説明

車両の前部構造

【課題】生産効率を低下させず、車両重量を増加させず、かつ前方斜め下方に向かって車両の前端部を引張る荷重に対して十分な強度を確保しながら、前方から車両に加えられる荷重を効率的に吸収できる車両の前部構造を提供する。
【解決手段】車幅方向左右一対のエプロンサイドメンバ2と、一対のエプロンサイドメンバ2間でエンジンを懸架するようにエプロンサイドメンバ2上部に取付けられるエンジンマウントブラケット3とを備え、エプロンサイドメンバ2を車両前後方向に三分割した前部5、中間部6及び後部7にて互いに隣接する部分をそれぞれ結合し、エプロンサイドメンバ2の中間部6の剛性を前部5及び後部7の剛性より高く設定して、エンジンマウントブラケット3を、エプロンサイドメンバ2の前部5及び中間部6に跨って、又はエプロンサイドメンバ2の中間部6及び後部7に跨って取付けている車両の前部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向左右一対のエプロンサイドメンバの間でエンジンを懸架するように、エプロンサイドメンバにエンジンマウントブラケットを取付けている車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の車両には、車両に加えられる荷重を吸収することが要求されており、特に、車両前方からの荷重を吸収することが重要となっている。そこで、主に車幅方向左右一対のエプロンサイドメンバによって前方からの荷重を吸収する車両の前部構造が広く採用されている。また、多くの場合、エプロンサイドメンバによってエンジンが支持されている。このエンジン支持については、エプロンサイドメンバにエンジンマウントブラケットが取付けられ、このエンジンマウントブラケットによって車幅方向左右一対のエプロンサイドメンバの間にエンジンが懸架されている。
【0003】
このような従来の構造として、例えば、特許文献1では、車両前後方向に延びるエプロンサイドメンバに、車両前後方向に間隔を空けて2つのマウントブラケットが取付けられ、これら2つのマウントブラケットによって支持されるエンジンマウントを介してエンジンが一対のエプロンサイドメンバの間に懸架されている。
【0004】
また、エプロンサイドメンバの車幅方向外側には前輪が配置されており、車両操舵の際に前輪を旋回可能とする空間を確保すべく、エプロンサイドメンバが車幅方向内側に向かって湾曲して形成されて、エプロンサイドメンバの横断面積が減少することがある。この場合、エプロンサイドメンバの湾曲部の剛性が低下してしまう。そこで、このような湾曲部の剛性を高めるために、エプロンサイドメンバの閉断面の面積を増加させること、又は補強部材を追加することが行なわれている。
【0005】
一方で、車両を船積み等する際には車両前端部にフックが掛けられて、車両前端部が前方斜め下方及び後方斜め下方に向かって引っ張られることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−225360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような従来の構造は、エプロンサイドメンバにおけるエンジン支持部周辺のみによって、前方からの荷重を吸収するように構成されているにすぎない。特に、エプロンサイドメンバについては、剛性が高すぎる場合、荷重を十分に吸収し得る状態までエプロンサイドメンバが十分に変形しなくなる一方で、剛性が低すぎる場合、荷重を十分に吸収する前にエプロンサイドメンバが完全に変形してしまうという問題がある。このような問題を鑑みると、特許文献1の構造では、エンジン支持部以外の部分を含む車両の前部全体を効果的に変形させて、前方からの荷重を効率良く吸収することができない。
【0008】
従来の構造にてエプロンサイドメンバの湾曲部の剛性を高めるために、エプロンサイドメンバの閉断面の面積を増加させた場合、エプロンサイドメンバと他部品との間のクリアランスが不十分となる。そのため、エプロンサイドメンバ周辺における部品の取付け作業性が低下して、生産効率が低下することとなる。エプロンサイドメンバの湾曲部の剛性を高めるために、補強部材を追加した場合、車両重量が増加し、補強部材の取付作業の追加により生産効率が低下することとなる。
【0009】
さらに、船積み等の際に車両前端部にフックが掛けられて、車両前端部が引っ張られた場合、エプロンサイドメンバには前方斜め下方及び後方斜め下方に向かって荷重が加えられることになる。この場合、エプロンサイドメンバが曲げ変形して、エプロンサイドメンバの上部に引張り応力が加えられ、エプロンサイドメンバの下部に圧縮応力が加えられることとなる。しかしながら、従来の構造では、エプロンサイドメンバ全体の曲げ変形に対する強度が考慮されておらず、十分な曲げ強度が得られない。
