説明

車両の走行支援装置

【課題】交通流の判定精度を向上させて、渋滞の回避、解消のために車線変更を促す走行支援装置。
【解決手段】自車両の加速度と、周辺の他車両との車間距離とに基づいて、自車両が走行する車線での交通流の状態を判定する判定手段と、自車両が走行する車線に隣接する車線における車両情報に基づいて、移動可能な車線候補を設定する車線候補設定手段と、判定手段による判定結果に応じて、車線候補設定手段により設定された車線へ車線変更を促す車線変更促進手段とを備え、判定手段は、交通流の状態が、渋滞が発生する可能性が低い自由流の状態から車両の制動状態と加速状態が混合する混合流の状態へ移行する間に存在する臨界領域にあると判定できる場合に、車線変更を促す判定結果を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行支援装置に関し、より具体的には、自車両の加速度と他の車両との車間距離とから交通流の状態を判定し、渋滞抑制または回避のために車線変更を促す機能を備える車両の走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、渋滞抑制または回避のための走行制御装置が提案されている。例えば、特許文献1には、車両が走行する道路の車線ごとの車両密度を含む交通状態を取得し、車線のうち車両密度が高い車線へ車両を車線変更させ、車両密度が高い車線へ車線変更した車両に対し車両密度が臨界密度に近づくほど車間距離が短くなりにくくなるように走行制御を行うことにより、渋滞しそうな車線に車両を車線変更させて渋滞発生を抑制または緩和させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−36862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1を含む従来の方法では、車両密度を用いた渋滞予測(交通流)の判定精度が必ずしも高いとは言えず、渋滞の回避あるいは解消のためにはさらなる改善の余地がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、交通流の判定(推定)精度を適切に向上させて、渋滞の回避あるいは解消のために有効となる車線変更を促すことが可能な車両の走行支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自車両の加速度と、周辺の他車両との車間距離とに基づいて、自車両が走行する車線での交通流の状態を判定する判定手段と、自車両が走行する車線に隣接する車線における車両情報に基づいて、移動可能な車線候補を設定する車線候補設定手段と、判定手段による判定結果に応じて、車線候補設定手段により設定された車線へ車線変更を促す車線変更促進手段とを備え、判定手段は、交通流の状態が、渋滞が発生する可能性が低い自由流の状態から車両の制動状態と加速状態が混合する混合流の状態へ移行する間に存在する臨界領域にあると判定できる場合に、車線変更を促す判定結果を出力する、車両の走行支援装置である。
【0007】
本発明によれば、自車両の加速度と、周辺の他車両との車間距離とに基づいて、交通流の状態が、自由流から混合流への移行する間に存在する臨界領域にあると判定できる場合に、車線変更を促すので、混合流への進行しいては渋滞への進行を未然に防ぐことが可能になる。
【0008】
本発明の一形態によると、判定手段は、自車両の加速度から得られるパワースペクトルの単回帰直線から算出した傾き極大値の対数と、車間距離の分布から算出した共分散の最小値の対数との相関マップから交通流の状態を判定する。
【0009】
本発明の一形態によれば、共分散値の最小値の対数と傾き極大値の対数との相関マップを得ることにより、相関マップがより明瞭になり交通流の状態の判定をより精度良くおこなうことが可能になる。
【0010】
本発明の一形態によると、車両の走行支援装置は、車線変更促進手段は報知手段を含み、該報知手段により運転者に車線変更を促すための報知をおこなう。
【0011】
本発明の一形態によれば、報知手段により運転者にタイムリーで適切な車線変更を促すことが可能となる。
【0012】
本発明の一形態によると、車線候補選定手段は、自車両が検出した車両情報、通信装置を介して他の車両から取得した車両情報、およびナビゲーション装置を介して取得した車両情報の少なくとも1つに基づいて移動可能な車線候補を選定する。
