説明

車両のパーキングロック制御装置

【課題】 電力消費を抑制可能な車両のパーキングロック制御装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の車両のパーキングロック制御装置では、パーキングロック作動指令が出力されたときは、複数のパーキングロック機構のうち、何れか一方のパーキングロック機構を作動させ、一方のパーキングロック機構のみを作動させた場合に車両が移動すると推定又は検出されたときは、他方のパーキングロック機構を作動させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪をロックするパーキングロックの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各輪にモータを備えた車両において、各輪にパーキングロック機構を備え、パーキングロック要求が出力されたときは、各輪のパーキングロック機構を作動させることで車輪をロックする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−314036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数のパーキングロック機構を作動させる場合、電力消費量が多いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、電力消費を抑制可能な車両のパーキングロック制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両のパーキングロック制御装置では、パーキングロック作動指令が出力されたときは、複数のパーキングロック機構のうち、何れか一方のパーキングロック機構を作動させ、一方のパーキングロック機構のみを作動させた場合に車両が移動すると推定又は検出されたときは、他方のパーキングロック機構を作動させることとした。
【発明の効果】
【0007】
よって、特に車両が移動しない場合には、一方のみのパーキングロック機構を作動させることで、電力消費を抑制することができ、航続距離を長くすることができる。また、一方のみパーキングロック機構を作動させた場合に車両が移動するとき、もしくは移動するおそれがあるときは、他方のパーキングロック機構を作動させるため、いかなる状況でも車両の移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のパーキングロック制御装置を備えた車両の全体システム図である。
【図2】実施例1のパーキングロックコントローラにおいて実施されるパーキングロック機構制御処理を表すフローチャートである。
【図3】実施例1の片輪/両輪ロック決定処理の内容を表す概略図である。
【図4】実施例1の車両において左側に転舵した場合におけるパーキングロック機構の作動による車両の動きを表す概略図である。
【図5】実施例1の車両移動判断処理を表す概略図である。
【図6】実施例1のモータ回転数に基づいて未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるタイムチャートである。
【図7】実施例1の未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるタイムチャートである。
【図8】実施例1の累積モータ回転数に基づいて未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるフローチャートである。
【図9】実施例1の累積モータ回転数に基づいて未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1のパーキングロック制御装置を備えた車両の全体システム図である。実施例1の車両は、後輪駆動型電気自動車であり、従動輪である前輪FR,FLと、駆動輪である後輪RR,RLとを有する。後輪RRには、この後輪RRを直接駆動するインホイール型の駆動モータMR(右側モータ)と、駆動モータMRの回転軸を車体側に係止可能なパーキングロック機構PLRと、駆動モータMRの回転数(もしくは回転角)を検出するレゾルバNR(車両挙動検出手段)とを有する。同様に、後輪RLには、この後輪RLを直接駆動するインホイール型の駆動モータML(左側モータ)と、駆動モータMLの回転軸を車体側に係止可能なパーキングロック機構PLLと、駆動モータMLの回転数(もしくは回転角)を検出するレゾルバNL(車両挙動検出手段)とを有する。パーキングロック機構PLR,PLLは、パーキングギヤにパーキングポールが噛み合うことで回転をロックする方式であり、パーキングポールは電磁アクチュエータにより作動可能に構成されている。尚、これら電磁式のパーキングロック機構の詳細については公知技術であるため、説明を省略する。
