説明

車両制御システム

【課題】車両の走行中に適正に内燃機関を始動することができる車両制御システムを提供することを目的とする。
【解決手段】車両制御システム1は、内燃機関4と、係合装置10と、車両2の走行中に内燃機関4を非作動状態にした際に、内燃機関4の機関回転速度が予め設定される機関停止回転速度以上である場合に、係合装置10を第1係合力以上の係合力で係合した状態に制御する係合制御を実行し、内燃機関4の機関回転速度が機関停止回転速度未満である場合に係合装置10を第1係合力より小さい第2係合力以下の係合力で係合が解除された状態に制御する解放制御を実行する制御装置8とを備えることを特徴とするので、車両2の走行中に適正に内燃機関4を始動することができる、という効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両制御システムとして、例えば、特許文献1には、車両の減速走行状態に応じて燃料カットを行うと共に、燃料カットからの復帰時に触媒の過酸素状態を解消するために必要量の燃料を噴射するエンジンの自動停止始動装置が開示されている。そして、このエンジンの自動停止始動装置は、減速燃料カット後にアイドルストップ可能と判定された場合に、燃料カットからの復帰燃料噴射の終了と同時に、車輪とエンジンとの間でのトルク伝達を遮断することで、アイドルストップ後にエンジン再始動した際の排気の悪化を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−075228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載のエンジンの自動停止始動装置は、例えば、車両の走行中に、より適正に内燃機関を始動するために、更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車両の走行中に適正に内燃機関を始動することができる車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両制御システムは、車両の走行中に、当該車両の駆動輪に作用させる動力を発生する作動状態と前記動力の発生を停止する非作動状態とを切り替え可能な内燃機関と、前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを動力伝達可能に係合した状態と前記係合を解除した状態とに切り替え可能であると共に、前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを係合する係合力を調節可能である係合装置と、前記車両の走行中に前記内燃機関を非作動状態にした際に、前記内燃機関の機関回転速度が予め設定される機関停止回転速度以上である場合に、前記係合装置を第1係合力以上の係合力で前記係合した状態に制御する係合制御を実行し、前記内燃機関の機関回転速度が前記機関停止回転速度未満である場合に前記係合装置を前記第1係合力より小さい第2係合力以下の係合力で前記係合が解除された状態に制御する解放制御を実行する制御装置とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記車両の走行中に前記内燃機関を非作動状態にした後に当該内燃機関を始動する際に、前記内燃機関の機関回転速度が前記機関停止回転速度以上である場合に、前記係合制御を実行した後に前記内燃機関への燃料の供給により当該内燃機関を再始動し、前記内燃機関の機関回転速度が前記機関停止回転速度未満である場合に、前記解除制御を実行した後に電動機によるクランキング及び前記内燃機関への燃料の供給により当該内燃機関を再始動するものとすることができる。
【0008】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記係合制御の際に前記係合力を調節する係合力調節制御を実行し、前記内燃機関の機関回転速度を前記機関停止回転速度に応じた目標回転速度とするものとすることができる。
【0009】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記係合力調節制御の際に、前記車両の車速が相対的に高い場合に前記係合力を相対的に小さくし、前記車両の車速が相対的に低い場合に前記係合力を相対的に大きくするものとすることができる。
【0010】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記内燃機関の回転抵抗を利用した機関ブレーキを相対的に増大する機関ブレーキ増大制御の実行中に前記係合力調節制御を禁止するものとすることができる。
【0011】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記内燃機関の回転抵抗を利用した機関ブレーキ以外の要因による前記車両の減速度が相対的に大きい場合に、前記係合力調節制御を禁止し前記係合力を相対的に大きくして保持するものとすることができる。
【0012】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記内燃機関に供給される油の温度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更するものとすることができる。
【0013】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記内燃機関を冷却する冷却媒体の温度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更するものとすることができる。
【0014】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記内燃機関の吸入空気密度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更するものとすることができる。
【0015】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記内燃機関の燃焼室に供給される燃料の燃料性状に基づいて、前記機関停止回転速度を変更するものとすることができる。
【0016】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記係合装置を含む動力伝達装置に供給される油の温度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更するものとすることができる。
【0017】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記内燃機関の機関回転速度の変化速度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更するものとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両制御システムは、車両の走行中に適正に内燃機関を始動することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施形態1に係る車両制御システムの概略構成図である。
【図2】図2は、係合制御の一例を説明するタイムチャートである。
【図3】図3は、解放制御の一例を説明するタイムチャートである。
