の超音波探傷法による検査方法は、超音波(U)をチューブ(15)内からチューブ(15)内面に水浸状態で射出してチューブ(15)内面からの反射波(I)とチューブ(15)外面からの反射波(O)を受信してチューブ(15)壁の厚さを検知し、チューブ(15)壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査方法であって、受信信号を増幅した値が第一閾値(X)以上になるとチューブ(15)内面からの反射波(I)と認識して、その時間を記憶し、受信信号を増幅した値が第二閾値(Y)未満になるように増幅度を下げるとともに、増幅度を所定時間まで徐々に増加し、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値(Y)以上になるとチューブ(15)外面からの反射波(O)と認識して、その時間を記憶し、両反射波(I,O)の受信時間の差に対応してチューブ(15)壁の厚さを検知することを特徴とする。
【0023】
さらに、請求項3に記載の超音波探傷法による検査システム(200)は、超音波(U)を板面に射出して板内面からの反射波(I)と板外面からの反射波(O)を受信して板の厚さを検知し、板面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、超音波(U)を射出し、板面からの反射波(I,O)を受信する探触子(10)と、探触子(10)が受信した受信信号を増幅する増幅回路(214a,214b)と、時間を記憶するメモリ(110)と、増幅回路(214a,214b)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、板内面からの反射波(I)と認識して、その時間をメモリ(110)に記憶させる内面反射波認識手段(208)と、増幅回路(214a,214b)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、受信信号を増幅した値が、予め記憶された第二閾値(Y)未満になるように、増幅回路(214a,214b)の増幅度を下げ、その下げた状態から増幅回路(214a,214b)の増幅度を所定時間まで徐々に増加させる増幅度変換手段(208,215,216a、216b)と、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値(Y)以上になると板外面からの反射波(O)と認識して、その時間をメモリ(110)に記憶させる外面反射波認識手段(208)と、メモリ(110)に記憶させた2つの反射波(I,O)の受信時間の差に対応して板の厚さを検知する厚さ検知手段(111)を、備えることを特徴とする。
【0024】
また、請求項4に記載の超音波探傷法による検査システム(200)は、超音波(U)をチューブ(15)内からチューブ(15)内面に水浸状態で射出してチューブ(15)内面からの反射波(I)とチューブ(15)外面からの反射波(O)を受信してチューブ(15)壁の厚さを検知し、チューブ(15)壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、超音波(U)を射出し、チューブ(15)壁面からの反射波(I,O)を受信する探触子(10)と、探触子(10)が受信した受信信号を増幅する増幅回路(214a,214b)と、時間を記憶するメモリ(110)と、増幅回路(214a,214b)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、チューブ(15)内面からの反射波(I)と認識して、その時間をメモリ(110)に記憶させる内面反射波認識手段(208)と、増幅回路(214a,214b)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、受信信号を増幅した値が、予め記憶された第二閾値(Y)未満になるように、増幅回路(214a,214b)の増幅度を下げ、その下げた状態から増幅回路(214a,214b)の増幅度を所定時間まで徐々に増加させる増幅度変換手段(208,215,216a、216b)と、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値(Y)以上になるとチューブ(15)外面からの反射波(O)と認識して、その時間をメモリ(110)に記憶させる外面反射波認識手段(208)と、メモリ(110)に記憶させた2つの反射波(I,O)の受信時間の差に対応してチューブ(15)壁の厚さを検知する厚さ検知手段(111)を備えることを特徴とする。
【0025】
