説明

車両用オイルポンプの駆動制御装置及び駆動制御方法

【課題】自動変速機ATのオイルポンプ4を電動モータ43によっても駆動可能に構成する場合に、未暖機でオイルの粘性が高いときの油圧制御性の低下を防止するとともに、モータの耐久性等の問題が生じないようにする。
【解決手段】オイルポンプ4の一方のギヤ41を電動モータ43の回転軸上に固設し、他方のギヤ42と軸部材44との間には電磁クラッチ45を介設する。オイルパンに設けた温度センサ62により油温Tを検出し、それが予め設定した値T未満であれば、エンジン回転速度に依らず電磁クラッチ45を締結し、エンジン1からの入力回転を利用して機械的にオイルポンプ4を駆動する。検出油温Tが設定値T以上であれば電磁クラッチ45を解放し、電動モータ43によりオイルポンプ4を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の自動変速機に設けられたオイルポンプの駆動制御に関し、特に、エンジンからの入力回転を利用するだけでなく、電動モータによってもオイルポンプを駆動できるようにした所謂ハイブリッドタイプのものに係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種のハイブリッドタイプのオイルポンプとしては、例えば特許文献1に開示されているように、自動車の自動変速機に設けられてその各部に潤滑や冷却のためのオイルを供給するとともに、アイドリングストップとしての油圧保持や変速制御のための作動油圧を供給するものにおいて、それを電動モータによる第1の動力伝達系路と、エンジンからの入力回転を利用する第2の動力伝達系路と、のいずれかに選択的に切換えて駆動するようにしたものが公知である。
【0003】
この公知例では、原動機からの入力回転が所定回転速度未満のときでも、電動モータによってオイルポンプを高速回転させれば必要なオイルの吐出量を確保できるので、オイルポンプの容量はあまり大きくしなくても済み、それを駆動する電動モータも小型コンパクトなものとすることができて、ポンプ駆動に伴う動力損失の低減も図られる。
【特許文献1】特許第3343660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来例のように小型コンパクトな電動モータによってオイルポンプを駆動するようにした場合、その出力にあまり余裕がないことから、例えば未暖機時のようにオイルの粘性が高くて、それを押し出すポンプの負荷が大きいときには、モータへの供給電力を制御するのみでは吐出量を正確に制御することができず、このことが自動変速機の制御性を低下させる虞れがある。
【0005】
特に寒冷地等では気温が氷点下にまで下がることがあり、冷間始動後のオイルポンプの駆動負荷は著しく大きくなるので、それを駆動する電動モータの耐久性に問題を生じる虞れがあり、前記のような小型コンパクトな電動モータによってはポンプの駆動自体が困難になることもあり得る。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両用のオイルポンプを電動モータによっても駆動可能な構成とする場合に、温度変化に伴うオイルの粘性の変化に着目し、そのことに起因する油圧制御性の低下を防止するとともに、モータの耐久性等の問題が生じないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明では、オイルの温度が所定値未満であれば、エンジン回転速度に拘わらず、原動機であるエンジンからの入力回転によって機械的にオイルポンプを駆動するようにしたものである。
【0008】
具体的に請求項1の発明は、車両の自動変速機に設けられたオイルポンプの駆動制御装置であって、エンジンからの入力回転を利用して機械的にオイルポンプを駆動可能な駆動機構と、そのオイルポンプを駆動可能に設けられた電動モータと、それらのいずれか一方により選択的にオイルポンプを駆動させる選択駆動手段と、を備えたものを対象として、さらにオイルの温度状態を検出する温度検出手段を備えるとともに、前記選択駆動手段を、前記温度検出手段による検出温度が予め設定した値未満であれば前記駆動機構を選択する一方、前記設定値以上であれば前記電動モータを選択するように構成したものである。
【0009】