【図4】図4は、ECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態2に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。
【図6】図6は、エンジントルクマップの一例を示す線図である。
【図7】図7は、クラッチ油圧マップの一例を示す線図である。
【図8】図8は、変形例に係るクラッチ油圧マップの一例を示す線図である。
【図9】図9は、実施形態3に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0021】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る車両制御システムの概略構成図、図2は、係合制御の一例を説明するタイムチャート、図3は、解放制御の一例を説明するタイムチャート、図4は、ECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。
【0022】
本実施形態の車両制御システム1は、図1に示すように、車両2に適用され、駆動輪3を駆動するための動力を発生させる内燃機関としてのエンジン4と、エンジン4が発生した動力を駆動輪3に伝達する動力伝達系をなす動力伝達装置5と、車両2の制動装置としてのブレーキ装置6と、車両2の状態を検出する状態検出装置7と、車両制御システム1を含む車両2の各部を制御する制御装置としてのECU8とを備える。
【0023】
エンジン4は、車両2を走行させる走行用駆動源(原動機)である。エンジン4は、燃料の燃焼に伴って車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生させる。エンジン4は、車両2の走行中に、作動状態と非作動状態とを切り替え可能である。ここで、エンジン4の作動状態(エンジン4を作動させた状態)とは、車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生する状態であり、燃焼室で燃料を燃焼して生じる熱エネルギをトルクなどの機械的エネルギの形で出力する状態である。一方、エンジン4の非作動状態、すなわち、エンジン4の作動を停止させた状態とは、動力の発生を停止する状態であり、燃焼室への燃料の供給を停止し(フューエルカット)、燃焼室で燃料を燃焼させずトルクなどの機械的エネルギを出力しない状態である。
【0024】
動力伝達装置5は、ロックアップクラッチ付きの流体伝達装置であるトルクコンバータ9、係合装置としての入力クラッチ10を含んで構成される変速機11、変速機11に連結されるデファレンシャルギヤ12、デファレンシャルギヤ12と駆動輪3とを連結するドライブシャフト13等を含んで構成される。
【0025】
入力クラッチ10は、種々のクラッチを用いることができ、エンジン4側の回転部材10aと駆動輪3側の回転部材10bとを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態とに切り替え可能である。入力クラッチ10は、解放状態となることでエンジン4と駆動輪3とを切り離しエンジン4と駆動輪3との間での動力伝達を遮断可能である。ここでは、エンジン4側の回転部材10aは、トルクコンバータ9の出力軸に相当し、駆動輪3側の回転部材10bは、変速機11の本体部(実際に変速を行う変速機構)の入力軸に相当する。つまり、動力伝達装置5は、トルクコンバータ9の出力軸と変速機11の本体部の入力軸とが入力クラッチ10を介して接続される。
【0026】
また、入力クラッチ10は、エンジン4側の回転部材10aと駆動輪3側の回転部材10bとを係合する係合力を調節可能である。入力クラッチ10は、係合力が0である場合に係合が完全に解除された完全解放状態となり、係合力が大きくなるにしたがって半係合状態(スリップ状態)を経て完全係合状態となる。なお、変速機11は、例えば、手動変速機(MT)、有段自動変速機(AT)、無段自動変速機(CVT)、マルチモードマニュアルトランスミッション(MMT)、シーケンシャルマニュアルトランスミッション(SMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)など種々の構成のものを用いることができる。
【0027】
エンジン4が発生した動力は、トルクコンバータ9を介して変速機11の入力クラッチ10に入力され、変速機11にて所定の変速比で変速されて、デファレンシャルギヤ12及びドライブシャフト13を介して駆動輪3に伝達される。この結果、車両2は、駆動輪3の路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。
【0028】
ブレーキ装置6は、駆動輪3を含む車輪に制動力を作用させる。この結果、車両2は、駆動輪3の路面との接地面に制動力[N]が生じ、これにより制動することができる。
【0029】
状態検出装置7は、ECU8と電気的に接続されており、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができる。状態検出装置7は、例えば、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ70、運転者によるアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ71、運転者によるブレーキペダルの操作量、例えば、マスタシリンダ圧等を検出しブレーキ力を検出するブレーキセンサ72、変速機11の入力軸回転数を検出する入力軸回転数センサ73、変速機11の出力軸回転数を検出する出力軸回転数センサ74、エンジン4に供給されこのエンジン4で用いられるエンジン油の温度を検出するエンジン油温センサ75、エンジン4を冷却する冷却媒体としてのエンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ76、吸入空気量、吸入空気温度、吸入空気密度等、後述する吸気通路17を流れる吸入空気に関する情報を検出する吸気センサ77、エンジン4の燃焼室に供給される燃料の燃料性状を検出す燃料性状センサ78、動力伝達装置5等に供給されこの動力伝達装置5等で用いられる作動油の温度を検出するTM油温センサ79等の車両2の各部に設けられた種々のセンサ、検出装置等を含む。
【0030】
ECU8は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU8は、エンジン4、変速機11等を含む動力伝達装置5、ブレーキ装置6等を制御する。ここでは、変速機11等を含む動力伝達装置5、ブレーキ装置6は、媒体としての作動油の圧力(油圧)によって作動する油圧式の装置であり、ECU8は、それぞれTM油圧制御装置14、ブレーキ油圧制御装置15等を介してこれら変速機11、ブレーキ装置6の動作を制御し、例えば、変速機11の変速動作や入力クラッチ10の係合・解放動作等を制御する。ECU8は、種々のセンサから検出した検出結果に対応した電気信号が入力され、入力された検出結果に応じてこれら各部に駆動信号を出力しこれらの駆動を制御する。
【0031】
例えば、ECU8は、通常の運転時においては、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン4のスロットル装置16を制御し、吸気通路17のスロットル開度を調節し、吸入空気量を調節して、その変化に対応して燃料噴射量を制御し、燃焼室に充填される混合気の量を調節してエンジン4の出力を制御する。また、ECU8は、アクセル開度、車速等に基づいてTM油圧制御装置14を制御し、入力クラッチ10の作動状態や変速機11の変速比を制御する。
