説明

車両用ドア駆動装置

【課題】部品点数を削減し、構造の簡略化を図ることのできる車両用ドア駆動装置を提供する。
【解決手段】車両用ドア駆動装置は、サンギヤ38dと、サンギヤ38dを取り囲むリングギヤ39bと、サンギヤ38d及びリングギヤ39bに噛合するプラネタリギヤ41と、プラネタリギヤ41とともに公転するキャリアとからなる遊星歯車機構G1を備える。同駆動装置は、サンギヤ38dを、モータ22によって回転駆動される駆動軸とし、キャリアを従動軸とし、リングギヤ39bを固定軸とすることで、モータ22の回転を減速して、出力部材としてのドラム23に伝達して回転させ、車両ドアを開閉作動させる。こうした車両用ドア駆動装置において、ドラム23の底壁部23aにプラネタリシャフト42を取付け、同シャフト42上にプラネタリギヤ41を支持することで、同底壁部23aをキャリアとして機能させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ボディに形成されたドア開口を開閉する車両ドアを駆動する車両用ドア駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ドア駆動装置として種々のものが提案されている。例えば特許文献1に記載された車両用ドア駆動装置では、車両ボディ側に固定されたガイドレール(3)により、車両ドアが移動可能に支持されている。同駆動装置は、車両ドア側に固定される駆動部(6)及び同駆動部により選択的に巻取り・繰出しされるケーブル(7)を備えており、同ケーブルの両端末は、ガイドレールの前端及び後端において車両ボディ側にそれぞれ連結されている。従って、駆動部によりケーブルが選択的に巻取り・繰出しされると、車両ドアが開閉作動する。
【0003】
ところで、こうした車両用ドア駆動装置に適用可能な駆動部として、例えば特許文献2に記載されたものが知られている。この駆動部は、減速機構として遊星歯車機構を採用している。遊星歯車機構は、周知のように、サンギヤと、サンギヤを取り囲むリングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛合する複数のプラネタリギヤと、プラネタリギヤとともに公転するキャリアとからなる。そして、特許文献2では、モータの回転軸に直結されたサンギヤを駆動軸とし、ドラムに一体回転可能に連結されたリングギヤを従動軸とし、キャリアを固定軸とした減速比でモータの回転をドラムに伝達している。このドラムの回転に伴いケーブルが巻取り・繰出しされることで、車両ドアが開閉作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−82927号公報
【特許文献2】特表2009−523983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遊星歯車機構を減速機構として用いる場合、上記特許文献2に記載されたもの以外にも、サンギヤを駆動軸とするとともにリングギヤを固定軸とし、キャリアを従動軸とすることが考えられる。
【0006】
この場合、支持軸上にサンギヤが回転自在に支持される。また、支持軸上に、ドラム及びキャリアがそれぞれ一体回転可能に連結される。キャリアには、プラネタリシャフトを介してプラネタリギヤが回転可能に支持される。さらに、ドラム上にリングギヤが回転を係止された状態で支持される。
【0007】
上記の遊星歯車機構では、サンギヤがモータによって回転駆動されると、そのサンギヤの回転がプラネタリギヤに伝達され、各プラネタリギヤがプラネタリシャフトを軸として回転(自転)しながらサンギヤの回りを回転(公転)する。これらのプラネタリギヤとともにキャリアが公転する。このキャリアの公転が支持軸に伝達されて、同支持軸がドラムを伴って回転する。
【0008】
ところが、上記の場合には、プラネタリギヤの公転をドラムに伝達するために、遊星歯車機構の他の構成部材とは別にキャリアを用い、これを支持軸に一体回転可能に設けている。そして、キャリアの公転を、支持軸を介することでドラムに伝達している。そのため、支持軸上のキャリアの分、車両用ドア駆動装置の部品点数が多くなり、同駆動装置の構造が複雑となる。そして、これらのことが、車両用ドア駆動装置の低コスト化及び軽量化の障害となっている。
【0009】