【0010】
また、車両の傾きを検知する傾き検知手段1(車両挙動検出手段)と、現在位置を検出する現在位置検出手段2(車両挙動検出手段)と、ハンドル切れ角を検知するハンドル切れ角検知手段3とを有する。尚、傾き検知手段1とは、具体的には車両の前後加速度を検出する前後Gセンサや、車両の左右加速度を検出する横Gセンサ等であり、走行中の車両に作用する加速度のみならず、車両停止中もしくは車両停止に近い状況において、現在の車両が位置する場所の路面傾斜を検知可能に構成されている。また、現在位置検出手段2とは、具体的にはGPSを用いたナビゲーションシステム等であり、現在位置の路面傾斜情報等を認識可能に構成されている。ハンドル切れ角検知手段3とは、ステアリングホイール4の操作量である操舵角を検出する操舵角センサであり、現時点の前輪FR,FLのタイヤ切れ角に相当する値を検出する。尚、他にタイヤ切れ角を検出可能なセンサ(例えばラック移動等を検知するセンサ)等を備えていてもよい。
【0011】
また、パーキングロックコントローラPLCUを有し、傾き検知手段1により検知された車両が位置する路面の勾配情報や、現在位置検出手段2により検出された車両の現在位置における路面傾斜情報や、ハンドル切れ角検知手段3により検知された操舵角、及び後輪RR,RLに備えられたレゾルバNR,NLにより検出された後輪回転数に基づいてパーキングロック機構PLR,PLLに作動指令を出力する。
【0012】
ここで、実施例1の特徴について説明する。上述したように、実施例1の電気自動車にあっては、後輪の両方にそれぞれパーキングロック機構PLR,PLLを備えており、パーキングロック機構を作動させる場合、両方に作動指令を出力し、両輪共にロックすることが考えられる。しかし、このパーキングロック機構の作動には電気的アクチュエータを用いることから、電力消費が多くなる。また、単に平坦路においてロックするだけならば、両輪をロックせずとも、片輪だけロックすれば、車両移動の禁止という目的は達成される。そこで、実施例1では、基本的に平坦路であって、そのまま放置しても車両移動が起きない環境であれば、片輪だけにロック指令を出力することとした。これにより、パーキングロック機構の電気的アクチュエータが消費する電力を抑制することができ、航続距離の向上を図ることができる。
【0013】
ここで、上述したように平坦路であれば一方のみをロックしたとしても問題ないが、傾斜路面等に車両が位置した状態(例えば、傾斜した駐車場等)で、片輪にのみロックがかかったまま車両を放置すると、ロックのかかった輪を中心として他の輪が転がってしまい、車両が若干動いてしまうという問題があった。また、パーキングロック機構への作動指令は、基本的にドライバがシフトレバー操作を行いパーキングレンジにシフトした信号に基づいて作動するものである。よって、車両停車後に作動するとは限らず、車両が若干の車速を持っている状態で作動する場合もある。そのとき、片輪だけロックすると、車両のイナーシャによって、ロックのかかった輪が停止した状態で他の輪が転がってしまい、ロックのかかった輪を中心として車両が回動することにより車両挙動が乱れるという問題があった。
【0014】
そこで、実施例1では、平坦路であれば片方だけにロック指令を出力する制御構成を基本とし、その上で、片方のパーキングロック機構の作動により車両挙動が乱れるおそれがある場合や実際に乱れたとき、もしくは車両が停止状態から移動するおそれがある場合や実際に移動したときに、両方のパーキングロック機構を作動させることとした。以下、上記制御構成について説明する。
【0015】
図2は、実施例1のパーキングロックコントローラにおいて実施されるパーキングロック機構作動制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、パーキングロック機構の作動要求があるか否かを判断し、作動要求があると判断したときはステップS2へ進み、それ以外のときは本ステップを繰り返す。ここで、パーキングロック機構の作動要求とは、運転者が操作するシフトレバーの位置がパーキングレンジに位置している場合を示す。尚、ある程度の車速を有する走行中にパーキングロック機構が作動したとしても、パーキングポールがパーキングギヤにはじかれる所謂ラチェッティング状態となるだけであるため、作動要求は基本的にどのタイミングであっても受け入れるものとする。但し、他の条件等によりパーキングロック機構の作動要求をキャンセルするようにしてもよく特に限定しない。
【0016】