【0010】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、生産効率を低下させず、車両重量を増加させず、かつ前方斜め下方及び後方斜め下方に向かって車両の前端部を引張る荷重に対して十分な強度を確保しながら、前方から車両に加えられる荷重を効率的に吸収できる車両の前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するために、本発明の車両の前部構造は、車両前後方向に沿って配置され、かつ車幅方向左右一対に設けられるエプロンサイドメンバと、前記一対のエプロンサイドメンバの間にてエンジンを懸架するように、前記エプロンサイドメンバの上部に取付けられるエンジンマウントブラケットとを備えている車両の前部構造において、前記エプロンサイドメンバを車両前後方向に前部、中間部及び後部に三分割して、前記前部、中間部及び後部の互いに隣接する部分をそれぞれ結合し、前記エプロンサイドメンバの中間部の剛性を、前記エプロンサイドメンバの前部及び後部の剛性より高く設定して、前記エンジンマウントブラケットを、前記エプロンサイドメンバの前部及び中間部に跨って、又は前記エプロンサイドメンバの中間部及び後部に跨って取付けている。
【0012】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの中間部が、その車幅方向外側に配置される外側部材と、その車幅方向内側に配置される内側部材とを有し、前記外側部材及び内側部材の下部にそれぞれ形成されるフランジが互いに重なって接合されており、前記外側部材及び内側部材のフランジのいずれか一方が横断面L字状に形成され、前記外側部材及び内側部材のフランジが、前記エンジンマウントブラケットに対して上下方向に重なって配置されている。
【0013】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの前部、中間部及び後部が結合された状態で、前記エプロンサイドメンバの外周が平滑となっている。
【0014】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの前部、中間部及び後部における互いに隣接する部分の少なくとも1つが、テーラードブランク溶接により接合されている。
【0015】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの中間部前端及び後端の少なくとも一方、又は前記エプロンサイドメンバの前部後端及び前記エプロンサイドメンバの後部前端の少なくとも一方に、前記エプロンサイドメンバの横断面中央に向かってオフセットする結合用フランジが形成され、前記結合用フランジが、隣接する前記エプロンサイドメンバの前部、中間部又は後部と重なって接合されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明の車両の前部構造は、車両前後方向に沿って配置され、かつ車幅方向左右一対に設けられるエプロンサイドメンバと、前記一対のエプロンサイドメンバの間にてエンジンを懸架するように、前記エプロンサイドメンバの上部に取付けられるエンジンマウントブラケットとを備えている車両の前部構造において、前記エプロンサイドメンバを車両前後方向に前部、中間部及び後部に三分割して、前記前部、中間部及び後部の互いに隣接する部分をそれぞれ結合し、前記エプロンサイドメンバの中間部の剛性を、前記エプロンサイドメンバの前部及び後部の剛性より高く設定して、前記エンジンマウントブラケットを、前記エプロンサイドメンバの前部及び中間部に跨って、又は前記エプロンサイドメンバの中間部及び後部に跨って取付けている。
そのため、前方からの荷重が加えられた場合には、前記エプロンサイドメンバの前部が最初に変形し、次に前記エプロンサイドメンバの後部が変形することになる。さらに、前記エンジン、前記エンジンマウントブラケット等が、剛性の高い前記エプロンサイドメンバの中間部とともに後方に平行移動する。そして、最終的に残った荷重が前記エプロンサイドメンバの中間部の変形によって吸収されることとなる。このような変形によって、前方からの荷重が効率的に吸収されることになる。
特に、前記エプロンサイドメンバの車幅方向外側には前輪が配置されることが多くなっている。そこで、前輪を旋回可能とする空間を確保すべく、前記エプロンサイドメンバの中間部が車幅方向内側に向かって湾曲して形成された場合、前記エプロンサイドメンバの中間部の剛性が他の部分よりも高く設定されることによって、湾曲部の剛性低下を防止できる。従って、湾曲部を補強するために従来のように前記エプロンサイドメンバの閉断面積を増加させる必要がなく、前記エプロンサイドメンバと他部品とのクリアランスを十分に確保でき、前記エプロンサイドメンバ周辺における部品の取付け作業性が低下せず、生産効率が低下することもない。さらに、湾曲部を補強するために従来のように補強部品を追加していないので、車両重量が増加せず、かつ追加した補強部品の取付けによって生産効率が低下しない。
