説明

車両の前端部構造

【課題】簡易な構成で、歩行者と衝突した際に歩行者の脚に当接する部材を支持する部材の強度を向上させる車両の前端部構造を提供する。
【解決手段】上下一対の横枠部21,22と左右一対の縦枠部とから構成される枠状体を備えている。下方の横枠部22は、車両の幅方向に延設され、前方に突出する突出部22aを備えている。縦枠部の後方側面の中間位置にはサイドメンバ前端部が接続されている。一対の縦枠部の前方側面のサイドメンバの接続位置と下方の横枠部22の接続位置との中間位置にわたって、車両の前方に突出するエネルギー吸収体15が設けられている。上方の横枠部21の前端面が、突出部22aの前端面よりも後方側に位置するとともに、エネルギー吸収体15の前端面が、上方の横枠部21の前端面と突出部22aの前端面とを結ぶ面よりも前方側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前端部構造に関し、特に、車両の前端部が歩行者に衝突した際の歩行者への衝撃を低減させる車両の前端部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のような車両の前端部構造として、例えば、特許文献1から3に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1では、車幅方向に延びる第1緩衝部材および第2緩衝部材をそれぞれ車体の前部の上部および下部に設け、第2緩衝部材の幅方向中央部の後部側を車体の構造材に取付け、幅方向両端部の後面を車体両側のフレームの前面に支持している。
【0004】
この特許文献1の構造を備えた車両の前端部が歩行者と衝突した際には、第1緩衝部材が変形して衝撃を吸収する。そして、第1緩衝部材よりも下方に設けられた第2緩衝部材が衝撃吸収をともないながら歩行者の脚部の膝下を適切に支えている。
【0005】
また、特許文献2では、フロントバンパの上部(バンパリインフォースメント)を人体の脚部の膝と略対向する高さに配置し、フロントバンパの中間部および下部(バンパロアパネル)を脚部の膝より下の部位(以下、下腿部と称する)に対応する高さに配置している。
【0006】
この特許文献2の構造を備えた車両の前端部が上記脚部に衝突すると、フロントバンパの上部が膝に当接する。その際の衝撃は、フロントバンパの上部の後方に配置されているフォーム材に吸収されつつ、バンパリインフォースメントに伝達される。なお、特許文献2の構造では、フォーム材が潰れきる前に、フロントバンパの中間部および下部が下腿部に当接するよう構成されている。これにより、衝突荷重をフロントバンパの中間部および下部に分散させつつ、下腿部が後方に変位することを規制している。
【0007】
一方、特許文献3に記載された車両の前端部構造は、車体前部の車幅方向部材と、車幅方向部材の前部に設けられたエネルギー吸収体と、バンパの下部に設けられ、車幅方向部材よりも先端部が前方に突出する突出部材と、を備えている。また、車幅方向部材および突出部材の前端部にバンパフェースが配設され、ボンネットの先端と突出部材の先端とを結ぶラインよりも前方にエネルギー吸収部材を位置させている。
【0008】
特許文献3では車両の前端部をこのように構成することにより、車両の前端部が歩行者に衝突した際には、まず、突出部材が歩行者の膝から下に接触し、歩行者の脚を払う。脚を払われた歩行者は車両側に傾倒する。その際、エネルギー吸収体が歩行者の膝に接触し、接触の衝撃を吸収する。これにより、歩行者をボンネット上に乗せ、歩行者の二次的な被害を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−096256号公報
【特許文献2】特開2007−055367号公報(段落番号0059〜0063,図2)
【特許文献3】特許第3740901号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の特許文献に記載された構造では、車両の前端部と歩行者とが衝突した際には、バンパ内に設けられたエネルギー吸収部材等(以下、EA部材と称する)が歩行者の脚と当接する。したがって、EA部材には大きな衝撃が加えられ、その衝撃はEA部材を支持する部材にも伝達される。
【0011】
上述の特許文献1,2では、EA部材はいずれもラジエターサポート部材等の下端に取り付けられている。ラジエターサポートが枠状の樹脂製である場合、強度、特に、車両前後方向への力に対する強度はあまり高くない。そのため、EA部材に歩行者の脚が当接し、ラジエターサポートの下部に大きな力が加えられると、ラジエターサポートの下端部が車両後方側に変形したり、ラジエターサポートの縦枠の部材が座屈したりするおそれがある。