このような問題は、リングギヤを駆動軸とするとともにサンギヤを固定軸とし、キャリアを従動軸とした場合にも同様に起こり得る。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、部品点数を削減し、構造の簡略化を図ることのできる車両用ドア駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、サンギヤと、前記サンギヤを取り囲むリングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤに噛合するプラネタリギヤと、前記プラネタリギヤとともに公転するキャリアとからなる遊星歯車機構を備え、前記サンギヤ及び前記リングギヤの一方を、モータにより回転駆動される駆動軸とするとともに他方を固定軸とし、前記キャリアを従動軸とすることで、前記モータの回転を減速して出力部材に伝達して同出力部材を回転させ、車両ドアを開閉作動させるようにした車両用ドア駆動装置であって、前記出力部材の一部により前記キャリアが構成されていることを要旨とする。
【0011】
上記の構成によれば、遊星歯車機構におけるサンギヤ及びリングギヤの一方が駆動軸とされ、他方が固定軸とされる。駆動軸がモータによって回転駆動されると、その駆動軸の回転に伴い、サンギヤ及びリングギヤに噛合されたプラネタリギヤが自転しながら、サンギヤの回りで公転する。ここで、請求項1に記載の発明では、出力部材の一部がキャリアとして機能する。そのため、プラネタリギヤがサンギヤの回りで公転すると、キャリア(出力部材)も回転し、車両ドアが開閉作動させられる。従って、プラネタリギヤの公転を出力部材に伝達して回転させるために、キャリアを別途設けなくてもよくなり、その分、車両用ドア駆動装置の部品点数が少なくなり、しかも構造が簡単になる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記出力部材は、各プラネタリギヤを支持するプラネタリシャフトが取付けられたシャフト被着部を備えており、同シャフト被着部により前記キャリアが構成されていることを要旨とする。
【0013】
上記の構成によれば、遊星歯車機構におけるサンギヤ及びリングギヤの一方が駆動軸とされてモータによって回転駆動されると、各プラネタリギヤがプラネタリシャフトを軸として自転しながら、サンギヤの回りを公転する。この公転は、プラネタリシャフトを通じてシャフト被着部に伝達される。このシャフト被着部がキャリアとして機能することで、同シャフト被着部を含む出力部材が回転する。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記プラネタリギヤ毎の前記プラネタリシャフトについて、前記シャフト被着部側の端部とは反対側の端部には鍔部が形成されていることを要旨とする。
【0015】
上記の構成によれば、プラネタリシャフトに支持されたプラネタリギヤは、出力部材のシャフト被着部と同プラネタリシャフトの鍔部とによって挟み込まれた状態となり、同プラネタリシャフトに沿う方向の動きを規制される。この規制を受けたプラネタリギヤは、サンギヤ及びリングギヤに噛合した状態に保持される。
【0016】
遊星歯車機構におけるサンギヤを駆動軸とし、リングギヤを固定軸とする場合には、請求項4に記載の発明の構成が採用されてもよい。
すなわち、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記サンギヤは、支持軸上に支持され、かつ前記モータにより回転駆動される入力部材の一部に形成され、前記出力部材は、前記支持軸上の前記入力部材とは異なる箇所に支持され、前記リングギヤは、前記入力部材上であって前記サンギヤを挟んで前記出力部材とは反対側の箇所に支持された蓋部に形成されており、前記プラネタリギヤは前記出力部材及び前記蓋部間に配置されて、前記リングギヤ及び前記サンギヤに噛合されていることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、遊星歯車機構では、サンギヤが駆動軸として機能し、リングギヤが固定軸として機能する。そして、支持軸上に支持された入力部材がモータによって回転駆動されると、その入力部材の一部に形成されたサンギヤが回転する。
【0018】
このとき、入力部材上であってサンギヤを挟んで出力部材とは反対側の箇所に支持された蓋部は回転しない。この蓋部に形成されたリングギヤもまた回転しない。
