説明

車両の車体板材の接合構造

【課題】 2つの車両用車体板材を接着剤で接着したのち溶接するものにおいて、接合部の接着剤による接合強度を高め、接着剤による接合品質を高める。
【解決手段】 フロントサイドフレーム2とフロアパネル4を接着剤手で接着接合したのちスポット溶接8したものにおいて、溶接打点Pの配列方向端面のエッジ部E1,E2の形状を、その打点Pを中心とする半径のアール形状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの車体板材の接合面同士を接着剤で接着接合したのち、それらの接合面の複数箇所を間隔をあけて、溶接、リベットなどの加圧圧着接合手段により圧着接合してなる車両の車体板材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用の車体を構成する2つの車体板材を接合するのに、その接合強度を高めるために、2つの車体板材を予め接着剤により接着接合してから、それらを溶接、リベットなどの加圧圧着接合手段により圧着接合するようにした技術手段が既に知られている。
【0003】
しかしながら、従来の技術手段では、図6に示すように、2つの車体板材(たとえばフロントサイドフレームとフロアパネル)を接着接合した後に加圧圧着接合したとき、接着剤を2つの車体板材の接合面のエッジ部まで行き渡らせるのが難しく、接着部の剛性、強度が低下し、またエッジ部の角部の接着面に隙間が生じてしまい、電着塗料が剥離し、特に、2つの車体板材を鉄板とアルミ板など異種金属板で構成した場合には、それらの直接接触により電食してしまうという不都合があった。そこで、このような不都合を解消すべく、接着剤を増量すれば、接着剤が車体板材の間からはみだすことがあり、はみだした接着剤がリベットの打込みダイスの凹部などに入り込んで接合品質に悪影響を与えるとう弊害があった。
【0004】
そこで、後記特許文献1に開示のものでは、異種の金属板よりなる車体板材を接合する接合部に2種の接着剤を使用し、すなわちリベットで加圧されるエリアの接着剤を他のエリアに配置される接着剤よりも相対的に流動性の低い接着剤を使用するようにして前記弊害を解消するよにした技術手段も既に提案されている。
【特許文献1】特開2005−155671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記特許文献1に開示されるものでは、2種の接着剤を使用するので、接着剤の塗布作業が煩雑であり、コスト高を招くばかりでなく、接合面の全域に接着剤を均等に行き渡らせることが難しいという問題がある。
【0006】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、接着剤による接着接合と、リベット、溶接などの加圧圧着接合とを併用した、2つの車体板材の接合構造において、接着剤による接着強度を高めると共に接着剤による接合品質を向上させるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、2つの車体板材の接合面同士を接着剤で接着接合したのち、それらの接合面の複数箇所を間隔をあけて、溶接、リベットなどの加圧圧着接合手段により圧着接合してなる車両の車体板材の接合構造において、
一方の車体板材の接合面の、圧着接合打点の配列方向端面のエッジ部の形状を、その圧着接合打点を中心とする半径のアール形状に形成したことを特徴としている。
【0008】
また上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、請求項1記載のものにおいて、 2つの車体板材の少なくとも一方は、底板部とその底板部の両側より起立する縦壁部と、その縦壁部の上縁より外向きに横方向に延びるフランジ部を備えて横断面チャンネル状に形成され、前記フランジ部は、他方の車体板材との接合面を有し、該接合面は、縦壁部との接続側のエッジ部および自由端側のエッジ部をいずれも前記アール形状に形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本請求項各項記載の発明によれば、2つの車両用車体板材を、接着剤により接着接合したのち溶接、リベットなどで加圧圧着接合するものにおいて、接着面に接着剤を均等に行き渡らせることができ、接着部の剛性、強度を確保することができ、また、特に、2つの車体板材が異種材料によりなる場合に、それらの電食を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて具体的に説明する。