【0012】
ラジエターサポートの変形等を防止するためには、ラジエターサポートを支持または補強する部材を設けたり、ラジエターサポート自体の強度を高めたりすることが考えられる。しかしながら、これらの方法では、生産コストや車両の重量を増大させるだけでなく、生産性をも低下させるため好ましくない。
【0013】
一方、特許文献3では突出部材を車体側の補強部材により支持しているため、突出部材に加えられた衝撃はラジエターサポート等に伝達されることがない。しかしながら、特許文献3のような構成では、生産性を低下させるため好ましくない。
【0014】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、簡易な構成で、歩行者と衝突した際に歩行者の脚に当接する部材を支持する部材の強度を向上させる車両の前端部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、車両の前後方向に開口し、フロントバンパ内に設けられた枠状体を備え、前記枠状体は、車両の上下方向に延設された一対の縦枠部と、前記車両の幅方向に延設された一対の横枠部と、から構成され、下方の前記横枠部は、前記車両の幅方向に延設され、前記車両の前方に突出する突出部を備え、前記縦枠部の前記車両の後方側面の前記車両の上下方向における中間位置にはサイドメンバの前記車両の前方側の端部が接続され、前記一対の縦枠部の前記車両の前方側面の前記サイドメンバが接続された上下位置と前記下方の横枠部が接続された上下位置との中間位置にわたって、前記車両の前方に突出するエネルギー吸収体が設けられ、上方の前記横枠部の前記車両の前方側の端面が、前記突出部の前記車両の前方側の端面よりも前記車両の後方側に位置するとともに、前記エネルギー吸収体の前記車両の前方側の端面が、前記上方の横枠部の前方側の端面と前記突出部の前方側の端面とを結ぶ仮想面よりも前記車両の前方側に位置している。
【0016】
この構成により、車両の前端部が歩行者と衝突した場合には、まず、突出部とエネルギー吸収体とが歩行者の脚(下腿部)に当接する。この反動により、下腿部は車両の前方上方に跳ね上げられるとともに、大腿部は車両側に傾倒する。そして、上方の横枠部が歩行者の脚に当接する。これにより、脚には、大腿部の当接位置を中心とする下腿部の跳ね上げ方向に沿う回転力が作用するため、膝へのせん断力を低減しつつ、歩行者をボンネットフード上に乗せ、二次的被害を低減することができる。
【0017】
また、衝突初期では、突出部とエネルギー吸収体とが下腿部と当接するため、これらを支持する枠状態に加わる力を分散することができる。また、突出部に衝撃が加わると縦枠部を座屈させる力が加えられるが、上記構成では、縦枠部のサイドメンバの取り付け位置と下方の横枠部の取り付け位置との間にエネルギー吸収体を取り付けているため、この取り付け部分の面剛性が高まり、座屈を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両の前端部の側断面図である。
【図2】車両の前端部内部の斜視図である。
【図3】本発明に係る車両の前端部構造を有する車両と歩行者の脚とが衝突した際の脚の挙動を表す図である。
【図4】別実施形態における車両の前端部内部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を用いて本発明の車両の前端部構造を説明する。図1は本発明を適用した車両Vの前端部の側断面図、図2は車両Vの前端部の内部構造の斜視図である。
【0020】
図1に示すように、車両Vはエンジン等が配置されたエンジンルームを覆うボンネットフード11、ボンネットフード11の前端部下方に配置されたフロントバンパ12を備えている。本実施形態のフロントバンパ12は、上部バンパ部材12a,中部バンパ部材12b,下部バンパ部材12cから構成されている。
【0021】
また、図2に示すように、車両Vの前端部内部には、エンジン、サスペンション、サスペンションメンバー等を支持するサイドメンバ13、ラジエター等を支持するラジエターサポート20(本発明の枠状体)が備えられている。ラジエターサポート20は、その車両Vの前方側の端面がフロントバンパ12の内部に臨むように配置されている。
【0022】
ラジエターサポート20は、車両Vの幅方向に延設された上部サポート部材21(本発明の上方の横枠部),下部サポート部材22(本発明の下方の横枠部),車両Vの高さ方向に延設された右サポート部材23(本発明の縦枠部),左サポート部材24(本発明の縦枠部)により一体的な枠状に構成されている。なお、本実施形態では、ラジエターサポート20は樹脂により一体成形されているが、金属等、他の材質で構成しても構わない。また、上部サポート部材21,下部サポート部材22,右サポート部材23,左サポート部材24を別体で構成しても構わない。