また、請求項5に記載の超音波探傷法による検査システム(200)は、超音波(U)を板面に射出して板内面からの反射波(I)と板外面からの反射波(O)を受信して板の厚さを検知し、板面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、超音波(U)を射出し、板面からの反射波(I,O)を受信する探触子(10)と、板内面からの反射波(I)と認識するため、前記探触子(10)が受信した受信信号を増幅する内面波用増幅回路(214a)と、板外面からの反射波(O)と認識するため、前記探触子(10)が受信した受信信号を増幅する外面波用増幅回路(214b)と、前記内面波用増幅回路(214a)及び前記外面波用増幅回路(214b)のうち一方の回路から他方の回路に高速で切り替えていずれかの回路を選択する切替回路(215)と、時間を記憶するメモリ(110)と、前記内面波用増幅回路(214a)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、板内面からの反射波(I)と認識して、その時間を前記メモリ(110)に記憶させる内面反射波認識手段(208)と、前記内面波用増幅回路(214a)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、前記切替回路(215)を介して前記探触子(10)が受信した受信信号を増幅する増幅回路を、前記内面波用増幅回路(214a)から前記外面波用増幅回路(214b)に切り替える切替制御手段(208)と、前記切替制御手段(208)によって切り替えられた外面波用増幅回路(214b)の増幅度を、前記外面波用増幅回路(214b)で増幅された値が、予め記憶された第二閾値(Y)未満になる値から、所定時間まで徐々に増加させる外面波用増幅度変換手段(208,216b)と、前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で、前記外面波用増幅回路(214b)で増幅された値が前記第二閾値(Y)以上になると板外面からの反射波(O)と認識して、その時間を前記メモリ(110)に記憶させる外面反射波認識手段(208)と、前記メモリ(110)に記憶させた2つの反射波(I,O)の受信時間の差に対応して前記板の厚さを検知する厚さ検知手段(111)を、備えることを特徴とする。
【0026】
また、請求項6に記載の超音波探傷法による検査システム(200)は、超音波(U)をチューブ(15)内からチューブ(15)内面に水浸状態で射出してチューブ(15)内面からの反射波(I)とチューブ(15)外面からの反射波(O)を受信して前記チューブ(15)壁の厚さを検知し、チューブ(15)壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、超音波(U)を射出し、チューブ(15)壁面からの反射波(I,O)を受信する探触子(10)と、チューブ(15)内面からの反射波(I)と認識するため、前記探触子(10)が受信した受信信号を増幅する内面波用増幅回路(214a)と、チューブ(15)外面からの反射波(O)と認識するため、前記探触子(10)が受信した受信信号を増幅する外面波用増幅回路(214b)と、前記内面波用増幅回路(214a)及び前記外面波用増幅回路(214b)のうち一方の回路から他方の回路に高速で切り替えていずれかの回路を選択する切替回路(215)と、時間を記憶するメモリ(110)と、前記内面波用増幅回路(214a)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、チューブ(15)内面からの反射波(I)と認識して、その時間を前記メモリ(110)に記憶させる内面反射波認識手段(208)と、前記内面波用増幅回路(214a)で増幅された値が、予め記憶された第一閾値(X)以上になると、前記切替回路(215)を介して前記探触子(10)が受信した受信信号を増幅する増幅回路を、前記内面波用増幅回路(214a)から前記外面波用増幅回路(214b)に切り替える切替制御手段(208)と、前記切替制御手段(208)によって切り替えられた外面波用増幅回路(214b)の増幅度を、前記外面波用増幅回路(214b)で増幅された値が、予め記憶された第二閾値(Y)未満になる値から、所定時間まで徐々に増加させる外面波用増幅度変換手段(208,216b)と、前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で、前記外面波用増幅回路(214b)で増幅された値が前記第二閾値(Y)以上になるとチューブ(15)外面からの反射波(O)と認識して、その時間を前記メモリ(110)に記憶させる外面反射波認識手段(208)と、前記メモリ(110)に記憶させた2つの反射波(I,O)の受信時間の差に対応して前記チューブ(15)壁の厚さを検知する厚さ検知手段(111)を、備えることを特徴とする。
【0027】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための最良の形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0028】
本発明の請求項1に記載の超音波探傷法による検査方法によれば、受信信号を増幅した値が第一閾値以上になると板内面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、受信信号を増幅した値が第二閾値未満になるように増幅度を下げるので、これにより内面波の信号が第一閾値を超えた後の内面波の広がりを抑えられる。よって、その後、欠陥波や外面波を検出するときに内面波の広がりが影響することが避けられる。
