説明

車両の変速制御装置

【課題】手動変速操作の途中で変速が完了してしまうなどの事態を生じさせずに、意図して変速を実行できる変速制御装置を提供する。
【解決手段】変速比に対応して複数のポジションが設けられ、変速操作部材をそれらのポジションのいずれかに移動させることにより変速比を選択し、その選択された変速比を実現するように変速を行う車両の変速制御装置において、前記変速操作部材をいずれかのポジションに移動させる変速操作の速度を検出する変速操作速度検出手段(ステップS2)と、その変速操作速度検出手段によって検出された変速操作速度が遅い場合には、変速操作速度が速い場合に比較して、変速開始を相対的に遅延させる変速開始時期制御手段(ステップS3,S4)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シフト装置によって変速比を選択するシフト操作を行うように構成された車両において、そのシフト操作が行われた場合の変速を制御する装置に関し、特に無段変速機の変速を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベルト式あるいはトロイダル型などの無段変速機は、変速比を連続的に変化させることができるので、エンジンなどの駆動力源の回転数をエネルギ効率のよい回転数に制御することが可能になり、燃費効率を向上させるためには有効な変速機である。したがって、無段変速機の変速制御は、アクセル開度などで表される駆動要求量や車速などに基づいて自動的に行うのが一般的であるが、変速比や変速速度は車両の動力性能あるいは加速性能に影響するので、手動操作に基づいて変速比を変化させるように構成することも従来行われている。
【0003】
一方、無段変速機の変速比を手動操作に基づいて変化させるように構成された装置では、手動による変速比の選択操作を電気的に検出し、その検出信号に基づいて無段変速機を電気的に制御することが行われている。その場合、手動によるシフト操作と無段変速機で生じる変速動作との速度が必ずしも一致しないことがあり、このようなシフト操作と変速の実行との時間的なズレは、運転者に違和感を与えたり、シフト操作性の悪化要因となったりする可能性がある。
【0004】
そこで例えば特許文献1に記載された装置は、無段変速機を搭載した車両においてシフト操作が手動によって行われた場合、その操作速度に応じた変速速度で変速を行うように構成されている。また、特許文献2に記載された装置は、無段変速機の変速比を指令する変速比指令手段が所定値を超えた場合に、その所定値を通過したときの変速指令手段の操作速度に応じて変速速度を設定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−22912号公報
【特許文献2】特開平10−231926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両が走行している状態で変速操作を行うと、先ずは変速比の変化に応じてエンジンなどの駆動力源の回転数が変化し、ついで変速比や駆動力源の出力の変化に応じて駆動力が変化して車速が変化するのが通常である。しかしながら、上述した各特許文献に記載されているように、変速速度を変速操作の操作速度に応じた速度に設定すると、ゆっくりと変速操作した場合、それに応じて変速速度が遅くなるから、エンジンなどの駆動力源の回転数の変化が緩慢になる。そのため、変速操作速度が遅い場合には、変速が実行されていることを駆動力源の回転数の変化として体感しにくく、いわゆる変速のフィーリングが悪いものとなる可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、手動によって変速操作した場合であっても、違和感が生じたり、変速フィーリングが悪化したりすることのない変速制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、上記の目的を達成するために、変速比に対応して複数のポジションが設けられ、変速操作部材をそれらのポジションのいずれかに移動させることにより変速比を選択し、その選択された変速比を実現するように変速を行う車両の変速制御装置において、前記変速操作部材をいずれかのポジションに移動させる変速操作の速度を検出する変速操作速度検出手段と、その変速操作速度検出手段によって検出された変速操作速度が遅い場合には、変速操作速度が速い場合に比較して、変速開始を相対的に遅延させる変速開始時期制