【0023】
下部サポート部材22の車両Vの前方には、車両Vの前方側に突出する突出部22aが一体的に形成されている。突出部22aは、下部サポート部材22の全幅にわたって略平板状に形成されており、適宜リブ等を設けることにより強度を高めている。
【0024】
また、右サポート部材23と左サポート部材24の車両Vの後方側の端面の高さ方向の中間位置には、サイドメンバ13の前端部が接続されている。一方、右サポート部材23と左サポート部材24の車両Vとの前方側の端面の高さ方向の中間位置にわたって、車両Vの幅方向に金属製のバンパリインフォースメント14が設けられている。図2に示すように、バンパリインフォースメント14の上下方向における取り付け位置は、サイドメンバ13の接続位置と下部サポート部材22の接続位置との中間位置となっている。本実施形態は、サイドメンバ13の前端部の下端位置とバンパリインフォースメント15の上端部とが略一致する位置としている。
【0025】
さらに、バンパリインフォースメント14の前端面には車両Vの幅方向に延設されたエネルギー吸収体15が備えられている。エネルギー吸収体15は、ウレタン、発泡材等のEA材により構成されている。図1に示すように、このエネルギー吸収体15の前端面の車両Vの前後方向における位置は、上部サポート部材21の前端面と突出部22aの前端面とを結ぶ平面よりも車両Vの前方に位置している。なお、エネルギー吸収体15は中部バンパ部材12bの内部に臨むように取り付けられている。
【0026】
本実施形態では、さらに右サポート部材23と左サポート部材24のバンパリインフォースメント14の取り付け位置の下方に、車両Vの前方側に突出する補強部16を設けている。すなわち、補強部16は車両Vの上下方向において、突出部22aとバンパリインフォースメント14(エネルギー吸収体15)との間に位置している。
【0027】
以下に、図3を用いて、本実施形態の車両Vと歩行者とが衝突した際の歩行者の挙動について説明する。なお、この図は車両Vの左側方から見た図であり、図面中左が車両Vの前方である。
【0028】
図に示すように、歩行者の脚1は、大腿部1Uと下腿部1Lとが膝1Nにより接続されている。
【0029】
図に示すように、上部サポート部材21は大腿部1U付近、すなわち、膝1Nより上方に位置し、下部サポート部材22は下腿部1L付近、すなわち、膝1Nより下方に位置している。また、エネルギー吸収体15は下腿部1Lの膝1N側の端部付近に位置している。
【0030】
車両Vの前端部が歩行者の脚1に衝突した際には、図3(b)に示すように、下部サポート部材22の突出部22aが歩行者の下腿部1Lに当接する。このときの衝撃は、突出部22aから下部サポート部材22に伝達される。しかし。突出部22aが下腿部1Lと当接するのとほぼ同時にエネルギー吸収体15が下腿部1Lと当接する。これにより、車両Vが歩行者と衝突した際の衝撃は、突出部22aとエネルギー吸収体15とに分散される。そのため、下部サポート部材22に作用する車両Vの後方側に変位させる力を小さくすることができる。
【0031】
また、突出部22aに加えられた衝撃は下部サポート部材22を介して右サポート部材23および左サポート部材24に、これらを座屈させる力として伝達される。しかしながら、本発明では、右サポート部材23および左サポート部材24の下部サポート部材の取り付け位置とサイドメンバの取り付け位置との中間位置にエネルギー吸収体15が支持されているため、この支持位置の面剛性が高まり、右サポート部材23および左サポート部材24の座屈を抑制することができる。
【0032】
なお、エネルギー吸収体15に加えられた衝撃を効率的に支持するためには、エネルギー吸収体15の取り付け位置はサイドメンバ13の取り付け位置に近い方が望ましい。そのため、上述したように、サイドメンバ13の前端部の下端位置とバンパリインフォースメント14の上端部とが略一致するように構成している。
【0033】
突出部22aおよびエネルギー吸収体15と下腿部1Lが当接すると、図3(c)に示すように、その反動で下腿部1Lは車両Vの前方上方に跳ね上げられ、大腿部1Uは車両V側に傾倒する。そして、図3(d)に示すように、大腿部1Uが上部サポート部材21に当接する。このとき、下腿部1Lの衝突に伴うエネルギーの多くは突出部22aおよびエネルギー吸収体15により吸収されている。そのため、大腿部1Uが上部サポート部材21に当接する際の衝撃が小さくなり、膝1Nへのせん断力を低減することができる。また、この回転力により歩行者をボンネットフード11上に乗せ(図3(e)参照)、歩行者に二次的な被害が及ぶのを防止することができる。
