説明

車両の制御装置

【課題】内燃機関にクラッチを介して接続される無段変速機を備えた車両において、ポジション検出の正否を判断してベルト伝達トルク指令値の決定あるいは機関出力トルクの低減を適切に実行するようにした車両の制御装置を提供する。
【解決手段】運転者によって操作されたシフトレバーのポジションに応じた信号を出力するシフトレバーポジションセンサの出力状態が正常か否か判断し(S10)、正常ではないと判断されるとき、クラッチの伝達トルクに基づいてベルト伝達トルク指令値を決定するベルト伝達トルク指令値の決定と、アクセルペダルの操作に対して内燃機関の出力トルクを低減する機関出力トルクの低減のうちの少なくともいずれかを実行する(S14,S16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の制御装置に関し、より詳しくは車両に搭載された無段変速機のシフトレバーのポジション検出の正否を判断してベルト伝達トルク指令値の決定や機関出力トルクの低減を実行するようにした制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された無段変速機の制御装置に関する従来技術としては、特許文献1記載の技術を挙げることができる。特許文献1記載の技術にあっては、NからDあるいはNからRにポジションが切り換えられた直後の係合過渡時には予め定められたマップから伝達トルクを求め、それを推定入力トルクとしてベルト挟圧力を制御し、よって滑りを防止しつつ摩擦によるエネルギ損失を低減させるように構成している。
【特許文献1】特開2001−330121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来技術にあっては、係合過渡時か否かをD,Rなどのポジションの切り換えからの経過時間などから判断しているが、ポジションを検出する手段の動作が正常ではないときは、インギヤを正確に判断することができず、操作量などが不適切となる恐れがある。
【0004】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、内燃機関にクラッチを介して接続される無段変速機を備えた車両において、ポジション検出の正否を判断してベルト伝達トルク指令値の決定あるいは機関出力トルクの低減を適切に実行するようにした車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1にあっては、内燃機関と、前記内燃機関にクラッチを介して接続されると共に、ドライブプーリとドリブンプーリを有するベルト式の無段変速機を備えた車両の制御装置において、前記車両の運転席に運転者の操作自在に配置されたシフトレバーと、運転者によって操作された前記シフトレバーのポジションに応じた信号を出力するシフトレバーポジション信号出力手段と、前記シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常か否か判断するポジション信号出力状態判断手段と、前記シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常ではないと判断されるとき、前記クラッチの伝達トルクに基づいてベルト伝達トルク指令値を決定するベルト伝達トルク指令値の決定と、アクセルペダルの操作に対して前記内燃機関の出力トルクを低減する機関出力トルクの低減のうちの少なくともいずれかを実行する実行手段とを備える如く構成した。
【0006】
請求項2に係る車両の制御装置にあっては、運転者によって操作された前記シフトレバーのポジションのうち、少なくとも前記車両の前進を示すポジションに応じた信号を出力する第2のシフトレバーポジション信号出力手段とを備えると共に、前記ポジション信号出力状態判断手段は、前記第2のシフトレバーポジション信号出力手段が前記信号を所定時間以上継続して出力しているとき、前記シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常とみなす如く構成した。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る車両の制御装置にあっては、運転者によって操作されたシフトレバーのポジションの位置に応じた信号を出力するシフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常か否か判断し、正常ではないと判断されるとき、クラッチの伝達トルクに基づいてベルト伝達トルク指令値を決定するベルト伝達トルク指令値の決定と、アクセルペダルの操作に対して内燃機関の出力トルクを低減する機関出力トルクの低減のうちの少なくともいずれかを実行する如く構成したので、ポジション検出の正否を判断することで、ベルト伝達トルク指令値の決定あるいは機関出力トルクの低減を適切に実行することができる。
【0008】
即ち、ポジション検出が正常ではないと判断されるときはインギヤが確定されないと判断することができるため、それに応じてベルト伝達トルク指令値の決定あるいは機関出力トルクの低減を適切に実行することができる。
【0009】
従って、ベルト伝達トルク指令値を決定するときは無段変速機のベルトのスリップを防止するように決定できると共に、機関出力トルクを低減するときは、アクセルペダルが踏み込まれた場合であっても、出力トルクを低減することで無段変速機のベルトの耐久性を向上させることができる。
【0010】