前記エプロンサイドメンバの上部に取付けられる前記エンジンマウントブラケットが、前記エプロンサイドメンバの前部及び中間部に跨って、又は前記エプロンサイドメンバの中間部及び後部に跨って取付けられているので、前記エプロンサイドメンバの結合部分の上側が特に補強されている。従って、船積み等の際に車両前端部にフックが掛けられて、車両前端部に前方斜め下方及び後方斜め下方に向かう荷重が加えられた場合、このような荷重により発生する前記エプロンサイドメンバの曲げ変形に対する強度が、高められることとなる。
よって、本発明の車両の前部構造は、生産効率を低下させず、車両重量を増加させず、かつ前方斜め下方及び後方斜め下方に向かって車両の前端部を引張る荷重に対して十分な強度を確保しながら、車両前方から車両に加えられる荷重を効率的に吸収できる。
【0017】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの中間部が、その車幅方向外側に配置される外側部材と、その車幅方向内側に配置される内側部材とを有し、前記外側部材及び内側部材の下部にそれぞれ形成されるフランジが互いに重なって接合されており、前記外側部材及び内側部材のフランジのいずれか一方が横断面L字状に形成され、前記外側部材及び内側部材のフランジが、前記エンジンマウントブラケットに対して上下方向に重なって配置されているので、前記エプロンサイドメンバの曲げ変形に対する強度が向上することとなる。従って、船積み等の際に車両前端部にフックが掛けられて、車両前端部に前方斜め下方に向かう荷重が加えられた場合、このような荷重により発生する前記エプロンサイドメンバの曲げ変形に対する強度が、さらに高められることとなる。
【0018】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの前部、中間部及び後部が結合された状態で、前記エプロンサイドメンバの外周が平滑となっているので、エンジンマウントブラケット、エプロンサイドパネル等の取付部品を取付ける前記エプロンサイドメンバの取付面に、段差及び大きなうねり等の大きな形状変化がなくなる。そのため、これらの取付部品を容易かつ確実に前記エプロンサイドメンバに取付けることができ、生産効率を向上させることができる。また、取付部品と前記エプロンサイドメンバとの間に意図しない隙間が生じることを防止でき、このような隙間によって前記エプロンサイドメンバ周辺の車体剛性が変化することを防止できる。よって、前方からの荷重を確実かつ効率的に吸収でき、かつ前記エプロンサイドメンバの曲げ変形に対する強度を確実に高めることができる。
【0019】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの前部、中間部及び後部における互いに隣接する部分の少なくとも1つが、テーラードブランク溶接により接合されているので、前記エプロンサイドメンバの外周を確実に平滑にすることができる。さらに、テーラードブランク溶接による結合部分では応力集中が発生し難いので、前記エプロンサイドメンバの中間部周辺の剛性を低下させず、前方からの荷重を効率的に吸収でき、かつ前記エプロンサイドメンバの曲げ変形に対する強度をさらに高めることができる。
【0020】
本発明の車両の前部構造では、前記エプロンサイドメンバの中間部前端及び後端の少なくとも一方、又は前記エプロンサイドメンバの前部後端及び前記エプロンサイドメンバの後部前端の少なくとも一方に、前記エプロンサイドメンバの横断面中央に向かってオフセットする結合用フランジが形成され、前記結合用フランジが、隣接する前記エプロンサイドメンバの前部、中間部又は後部と重なって接合されているので、前記エプロンサイドメンバの外周を確実に平滑にすることができる。特に、前記エプロンサイドメンバの中間部前端及び後端の少なくとも一方に前記エプロンサイドメンバの横断面中央に向かってオフセットする前記結合用フランジが形成され、前記結合用フランジが隣接する前記エプロンサイドメンバの前部又は後部と重なって接合される場合、剛性の高い前記中間部によって前記前部又は後部が支持されることとなる。そのため、前記エプロンサイドメンバの折れ変形が減少して、前記エプロンサイドメンバが確実に前後方向に潰れるように変形することとなる。その結果、前方からの荷重を効率的に吸収できる。