説明

車両の駆動制御装置

【課題】車両の急制動により駆動輪の回転数が急減する場合に、内燃機関のストールを確実に防止することが可能な車両の駆動制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両1の駆動輪4に連結可能な出力軸を有する内燃機関10と、駆動輪4に連結可能な回転電機20と、回転電機20に設けられ、回転電機20の回転数を検出する検出手段23と、回転電機20が内燃機関10の出力軸に連結されている状態において、所定期間内における検出手段23により検出された回転電機20の回転数の変化量に基づいて車両1の急制動を判定する急制動判定手段31と、内燃機関10のストールを防止可能な下限回転数よりも内燃機関10の回転数を高回転に維持するために、急制動判定手段31の判定結果に基づいて回転電機20を駆動して回転電機20から内燃機関10へと駆動力を付与するように回転電機20の回転数を制御する回転数制御手段33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に急制動があった場合に、内燃機関のストールを防止する車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と駆動モータを動力源とするハイブリッド型の車両は、内燃機関および駆動モータから出力される駆動力を駆動輪に伝達させる駆動制御装置を備えている。この車両の駆動制御装置は、例えば、プラネタリギヤユニットを有し、内燃機関、駆動モータ、駆動輪、および発電機などを適宜連結または解放することで車両の駆動を制御している。また、車両の駆動制御装置は、車両の減速時において、駆動輪の回転力を駆動モータに伝達し、駆動モータにより発電させる車両の回生を制御している。
【0003】
ここで、車両の走行時において、運転者によるブレーキ操作など車両に急制動が加えられると車両は急減速し、この急減速に伴い駆動輪の回転数も低減する。この時、車両の駆動制御装置により内燃機関および駆動モータが駆動輪とそれぞれ連結されていると、内燃機関に過負荷が加わり、内燃機関のストールが生じるおそれがある。特に、内燃機関の回転数が低い、すなわち車両の低速走行時において、車両に急制動が加えられると内燃機関のストールが生じる可能性は高くなる。そこで、例えば、特開2004−316693号公報(特許文献1)には、車両の低速走行時において急制動があった場合に、内燃機関のストールを防止する駆動制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】2004−316693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、車両が多湿路面などの低ミュー路を走行している場合に、車両に急制動が加えられると駆動輪がロックまたはロックに近い状態になることがある。この時、駆動輪の回転数は、車両の急減速に伴う低減よりもさらに急激に低減することになる。このような場合に、特許文献1の駆動制御装置では制御が間に合わずに、内燃機関のストールが生じてしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、車両の急制動により駆動輪の回転数が急減する場合に、内燃機関のストールを確実に防止することが可能な車両の駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
車両の駆動輪に連結可能な出力軸を有する内燃機関と、
前記駆動輪に連結可能な回転電機と、
前記回転電機に設けられ、前記回転電機の回転数を検出する検出手段と、
前記回転電機が前記内燃機関の前記出力軸に連結されている状態において、所定期間内における前記検出手段により検出された前記回転電機の回転数の変化量に基づいて前記車両の急制動を判定する急制動判定手段と、
前記内燃機関のストールを防止可能な下限回転数よりも前記内燃機関の回転数を高回転に維持するために、前記急制動判定手段の判定結果に基づいて前記回転電機を駆動して前記回転電機から前記内燃機関へと駆動力を付与するように前記回転電機の回転数を制御する回転数制御手段と、
を備えることである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、
前記急制動判定手段は、前記検出手段により検出された前記回転電機の回転数の変化量、および前記車両のアンチロックブレーキ制御の制御信号に基づいて前記車両の急制動を判定することである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または2において、
