説明

車両のDCT制御方法

【課題】DCTを搭載した車両が減速過程で、現在走行中の現在段に比べて低段の目標段への変速を行うとき、入力軸と出力軸の間の関連部品間で発生する衝撃及び騷音の発生を防止する車両のDCT制御方法を提供する。
【解決手段】車両の減速によって先行段(N+1)から現在段(N)及び後行段(N−1)に変速段が徐々に減少する一連の変速が行われるにあたり、先行段(N+1)で締結されていたクラッチを少なくとも後行段(N−1)の変速ギア締結時まで持続的にスリップ制御するスリップ制御段階(S10)を含んでなり、スリップ制御段階(S10)は、車両の減速度に応じてスリップ制御によってクラッチを介して伝達されるトルクの量を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のDCT(Double Clutch Transmission)制御方法に係り、より詳しくはDCTを搭載した車両において、車両のダウンシフト時の変速衝撃を防止する車両のDCT制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のDCTを搭載した車両が停止等で減速する時の、DCTのダウンシフト過程を図1に示した。
図1は、第1クラッチと第2クラッチにそれぞれ連結された第1入力軸及び第2入力軸を備えたDCT車両が減速の際、先行段(N+1)から現在段(N)を経って後行段(N−1)に変速がなされる状況を示すもので、現在段(N)では先行段(N+1)で締結されていた第1クラッチは解除され、第2クラッチが締結されトルクを伝達する状態であり、続いて後行段(N−1)では反対に第1クラッチが締結されトルクを伝達し、第2クラッチは解除された状態になる。
【0003】
現在段(N)から後行段(N−1)への変速は、まず後行段(N−1)の変速ギア締結のために同期装置の同期作用がなされて後行段(N−1)の変速ギアが締結された後、第1クラッチが締結されて後行段(N−1)の変速ギアを介して動力が伝達される一方で第2クラッチは解除される。
【0004】
後行段(N−1)の変速ギア締結のための同期作用の際に変速衝撃が発生する。これは、後行段(N−1)変速ギアの締結の際、第1入力軸の回転速度が出力軸の回転速度より遅い状態では、後行段(N−1)変速ギアの締結のための同期作用の際に入力軸と出力軸の間の動力伝達に係わる部品のバックラッシュが一方向に整列され、その後、同期完了の際または入力軸から出力軸に動力が伝達され始めるとき、その反対方向に部品のバックラッシュが逆整列されることによって変速衝撃及び騷音が発生するからである。
すなわち、後行段(N−1)の変速ギア締結のための同期作用の際、第1クラッチに連結された第1入力軸の回転速度が出力軸の回転速度より遅い状態で、スリーブの移動によって同期が始まるとき、出力軸から第1入力軸を駆動する方向のトルクが作用し、出力軸から第1入力軸に至る動力伝達経路上の関連部品、例えば、ハブ、スリーブ、変速ギアなどのバックラッシュが一方向に整列されることになる。
【0005】
ついで、スリーブの移動がさらに進行すると、スリーブがシンクロナイザーリングを越え、キーを越えると、シンクロナイザーリングを押していた加圧力が解除されることによって同期状態が崩壊される瞬間が発生する。同期状態が崩壊されると、第1入力軸は回転による摩擦抵抗を無視すればそのまま自由回転する状態になって同期した当時の回転速度を維持する。一方、出力軸は減速した車両に従って、その速度が低下する。その結果、スリーブがさらに移動してクラッチギアに噛み合おうとする瞬間には、相対的に第1入力軸の速度が出力軸の速度より速い状態になる。
【0006】
上記の状態でそのままスリーブが進行してクラッチギアと結合されれば、今度は相対的に速い速度の第1入力軸から出力軸を回転させる方向のトルクが作用することになり、同期作用開始時に一方向に整列された部品のバックラッシュが今度はその反対方向に再び整列される現象が発生する。この現象は、第1入力軸と出力軸の間の関連部品が速い速度で回転しながらぶつかって衝撃と騷音を発生させることを意味する。
上記の過程によって発生する変速衝撃及び騷音は、使用者に不快感を与え、車両の商品価値を低下させる原因となる(例えば、特許文献1参照)。
図1のA部は、現在段(N)から後行段(N−1)への変速の際、第1入力軸で発生する衝撃及び騷音を示し、B部は、後行段(N−1)から後続の変速段への変速の際、第2入力軸で発生する衝撃と騷音を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−196164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、DCTを搭載した車両が減速過程で、現在走行中の現在段に比べて低段の目標段への変速を行うとき、入力軸と出力軸の間の関連部品間で発生する衝撃及び騷音の発生を防止する車両のDCT制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するためになされた本発明の車両のDCT制御方法は、車両の減速によって先行段(N+1)から現在段(N)及び後行段(N−1)に変速段が徐々に減少する一連の変速が行われるにあたり、先行段(N+1)で締結されていたクラッチを少なくとも後行段(N−1)の変速ギア締結時まで持続的にスリップ制御するスリップ制御段階(S10)を含んでなることを特徴とする。
スリップ制御段階(S10)は、車両の減速度に応じてスリップ制御によってクラッチを介して伝達されるトルクの量を制御し、トルクの量を増加させることが好ましい。
スリップ制御段階(S10)は、先行段(N+1)から後行段(N−1)に至るまでの現在段(N)において持続的に行われることが好ましい。
【0010】
また、上記のような目的を達成するためになされた本発明の車両のDCT制御方法は、車両の減速によって先行段(N+1)から現在段(N)及び後行段(N−1)に変速段が徐々に減少する一連の変速が行われるとき、先行段(N+1)で締結されていたクラッチを現在段(N)において完全には解除せずにスリップ制御して、クラッチによる微小トルクによってクラッチに連結された該当入力軸の速度を出力軸の速度以上に維持した状況で、後行段(N−1)の変速を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両のDCT制御方法は、DCTを搭載した車両が減速過程で、現在走行中の現在段に比べて低段の目標段への変速を行うとき、入力軸と出力軸の間の関連部品間で発生するバックラッシュなどによる衝撃及び騷音の発生を防止することができるため、車両の静かさと乗り心地を向上させ、車両の商品価値を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来技術によるDCT制御方法を説明するグラフである。
【図2】本発明によるDCT制御方法を説明するフローチャートである。
【図3】本発明によるDCT制御方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2及び図3に本発明による車両のDCT制御方法を説明するフローチャート及びグラフを示した。本発明の車両のDCT制御方法は、車両の減速によって先行段(N+1)から現在段(N)及び後行段(N−1)に変速段が徐々に減少する一連の変速が行われるにあたり、先行段(N+1)で締結されていたクラッチを少なくとも後行段(N−1)の変速ギア締結時まで持続的にスリップ制御するスリップ制御段階(S10)を含んでなることを特徴とする。
すなわち、本発明は先行段(N+1)で締結されていたクラッチ(第1クラッチ)を現在段(N)から完全には解除せずにスリップ制御して、クラッチによる微小トルクによってクラッチに連結された該当入力軸の速度を出力軸の速度以上になるように維持した状況で、後行段(N−1)の変速を実施することで、従来のバックラッシュ整列状態の逆転によって発生した変速衝撃及び騷音を防止したものである。
【0014】
スリップ制御段階(S10)では、車両の減速度に応じたスリップ制御によってクラッチを介して伝達されるトルクの量を制御する。例えば、車両の減速度が大きくなるほどスリップ制御によってクラッチを介して伝達されるトルクの量を増加させるかあるいは減少させることで、バックラッシュ整列状態の変動を最小化し、ダンピング効果を高く誘導することができる。
本実施例のスリップ制御段階(S10)は、図3に示したとおり、先行段(N+1)で締結されていたクラッチ(第1クラッチ)を後行段(N−1)の変速ギア締結以後までスリップ制御して、後行段(N−1)に至る現在段(N)を持続的に実行する。
【0015】
上記のとおり、現在段(N)において、先行段(N+1)で締結されていて後行段(N−1)で締結されて動力を伝達するクラッチ(第1クラッチ)をスリップ状態に制御すれば、クラッチに連結された入力軸(第1入力軸)の回転速度は減速中の出力軸の回転速度に比べて少なくとも同等以上の速度を持つようになる。後行段(N−1)への変速の際に後行段(N−1)の変速ギアが締結のための同期作用を開始するまでの間、入力軸に出力軸を駆動する方向のトルクが作用し、ついで同期崩壊区間を通ってスリーブが後行段(N−1)の変速ギアと噛み合う時にも、徐々に減速している出力軸に比べて入力軸の速度が高くなる。この時、入力軸が出力軸を駆動する方向にトルクが作用するので、入力軸と出力軸の間の動力伝達に係る関連部品のバックラッシュ整列状態は変速中に転換することがなく安定した状態を維持することができ、変速衝撃や騷音は発生しない。
もちろん、上記の変速作用は後行段(N−1)からさらに低い後続の変速段への変速の際にも同様に作用する。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、DCTを搭載した車両の減速による衝撃発生防止方法であって、DCTを搭載した車両に適用が可能である。
【符号の説明】
【0017】
N+1 先行段
N 現在段
N−1 後行段
S10 スリップ制御段階