ステップS2では、片輪/両輪ロックの決定を行なう。図3は実施例1の片輪/両輪ロック決定処理の内容を表す概略図である。図3(a)に示すように、車両前後加速度を縦軸、車両横加速度を横軸とする平面において、傾斜で車両が移動しないと判断できる車両加速度領域が設定されている。そして、検知された加速度が所定の診断時間の間、この領域内にあるか否かを判断し、診断時間の間、この領域内にあると判断したときは傾斜で車両が移動しないと判断する(図3(b)参照)。一方、診断時間の間、この領域外にある場面が検出されたときは傾斜で車両が移動するおそれがあると判断する(図3(c)参照)。
【0017】
尚、車両加速度領域については、前後加速度領域のほうを横加速度領域より広く設定してもよいし、円形で領域を設定するだけでなく直線的なひし形等で設定してもよい。また、診断時間の間に一度でも領域外であると判断された場合に車両が移動するおそれがあると判断しても良いし、所定時間継続的に領域外であると判断された場合に車両が移動するおそれがあると判断しても良い。
【0018】
また、現在位置検出手段2により検出された車両の現在位置における路面傾斜情報が勾配路や傾斜路であり、その勾配等が片輪ロックでは車両が移動するおそれがあると判断できる場合には、ステップS3に進み、両方のパーキングロック機構PLR,PLLに対して作動指令を出力する。一方、現時点において片輪ロックで車両が移動するおそれがないと判断できる場合には、ステップS5に進む。
【0019】
ステップS4では、パーキングロック機構が作動した回数のカウントアップを行なう。例えば、両方のパーキングロック機構が作動した場合は両方のカウントアップを行い、片方のパーキングロック機構が作動した場合には、片方のカウントアップを行なう。
【0020】
ステップS5では、パーキングロック指令を出力する側のパーキングロック機構を決定する決定処理を実施する。ここでは、操舵角及びロック回数のカウントアップ値に基づいて決定する。
【0021】
(操舵角に基づく判断処理)
まず、ハンドル切れ角検知手段3により検知された操舵角に基づいて、操舵方向を確認する。そして、右側に所定操舵角以上操舵されていると判断したときは、左後輪のパーキングロック機構PLLに作動指令を出力し、左側に所定操舵角以上操舵されていると判断したときは、右後輪のパーキングロック機構PLRに作動指令を出力する。
【0022】
ここで、操舵角に応じてパーキングロック機構のどちらを作動させるかを切り分ける理由について説明する。図4は実施例1の車両において左側に転舵した場合におけるパーキングロック機構の作動による車両の動きを表す概略図である。左側に転舵した状態で左後輪のパーキングロック機構PLLを作動させると、図4の×で示すように、左後輪を中心に車両が回転運動するおそれがあり、車両の移動を効果的に禁止することができない。これに対し、図4の○で示すように、右後輪のパーキングロック機構PLRを作動させた場合には、車両の回転運動を阻害することができ、車両の移動を効果的に禁止することができる。これは、右側に転舵した場合についても同様の作用が得られる。以上より、操舵角に応じて作動させるパーキングロック機構を決定することで、車両の移動を効果的に抑制できる。
【0023】
(ロック回数に基づく判断処理)
次に、ハンドル切れ角検知手段3により検知された操舵角が、左右側にいずれも所定角未満の切れ角である略中立位置であると判断された場合、特に車両挙動の観点からは左右に優劣はないため、ロック回数に基づいて左右を決定する。カウントされたロック回数が一方に偏ると、一方のパーキングギヤやパーキングポールの耐久性を過度に確保する必要があるからである。よって、操舵角が略中立位置であると判断された場合には、ロック回数の少ないパーキングロック機構に対して作動指令を出力する。尚、操舵角が所定角以上の場合には、仮に上述のロック回数に基づく判断処理を実施したとしても、操舵角に基づく判断結果を優先する。車両の移動を抑制することが耐久性等以上に重要だからである。
【0024】
ステップS6では、ステップS5にて決定された側のパーキングロック機構に対して作動指令を出力する。
ステップS7では、パーキングロック機構の作動指令を出力後、車両が動くか否かを判断し、車両が動くおそれがあると判断したときはステップS8に進み、未ロック側のパーキングロック機構に対して作動指令を出力し、ステップS4に進んで両方のパーキングロック機構のカウントアップを行なう。一方、車両が動くおそれがないと判断したときはステップS4に進み、作動させたパーキングロック機構のカウントアップを行なう。
【0025】
ここで、パーキングロック機構の作動指令出力後における判断について説明する。まず、ステップS2で行なったのと同様、検知された加速度が所定の診断時間の間、この領域内にあるか否かを判断する。尚、ステップS2で既にこの判断を行なっているが、車両停止中も継続して判断することで、例えばフェリー等で移動を行なっている場合に途中で車両が傾いたとしても、両方のパーキングロック機構を作動できる。