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項2の発明は、変速比がゼロのニュートラルポジションを含む複数の変速比ポジションが設けられ、変速操作部材をそれらのポジションのいずれかに移動させることにより変速比を選択し、その選択された変速比を実現するように変速を行う車両の変速制御装置において、前記変速操作部材によって前記ニュートラルポジションが選択されている時間が予め定めた基準時間を超えているか否かを判断するニュートラル判断手段と、前記ニュートラルポジションが選択されている時間が前記基準時間を超えていることが前記ニュートラル判断手段で判断された場合に前記変速比をゼロにするニュートラル制御を実行するニュートラル実行手段と、前記ニュートラルポジションが選択されている時間が前記基準時間以下であることが前記ニュートラル判断手段で判断された場合に前記変速操作部材によって選択されているポジションの変速比を設定する変速比設定手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、手動による変速操作の速度が遅い場合、その変速操作で選択された変速比を達成する変速の開始が相対的に遅延させられる。したがって、変速操作の終了と変速の終了との時間差が少なくなる。また、手動による変速操作の速度が速い場合、あるいは遅くない場合には、変速の開始が通常どおりであって特には遅延させられないので、この場合でも変速操作の終了と変速の終了との時間差が少なくなる。その結果、変速操作と変速との一方が終了しているにも拘わらず、他方が終了していないなどの事態を回避もしくは抑制して運転者が違和感を覚えることを防止することができる。また、変速速度は遅くならないので、駆動力源などの回転部材の回転数の変化が通常の変速と同様に生じ、変速フィーリングが損なわれるなどのことを回避することができる。
【0011】
また、請求項2の発明によれば、ニュートラルポジションを通過して所定の変速比ポジションに変速操作部材を移動させたことと、ニュートラルポジションに変速操作部材が移動させられてニュートラルポジションが選択されたこととを明確に判別でき、したがってニュートラルポジション以外の所定の変速比ポジションから他の変速比ポジションに操作部材を移動させる変速操作を行った場合に、ニュートラルポジションを通過したことによって一時的にニュートラル状態が設定されたり、それに伴って駆動力が一時的に低下したりすることを防止し、いわゆるドライバビリティの悪化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係る制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】シフト装置における変速操作時間を検出するための構成の一例を示す模式図である。
【図3】シフト装置における変速操作時間を検出するための構成の他の例を示す模式図である。
【図4】変速操作速度が遅い場合の操作指令値と変速実行指令との変化の一例を示すタイムチャートである。
【図5】変速操作速度が速い場合の操作指令値と変速実行指令との変化の一例を示すタイムチャートである。
【図6】この発明に係る制御装置で実行される制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図7】ニュートラルポジションの経過時間が長い場合の操作指令値とニュートラル制御実行指令との変化の一例を示すタイムチャートである。
【図8】ニュートラルポジションの経過時間が短い場合の操作指令値とニュートラル制御実行指令との変化の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を具体例に基づいて詳細に説明する。この発明で対象とする車両は、無段変速機を搭載した車両であり、特にシフト装置を手動操作することによって複数の変速比を選択して設定することのできる無段変速機を搭載した車両である。その無段変速機は、従来知られている構成のものであってよく、例えばベルト式無段変速機あるいはトロイダル型無段変速機であり、さらには三要素の差動機構におけるいずれかの要素に内燃機関を連結するとともに、他の要素にモータを連結し、そのモータによって内燃機関の回転数を制御するいわゆる電気式無段変速機(あるいはハイブリッド機構)である。ベルト式無段変速機であれば、ベルトが巻き掛けられている一方のプーリの溝幅を変化させることにより、一対のプーリのそれぞれに対するベルトの巻き掛け半径を変化させて変速が実行される。また、トロイダル型無段変速機であれば、一対のディスクに挟み付けられているパワーローラを各ディスクの回転面と平行な方向に前後動させることによりパワーローラを傾転させることにより変速が実行される。このような変速制御は、電気的な指令信号に基づいて油圧を所定のアクチュエータに給排することにより行われる。さらに、電気式無段変速機(あるいはハイブリッド機構)であれば、モータの回転数を電気的に制御して内燃機関の回転数を変化させることにより変速制御が行われる。