また、剛性の高い前記中間部によって前記前部又は後部が支持されることによって、前記エプロンサイドメンバの曲げ変形に対する強度をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態について、エンジン等の周辺部品を省略した状態の車両の前部構造を車両左前方斜め上方から見た概略斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態について、エプロンサイドメンバの周辺を車両右前方から見た概略斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態について、車幅方向右側のエプロンサイドメンバと右前輪との位置関係を示す概略底面図である。
【図4】本発明の第1実施形態について、図1のA部を拡大し、かつA部の要部断面を示した斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る図4のB−B断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る図4のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る車両の前部構造1について説明する。
図1及び図2を参照すると、車両の前部構造1には、車幅方向左右一対のエプロンサイドメンバ(以下、「サイドメンバ」という)2、及びエプロンサイドメンバ2の上部に取付けられるエンジンマウントブラケット(以下、「マウントブラケット」という)3が設けられている。車両のエンジン(図示せず)は、マウントブラケット3によって一対のサイドメンバ2の間で懸架されている。一対のサイドメンバ2の車幅方向外側には、それぞれ前輪4が配置されている。
【0023】
図1〜図5を参照して、サイドメンバ2について説明する。
サイドメンバ2は、車両前後方向に沿って配置されている。サイドメンバ2は、その車両前後方向にて前部5、中間部6、及び後部7に三分割されている。前部5と中間部6との互いに隣接する部分が結合され、中間部6と後部7との互いに隣接する部分が結合されている。中間部6に用いられる板材の肉厚は、前部5及び後部7に用いられる板材の肉厚よりも厚くなっており、中間部6の剛性は、前部5及び後部7の剛性よりも高く設定されている。
【0024】
サイドメンバ2の中間部6の詳細を説明する。図1〜図3に示すように、サイドメンバ2の中間部6は、車両操舵の際に前輪4が旋回する空間を確保するように、車幅方向内側に向かって湾曲して形成されている。図4に示すように、中間部6は、その車幅方向外側に配置される外側部材8と、その車幅方向内側に配置される内側部材9とを有している。中間部6の閉断面は、外側部材8及び内側部材9によって形成されている。外側部材8は、横断面視で車幅方向内側に湾曲する略円弧状に形成されており、外側部材の下端部には略直線状のフランジ8aが設けられている。内側部材9は、横断面視で車幅方向内側に向かって突出する略ハット形状に形成されており、内側部材9の下端部には、横断面略L字状のフランジ9aが設けられている。外側部材8のフランジ8aと内側部材9のフランジ9aとは、重ねられており、スポット溶接によって互いに接合されている。
【0025】
サイドメンバ2の前部5及び中間部6の結合部分と、サイドメンバ2の中間部6及び後部7の結合部分とについて説明する。図5に示すように、中間部6後端と後部7前端とはテーラードブランク溶接によって接合されている。また、特に図示はしないが、前部5後端と中間部6前端とも同様にテーラードブランク溶接によって接合されている。そのため、サイドメンバ2の前部5、中間部6、及び後部7の隣接する部分を結合した状態で、サイドメンバ2の外周は平滑となっており、サイドメンバ2の外周には段差及び大きなうねり等の大きな形状変化がなくなっている。
【0026】
図1、図2、及び図4を参照して、マウントブラケット3について説明する。
マウントブラケット3には車両前後方向にサイドメンバ2に沿って延びる基部3aが設けられ、該基部3の上側部分には前側取付部3bと、後側取付部3cとが設けられている。前側取付部3bと後側取付部3cとは、前後方向に間隔を空けて配置され、連結部3dによって連結されており、連結部3dは、前側取付部3b及び後側取付部3cに対して凹むように形成されている。このような前側取付部3b及び後側取付部3cが、エンジン(図示せず)の取付けに用いられる。
【0027】