【0026】
次に、左右各輪の回転数をレゾルバNR,NLにより検出し、これら回転数に基づいて車両の動きを判断する。図5は実施例1の車両移動判断処理を表す概略図である。図5(a)はモータ回転数もしくはモータ回転角に基づく判断を表すタイムチャートである。モータ回転数もモータ回転角も実質的に同じであるため、以後、モータ回転数についてのみ説明する。モータ回転数の絶対値が所定回転数未満であれば片輪ロックで問題ないと判断し、モータ回転数の絶対値が所定回転数以上となる場合には両輪ロックと判断する。
【0027】
ここで、所定回転数とは、傾斜により車両が移動しないと判断できるモータ回転数であり、予め設定された値である。よって、前方に移動する場合を例えばプラス側の回転数とすると、後方に移動する場合はマイナス側の回転数となるため、モータ回転数の絶対値が所定回転数未満か否かを判断する。尚、図5では、絶対値ではなく回転数の符号も含めて表記しているが、正側の所定回転数、もしくは負側の所定回転数によって表記している。
【0028】
また、モータ制御に必要とされる回転角を検出するレゾルバは、回転方向と共に僅かな回転変化を検出できるものであり、アンチロックブレーキ制御等に使用される車輪速センサは回転方向を検出できない場合があると共に分解能がレゾルバよりも低い。よって、レゾルバを使用することで、僅かな車両の動きや移動方向をも検知でき、精度の高い判断が可能である。尚、図5(a)に示す例では、所定の診断時間の間にどの程度変化するかに基づいて判断しているが、継続的に診断してもよいし、定期的に診断してもよい。
【0029】
図5(b)は累積モータ回転数に基づく判断を表すタイムチャートである。モータ回転数を積算し、この累積モータ回転数(すなわち移動距離)の絶対値が所定累積モータ回転数未満の範囲であれば片輪ロックで問題ないと判断し、累積モータ回転数の絶対値が所定累積モータ回転数以上となる場合には両輪ロックと判断する。ここで、累積モータ回転数を使用するのは、車両の僅かな前後の揺れ等によって過剰に両輪ロックと判断する場合を回避しつつ、ゆっくりと継続的に動いている場合には両輪をロックする必要があるからである。尚、モータ回転数に基づく判断と累積モータ回転数に基づく判断とは、両方を同時に判断してもよいし、どちらか一方のみを判断してもよい。
【0030】
ここで、車両が動きだしたと判断し、未ロック側のパーキングロック機構に作動指令を出力するときに、即座に未ロック側のパーキングロック機構を作動させると、パーキングポールがパーキングギヤに噛み合うときに加速度の急激な変化を招き、運転者に違和感を与えるおそれがある。また、パーキングポールやパーキングギヤの耐久性の低下を招くおそれもある。そこで、未ロック側の駆動モータにより移動方向と反対側に作用するトルクを出力した状態で駆動輪の回転数変化を抑制し、その上でパーキングロック機構を作動させ、これにより加速度の急激な変化を抑制している。以下、未ロック側のパーキングロック機構を作動させる際の制御処理について説明する。
【0031】
図6は実施例1のモータ回転数に基づいて未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるフローチャートである。尚、この処理は、モータ回転数が所定回転数を越えたときに開始するものとする。
ステップS11では、未ロック側駆動モータを、目標モータ回転数が0もしくは所定回転数未満の所定値となるように回転数フィードバック制御を行う。尚、予め設定した所定トルクを付与するように構成してもよい。
ステップS12では、未ロック側の駆動モータのモータ回転数絶対値が所定回転数未満か否かを判断し、所定回転数未満のときはモータ回転数が所定回転数未満に収束したと判断してステップS14に進む。それ以外のときはモータ回転数が所定回転数以上であると判断してステップS13に進み、モータ回転数収束判断用の診断タイマをリセットするとともにステップS11に戻って回転数フィードバック制御を継続する。
ステップS14では、モータ回転数収束判断用の診断タイマのカウントアップを行なう。そして、ステップS15では、診断タイマのカウント値がモータ回転数が収束したと判断できる診断時間を経過したか否かを判断し、経過したと判断したときはステップS16に進んで未ロック側のパーキングロック機構に作動指令を出力する。一方、診断時間が経過していないときは、ステップS11に戻り、モータ回転数制御を継続すると共にモータ回転数の収束状態の監視を継続する。
【0032】