また、板内面からの反射波認識により増幅度を下げるとともに、増幅度を所定時間まで徐々に増加し、前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が前記第二閾値以上になると板外面からの反射波であると認識され両反射波の受信時間の差に対応して板の厚さを検知するので、内面波に続いて欠陥波や外面波が短い時間差で探触子に到達しても、欠陥波や外面波を検出することができる。つまり、ここでいう所定時間に音速(超音波速度)を乗じた値を1/2にした距離が板の厚さを検出しうる最小測定値となるので、その最小測定値と同じ厚さの薄い板の検査であっても、外面波を確実に検出することができる。
【0029】
また、請求項2に記載の超音波探傷法による検査方法によれば、水浸状態で射出し受信した受信信号を増幅した値が第一閾値以上になるとチューブ内面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、受信信号を増幅した値が第二閾値未満になるように増幅度を下げるとともに、増幅度を所定時間まで徐々に増加したので、被検物がチューブであっても、受信信号が第一閾値を超えた後の内面波の広がりを抑えて、外面波を検出することができる。
よって、内面波に続いて欠陥波や外面波が短い時間差で探触子に到達しても、欠陥波や外面波を検出することができる。すなわち、薄いチューブの検査であっても、外面波を検出することができる。
また、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値以上になるとチューブ外面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、両反射波の受信時間の差に対応してチューブ壁の厚さを検知するので、壁の薄いチューブであってもその厚さを知ることができる。
【0030】
さらに、本発明の請求項3に記載の超音波探傷法による検査システムによれば、超音波を射出し、板面からの反射波を受信する探触子と、探触子が受信した受信信号を増幅する増幅回路とを備えるので、受信した信号を検出に最適なゲインで増幅することができる。
また、時間を記憶するメモリを備えるので、信号強度が閾値を超えた時間等の時間を複数記憶することができ、また必要なときには高速演算回路や厚さ検出回路に出力することができる。
また、増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、板内面からの反射波と認識して、その時間をメモリに記憶させる内面反射波認識手段を備えるので、内面波を検出することができる。
【0031】
また、増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、受信信号を増幅した値が、予め記憶された第二閾値未満になるように、増幅回路の増幅度を下げ、その下げた状態から増幅回路の増幅度を所定時間まで徐々に増加させる増幅度変換手段と、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値以上になると板外面からの反射波と認識して、その時間をメモリに記憶させる外面反射波認識手段を備えるので、内面波の信号が第一閾値を超えた後の内面波の広がりを抑えて、外面波を検出することができる。
また、メモリに記憶させた2つの反射波の受信時間の差に対応して板の厚さを検知する厚さ検知手段を備えるので、板の厚さを具体的数値で知ることができる。
【0032】
したがって、従来よりも薄肉の被検物の厚さを測定でき、浅い亀裂や腐食であっても深さを測定できる。つまり、内面波の信号が閾値を超えた後にゲインを下げることでノイズをカットし、続いて短い時間差で探触子に到達した欠陥波や外面波の信号が、内面波の広がりの中に埋もれないので、それぞれを検出することができる。
【0033】
また、本発明の請求項4に記載の超音波探傷法による検査システムによれば、水浸状態で超音波を射出し、チューブ壁面からの反射波を受信する探触子を備えるので、被検物がチューブであっても壁面に垂直に超音波を入射することができ、探傷検査をすることができる。
また、探触子と、増幅回路と、メモリと、内面反射波認識手段と、増幅度変換手段と、外面反射波認識手段と、厚さ検知手段とを備えるので、従来よりも薄肉の被検物の厚さを測定でき、浅い亀裂や腐食であっても深さを測定できる。
すなわち、被検物が薄肉のチューブであっても、内面波の信号が第一閾値を超えた後にゲインを下げることでノイズをカットし、続いて短い時間差で到達した欠陥波や外面波の信号が、内面波の広がりの中に埋もれないので、それぞれを検出することができる。
【0034】
また、本発明の請求項5に記載の超音波探傷法による検査システムによれば、請求項3に記載の発明の作用効果に加え、増幅回路を、板内面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する内面波用増幅回路と、板外面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する外面波用増幅回路との二つにして、内面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、切替回路を介して増幅回路を、内面波用増幅回路から外面波用増幅回路に切り替えるようにしているので、板内面からの反射波と認識された後、板内面からの反射波の広がりが板外面からの反射波の検出において影響することが効率的に防止される。