マウントブラケット3の基部3aは、サイドメンバ2の中間部6と後部7とに跨って配置されており、サイドメンバ2とマウントブラケット3の基部3aとがスポット溶接により接合されている。このとき、マウントブラケット3の前側取付部3bはサイドメンバ2の中間部6の上側部分に位置し、マウントブラケット3の後側取付部3cはサイドメンバ2の後部7の上側部分に位置している。そのため、サイドメンバ2の中間部6及び後部7の上側部分に対して、それぞれ同じようにエンジンの重量が上方から加えられる構成となっている。そのため、船積み等の際に車両前端部にフックが掛けられて、車両前端部に前方斜め下方及び後方斜め下方に向かう荷重が加えられた場合、このような荷重により発生するサイドメンバ2の曲げ変形に対する強度が、より効率的に高められることとなる。また、マウントブラケット3は、外側部材8のフランジ8a及び内側部材9のフランジ9aに対して上下方向に重なって配置されている。このようなマウントブラケット3によって、エンジンが一対のサイドメンバ2の間にて懸架されることとなる。
【0028】
このような本発明の第1実施形態に係る車両の前部構造において、車両の前方から荷重が加えられた場合の作用を説明する。
車両に前方からの荷重が加えられた場合、サイドメンバ2の前部5が最初に変形し、次にサイドメンバ2の後部7が変形することになる。さらに、エンジン、マウントブラケット3等が、剛性の高いサイドメンバ2の中間部6とともに後方に平行移動する。そして、最終的に残った荷重がサイドメンバ2の中間部6の変形によって吸収されることとなる。
【0029】
以上のように本発明の第1実施形態によれば、上述した作用のように車両の前部構造1が変形することによって、前方からの荷重が効率的に吸収されることになる。
サイドメンバ2の車幅方向外側には前輪4が配置されて、前輪4を旋回可能とする空間を確保すべく、サイドメンバ2の中間部6が車幅方向内側に向かって湾曲して形成された場合に、サイドメンバ2の中間部6の剛性が他の部分よりも高く設定されることによって、湾曲部の剛性低下を防止できる。従って、湾曲部を補強するために従来のようにサイドメンバの閉断面積を増加させる必要がなく、サイドメンバ2と他部品とのクリアランスを十分に確保でき、サイドメンバ2周辺における部品の取付け作業性が低下せず、生産効率が低下することもない。さらに、湾曲部を補強するために従来のように補強部品を追加していないので、車両重量が増加せず、かつ追加した補強部品の取付けによって生産効率が低下しない。
サイドメンバ2の上部に取付けられるマウントブラケット3が、サイドメンバ2の前部5及び中間部6に跨って取付けられているので、サイドメンバ2の結合部分の上側が特に補強されている。従って、船積み等の際に車両前端部にフックが掛けられて、車両前端部に前方斜め下方及び後方斜め下方に向かう荷重が加えられた場合、このような荷重により発生するサイドメンバ2の曲げ変形に対する強度が、高められることとなる。
よって、本発明の車両の前部構造1は、生産効率を低下させず、車両重量を増加させず、かつ前方斜め下方及び後方斜め下方に向かって車両の前端部を引張る荷重に対して十分な強度を確保しながら、前方から車両に加えられる荷重を効率的に吸収できる。
【0030】
本発明の第1実施形態によれば、サイドメンバ2の中間部6における外側部材8及び内側部材9の下端部にそれぞれ形成されるフランジ8a,9aが互いに重なって接合されており、内側部材9のフランジ9aが横断面L字状に形成され、外側部材8及び内側部材9のフランジ8a,9aが、マウントブラケット3に対して上下方向に重なって配置されている。そのため、サイドメンバ2の曲げ変形に対する強度が向上することとなる。従って、船積み等の際に車両前端部にフックが掛けられて、車両前端部に前方斜め下方及び後方斜め下方に向かう荷重が加えられた場合、このような荷重により発生するサイドメンバ2の曲げ変形に対する強度が、さらに高められることとなる。
【0031】
本発明の第1実施形態によれば、サイドメンバ2の前部5、中間部6、及び後部7が結合された状態で、サイドメンバ2の外周が平滑となっているので、マウントブラケット3、エプロンサイドパネル等の取付部品を取付けるサイドメンバ2の取付面に、段差及び大きなうねり等の大きな形状変化がなくなる。そのため、これらの取付部品を容易かつ確実にサイドメンバ2に取付けることができ、生産効率を向上させることができる。また、取付部品とサイドメンバ2との間に意図しない隙間が生じることを防止でき、このような隙間によってサイドメンバ2周辺の車体剛性が変化することを防止できる。よって、前方からの荷重を確実かつ効率的に吸収でき、かつサイドメンバ2の曲げ変形に対する強度を確実に高めることができる。
【0032】
本発明の第1実施形態によれば、サイドメンバ2の前部5、中間部6、及び後部7における互いに隣接する部分が、テーラードブランク溶接により接合されているので、サイドメンバ2の外周を確実に平滑にすることができる。さらに、テーラードブランク溶接による結合部分では応力集中が発生し難いので、サイドメンバ2の中間部6周辺の剛性を低下させず、前方からの荷重を効率的に吸収でき、かつサイドメンバ2の曲げ変形に対する強度をさらに高めることができる。