【0032】
そして、ECU8は、車両2の走行中において、エンジン4を始動し、又は作動を停止して、エンジン4の作動状態と非作動状態とを切り替えることが可能となっている。この車両制御システム1は、典型的には、車両2の走行中に、所定の条件下、例えば、アクセルオフのコースト走行による車両2の減速時やエンジン回転数が所定回転数以上である場合等に、ECU8がエンジン4の燃焼室への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行し、エンジン4の作動を停止した状態とし、この車両2を惰性走行(コーストダウン)させる状態、いわゆるエコラン状態とする制御に移行可能であり、これにより、燃費の向上を図ることが可能となる。ECU8は、所定の条件下、例えば、アクセルオンされた場合等に、エンジン4を再始動することで、再び車両2をエンジン4が発生する動力によって走行する通常走行に復帰させることができる。
【0033】
ところで、本実施形態の車両制御システム1は、ECU8によって、車両2の走行中にエンジン4を非作動状態にしたエコラン状態の際に、エンジン4のエンジン回転数(機関回転速度)が予め設定されるエンスト回転数(機関停止回転速度)以上である場合に入力クラッチ10を制御して係合制御を実行し、エンジン回転数がエンスト回転数未満である場合に入力クラッチ10を制御して解放制御を実行することで、車両2の走行中に適正にエンジン4を始動することができるようにしている。
【0034】
ここで、エンスト回転数とは、電動機等によるクランキングを行わずに、エンジン4の燃焼室への燃料噴射でこのエンジン4を再始動できるか否かを判定するためにエンジン回転数に対して設定される閾値であり、典型的には、作動状態にあるエンジン4がエンジンストールする回転数に相当する。言い換えれば、エンスト回転数は、燃焼室への燃料噴射によりエンジン4が自律回転可能な最低エンジン回転数に相当する。エンスト回転数は、例えば、実車評価等により予め設定されECU8の記憶部に記憶される。
【0035】
ECU8は、エコラン状態の際に、例えば、エンジン回転数センサ70が検出するエンジン回転数がこのエンスト回転数以上である場合に、係合制御として、入力クラッチ10を予め設定される第1係合力以上の係合力で係合した状態に制御する。一方、ECU8は、エコラン状態の際に、例えば、エンジン回転数センサ70が検出するエンジン回転数エンスト回転数未満である場合に、解放制御として、入力クラッチ10を第1係合力より小さい第2係合力以下の係合力で係合が解除された状態に制御する。ECU8は、係合制御、解放制御では、TM油圧制御装置14を制御して入力クラッチ10に供給される作動油の油圧(クラッチ油圧)を調節し係合力を調節して入力クラッチ10の作動状態を調節する。
【0036】
そして、ECU8は、エコラン状態とした後にエンジン4を始動する際には、エンジン回転数がエンスト回転数以上である場合に、上記係合制御を実行した後にエンジン4への燃料の供給によりこのエンジン4を再始動する。一方、ECU8は、エコラン状態とした後にエンジン4を始動する際に、エンジン回転数がエンスト回転数未満である場合に、上記解放制御を実行した後に電動機としてのスタータ18(あるいはモータジェネレータ)によるクランキング及びエンジン4への燃料の供給によりこのエンジン4を再始動する。
【0037】
言い換えれば、ECU8は、エコラン状態の際に現在のエンジン回転数に基づいてエンジン4の再始動時の再始動方法を判定し、これに応じて入力クラッチ10の作動状態を変更する。そして、ECU8は、エンジン回転数が、エンジン再始動の際にスタータ18によるクランキングが不要であり燃焼室への燃料噴射復帰で再始動可能な回転数である場合には係合制御を実行し入力クラッチ10を所定以上の係合状態とする。一方、ECU8は、エンジン回転数が、エンジン再始動の際にスタータ18によるクランキングが必要な回転数である場合には解放制御を実行し入力クラッチ10を所定以下の解放状態とする。
【0038】
ここで、係合制御における第1係合力は、入力クラッチ10において所定のトルク容量が確保される大きさ、すなわち、エンジンストールを回避可能な大きさの動力を駆動輪3側からエンジン4側に伝達可能な大きさであればよい。ECU8は、係合制御ではこの第1係合力以上の大きさの係合力で入力クラッチ10を係合した状態に制御すればよい。この場合の係合力は、第1係合力以上の大きさであれば、例えば、入力クラッチ10が完全係合状態となる大きさであってもよいし、回転部材10aと回転部材10bとがスリップ状態(半係合状態)となる大きさであってもよい。
【0039】
また、解除制御における第2係合力は、少なくとも第1係合力より小さく設定され、例えば、スタータ18によるクランキング時のショックの発生防止やスタータ18における負荷低減が確保される大きさであればよい。ECU8は、解除制御ではこの第2係合力以下の大きさの係合力で入力クラッチ10の係合が解除された状態に制御すればよい。この場合の係合力は、第2係合力以下の大きさであれば、例えば、入力クラッチ10が完全解放状態となる大きさ、すなわち、0であってもよいし、回転部材10aと回転部材10bとがスリップ状態(半係合状態)となる大きさであってもよい。
【0040】
図2、図3は、横軸を時間軸とし、縦軸をスタータ駆動フラグ、燃料噴射フラグ、エコラン実行フラグ、アクセル開度、エンジン回転数、クラッチ油圧としている。ここで、クラッチ油圧とは、入力クラッチ10において回転部材10aと回転部材10bとを係合させるための油圧であり、入力クラッチ10において回転部材10aと回転部材10bとを係合させる係合力は、このクラッチ油圧に応じた大きさとなる。
【0041】
例えば、ECU8は、図2に示すように、アクセル開度センサ71によってアクセルオフ、すなわち、アクセル開度が所定開度より小さくなったことが検出されると、エコラン実行フラグをon、燃料噴射フラグをoffとしエンジン4の燃焼室への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行し車両2をエコラン状態とする。その後、エンジン4は、作動が停止した状態となることで、これに伴ってエンジン回転数が低下する。このとき、ECU8は、この図2では、エンジン回転数がエンスト回転数nesten以上で推移しているため、係合制御として、TM油圧制御装置14を制御し、クラッチ油圧を第1油圧P1とし、入力クラッチ10の係合力を上記第1係合力以上の大きさで維持し、入力クラッチ10を所定以上のトルク容量が確保される係合状態とする。そして、ECU8は、時刻t1にてアクセル開度センサ71によってアクセルオンが検出されると、スタータ駆動フラグをoffで維持したままで、燃料噴射フラグをonとし、スタータ18によるクランキングを行わずに、エンジン4への燃料の供給を開始し、これによりエンジン4を再始動する。
【0042】
一方、ECU8は、図3に示すように、時刻t2にてエンジン回転数がエンスト回転数nesten未満となると、解放制御として、TM油圧制御装置14を制御し、クラッチ油圧を上記第1油圧P1より小さい第2油圧P2まで低下させ、入力クラッチ10の係合力を上記第2係合力以下の大きさまで小さくし、入力クラッチ10が所定以下のトルク容量となる解放状態とする。そして、ECU8は、時刻t3にてアクセル開度センサ71によってアクセルオンが検出されると、スタータ駆動フラグをon、燃料噴射フラグをonとし、スタータ18によるクランキングを行って、エンジン4への燃料の供給を開始し、これによりエンジン4を再始動する。