前記の構成により、例えばエンジンの冷間始動後のような自動変速機の未暖機状態において、オイルの検出温度が予め設定した値未満であれば、選択駆動手段により駆動機構が選択されて、エンジンからの入力回転を利用して機械的にオイルポンプが回転駆動されるようになる。
【0010】
ここで、前記設定値を例えば0〜20°Cの範囲に設定しておけば、寒冷地における冷間始動後のようにオイルの粘性が非常に高くなり、ポンプ駆動の負荷が非常に大きくなっても、前記の如くエンジンからの入力回転を利用することでオイルポンプを確実に駆動することができる。また、電動モータに大きな駆動負荷がかかることはないので、その耐久性に問題を生じる虞れはない。
【0011】
また、前記設定値をより高めの温度範囲に設定して、温度変化に伴うオイルの粘性変化が小さくなるまではオイルポンプをエンジンからの入力により駆動するようにすれば、その後は小型コンパクトな電動モータであっても余裕をもってオイルポンプを駆動することができるので、この電動モータへの供給電力の制御のみによってオイルの吐出量を正確に制御することが可能になり、オイルの粘性の変化に起因する油圧制御性の低下を防止することができる。
【0012】
好ましいのは、前記設定値を、それ以上の所定の温度範囲(即ち、現実的なATFの温度の上限値である120〜130°Cくらいまでの範囲)においてオイルの粘性が略一定となるような値に設定することであり(請求項3)、こうすれば、温度変化に伴うオイルの粘性変化がなくなってから、モータ制御によってオイルの吐出量を極めて正確に制御することができる。
【0013】
そうしてオイルの温度が設定値以上になれば、電動モータによりオイルポンプを駆動して、その吐出量を自由に制御することができるので、例えばエンジンの高回転域においてもオイルポンプの回転はあまり上がらないようにして、余計なオイルの供給を行わないようにすることができる。また、オイルポンプが必要以上に高速で作動することはなくなり、これによって動力損失や騒音、キャビテーションによるエロージョン等の問題が生じることもない。
【0014】
但し、自動変速機において要求されるオイルの流量は回転の上昇に伴いやや多くなる傾向があるので、より好ましいのは、エンジンからの入力回転速度を検出する回転速度検出手段を備えて、これにより検出される入力回転速度が相対的に低い側では電動モータの回転速度も相対的に低くさせ、入力回転速度が相対的に高い側では電動モータの回転速度も相対的に高くさせることである(請求項4)。こうしたきめの細かいモータ制御を行えば、エネルギのロスを極小化し、ポンプの作動に伴う騒音も極力、低減することができる。
【0015】
また、具体的な構造として好ましいのは、前記駆動機構に、駆動力をオイルポンプに伝達する接続状態と、その伝達を遮断する遮断状態と、のいずれかに切換えられるクラッチやブレーキ等の駆動力断接手段を設け、選択駆動手段には、オイルの検出温度が設定値未満であれば前記駆動力断接手段を接続状態にし、設定値以上であれば遮断状態にする断接制御部と、オイルの検出温度が前記設定値未満であれば電動モータの作動を停止させ、設定値以上であれば作動させるモータ制御部と、を備えることである(請求項2)。
【0016】
こうすれば、駆動機構における駆動力の伝達をクラッチやブレーキ等によって機械的に断接できる一方、電動モータは電力供給の有無によって簡単に作動・停止(空転)を切換えることができるので、選択駆動手段を比較的簡単な構成とすることができる。
【0017】
見方を変えれば、本発明は、車両の自動変速機に設けたオイルポンプの駆動制御方法であって、その自動変速機へのエンジンからの入力回転を利用して機械的に前記オイルポンプを駆動可能な駆動機構を設けるとともに、そのオイルポンプを駆動可能に電動モータを設けておき、オイルの温度状態を検出して、それが予め設定した値未満であれば前記駆動機構によりオイルポンプを駆動させる一方、該設定値以上であれば前記電動モータによってオイルポンプを駆動させることを特徴とするものである。この駆動制御方法によると、前記した請求項1の発明と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように、本発明に係る車両用オイルポンプの駆動制御によると、それをエンジン入力のみならず電動モータによっても駆動可能に構成する場合に、オイルの温度が設定値未満であれば、エンジン回転速度に拘わらず、電動モータではなくエンジン入力によって機械的にオイルポンプを駆動するようにしたから、例えば冷間始動後のようにオイルの粘性が非常に高いときでもオイルポンプを確実に駆動することができるとともに、電動モータの耐久性を確保する上で有利になる。