【0013】
本発明の一形態によれば、複数の情報ソースから時々刻々変化する他車線での車両情報をタイムリーに取得することができきるので、移動可能な車線候補の選定をより適切におこなうことでき、その結果渋滞の解消または回避を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に従う、車両の走行支援装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施例に従う、加速度スペクトルを示す図である。
【図3】本発明の一実施例に従う、確率密度分布を示す図である。
【図4】本発明の一実施例に従う、共分散値Σを模式的に表わした図である。
【図5】本発明の一実施例に従う、傾き極大値と共分散最小値との相関マップのイメージ(概念)図である。
【図6】交通密度と交通量の関係を示す図である。
【図7】本発明の一実施例に従う、車間距離分布についての共分散最小値の対数と加速度スペクトルについての傾き極大値の対数との相関マップである。
【図8】本発明の一実施例に従う、移動先候補車線を説明するための図である。
【図9】本発明の一実施例に従う、車線変更制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に従う、車両の走行支援装置10の構成を示すブロック図である。走行支援装置10は、1つの装置としてあるいは他の装置の一部として車両に搭載することができる。
【0016】
走行支援装置10は、車速センサ11、レーダ装置12、ナビゲーション装置13、処理装置14、スイッチ15、各種アクチュエータ16、スピーカー17、表示器18、および通信装置19を備える形で構成される。なお、処理装置14は、ナビゲーション装置13の中に組み込んでもよい。また、スピーカー17および表示器18は、ナビゲーション装置13が備える該当機能を利用してもよい。
【0017】
車速センサ11は、自車両の加速度を検出し、その検出信号を処理装置14へ送る。レーダ装置12は、自車両の周辺に設定される所定の検出対象領域を複数の角度領域に分割し、各角度領域を走査(スキャン)しながら赤外光レーザやミリ波等の電磁波を発信する。レーダ装置12は、検出対象領域における物体からの反射信号(電磁波)を受信し、その反射信号を処理装置14へ送る。
【0018】
ナビゲーション装置13は、GPS信号等の測位信号を受信して、その測位信号から自車両の現在位置を算出する。また、ナビゲーション装置13は、車速センサ11およびヨーレートセンサ(図示なし)等が検出した加速度およびヨーレートから自律航法を用いて自車両の現在位置を算出することもできる。ナビゲーション装置13は、地図データを備え、表示する地図上に自車両の現在位置、目的地までの経路情報や渋滞情報等を出力する機能を有する。
【0019】
処理装置14は、周波数分析部31、単回帰直線算出部32、傾き極大値算出部33、反射点検出部34、他車両検出部35、車間距離検出部36、車間距離分布推定部37、共分散最小値算出部38、相関マップ作成部39、交通流判定部40、移動先候補検出部41、移動先設定部42、走行制御部43、報知制御部44、および通信制御部45を備える。各ブロックの機能は、処理装置14が有するコンピュータ(CPU)によって実現される。各ブロックの機能の詳細は後述する。
【0020】
処理装置14は、ハードウエア構成として、例えば、入力アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路、各種演算処理を行う中央演算処理装置(CPU)、CPUが演算に際してデータを記憶するのに使用するRAM、CPUが実行するプログラムおよび用いるデータ(テーブル、マップを含む)を記憶するROM、スピーカー17に対する駆動信号および表示器18に対する表示信号などを出力する出力回路を備えている。
【0021】
スイッチ15は、自車両の走行制御に係る各種信号を処理装置14へ出力する。各種信号には、例えばアクセルペダルやブレーキペダルの操作(位置)信号、自動走行制御(ACC)に係る各種信号(制御開始、制御停止、目標車速、車間距離等)などが含まれる。
【0022】
各種アクチュエータ16は、複数のアクチュエータの総称として用いており、例えばスロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、ステアリングアクチュエータ等が含まれる。
