説明

車両の電動パワーステアリング装置

【課題】 運転者の安全を妨げることなく、衝突時の衝突エネルギを前輪でより効率よく吸収することができる車両のパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、電動モータ16によりステアリング機構10にアシスト力を付与する車両の電動パワーステアリング装置であって、電動モータを制御する制御手段(20)と、車両の衝突の可能性を推定する衝突可能性推定手段(20)と、を有し、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、衝突の可能性がないときより、運転者の操舵によりステアリング機構の舵角が増大しにくくなるように電動モータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動パワーステアリング装置に係り、特に、電動モータによりステアリング機構にアシスト力を付与する車両の電動パワーステアリング装置に係る。
【背景技術】
【0002】
電動モータによりアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置が知られている。このような電動パワーステアリング装置としては、例えば、特許文献1に記載のものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2001−278084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来、車両の正面衝突やオフセット衝突等の衝突時に車体前部構造を最適に変形させることで、車両の乗員の安全を確保するようにしている。これに関係し、本発明者らは、そのような車両の衝突時に、前輪が中立位置により近いほど、ホイールハウスの変形を前輪が受け止め易く、その結果、車体前部構造にかかる衝突エネルギを前輪でより効率的に吸収することが出来ることを見出した。
しかし、運転者は、車両の衝突前に必要以上にハンドルを切ることが多く、前輪で衝突エネルギを効率的に吸収することが出来ない場合が多い。一方、操舵により衝突を回避することが出来る状況では、運転者の安全を妨げないように、前輪が操舵可能である必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、運転者の安全を妨げることなく、衝突時の衝突エネルギを前輪でより効率よく吸収することができる車両のパワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明は、電動モータによりステアリング機構にアシスト力を付与する車両の電動パワーステアリング装置であって、電動モータを制御する制御手段と、車両の衝突の可能性を推定する衝突可能性推定手段と、を有し、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、衝突の可能性がないときより、運転者の操舵によりステアリング機構の舵角が増大しにくくなるように電動モータを制御することを特徴としている。
このように構成された本発明においては、衝突の可能性があると推定されたとき、衝突の可能性がないときより、運転者の操舵によりステアリング機構の舵角が増大しにくくなるように電動モータを制御するので、ステアリング機構に連結された前輪の舵角がそれ以上増大しにくくなるようにすることが出来る。その結果、車両の衝撃エネルギを、前輪でより効率良く吸収させることが出来る。また、ハンドル操作は可能であるので、運転者に過度な不安を抱かせないようにすることが出来る。
【0007】
また、本発明は、好ましくは、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、ステアリング機構に付与するアシスト力を低下させるように電動モータを制御する。
このように構成された本発明においては、衝突の可能性があると推定されたとき、ステアリング機構に付与するアシスト力を低下させるように電動モータを制御するので、ステアリング機構に連結された前輪の舵角をそれ以上増大しにくくすることが出来る。
【0008】
また、本発明は、好ましくは、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、ステアリング機構に抵抗力を付与させるように電動モータを制御する。
このように構成された本発明においては、衝突の可能性があると推定されたとき、ステアリング機構に抵抗力を付与させるように電動モータを制御するので、ステアリング機構に連結された前輪の舵角をそれ以上増大しにくくすることが出来る。
【0009】
また、本発明は、好ましくは、さらに、ステアリング機構に連結された可変ギアレシオ装置を有し、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、可変ギアレシオ装置のギア比を小さくするように可変ギアレシオ装置を制御する。