請求項2に係る車両の制御装置にあっては、シフトレバーのポジションの位置のうち、少なくとも車両の前進を示すポジションに応じた信号を出力する第2のシフトレバーポジション信号出力手段を備えると共に、第2のシフトレバーポジション信号出力手段が信号を所定時間以上継続して出力しているとき、シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常とみなす如く構成したので、上記した効果に加え、インギヤ判断を不要に遅らすことがないと共に、ベルトの耐久性を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に即してこの発明に係る車両の制御装置を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、この発明の実施例に係る車両の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0013】
図1において、符号10は内燃機関(以下「エンジン」という)を示す。エンジン10は、車両(駆動輪Wなどで部分的に示す)14に搭載される。
【0014】
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席に配置されるアクセルペダル(図示せず)との機械的な接続が絶たれ、電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16が接続されて駆動される。
【0015】
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(燃料噴射弁)20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストン(図示せず)を駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0016】
エンジン10のクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して変速機26に入力される。即ち、クランクシャフト22はトルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフト(ミッション入力軸)MSに接続される。
【0017】
変速機26は無段変速機(Continuous Variable Transmission。以下「CVT」という)からなり、メインシャフトMSに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCSに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される金属製のベルト26cからなる。
【0018】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSに配置された固定プーリ半体26a1と、固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSに固定された固定プーリ半体26b1と、固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
【0019】
CVT26は、前後進切換装置30に接続される。前後進切換装置30は、前進クラッチ30aと、後進ブレーキ30bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構30cからなる。
【0020】
プラネタリギヤ機構30cにおいて、サンギヤ30c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ30c2は前進クラッチ30aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
【0021】
サンギヤ30c1とリングギヤ30c2の間には、ピニオン30c3が配置される。ピニオン30c3は、キャリア30c4でサンギヤ30c1に連結される。キャリア30c4は、後進ブレーキ30bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
【0022】
カウンタシャフトCSの回転は減速ギヤ34,36を介してセカンダリシャフトSSに伝えられると共に、セカンダリシャフトSSの回転はギヤ40とディファレンシャルDを介して左右の駆動輪(タイヤ。右側のみ示す)Wに伝えられる。駆動輪Wの付近にはディスクブレーキ42が配置される。
【0023】
前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bの切換は、車両運転席に設けられた、例えばP,R,N,D,S,Lのポジションを備えるシフトレバー44を運転者が操作することによって行われる。即ち、運転者によってシフトレバー44のいずれかのポジションが選択されたとき、その選択動作は油圧機構(図示せず)のマニュアルバルブ(図示せず)に伝えられる。
【0024】
例えばD,S,Lポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキ30bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ30aのピストン室に油圧が供給されて前進クラッチ30aが締結される。前進クラッチ30aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。
【0025】