上記サンギヤの回転に伴い、出力部材及び蓋部間に配置されて、サンギヤ及びリングギヤに噛合されたプラネタリギヤが自転しながら、サンギヤの回りで公転する。支持軸上の入力部材とは異なる箇所に支持され、かつキャリアとしての機能も併せ持つ出力部材は、プラネタリギヤの公転に伴って回転する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用ドア駆動装置によれば、部品点数を削減し、構造の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を具体化した一実施形態における車両用ドア駆動装置を示す模式図。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図。
【図3】一実施形態における車両用ドア駆動装置の駆動部の分解斜視図。
【図4】一実施形態における車両用ドア駆動装置の駆動部について、一部を破断して示す正面図。
【図5】(a)は図4のB−B線に沿った断面図、(b)は(a)のC部を拡大して示す断面図。
【図6】伝達ギヤ及びピニオンの噛合関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両ボディ10の側部にはドア開口10aが形成されている。車両ボディ10の側部には、ドア開口10aの上縁及び下縁に沿ってアッパレール11及びロアレール12が設置されている。また、車両ボディ10には、ドア開口10aの後方のクォータパネル10bにおいて前後方向に延在するセンターレール13が設置されている。そして、これらアッパレール11、ロアレール12及びセンターレール13には、それぞれガイドローラユニット14を介して、車両ドアとしてのスライドドア15が前後方向に移動可能に支持されている。このスライドドア15は、前後方向への移動に伴ってドア開口10aを開閉する。
【0022】
なお、センターレール13は、ドアベルトライン付近の車両高さに配置されている。そして、クォータパネル10bには、センターレール13の下縁に沿ってその全長にわたりケーブルガイド16が設置されている。
【0023】
スライドドア15内には、ドアベルトライン付近の車両高さにおいて、例えばボルト−ナットを用いた締結により駆動部20が固定されている。すなわち、図2に示すように、駆動部20は、ドア厚さ方向(車両幅方向)において、スライドドア15のドア内張りを構成するドアトリム17と、ドア内板を構成するドアインナパネル18との間に挟まれる態様で、そのドアインナパネル18に固定されている。
【0024】
なお、駆動部20の搭載位置では、スライドドア15の内部を昇降するドアウインドガラスDWは、ドアインナパネル18よりも外側(車両幅方向外側)に配置されている。すなわち、駆動部20は、車両高さにおいてドアウインドガラスDWと重なるように配置されるものの、そのドアウインドガラスDWの昇降動作を妨げることはない。
【0025】
図1に示すように、駆動部20は、ブラシモータからなるモータ22と、そのモータ22により回転駆動される出力部材としてのドラム23とを備えている。ドラム23には、ロープ部材としての第1ケーブル24及び第2ケーブル25がそれぞれ巻回されている。すなわち、第1ケーブル24及び第2ケーブル25の各々は、一方の端末がドラム23に係止された状態でそのドラム23に巻回されている。第1ケーブル24及び第2ケーブル25は、駆動部20により選択的に巻取り・繰出しされる。
【0026】
また、駆動部20は、プーリ機構としての中間プーリ26を備えている。第1ケーブル24及び第2ケーブル25の各々は、中間プーリ26及びセンターレール13を移動するガイドローラユニット14に連結された案内プーリ27を経てスライドドア15側から車両ボディ10側へ渡され、ケーブルガイド16に沿って前後方向に配索されている。なお、中間プーリ26及び案内プーリ27は、ドアベルトライン付近となるドラム23の後方位置、及びさらにその後方位置にそれぞれ配置されている。
【0027】
そして、第1ケーブル24は、ケーブルガイド16に案内されて前側に配索され、他方の端末に連結されたテンショナー28を介して、ケーブルガイド16の前端側で車両ボディ10側に、例えばボルト−ナットを用いた締結によって連結されている。また、第2ケーブル25は、ケーブルガイド16に案内されて後側に配索され、他方の端末に連結されたテンショナー29を介して、ケーブルガイド16の後端側で車両ボディ10側に、例えばボルト−ナットを用いた締結によって連結されている。
【0028】