【0019】
また、温度変化に伴うオイルの粘性の変化が十分に小さくなるまで、オイルポンプをエンジンからの入力によって駆動するようにすれば、小型コンパクトな電動モータであっても、供給電力の制御のみによってオイルの吐出量を正確に制御することができて、油圧制御性の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
図1は、本発明に係るオイルポンプ駆動制御装置Aを、図示しない自動車に搭載された自動変速機ATに適用した実施形態を示す。図には模式的に示すが、自動変速機ATは、エンジン1の出力する回転を受け入れて、作動油であるATF(単にオイルともいう)を介して伝達するトルクコンバータ2と、そうして伝達される回転を変速して車輪側に出力する歯車変速機3とを備えている。この歯車変速機3は、油圧によって作動される複数の摩擦要素(クラッチ及びブレーキ)を備え、それらが選択的に締結、解放されて動力の伝達系路が切換わることにより、段階的な変速作動を行うものである。
【0022】
前記トルクコンバータ2のケース20はエンジン1の出力軸1aに連結されており、その内部において軸方向の反エンジン側にはポンプ21が固定される一方、それに対向してエンジン側にはタービン22が配置され、それらの間にステータ23が介設されている。エンジン1からの入力回転は、ポンプ21からATFを介してタービン22に伝達され、歯車変速機3の入力軸と一体のタービンシャフト24に出力される。
【0023】
前記トルクコンバ−タ2と歯車変速機3との間にはオイルポンプ4が配設されている。このオイルポンプ4のハウジング40は、外周側が変速機ハウジング5に固定されてトルクコンバ−タ2及び歯車変速機3の間を区画するように設けられ、その略中央を前記タービンシャフト24が貫通している。この実施形態のオイルポンプ4は所謂外接ギヤポンプであり、図2に模式的に示すように、ハウジング40内に密接して収容された一対のギヤ41,42が互いに噛み合って回転することにより、吸込み側から吐出側へとオイルを送るようになっている。
【0024】
前記の一方のギヤ41は、図1に示すように、ハウジング40を貫通する小型コンパクトな電動モータ43の回転軸上に固設されており、一方、他方のギヤ42は、筒状の軸部材44を介してトルクコンバータ2のケース20に駆動連結されている。詳しくは軸部材44の一端側(エンジン側)には径方向外方に大きく広がるように鍔部が設けられ、その外周側がトルクコンバータ2のポンプ21を介してケース20に締結されている。一方、軸部材44の他端側(反エンジン側)は、電磁クラッチ45を介して駆動力の伝達・遮断を切換え可能な状態で、ギヤ42に連結されている。
【0025】
つまり、前記軸部材44及び電磁クラッチ45によって、エンジン1からの入力回転を利用して機械的にオイルポンプ4を駆動可能な駆動機構が構成され、その中でも電磁クラッチ45は、それが締結されることによってギヤ42へ駆動力を伝達する接続状態と、その駆動力の伝達を遮断するように解放された遮断状態と、のいずれかに切換えられる駆動力断接手段を構成している。
【0026】
そして、電磁クラッチ45が締結されると(接続状態)、オイルポンプ4のギヤ42がトルクコンバータ2のケース20と一体に回転し、このギヤ42が駆動側となって他方のギヤ41を連れ回すようになる。一方、電磁クラッチ45を解放して(遮断状態)、電動モータ43によりギヤギヤ41を駆動すれば、このギヤ41が駆動側となってギヤ42を連れ回すようになる。こうして回転するギヤ42,41によって送られるオイルは、図示しないが、ハウジング40に形成された油路を介してメインギャラリへ送り出される。
【0027】
そのような電磁クラッチ45及び電動モータ43の作動制御は、自動変速機ATのコントローラ6によって行われる。すなわち、コントローラ6には、少なくとも、エンジン1からの入力回転速度(エンジン回転速度)を検出する回転速度検出手段としての回転速度センサ61からの信号と、自動変速機ATのオイルパンに配設された温度センサ62(温度検出手段)からの信号と、電動モータ43に内蔵された回転角センサ(図示せず)からのフィードバック信号と、が入力する。