他方、Rポジションが選択されると、前進クラッチ30aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキ30bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキ30bが作動する。それによってキャリア30c4が固定されてリングギヤ30c2はサンギヤ30c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動される。
【0026】
また、PあるいはNポジションが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bが共に開放され、前後進切換装置30を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0027】
CVT26においては油圧機構から可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室に作動油が供給され、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生させられると、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。このように、プーリの側圧を調整することで、エンジン10の出力を駆動輪Wに伝達する変速比を無段階に変化させることができる。
【0028】
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ48が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ50が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
【0029】
DBW機構16のアクチュエータにはスロットル開度センサ52が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THに比例した信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ54が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。
【0030】
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ56が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じると共に、吸気系には吸気温センサ58が設けられ、エンジン10に吸入される吸気温(外気温)に応じた出力を生じる。
【0031】
上記したクランク角センサ48などの出力は、エンジンコントローラ60に送られる。エンジンコントローラ60はマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構16の動作を制御すると共に、燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動する。
【0032】
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)62が設けられ、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数、より具体的には前進クラッチ30aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
【0033】
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)64が設けられてドライブプーリ26aの回転数、換言すれば前進クラッチ30aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力すると共に、ドリブンプーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)66が設けられ、ドリブンプーリ26bの回転数を示すパルス信号を出力する。
【0034】
セカンダリシャフトSSのギヤ36の付近にはVELセンサ(回転数センサ)70が設けられ、ギヤ36の回転数を通じてCVT26の出力軸の回転数あるいは車速VELを示すパルス信号を出力する。前記したシフトレバー44の付近にはシフトレバーポジションセンサ72が設けられ、運転者によって操作(選択)されたR,N,Dなどのポジションに応じたPOS信号を出力する。
【0035】
図2はシフトレバー44のポジションなどを説明する説明図である。
【0036】
図示の如く、シフトレバー44は、P,R,N,D,S,Lからなる6個のポジションを備える。P(パーキング)、R(後進)、N(ニュートラル)、D(前進)、S(スポーツ走行用の前進)、L(低変速比走行用の前進)を示す。
【0037】
シフトレバー44には、6個のポジションに応じて6個の接点が相互に所定の間隔をおいて図示の順序で配置される。これら接点は実際には扇形状に配置され、シフトレバー44が運転者によって操作されてその導電部がこれら接点のいずれかに接触すると、通電して対応する接点を特定する信号を出力する。
【0038】
シフトレバー44には、6個の接点に平行して2個の接点が配置される。その2個の接点は前記した6個の接点のうち、前記車両の前進を示すポジションに相当する接点FWDと後進を示すポジションRに相当する接点RVSからなる。
【0039】
接点FWDは、前記したD,S,Lの接点を連続させた比較的長い(実際には円弧状の)接点からなる。接点RVSは、前記した接点Rと同一の長さを備える。シフトレバー44が運転者によって操作されてその導電部が2個の接点のいずれかに接触すると、通電して対応する接点を特定する信号を出力する。
【0040】