前記回転数制御手段は、前記内燃機関に駆動力を付与するように前記回転電機の回転数を制御している状態において、前記内燃機関の回転数が前記下限回転数からアイドリング時の回転数近傍の所定回転数までの間の回転数となるように、前記回転電機の回転数に基づいて前記回転電機をフィードバック制御することである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、
前記内燃機関に駆動力を付与するように前記回転数制御手段が前記回転電機の回転数を制御している状態において、前記車両の車速、前記内燃機関の回転数、および前記車両のアンチロックブレーキ制御の制御信号のうち少なくとも一つに基づいて、前記回転数制御手段による前記回転電機の回転数の制御を解除するかを判定する解除判定手段をさらに備えることである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によると、急制動判定手段により車両の急制動の有無を判定し、急制動の場合には回転電機から内燃機関へと駆動力を付与する構成となっている。これにより、例えば、車両が低ミュー路を低速走行している場合に、車両に急制動を加えられ、駆動輪の回転数が急減しても内燃機関のストールを防止することができる。
【0012】
急制動判定手段は、回転電機が内燃機関の出力軸に連結されている状態において、車両の急制動を判定する。ここで、例えば、内燃機関と回転電機を動力源とするハイブリッド型の車両は、車両情報や走行状態などに応じて内燃機関と回転電機による出力を切り換える。つまり、内燃機関および回転電機を駆動源とする場合、何れか一方を駆動源とする場合、内燃機関を駆動源とし回転電機を発電機とする場合がある。そして、車両の急制動により駆動輪の回転数が急減し内燃機関に過負荷が加えられる状態は、少なくとも回転電機が内燃機関と連結されている状態にある。よって、回転電機は、車両の駆動輪に対して直接的に連結、または内燃機関の出力軸を介して間接的に連結されている状態にある。
【0013】
これにより、駆動制御装置は、回転電機の回転数を検出する検出手段によって回転電機の回転数を検出することにより、駆動輪の回転数を検出することができる。つまり、所定期間内に検出した回転電機の回転数から求められる回転電機の回転数の変化量に基づいて、駆動輪の回転数の変化量を検出することができる。従って、回転電機の回転数の変化量に基づいて車両の急制動を判定することができる。この「所定期間」は、検出手段が回転電機の回転数を複数回に亘りサンプリング可能な期間である。このような構成とすることで、車両の低速走行時における急制動に対して即時に対応することができるので、内燃機関のストールをより確実に防止することができる。
【0014】
また、回転電機の回転数を検出する検出手段は、一般に、例えばエンコーダやレゾルバなどのセンサを用いられる。このようなセンサは、駆動輪の回転数を直接検出するセンサと比較して分解能が高いため、高精度に回転電機の回転位置および回転数を検出することができる。これにより、駆動輪の回転数を検出した場合と比較して、より高精度に駆動輪の回転数の変化量を検出することができる。よって、急制動判定手段は、回転電機の回転数の変化量(すなわち、駆動輪の回転数の変化量)に基づいて、より高精度に車両の急制動を判定することができる。
【0015】
また、回転数制御手段は、急制動判定手段の判定結果に基づいて回転電機を駆動して内燃機関に駆動力を付与するように回転電機の回転数を制御する。これは、回転数制御手段によって内燃機関のストールを防止可能な下限回転数よりも内燃機関の回転数を高回転に維持するためである。ここで、内燃機関の「下限回転数」とは、内燃機関がストールすることなく駆動可能な回転数の下限値である。
【0016】
つまり、回転数制御手段は、車両の急制動があった場合、内燃機関の回転数がこの下限回転数を下回らないようにするために、内燃機関の出力軸に連結された回転電機の回転数を制御している。このように、回転数制御手段は、急制動判定手段により高精度に判定された車両の急制動に基づくため、回転電機の回転数を適正に制御できる。よって、車両に急制動が加えられ駆動輪がロックまたはロックに近い状態となり、駆動輪の回転数が急減した場合において内燃機関のストールを確実に防止することができる。
【0017】