このように構成された本発明においては、衝突の可能性があると推定されたとき、可変ギアレシオ装置のギア比を小さくするように可変ギアレシオ装置を制御するので、ステアリング機構に連結された前輪の舵角をそれ以上増大しにくくすることが出来る。
【0010】
また、本発明は、好ましくは、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があり且つ衝突直前であると推定されたとき、可変ギアレシオ装置のギア比をさらに小さくするように可変ギアレシオ装置を制御する。
このように構成された本発明においては衝突の可能性があり且つ衝突直前であると推定されたとき、可変ギアレシオ装置のギア比をさらに小さくするように可変ギアレシオ装置を制御するので、衝突直前で、より確実に、ステアリング機構に連結された前輪の舵角をそれ以上増大しにくくすることが出来る。
【0011】
また、本発明は、好ましくは、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があり且つ衝突直前であると推定されたとき、ステアリング機構の舵角を現状位置に保持するように電動モータを制動制御する。
このように構成された本発明においては、衝突の可能性があり且つ衝突直前であると推定されたとき、ステアリング機構の舵角を現状位置に保持するように電動モータを制動制御するので、衝突直前に、より確実に、ステアリング機構に連結された前輪の舵角をそれ以上大きくなりにくくすることが出来る。
【0012】
また、本発明は、好ましくは、制御手段は、衝突可能性推定手段により衝突の可能性があり且つ衝突すると推定されたとき、ステアリング機構の舵角を中立位置に強制的に戻すように電動モータを制御する。
このように構成された本発明においては、衝突の可能性があり且つ衝突すると推定されたとき、ステアリング機構の舵角を中立位置に強制的に戻すように電動モータを制御するので、ステアリング機構に連結された前輪が真っ直ぐ車両前方に向くようにすることが出来る。その結果、車両の衝撃エネルギを、前輪でより効率良く吸収させることが出来る。また、衝突すると推定されているので、運転者の意思に関係なく、強制的にステアリング機構の舵角を中立位置に戻すことにより、運転者の安全をより確実に確保することが出来る。
【0013】
また、本発明は、好ましくは、制御手段は、電動モータの制御及び/又は可変ギアレシオ装置の制御を、DSC制御が行われている場合に、DSC制御が行われていない場合よりも、衝突の可能性が低いときから開始する。
このように構成された本発明においては、制御手段は、電動モータの制御及び/又は可変ギアレシオ装置の制御を、DSC制御が行われている場合に、DSC制御が行われていない場合よりも、衝突の可能性が低いときから開始するので、車両の挙動が乱れており、運転者が車両を操作出来ていないものと考えられる状況下で、車両の衝撃エネルギをより確実に前輪で効率良く吸収させると共に運転者の安全をより確実に確保することが出来る。
【0014】
また、本発明は、好ましくは、制御手段は、電動モータの制御及び/又は可変ギアレシオ装置の制御を、アンダーステア回避制御が行われている場合に、アンダーステア回避制御が行われていない場合よりも、衝突の可能性が低いときから開始する。
このように構成された本発明においては、制御手段は、電動モータの制御及び/又は可変ギアレシオ装置の制御を、アンダーステア回避制御が行われている場合に、アンダーステア回避制御が行われていない場合よりも、衝突の可能性が低いときから開始するので、車両の挙動が乱れており、運転者が車両を操作出来ていないものと考えられる状況下で、車両の衝撃エネルギをより確実に前輪で効率良く吸収させると共に運転者の安全をより確実に確保することが出来る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、運転者の安全を妨げることなく、衝突時の衝突エネルギを前輪でより効率よく吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
先ず、図1により、本実施形態による電動パワーステアリング装置が適用された車両の概略構成を説明する。図1は、本発明の実施形態による電動パワーステアリング装置が適用された車両の概略構成を示す概略平面図である。
【0017】
図1に示すように、車両1は、ハンドル2を備え、このハンドル2には、ステアリングシャフト4の上端部が連結されている。このステアリングシャフト4の下端には、VGR装置(可変ギアレシオ装置)6が連結されている。このVGR装置6には、中間シャフト8の上端が連結され、この中間シャフト8の下端には、ステアリング機構10が設けられている。
このステアリング機構10は、ラック・ピニオン機構(図示せず)で構成され、このピニオンには、中間シャフト8の下端が連結されている。一方、ラックの両端部にはタイロッド12を介して前輪14が連結されている。また、ステアリング機構10には、ステアリング機構10のピニオン側に力を付与する電動モータ16が設けられている。