【0033】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る車両の前部構造を以下に説明する。第2実施形態に係る車両の前部構造の基本的な形態は、第1実施形態に係る車両の前部構造の形態と同様になっている。第1実施形態と同様な要素は、第1実施形態と同様の符号および名称を用いて説明する。ここでは、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0034】
サイドメンバ2の前部5及び中間部6の結合部分と、サイドメンバ2の中間部6及び後部7の結合部分とについて説明する。図6に示すように、サイドメンバ2の中間部6後端には、サイドメンバ2の横断面中央に向かってオフセットする結合用フランジ6aが形成されている。この結合用フランジ6aが、サイドメンバ2の後部7前端の内周面と当接し、中間部6後端の結合用フランジ6aと後部7前端とが、重なって、スポット溶接により互いに接合されている。また、特に図示はしないが、サイドメンバ2の中間部6前端にも同様に、サイドメンバ2の横断面中央に向かってオフセットする結合用フランジが形成されている。この結合用フランジは、サイドメンバ2の前部5後端の内周面と当接し、中間部6前端の結合用フランジと前部5後端とが、重なって、スポット溶接により互いに接合されている。
【0035】
以上のように本発明の第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られるとともに、サイドメンバ2の中間部6前端及び後端にサイドメンバ2の横断面中央に向かってオフセットする結合用フランジ6aが形成され、結合用フランジ6aが隣接するサイドメンバ2の前部5及び後部7とそれぞれ重なって接合されるので、剛性の高い中間部6によって前部5及び後部7が支持されることとなる。そのため、サイドメンバ2の折れ変形が減少して、サイドメンバ2が確実に前後方向に潰れるように変形することとなる。その結果、前方からの荷重を効率的に吸収できる。また、剛性の高い中間部6によって前部5及び後部7が支持されることによって、サイドメンバ2の曲げ変形に対する強度をさらに高めることができる。
【0036】
ここまで本発明の第1実施形態及び第2実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0037】
例えば、本発明の第1変形例として、第1実施形態及び第2実施形態にて、マウントブラケット3が、サイドメンバ2の前部5と中間部6とに跨って取付けられていてもよい。このとき、マウントブラケット3の前側取付部3bはサイドメンバ2の前部5の上側部分に位置し、マウントブラケット3の後側取付部3cはサイドメンバ2の後部7の上側部分に位置している。第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0038】
本発明の第2変形例として、第1実施形態及び第2実施形態にて、サイドメンバ2の中間部6の剛性をサイドメンバ2の前部5及び後部7の剛性より高くするために、中間部6に、前部5及び後部7の材料よりも高い剛性を有する材料が用いられてもよい。例えば、中間部6に高張力材料が用いられてもよい。この場合、第1実施形態では、テーラードブランク溶接以外の溶接によって、前部5、中間部6及び後部7のそれぞれの接合が行なわれてもよい。第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0039】
本発明の第3変形例として、第1実施形態及び第2実施形態にて、サイドメンバ2の中間部6の剛性をサイドメンバ2の前部5及び後部7の剛性より高くするために、中間部6に、絞り構造等の補強構造が採用されてもよい。第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0040】
本発明の第4変形例として、第1実施形態及び第2実施形態にて、サイドメンバ2の中間部6における外側部材8のフランジ8aが、横断面略L字状に形成され、内側部材9のフランジ9aが略直線状に形成されていてもよい。第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0041】
本発明の第5変形例として、第1実施形態にて、サイドメンバ2の前部5及び中間部6の結合部分と、サイドメンバ2の中間部6及び後部7の結合部分とのいずれか一方のみが、テーラードブランク溶接により接合されていてもよい。
【0042】