【0014】
これらの無段変速機の変速制御は、内燃機関の回転数が燃費効率もしくはエネルギ効率の良好な回転数となるように実行され、これは、通常、駆動要求量や車速などに基づいて自動的に行われる。これに対して、シフト装置は、手動操作されて変速比を選択し、またそのような選択が可能な手動モードと、変速比を自動的に設定する自動モードとを選択するための装置であり、シフトレバーなどの変速操作部材やその変速操作部材によってオン動作させられるスイッチ、あるいは手動によってオン動作させられるスイッチなどを備えている。この発明で採用できるシフト装置は、ニュートラルポジションを含む複数の変速比ポジションを備え、それらのポジションにシフトレバーなどの変速操作部材を移動させるように構成されたシフト装置である。それらの各ポジションには変速操作部材によってオン動作もしくはオフ動作させられて信号を出力するスイッチが設けられており、その信号に基づいて各ポジションに応じた変速比を設定するように構成されている。また、この発明においては、各ポジションの配列は任意であり、いわゆるH型の配列、I型の配列、あるいはニュートラルポジションを中心とした放射型の配列などのいずれであってもよい。なお、上記のように電気信号を出力させ、その電気信号に基づいて変速を実行する変速機は、無段変速機および有段変速機に拘わらず、シフト・バイ・ワイヤー(SBW)式の変速機と称されることがある。
【0015】
この発明に係る変速制御装置は、上述した無段変速機を対象として手動によって変速操作することが可能な手動モードが設定されている場合、その手動による変速操作の操作速度に応じて変速実行の開始のタイミングを設定するように構成されている。図1はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、先ず、手動変速モードが選択もしくは設定されているか否かが判断される(ステップS1)。手動変速モードが選択もしくは設定されていないことによりステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これに対して、手動変速モードが選択もしくは設定されていることによりステップS1で肯定的に判断された場合には、変速のための手動による操作速度t1 が予め定めた閾値α以下か否かが判断される(ステップS2)。すなわち、手動変速操作速度の遅速が判断される。
【0016】
その変速操作速度は、要は、シフトレバーやシフトノブもしくはシフトスライダーなどの変速操作部材の移動速度であるから、その移動過程における2点の時間差を求めて変速操作速度を検出することができ、あるいは変速操作部材の移動速度に応じた電気信号を出力するセンサを設けて検出することができる。図2には、変速比ポジションをいわゆるH型に配列したシフト装置で変速操作速度を検出する例を示してある。この図2に示す例は7つのポジションを設けた例であり、直線状のセレクトゲート10に直交する3本のシフトゲート11,12,13が設けられており、そのセレクトゲート10と中央部のシフトゲート12との交差箇所がニュートラルポジションNに割り当てられている。また、この中央部のシフトゲート12における一方の端部が第3速ポジションに割り当てられ、かつ他方の端部が第4速ポジションに割り当てられている。さらに、セレクトゲート10の一方の端部に交差しているシフトゲート11の一方の端部すなわち上記の第3速ポジションに隣接する端部が第1速ポジションに割り当てられ、これとは反対側の端部が第2速ポジションに割り当てられている。中央部のシフトゲート12の他方の端部側に配置されているシフトゲート13の一方の端部すなわち上記の第3速ポジションに隣接する端部が第5速ポジションに割り当てられ、これとは反対側の端部が第6速ポジションに割り当てられている。そして、この第5速ポジションに隣接して第7速ポジションが設けられ、この第7速ポジションと前記セレクトゲート10とがシフトゲート14によって繋がれている。なお、これらのゲート10,〜14は、シフトレバーなどの変速操作部材を移動させる経路を規定しているものであって、実質的にガイド部となっている。