【0018】
ここで、VGR装置6は、ハンドル2の舵角に対するステアリング機構10の舵角(前輪14の舵角)の比を可変に制御することが出来るものであり、そのギア比Rは、R=θF/θH(θF:ステアリング機構の舵角(前輪舵角)、θH:ハンドル舵角)で表される。
また、中間シャフト8には、操舵角を検出する操舵角センサ18が取り付けられている。この操舵角センサ18は制御ユニット20に接続され、この制御ユニット20には、操舵角センサ18で検出された操舵角の出力値が入力される。さらに、この制御ユニット20には、車速センサ22で検出された車速の出力値が入力される。
また、車両1には、車両の前方の状態を検出するミリ波レーダ装置24が設けられている。このミリ波レーダ装置24は、制御ユニット20に接続され、この制御ユニット20には、ミリ波レーダ装置24で検出された車両前方の状態に関する出力値が入力される。
【0019】
この制御ユニット20は、電動モータ16及びVGR装置6に接続され、電動モータ16及びVGR装置6を制御するようになっている。
また、この制御ユニット20では、車速センサ22の出力値、操舵角センサ18の出力値、ミリ波レーダ装置24の出力値等を元に、衝突予知判定及び衝突可能性推定を行っている。具体的には、衝突予知判定では、車両の進行方向前方に進行の妨げになり得る他車やガードレールなどの障害物があるか否かを判定する。また、衝突可能性推定は、本実施形態では、以下の制御フロー(図2)で示すように、レベル1〜5の5段階で衝突の可能性を推定する。
【0020】
また、車両1には、車両挙動を安定化させる制御を行うDSC(車両挙動制御)ユニット26が設けられている。このDSCユニット26による制御には、アンダーステア制御及びオーバーステア制御が含まれる。このDSCユニット26は、制御ユニット20に接続され、この制御ユニット20には、DSCの作動状態に関する出力値が入力される。
【0021】
次に、図2により、制御ユニット20により実行される制御フローを説明する。図2は、本実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
この制御フローは、衝突可能性推定のレベルに応じて、電動モータ16及びVGR装置6を制御して、運転者により安全な状態で、車両の衝突エネルギを前輪14でより効率よく吸収させるようにするものである。
【0022】
この制御フローにおいては、先ず、S1において、各信号及び各センサ値を入力する。具体的には、車速センサ22から車速の値を入力し、操舵角センサ18から操舵角の値を入力し、ミリ波レーダ装置24から車両の前方の状態に関する出力値を入力し、DSCユニットからDSCユニットの作動状態に関する出力値を入力する。また、このS1では、これらの入力値を元に、衝突可能性を推定する。
次に、S2に進み、DSC制御が行われているか否かを判定する。ここで、DSC制御が行われていれば、車両の挙動が乱れており、運転者が車両を操作出来ていないものと考えられる。一方、DSC制御が行われていなければ、運転者が車両を意識的にコントロール出来ており、より安全な状況にある可能性がある。
【0023】
そこで、このS2において、DSC制御が行われていると判定されたときには、衝突推定レベルが低くても早めに電動モータ16の制御或いはVGR装置6の制御を行う第1の判定−制御モード(S2〜S8)に進み、DSC制御が行われていないと判定されたときには、複数の判定条件を見たし且つ第1の制御モードより高い衝突推定レベルで電動モータ16の制御或いはVGR装置6の制御を行う第2の判定−制御モード(S10〜S20)に進む。
【0024】
先ず、第1の判定−制御モードについて説明する。
S2においてDSC制御が行われていると判定されたときには、S3に進み、車両のアンダーステア回避制御が行われているか否かを判定する。車両がアンダーステアの状態となったときには、障害物に向かって進んでいく状況が多く、さらに、運転者がそれ以上ハンドルの切り増しを行うことが不適切な状況である。
【0025】
アンダーステア回避制御が行われていないと判定されたときには、車両が衝突するとしても、車体前部から衝突しにくいオーバーステアなどの状況であるので、いずれの制御も行わない。
アンダーステア回避制御が行われていると判定されたときには、S4に進み、衝突推定レベルが「1」以上であるか否かを判定する。このレベル「1」は、衝突の可能性はあるが、衝突を回避可能な状態である。
【0026】
衝突推定レベルが「1」以上であると判定されたときには、S5に進み、電動モータ16及びVGR装置6を制御する。具体的には、電動モータ16によりアシスト力を低下させるように制御し、さらに、VGR装置6のギア比を小さくするように制御する。ここで、ギア比R(=θF/θH)を小さくすると、ハンドルを切ってもステアリング機構10の舵角(前輪14の舵角)が増えにくくなる。
【0027】