【0043】
したがって、車両制御システム1は、エンジン回転数がエンスト回転数以上である場合には入力クラッチ10が所定以上の係合状態で維持されることから、スタータ18によるクランキングによらずに燃焼室への燃料噴射復帰でいわゆる押しがけによりエンジン4を再始動することができる。これにより、車両制御システム1は、入力クラッチ10の動作を待たずにエンジン4を再始動することができることから、始動に要する所要期間を短縮することができ、エンジン再始動時の応答性を向上できる。この結果、車両制御システム1は、例えば、エコラン状態からの復帰に時間遅れが生じることを抑制して素早く駆動力を出力することができることから、例えば、運転者の加速要求操作(例えば、アクセル踏み込み操作)に対して応答性よく車両2を加速させることができるので、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。また、車両制御システム1は、スタータ18によってクランキングのための動力を発生させることなくエンジン4を再始動することができるので、エネルギの消費を抑制することができ、消費電力を低減することができる。
【0044】
さらに、車両制御システム1は、上記のように燃焼室への燃料噴射復帰で押しがけによりエンジン4を再始動する際に、入力クラッチ10が所定以上の係合状態で維持されることから、例えば、入力クラッチ10を完全解放状態にした後に再係合して押しがけによりエンジン4を再始動する場合のようにエンジン回転数を引き上げることによるイナーシャ分のトルクが入力クラッチ10を介して駆動輪3に伝達されることを抑制することができる。この結果、車両制御システム1は、車両2の減速度が大きくなりすぎて、運転者に違和感を与えてしまうことを抑制することができ、この点でもドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0045】
一方、車両制御システム1は、エンジン回転数がエンスト回転数未満である場合、すなわち、スタータ18によりクランキングを行ってエンジン4を再始動する際には、事前に入力クラッチ10が所定以下の解放状態で維持されることから、入力クラッチ10を解放する動作を待たずにエンジン4を再始動することができる。これにより、車両制御システム1は、始動に要する所要期間を短縮することができ、エンジン再始動時の応答性を向上でき、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。また、車両制御システム1は、スタータ18によりクランキングを行ってエンジン4を再始動する際には、入力クラッチ10が所定以下の解放状態で維持されることから、スタータ18によるクランキング時にショックが発生することを防止することができ、また、スタータ18における負荷を低減することができる。この点でも、車両制御システム1は、ドライバビリティの悪化を抑制することができ、エネルギの消費を抑制することができる。
【0046】
次に、図4のフローチャートを参照してECU8による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数ms乃至数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される(以下の説明でも同様である。)。
【0047】
まず、ECU8は、状態検出装置7からの各種情報やエンジン4の動作状態等に基づいて、車両2がフューエルカット制御を実行しエンジン4の作動を停止したエコラン中であるか否かを判定する(ST1)。
【0048】
ECU8は、車両2がエコラン中でないと判定した場合(ST1:No)、エコラン中であると判定するまでこの判定を繰り返し実行する。ECU8は、車両2がエコラン中であると判定した場合(ST1:Yes)、エンジン回転数センサ70が検出したエンジン回転数を取得し、現在のエンジン回転数neがエンスト回転数nesten以上であるか否かを判定する(ST2)。
【0049】
ECU8は、現在のエンジン回転数neがエンスト回転数nesten以上であると判定した場合(ST2:Yes)、現在のクラッチ油圧pclが予め設定された係合制御における係合制御時油圧pcltieより大きいか否かを判定する(ST3)。ここで、予め設定された係合制御時油圧pcltieは、図2で説明した第1油圧P1に相当し、入力クラッチ10の係合力の大きさが第1係合力以上となる油圧に相当する。
【0050】
ECU8は、現在のクラッチ油圧pclが係合制御時油圧pcltieより大きいと判定した場合(ST3:Yes)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。ECU8は、現在のクラッチ油圧pclが係合制御時油圧pcltie以下であると判定した場合(ST3:No)、TM油圧制御装置14を制御してクラッチ油圧pclを係合制御時油圧pcltieとし入力クラッチ10の係合力を増加して(ST4)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0051】
ECU8は、ST2にて現在のエンジン回転数neがエンスト回転数nesten未満であると判定した場合(ST2:No)、現在のクラッチ油圧pclが予め設定された解放制御における解放制御時油圧pclopnより大きいか否かを判定する(ST5)。ここで、予め設定された解放制御時油圧pclopnは、図3で説明した第2油圧P2に相当し、入力クラッチ10の係合力の大きさが第2係合力以下となる油圧に相当する。
【0052】
ECU8は、現在のクラッチ油圧pclが解放制御時油圧pclopnより大きいと判定した場合(ST5:Yes)、TM油圧制御装置14を制御してクラッチ油圧pclを解放制御時油圧pclopnとし入力クラッチ10の係合力を低減して(ST6)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。ECU8は、現在のクラッチ油圧pclが解放制御時油圧pclopn以下であると判定した場合(ST5:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0053】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム1によれば、車両2の走行中に、この車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生する作動状態と動力の発生を停止する非作動状態とを切り替え可能なエンジン4と、エンジン4側の回転部材10aと駆動輪3側の回転部材10bとを動力伝達可能に係合した状態とこの係合を解除した状態とに切り替え可能であると共に、エンジン4側の回転部材10aと駆動輪3側の回転部材10bとを係合する係合力を調節可能である入力クラッチ10と、車両2の走行中にエンジン4を非作動状態にした際に、エンジン4のエンジン回転数が予め設定されるエンスト回転数以上である場合に、入力クラッチ10を第1係合力以上の係合力で係合した状態に制御する係合制御を実行し、エンジン4のエンジン回転数がエンスト回転数未満である場合に入力クラッチ10を第1係合力より小さい第2係合力以下の係合力で係合が解除された状態に制御する解放制御を実行するECU8とを備える。したがって、車両制御システム1は、車両2の走行中に適正にエンジン4を始動することができる。