このような構成にあって、例えば駆動部20により第1ケーブル24を繰出しつつ第2ケーブル25を巻き取ると、スライドドア15はドア開口10aを開放すべく後方に移動する。一方、駆動部20により第1ケーブル24を巻き取りつつ第2ケーブル25を繰出すと、スライドドア15はドア開口10aを閉鎖すべく前方に移動する。
【0029】
なお、ドラム23から巻取り・繰出しされる第1ケーブル24及び第2ケーブル25の延在方向が案内プーリ27に渡される方向に一致する場合には、中間プーリ26は割愛されてもよい。
【0030】
次に、上記駆動部20の構造についてさらに説明する。
図3〜図5(a),(b)に示すように、駆動部20は、その外形をなすとともに各種構成部品を収容及び支持するケース30を備える。このケース30は、各種構成部品の収容空間を形成するケース本体31と、そのケース本体31の互いに相反する方向(車両幅方向)に開口する開口部をそれぞれ閉塞する第1カバー32及び第2カバー33(図3参照)とを備えている。駆動部20は、ケース本体31がドアインナパネル18に締結されることで、そのドアインナパネル18に固定・支持される。なお、ケース30の構成部材であるケース本体31、第1カバー32及び第2カバー33の各々は、例えば樹脂材によって成形されている。
【0031】
ケース本体31は、モータホルダ部31a、ギヤ収容部31b、レバー収容部31d、基板収容部31e及び一対のプーリ収容部31f,31gを一体的に有する。モータホルダ部31aは、ケース本体31の車両前側上縁部に配置され、ギヤ収容部31bは、有底略円筒状をなし、モータホルダ部31aの車両後下側に隣接配置されている。レバー収容部31dは、有底略扇形筒状をなし、ギヤ収容部31bの車両後側に隣接配置されている。基板収容部31eは有蓋筒状をなし、ギヤ収容部31b及びレバー収容部31d間に延在する態様で同ギヤ収容部31bの下側に隣接配置されている。両プーリ収容部31f,31gは、レバー収容部31dの上側であってギヤ収容部31bの車両後側に上下に並べられた状態で配設されている。なお、ギヤ収容部31b及びレバー収容部31dは、円形の筒部の一部が重なる態様で連通している。さらに、プーリ収容部31f,31gは、ギヤ収容部31bにそれぞれ連通している。
【0032】
図4〜図6に示すように、モータホルダ部31aには上記モータ22が組付けられている。モータ22の回転軸22bの軸線は、ギヤ収容部31bの中心に向かう方向に対しオフセットした方向へ延びている。回転軸22bには、ピニオン34が一体回転可能に連結されている。ピニオン34はモータホルダ部31aに対し、転がり軸受35により回転自在に支持されている。ピニオン34には、2条(偶数条数)のねじ部(いわゆる歯数の少ない高減速ヘリカルギヤ)34aが形成されている。なお、ピニオン34の条数は、4条以上の偶数条であってもよいし、1条を除く奇数条であってもよい。
【0033】
図5(a),(b)に示すように、ケース本体31及び第1カバー32には、車両幅方向(図5(a),(b)の上下方向)に延びる略円柱状の支持軸36が回転自在に支持されている。より詳しくは、ギヤ収容部31bの底壁中央には円形の軸受孔31jが形成されている。また、第1カバー32において上記軸受孔31jと対向する箇所には、円形の軸受穴32bが形成されている。一方、支持軸36の両端部には、それぞれ略円柱状をなす軸部36a,36bが形成されている。そして、軸部36aが軸受孔31jに軸支され、軸部36bが軸受穴32bに軸支されている。
【0034】
支持軸36において、後述する伝達ギヤ38が支持される箇所とは異なる箇所、ここでは、軸部36aよりも第1カバー32側に隣接する箇所にはセレーション36cが形成されており、同箇所に上記ドラム23が一体回転可能に連結されている。すなわち、ドラム23は、前記第1カバー32側に開口する有底略円筒状に形成されている。ドラム23は、その内周側に円形の収容空間Sを有している。ドラム23の底壁部23aの中央部には、セレーション23cを有する挿通孔23bが貫通している。そして、支持軸36がこの挿通孔23bに挿通され、ドラム23のセレーション23cが支持軸36のセレーション36cに係合されている。
【0035】
支持軸36において、軸部36bに隣接する箇所は同軸部36bよりも大径の軸部36dとなっている。この軸部36d上には、モータ22によって回転駆動される入力部材として、伝達ギヤ38が回転自在に支持されている。すなわち、伝達ギヤ38は、その中心部分に略円筒状の軸受部38aを有しており、この軸受部38aが支持軸36の軸部36d上に回転自在に外嵌されている。
【0036】