このように、S5では、ハンドルを重くし、さらに、VGR装置6のギア比を小さくしているので、運転者がハンドルを切っても前輪14の舵角があまり大きく増加しないようにすることが出来る。
ここで、上述したように、前輪14が車両前方に向く中立位置に近い程、より効率的に衝突エネルギを吸収することが出来る。従って、このS5のように、運転者がハンドルを切っても前輪14の舵角があまり大きくならないようにすれば、より小さい前輪舵角に留めておくことが出来、それ以上ハンドルを切った場合よりも衝突エネルギをより有効に吸収させることが出来る。また、それ以上前輪舵角が大きくなりにくいので、タイヤのコーナリングフォースを抑制して制動力を確保することが出来る。さらに、アンダーステアの状態を解消するようにすることが出来る。さらに、運転者はハンドルを切ることは出来るので、大きな不安を感じさせないようにすることが出来る。
また、S5では、DSC制御が行われ且つアンダーステア状態であるので、低い衝突推定レベルから積極的に制御を開始している。一方、S5において、衝突推定レベルが「1」以上でないと判定されたときには、衝突の可能性が非常に低いので、いずれの制御も行わない。
【0028】
次に、S6に進み、衝突推定レベルが「3」以上であるか否かを判定する。このレベル「3」は、衝突直前であるが、未だ衝突回避の可能性がある状態である。
衝突推定レベルが「3」以上であると判定されたときには、S7に進み、電動モータ16及びVGR装置6を制御する。具体的には、電動モータ16を制動(ロック)する制御を行い、さらに、VGR装置6のギア比を、S5におけるギア比よりさらに小さくするように制御する。
このように、S7では、電動モータ16によりステアリング機構10に制動をかけてステアリング機構10に抵抗力(操舵に対する抵抗力)を付与し、さらに、VGR装置6のギア比をさらに小さくしているので、運転者がハンドルを切ろうとしても前輪舵角はそれ以上大きくなりにくく、衝突直前では、前輪14の舵角をその現状位置に保持するようにすることが出来る。従って、上述したように、それ以上ハンドルを切った場合よりも衝突エネルギをより有効に吸収させることが出来ると共にタイヤの制動力を確保することが出来る。なお、運転者は大きな力を入れればハンドルを切ることが出来る。
【0029】
ここで、S6において、衝突推定レベルが「3」以上でないと判定されたときには、S5による電動モータ16及びVGR装置6の制御が引き続き行われ、そのS5による制御開始後、衝突が回避された又は衝突の可能性が下がったと推定出来るような所定時間(例えば、1秒)経過したとき、S5による制御を中止する。
【0030】
次に、S8に進み、衝突推定レベルが「5」であるか否かを判定する。このレベル「5」は、ほぼ確実に衝突すると推定される衝突直前の状態である。
衝突推定レベルが「5」であると判定されたときには、S9に進み、電動モータ16を制御する。具体的には、ステアリング機構10の舵角(前輪14の舵角)θFが0となるように、即ち、前輪14が真っ直ぐ車両前方に向く中立位置に強制的に戻るように、電動モータ16を制御する。
このように、S9では、前輪14が中立位置に戻るようにしているので、車両の衝突時に車両前部構造に加わる衝撃エネルギを、前輪14でより効率良く吸収させることが出来る。また、車両がほぼ確実に衝突すると推定される状態であるので、運転者によるハンドル操作に反して前輪14を中立位置に強制的に戻るようにしても、運転者の安全をより確実に確保することが出来る。
ここで、衝突推定レベルが「5」でないと判定されたときには、S7による電動モータ16及びVGR装置6の制御が引き続き行われ、上述したように、所定時間経過後、S7による制御を中止する。
【0031】
次に、第2の判定−制御モードについて説明する。
S2においてDSC制御が行われていないと判定されたときには、S10に進み、衝突予知判定が行われる。この衝突予知判定は、上述したように、車両の進行方向前方に進行の妨げになり得る他車やガードレールなどの障害物があるか否かを判定するものである。つまり、この第2の判定−制御モードでは、DSC制御が行われていないので、先ず、衝突の可能性がない安全な状態であるか否かを判定するようにしている。
【0032】
S10において、車両の進行の妨げになる障害物がないと判定されたときには、S11に進み、制御をリセットする。具体的には、この制御フローにおいて、電動モータ16やVGR装置6の制御(例えば、S5)が行われている場合には、それらの制御を中止する。
車両の進行の妨げになる障害物があると判定されたときには、S12に進み、車速が所定値以上であるか否かを判定する。車速が所定値以上でなければ、衝突エネルギが小さいので、いずれの制御も行わない。
【0033】
車速が所定値以上であるときには、S13に進み、操舵角が所定値以上であるか否かを判定する。操舵角が所定値以上でなければ、S14に進み、操舵速度が所定値以上であるか否かを判定する。操舵速度が所定値以上でなければ、S15に進み、急制動が行われているか否かを判定する。