【0023】
表示器18は、LCD等のディスプレイを含み、タッチパネル機能を有するディスプレイとすることができる。表示装置16は、音声出力部および音声入力部を備える構成でもよい。表示器18は、報知制御部43からの制御信号に応じて、所定の警報情報を表示したり、所定の警告灯を点滅ないし点灯させることによって、運転者に報知する。スピーカー17は、報知制御部43からの制御信号に応じて所定の警報音や音声を出力することによって、運転者に報知する。
【0024】
通信装置19は、通信制御部45による制御下で、無線通信によって他車両あるいはサーバ装置(図示なし)や中継局(図示なし)と通信を行い、交通流判定部40や移動先設定部42から出力される情報と位置情報等を対応付けて送信したり、他車両等から車線毎の運行状況や渋滞情報等を受信する。取得された情報は、通信制御部45を介して移動先候補検出部41、報知制御部44あるいは走行制御部43に送られる。
【0025】
次に処理装置14の各ブロックの機能について説明する。周波数分析部31は、車速センサ11が検出した自車両の加速度について周波数分析を行い、パワースペクトルを算出する。図2に2つの異なる走行状態(a)、(b)におけるパワースペクトルの例を示す。図2では、パワースペクトルとして周波数に対応した加速度スペクトル51、53が例示されている。
【0026】
単回帰直線算出部32は、得られたパワースペクトルに対して単回帰分析をおこない単回帰直線を算出する。図2の例では、符号52、54で指示される直線がそれぞれ加速度スペクトル51、53に対して得られる単回帰直線である。
【0027】
傾き極大値算出部33は、得られた単回帰直線から傾き極大値を算出する。図2の例では、最初に単回帰直線52、54の傾きを算出する。すなわち、図2において、所定の周波数範囲Y(例えば、数秒から数分の時間範囲に対応する周波数範囲、0〜0.5Hz等)でのスペクトル値の変化Xに基づき傾きα(=Y/X)を算出する。図2では(a)と(b)での傾きα1、α2が得られる。
【0028】
次に、得られた傾きαの差分、すなわち所定の時間間隔での傾きαとαk−1との差分Δα(=α―αk−1)を算出する。得られた差分Δαの時間変化、あるいは差分Δαから得られるパラメータ(例えば、2乗値(Δα)、絶対値|Δα|等)の時間変化の極大値を求める。得られた極大値を傾き極大値として処理装置14内のメモリ(RAM等)に格納する。
【0029】
反射点検出部34は、レーダ装置12が検出した反射信号から反射点(物体)の位置を検出する。他車両検出部35は、反射点検出部34から出力される反射点の位置情報に基づき、隣り合う反射点間の距離、反射点の分布状態等から自車両の周辺に存在する少なくとも1台以上の他車両を検出する。その際、他車両検出部35は、自車両が走行している車線のみならず隣接する車線を走行する車両についても検出する。車間距離検出部36は、反射点検出部34が検出した他車両情報から自車両と他車両との間の車間距離を検出し、その結果を他車両の検出台数と共に出力する。
【0030】
車間距離分布推定部37は、車間距離検出部36から出力される車間距離と車両台数の情報から車間距離分布を推定する。図3と図4を参照しながら車間距離分布推定について説明する。図3は確率密度分布を示す図である。
【0031】
車間距離と車両台数の情報から前方での車群、すなわち車間距離が比較的緻密な車の集合が観測できる場合、変分ベイズなどの分布推定法を用いて各車群に対してガウス分布(確率密度分布)を適用する。例えば2つの車群があるとした場合は、車群を2つのガウス分布を線形結合した分布として捉えることができる。
【0032】
すなわち、図3に示すように、この2つのガウス分布を表わす確率関数P1(X)、P2(X)の和(重ね合わせ)として全体の分布を表す確率関数P(X)を得ることができる。
【0033】
ガウス分布(確率関数)をN(X|μ、Σ)で表すと、図3に例示されるような複数のガウス分布の重ね合わせは、次式で得ることができる。
【数1】


ここで、μは期待値(平均値)であって密度が最も高い位置を表す。Σは共分散値(行列)であって、分布のゆがみ、すなわち期待値からどの方向に離れると密度がどのように減るかを表す。πはガウス分布の混合係数(混合比)であって、各ガウス分布がどれだけ寄与しているかの割合(0≦π≦1)を表す。混合係数πは1つの確率として捉えることができる。