図7は実施例1の未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるタイムチャートである。尚、このタイムチャートの初期状態は、右側のパーキングロック機構PLRのみを作動させた状態で車両停止した状態である。
【0033】
時刻t1において、予め設定された車両の停止状態を診断する診断時間の間に左側のモータ回転数の絶対値が所定回転数未満か否かを監視する。時刻t2において、左後輪RLのモータ回転数の絶対値が所定回転数以上となると、未ロック側の左側駆動モータMLにトルクを付与し、左側の後輪RLの回転速度が小さくなるように制御する。そして、時刻t3において、左側の駆動モータMLのモータ回転数が所定回転数未満となると、モータ回転数収束判断用の診断時間が設定され、その間、継続的に駆動モータMLのモータ回転数絶対値が所定回転数未満となっているか否かを判断する。
【0034】
時刻t4において、モータ回転数収束判断用の診断時間の間、継続的にモータ回転数の絶対値が所定回転数未満となると、左側のパーキングロック機構PLLに作動指令を出力し、左後輪RLがロックされる。このとき、パーキングロックとパーキングポールが噛み合う際にも回転がほとんど停止した状態であるため、運転者に違和感を与えることがない。
【0035】
次に、累積モータ回転数に基づく処理について説明する。図8は実施例1の累積モータ回転数に基づいて未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるフローチャートである。尚、この処理は、累積モータ回転数が所定累積モータ回転数を越えたときに開始するものとする。
ステップS21では、未ロック側駆動モータを、目標モータ回転数が0もしくは所定回転数未満の所定値となるように回転数フィードバック制御を行う。尚、予め設定した所定トルクを付与するように構成してもよい。
【0036】
ステップS22では、未ロック側の駆動モータの累積モータ回転数絶対値が所定累積モータ回転数に累積差分モータ回転数を加算した値未満か否かを判断し、加算した新たな閾値未満のときは車両の移動は抑制されていると判断してステップS23に進む。尚、累積差分モータ回転数とは、駆動モータのトルク付与により車両の移動が収束したと判断できる値である。一方、それ以外のときは累積モータ回転数が新たな閾値以上であり、回転数フィードバック制御によっても車両の移動を抑制できない状態であると判断してステップS25に進み、即座に未ロック側のパーキングロック機構に作動指令を出力する。これにより、車両移動を強制的に抑制する。
【0037】
ステップS23では、累積モータ回転数収束判断用の診断タイマのカウントアップを行なう。そして、ステップS24では、診断タイマのカウント値が累積モータ回転数が収束したと判断できる診断時間を経過したか否かを判断し、経過したと判断したときはステップS25に進んで未ロック側のパーキングロック機構に作動指令を出力する。一方、診断時間が経過していないときは、ステップS21に戻り、モータ回転数制御を継続すると共に累積モータ回転数の収束状態の監視を継続する。
【0038】
図9は実施例1の累積モータ回転数に基づいて未ロック側パーキングロック機構に作動指令を出力するときに駆動モータを作動させるタイムチャートである。尚、このタイムチャートの初期状態は、右側のパーキングロック機構PLRのみを作動させた状態で車両停止した状態である。
【0039】
時刻t1において、予め設定された診断時間の間に左側の累積モータ回転数の絶対値が所定回転数未満か否かを監視する。時刻t2において、左後輪RLの累積モータ回転数の絶対値が所定回転数以上となると、未ロック側の左側駆動モータMLにトルクを付与し、左側の後輪RLの回転速度が小さくなるように制御する。このとき、累積モータ回転数収束判断用の診断時間が設定されると共に、累積差分モータ回転数が所定累積モータ回転数に加算され、新たな閾値として設定される。そして、累積モータ回転数収束判断用の診断時間の間、継続的に駆動モータMLの累積モータ回転数絶対値が新たな閾値未満となっているか否かを判断する。
【0040】
そして、累積モータ回転数収束判断用の診断時間が経過した時刻t3において、累積モータ回転数の絶対値が新たな閾値未満となると、左側のパーキングロック機構PLLに作動指令を出力し、左後輪RLがロックされる。このとき、パーキングロックとパーキングポールが噛み合う際にも回転がほとんど停止した状態であるため、運転者に違和感を与えることがない。
【0041】