【0011】
以下の実施例は、本発明車両の2つの車体板材の接合構造を自動車の車体のフロントサイドフレームとフロアパネルとの接合構造に実施した場合であって、図1は、自動車の車体の一部破断の部分斜視図、図2は、図1の図2−2線に沿う拡大断面図、図3は、図1の3矢視拡大図、図4は、図3の4矢視拡大図、図5は、フロントサイドフレームの成形過程を示す図である。
【0012】
図1において、自動車の車体Bの下部には、その前後方向に縦走する左右一対のフロアフレーム1,1が互いに平行に設けられ、これらのフロアフレーム1,1の前部には、左右一対のフロントサイドフレーム2,2の後部が一体に接合されている。左右一対のフロントサイドフレーム2,2は、車室とエンジンルームとを仕切るダッシュボード3を貫通してエンジンルームの下方へと延長され、それらの前部が図示しないバルクヘッドのロアクロスメンバに結合されている。車室内において、左右一対のフロアフレーム1,1およびフロントサイドフレーム2,2の上面には、フロアパネル4が後に述べる接合手段を介して一体に接合される。フロアパネル4の左右中央部には、断面凸状のフロアトンネルスチフナ5が一体に隆起されており、このフロアトンネルスチフナ5は、ダッシュボード3を貫通してエンジンルームの下部へと延長されている。
【0013】
図2,3に示すように、2つの車体板材の一方を構成する左右のフロントサイドフレーム2,2は、左右のフロアフレーム1,1の前部に一体に接合される。各フロントサイドフレーム2は、フロアフレーム1と略同じ形状に形成されており、図2,3に示すように、略水平に延びる底壁部2aと、この底壁部2aの左右両側から起立する左右縦壁部2b,2bと、これらの縦壁部2b,2bの上縁より横方向に外向きに延びる左右フランジ部2c,2cと、左右フランジ部2c,2cより下向きに屈曲する屈曲端部2d,2dを有して横断面チャンネル状に形成されている。そして、左右フランジ部2c,2cの上面が、他の車体板材を構成するフロアパネル4との接合面とされている。
【0014】
フロントサイドフレーム2は、車体Bの軽量化を図るために、軽合金板製、この実施例ではアルミ合金板製であって、その左右上縁のフランジ部2c,2cの上面には、鋼板製のフロアパネル4が、本発明にかかる接合手段により一体に接合される。すなわち、図3,4に示すように、前記フランジ部2c,2cの上面には、熱硬化性の接着剤7が塗布され、その上にフロアパネル4が接着接合される。その後、フロントサイドフレーム2のフランジ部2c,2cとフロアパネル4との接着部は、フランジ部2c,2cの長手方向に沿い所定の間隔を存して加圧圧着接合、この実施例では、スポット溶接8される。
【0015】
ところで、この実施例のものでは、フロントサイドフレーム2のフランジ部2c,2cの上面には、その全域、特にその端部に至るまで接着剤7が万遍なく均等に行き渡るように、フランジ部2c,2cの前記スポット溶接7の打点P…の配列方向端面のエッジ部が特殊な形状に加工されている。すなわち、図4に最も明の瞭に示すように、フロントサイドフレーム2のフランジ部2cの、縦壁部2bとの接続側における端面のエッジ部E1は、スポット溶接打点Pを中心点とした半径Rのアール形状に形成され、同じくフランジ部2cの自由端側の端面のエッジ部E2もまたスポット溶接打点Pを中心点とした半径Rのアール形状に形成され、この半径Rの長さは、フランジ部2cの幅の約1/2である。以上のように、フランジ部2cのエッジ部E1,E2を前記アール形状に形成することにより、接着剤7の塗布後、その接着剤7はスポット溶接8による加圧圧着を受けてそのスポット溶接打点Pを中心として円状に広がり、フランジ部2c端面のエッジ部E1,E2まで均等に充填させることができる。
【0016】
なお、接着剤量は、少量の接着剤7がエッジ部E1,E2からはみ出す程度に設定することにより、該エッジ部E1,E2を接着剤7により保護することができ、フロントサイドフレーム2とフロアパネル4同士の直接接触を回避することができ、電食錆の発生を防止できる。