このように、シフトレバーポジションセンサ72は運転者によって操作されたシフトレバー44のP,R,N,D,S,Lからなる6個のポジション(接点)に応じた信号を出力するシフトレバーポジション信号出力手段と、運転者によって操作されたシフトレバー44の2個のポジションのうち、車両14の前進を示すポジションFWDと後進RVSを示すポジション(接点)、より具体的には少なくとも車両14の前進を示すポジションFWDに応じた信号を出力する第2のシフトレバーポジション信号出力手段として機能する。
【0041】
上記したNTセンサ62などの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ74に送られる。シフトコントローラ74もマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ60と通信自在に構成される。
【0042】
より具体的には、上記したNTセンサ62とNDRセンサ64の出力は、シフトコントローラ74において波形整形回路に入力された後、方向検出回路に入力される。シフトコントローラ74は波形整形回路の出力をカウントして回転数を検出すると共に、方向検出回路の出力から回転方向を検出する。NDNセンサ66とVELセンサ70の出力は波形整形回路に入力され、シフトコントローラ74はその出力から回転数と車速を検出する。
【0043】
シフトコントローラ74はそれら検出値に基づき、油圧機構の電磁ソレノイド(図示せず)を励磁・非励磁してトルクコンバータ24とCVT26の動作を制御すると共に、シフトレバーポジション検出の正否を判断してベルト伝達トルク指令値などの操作量を決定する。
【0044】
図3はシフトコントローラ74のその動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはシフトコントローラ74によって所定時間、例えば10msecごとに実行される。
【0045】
以下説明すると、S10においてPOS(ポジション)状態、即ち、シフトレバーポジションセンサ72の信号の出力状態が正常か否か判断する。
【0046】
具体的には、シフトレバーポジションセンサ72がP,R,N,D,S,Lからなる6個のポジション(接点)のうちの1つを示す信号のみ出力しているとき、シフトレバーポジションセンサ72の信号の出力状態は正常と判断する一方、2つ以上を示す信号を出力しているか、あるいは信号を全く出力していないとき、シフトレバーポジションセンサ72の信号の出力状態は異常と判断する。
【0047】
S10においてシフトレバーポジションセンサ72の信号の出力状態が異常と判断された場合、S12に進み、第2POS状態、即ち、シフトレバーポジションセンサ72が、車両14の前進を示すポジションFWDと後進RVSを示すポジションに応じた信号のうちのいずれかを適宜設定される所定時間以上継続して出力しているか否か判断する。
【0048】
S12において前進を示すポジションFWDと後進RVSを示すポジションに応じた信号のうちのいずれかが所定時間以上継続して出力されていないと判断されるときは、インギヤが確定できない、即ち、ポジションNからDあるいはRの切り換えが確定できないと判断してS14に進み、ベルト伝達トルク指令値をクラッチ伝達トルク、即ち、前進クラッチ30aが伝達するトルクに基づいて決定する。
【0049】
図4は図3の処理を示すタイム・チャートである。
【0050】
クラッチ伝達トルクは前進クラッチ30aのピストン室への供給油圧指令値、即ち、油圧機構の電磁ソレノイドの通電指令値で決定されるが、S14においては通電指令値から逆算されるクラッチ伝達トルクと前進クラッチ30aの摩擦係数μの最大値(固定値)に基づいてベルト伝達トルク指令値を決定、より具体的には、クラッチトルクのばらつきの最大値に基づいて求められるトルクを伝達可能なようにベルト伝達トルク指令値を決定する。
【0051】
次いでS16に進み、エンジン10の出力トルクを低減する。即ち、図4に示す如く、アクセル開度APが急増するアクセルオン操作がなされた場合、それに対して目標スロットル開度THを低開度に決定してエンジン10の出力トルクを低減する。
【0052】
他方、S10においてシフトレバーポジションセンサ72の信号の出力状態が正常と判断されるときはS18に進み、通常制御を実行する。
【0053】
尚、S10においてシフトレバーポジションセンサ72の信号の出力状態が異常と判断される場合であっても、S12において前進を示すポジションFWDと後進RVSを示すポジションに応じた信号のうちのいずれかが所定時間以上継続して出力されていると判断されるときは、インギヤ、即ち、ポジションNからDあるいはRの切り換えが確定できたと判断、換言すればシフトレバーポジションセンサ72の信号の出力状態が正常とみなしてS18に進む。
【0054】
図5は、その通常制御の処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0055】
以下説明すると、S100においてポジション信号を判断し、PあるいはNではないときはS102に進み、クラッチ締結判断を行う。
【0056】
図6はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0057】
先ずS200においてクラッチ入出力回転差、即ち、NTセンサ62で検出されたメインシャフトMSの回転数(前進クラッチ30aの入力軸回転数)と、NDRセンサ64で検出されたドライブプーリ26aの回転数(前進クラッチ30aの出力軸回転数)の差を判断する。
【0058】