以上説明したように、実施例1にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(1)車両の複数の駆動輪に設けられた複数のパーキングロック機構のうち、何れか一つのパーキングロック機構である右側パーキングロック機構PLR(一方のパーキングロック機構)と、右側パーキングロック機構PLRとは別の駆動輪に設けられたパーキングロック機構である左側パーキングロック機構PLL(他方のパーキングロック機構)と、パーキングロック作動指令が出力されたときは、右側もしくは左側のうちの一方のパーキングロック機構を作動させるパーキングロックコントローラPLCU(パーキングロック機構制御手段)と、一方のパーキングロック機構のみを作動させた場合の車両挙動を推定又は検出する傾き検知手段1,現在位置検出手段2,レゾルバNL,NR(車両挙動検出手段)と、を有し、パーキングロックコントローラPLCUは、推定又は検出された車両が所定以上移動するときは、他方のパーキングロック機構を作動させることとした。
よって、特に車両が移動しない場合には、一方のみのパーキングロック機構を作動させることで、電力消費を抑制することができ、航続距離を長くすることができる。また、一方のみパーキングロック機構を作動させた場合に車両が移動するとき、もしくは移動するおそれがあるときは、両方のパーキングロック機構を作動させるため、いかなる状況でも車両の移動を抑制することができる。
【0042】
(2)ステップS2では、加速度センサの値に基づいて車両挙動を推定することとした。よって、実際に車両が移動してしまう前に両方のパーキングロック機構を作動させることができ、車両の移動を回避することができる。
【0043】
(3)ステップS7では、右側及び左側駆動モータMR,MLの回転数を検出するレゾルバNR,NLの値に基づいて車両挙動を検出することとした。よって、当初は移動が推定できなかった場合に、事後的に車両が移動してしまったとしても、両方のパーキングロック機構を作動させることで、車両の移動を抑制することができる。
【0044】
以上、本願発明を実施例に基づいて説明してきたが、上記実施例に限らず、他の構成であっても本願発明に含まれる。例えば、実施例1では、後輪駆動型の電気自動車について説明したが、前輪駆動型や4輪駆動型の電気自動車において、それぞれの輪にパーキングロック機構を備えた構成であればよい。また、例えば4輪それぞれにパーキングロック機構を備えている場合、前輪の左右一方側と、後輪の左右他方側とを組み合わせてもよいし、車両の左右方向で同じ側に位置する前輪のパーキングロック機構と後輪のパーキングロック機構を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 傾き検知手段
2 現在位置検出手段
3 ハンドル切れ角検知手段
4 ステアリングホイール
ML 左側駆動モータ
MR 右側駆動モータ
NL,NR レゾルバ
PLCU パーキングロックコントローラ(パーキングロック機構制御手段)
PLL 左側パーキングロック機構
PLR 右側パーキングロック機構
RL 左後輪
RR 右後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の駆動輪に設けられた複数のパーキングロック機構のうち、何れか一つのパーキングロック機構である一方のパーキングロック機構と、
前記一方のパーキングロック機構とは別の駆動輪に設けられたパーキングロック機構である他方のパーキングロック機構と、
パーキングロック作動指令が出力されたときは、前記一方のパーキングロック機構を作動させるパーキングロック機構制御手段と、
前記一方のパーキングロック機構のみを作動させた場合の車両の移動を推定又は検出する車両挙動検出手段と、
を有し、
前記パーキングロック機構制御手段は、前記推定又は検出された車両の移動が所定以上移動するときは、前記他方のパーキングロック機構を作動させることを特徴とする車両のパーキングロック制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のパーキングロック制御装置において、
前記車両挙動検出手段は、加速度センサの値に基づいて車両挙動を推定することを特徴とする車両のパーキングロック制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両のパーキングロック制御装置において、
前記車両挙動検出手段は、前記右側及び左側モータの回転数を検出するレゾルバの値に基づいて車両挙動を検出することを特徴とする車両のパーキングロック制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−75651(P2013−75651A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28465(P2012−28465)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】