説明

車両の振動低減システムおよび車両の振動低減方法

【課題】エンジンの振動の制御とタイヤの回転振動の制御を自動的に切り替えて、車両内の所定位置での振動を低減する振動低減システムおよび車両の振動低減方法を提供する。
【解決手段】制御装置11は、判定用センサ15から得た信号と、車輪の回転数を測定するセンサ7からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成し、判定用センサ15から得た信号と、エンジンのの回転数を測定するセンサ6からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成し、第1の抽出信号と第2の抽出信号とを比較し、比較した結果に応じてACM3a,3bを制御して、車両10内の所定位置に生じる振動を低減するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内の所定位置での振動を低減する振動低減システムおよび車両の振動低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたエンジンの所定方向の振動の、車両各部への伝達を低減するため、エンジンに振動を検知するセンサを固定し、エンジンを制振する能動型防振装置(アクティブコントロールマウント、以下ACMという)でエンジンを支持し、前記センサからの信号に基づいて、ACMの制振力を制御するエンジン制振システムが知られている。
【0003】
また、特許文献1には、制御のずれが最大の振動検出位置を対象として、適応制御により電磁アクチュエータを駆動することにより、振動検出位置での振動を抑制する能動型防振装置が提案されている。また、適応制御の手法については、種々のものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−155985号公報
【特許文献2】特開平8−44377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般には、ACMは、エンジンの振動の車両各部への伝達を低減するために搭載されているが、タイヤの重量アンバランスなどが発生した状態で高速走行している時などでは、エンジンの振動に加えて、タイヤの回転振動についても感じやすくなっている場合などが考えられる。
【0006】
また、タイヤの回転振動の高調波によって、車両各部の共振が励起される可能性も考えられる。例えば、タイヤの回転振動は一般的な乗用車で10〜15Hz(車速100km/h程度)近辺であり、例えばステアリングの共振が40Hz近辺の場合、タイヤの回転振動の3次成分がその共振を励起させる可能性がある。そこで、車両走行時において、エンジンの振動の制御だけでなく、タイヤの回転振動の制御も同時に行うことが考えられている。
【0007】
しかしながら、実際の運転状態においては、エンジンの振動とタイヤの回転振動の両方を常に制御しなくてもよく、乗員がタイヤの回転振動の伝達を感じるのは、多くは高速走行中であると考えられる。ここで、エンジンの振動とタイヤの回転振動のどちらかを制御する、またはどちらも制御するという選択について、車両の速度やGPSの情報などを使用して、運転状態毎に制御を切り替えるという方法が考えられるが、実際の振動のレベルは考慮されていないため、これらの情報では十分ではない。そこで、振動を検知するセンサの情報を用いて、これらの制御を自動で切り替える方法が求められる。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、エンジンの振動の制御とタイヤの回転振動の制御を自動的に切り替えて、車両内の所定位置での振動を低減する振動低減システムおよび車両の振動低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明は、加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号と前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号のいずれか一方の回転数信号に基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置とを備えた車両の振動低減システムであって、車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置を更に備え、前記制御装置が、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成し、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成し、前記第1の抽出信号と第2の抽出信号とを比較し、比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにしたことを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの第1の回転数信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの第2の回転数信号に基づいて、信号周波数が前記第1および第2の回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と、前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置とを備えた車両の振動低減システムであって、車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置を更に備え、前記制御装置が、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成し、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成し、前記第1の抽出信号および第2の抽出信号抽出信号と閾値とを比較し、比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにしたことを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、第1および第2の発明において、前記加振装置をサスペンション装置と車体との間に設けることを特徴とするものである。
【0012】