【0035】
また、本発明の請求項6に記載の超音波探傷法による検査システムによれば、請求項4に記載の発明の作用効果に加え、増幅回路を、チューブ内面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する内面波用増幅回路と、チューブ外面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する外面波用増幅回路との二つにして、内面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、切替回路を介して増幅回路を、内面波用増幅回路から外面波用増幅回路に切り替えるようにしているので、チューブ内面からの反射波と認識された後、チューブ内面からの反射波の広がりがチューブ外面からの反射波の検出において影響することが効率的に防止される。
【0036】
なお、本発明の超音波探傷法による検査方法及び超音波探傷法による検査システムのように、受信信号を増幅した値が第一閾値以上になると板内面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、受信信号を増幅した値が第二閾値未満になるように増幅度を下げるとともに、増幅度を所定時間まで徐々に増加し、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値以上になると板外面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、両反射波の受信時間の差に対応して前記板の厚さを検知することで、薄肉の被検物の欠陥部を検出でき、且つ薄肉の正常部の肉厚をも測定できる点は、上述した特許文献1には全く記載されていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
(第一実施形態)
図1乃至図5を参照して、本発明の実施形態に係る超音波探傷法による検査システム200を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る超音波探傷法による検査システム200の構成を表すブロック図である。図2は、本発明の実施形態に係る超音波探傷法による検査システム200の波形検出原理を表す説明図である。なお、従来例(図5、図6)で示したものと同一部分には同一符号を付し、その説明については省略した。
【0038】
この超音波探傷法による検査システム200は、例えば、化学工場の装置で用いられる熱交換器の伝熱チューブ15に対し、超音波Uをチューブ15内からチューブ15内面に水浸状態で射出して内面波Iと外面波Oを受信してチューブ15壁の厚さを検知し、チューブ15壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システム200であって、従来のものと同一の探触子10を図1に示す電気的内部構成によって制御やデータ処理して非破壊検査を行うものである。
【0039】
探触子10は、図5に示すように、振動子11と、回転ミラー12と、回転機構13と、ケーブル14と、引抜機構(図示しない)とともに探触子ヘッドを構成している。なお、水浸状態で超音波Uを射出するのは、チューブ15内面と振動子11との間に空気層を生じないように水16を配して、回転ミラー12で反射された超音波Uを水16中で導き減衰しないようにするためである。
また、検査システムの電気的内部構成は、従来例で示した図6のように、高圧打込み回路101、初段アンプ102、絶縁回路103、操作表示部104、手動設定ゲインアンプ105、高速AD変換回路107、波形表示部109、メモリ回路110、厚さ検出回路111、判定回路112、絶縁トリガー回路113を備えるのに加えて、新たに、内面波用自動切換えゲインアンプ214a、外面波用自動切換えゲインアンプ214b、高速切替回路215、内面波用のゲイン制御回路216a、外面波用のゲイン制御回路216bを備える。なお、高速演算装置208は、従来の高速演算装置108に後述する特有の機能を備えている。
【0040】
以下、新たに追加した回路について説明すると、内面波用自動切換えゲインアンプ214aは、内面波Iの検出に最適なゲインに信号を増幅するものである。そして、そのゲインはゲイン制御回路216aによりコントロールされる。また、外面波用自動切換えゲインアンプ214bは、外面波Oの検出に最適なゲインにするように信号を増幅するものである。そして、そのゲインはゲイン制御回路216bによりコントロールされる。
【0041】
高速演算装置208は、従来の超音波探傷法による検査システム100での機能に加え、内面波用自動切換えゲインアンプ214aと外面波用自動切換えゲインアンプ214bのゲインを設定し、ゲイン制御回路216a、216bに指示を出す。
また、内面波用自動切換えゲインアンプ214aから外面波用自動切換えゲインアンプ214bへの、及び外面波用自動切換えゲインアンプ214bから内面波用自動切換えゲインアンプ214aへの切替タイミングを生成する。
【0042】
高速切替回路215は、高速演算装置208で生成された切替タイミングで使用するゲインアンプを、内面波用自動切換えゲインアンプ214aから外面波用自動切換えゲインアンプ214bへ、又は外面波用自動切換えゲインアンプ214bから内面波用自動切換えゲインアンプ214aへ高速で切り替える。