図5(a),(b)及び図6に示すように、伝達ギヤ38は、上記軸受部38aの第1カバー32側の端部から、同軸受部38aの径方向外側へ延出して、ギヤ収容部31bの開口端面を覆う円盤ギヤ部38bを有している。円盤ギヤ部38bの外周縁部であって、ピニオン34に対向する側(図5(a),(b)の下側)の面には、円環状に配設された複数の歯部38cが形成されている。これら歯部38cは、ピニオン34のねじ部34aに対して転がり接触(線接触)の状態で歯合するようにねじれを持って成形されている。そのため、ピニオン34(ねじ部34a)が回転すると、その回転がねじ部34aの条数及び円盤ギヤ部38bの歯数の比に応じて減速されて伝達ギヤ38に伝達され、同伝達ギヤ38が回転する。
【0037】
なお、ねじ部34a及び円盤ギヤ部38bの一方が樹脂で作製され、他方が金属で作製されていると、異音が生じにくい。
図3、図4及び図5(a),(b)に示すように、軸受部38aの外周部分において、セレーション36cと隣接する箇所にはサンギヤ38dが形成されている。軸受部38aの外周部分において、サンギヤ38dよりも第1カバー32側の部分、すなわち、伝達ギヤ(入力部材)38上であって、サンギヤ38dを挟んでドラム23(出力部材)とは反対側(図5(b)の上側))の部分には、ギヤ部材39が回転自在に支持されている。ギヤ部材39は、略円盤状をなし、かつドラム23の開口端面を覆う蓋部39aと、その蓋部39aからドラム23側へ突出し、サンギヤ38dを取り囲む円環状のリングギヤ39bとを備えて構成されている。蓋部39aの中央部には、円形の軸受孔39cが形成されている。蓋部39aは、この軸受孔39cにおいて上記軸受部38aに対し回転自在に外嵌されている。蓋部39aの外周部には、略三角形状をなす複数の係止歯39dが形成されている。
【0038】
リングギヤ39bは、ドラム23の上記収容空間Sに収容されている。リングギヤ39bの内周部には内歯が形成されている。
ドラム23の底壁部23a及び蓋部39a間には、複数(本実施形態では3つ)のプラネタリギヤ41が、伝達ギヤ38のサンギヤ38dとリングギヤ39bとに噛合した状態で配設されている。すなわち、ドラム23の底壁部23aがシャフト被着部とされ、この底壁部23aに複数の取付孔23dが等角度間隔で貫通されている。そして、支持軸36に平行に配置された複数本のプラネタリシャフト42の端部42aが対応する取付孔23dに挿入されて、抜け落ち不能に係止されている。各プラネタリシャフト42上には、上記プラネタリギヤ41が回転自在に支持されている。
【0039】
プラネタリギヤ41毎のプラネタリシャフト42について、底壁部23a側の端部42aとは反対側の端部には、鍔部42cが形成されている。そして、この鍔部42cと底壁部23aとによって、プラネタリギヤ41が軸線方向についての両側から挟み込まれている。各プラネタリギヤ41は、プラネタリシャフト42の回りで回転(自転)しつつサンギヤ38dの回りを回転(公転)可能である。上記プラネタリシャフト42が取付けられた底壁部23a(シャフト被着部)は、プラネタリギヤ41とともに公転するキャリアを構成している。
【0040】
上記のように、サンギヤ38dと、サンギヤ38dを取り囲むリングギヤ39bと、サンギヤ38d及びリングギヤ39bに噛合するプラネタリギヤ41と、プラネタリギヤ41とともに公転するキャリアとして機能するドラム23の底壁部23a(シャフト被着部)とによって、減速機構としての遊星歯車機構G1が構成されている。
【0041】
図3及び図4に示すように、レバー収容部31dには、カム孔43aが形成された切替えレバー43が回転自在に支持されている。切替えレバー43及びギヤ部材39間には、係脱ブロック44が同ギヤ部材39の径方向への移動可能に配置されている。そして、この係脱ブロック44に設けられた係合ピン44aが上記カム孔43aに挿通されている。また、係脱ブロック44には、上記ギヤ部材39の係止歯39dに係合し得る複数の係止歯44bが形成されている。
【0042】
そして、切替えレバー43が回転されることにより、カム孔43aにおける係合ピン44aの位置が変化し、係脱ブロック44がギヤ部材39に接近又は離間させられる。モータ22によってドラム23を回転させてスライドドア15を開閉作動させる際には、係脱ブロック44がギヤ部材39側へ押し出され、その係止歯44bがギヤ部材39の係止歯39dに噛合い、ギヤ部材39が回転不能に係止される。
【0043】