【0028】
そして、コントローラ6は、前記温度センサ62によって検出される油温が予め設定した値未満であれば、電動モータ43への電力供給を行わず、その作動を停止させるとともに、電磁クラッチ45を締結して、エンジン1からの入力回転により機械的にオイルポンプ4を駆動する。一方、その設定値以上の油温であれば電磁クラッチ45は解放し、電動モータ43に給電して、その作動によりオイルポンプ4を駆動するものである。
【0029】
尚、コントローラ6は、エンジン回転速度や油温の検出値の他に、例えばトルクコンバータ2の出力回転速度、自動車の車速、アクセル乃至スロットル開度等のセンサによる検出信号を入力して、エンジン1の負荷や車速等に応じて予め設定されたシフトスケジュールに従い歯車変速機3の各摩擦要素をそれぞれ締結、解放させることにより、変速段を切換えるようになっている。
【0030】
以下に、コントローラ6によるオイルポンプ4の駆動制御の一例を、図3のフローチャートを参照して具体的に説明する。このフローはエンジン1の始動と共にスタートし、まず、ステップS1にて回転速度センサ61、温度センサ62のような各種センサからの信号等を入力し、続くステップS2では初期設定を行う。すなわち、電動モータ43には給電をせず、その回転軸が停止するか或いは空転するようにし(以下、モータ作動を停止ともいう)、電磁クラッチ45は締結して、オイルポンプ4を機械的に駆動する。
【0031】
続いて、ステップS3において、温度センサ62による検出油温Tが設定値T以上かどうか判定し、この判定がYESであれば、オイルが十分に暖まっていると判定して後述のステップS7に進む一方、判定がNOでオイルが十分に暖まっていないと判定すれば、ステップS4〜S6に進んで以下のフェールセーフ処理を行う。すなわち、ステップS4では電動モータ43が実際に作動中かどうか判定し、NOならステップS3に戻る一方、YESであればステップS5に進んで電動モータ43の作動を停止させるべく、モータ回転指令NMIの値を「0」にし、続くステップS6では電磁クラッチ45を締結すべく、それへの作動指令をオンに設定して、ステップS3に戻る。
【0032】
ここで、前記検出油温の設定値Tは、それ以上の所定の温度範囲(例えば現実的なATFの温度の使用上限値である120〜130°Cくらいまでの範囲)においてオイルの粘性が略一定となるような値に設定している。すなわち、図4に一例を示すように、この実施形態の自動変速機ATにおいてはオイルパンに設けた温度センサ62による検出油温Tの上昇に伴いオイルの粘性が低下して、それを押し出すオイルポンプ4の負荷が低下してゆく。
【0033】
図の例では概略0°C未満で温度変化に対する駆動負荷の変化の割合が特に大きくなっており、0°C以上では温度の上昇に伴い駆動負荷の変化する割合が小さくなっているが、それでも0〜60°Cの間で負荷の大きさは約2N・m変化している。このようにオイルの温度上昇に伴いポンプ駆動負荷が或る程度以上、変化するような状況で、オイルポンプ4を小型コンパクトな電動モータ43により駆動しようとすると、その出力トルクにあまり余裕がないことから、供給電力の制御のみでは吐出量を正確に制御することができず、自動変速機ATの油圧制御性が低下する虞れがある。
【0034】
そこで、この実施形態では、前記のように検出油温Tが設定値T未満であれば電動モータ43は作動させず、エンジン1からの入力回転を利用して機械的にオイルポンプ4を駆動するようにしている。こうすれば、オイルポンプ4を余裕をもって駆動できるから、油温の変化に依らず吐出量が安定する。
【0035】
そして、自動変速機ATの暖機が進んで検出油温Tが設定値T以上になれば、オイルが十分に暖まり、その粘性が温度変化に依らず略一定になるので、小型コンパクトな電動モータ43によっても余裕をもってオイルポンプ4を駆動できるようになる。そこで前記ステップS3においてYESと判定し、以下のようにステップS7〜S12のフェールセーフ処理とステップS13〜S19のモータ制御とを行う。
【0036】