第4の発明は、加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号と前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号のいずれか一方の回転数信号に基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置とを備えたシステムにおける車両の振動低減方法であって、前記制御装置の処理手順が、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成するステップと、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成するステップと、前記第1の抽出信号と第2の抽出信号とを比較するステップと、比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにするステップとを含むことを特徴とするものである。
【0013】
第5の発明は、加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの第1の回転数信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの第2の回転数信号に基づいて、信号周波数が前記第1および第2の回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と、前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置とを備えたシステムにおける、車両の振動低減方法であって、前記制御装置の処理手順が、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成するステップと、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成するステップと、前記第1の抽出信号および第2の抽出信号抽出信号と閾値とを比較するステップと、比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにするステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
第1および第4の発明によれば、タイヤの回転信号から抽出した信号と、エンジンの回転信号から抽出した信号を比較し、比較した結果に応じて、エンジンの振動の制御とタイヤの回転振動の制御を自動的に切り替えて、車両内の所定位置での振動を低減することができる。
【0015】
第2および第5の発明によれば、タイヤの回転信号から抽出した信号と、エンジンの回転信号から抽出した信号と、閾値を比較し、比較した結果に応じて、エンジンの振動の制御とタイヤの回転振動の制御を自動的に切り替えて、車両内の所定位置での振動を低減することができる。
【0016】
第3の発明によれば、加振装置をサスペンション装置と車体との間に設けることによりタイヤの回転による振動をより効率良く低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車両の振動低減システムの一例を示す模式図である。
【図2】車両の振動低減システムの第1の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。
【図3】適応ノッチフィルタの一例を示すブロック線図である。
【図4】車両の振動低減システムの第2の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る車両の振動低減システムの一例を示す模式図である。図1において、エンジン12は、ボイスコイルなどのアクチュエータを内蔵させた2個のアクティブコントロールマウント(ACM)3a,3bと複数個のエンジンマウント(図示せず)によって支持されており、ACM3a,3bは、エンジン12を支持する機能と共に、加振装置としての機能を有し、加振力を能動的にエンジン12に与えて、車両内の所定位置での振動を抑制するように機能する。また、エンジン12には、エンジンの回転数を測定するセンサ6が設けられており、車両10には、車輪の回転数を測定するセンサ(例えば車輪速センサ)7が設けられている。車両10のステアリング4には、振動を検出するセンサ9aが取り付けられており、運転席のフロア部には振動を検出するセンサ9bが取り付けられている。なお、以下でセンサ9a,9bを特に区別しない場合には、センサ9と記す。また、センサ9のいずれか(図1では9b)の近くには、タイヤ回転振動またはエンジン振動のどちらかの振動の伝達を低減するかを判定するために用いられる判定用センサ15が取り付けられており、運転席の前部の位置(例えばインストルメントパネル内)には、ACM3a,3bの制振力を制御する制御装置11が配置されている。
【0019】
振動を検出するセンサ9は、車両内の所定位置での振動(例えば加速度)をリアルタイムで検出するように機能するものであり、乗員が体感する場所や振動源(車体、加振装置近辺)に配設されるのが好ましい。上述の例ではステアリング4や運転席のフロア部に配設したが、シート13、車体14、前席のヘッドレスト部、後席のフロア部等に設けるようにしても良い。センサ9には、例えば加速度センサ、荷重センサ等を用いることができる。また、制御装置11は、車両内のいずれの場所に配置しても良い。
【0020】
図2は、車両の振動低減システムの第1の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。第1の実施例は、制御装置11が、ACM3a,3bでタイヤ回転振動またはエンジン振動のいずれかの振動の伝達を低減するものである。
【0021】
第1の実施例では、制御装置11は、図2に示すように、車輪の回転数を測定するセンサ7から出力された車輪の回転数信号(例えば回転パルス信号)と、エンジンの回転数を測定するセンサ6から出力されたエンジンの回転数信号(例えば回転パルス信号)のいずれかの信号に切り替える切り替えスイッチ21と、切り替えスイッチ21からの回転パルス信号から参照信号(基本周波数信号と、その高調波信号)x(t)を生成するシンセサイザ41と、シンセサイザ41から出力された参照信号x(t)の位相とゲイン等を調節してACM3aの制御信号y1(t)を出力する適応フィルタ42と、シンセサイザ41からの参照信号と、センサ9aで検出した加速度信号(誤差信号)e1(t)とを読み込んで適応フィルタ42のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部43と、シンセサイザ41からの参照信号と、センサ9bで検出した加速度信号(誤差信号)e2(t)とを読み込んで適応フィルタ42のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部44と、シンセサイザ41から出力された参照信号の位相とゲイン等を調節してACM3bの制御信号y2(t)を出力する適応フィルタ45と、シンセサイザ41からの参照信号と、センサ9aで検出した加速度信号(誤差信号)e1(t)とを読み込んで適応フィルタ45のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部46と、シンセサイザ41からの参照信号と、センサ9bで検出した加速度信号(誤差信号)e2(t)とを読み込んで適応フィルタ45のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部47と、車輪の回転数を測定するセンサ7から出力された車輪の回転数信号と、判定用センサ15で検出した加速度信号とを読み込んで抽出信号を出力する適応ノッチフィルタ(SAN:Single frequency Adaptive Notch filter)22と、エンジンの回転数を測定するセンサ6から出力されたエンジンの回転数信号と、判定用センサ15で検出した加速度信号とを読み込んで抽出信号を出力する適応ノッチフィルタ(SAN)23と、適応ノッチフィルタ22から出力された抽出信号と、適応ノッチフィルタ23から出力された抽出信号とを比較して、切り替えスイッチ21に制御信号を出力する信号判定部24を備えている。