請求項4に係る発明によると、急制動判定手段は、検出手段による回転電機の回転数の変化量に加えて、車両のアンチロックブレーキ(ABS)制御の制御信号に基づいて車両の急制動を判定する構成となっている。ABS制御は、車両の制動時に駆動輪のロックを防止するものであり、車両から出力される制御信号に基づいて実行される。よって、急制動判定手段は、回転電機の回転数の変化量、およびABS制御の制御信号に基づいて車両の急制動を判定することで、車両に急制動が加えられたことをより正確に判定することができる。従って、より確実に内燃機関のストールを防止することができる。
【0018】
請求項5に係る発明によると、回転数制御手段は、回転電機の回転数に基づいて回転電機をフィードバック制御する構成となっている。回転数制御手段により回転電機の回転数が制御されている状態において、車両は、例えば運転者によるブレーキ操作などの急制動を加えられている。そのため、内燃機関の回転数を上昇させ過ぎると制動距離に影響するおそれがある。そこで、回転電機をフィードバック制御することにより、内燃機関のアイドリング時の回転数近傍の所定回転数を超えないようにすることで、車両の制動距離に影響することなく内燃機関のストールを防止することができる。
【0019】
請求項5に係る発明によると、車両の駆動制御装置は、回転数制御手段の制御を解除するかを判定する解除判定手段をさらに備える構成となっている。これにより、車両の駆動制御装置は、回転電機の回転数制御を適正に解除することができるので、内燃機関や駆動輪へ負荷が加わることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】駆動制御装置を搭載したハイブリッド型の車両のブロック図である。
【図2】駆動制御を示すフローチャートである。
【図3】急制動判定を示すフローチャートである。
【図4】駆動制御の解除判定を示すフローチャートである。
【図5】急制動があった場合の駆動モータの回転数と時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の車両の駆動制御装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。また、本発明の駆動制御装置を搭載する車両は、内燃機関と駆動モータを動力源とするハイブリッド型の車両として説明する。
【0022】
<駆動制御装置の構成>
実施形態のハイブリッド型車両1の駆動制御装置2について、図1を参照して説明する。ハイブリッド型車両1は、エンジン10(本発明の「内燃機関」に相当する)と、駆動モータ20(本発明の「回転電機」に相当する)を動力源としている。そして、ハイブリッド型車両1は、各動力源の駆動力を制御する駆動制御装置2と、各種の車両情報を検出する複数のセンサ3と、駆動力により回転する駆動輪4とを備える。
【0023】
駆動制御装置2は、エンジン10と、駆動モータ20と、ECU30とを備える。エンジン10は、燃料を燃焼させることにより駆動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関である。このエンジン10による駆動力は、エンジン10の出力軸を介してプラネタリギヤユニット11に出力される。また、エンジン10は、後述するECU30のエンジン制御部32によりスロットルバルブの開度や燃料噴射量、点火時期などを制御される。
【0024】
プラネタリギヤユニット11は、機械的に駆動力を合成分配する機構であり、エンジン10および駆動モータ20を差動回転自在に連結する。そして、プラネタリギヤユニット11は、エンジン10および駆動モータ20より駆動力を入力され、変速機12を介して駆動輪4へと駆動力を出力する。変速機12は、ECU30のトランスミッション制御部34により運転者のシフトレバーの操作に基づいて制御され、駆動輪4とプラネタリギヤユニット11の出力軸の回転の変速を行う。
【0025】
駆動モータ20は、インバータ21を介して蓄電装置であるバッテリ22に接続されている。インバータ21は、ECU30のモータ制御部33(本発明の「回転数制御手段」に相当する)から制御信号を入力され、駆動モータ20の状態を適宜切り換えている。駆動モータ20の状態は、主に、バッテリ22から給電されて所定の回転数で回転駆動する駆動状態と、駆動輪4から伝達された回転力により発電しバッテリ22を充電する回生状態と、駆動モータ20の回転軸が自由に回転可能な無負荷状態とがある。また、駆動モータ20には、駆動モータ20の回転数を検出するモータ回転数センサ23(本発明の「検出手段」に相当する)が設けられている。モータ回転数センサ23は、本実施形態において、エンコーダやレゾルバなどの高い分解能を有するセンサを備え、駆動モータ20の回転数を2ms毎に検出し、ECU30に検出結果を信号出力している。