【0043】
ゲイン制御回路216a、216bは、高速演算回路208からのデジタルのゲイン設定データをアナログ変換して内面波用自動切換えゲインアンプ214a及び外面波用自動切換えゲインアンプ214bを制御して、ゲインの上げ下げを行う。すなわち、ゲインを上げることで信号を検知しやすくし、ゲインを下げることでノイズをカットできる。
【0044】
図1では、二つのゲイン制御回路216a、216bが表示されているが、内面波用自動切換えゲインアンプ214aと外面波用自動切換えゲインアンプ214bの切替を模式的に表しただけであるので、一つのゲイン制御回路216で、内面波用自動切換えゲインアンプ214aと外面波用自動切換えゲインアンプ214bとを切り替えてもよい。また、内面波用自動切換えゲインアンプ214aと外面波用自動切換えゲインアンプ214bの二つを設けたがまとめて一つの自動切換えゲインアンプにすることも可能である。
【0045】
本実施形態に係る超音波探傷法による検査システム200は、このような回路を新たに追加することにより、内面波Iの信号が第一閾値Xを超えた後の内面波Iの広がりを抑えることができ、外面波Oを検出することができる。したがって、内面波Iのノイズをカットすることができ、続いて短い時間差Tで到達した欠陥波Kや外面波Oが、内面波Iの広がりの中に埋もれてしまうことを防ぐことができ、肉薄の被検物の厚さを正確に測定することができる。
【0046】
超音波探傷法による検査システム200によってチューブ15壁の厚さを検知する方法について以下、具体的に説明する。但し、内面波用自動切換えゲインアンプ214a、外面波用自動切換えゲインアンプ214b、高速切替回路215、ゲイン制御回路216以外の構成要素での工程は、従来の工程と等しいので、ここでは信号が手動設定ゲインアンプ105での工程を経た後の工程を、工程順に説明する(図1参照)。
【0047】
まず計測前に、操作表示部104にて、第一閾値X及び第二閾値Yを設定する。それらはメモリ回路110に記憶される。なお、ここで記載した第一閾値X及び第二閾値Yは、従来例で示したものと関係するものではない。また、第一閾値X及び第二閾値Yを同一の値にすることを妨げるものではない。なお、反射界面での媒質の音響インピーダンス(密度×音速)によって超音波の反射率は決定されるため、内面波Iと外面波Oとでは位相が反転している。このため、第一閾値Xは電圧のプラス側に、第二閾値Yは電圧のマイナス側に閾値を設けている。
手動設定ゲインアンプ105で、次工程以降で信号を検出しやすいように、仮に信号を一定のゲインで増幅する。
次に、仮設定された増幅度だけ内面波用自動切換えゲインアンプ214aで増幅され、高速AD変換回路107で変換された受信信号の値が、予め記憶された第一閾値X以上になると、高速演算回路208は受信信号を内面波Iと認識して、その時間をメモリ回路110に記憶させる。
【0048】
そして、高速演算回路208の設定によりゲイン制御回路216aは、受信信号を増幅した値が、この後続いて検出される外面波Oが実際に検出されるよりも早く、予め記憶された第二閾値Y未満になるように、内面波用自動切換えゲインアンプ214aの増幅度を下げる。
【0049】
その下げた状態で高速切替回路215が、図2に示すように、使用するゲインアンプを内面波用自動切換えゲインアンプ214aから外面波用自動切換えゲインアンプ214bに切り替える。この後、高速AD変換回路107を経て高速演算回路208に信号が伝わる。
【0050】
ゲイン制御回路216aは、内面波用自動切換えゲインアンプ214aの増幅度を下げ、高速切替回路215がゲインアンプを切り替えるとともに、ゲイン制御回路216bは、外面波用自動切換えゲインアンプ214bの増幅度を所定時間までに高速演算回路208で設定されたゲインまで徐々に増加させる。
そして、所定時間以降に、所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が第二閾値Y以上になると、高速演算回路208は受信信号を外面波Oと認識して、その時間をメモリ回路110に記憶させる。
【0051】
次に、高速演算回路208は、外面波用自動切換えゲインアンプ214bのゲインを設定する。また、高速演算回路208は、次の外面波用自動切換えゲインアンプ214bから内面波用自動切換えゲインアンプ214aへの切替タイミングを生成する。
【0052】
次に、高速演算回路208の設定によりゲイン制御回路216bは、受信信号を増幅した値が、次の内面波Iが検出されるよりも早く、予め記憶された第一閾値X未満になるように、外面波用自動切換えゲインアンプ214bの増幅度を下げる。
【0053】
その下げた状態で高速切替回路215が、使用するゲインアンプを外面波用自動切換えゲインアンプ214bから内面波用自動切換えゲインアンプ214aに切り替える。この後、高速AD変換回路107を経て高速演算回路208に信号が伝わる。
【0054】
次に、高速演算装回路208は、内面波用自動切換えゲインアンプ214aのゲインを設定する。また、次の内面波用自動切換えゲインアンプ214aから外面波用自動切換えゲインアンプ214bへの切替タイミングを生成する。そして、新たに検出された内面波Iの信号が内面波用自動切換えゲインアンプ214aで増幅される。