【0022】
なお、図2において、C11はACM3aからセンサ9aまでの実際の伝達特性、C12はACM3aからセンサ9bまでの実際の伝達特性、C21はACM3bからセンサ9aまでの実際の伝達特性、C22はACM3bからセンサ9bまでの実際の伝達特性を示し、C11’,C12’,C21’,C22’は推定伝達特性を示す。
【0023】
図3は、適応ノッチフィルタの一例を示すブロック線図である。適応ノッチフィルタ22,23は、回転パルス信号のパルス数を検出する回転検出部48と、正弦波または余弦波の基本周波数信号と、その高調波信号を生成する正弦波・余弦波生成部49〜49と、正弦波・余弦波生成部49〜49からの信号をフィルタ係数に基づいて位相とゲイン等を調節する適応フィルタ50〜50と、適応フィルタ50〜50の出力信号を加算する加算器52と、加算器52からの信号と判定用センサ15からの信号の誤差信号を算出する減算器53と、算出された誤差信号と、正弦波・余弦波生成部49〜49からの信号とにより、適応フィルタフィルタ50〜50のフィルタ係数を決定し、適応フィルタフィルタ50〜50のフィルタ係数の更新を行うLMS演算部51〜51とを備え、誤差信号の算出、フィルタ係数の更新等を繰り返して、信号周波数が回転パルス信号の周波数の実数倍の抽出信号1〜Nを出力する。
【0024】
制御装置11の信号判定部24は、適応ノッチフィルタ22から出力された抽出信号1〜Nのゲインと、適応ノッチフィルタ23から出力された抽出信号1〜Nのゲインとを比較し、タイヤの回転振動の成分が大きくて適応ノッチフィルタ22から出力された抽出信号1〜Nのゲインが大きい場合は、センサ7からの回転パルス信号に切り替えるように、切り替えスイッチ21に制御信号を出力する。エンジン振動の成分が大きくて適応ノッチフィルタ23から出力された抽出信号1〜Nのゲインが大きい場合は、センサ6からの回転パルス信号に切り替えるように、切り替えスイッチ21に制御信号を出力する。
【0025】
なお、抽出信号のゲインを比較する際に、予め計測された人間の感度特性に基づいて抽出信号のゲインに重み付けを行うようにしてもよい。
【0026】
図2において、切り替えスイッチ21が切り替わった時には、適応フィルタ42および適応フィルタ45のフィルタ係数をリセットする。シンセサイザ41は、切り替えられた回転パルス信号に基づいて、信号周波数が回転パルス信号の周波数(基本周波数)の実数倍の参照信号x(t)を生成する。LMS演算部43は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9aから誤差信号e1(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ42のフィルタ係数の更新処理を行う。LMS演算部44は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9bから誤差信号e2(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ42のフィルタ係数の更新処理を行う。適応フィルタ42は、更新されたフィルタ係数に基づいて制御信号y1(t)をACM3aに出力する。
【0027】
また、LMS演算部46は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9aから誤差信号e1(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ45のフィルタ係数の更新処理を行う。LMS演算部47は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9bから誤差信号e2(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ45のフィルタ係数の更新処理を行う。適応フィルタ45は、更新されたフィルタ係数に基づいて制御信号y2(t)をACM3bに出力する。
【0028】
第1の実施例では、振動を検出するセンサを2つにして別々に使用したが、振動を検出するセンサを1つとして共通で使用しても良い。振動を検出するセンサを1つにした場合は、伝達特性C12、C21を考慮しなくても良い。
【0029】
図4は、車両の振動低減システムの第2の実施例に係る基本制御系を示すブロック線図である。第2の実施例は、制御装置11が、ACM3a,3bでタイヤ回転振動またはエンジン振動のいずれか、または両方の伝達を低減するものである。
【0030】
第2の実施例では、制御装置11は、図4に示すように、車輪の回転数を測定するセンサ7から出力された車輪の回転数信号(例えば回転パルス信号)から参照信号(基本周波数信号と、その高調波信号)を生成するシンセサイザ31と、エンジンの回転数を測定するセンサ6から出力されたエンジンの回転数信号(例えば回転パルス信号)から参照信号(基本周波数信号と、その高調波信号)を生成するシンセサイザ35と、シンセサイザ31,35から出力された信号を選択する信号選択部39と、信号選択部39から出力された参照信号x(t)の位相とゲイン等を調節してACM3aの制御信号y1(t)を出力する適応フィルタ32と、加算器39からの参照信号と、センサ9aで検出した加速度信号(誤差信号)e1(t)とを読み込んで適応フィルタ32のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部33と、加算器39からの参照信号と、センサ9bで検出した加速度信号(誤差信号)e2(t)とを読み込んで適応フィルタ32のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部34と、加算器39から出力された参照信号の位相とゲイン等を調節してACM3bの制御信号y2(t)を出力する適応フィルタ36と、加算器39