【0026】
ECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成される電子制御装置であり、各種センサにより車両における車速やシフトポジションなどの車両情報を入力される。また、ECU30は、ハイブリッド制御部31(本発明の「急制動判定手段」に相当する)と、エンジン制御部32と、モータ制御部33と、トランスミッション制御部34と、ABS制御部35とを有している。
【0027】
ハイブリッド制御部31は、各種センサ3から入力される車両情報や車両の走行状態に基づいて、エンジン10と駆動モータ20による出力を切り換えている。この出力の切り換えに応じて、エンジン10および駆動モータ20が駆動源となる場合、何れか一方が駆動源となる場合、エンジン10が駆動源となり駆動モータ20が発電機となる場合がある。ハイブリッド制御部31は、後述する各制御部32〜35を統合的に制御することにより、ハイブリッド型車両1における出力の切り換えなどのハイブリッド制御を行っている。また、ハイブリッド制御部31は、車両の走行中において、車両の急制動の有無を判定し、エンジン10のストールを防止するために、モータ制御部33へ回転数制御の開始または停止の制御信号を出力する。詳細は後述する。
【0028】
エンジン制御部32は、図示しないエンジン回転数センサにより検出されたエンジン回転数を信号入力される。そして、エンジン制御部32は、検出されたエンジン回転数と、運転者のアクセル操作などに基づく目標エンジン回転数とに応じて、例えば、図示しないスロットルバルブアクチュエータへ制御信号を出力する。これにより、エンジン10のスロットルバルブの開度を調整することで、エンジン10の回転数が制御される。
【0029】
モータ制御部33は、モータ回転数センサ23により検出された駆動モータ20の回転数を信号入力される。そして、モータ制御部33は、検出された駆動モータ20の回転数と、車両の走行状態やバッテリ22の容量などに基づく目標モータ回転数とに応じて、例えば、インバータ21へ制御信号を出力する。これにより、駆動モータ20に印加される電圧が調整され、駆動モータ20の回転数が制御される。また、モータ制御部33は、ハイブリッド型車両1の急制動により駆動輪4の回転数が急減する場合に、ハイブリッド制御部31から出力される回転数制御の制御信号を入力し、この制御信号に基づいてエンジン10のストールを防止するように駆動モータ20の回転数を制御する。
【0030】
この回転数制御は、後述するハイブリッド制御部31による急制動判定の判定結果に基づいて、モータ制御部33が駆動モータ20を駆動してエンジン10に駆動力を付与するように駆動モータ20の回転数を制御するものである。これにより、エンジン10は、車両に急制動が加えられた場合において、エンジン10のストールを防止可能な下限回転数よりも高回転に維持される。ここで、「下限回転数」とは、エンジン10がストールすることなく駆動可能な回転数の下限値であり、本実施形態では、実験的に600rpm程度の回転数が下限値として求められている。つまり、急制動時において、エンジン10の回転数がこの下限回転数を下回らないようにするために、エンジン10の出力軸に連結された駆動モータ20の回転数が制御される。
【0031】
さらに、モータ制御部33は、モータ回転数センサ23によって検出される駆動モータ20の回転数に基づいて駆動モータ20をフィードバック制御する。回転数制御の実行中に駆動モータ20の回転数が制御されている状態において、ハイブリッド車両1は、例えば運転者によるブレーキ操作などよって急制動を加えられている。そのため、制動距離に影響しないようにエンジン10の回転数の上昇を抑制させる必要がある。そこで、駆動モータ20をフィードバック制御することにより、エンジン10のアイドリング時の回転数近傍の所定回転数を超えないように回転数制御を実行している。回転数制御の実行または解除に係る詳細は後述する。
【0032】
トランスミッション制御部34は、車速、アクセル操作によるスロットルバルブの開度、シフトポジションなどに応じて、変速機12の変速段を切り換え制御するように、変速機12に制御信号を出力している。ABS制御部35は、ハイブリッド型車両1の制動時において、駆動輪4のロックを防止するアンチロックブレーキ(ABS)制御を実行する。このABS制御部35は、各種センサ3により検出された車速と、複数の駆動輪4のそれぞれの回転数とを入力される。そして、ABS制御部35は、運転者のブレーキ操作などにより車両に制動が加えられた場合などに、駆動輪4のロックを防止するようにブレーキの制動力を調整するように制御信号を出力してABS制御を実行する。