このS15において、急制動が行われていないと判定されたときには、いずれの制御も行わない。つまり、操舵角は小さく(S13)、急操舵も行われていないので操舵角が大きくなることがなく(S14)、運転者がパニックブレーキを踏んでいないと考えられる(S15)ので、車両の衝突を十分回避出来るか、或いは、車両が衝突したとしても、前輪14で衝突エネルギを効率的に吸収することが出来るので、いずれの制御も行わないようにしている。
【0034】
一方、S13において、操舵角が所定値以上であると判定されたとき、或いは、S14において、操舵速度が所定値以上であると判定されたとき、或いは、S15において、急制動を行っていると判定されたときには、それぞれ、S16に進む。つまり、操舵角が既に大きく(S13)、急操舵により操舵角が大きくなり(S14)、運転者がパニックブレーキを踏み急操舵を行う可能性がある(S15)ような状況であるので、これらの場合には、衝突推定レベル判断−制御の各ステップ(S16〜S20)に進むようにしている。
【0035】
S16では、衝突推定レベルが「2」以上であるか否かを判定する。このレベル「2」は、上述したレベル「1」より衝突の可能性が高いが、衝突を回避可能な状態であり、上述したレベル「3」より衝突の可能性が低いレベルである。このように、S16では、DSC制御が行われていない状況下、運転者が適切に操作を行っている場合があるので、レベル「1」より高いレベル「2」から判定をするようにしている。従って、例えば、レベル「1」であれば、いずれの制御も行わない。
【0036】
衝突推定レベルが「2」以上であると判定されたときには、S17に進み、電動モータ16及びVGR装置6を制御する。具体的には、S5と同様に、電動モータ16によりアシスト力を低下させるように制御し、さらに、VGR装置6のギア比を小さくするように制御する。
このように、このS17では、ハンドルを重くし、さらに、VGR装置6のギア比を小さくしているので、運転者がハンドルを切っても前輪14の舵角があまり大きく増加しないようにすることが出来、上述したように、それ以上ハンドルを切った場合よりも衝突エネルギをより有効に吸収させ、制動力を確保することが出来る。
【0037】
次に、S18に進み、衝突推定レベルが「4」以上であるか否かを判定する。このレベル「4」は、上述したレベル「3」より衝突の可能性が高い衝突直前の状態であるが、未だ衝突回避の可能性がある状態であり、上述したレベル「5」より衝突の可能性が低いレベルである。
衝突推定レベルが「4」以上であると判定されたときには、S19に進み、電動モータ16及びVGR装置6を制御する。具体的には、S7と同様に、電動モータ16を制動制御し、さらに、VGR装置6のギア比を、S17におけるギア比よりさらに小さくするように制御する。
【0038】
このように、このS19では、電動モータ16によりステアリング装置に制動をかけてステアリング機構10に抵抗力を付与し、さらに、VGR装置6のギア比をさらに小さくしているので、運転者がハンドルを切ろうとしても前輪14舵角はそれ以上大きくなりにくく、衝突直前では、前輪14の舵角をその現状位置に保持するようにすることが出来る。従って、上述したように、それ以上ハンドルを切った場合よりも衝突エネルギをより有効に吸収させることが出来ると共にタイヤの制動力を確保することが出来る。
ここで、S18において、衝突推定レベルが「4」以上でないと判定されたときには、S17による電動モータ16及びVGR装置6の制御が引き続き行われ、上述したように、所定時間経過後、S17による制御を中止する。
【0039】
次に、S20に進み、衝突推定レベルが「5」であるか否かを判定する。このレベル「5」は、S8と同様に、ほぼ確実に衝突すると推定される衝突直前の状態である。
衝突推定レベルが「5」であると判定されたときには、S9に進み、上述したように、前輪14が中立位置に強制的に戻るように電動モータ16を制御する。
このように、S9では、前輪14が中立位置の戻るようにしているので、車両の衝突時に車両前部構造に加わる衝撃エネルギを、前輪14でより効率良く吸収させることが出来る。また、運転者の安全をより確実に確保することが出来る。
ここで、衝突推定レベルが「5」でないと判定されたときには、S19による電動モータ16及びVGR装置6の制御が引き続き行われ、上述したように、所定時間経過後、S19による制御を中止する。
【0040】
なお、上述したS5、S7、S9、S17及びS19の電動モータ16及びVGR装置6の制御は、いずれかのステップのみ行っても良い。また、それらのS5、S7、S9、S17及びS19において、電動モータ20の制御のみ或いはVGR装置6の制御のみを行っても良い。
さらに、S7及びS19において、電動モータ16を制動(ロック)する制御を行ってステアリング機構10に抵抗力を付与しているが、その代わりに、電動モータ16により通常のアシスト力を付与する方向と逆の操舵方向に力が加わるようにして、ステアリング機構10に抵抗力を付与しても良い。この場合は、運転者の操舵力より小さい力を電動モータ16により付与して、運転者の操舵を大きく妨げないようにする。