本発明の第6変形例として、第2実施形態にて、サイドメンバ2の前部5後端にサイドメンバ2の横断面中心に向かってオフセットした結合用フランジが設けられて、この結合用フランジと中間部6前端とが重ねて接合されていてもよい。サイドメンバ2の後部7前端にサイドメンバ2の横断面中心に向かってオフセットした結合用フランジが設けられて、この結合用フランジと中間部6後端とが重ねて接合されていてもよい。
また、前部5後端に結合用フランジを設けた構成と、中間部6後端に結合用フランジ6aを設けた構成とを組み合わせてもよい。中間部6前端に結合用フランジを設けた構成と、後部7前端に結合用フランジを設けた構成とを組み合わせてもよい。前部5後端に結合用フランジを設けた構成と、後部7前端に結合用フランジを設けた構成とを組み合わせてもよい。
【0043】
本発明の第7変形例として、第1実施形態及び第2実施形態に係るサイドメンバ2及びマウントブラケット3が、車幅方向左右のいずれか一方にのみ設けられていてもよい。
【0044】
本発明の第8変形例として、第1実施形態及び第2実施形態にて、スポット溶接の代わりに、ガス溶接、アーク溶接、ティグ溶接、プラズマ溶接、セルフシールドアーク溶接、エレクトロスラグ溶接、電子ビーム溶接、レーザービーム溶接、プロジェクション溶接、シーム溶接、アプセット溶接、フラッシュ溶接、バットシーム溶接、ろう接、ろう付け等が用いられてもよい。また、スポット溶接の代わりに、ネジ、ボルト等の締結部材が用いられてもよい。第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0045】
1 車両の前部構造
2 エプロンサイドメンバ(サイドメンバ)
3 エンジンマウントブラケット(マウントブラケット)
5 前部
6 中間部
6a 結合用フランジ
7 後部
8 外側部材
8a フランジ
9 内側部材
9a フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に沿って配置され、かつ車幅方向左右一対に設けられるエプロンサイドメンバと、
前記一対のエプロンサイドメンバの間にてエンジンを懸架するように、前記エプロンサイドメンバの上部に取付けられるエンジンマウントブラケットと
を備えている車両の前部構造において、
前記エプロンサイドメンバを車両前後方向に前部、中間部及び後部に三分割して、前記前部、中間部及び後部の互いに隣接する部分をそれぞれ結合し、
前記エプロンサイドメンバの中間部の剛性を、前記エプロンサイドメンバの前部及び後部の剛性より高く設定して、
前記エンジンマウントブラケットを、前記エプロンサイドメンバの前部及び中間部に跨って、又は前記エプロンサイドメンバの中間部及び後部に跨って取付けていることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記エプロンサイドメンバの中間部が、その車幅方向外側に配置される外側部材と、その車幅方向内側に配置される内側部材とを有し、
前記外側部材及び内側部材の下部にそれぞれ形成されるフランジが互いに重なって接合されており、
前記外側部材及び内側部材のフランジのいずれか一方が横断面L字状に形成され、
前記外側部材及び内側部材のフランジが、前記エンジンマウントブラケットに対して上下方向に重なって配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記エプロンサイドメンバの前部、中間部及び後部が結合された状態で、前記エプロンサイドメンバの外周が平滑となっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記エプロンサイドメンバの前部、中間部及び後部における互いに隣接する部分の少なくとも1つが、テーラードブランク溶接により接合されていることを特徴とする、請求項3に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記エプロンサイドメンバの中間部前端及び後端の少なくとも一方、又は前記エプロンサイドメンバの前部後端及び前記エプロンサイドメンバの後部前端の少なくとも一方に、前記エプロンサイドメンバの横断面中央に向かってオフセットする結合用フランジが形成され、
前記結合用フランジが、隣接する前記エプロンサイドメンバの前部、中間部又は後部と重なって接合されていることを特徴とする、請求項3に記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−51496(P2012−51496A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196680(P2010−196680)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】