【0017】
第1速ないし第7速の各ポジションと、それらのシフトゲート11,〜14とセレクトゲート10との交差部近傍との間には、変速操作部材によって動作せられて信号を出力する所定長さの接点が設けられている。また、2本のシフトゲート11,〜14の間には、セレクトゲート10に沿いかつセレクトゲート10を挟んで交互に所定長さの接点が設けられている。図2の(a)には第1速と第2速との間の接点15,16を示し、(b)にはニュートラルポジションNから第7速側にセレクトゲート10に沿って配置されている接点17,18を示している。
【0018】
ここで、一例として第1速から第2速にシフト操作した場合の変速速度の検出の仕方を説明すると、変速操作部材が第1速ポジションに位置する場合には、接点15が動作させられて信号を出力しており、これによって第1速が選択されていることが検出される。変速操作部材をシフトゲート11に沿って第2速ポジション側に移動させると、その過程で他の接点16が変速操作部材によって動作させられる。その結果、二つの接点15,16が動作することになるので、変速操作部材がニュートラルポジションN側に移動したことの判断が成立し、その時刻がメモリーされる。言い換えれば、変速操作部材が第1速ポジションを離れた時刻がメモリーされる。変速操作部材がさらに第2速ポジション側に移動すると、変速操作部材が第1速側の接点15から離脱してその動作が止まる。この時点で第2速ポジションが選択されたことの判断が成立し、その時刻がメモリーされる。そして、各接点15,16の位置は既知であるから、これら二つのメモリーされた時刻の差を採ることにより、変速操作速度を求めることができる。これと同様にしてセレクトゲート10上での変速操作部材の移動速度を求めることができ、また他の変速比ポジションの間での変速操作速度を求めることができる。
【0019】
なお、移動する所定の部材の位置を検出するためのセンサとして、その位置信号を時々刻々出力する構成のものが従来知られており、この発明ではその種のセンサを利用して変速操作速度を検出するように構成してもよい。例えば、図3に示すように、シフトゲート11,〜14およびセレクトゲート10に沿ってポテンショメータ19,20などのセンサを設け、そのセンサの出力信号によって変速操作速度を検出するよう構成してもよい。
【0020】
上記のようにして手動による変速操作の速度t1 が検出され、これが閾値αを超えていることにより、すなわち変速操作がゆっくりした操作であることによりステップS2で否定的に判断されると、その変速操作によって選択された変速比への変速の開始が遅延させられる(ステップS3)。その遅延幅は、電気的な変速の判断が成立した時点から変速開始の指令信号を出力するまで、もしくは実際に変速が開始するまでの時間幅であり、これは一定値であってもよく、あるいは設定するべき変速比やその時点の車速あるいはアクセル開度などに応じて変化する値であってもよい。その場合、その時間幅すなわち変速開始遅延時間は予めマップ値として用意しておき、そのマップから読み出すこととしてよい。そして、その遅延時間が経過することにより変速が実行される(ステップS4)。これに対して変速操作速度t1 が閾値α以下であることにより、すなわち変速操作速度t1 が特にはゆっくりしていないことにより、ステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS4に進んで直ちに変速制御が実行される。
【0021】
図1に従った制御を行った場合の操作指令値および変速実行指令値の変化を図4および図5にタイムチャートで示してある。図4は変速操作速度が遅い場合の例を示しており、前述したように変速操作部材を第1速ポジションから第2速ポジションに向けて移動させる場合、変速操作部材が第1速ポジションを離れることにより操作指令値が「0」になる(P1時点)。これは、変速比としてはニュートラル状態である。そして、変速操作速度t1 に応じた時間が経過したP2時点に操作指令値は第2速になり、そのP1時点とP2時点との時刻の差に基づいて変速操作速度t1 が求まる。その変速操作速度t1 が閾値αを超えていることにより、通常の変速の際よりも長い変速開始遅延時間T1 が設定され、第2速の操作指令値になったP2時点から変速遅延時間T1 が経過したP3時点に変速が開始される。したがって、変速操作速度が遅くても、変速操作部材が第2速ポジションに完全には到達していないなど変速操作を行っている途中で変速が完了するなどの事態が生じない。また、変速速度は通常の変速の場合と同様であるから、変速に伴う駆動力源などの回転部材の回転数の変化は通常の場合と同様に生じ、変速が行われていることを確実に体感することができる。