まず、ステップS7ではモータ回転指令NMIが「0」になっているかどうか判定し、YESなら電動モータ43の作動を停止させているので、ステップS8に進んで電動モータ43を起動し且つ電磁クラッチ45への作動指令をオフ(解放)に設定して、ステップS13〜S19へ進む。また、判定がNOで電動モータ43を既に作動させているのであればステップS9に進み、今度は実際に電動モータ43が作動しているかどうか判定する。この判定がYESであればステップS10にて電磁クラッチ45の解放を継続して、ステップS13〜S19へ進む。
【0037】
一方、前記ステップS9の判定がNOで電動モータ43が実際には作動していないのであれば、これは故障していてオイルポンプ4を駆動できないということであるから、エンジン1からの入力回転を利用してオイルポンプ4を駆動すべく、ステップS11に進んで電磁クラッチ45への作動指令をオン(締結)に設定し、続くステップS12にて警報を発して、制御終了となる(エンド)。
【0038】
前記のように電動モータ43を起動したか(ステップS8)、或いはそれが実際に作動中であることを確認して(ステップS9でYES)進んだステップS13〜S19では、以下のようにエンジン回転速度に応じて電動モータ43の回転速度を制御する。まず、ステップS13では、回転速度センサ61により検出されるエンジン回転速度Nが第1の設定値N1以上かどうか判別し、NOで第1設定値N1未満であればステップS14に進んで電動モータ43への回転指令NMIを第1の指令値NMI1に設定し、しかる後にリターンする。
【0039】
一方、エンジン回転速度Nが第1設定値N1以上であれば(YES)、ステップS15に進み、今度はエンジン回転速度Nが第2の設定値N2以上かどうか判別する。この判別結果がNOで第2設定値N2未満であればステップS16に進み、電動モータ43の回転速度を第2指令値NMI2に設定してリターンする一方、第2設定値N2以上であれば(YES)、ステップS17に進む。
【0040】
このステップS17では、前記ステップS13,15と同様にしてエンジン回転速度Nが第3の設定値N3以上かどうか判別し、第3設定値N3未満であればステップS18に進んで、電動モータ43の回転速度を第3指令値NMI3に設定してリターンする一方、第3設定値N3以上であればステップS19に進み、電動モータ43の回転速度を第4指令値NMI4に設定して、しかる後にリターンする。
【0041】
前記エンジン回転速度Nの第1〜3設定値N1〜N3とモータ回転速度の第1〜4指令値NMI1〜NMI4との関係は、図5に示すようなテーブルに予め設定されており、このテーブルから読み取った指令値NMI1〜NMI4に基づいて電動モータ43の回転速度を制御することで、自動変速機ATにおいて要求される油量が高回転側でやや多く、低回転側ではやや少なくなることに対応して、モータ回転速度を適切に変更することができる。
【0042】
すなわち、図示の破線のグラフは、要求されるオイルの流量に対応したオイルポンプ4の回転速度を表し、仮想線のグラフは、エンジン1からの入力回転によってのみ駆動する場合のオイルポンプ4の回転速度を表している。この実施形態では、実線のグラフのようにエンジン1の高回転域においてモータ回転指令NMIの値が一定(NMI4)になり、仮想線のグラフのようにポンプやモータの回転速度が必要以上に高くなることはないから、駆動損失やポンプの作動に伴う騒音の低減、さらにはエロージョンの防止が図られる。
【0043】
また、この実施形態では、エンジン1の低回転側で要求される油量が徐々に減少することに対応して、モータ回転指令NMIの値が段階的に変更される。こうしたきめの細かい制御によって電動モータ43の回転速度を要求油量に対応する最小限度に抑えることで、エネルギのロスを極小化し、ポンプ作動騒音も極力、低減することができる。
【0044】
前記フローのステップS6,S8,S10によって、温度センサ62により検出される油温Tが設定値T未満のときに電磁クラッチ45を締結する一方、設定値T以上のときは解放する断接制御部6aが構成され、ステップS5,S8,S13〜19により、前記設定値T未満の温度では電動モータ43の作動を停止させる一方、設定値T以上であれば作動させるモータ制御部6bが構成されている。
【0045】
そして、ステップS13〜19に示されているように、前記モータ制御部6bは、回転速度センサ61により検出されるエンジン回転速度Nに応じて、電動モータの回転速度を変更制御するようになっている。