【0055】
以上のように、内面波I用と外面波O用のゲインアンプを切り替えて、しかも閾値X,Yを越えた後には、それぞれのゲインを下げる。
【0056】
そして、両反射波I,Oの受信時間の差Tに対応して、厚さ検出回路111で算出することでチューブ15壁の厚さを検知する。チューブ15壁の厚さSは、両反射波I,Oの受信時間の差Tに音速(超音波Uの速度)を乗じた値にさらに1/2を乗じることによって算出される。
【0057】
このように処理された信号は、波形表示部109で図3及び図4のように表示される。
図3は、図1に示す超音波探傷法による検査システム200による内面波Iと外面波Oの信号強度の時間変化を表すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は信号強度を表す。
図4は、図1に示す超音波探傷法による検査システム200による検査結果を表すグラフである。横軸はチューブ15の肉厚を、縦軸は探触子10が組込まれた探触子ヘッドの回転角度を表す。
【0058】
つまり、高速演算装回路208と高速切替回路215と内面波用のゲイン制御回路216a、外面波用のゲイン制御回路216bとからなる増幅度変換手段を備えるので、内面波Iに続いて欠陥波Kや外面波Oが短い時間差Tで振動子11に到達しても、欠陥波Kや外面波Oを検出することができる。
【0059】
すなわち、閾値X,Yを超えた後の各反射波I,Oの信号の広がりを抑えることで、続いて到達した各反射波(先の反射波が内面波Iならば外面波O、先の反射波が外面波Oならば内面波I)が先の反射波の広がりの中に埋もれてしまわないので、従来よりも薄肉の被検物や、浅い亀裂や腐食を検査することができる。
【0060】
具体的には、図4からわかるように、基本肉厚が約3mmであるチューブ15の一部に肉厚約0.6mmの箇所の存在、すなわち深さ2.4mmの欠陥部が存在することがわかる。
先述した通り、従来の超音波探傷法による検査システム100では3mmの肉厚に欠陥部が存在する場合、精度良く測定できなかったが、本実施形態に係る超音波探傷法による検査システム200では、少なくとも肉厚0.6mmまでは誤認識せずに測定できることがわかった。
すなわち、前記所定時間に音速(超音波速度)を乗じた値をさらに1/2にした距離がチューブ15の壁の厚さSを検出しうる最小測定値となるので、その最小測定値と同じ厚さとして肉厚0.6mm以上の厚さを有するチューブ15壁の測定が可能である。
【0061】
なお、本実施形態における超音波探傷法による検査システム200に係る探触子ヘッドは回転機構13を有するが、これに限るものではなく、回転機構13を有しなくてもよい。すなわち、回転せずに平面を移動しながら連続的に測定する機構のみを有する探触子ヘッドであってもよい。
【0062】
また、本実施例ではチューブ15の内部に探触子ヘッドを挿入して検査を行ったが、これに限られるものではなく、チューブ15の外部から検査できる構成の探触子ヘッドであってもよい。この場合には当然ながら、チューブ15外面からの外面波Oが、チューブ15内面からの内面波Iよりも早く振動子11で検出される。しかし、先に検出される反射波を内面波I、後から検出される反射波を外面波Oとすれば、本実施例の電気的内部構成をそのまま使用できる。
【0063】
また、被検物は、金属に限られるものではなく、プラスチックであってもよい。さらに、被検物は、チューブ状のものに限られず、板状のものであってもその板厚を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波探傷法による検査システムの構成を表すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る超音波探傷法による検査システムの波形検出原理を表す説明図である。
【図3】図1に示す超音波探傷法による検査システムによる内面波と外面波の信号強度の時間変化を表すグラフである。
【図4】図1に示す超音波探傷法による検査システムによる検査結果を表すグラフである。
【図5】探触子10が組込まれた探触子ヘッドを示す断面図である。
【図6】従来例に係る超音波探傷法による検査システムの構成を表すブロック図である。
【図7】内面波と外面波とから板厚を測定する原理を示す説明図である。
【図8】図6に示す超音波探傷法による検査システムによる内面波と外面波の信号強度の時間変化を表すグラフである。
【図9】図6に示す超音波探傷法による検査システムによる検査結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
10 探触子
11 振動子
12 回転ミラー
13 回転機構
14 ケーブル
15 チューブ
16 水
100 超音波探傷法による検査システム
101 高圧打込み回路
102 初段アンプ
103 絶縁回路
104 操作表示部
105 手動設定ゲインアンプ
107 高速AD変換回路
108 高速演算回路
109 波形表示部
110 メモリ回路
111 厚さ検出回路
112 判定回路
113 絶縁トリガー回路
200 超音波探傷法による検査システム