【0033】
<回転数制御について>
次に、ECU30のモータ制御部33による駆動モータ20の回転数制御について、図2〜図5を参照して説明する。上述したように、回転数制御は、エンジン10のストールを防止するために駆動モータ20の回転数を制御するものである。図2は、駆動制御を示すフローチャートである。図3は、急制動判定を示すフローチャートである。図4は、駆動制御の解除判定を示すフローチャートである。図5は、急制動があった場合の駆動モータの回転数と時間の関係を示すグラフである。
【0034】
まず、ECU30のハイブリッド制御部31は、各種センサ3から車両情報を取得する(ステップ1。以下、S1と略記する。他のステップも同様。)。S1において取得された車両情報は、シフトポジションや車速、エンジンの回転数などを含んでいる。次に、ECU30は、S1で取得したシフトポジションから、運転者がシフトレバーを駆動レンジとしているかを判定する(S2)。ここで、駆動レンジとは、車両が自動変速装置(AT)を有する場合には、例えば、D(Drive),4〜2,L(Low),R(Reverse)など、アクセル操作により車両が前進または後退するレンジをいう。よって、P(Parking),N(Neutral)など、動力源であるエンジン10および駆動モータ20が駆動輪と連結されないレンジは含まれない。
【0035】
そして、シフトポジションが駆動レンジの場合(S2:Yes)、ECU30はS1で取得した車速が予め設定された閾値よりも小さいかを判定する(S3)。一方、このシフトポジションが駆動レンジでない場合(S2:No)、ECU30は、回転数制御を不要と判断し、S12に移行する。S3において、予め設定された閾値とは、その閾値未満の車速で走行している場合に、低速走行とみなせる値である。この閾値は、車両に急制動が加えられ駆動輪4のロックが生じた場合に、エンジン10がストールするおそれがある速度の最大値に設定される。本実施形態において、閾値は、時速10〜20Km程度に設定される。そして、車速がこの閾値未満の場合(S3:Yes)、S4に移行する。一方、車速が閾値以上の場合(S3:No)、ECU30は、回転数制御を不要と判断し、S12に移行する。
【0036】
S4では、ハイブリッド制御部31はS1で取得したエンジン回転数と所定値を比較する。S4において、エンジン回転数と比較される所定値は、その所定値未満の回転数で回転するエンジン10に過負荷が加えられた場合に、エンジン10がストールするおそれがある回転数の最大値に設定される。ハイブリッド型車両1が、駆動輪4とエンジン10を連結した状態で走行している場合には、駆動輪4のロックによりエンジン10には過負荷が加えられる。これに対して、他のクラッチ制御などにより、駆動輪4とエンジン10を連結していない状態または、半クラッチの状態で走行している場合には、駆動輪4がロックしてもエンジン10には過負荷が加えられない。
【0037】
よって、ハイブリッド制御部31は、S3で車両が低速走行であるかを判定した上で、S4においてエンジン10の回転数が所定値未満の場合(S4:Yes)、エンジン10がストールするおそれがあるため、急制動判定(S5)を行う。一方、エンジン10の回転数が所定値以上の場合(S4:No)、駆動輪4とエンジン10が連結されていないなどの状態であるため、ECU30は、回転数制御を不要と判断し、S12に移行する。
【0038】
S5では、図3に示すように、ハイブリッド制御部31は、車両に急制動が加えられたかを判定する急制動判定を行う。また、本実施形態において、急制動は、所定期間内における駆動モータ20の回転数の変化量ΔRに基づいて判定される。ハイブリッド制御部31は、モータ回転数センサ23から信号入力される駆動モータ20の回転数をECU30内に記憶している。そして、ハイブリッド制御部31は、図5に示すように、現在の回転数Rrと、現在から所定期間ΔTだけ前に検出された回転数Rpとの差分から変化量ΔRを算出する(S51)。
【0039】
S51において算出された変化量ΔRは、駆動モータ20の回転数の変化量に相当する。また、所定期間ΔTは、図2に示される回転数制御に係る処理がハイブリッド制御部31より定期的に呼出される間隔に基づいて設定される期間である。本実施形態において、所定期間ΔTは、モータ回転数センサ23により検出された駆動モータ20の回転数を50回程度に亘りサンプリング可能な100msに設定されている。