【0034】
このように、本発明では、車両の前端部が歩行者と衝突した際に歩行者の脚と当接する3つの部材(突出部22a,エネルギー吸収体15,上部サポート部材21)の車両の前後方向での位置関係、および、これらの部材の車両の上下方向での位置関係を適切に設定することにより、これらの部材を支持する部材(ラジエターサポート20)の補強するための部材を設けたり、ラジエターサポート20を構成する部材の板厚を上げたりすることなく、ラジエターサポート20の強度を向上させることができる。したがって、生産コストや車両Vの重量を増大させることがなく、また、組立も容易であるため生産性を低下させることもなく、好ましい。
【0035】
〔別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、エネルギー吸収体15がバンパリインフォースメント14の前端面に支持される構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、図4に示すように、エネルギー吸収体15が右サポート部材23と左サポート部材24とに直接支持される構成としても構わない。この場合には、バンパリインフォースメント14の取り付け位置とサイドメンバ13の取り付け位置とを一致させ、エネルギー吸収体15をバンパリインフォースメント14の直下に位置させると、エネルギー吸収体15が補強部材16としても機能するため、好ましい。さらに、バンパリインフォースメント14の前端面に別途エネルギー吸収体を設けても構わない。
【0036】
(2)また、図4に示すように、エネルギー吸収体15をリブ状に形成しても構わない。このとき、エネルギー吸収体15の右サポート部材23と左サポート部材24側の端部は格子状に形成すると、強度が向上するため好ましい。
【0037】
(3)バンパリインフォースメント14を備えない構成としても構わない。
【0038】
(4)上述の実施形態におけるバンパリインフォースメント14や補強部16の裏側に右サポート部材23や左サポート部材24の座屈を防止するリブ等の補強部材を設けても構わない。この補強部材は、右サポート部材23や左サポート部材24側に形成しても構わないし、サイドメンバ側に形成しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、車両、特に、バンパの下端部が歩行者の下腿部に位置する低床意匠の車両に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
V:車両
12:フロントバンパ
13:サイドメンバ
15:エネルギー吸収体
20:ラジエターサポート(枠状体)
21:上部サポート部材(横枠部)
22:下部サポート部材(横枠部)
22a:突出部
23:右サポート部材(縦枠部)
24:左サポート部材(縦枠部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に開口し、フロントバンパ内に設けられた枠状体を備え、
前記枠状体は、車両の上下方向に延設された一対の縦枠部と、前記車両の幅方向に延設された一対の横枠部と、から構成され、
下方の前記横枠部は、前記車両の幅方向に延設され、前記車両の前方に突出する突出部を備え、
前記縦枠部の前記車両の後方側面の前記車両の上下方向における中間位置にはサイドメンバの前記車両の前方側の端部が接続され、
前記一対の縦枠部の前記車両の前方側面の前記サイドメンバが接続された上下位置と前記下方の横枠部が接続された上下位置との中間位置にわたって、前記車両の前方に突出するエネルギー吸収体が設けられ、
上方の前記横枠部の前記車両の前方側の端面が、前記突出部の前記車両の前方側の端面よりも前記車両の後方側に位置するとともに、前記エネルギー吸収体の前記車両の前方側の端面が、前記上方の横枠部の前方側の端面と前記突出部の前方側の端面とを結ぶ仮想面よりも前記車両の前方側に位置する車両の前端部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−47045(P2013−47045A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185894(P2011−185894)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】