【0054】
なお、以上の説明では、車両制御システム1は、エンジン回転数センサ70が検出するエンジン回転数を用いるものとして説明したが、これに限らず、他のセンサの検出結果に応じて現在のエンジン回転数を推定、検出するようにしてもよい。ECU8は、例えば、トルクコンバータ9のロックアップクラッチが係合状態(ロックアップON状態)であり、変速機11の入力軸とエンジン4のクランクシャフトとが直結された状態である場合には、入力軸回転数センサ73が検出する変速機11の入力軸回転数をエンジン回転数として等価的に用いることもできる。また、ECU8は、例えば、トルクコンバータ9のロックアップクラッチが解放状態(ロックアップOFF状態)である場合には、入力軸回転数センサ73が検出する変速機11の入力軸回転数とトルクコンバータ9の逆駆動特性とに基づいてエンジン回転数を推定、検出するようにしてもよい。また、ECU8は、例えば、出力軸回転数センサ74が検出する変速機11の出力軸回転数(あるいは不図示の車速センサが検出する車速)と、変速機11の現在の変速比(ギヤ比)とに基づいてエンジン回転数を推定、検出するようにしてもよい。この場合、ECU8は、例えば、エンジン回転数がエンスト回転数以上であるか否かの判定として、入力軸回転数、あるいは、出力軸回転数がエンスト回転数に応じて設定される判定閾値以上であるか否かの判定を行うようにしてもよい。
【0055】
[実施形態2]
図5は、実施形態2に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を説明するフローチャート、図6は、エンジントルクマップの一例を示す線図、図7は、クラッチ油圧マップの一例を示す線図、図8は、変形例に係るクラッチ油圧マップの一例を示す線図である。実施形態2に係る車両制御システムは、係合制御の際に係合力調節制御を実行する点で実施形態1とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、主要な構成については、図1を参照する(以下で説明する実施形態も同様である。)。
【0056】
図5乃至図8で説明する本実施形態の車両制御システム201は、制御装置としてのECU208を備える。ECU208は、係合制御の際に係合力調節制御を実行する。ECU208は、この係合力調節制御では、TM油圧制御装置14を制御し、入力クラッチ10の係合力を調節する制御を実行し、エンジン4のエンジン回転数をエンスト回転数に応じた目標エンジン回転数(目標回転速度)とする。ECU208は、この係合力調節制御では入力クラッチ10の係合力を調節することで、可能な限りスタータ18によるクランキングによらずに燃料噴射復帰によりエンジン4を再始動できる運転領域を確保する。
【0057】
この車両制御システム201は、例えば、エコラン状態でエンジン回転数がエンスト回転数以上である場合には入力クラッチ10が所定以上の係合状態で維持されることから、場合によってはエンジン回転数が高いことで、負のエンジントルク、すなわち、エンジンブレーキトルクによって車両2に大きなエンジンブレーキが作用するおそれがある。この場合、車両2は、例えば、アクセルオフによる惰性走行状態で、このエンジンブレーキにより必要以上に減速されると、所定の車速を維持する場合などに再加速が必要となり、この結果、ドライバビリティが悪化すると共に燃料消費の点で不利になるおそれがある。
【0058】
しかしながら、車両制御システム201は、ECU208が係合制御の際に、係合力調節制御としてTM油圧制御装置14を制御し、入力クラッチ10の係合力調節制御を実行することで、車両2に作用するエンジンブレーキの大きさを調節することができる。典型的には、ECU208は、係合制御の際に入力クラッチ10を完全係合状態とした場合のエンジン回転数がエンスト回転数より十分に高くなるような場合に、係合力調節制御を実行し係合力を相対的に小さくして入力クラッチ10を回転部材10aと回転部材10bとがスリップするスリップ状態とし、エンジン回転数をエンスト回転数に応じた目標エンジン回転数とすることで、エンジン回転数を可能な限り低くする。一方、ECU208は、係合制御の際に入力クラッチ10を完全係合状態とした場合のエンジン回転数がエンスト回転数とほぼ同等である場合、ほとんど余裕が無い場合には、係合力調節制御を実行し係合力を相対的に大きくして入力クラッチ10をほぼ完全係合状態とし、エンジン回転数をエンスト回転数に応じた目標エンジン回転数とすることで、エンジン回転数を可能な限り高くする。
【0059】
したがって、車両制御システム201は、スタータ18によるクランキングによらずにエンジン4を再始動できる範囲で、エンジン回転数を可能な限り低くすることができる。これにより、車両制御システム201は、可能な限りスタータ18によってクランキングのための動力を発生させることなくエンジン4を再始動できるエンジン回転数を維持しつつ、車両2に大きなエンジンブレーキが作用することを抑制することができ、車両2の減速度を適正化することができる。この結果、車両制御システム201は、ドライバビリティの悪化を抑制することができると共に、燃料消費の悪化を抑制することができる。
【0060】
次に、図5のフローチャートを参照してECU208による制御の一例を説明する。
【0061】
まず、ECU208は、状態検出装置7からの各種情報やエンジン4の動作状態等に基づいて、車両2がエコラン中であるか否かを判定する(ST21)。
【0062】
ECU208は、車両2がエコラン中でないと判定した場合(ST21:No)、エコラン中であると判定するまでこの判定を繰り返し実行する。ECU208は、車両2がエコラン中であると判定した場合(ST21:Yes)、入力クラッチ10を完全係合状態とした際のエンジン回転数nestがエンスト回転数nesten以上であるか否かを判定する(ST22)。ECU208は、例えば、入力軸回転数センサ73が検出する変速機11の入力軸回転数等に基づいて入力クラッチ10を完全係合状態とした際のエンジン回転数nestを推定することができる。
【0063】
ECU208は、エンジン回転数nestがエンスト回転数nesten以上であると判定した場合(ST22:Yes)、TM油圧制御装置14を制御してクラッチ油圧pclを調節油圧pclcntiとし入力クラッチ10の係合力を調節し(ST23)、実際のエンジン回転数neをエンスト回転数nestenの近傍の目標エンジン回転数に収束させ、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0064】
ここで、ECU208は、例えば、車両2の運転状態に応じて目標エンジン回転数を設定する。ECU208は、例えば、係合力のバラツキ、エンジン4のバラツキ、運転環境に応じた外乱等の影響を踏まえて、実際のエンジン回転数が多少変動してもエンスト回転数nestenを割り込まないように、この目標エンジン回転数を設定するとよい。
【0065】