【0040】
次に、ECU30は、この変化量ΔRと予め設定された閾値とを比較する(S52)。S52において、予め設定された閾値とは、その閾値より駆動モータ20の回転数の変化量ΔRが大きい場合に、駆動輪4の回転数が急激に低減したとみなせる値である。ここで、エンジン10と連結されている駆動モータ20は、駆動輪4に対して直接的に連結、またはエンジン10の出力軸を介して間接的に連結されている状態にある。つまり、モータ回転数センサ23によって駆動モータ20の回転数が検出されることにより、高精度に駆動輪4の回転数が検出されるとともに、その変化量ΔR(駆動モータ20の回転数の変化量)に基づいて車両の急制動が、ハイブリッド制御部31によって判定される。
【0041】
そして、駆動モータ20の回転数の変化量ΔRが閾値よりも大きい場合(S52:Yes)、車両に急制動が加えられ、ハイブリッド制御部31は、駆動輪4の回転数が急減したものと判断し、急制動信号を出力する(S53)。一方、駆動モータ20の回転数の変化量ΔRが閾値以下の場合(S52:No)、ECU30は、回転数制御を不要と判断し、急制動信号は出力されない。そして、S5における急制動判定を終了し、S6へ移行する。
【0042】
続いて、図2に示すように、S5の急制動判定において、ECU30は、急制動信号が出力されたかを判定する(S6)。急制動信号が出力されなかった場合(S6:No)、ECU30は、回転数制御を不要と判断し、S12に移行する。一方、急制動信号が出力された場合(S6:Yes)、ECU30は、制御フラグがONかOFFかを判定する(S7)。ここで、「制御フラグ」とは、ハイブリッド制御部31がモータ制御部33による回転制御が実行中であるかを監視するフラグである。この制御フラグをONにする時にハイブリッド制御部31から回転数制御の開始の制御信号が出力され、モータ制御部33は回転数制御を実行する。また、制御フラグをOFFにする時にハイブリッド制御部31から回転数制御の解除の制御信号が出力され、モータ制御部33は、回転数制御を解除する。よって、制御フラグがONの間は常に回転数制御が実行されている状態である。
【0043】
つまり、S7において、ECU30は、制御フラグのON/OFFを判定することにより、回転数制御が実行中であるかを判定している。制御フラグがOFFの場合(S7:No)、回転数制御が実行されていない状態であり、制御フラグをONにすることで回転数制御が開始される(S8)。そして、制御タイマーを起動させ(S9)、処理を終了する。この制御タイマーは、回転数制御の実行時間を計測するためのものである。
【0044】
一方で、制御フラグがONの場合(S7:Yes)、回転数制御が既に実行されている状態であり、ECU30は、回転数制御の解除判定を行う(S10)。S10では、図4に示すように、ECU30は、モータ制御部33により実行されている回転数制御を継続または解除するかを判定する。まず、ECU30は、回転数制御の実行時間であるタイマー値と閾値を比較する(S101)。S101における閾値は、回転数制御が想定される期間であり、この期間内に収まる実行時間であるかを判定することで、一連の制御における安全性の向上を図っている。よって、タイマー値が閾値以上の場合(S101:No)、回転数制御は解除するものと判断され、ECU30は、解除信号を出力し(S104)、処理を終了する。
【0045】
タイマー値が閾値未満の場合(S101:Yes)、ECU30は、車両情報を取得する(S102)。ここで取得される車両情報は、車速とエンジン回転数、およびABS制御部35による制御信号を含んでいる。そして、ECU30は、これらの車両情報に基づいて回転数制御の継続または解除を判定する(S103)。S103では、まず、ECU30は、車両が停車状態になっているかを判定する。例えば、車両に制動が加えられ、そのまま車速がゼロとなった場合には停車状態であるため、駆動輪4の回転数もゼロとなり、回転数制御は解除するものと判断される。
【0046】
次に、ECU30は、エンジン回転数が所定回転数より大きいかを判定する。S103における所定回転数は、エンジン10のアイドリング時における回転数近傍に予め設定されているものである。本実施形態において、所定回転数は、アイドリング時の回転数に100rpm程度加算した回転数に設定されている。例えば、エンジン回転数がこの所定回転数より大きい場合には車両は制動から加速状態などに移行したものと考えられ、回転数制御は解除するものと判断される。