【0017】
図5(a)〜(c)に示すように、車体板材の一方である、フロントサイドフレーム2は、アルミ合金材よりなる四角なブランク材から、ドロー成形およびトリム成形を経て作られるが、フランジ部2c端面の縦壁部2bとの接続側のエッジ部E1のアール形状は、前記ドロー成形過程で成形され、またフランジ部2c端面の自由端側のエッジ部E2のアール形状はトリム成形過程で成形される。
【0018】
また、図2に示すように、フロントサイドフレーム1には、フランジ部2cの外縁に屈曲端部2dを形成したことにより、そこにダストシーラ10を塗布した際に、そのダストシーラ10の保持力を高めて、錆に対する耐久性を高めることができる。
【0019】
以上のように、この実施例によれば、フロントサイドフレーム2のフランジ部2cのスポット溶接打点P…の配列方向端面の、縦壁部2cとの接続側およびその自由端側のエッジ部E1,Eは何れもスポット溶接8の打点Pを中心とする半径Rのアール形状に形成されるので、スポット溶接8の加圧圧着時に、接着剤7をフランジ部2cのエッジ部E1,E2まで均等に充填させることができ、接着剤7による接着接合部の剛性、強度を確保することができ、接合部のエッジ部の確実な保護が可能となり、電食による錆びの発生を防止することができる。
【0020】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施例が可能である。
【0021】
たとえば、この実施例では、本発明車体板材の接合構造をフロントサイドフレーム2とフロアパネル4との接合構造に実施した場合を説明したが、これを他の車体板材の接合構造、たとえば、フロアフレームとフロントサイドフレームとの接合構造にも実施でき、また、この実施例では、加圧圧着接合としてスポット溶接を用いた場合を説明したが、これに代えてセルフピアスリベットなど他の加圧圧着接合を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】自動車の車体の一部破断の部分斜視図
【図2】図1の2−2線に沿う拡大断面図
【図3】図1の3矢視拡大図
【図4】図3の4線矢視拡大図
【図5】フロントサイドフレームの成形過程を示す図
【図6】従来の2つの車体板材の接合部の一部破断斜視図
【符号の説明】
【0023】
2・・・・・・・・・車体板材(フロントサイドフレーム)
2a・・・・・・・・底壁部
2b・・・・・・・・縦壁部
2c・・・・・・・・フランジ部
4・・・・・・・・・車体板材(フロアパネル)
7・・・・・・・・・接着剤
8・・・・・・・・・加圧圧着接手段(スポット溶接)
E1,E2・・・・・エッジ部
P・・・・・・・・・圧着接合打点(スポット溶接打点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの車体板材(2,4)の接合面同士を接着剤(7)で接着接合したのち、それらの接合面の複数箇所を間隔をあけて、溶接、リベットなどの加圧圧着接合手段(8)により圧着接合してなる車両の車体板材の接合構造において、
一方の車体板材(2)の接合面の、圧着接合打点(P)の配列方向端面のエッジ部(E1,E2)の形状を、その圧着接合打点(P)を中心とする半径のアール形状に形成したことを特徴とする、車両の車体板材の接合構造。
【請求項2】
2つの車体板材(2,4)の少なくとも一方(2)は、底板部(2a)とその底板部(2a)の両側より起立する縦壁部(2b)と、その縦壁部(2b)の上縁より外向きに横方向に延びるフランジ部(2c)を備えて横断面チャンネル状に形成され、前記フランジ部(2c)は、他方の車体板材(4)との接合面を有し、該接合面は、縦壁部(2b)との接続側のエッジ部(E1)および自由端側のエッジ部(E2)をいずれも前記アール形状に形成したことを特徴とする、前記請求項1記載の車両の車体板材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−215367(P2008−215367A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49240(P2007−49240)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】