そして、ECU208は、この目標エンジン回転数に基づいて、調節油圧pclcntiを設定する。ECU208は、例えば、まず、図6に例示するエンジントルクマップm1に基づいて、エンジントルクを算出する。エンジントルクマップm1は、横軸がエンジン回転数、縦軸がエンジントルクを示す。このエンジントルクマップm1は、燃料噴射カット中のエンジン回転数とエンジントルクとの関係を記述したものである。エンジントルクマップm1は、燃料噴射カット中のエンジン回転数とエンジントルクとの関係が、実車評価等を踏まえて予め設定された上で、ECU208の記憶部に格納されている。このエンジントルクマップm1では、エンジントルクは、負のエンジントルク、すなわち、エンジンフリクショントルクを表す。エンジントルクは、エンジン回転数の増加に伴って減少し(絶対値が大きくなり)、言い換えれば、エンジンフリクショントルクは、エンジン回転数の増加に伴って増加する。ECU208は、エンジントルクマップm1に基づいて、設定した目標エンジン回転数に応じた負のエンジントルク、すなわち、エンジンフリクショントルクを求める。
【0066】
そして、ECU208は、例えば、図7に例示するクラッチ油圧マップm2に基づいて、調節油圧pclcntiを算出する。クラッチ油圧マップm2は、横軸がエンジンフリクショントルク、縦軸がクラッチ油圧を示す。このクラッチ油圧マップm2は、係合力調節制御中のエンジンフリクショントルクとクラッチ油圧(調節油圧pclcnti)との関係を記述したものである。クラッチ油圧マップm2は、係合力調節制御中のエンジンフリクショントルクとクラッチ油圧との関係が、実車評価等を踏まえて予め設定された上で、ECU208の記憶部に格納されている。このクラッチ油圧マップm2では、クラッチ油圧は、エンジンフリクショントルクの増加(言い換えれば、負のエンジントルクの減少)に伴って増加する。ECU208は、クラッチ油圧マップm2に基づいて、算出したエンジンフリクショントルクに応じたクラッチ油圧を調節油圧pclcntiとして求める。
【0067】
なお、本実施形態では、ECU208は、図6に例示するエンジントルクマップm1、図7に例示するクラッチ油圧マップm2を用いて調節油圧pclcntiを求めたが、本実施形態はこれに限定されない。ECU208は、例えば、図6に例示するエンジントルクマップm1、図7に例示するクラッチ油圧マップm2に相当する数式モデルに基づいて調節油圧pclcntiを求めてもよい。
【0068】
ECU208は、ST22にてエンジン回転数nestがエンスト回転数nesten未満であると判定した場合(ST22:No)、TM油圧制御装置14を制御してクラッチ油圧pclを解放制御時油圧pclopnとし入力クラッチ10の係合力を低減して(ST24)、この入力クラッチ10を所定以下の解放状態とし、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0069】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム201によれば、車両2の走行中に適正にエンジン4を始動することができる。そして、本実施形態の車両制御システム201は、ECU208が係合制御の際に、入力クラッチ10の係合力を調節する係合力調節制御を実行し、エンジン4のエンジン回転数をエンスト回転数に応じた目標エンジン回転数とすることから、ドライバビリティの悪化を抑制することができると共に、燃料消費の悪化を抑制することができる。
【0070】
なお、ECU208は、実際のエンジン回転数に基づいてフィードバック制御を行うようにしてもよい。この場合、ECU208は、係合力調節制御において、例えば、エンジン回転数センサ70が検出した実際のエンジン回転数とエンスト回転数に応じた目標エンジン回転数との偏差に基づいて実際のエンジン回転数が目標エンジン回転数に収束するように、入力クラッチ10のクラッチ油圧を調節し係合力を調節する。これにより、車両制御システム201は、種々のバラツキの影響を最小限に抑制し、係合力調節制御の制御精度を向上することができる。
【0071】
また、ECU208は、例えば、エンジン回転数センサ70が検出した実際のエンジン回転数に基づいて係合力調節制御におけるクラッチ油圧(調節油圧pclcnti)の大きさを学習する学習制御を実行するようにしてもよい。この場合、ECU208は、この学習制御では、係合力調節制御の実行中にエンジン回転数センサ70により実際のエンジン回転数を検出し、検出した実際のエンジン回転数とエンスト回転数に応じた目標エンジン回転数との偏差に基づいて次回の係合力調節制御でのクラッチ油圧の大きさを実際のエンジン回転数が目標エンジン回転数に収束する大きさに変更、補正する。これにより、車両制御システム201は、種々のバラツキの影響を最小限に抑制し、係合力調節制御の制御精度を向上することができる。
【0072】
また、ECU208は、例えば、係合力調節制御の際に、車両2の車速が相対的に高い場合に係合力を相対的に小さくし、車両2の車速が相対的に低い場合に係合力を相対的に大きくするようにしてもよい。この場合、ECU208は、例えば、図8に例示するクラッチ油圧マップm3に基づいて、調節油圧pclcntiを算出する。クラッチ油圧マップm3は、クラッチ油圧マップm2(図7参照)とほぼ同様であるが、さらに、車速とクラッチ油圧(調節油圧pclcnti)との関係も記述されている点で、クラッチ油圧マップm2と異なる。クラッチ油圧マップm3では、クラッチ油圧は、エンジンフリクショントルクの増加に伴って増加すると共に、車速の増加に伴って減少する。そして、ECU208は、車両2の車速を検出し、クラッチ油圧マップm3に基づいて、算出したエンジンフリクショントルクと、検出した車両2の車速に応じたクラッチ油圧を調節油圧pclcntiとして求める。ECU208は、出力軸回転数センサ74が検出する変速機11の出力軸回転数に基づいて車両2の車速を検出してもよいし、別個、車速センサを備え、この車速センサの検出結果に応じて車両2の車速を検出してもよい。
【0073】
したがって、ECU208は、係合力調節制御の際に、車両2の車速が相対的に高い場合に調節油圧pclcntiを相対的に低く設定し、車両2の車速が相対的に低い場合に調節油圧pclcntiを相対的に高く設定することができ、これにより、車両2の車速が相対的に高い場合に係合力を相対的に小さくし、車両2の車速が相対的に低い場合に係合力を相対的に大きくすることができる。この結果、車両制御システム201は、エンジン回転数が高くなる傾向にある高車速の際にはエンジンブレーキを相対的に小さくすることができ、エンジンブレーキが過剰に作用することを抑制することができる。逆に、車両制御システム201は、エンジン回転数が低くなる傾向にある低車速の際にはエンジンブレーキを相対的に大きくすることができ、エンジンブレーキが不足することを抑制することができる。これにより、車両制御システム201は、車速に応じて、より適正にエンジンブレーキを作用させることができる。
【0074】
また、ECU208は、例えば、エンジン4の回転抵抗を利用したエンジンブレーキ(機関ブレーキ)を相対的に増大するエンジンブレーキ増大制御(機関ブレーキ増大制御)の実行中に係合力調節制御を禁止するようにしてもよい。この場合、ECU208は、例えば、登降坂制御、急制動制御、アクセル急閉制御等の運転支援制御により、エンジン回転数を通常の運転時よりも高くしてエンジンブレーキを増大するエンジンブレーキ増大制御の実行中に係合力調節制御を禁止することで、比較的に大きなエンジンブレーキが要求される際に、エンジンブレーキが不足することを抑制することができる。これにより、車両制御システム201は、適正にエンジンブレーキを確保することができる。
【0075】