【0022】
また、図5は変速操作速度が相対的に速い場合の例を示しており、前述したように変速操作部材を第1速ポジションから第2速ポジションに向けて移動させる場合、変速操作部材が第1速ポジションを離れることにより操作指令値が「0」になる(P11時点)。これは、変速比としてはニュートラル状態である。そして、変速操作速度t1 に応じた時間が経過したP12時点に操作指令値が第2速になり、そのP11時点とP12時点との時刻の差に基づいて変速操作速度t1 が求まる。その変速操作速度t1 が閾値α以下であることにより、変速操作速度が速い場合の変速開始遅延時間T1 が設定される。これは、相対的に短い時間であり、操作指令値が第2速になったP12時点から変速遅延時間T1 が経過したP13時点に変速が開始される。したがって、変速操作速度が速い場合には、変速操作の完了と変速の完了との時間的な差が特には大きくならない。また、変速速度は通常の変速の場合と同様であるから、変速に伴う駆動力源などの回転部材の回転数の変化は通常の場合と同様に生じ、変速が行われていることを確実に体感することができる。
【0023】
経過時間の長短によって制御内容を異ならせる制御の他の例を説明する。図6は、ニュートラル制御の実行と、所定の変速比を設定する変速の実行とを経過時間の長短によって峻別する制御の一例を説明するためのフローチャートであり、先ず、手動変速モードが選択もしくは設定されているか否かが判断される(ステップS11)。これは、前述した図1に示すステップS1と同様の制御である。したがって、このステップS11で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これに対して手動変速モードが選択もしくは設定されていることによりステップS11で肯定的に判断された場合には、ニュートラルポジションNの経過時間tnが予め定めた閾値βより長いか否かが判断される(ステップS12)。その経過時間tnは、例えば図2に示す接点17のみが動作し続けている時間や、図3に示すポテンショメータ20がニュートラルポジションNの位置信号を出力し続けている時間として検出することができる。
【0024】
ニュートラルポジションNの経過時間tnが閾値βを超えていることによりステップS12で肯定的に判断された場合には、ニュートラル制御が実行される(ステップS13)。このニュートラル制御とは、無段変速機に入力されたトルクがその出力部材に現れないようにする制御であり、例えば無段変速機における入力部材と出力部材との連結を遮断する制御、あるいは入力されたトルクを出力部材以外に伝達してしまう制御などである。
【0025】
一方、ステップS12で否定的に判断された場合、すなわちニュートラルポジションNの経過時間tnが閾値β以下の短い時間であった場合には、変速が実行される(ステップS14)。その変速とは、変速操作部材を移動させて選択されているポジションによって決められる変速比を設定する制御である。すなわち、ニュートラルポジションNを示す信号が出力されたとしてもその継続時間が短い場合には、ニュートラル状態を設定する信号が出力されたり、ニュートラル状態が一時的であっても設定されたりすることはない。
【0026】
図6に従った制御を行った場合の操作指令値およびニュートラル制御実行指令の変化を図7および図8にタイムチャートで示してある。図7はニュートラルポジションNの経過時間tnが短い場合の例を示しており、前述した図2あるいは図3に示す構成によりニュートラルポジションNが選択されたことが検出されると(P21時点)、図示しないタイマーによって時間がカウントされる。こうして求められるニュートラルポジションNの経過時間tnが前述した閾値βに達すると(P22時点)、ニュートラル制御実行指令が出力される。すなわちニュートラル状態が設定される。そして、例えば第2速を選択するシフト操作が行われ、操作指令値が第2速になると(P23時点)、同時に、ニュートラル制御実行指令が解除される(OFFになる)。すなわち、第1速から第2速へのシフトなど、所定の変速比ポジションの間で変速操作部材を移動させる場合、その過程でニュートラルポジションNが選択されたことを示す信号が出力された場合、その経過時間(継続時間)が長いことにより、ニュートラルポジションNが意図的に選択されたと判断し、ニュートラル状態が設定される。