【0047】
S103において、ECU30は、最後に、ABS制御が解除されたかを判定する。ABS制御の制御装置が搭載された車両において、車両に急制動が加えられると、ABS制御が車速と複数の駆動輪4のそれぞれの回転数などに基づき実行されることがある。つまり、このABS制御が解除された場合には、駆動輪4のロック状態を回避し、エンジン10のストールが生じる可能性が低いものと考えられ、回転数制御は解除するものと判断される。よって、ABS制御の制御装置を備える車両の場合は、ABS制御の制御信号を利用するものとしてもよい。このように、回転数制御は解除するものと判断された場合に、移行したS104において、ECU30は、解除信号を出力し処理を終了する。上述したように、S10は、車両情報に基づいてモータ制御部33による回転制御駆を解除するかを判定するものであり、「解除判定手段」に相当する。
【0048】
続いて、図2に示すように、S10の解除判定において、ECU30は、解除信号が出力されたかを判定する(S11)。解除信号が出力されなかった場合(S11:No)、ECU30は、回転数制御は継続して実行されるため、処理を終了する。一方、解除信号が出力された場合(S11:Yes)、制御フラグをOFFにする(S12)。これにより、モータ制御部33による回転数制御が解除される。そして、回転数制御の解除に伴い、制御タイマーを停止させ(S13)、リセットして処理を終了する。
【0049】
<効果>
上述したように、急制動判定手段としてのハイブリッド制御部31は、駆動モータ20がエンジン10の出力軸に連結されている状態において、車両の急制動を判定する。この時、駆動モータ20は、車両の駆動輪4に対して直接的に連結、またはエンジン10の出力軸を介して間接的に連結されている状態にある。そこで、駆動制御装置2は、検出手段であるモータ回転数センサ23によって駆動モータ20の回転数を検出することにより、駆動輪4の回転数を検出することができる。つまり、所定期間内に検出した駆動モータ20の回転数から求められる駆動モータ20の回転数の変化量に基づいて、駆動輪4の回転数の変化量を検出することができる。従って、駆動モータ20の回転数の変化量に基づいて車両の急制動を判定することができる。
【0050】
また、モータ回転数センサ23として、エンコーダやレゾルバなどのセンサを用いている。このようなモータ回転数センサ23は、駆動輪の回転数を直接検出するセンサと比較して分解能が高いため、高精度に駆動モータ20の回転位置および回転数を検出することができる。これにより、駆動輪の回転数を検出した場合にと比較して、より高精度に駆動輪4の回転数の変化量を検出することができる。よって、ハイブリッド制御部31は、駆動モータ20の回転数の変化量(すなわち、駆動輪4の回転数の変化量)に基づいて、より高精度に車両の急制動を判定することができる。さらに、本実施形態において、ハイブリッド制御部31は、所定期間ΔTにおける駆動モータ20の回転数の変化量ΔRに基づいて車両の急制動を判定する。これにより、車両の低速走行時における急制動を即時に、且つより高精度に検出できる。
【0051】
また、回転数制御手段であるモータ制御部33は、ハイブリッド制御部31の判定結果に基づいて駆動モータ20を駆動してエンジン10に駆動力を付与するように駆動モータ20の回転数を制御する。これにより、モータ制御部33は、車両の急制動があった場合、エンジン10の回転数が下限回転数を下回らないようにするために、エンジン10の出力軸に連結された駆動モータ20の回転数制御を実行する。このように、モータ制御部33は、ハイブリッド制御部31により高精度に判定された車両の急制動に基づくため、駆動モータ20の回転数を適正に制御できる。よって、車両に急制動が加えられ駆動輪4がロックまたはロックに近い状態となり、駆動輪4の回転数が急減した場合においてエンジン10のストールを確実に防止することができる。
【0052】
さらに、モータ制御部33は、駆動モータ20の回転数の変化量に基づいて駆動モータ20をフィードバック制御する構成となっている。これにより、モータ制御部33により駆動モータ20の回転数が制御されている状態において、エンジン10の回転数は、下限回転数よりも大きく、且つ、エンジン10のアイドリング時の回転数近傍の所定回転数の間に収まるように制御される。よって、車両の制動距離に影響することなくエンジン10のストールを防止することができる。また、ハイブリッド制御部31は、車両情報に基づきモータ制御部33による回転数制御を解除するかを判定する解除判定手段としても機能する。これにより、駆動制御装置2は、ハイブリッド制御部31により駆動モータ20の回転数制御を適正に解除することができるので、エンジン10や駆動輪4へ負荷が加わることを防止できる。