また、手動でドラム23を回転させてスライドドア15を開閉作動させる際には、係脱ブロック44が切替えレバー43側へ引き戻され、係止歯44bの係止歯39dとの噛合が解除され、ギヤ部材39が回転可能になる。なお、図5(a),(b)では、切替えレバー43については、その一部のみが図示されている。
【0044】
プーリ収容部31f,31gには、互いに異なる外径を有するプーリ45,46が回転自在に支持されている。両プーリ45,46は、前記中間プーリ26を構成するもので、ドラム23から巻取り・繰出しされる第1ケーブル24及び第2ケーブル25がそれぞれ案内される態様で掛けられる。両プーリ45,46は、第1ケーブル24及び第2ケーブル25を、防塵用のケーブルグロメット47を介して前記案内プーリ27に渡す。
【0045】
基板収容部31eには、ECU(electronic control units)基板(図示略)が収容されている。このECU基板には、マイクロコンピュータを主体に構成されたECU等が実装されている。
【0046】
なお、前記ケース本体31には、モータホルダ部31aに保持されたモータ22の給電部とECU基板とを電気的に接続するためのバスバー(図示略)が埋設されている。
上記のようにして、本実施形態の車両用ドア駆動装置が構成されている。次に、この車両用ドア駆動装置の作用について説明する。
【0047】
係脱ブロック44の係止歯44bが係止歯39dに噛合されて、リングギヤ39b(ギヤ部材39)が回転不能に係止されている状態でモータ22が回転すると、その回転は、ピニオン34及び円盤ギヤ部38bを介して第1段の減速がなされて伝達ギヤ38に伝達される。そして、伝達ギヤ38(円盤ギヤ部38b)の回転は、遊星歯車機構G1において、伝達ギヤ38のサンギヤ38dを駆動軸とし、キャリア(ドラム23の底壁部23a)を従動軸とし、リングギヤ39bを固定軸とした減速比で第2段の減速がなされてドラム23に伝達される。すなわち、伝達ギヤ38(円盤ギヤ部38b)の回転に伴いサンギヤ38dが回転されると、同サンギヤ38d及びリングギヤ39bに噛合された各プラネタリギヤ41が、ドラム23の底壁部23a(シャフト被着部)に取付けられたプラネタリシャフト42を軸としてその回りを回転(自転)しながら、サンギヤ38dの回りを回転(公転)する。この公転に伴い、プラネタリシャフト42がサンギヤ38dの回りを変位する。
【0048】
ここで、本実施形態では、ドラム23の一部を構成する底壁部23aがキャリアとして機能する。そのため、上記のようにプラネタリギヤ41及びプラネタリシャフト42がサンギヤ38dの回りで公転すると、底壁部23aを通じてドラム23に対し、これを回転させようとする力が伝わる。この力により、ドラム23がサンギヤ38dの回りで回転するようになる。
【0049】
このように、モータ22の回転は、ピニオン34及び円盤ギヤ部38bと、遊星歯車機構G1とを介して十分に減速されてドラム23に伝達される。ドラム23の回転に伴い、第1ケーブル24及び第2ケーブル25が巻取り・繰出しされ、スライドドア15が開閉作動する。従って、プラネタリギヤ41の公転をドラム23に伝達して回転させるために、キャリアを別途設けなくてもすむ。
【0050】
また、リングギヤ39bが回転不能に係止されている上記状態でスライドドア15を手動で開閉操作する場合、仮に係脱ブロック44によるリングギヤ39bの係止状態が維持されたとしても、スライドドア15の開閉作動に伴うドラム23の回転は、遊星歯車機構G1、ピニオン34及び円盤ギヤ部38bにおいて効率よく伝達される。そのため、ある程度の操作力でモータ22(回転軸22b)等を回転しつつスライドドア15の開閉操作が可能となる。
【0051】
一方、係脱ブロック44によるリングギヤ39bの係止状態が解除されている状態で、スライドドア15を手動で開閉操作する場合、これに伴うドラム23(キャリア)の回転はリングギヤ39b(ギヤ部材39)を空転させつつ許容される。このように、係脱ブロック44等によりドラム23側からの回転トルクとモータ22の回転軸22b側からの駆動トルクとを切り離すことで、軽微な操作力によるスライドドア15の開閉操作が可能となる。
【0052】