【0046】
また、前記フローの制御は、コントローラ6のプロセッサがメモリに格納されている制御プログラムを実行することによって、実現するものであり、その意味ではコントローラ6が、軸部材44及び電磁クラッチ45からなる駆動機構と電動モータ43とのいずれか一方によって、選択的にオイルポンプ4を駆動する選択駆動手段を構成している。
【0047】
したがって、この実施形態に係る車両用オイルポンプの駆動制御装置Aによると、自動車に搭載された自動変速機ATのオイルポンプ4を、エンジン1からの入力のみならず、電動モータ43によっても駆動可能に構成した場合に、油温Tが設定値T未満であればエンジン回転速度等に拘わらず、オイルポンプ4をエンジン入力によって駆動するようにしたから、例えば寒冷地における冷間始動後のようにオイルの粘性が非常に高いときでもオイルポンプ4を確実に駆動することができる。
【0048】
すなわち、図4に示したように、この実施形態では概略0〜10°C未満でオイルの粘性が非常に高くなり、オイルポンプ4の駆動負荷が非常に大きくなって小型コンパクトな電動モータ43によっては駆動できなくなることがあり、無理に駆動しようとすれば耐久性を損なう虞れもあるが、このときには前記のようにエンジン1からの入力回転によってオイルポンプ4を駆動するようにしているので、確実なポンプ駆動を行えるとともに、電動モータ43の耐久性に問題を生じる虞れもない。
【0049】
また、この実施形態では、前記のようにオイルの粘性が非常に高くなる温度範囲よりも高めに、具体的にはそれ以上でオイルの粘性が略一定となるような温度に、設定値Tを定めており、それ以上の油温になるまではオイルポンプ4を電動モータ43によって駆動することはない。言い換えると、電動モータ43によってオイルポンプ4を駆動する際には、暖機の進行(油温の上昇)に拘わらずオイルの粘性が一定になっているので、小型コンパクトな電動モータ43への供給電力の制御のみによって、オイルの吐出量を正確に制御することができ、高い油圧制御性を安定的に確保できる。
【0050】
尚、本発明に係るオイルポンプ駆動制御装置の構成は、前記実施形態のものに限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。すなわち、前記実施形態では、オイルポンプ4の駆動を切換える油温の設定値Tを、それ以上でオイルの粘性が略一定となるような値に設定しているが、これは、より低温側に設定してもよい。
【0051】
また、前記実施形態では、電動モータ43の回転速度を図5のようにエンジン回転速度に応じて段階的に変更するようにしているが、自動変速機ATにおける何れかの回転要素の回転速度に応じて変更するようにしてもよい。また、図示の変更特性はあくまで一例に過ぎず、例えば単に低回転側と高回転側とで変更するだけでもよいし、エンジン回転速度に応じて連続的に変更するようにしてもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、オイルポンプ4のギヤ42と軸部材44との間に電磁クラッチ44を介設して、駆動力の伝達・遮断を切換えるようにしているが、こうして動力を断接する手段は電磁クラッチ44に限定されず、その配置場所も前記の例には限らないし、電動モータ43とギヤ41との間にもクラッチやワンウエィクラッチを介設することができる。
【0053】
但し、前記実施形態のように電動モータ43は電力供給の有無によって作動・停止(空転)を切換えるようにし、エンジン1からの入力回転を伝達する機構にのみクラッチやブレーキ等を設けるようにすれば、選択駆動手段を比較的簡単な構成とすることができ、好ましい。
【0054】
また、前記の実施形態では本発明を、一例として自動車に搭載される自動変速機ATのオイルポンプ4に適用したが、本発明は、自動車に限らず他の車両に搭載される自動変速機にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明に係る車両用オイルポンプの駆動制御装置は、寒冷地等でもオイルポンプを確実に駆動することができるとともに、電動モータの耐久性を確保する上で有利であり、しかも高い油圧制御性が得られるものであるから、特に自動車用として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係るオイルポンプの駆動制御装置を自動車の自動変速機に適用した場合の概略構成を示す模式図である。