208 高速演算回路(内面反射波認識手段、外面反射波認識手段、増幅度変換手段、切替制御手段、外面波用増幅度変換手段)
214a 内面波用自動切替えゲインアンプ(内面波用増幅回路)
214b 外面波用自動切替えゲインアンプ(外面波用増幅回路)
215 高速切替回路(切替回路)
216a ゲイン制御回路
216b ゲイン制御回路(外面波用増幅度変換手段)
I 内面波
K 欠陥波
O 外面波
S チューブ壁の厚さ
T 時間差
U 超音波
X 第一閾値
Y 第二閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を板面に射出して板内面からの反射波と板外面からの反射波を受信して前記板の厚さを検知し、板面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査方法であって、
受信信号を増幅した値が第一閾値以上になると板内面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、受信信号を増幅した値が第二閾値未満になるように増幅度を下げるとともに、前記増幅度を所定時間まで徐々に増加し、
前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が前記第二閾値以上になると板外面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、両反射波の受信時間の差に対応して前記板の厚さを検知することを特徴とする超音波探傷法による検査方法。
【請求項2】
超音波をチューブ内からチューブ内面に水浸状態で射出してチューブ内面からの反射波とチューブ外面からの反射波を受信して前記チューブ壁の厚さを検知し、チューブ壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査方法であって、
受信信号を増幅した値が第一閾値以上になるとチューブ内面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、受信信号を増幅した値が第二閾値未満になるように増幅度を下げるとともに、前記増幅度を所定時間まで徐々に増加し、
前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が前記第二閾値以上になるとチューブ外面からの反射波と認識して、その時間を記憶し、両反射波の受信時間の差に対応して前記チューブ壁の厚さを検知することを特徴とする超音波探傷法による検査方法。
【請求項3】
超音波を板面に射出して板内面からの反射波と板外面からの反射波を受信して前記板の厚さを検知し、板面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、
超音波を射出し、前記板面からの反射波を受信する探触子と、
前記探触子が受信した受信信号を増幅する増幅回路と、
時間を記憶するメモリと、
前記増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、板内面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる内面反射波認識手段と、
前記増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、前記受信信号を増幅した値が、予め記憶された第二閾値未満になるように、前記増幅回路の増幅度を下げ、その下げた状態から前記増幅回路の増幅度を所定時間まで徐々に増加させる増幅度変換手段と、
前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が前記第二閾値以上になると板外面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる外面反射波認識手段と、
前記メモリに記憶させた2つの反射波の受信時間の差に対応して前記板の厚さを検知する厚さ検知手段を、備えることを特徴とする超音波探傷法による検査システム。
【請求項4】
超音波をチューブ内からチューブ内面に水浸状態で射出してチューブ内面からの反射波とチューブ外面からの反射波を受信して前記チューブ壁の厚さを検知し、チューブ壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、
超音波を射出し、前記チューブ壁面からの反射波を受信する探触子と、
前記探触子が受信した受信信号を増幅する増幅回路と、
時間を記憶するメモリと、
前記増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、チューブ内面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる内面反射波認識手段と、
前記増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、前記受信信号を増幅した値が、予め記憶された第二閾値未満になるように、前記増幅回路の増幅度を下げ、その下げた状態から前記増幅回路の増幅度を所定時間まで徐々に増加させる増幅度変換手段と、