からの参照信号と、センサ9aで検出した加速度信号(誤差信号)e1(t)とを読み込んで適応フィルタ36のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部37と、加算器39からの参照信号と、センサ9bで検出した加速度信号(誤差信号)e2(t)とを読み込んで適応フィルタ36のフィルタ係数の更新処理を行うLMS演算部38と、車輪の回転数を測定するセンサ7から出力された車輪の回転数信号と、判定用センサ15で検出した加速度信号とを読み込んで抽出信号を出力する適応ノッチフィルタ(SAN)22と、エンジンの回転数を測定するセンサ6から出力されたエンジンの回転数信号と、判定用センサ15で検出した加速度信号とを読み込んで抽出信号を出力する適応ノッチフィルタ(SAN)23と、適応ノッチフィルタ22から出力された抽出信号および適応ノッチフィルタ23から出力された抽出信号と予め設定された閾値とを比較して、信号選択部39に制御信号を出力する信号判定器25を備えている。
【0031】
なお、図4において、C11はACM3aからセンサ9aまでの実際の伝達特性、C12はACM3aからセンサ9bまでの実際の伝達特性、C21はACM3bからセンサ9aまでの実際の伝達特性、C22はACM3bからセンサ9bまでの実際の伝達特性を示し、C11’,C12’,C21’,C22’は推定伝達特性を示す。
【0032】
適応ノッチフィルタ22,23は、第1の実施例と同様であるので、説明は省略する。
制御装置11の信号判定部25は、適応ノッチフィルタ22から出力された抽出信号1〜Nのゲインと、適応ノッチフィルタ23から出力された抽出信号1〜Nのゲインと、予め設定された、人間の感度特性に基づいて定められた閾値とを比較し、適応ノッチフィルタ22から出力された抽出信号1〜Nのゲインが閾値よりも大きい場合は、シンセサイザ31からの信号を選択するように、信号選択部39に制御信号を出力する。適応ノッチフィルタ23から出力された抽出信号1〜Nのゲインが閾値よりも大きい場合は、シンセサイザ35からの信号を選択するように、信号選択部39に制御信号を出力する。適応ノッチフィルタ22から出力された抽出信号1〜Nのゲインと適応ノッチフィルタ23から出力された抽出信号1〜Nのゲインの両方が、閾値よりも大きい場合は、シンセサイザ31からの信号とシンセサイザ35からの信号の両方の信号を選択するように、信号選択部39に制御信号を出力する。
【0033】
なお、抽出信号のゲインと閾値とを比較する際に、予め計測され人間の感度特性に基づいて抽出信号のゲインに重み付けを行うようにしてもよい。
【0034】
制御装置11は、車輪の回転数を測定するセンサ7から車輪の回転数信号である回転パルス信号を受けると、シンセサイザ31により、タイヤの回転パルス信号に基づいて、信号周波数が回転パルス信号の周波数(基本周波数)の実数倍の高調波信号を生成し、エンジンの回転数を測定するセンサ6からエンジンの回転数信号である回転パルス信号を受けると、シンセサイザ35により、エンジンの回転パルス信号に基づいて、信号周波数が回転パルス信号の周波数(基本周波数)の実数倍の高調波信号を生成する。信号選択部39は、信号判定部25からの制御信号に基づいてシンセサイザ31およびシンセサイザ35からの信号を選択し、参照信号を出力する。LMS演算部33は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9aから誤差信号e1(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ32のフィルタ係数の更新処理を行う。LMS演算部34は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9bから誤差信号e2(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ32のフィルタ係数の更新処理を行う。適応フィルタ32は、更新されたフィルタ係数に基づいて制御信号y1(t)をACM3aに出力する。
【0035】
また、LMS演算部37は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9aから誤差信号e1(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ36のフィルタ係数の更新処理を行う。LMS演算部38は、参照信号を読み込み、さらにセンサ9bから誤差信号e2(t)を読み込んで、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタ36のフィルタ係数の更新処理を行う。適応フィルタ36は、更新されたフィルタ係数に基づいて制御信号y2(t)をACM3bに出力する。
【0036】
適応制御は、参照信号と誤差信号の共通する周波数での振動を低減できるので、第2の実施例では、タイヤの回転に同期する周波数と、エンジンの回転に同期する周波数を多重して用いることにより、両方に起因する周波数での振動を低減することができる。
【0037】
第2の実施例では、振動を検出するセンサを2つにして別々に使用したが、振動を検出するセンサを1つとして共通で使用しても良い。振動を検出するセンサを1つにした場合は、伝達特性C12、C21を考慮しなくても良い。
【0038】
なお、上述した実施例では、加振力を与える加振装置としてACMを2つ設けたが、3つ以上設けるようにしても良い。また、加振装置は、ACMに限らず、アクティブマスダンパー(Active Mass Damper)やトルクロッドタイプのものでも良い。加振装置を設ける箇所はエンジン下部に限らず、サスペンション装置と車体との間に設けるようにしても良い。加振装置をサスペンション装置と車体との間に設けることによりタイヤの回転による振動をより効率良く低減することができる。
【0039】
また、上述した実施例では、LMSアルゴリズムを用いて適応フィルタのフィルタ係数の更新処理を行ったが、フィルタ係数の更新処理には、複素LMSアルゴリズム(Complex Least Mean Square Algorithm)、Normalized LMSアルゴリズム(Normalized Least Mean Square Algorithm)、射影アルゴリズム(Projection Algorithm)、SHARFアルゴリズム(Simple Hyperstable Adaptive Recursive Filter Algorithm)、RLSアルゴリズム(Recursive Least Square Algorithm)、FLMSアルゴリズム(Fast Least Mean Square Algorithm)、DCTを用いた適法フィルタ(Adaptive Filter using Discrete Cosine Transform)、SANフィルタ(Single Frequency Adaptive Notch Filter)、ニューラルネットワーク(Neural Network)、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)等、種々のアルゴリズを用いることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