【図2】外接ギヤポンプの構造を模式的に示す説明図である。
【図3】オイルポンプの駆動制御の手順を示すフローチャート図である。
【図4】検出油温とオイルポンプの駆動負荷との関係を示すグラフ図である。
【図5】エンジン回転速度の変化に対応付けて電動モータの回転速度を設定したテーブルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
A 車両用オイルポンプの駆動制御装置
AT 自動変速機
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 歯車自動変速機構
4 オイルポンプ
40 ハウジング
41,42 ギヤ
43 電動モータ
44 軸部材(駆動機構)
45 電磁クラッチ(駆動力断接手段)
6 コントローラ(選択駆動手段)
6a 断接制御部
6b モータ制御部
61 回転速度センサ(回転速度検出手段)
62 温度センサ(温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の自動変速機に設けられたオイルポンプの駆動制御装置であって、
エンジンからの入力回転を利用して機械的に前記オイルポンプを駆動可能な駆動機構と、
前記オイルポンプを駆動可能に設けられた電動モータと、
前記駆動機構及び電動モータのいずれか一方により選択的にオイルポンプを駆動させる選択駆動手段と、を備えるとともに、
オイルの温度状態を検出する温度検出手段を備え、
前記選択駆動手段は、前記温度検出手段による検出温度が予め設定した値未満であれば前記駆動機構を選択する一方、前記設定値以上であれば前記電動モータを選択するように構成されている
ことを特徴とする車両用オイルポンプの駆動制御装置。
【請求項2】
駆動機構には、駆動力をオイルポンプに伝達する接続状態と、その伝達を遮断する遮断状態と、のいずれか一方に切換えられる駆動力断接手段が設けられ、
選択駆動手段は、
オイルの検出温度が設定値未満であれば前記駆動力断接手段を接続状態にし、設定値以上であれば遮断状態にする断接制御部と、
オイルの検出温度が前記設定値未満であれば電動モータの作動を停止させ、設定値以上であれば該電動モータを作動させるモータ制御部と、
を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用オイルポンプの駆動制御装置。
【請求項3】
オイルの検出温度の設定値は、それ以上の所定の温度範囲においてオイルの粘性が略一定となるような値に設定されている、ことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の車両用オイルポンプの駆動制御装置。
【請求項4】
エンジンからの入力回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、
選択駆動手段のモータ制御部は、前記回転速度検出手段による検出速度に応じて、相対的に低速側で電動モータの回転速度を低下させるように構成されている
ことを特徴とする請求項2、3のいずれかに記載の車両用オイルポンプの駆動制御装置。
【請求項5】
車両の自動変速機に設けたオイルポンプの駆動制御方法であって、
前記自動変速機へのエンジンからの入力回転を利用して機械的に前記オイルポンプを駆動可能な駆動機構を設けるとともに、該オイルポンプを駆動可能に電動モータを設けておき、
オイルの温度状態を検出して、それが予め設定した値未満であれば前記駆動機構によりオイルポンプを駆動させる一方、該設定値以上であれば前記電動モータによってオイルポンプを駆動させる
ことを特徴とする車両用オイルポンプの駆動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−208967(P2008−208967A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48720(P2007−48720)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】