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の減速によって先行段(N+1)から現在段(N)及び後行段(N−1)に変速段が徐々に減少する一連の変速が行われるにあたり、
前記先行段(N+1)で締結されていたクラッチを少なくとも前記後行段(N−1)の変速ギア締結時まで持続的にスリップ制御するスリップ制御段階(S10)を含んでなることを特徴とする車両のDCT制御方法。
【請求項2】
前記スリップ制御段階(S10)は、車両の減速度に応じて前記スリップ制御によって前記クラッチを介して伝達されるトルクの量を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両のDCT制御方法。
【請求項3】
前記スリップ制御段階(S10)は、車両の減速度が大きくなるほど前記スリップ制御によって前記クラッチを介して伝達される前記トルクの量を増加させることを特徴とする請求項2に記載の車両のDCT制御方法。
【請求項4】
前記スリップ制御段階(S10)は、前記先行段(N+1)から前記後行段(N−1)に至るまでの前記現在段(N)において持続的に行われることを特徴とする請求項1に記載の車両のDCT制御方法。
【請求項5】
車両の減速によって先行段(N+1)から現在段(N)及び後行段(N−1)に変速段が徐々に減少する一連の変速が行われるとき、
前記先行段(N+1)で締結されていたクラッチを、前記現在段(N)において完全には解除せずにスリップ制御して、前記クラッチによる微小トルクによって前記クラッチに連結された該当入力軸の速度を出力軸の速度以上に維持した状況で、前記後行段(N−1)の変速を実施することを特徴とする車両のDCT制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255539(P2012−255539A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207185(P2011−207185)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【Fターム(参考)】