3a,3b ACM
4 ステアリング
6 センサ
7 センサ
9,9a,9b センサ
10 車両
11 制御装置
12 エンジン
13 シート
14 車体
15 判定用センサ
21 切り替えスイッチ
22,23 適応ノッチフィルタ
24,25 信号判定部
31,35,41 シンセサイザ
32,36,42,45,50 適応フィルタ
33,34,37,38,43,44,46,47,51 LMS演算部
39 信号選択部
48 回転検出部
49 正弦波・余弦波生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号と前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号のいずれか一方の回転数信号に基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置と、を備えた車両の振動低減システムであって、
車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置を更に備え、
前記制御装置は、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成し、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成し、前記第1の抽出信号と第2の抽出信号とを比較し、比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにしたことを特徴とする車両の振動低減システム。
【請求項2】
加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの第1の回転数信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの第2の回転数信号に基づいて、信号周波数が前記第1および第2の回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と、前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置と、を備えた車両の振動低減システムであって、
車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置を更に備え、
前記制御装置は、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成し、前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成し、前記第1の抽出信号および第2の抽出信号抽出信号と閾値とを比較し、比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにしたことを特徴とする車両の振動低減システム。
【請求項3】
前記加振装置を、サスペンション装置と車体との間に設けることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の振動低減システム。
【請求項4】
加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号と前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号のいずれか一方の回転数信号に基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置とを備えたシステムにおける車両の振動低減方法であって、
前記制御装置の処理手順は、
前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成するステップと、
前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成するステップと、
前記第1の抽出信号と第2の抽出信号とを比較するステップと、
比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにするステップと、
を含むことを特徴とする車両の振動低減方法。
【請求項5】
加振力を発生する少なくとも1つの加振装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第1の振動検出装置と、車両内の所定位置での振動を検出する第2の振動検出装置と、車輪の回転数を測定する装置と、動力源の回転数を測定する装置と、前記車輪の回転数を測定する装置からの第1の回転数信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの第2の回転数信号に基づいて、信号周波数が前記第1および第2の回転数信号の周波数の実数倍の参照信号を生成し、前記第1の振動検出装置から得た信号と、前記参照信号とに基づいて前記加振装置に加振力を発生させて、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するように制御する制御装置とを備えたシステムにおける、車両の振動低減方法であって、
前記制御装置の処理手順は、
前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記車輪の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第1の抽出信号を生成するステップと、
前記第2の振動検出装置から得た信号と、前記動力源の回転数を測定する装置からの回転数信号とに基づいて、信号周波数が回転数信号の周波数の実数倍の第2の抽出信号を生成するステップと、
前記第1の抽出信号および第2の抽出信号抽出信号と閾値とを比較するステップと、
比較した結果に応じて前記加振装置を制御して、前記車両内の所定位置に生じる振動を低減するようにするステップと、
を含むことを特徴とする車両の振動低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−61896(P2012−61896A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206029(P2010−206029)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】