【0053】
<実施形態の変形態様>
本実施形態において、ハイブリッド制御部31は、駆動モータ20の回転数の変化量として、モータ回転数の変化量ΔRに基づいて急制動を判定するものとした。これに対して、駆動モータ20の回転数の変化量、およびABS制御の制御信号に基づいて急制動を判定してもよい。ABS制御は、車両の制動時に駆動輪4のロックを防止するものであり、車両から出力される制御信号に基づいて実行される。よって、ハイブリッド制御部31は、このABS制御の制御信号に基づいて車両の急制動を判定することで、車両に急制動が加えられたことをより正確に判定することができる。従って、より確実にエンジン10のストールを防止することができる。
【0054】
その他、本実施形態において、駆動モータ20は、ハイブリッド型車両1の駆動源であるものとして説明した。これに対して、駆動制御装置2の回転電機は、駆動輪4に連結可能なものであり、エンジン10の出力軸を介してエンジン10の回転を補助可能であればよい。例えば、駆動モータおよびジェネレータを備える2モータ式のハイブリッド型の車両の場合、エンジン10に連結され発電機として機能するジェネレータに給電し、急制動時においてエンジン10に駆動力を付与するものとしてもよい。このような構成としても同様の効果を得られる。
【符号の説明】
【0055】
1:ハイブリッド型車両、 2:駆動制御装置、 3:センサ、 4:駆動輪
10:エンジン(内燃機関)、 11:プラネタリギヤユニット、 12:変速機
20:駆動モータ(回転電機)、 21:インバータ、 22:バッテリ
23:モータ回転数センサ(検出手段)
30:ECU、 31:ハイブリッド制御部(急制動判定手段)
32:エンジン制御部、 33:モータ制御部(回転数制御手段)
34:トランスミッション制御部、 35:ABS制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に連結可能な出力軸を有する内燃機関と、
前記駆動輪に連結可能な回転電機と、
前記回転電機に設けられ、前記回転電機の回転数を検出する検出手段と、
前記回転電機が前記内燃機関の前記出力軸に連結されている状態において、所定期間内における前記検出手段により検出された前記回転電機の回転数の変化量に基づいて前記車両の急制動を判定する急制動判定手段と、
前記内燃機関のストールを防止可能な下限回転数よりも前記内燃機関の回転数を高回転に維持するために、前記急制動判定手段の判定結果に基づいて前記回転電機を駆動して前記回転電機から前記内燃機関へと駆動力を付与するように前記回転電機の回転数を制御する回転数制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記急制動判定手段は、前記検出手段により検出された前記回転電機の回転数の前記変化量、および前記車両のアンチロックブレーキ制御の制御信号に基づいて前記車両の急制動を判定することを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記回転数制御手段は、前記内燃機関に駆動力を付与するように前記回転電機の回転数を制御している状態において、前記内燃機関の回転数が前記下限回転数からアイドリング時の回転数近傍の所定回転数までの間の回転数となるように、前記回転電機の回転数に基づいて前記回転電機をフィードバック制御することを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記内燃機関に駆動力を付与するように前記回転数制御手段が前記回転電機の回転数を制御している状態において、前記車両の車速、前記内燃機関の回転数、および前記車両のアンチロックブレーキ制御の制御信号のうち少なくとも一つに基づいて、前記回転数制御手段による前記回転電機の回転数の制御を解除するかを判定する解除判定手段をさらに備えることを特徴とする車両の駆動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−162006(P2011−162006A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25466(P2010−25466)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】