前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で増幅した受信信号の値が前記第二閾値以上になるとチューブ外面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる外面反射波認識手段と、
前記メモリに記憶させた2つの反射波の受信時間の差に対応して前記チューブ壁の厚さを検知する厚さ検知手段、を備えることを特徴とする超音波探傷法による検査システム。
【請求項5】
超音波を板面に射出して板内面からの反射波と板外面からの反射波を受信して前記板の厚さを検知し、板面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、
超音波を射出し、前記板面からの反射波を受信する探触子と、
板内面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する内面波用増幅回路と、
板外面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する外面波用増幅回路と、
前記内面波用増幅回路及び前記外面波用増幅回路のうち一方の回路から他方の回路に高速で切り替えていずれかの回路を選択する切替回路と、
時間を記憶するメモリと、
前記内面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、板内面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる内面反射波認識手段と、
前記内面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、前記切替回路を介して前記探触子が受信した受信信号を増幅する増幅回路を、前記内面波用増幅回路から前記外面波用増幅回路に切り替える切替制御手段と、
前記切替制御手段によって切り替えられた外面波用増幅回路の増幅度を、前記外面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第二閾値未満になる値から、所定時間まで徐々に増加させる外面波用増幅度変換手段と、
前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で、前記外面波用増幅回路で増幅された値が前記第二閾値以上になると板外面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる外面反射波認識手段と、
前記メモリに記憶させた2つの反射波の受信時間の差に対応して前記板の厚さを検知する厚さ検知手段を、備えることを特徴とする超音波探傷法による検査システム。
【請求項6】
超音波をチューブ内からチューブ内面に水浸状態で射出してチューブ内面からの反射波とチューブ外面からの反射波を受信して前記チューブ壁の厚さを検知し、チューブ壁面に発生する亀裂や腐食の大きさが許容範囲であるか否かの合否を判定する超音波探傷法による検査システムであって、
超音波を射出し、前記チューブ壁面からの反射波を受信する探触子と、
チューブ内面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する内面波用増幅回路と、
チューブ外面からの反射波と認識するため、前記探触子が受信した受信信号を増幅する外面波用増幅回路と、
前記内面波用増幅回路及び前記外面波用増幅回路のうち一方の回路から他方の回路に高速で切り替えていずれかの回路を選択する切替回路と、
時間を記憶するメモリと、
前記内面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、チューブ内面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる内面反射波認識手段と、
前記内面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第一閾値以上になると、前記切替回路を介して前記探触子が受信した受信信号を増幅する増幅回路を、前記内面波用増幅回路から前記外面波用増幅回路に切り替える切替制御手段と、
前記切替制御手段によって切り替えられた外面波用増幅回路の増幅度を、前記外面波用増幅回路で増幅された値が、予め記憶された第二閾値未満になる値から、所定時間まで徐々に増加させる外面波用増幅度変換手段と、
前記所定時間以降に、前記所定時間のときの増幅度で、前記外面波用増幅回路で増幅された値が前記第二閾値以上になるとチューブ外面からの反射波と認識して、その時間を前記メモリに記憶させる外面反射波認識手段と、
前記メモリに記憶させた2つの反射波の受信時間の差に対応して前記チューブ壁の厚さを検知する厚さ検知手段を、備えることを特徴とする超音波探傷法による検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−25807(P2010−25807A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188754(P2008−188754)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(399029905)関西エックス線株式会社 (1)
【Fターム(参考)】