【0034】
共分散最小値算出部38は、最初に得られたガウス分布P(X)について、例えば最尤法を用いて、対応する共分散値Σを算出する。その際、例えば上記したP(X)から得られる尤度関数が最大となるパラメータ(共分散)を求めるためにEMアルゴリズム等を用いて計算をおこなう。ガウス分布P(X)が図3で例示されるような複数のガウス分布の重ね合わせとして得られる場合は、個々のガウス分布に対して共分散値Σを算出する。
【0035】
共分散最小値算出部38は、次に各ガウス分布P(X)に対して得られた共分散値Σの最小値を算出する。図4は共分散値Σを模式的に表わした図である。図4(a)では、共分散値Σを表わすグラフ56がデルタ(δ)0においてシャープなグラフとなっており、車群の変動が無い、すなわち車間距離がほぼ一定の走行状態にあることを示唆している。一方、図4(b)では、デルタ(δ)が負の領域のδ1でピークを持つグラフ57と正の領域のδ2でピークを持つグラフ58の2つのグラフが得られている。グラフ57、58ともに所定の変動幅(δ)を有しており、車群の変動が有る、言い換えれば車間距離が異なる車の集合が複数存在することを示唆している。図4において、共分散値Σの最小値は(a)ではほぼゼロ(0)、(b)では小さいほうのδ1となる。
【0036】
図1の相関マップ作成部39は、傾き極大値算出部33により算出された傾き極大値と、共分散最小値算出部38によって算出された共分散最小値との相関マップを作成する。図5は、傾き極大値と共分散最小値との相関マップのイメージ(概念)図である。図5では、横(X)軸を共分散最小値Xとし、縦(Y)軸を傾き極大値Yとして、変数(X、Y)の相関をマッピングしている。符号59と60で指示される2つの領域が示されており、この2つの領域が重なっている境界領域61が存在している。領域59は比較的共分散最小値が小さく、車群の変動が小さい状態、言い換えれば車間距離が比較的一定しているような状態に相当する。逆に領域60は比較的共分散最小値が大きく、車群の変動が大きい状態、言い換えれば車間距離が異なる車の集合が複数存在する状態に相当する。境界領域61は、車群の変動が小さい状態から大きい状態へ遷移する領域であり、本発明はこの境界領域61に相当する車群の状態を定量的に見出して、車線変更等の走行制御をおこなうところに特徴がある。
【0037】
ここで図6を参照しながら、図5に例示した各領域についてさらに説明する。図6は、交通密度と交通量の関係を示す図である。グラフの横(X)軸は、自車両から所定距離内に存在する車両の台数を意味する交通密度である。この交通密度の逆数が車間距離に相当する。縦(Y)軸は所定位置を通過する車両数を意味する交通量である。図6は、いわば車両の流れを意味する交通流を表わしていると捉える事ができる。
【0038】
図6で例示される交通流は、大きく4つの状態(領域)に区分けできる。1つめは、渋滞が発生する可能性が低い自由流の状態であって、ここでは一定以上の車速度および車間距離が確保可能である。2つめは車両の制動状態と加速状態が混合する混合流の状態である。この混合流の状態は、渋滞流に移行する前の状態であって、運転者による運転の自由度が低下して、交通流の低下と交通密度の増大(車間距離の縮小)によって渋滞流へと移行する確率が高い状態である。3つめは渋滞を示す渋滞流の状態である。4つめは自由流の状態から混合流の状態へ移行する間に存在する遷移状態である臨界領域である。この領域は、自由流に比べて交通量および交通密度が高い状態であって、交通量の低下と交通密度の増大(車間距離の縮小)によって混合流へと移行する状態である。なお、臨界領域は、準安定流、メタ安定流と呼ばれることもある。
【0039】
図5と図6との関係から、図5の領域59は図6の自由流および臨界領域の状態を含むことになり、図5の領域60は図6の混合流および渋滞流の状態を含むことになる。したがって、図5の境界領域は図6の臨界領域の状態と混合流の状態との双方を含む境界状態であり、ここでは図6に示すように臨界領域の境界と呼ぶ。本発明ではこの臨界領域の境界を含む臨界領域の状態を定量的に把握して、車線変更等の走行制御をおこなって渋滞の発生を防ぐあるいは渋滞を回避することが狙いである。
【0040】