S200で差が所定値未満と判断されるときは、S202に進み、それらの回転方向を判断し、一致していると判断されるときはS204に進み、前進クラッチ30aの状態は締結(係合)と判断する一方、S200で差が所定値以上と判断されるか、あるいはS202で回転方向が不一致と判断されるときはS206に進み、前進クラッチ30aの状態は非締結(解放)と判断する。
【0059】
これについて図7を参照して説明する。
【0060】
図7の上部に示す如く、ポジションが変化、例えばRからDに変化した場合、NTセンサ62の出力は最初正転方向にあるが、その後で0rpmを超えて逆転方向を低下し続けた後、反転して0rpmを再び超えて正転方向を上昇する。
【0061】
他方、Rポジションではドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向に駆動されるため、NDRセンサ64の出力は最初逆転方向にあるが、経時的に0rpmに向かい、それを超えた後、正転方向を上昇する。
【0062】
この実施例においてはNTセンサ62とNDRセンサ64の出力から回転数のみならず、回転方向も検出することができるため、それらから検出される前進クラッチ30aの入力軸回転数と出力軸回転数の差が同じ(より正確には所定値未満)であって回転方向も一致する時点t1をもって前進クラッチ30aの締結を判断するため、精度良く判断することができる。
【0063】
また、車両14の進行方向は時点t1で前進クラッチ30aが締結されたとしても、イナーシャの影響で停止するまで若干の遅れ生じ、前記したスイッチバックが生じるときがあるが、そのような場合も前進クラッチ30aの締結を精度良く判断することができる。従って、それに基づいて決定することで、後述するようにベルト伝達トルク指令値などを的確に決定することができる。
【0064】
逆にいえば、図示のような回転方向を検知できないNT−従来回転センサやNDR−従来回転センサであると、回転数が絶対値で一致する時点t2をもって前進クラッチ30aが締結したと誤判断することがあるが、この実施例においてはそのような不都合が生じない。
【0065】
尚、図7に示す例はRからDに変化した場合であるが、DからRに変化した場合も同様であり、さらにNポジションからDあるいはRにインギヤされた場合も同様である。
【0066】
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS104に進み、図6フロー・チャートで判断された前進クラッチ30aの状態を判別し、非締結と判断されているときはS106に進み、ベルト伝達トルク指令値をクラッチ伝達トルク、即ち、前進クラッチ30aが伝達するトルクに基づいて決定し、次いでS108に進み、エンジン10の出力トルクを低減する。
【0067】
他方、S104で前進クラッチ30aの状態が締結と判断されているときはS110に進み、トルクコンバータ24の伝達トルクまたはエンジン10の出力トルクに基づいてベルト伝達トルク指令値を決定する。
【0068】
即ち、適宜設定されたマップを検索し、エンジン回転数NEとメインシャフトMSの回転数からトルクコンバータ24の伝達トルクを算出すると共に、エンジン回転数NEと吸気管内絶対圧PBAからエンジン10の出力トルクを算出する。
【0069】
次いで、算出されたトルクコンバータ24の伝達トルクと、エンジン10の出力トルクにトルクコンバータ24のトルク比(同様にエンジン回転数NEとメインシャフトMSの回転数から適宜設定されたマップを検索して算出)を乗じて得た積との間で大きい方を選択し、それを伝達できるようにベルト伝達トルク指令値を決定する。
【0070】
次いでS112に進み、エンジン10の出力トルクの低減を解除する。即ち、前進クラッチ30aが滑らないように目標スロットル開度THが徐々に増加するように決定することでエンジントルクの低減を解除する。
【0071】
また、S100でポジションがPまたはNと判断されるときはS114に進み、ベルト伝達トルク指令値を所定値に決定し、S116に進み、S112と同様、目標スロットル開度THを適宜決定してエンジントルクの低減を解除する。
【0072】
尚、図示は省略したが、シフトコントローラ74は、S14,S16,S18(S106からS114)などで決定された指令値に基づいてCVT26などの動作を制御すると共に、エンジンコントローラ60を介してDBW機構16の動作を制御する。
【0073】
上記の如く、この実施例にあっては、エンジン(内燃機関)10と、前記エンジンに前後進切換装置30の前進クラッチ(クラッチ)30aを介して接続されると共に、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bを備えたベルト式のCVT(無段変速機)26を備えた車両14の制御装置(シフトコントローラ74)において、前記車両の運転席に運転者の操作自在に配置されたシフトレバー44と、運転者によって操作された前記シフトレバー44のポジションに応じた信号を出力するシフトレバーポジションセンサ(シフトレバーポジション信号出力手段)72と、前記シフトレバーポジションセンサ72シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常か否か判断するポジション信号出力状態判断手段(S10,S12)と、前記シフトレバーポジションセンサ72の出力状態が正常ではないと判断されるとき、前記前進クラッチ30aの伝達トルクに基づいてベルト伝達トルク指令値を決定するベルト伝達トルク指令値の決定と、アクセルペダルの操作に対して前記エンジン10の出力トルクを低減するエンジン10の出力トルクの低減のうちの少なくともいずれか、より具体的にはその双方を実行する実行手段(S14,S16)とを備える如く構成したので、ポジション検出の正否を判断することで、ベルト伝達トルク指令値の決定あるいはエンジン10の出力トルクの低減を適切に実行することができる。