また、ECU208は、例えば、エンジン4の回転抵抗を利用したエンジンブレーキ以外の要因による車両2の減速度が相対的に大きい場合、例えば、ブレーキセンサ72によって運転者によるブレーキペダルへの制動操作が検出されブレーキ装置6による制動が行われている際に、係合力調節制御を禁止し入力クラッチ10の係合力を相対的に大きくして保持するようにしてもよい。これにより、車両制御システム201は、車両2の減速時に減速度の変化によって違和感を与えてしまうことを抑制することができる。またこれにより、車両制御システム201は、例えば、上述のフィードバック制御等により実エンジン回転数が急変するような場合でも適正に制御を継続することができる。
【0076】
[実施形態3]
図9は、実施形態3に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。実施形態3に係る車両制御システムは、車両の状態に応じて機関停止回転速度を変更する点で実施形態1、2とは異なる。
【0077】
図9で説明する本実施形態の車両制御システム301は、制御装置としてのECU308を備える。ECU308は、車両2の状態に応じてエンスト回転数を変更する。ECU308は、例えば、エンジン油温センサ75、冷却水温度センサ76、吸気センサ77、燃料性状センサ78、TM油温センサ79等の検出結果に応じて、エンジン油の温度、エンジン冷却水の温度、吸入空気密度、燃料性状、作動油の温度を検出する。
【0078】
ここで、エンスト回転数は、上述したように、エンジン4の燃焼室への燃料噴射によりエンジン4が自律回転可能な最低エンジン回転数に相当するものであることから、上記エンジン油の温度、エンジン冷却水の温度、吸入空気密度、燃料性状、作動油の温度等の外的要因の変動に伴って変化するおそれがある。
【0079】
そこで、ECU308は、エンジン4に供給されるエンジン油の温度、エンジン4を冷却するエンジン冷却水の温度、エンジン4の吸入空気密度(例えば高度等)、エンジン4の燃焼室に供給される燃料の燃料性状、あるいは、動力伝達装置5等に供給される作動油の温度に基づいて、エンスト回転数を変更、補正する。
【0080】
例えば、ECU308は、エンジン冷却水の温度が相対的に低い場合にはエンジン始動性が低下するため、エンジン冷却水の温度に応じて通常よりもエンスト回転数を相対的に高く設定し、エンジン冷却水の温度が相対的に高い場合にエンスト回転数を相対的に低く設定する。これにより、車両制御システム301は、エンジン冷却水の温度が低く、エンジン始動性が低下している場合であっても、適正にエンジン4を始動することができる。
【0081】
また例えば、ECU308は、エンジン油の温度、あるいは、作動油の温度が相対的に低い場合、すなわち、エンジン油、作動油の粘度が相対的に大きい場合には、エンジン回転に対して各回転部材の引き摺り抵抗が相対的に大きくなるため、エンジン油の温度、あるいは、作動油の温度に応じて、通常よりもエンスト回転数を相対的に高く設定し、エンジン油の温度、あるいは、作動油の温度が相対的に高い場合、すなわち、エンジン油、作動油の粘度が相対的に小さい場合には、通常よりもエンスト回転数を相対的に低く設定する。これにより、車両制御システム301は、エンジン油、作動油の粘度が大きく、各回転部材の引き摺り抵抗が大きくなっている場合であっても、適正にエンジン4を始動することができる。
【0082】
また例えば、ECU308は、エンジン4の吸入空気密度が相対的に低い場合、例えば、車両2の走行位置の高度が比較的に高い場合には、エンジン燃焼によるエネルギが通常時と比較して相対的に少なくなるため、吸入空気密度あるいは高度に応じて、通常よりもエンスト回転数を相対的に高く設定し、吸入空気密度が相対的に高い場合、例えば、車両2の走行位置の高度が比較的に低い場合には、通常よりもエンスト回転数を相対的に低く設定する。これにより、車両制御システム301は、エンジン4の吸入空気密度が低く、エンジン燃焼によるエネルギが少なくなっている場合であっても、適正にエンジン4を始動することができる。
【0083】
また例えば、ECU308は、エンジン4の燃焼室に供給される燃料の燃料性状に応じて、エンスト回転数を設定することで、燃料性状が変った場合であっても、適正にエンジン4を始動することができる。
【0084】
さらに、ECU308は、エンジン4のエンジン回転数の変化速度に基づいて、エンスト回転数を変更するようにしてもよい。ここで、図9は、横軸を時間軸とし、縦軸をエンジン回転数、クラッチ油圧、入力クラッチ10の係合力としている。このような車両制御システム301は、入力クラッチ10の係合力を所定の大きさまで調節する際には、図9に例示するように、時刻t31にてTM油圧制御装置14を制御しクラッチ油圧を低下させてから実際に係合力が所定の大きさになる時刻t32までには、この入力クラッチ10の解放特性等に応じて所定期間T1を要する。このため、ECU308は、エンジン回転数がエンスト回転数になった時点で係合力が要求される所定の大きさになっているようにするためには、実際にエンジン回転数がエンスト回転数になる前に、この所定期間T1を見込んで制御を早出しすることが好ましい。しかしながら、エンジン回転数の変化度合いは、運転条件等により異なるため、制御を早出しするタイミングを一定の値として固定的に定めたとしても想定する効果が得られないおそれがある。
【0085】
そこで、本実施形態のECU308は、エンジン回転数センサ70が検出するエンジン回転数の変化速度を算出し、このエンジン回転数の変化速度に基づいて、エンスト回転数nestenを変更する制御を実行する。これにより、ECU308は、実際のエンジン回転数がエンスト回転数nestenになる前に適正に制御を早出することができる。
【0086】
ECU308は、例えば、エンジン回転数が図9の実線L1に示すように変化する場合には、実際のエンジン回転数が低下し、所定期間T1における回転数変化(低下)を見込んだ設定エンスト回転数nesten(後述のnestencalに相当)になった際に係合力を低減する制御を開始する。これにより、ECU308は、エンジン回転数が実際のエンスト回転数になったときには、入力クラッチ10において必要とする係合力を実現することができる。また、ECU308は、例えば、エンジン回転数が実線L1より変化速度が大きい点線L1’に示すように変化する場合には、実際のエンジン回転数が設定エンスト回転数nestenより高回転側の設定エンスト回転数nesten’(後述のnestencalに相当)になった際に制御を開始する。これにより、ECU308は、エンジン回転数の変化速度が変動した場合であっても、エンジン回転数が実際のエンスト回転数になったときには、入力クラッチ10において必要とする係合力を実現することができる。
【0087】
具体的には、ECU308は、例えば、エンジン回転数センサ70が検出するエンジン回転数neを取得し、エンジン回転数neの変化速度(単位時間当たりの変化量)Δneを算出する。エンジン回転数neの変化速度Δneは、エンジン回転数neの低下度合い、あるいは、増加度合いに相当する。次に、ECU308は、エンジン回転数neの変化速度Δneに基づいて設定エンスト回転数nestencalを設定する。例えば、ECU308は、下記の数式(1)を用いて、変化速度Δne、所定期間T1、基準となるエンスト回転数nestenに基づいた設定エンスト回転数nestencalを算出することができる。ECU308は、この式をもとに変化速度Δneに応じて設定エンスト回転数nestencalを可変とすることで、エンジン回転数の変化速度にかかわらず最適な設定エンスト回転数nestencalを設定することができる。