【0027】
これに対してニュートラルポジションNの経過時間tnが短い場合には図8に示すようになる。すなわち、操作指令値が「0」すなわちニュートラルポジションNに相当する値になると(P31時点)、上記の場合と同様に時間のカウントが開始される。そして、ニュートラルポジションNの経過時間tnが閾値βに達する以前に操作指令値が所定の変速比ポジションに対応する値になると(P32時点)、ニュートラル制御実行指令は従前のままOFFの状態に維持される。すなわち、この場合にはニュートラル制御実行指令が出力されることはなく、したがって一時的であってもニュートラル状態となることはない。言い換えれば、無段変速機の出力部材のトルクが一時的であっても途絶えることはない。そのため、この発明に係る変速制御装置によれば、手動変速が可能なシフト・バイ・ワイヤー式の無段変速機であって、手動操作に基づく変速の速度が速い場合であっても、所定の変速比の間でシフト操作を行い、その過程で一時的にニュートラルポジションNが検出されたとしてもニュートラル状態が設定されるとがないので、駆動トルクが一時的に途絶えるなどの事態を未然に回避することができる。また、ニュートラルポジションNの経過時間tnが閾値βを超えれば、直ちにニュートラル制御が実行されてニュートラル状態となるので、運転者の操作意図を損なうことはない。
【0028】
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1に示すステップS2の制御を実行する機能的手段が、この発明における変速操作速度検出手段に相当し、ステップS3およびステップS4の制御を実行する機能的手段が、この発明における変速開始時期制御手段に相当する。また、図6に示すステップS12の制御を実行する機能的手段が、この発明におけるニュートラル判断手段に相当し、またステップS13の制御を実行する機能的手段が、この発明におけるニュートラル実行手段に相当し、さらにステップS14の制御を実行する機能的手段が、この発明における変速比設定手段に相当する。
【符号の説明】
【0029】
10…セレクトゲート、 11,12,13,14…シフトゲート、 15,16,17,18…接点、 19,20…ポテンショメータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速比に対応して複数のポジションが設けられ、変速操作部材をそれらのポジションのいずれかに移動させることにより変速比を選択し、その選択された変速比を実現するように変速を行う車両の変速制御装置において、
前記変速操作部材をいずれかのポジションに移動させる変速操作の速度を検出する変速操作速度検出手段と、
その変速操作速度検出手段によって検出された変速操作速度が遅い場合には、変速操作速度が速い場合に比較して、変速開始を相対的に遅延させる変速開始時期制御手段と
を備えていることを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項2】
変速比がゼロのニュートラルポジションを含む複数の変速比ポジションが設けられ、変速操作部材をそれらのポジションのいずれかに移動させることにより変速比を選択し、その選択された変速比を実現するように変速を行う車両の変速制御装置において、
前記変速操作部材によって前記ニュートラルポジションが選択されている時間が予め定めた基準時間を超えているか否かを判断するニュートラル判断手段と、
前記ニュートラルポジションが選択されている時間が前記基準時間を超えていることが前記ニュートラル判断手段で判断された場合に前記変速比をゼロにするニュートラル制御を実行するニュートラル実行手段と、
前記ニュートラルポジションが選択されている時間が前記基準時間以下であることが前記ニュートラル判断手段で判断された場合に前記変速操作部材によって選択されているポジションの変速比を設定する変速比設定手段と
を備えていることを特徴とする車両の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−242859(P2010−242859A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92246(P2009−92246)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】