【0074】
即ち、ポジション検出が正常ではないと判断されるときはインギヤが確定されないと判断できるため、それに応じてベルト伝達トルク指令値の決定あるいはエンジン10の出力トルクの低減を適切に実行することができる。
【0075】
従って、ベルト伝達トルク指令値を決定するときはCVT26のベルト26cのスリップを防止するように決定できると共に、エンジン10の出力トルクを低減するときは、アクセルペダルが踏み込まれた場合であっても、出力トルクを低減することでベルト26cの耐久性を向上させることができる。
【0076】
また、運転者によって操作された前記シフトレバー44のポジションのうち、少なくとも前記車両の前進を示すポジションFWDに応じた信号を出力するシフトレバーポジションセンサ(第2のシフトレバーポジション信号出力手段)72を備えると共に、前記ポジション信号出力状態判断手段(S12)は、前記第2のシフトレバーポジション信号出力手段が前記信号を所定時間以上継続して出力しているとき、前記シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常とみなす(S18)、換言すればインギヤ、即ち、ポジションNからDあるいはRの切り換えが確定できたと判断する如く構成したので、上記した効果に加え、インギヤ判断を不要に遅らすことがないと共に、ベルト26cの耐久性を一層向上させることができる。
【0077】
尚、上記においてシフトレバーポジションセンサ72は、運転者によって操作されたシフトレバー44の2個のポジションのうち、車両14の前進を示すポジションFWDと後進RVSを示すポジション(接点)の内、少なくとも車両14の前進を示すポジションFWDに応じた信号を出力するように構成したが、車両14の前進を示すポジションFWDと後進RVSを示すポジションの双方に応じた信号を出力するように構成しても良い。
【0078】
また、上記においてCVT26あるいは前後進切換装置30の構造は例示であり、この発明はそれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明の実施例に係る車両の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す装置のシフトレバーのポジションなどを示す説明図である。
【図3】図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3の処理を説明するタイム・チャートである。
【図5】図3に示す通常制御の処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図6】図5フロー・チャートのクラッチ締結判断を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図7】図6の処理を説明するタイム・チャートである。
【符号の説明】
【0080】
10 内燃機関(エンジン)、14 車両、16 DBW機構、24 トルクコンバータ、26 無段変速機(CVT)、30 前後進切換装置、30a 前進クラッチ(クラッチ)、44 シフトレバー、60 エンジンコントローラ、62 NTセンサ、64 NDRセンサ、72 シフトレバーポジションセンサ(シフトレバーポジション信号出力手段、第2のシフトレバーポジション信号出力手段)、74 シフトコントローラ、W 駆動輪(タイヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関にクラッチを介して接続されると共に、ドライブプーリとドリブンプーリを有するベルト式の無段変速機を備えた車両の制御装置において、
a.前記車両の運転席に運転者の操作自在に配置されたシフトレバーと、
b.運転者によって操作された前記シフトレバーのポジションに応じた信号を出力するシフトレバーポジション信号出力手段と、
c.前記シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常か否か判断するポジション信号出力状態判断手段と、
d.前記シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常ではないと判断されるとき、前記クラッチの伝達トルクに基づいてベルト伝達トルク指令値を決定するベルト伝達トルク指令値の決定と、アクセルペダルの操作に対して前記内燃機関の出力トルクを低減する機関出力の低減のうちの少なくともいずれかを実行する実行手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
e.運転者によって操作された前記シフトレバーのポジションのうち、少なくとも前記車両の前進を示すポジションに応じた信号を出力する第2のシフトレバーポジション信号出力手段と、
を備えると共に、前記ポジション信号出力状態判断手段は、前記第2のシフトレバーポジション信号出力手段が前記信号を所定時間以上継続して出力しているとき、前記シフトレバーポジション信号出力手段の出力状態が正常とみなすことを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−92206(P2009−92206A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265874(P2007−265874)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】