図7を参照しながら臨界領域の状態の定量化について説明する。図7は、車間距離分布についての共分散最小値の対数と加速度スペクトルについての傾き極大値の対数との相関マップを示す図である。図7(a)は図6の交通流マップを簡略化して描いた図であり、(b)は共分散最小値の対数と傾き極大値の対数との相関マップを示す。(b)の共分散最小値の対数と傾き極大値の対数は、傾き極大値算出部33により算出された傾き極大値と、共分散最小値算出部38によって算出された共分散最小値との対数値として算出される。
【0041】
図7(b)において、符号62で指示される領域は(a)の臨界領域を含み、符号63で指示される領域は(a)の混合流の状態を含む。符号64で指示される線は臨界線であり、これを越えて混合流の状態へ移行すると渋滞に至ってしまう臨界点を意味する。領域62、63の境界領域65は臨界64直前の臨界領域の境界に相当する。図7(b)に例示される相関マップは処理装置14内のメモリ(RAM等)に格納される。
【0042】
図1の交通流判定部40は、相関マップ作成部39によって作成された相関マップにおいて、臨界領域の境界の状態が存在するか否かを判定し、存在する場合に渋滞への進行を阻止すべく、移動先設定部42を介して走行制御部43、報知制御部44、および通信制御部45に制御信号(判定結果)を送る。これにより、後述する車線変更等の各種制御を実行して、図7に例示される混合流への移行を未然に阻止することが可能となり、その結果渋滞回避あるいは渋滞解消を進めることが可能となる。
【0043】
また、交通流判定部40は、交通流の判定結果をナビゲーション装置13に出力する。ナビゲーション装置13は、交通流判定部40から受信した交通流の判定結果と、通信制御部41から出力される他車両において予測された交通流の判定結果あるいは渋滞予測結果とに基づき、渋滞を回避するように自車両の経路探索や経路誘導を行うことができる。
【0044】
次に、図1の移動先候補検出部41および移動先設定部42の機能について説明する。移動先候補検出部41は、他車両検出部35において検出された隣接する車線における車両情報(位置、台数等)および車間距離検出部36において検出された隣接する車線における車両についての車間距離から自車両が移動可能な、すなわち車線変更可能な候補を検出する。例えば、自車両が移動可能な範囲において、隣接する車線に自車両が入り込める(車線変更可能な)スペースがある場合、そのスペースが移動先候補となる。なお、車両情報(位置、台数等)は、通信装置19を介して他の車両あるいは情報局、外部サーバから取得してもよい。
【0045】
図8は、移動先候補の車線を説明するための図である。図8において、自車両M1が三車線A、B、Cの道路の中央の車線Bを走行している場合、右の隣接車線Cの前方スペースP1と後方スペースP2、左の隣接車線Aの前方スペースP3と後方スペースP4の4つが移動先候補として設定される。
【0046】
移動先設定部42は、移動先候補検出部41から出力される移動先候補の中から実際に移動するスペース(車線)を設定する。具体的には、交通流判定部40から出力される交通流判定結果として自車両の進行先に臨界領域が発生していること、および例えばナビゲーション装置13からの渋滞情報と応じて移動先の車線(スペース)を設定する。図8の例では、例えば、自車両M1が走行中の車線Bの前方で臨界領域が発生しており、かつ車線Aの前方で渋滞が発生している場合は、車線CのスペースP1、P3が移動先として設定される。なお、渋滞情報は、通信装置19を介して他の車両あるいは情報局、外部サーバから取得してもよい。
【0047】
走行制御部43は、交通流判定部40から出力される交通流判定結果と通信制御部44から出力される他車両等からの渋滞関連情報と、スイッチ15から出力される各種信号と、車速センサ11から出力される自車両の加速度の検出結果と、車間距離検出部36から出力される車間距離の検出結果とに基づき、各種アクチュエータを制御することにより、自車両の走行を制御する。例えば走行制御部42は、スイッチ15から出力される信号に応じて自動走行制御(ACC)の実行を開始または停止したり、ACCでの目標車速や目標車間距離の設定や変更を行う。
【0048】