【0041】
さらに、上述したS8及びS20において、衝突推定レベル「5」は、エアバッグの作動によりレベル「5」であると判定しても良く、この場合は、衝突直後であるが、車体前部構造がつぶれる直前に、S9による制御を行うことが出来る。
さらに、本実施形態において、車両の前方の状態の検出にミリ波レーダ装置24を用いたが、CCDセンサなどの画像処理を併用し、或いは、画像処理のみによって、車両の前方の状態を検出するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態による電動パワーステアリング装置が適用された車両の概略構成を示す概略平面図である。
【図2】本発明の本実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 車両
6 VGR装置(可変ギアレシオ装置)
10 ステアリング機構
14 前輪
16 電動モータ
20 制御ユニット
24 ミリ波レーダ装置
26 DSC(車両挙動制御)ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによりステアリング機構にアシスト力を付与する車両の電動パワーステアリング装置であって、
上記電動モータを制御する制御手段と、
上記車両の衝突の可能性を推定する衝突可能性推定手段と、を有し、
上記制御手段は、上記衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、衝突の可能性がないときより、運転者の操舵により上記ステアリング機構の舵角が増大しにくくなるように上記電動モータを制御することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、上記ステアリング機構に付与するアシスト力を低下させるように上記電動モータを制御する請求項1記載の車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
上記制御手段は、上記衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、上記ステアリング機構に抵抗力を付与させるように上記電動モータを制御する請求項1記載の車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
さらに、上記ステアリング機構に連結された可変ギアレシオ装置を有し、
上記制御手段は、上記衝突可能性推定手段により衝突の可能性があると推定されたとき、上記可変ギアレシオ装置のギア比を小さくするように上記可変ギアレシオ装置を制御する請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
上記制御手段は、上記衝突可能性推定手段により衝突の可能性があり且つ衝突直前であると推定されたとき、上記可変ギアレシオ装置のギア比をさらに小さくするように上記可変ギアレシオ装置を制御する請求項4記載の車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
上記制御手段は、上記衝突可能性推定手段により衝突の可能性があり且つ衝突直前であると推定されたとき、上記ステアリング機構の舵角を現状位置に保持するように上記電動モータを制動制御する請求項1乃至5記載の車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
上記制御手段は、上記衝突可能性推定手段により衝突の可能性があり且つ衝突すると推定されたとき、上記ステアリング機構の舵角を中立位置に強制的に戻すように上記電動モータを制御する請求項1乃至6記載の車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
上記制御手段は、上記電動モータの制御及び/又は上記可変ギアレシオ装置の制御を、DSC制御が行われている場合に、DSC制御が行われていない場合よりも、衝突の可能性が低いときから開始する請求項1乃至7のいずれか1項記載の車両の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
上記制御手段は、上記電動モータの制御及び/又は上記可変ギアレシオ装置の制御を、アンダーステア回避制御が行われている場合に、アンダーステア回避制御が行われていない場合よりも、衝突の可能性が低いときから開始する請求項1乃至8のいずれか1項記載の車両の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−44363(P2006−44363A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225576(P2004−225576)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】