nestencal=Δne×T1+nesten ・・・(1)

【0088】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム301によれば、車両2の走行中に適正にエンジン4を始動することができる。そして、本実施形態の車両制御システム301は、車両2の状態に応じてエンスト回転数を変更することから、車両2の状態に応じて適正にエンジン4を始動することができる。なお、ECU308は、例えば、車両2の減速度等に基づいて、エンスト回転数を変更してもよいし、制御を開始してから入力クラッチ10の係合力が実際に目標の大きさになるまでの遅れ特性、例えば、入力クラッチ10の油圧制御系の油温に応じた油圧応答遅れ特性等に基づいて、エンスト回転数を変更してもよい。
【0089】
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両制御システムは、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本実施形態に係る車両制御システムは、以上で説明した実施形態を複数組み合わせることで構成してもよい。
【0090】
以上の説明では、係合装置は、変速機の入力クラッチであるものとして説明したがこれに限らない。係合装置は、トルクコンバータのロックアップクラッチでもよい。また、以上の説明では、係合装置は、作動油の油圧により作動するものとして説明したが、電磁式の係合装置であってもよい。
【0091】
以上で説明した車両は、走行用動力源として、エンジン4に加えてさらに、発電可能な電動機としてのモータジェネレータなどを備えたいわゆる「ハイブリッド車両」であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように本発明に係る車両制御システムは、種々の車両に搭載される車両制御システムに適用して好適である。
【符号の説明】
【0093】
1、201、301 車両制御システム
2 車両
3 駆動輪
4 エンジン(内燃機関)
5 動力伝達装置
6 ブレーキ装置
7 状態検出装置
8、208、308 ECU(制御装置)
9 トルクコンバータ
10a、10b 回転部材
10 入力クラッチ(係合装置)
11 変速機
18 スタータ(電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行中に、当該車両の駆動輪に作用させる動力を発生する作動状態と前記動力の発生を停止する非作動状態とを切り替え可能な内燃機関と、
前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを動力伝達可能に係合した状態と前記係合を解除した状態とに切り替え可能であると共に、前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを係合する係合力を調節可能である係合装置と、
前記車両の走行中に前記内燃機関を非作動状態にした際に、前記内燃機関の機関回転速度が予め設定される機関停止回転速度以上である場合に、前記係合装置を第1係合力以上の係合力で前記係合した状態に制御する係合制御を実行し、前記内燃機関の機関回転速度が前記機関停止回転速度未満である場合に前記係合装置を前記第1係合力より小さい第2係合力以下の係合力で前記係合が解除された状態に制御する解放制御を実行する制御装置とを備えることを特徴とする、
車両制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記車両の走行中に前記内燃機関を非作動状態にした後に当該内燃機関を始動する際に、前記内燃機関の機関回転速度が前記機関停止回転速度以上である場合に、前記係合制御を実行した後に前記内燃機関への燃料の供給により当該内燃機関を再始動し、前記内燃機関の機関回転速度が前記機関停止回転速度未満である場合に、前記解除制御を実行した後に電動機によるクランキング及び前記内燃機関への燃料の供給により当該内燃機関を再始動する、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記係合制御の際に前記係合力を調節する係合力調節制御を実行し、前記内燃機関の機関回転速度を前記機関停止回転速度に応じた目標回転速度とする、
請求項1又は請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記係合力調節制御の際に、前記車両の車速が相対的に高い場合に前記係合力を相対的に小さくし、前記車両の車速が相対的に低い場合に前記係合力を相対的に大きくする、
請求項3に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記内燃機関の回転抵抗を利用した機関ブレーキを相対的に増大する機関ブレーキ増大制御の実行中に前記係合力調節制御を禁止する、
請求項3又は請求項4に記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記内燃機関の回転抵抗を利用した機関ブレーキ以外の要因による前記車両の減速度が相対的に大きい場合に、前記係合力調節制御を禁止し前記係合力を相対的に大きくして保持する、
請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記内燃機関に供給される油の温度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更する、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記内燃機関を冷却する冷却媒体の温度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更する、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記内燃機関の吸入空気密度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更する、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記内燃機関の燃焼室に供給される燃料の燃料性状に基づいて、前記機関停止回転速度を変更する、
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記係合装置を含む動力伝達装置に供給される油の温度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更する、
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項12】
前記制御装置は、前記内燃機関の機関回転速度の変化速度に基づいて、前記機関停止回転速度を変更する、
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−72740(P2012−72740A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219579(P2010−219579)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】