報知制御部44は、交通流判定部40から出力される交通流判定結果に基づき、表示器18およびスピーカー17による報知制御をおこなう。報知制御部43は、例えば、「右隣の車線に車線変更すること」、「加速して追い越し車線に移動すること」等を表示器18に表示させたり、スピーカー17から音声で伝えたりするための制御信号を送る。
【0049】
図9は、本発明の一実施例に従う、車線変更制御のフローチャートである。なお、各ステップの詳細は既に説明した通りである。ステップS10において、車速センサ11によって自車両の加速度を検出する。並行して、ステップS11において、レーダ装置12からの出力信号に基づき自車両周辺の車両の位置と車間距離を検出する(図1のブロック34〜36)。ステップS12において、加速度スペクトル単回帰極大化をおこなう。具体的には、上述した傾き極大値を算出する(図1のブロック31〜33)。並行して、ステップS13において、共分散値特異化をおこなう。具体的には、上述した共分散最小値を算出する(図1のブロック37、38)。
【0050】
ステップS14において、臨界領域のモデリングをおこなう。具体的には、上述した図8(b)で例示されるような相関マップを作成する(図1のブロック39)。ステップS15において、交通流として臨界領域(とその境界)が存在するか否かを判定する(図1のブロック40)。臨界領域とは、上述した図7、図8(a)に例示される臨界領域の状態である。この判定がNoの場合は、ステップS12、S13に戻り以降のフローを繰り返す。
【0051】
ステップS16において、自車両周辺の車両の位置と車間距離の情報、臨界領域の有無の判定結果、および移動先候補の他車線の渋滞情報に基づき移動先の車線(スペース)を設定する(図1のブロック41、42)。
【0052】
ステップS15の判定がYesの場合、ステップS17において設定された移動先候補(車線、スペース)への車線変更案内をおこなう(図1のブロック44)。ステップS18において、さらに必要な各種制御(ACCの設定変更等)をおこなう(図1のブロック43)。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において改変して用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 走行支援置
14 処理装置
51、53 加速度(パワー)スペクトル
52、54 単回帰直線
56、57、58 共分散

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の加速度と、周辺の他車両との車間距離とに基づいて、自車両が走行する車線での交通流の状態を判定する判定手段と、
自車両が走行する車線に隣接する車線における車両情報に基づいて、移動可能な車線候補を設定する車線候補設定手段と、
判定手段による判定結果に応じて、前記車線候補設定手段により設定された車線へ車線変更を促す車線変更促進手段とを備え、
前記判定手段は、交通流の状態が、渋滞が発生する可能性が低い自由流の状態から車両の制動状態と加速状態が混合する混合流の状態へ移行する間に存在する臨界領域にあると判定できる場合に、車線変更を促す判定結果を出力する、車両の走行支援装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記自車両の加速度から得られるパワースペクトルの単回帰直線から算出した傾き極大値の対数と、前記車間距離の分布から算出した共分散の最小値の対数との相関マップから前記交通流の状態を判定する、請求項1に記載の車両の走行支援装置。
【請求項3】
前記車線変更促進手段は報知手段を含み、該報知手段により運転者に車線変更を促すための報知をおこなう、請求項1または2に記載の車両の走行支援装置。
【請求項4】
前記車線候補選定手段は、前記自車両が検出した前記車両情報、通信装置を介して他の車両から取得した前記車両情報、およびナビゲーション装置を介して取得した前記車両情報の少なくとも1つに基づいて前記車線候補を選定する、請求項1〜4のいずれかに記載の車両の走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−127772(P2012−127772A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278755(P2010−278755)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】