なお、各プラネタリシャフト42に支持されたプラネタリギヤ41は、ドラム23の底壁部23aと同プラネタリシャフト42の鍔部42cとによって挟み込まれた状態となり、同プラネタリシャフト42に沿う方向の動きを規制される。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)遊星歯車機構G1のサンギヤ38dを、モータ22によって回転駆動される駆動軸とするとともに、リングギヤ39bを固定軸とし、キャリアを従動軸とすることで、モータ22の回転を減速して、出力部材としてのドラム23に伝達して同ドラム23を回転させ、スライドドア15を開閉作動させる。このように構成した車両用ドア駆動装置において、ドラム23の一部によってキャリアを構成するようにしている。
【0054】
そのため、プラネタリギヤ41の公転をドラム23に伝達して回転させるために、キャリアを別途設けなくてもすむ。その分、車両用ドア駆動装置の部品点数が少なくなり、構造が簡単になる。これに伴い、コストの低減、及び軽量化を図ることもできる。
【0055】
また、キャリアは、通常、プラネタリシャフト42の軸線方向についての両側に設けられる。本実施形態では、このキャリアを設けなくてもすむことから、同軸線方向についての駆動部20の小型化を図ることができる。
【0056】
(2)キャリアを別途設ける場合には、通常、そのキャリアはドラムとともに支持軸に一体回転可能に連結される。支持軸上には、サンギヤが回転自在に支持される。ドラム上には、リングギヤが回転を係止された状態で支持される。
【0057】
上記の構成を有する遊星歯車機構では、サンギヤがモータによって回転駆動されると、そのサンギヤの回転がプラネタリギヤに伝達され、各プラネタリギヤが自転しながらサンギヤの回りで公転する。これらのプラネタリギヤとともにキャリアが公転する。このキャリアの公転が支持軸に一旦伝達されて、同支持軸がドラムを伴って回転する。このように、キャリアの回転が支持軸を介してドラムに伝達される。
【0058】
これに対し、本実施形態では、ドラム23の一部をキャリアとして機能させるようにしている。そのため、プラネタリギヤ41の回転(公転)を、支持軸36を介さずにドラム23に直接伝達することができる。
【0059】
(3)ドラム23の底壁部23aをシャフト被着部とし、ここにプラネタリシャフト42を取付ける。そして、各プラネタリシャフト42上にプラネタリギヤ41を支持している。
【0060】
こういった構成を採用することで、プラネタリシャフト42を通じて底壁部23aに各プラネタリギヤ41の公転が伝達されたときに、同底壁部23aをキャリアとして機能させ、同底壁部23aを含むドラム23を回転させることができる。その結果、上記(1),(2)の効果が確実に得られるようになる。
【0061】
なお、上記のように底壁部23aにプラネタリシャフト42を取付ける構成は、同底壁部23aとプラネタリシャフト42との間にリングギヤ39bが介在していては成り立たない。本実施形態のように、蓋部39aを、伝達ギヤ38上であってサンギヤ38dを挟んでドラム23とは反対側となる箇所に支持し、この蓋部39aからドラム23側へリングギヤ39bを突出させることによって、上記の構成を成立させることができる。ドラム23と蓋部39aとの間に、プラネタリシャフト42及びプラネタリギヤ41を配置する空間が形成されるからである。
【0062】
(4)プラネタリギヤ41毎のプラネタリシャフト42について、底壁部23a(シャフト被着部)側の端部42aとは反対側の端部に鍔部42cを形成している。
そのため、この底壁部23aと鍔部42cとによって、プラネタリギヤ41を挟み込んで、プラネタリシャフト42の軸線に沿う方向のプラネタリギヤ41の動きを規制し、プラネタリギヤ41をサンギヤ38d及びリングギヤ39bに噛合した状態に保持することができる。
【0063】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・本発明の車両用ドア駆動装置は、リングギヤ39bを、モータ22によって回転駆動される駆動軸とし、キャリアを従動軸とし、サンギヤ38dを固定軸とすることで、モータ22の回転を減速して、出力部材としてのドラム23に伝達して回転させ、車両ドアを開閉作動させるものにも適用可能である。
【0064】
この場合にも、ドラム23の底壁部23aにプラネタリシャフト42を直接取付け、同プラネタリシャフト42上にプラネタリギヤ41を支持することで、同底壁部23aをキャリアとして機能させる。このようにすることで、前記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0065】
・駆動部20を車両ボディ10側に固定してもよい。例えばクォータパネル10bに駆動部20を搭載する場合には、その駆動部20側にテンショナー28,29を繋ぐことがより好ましい。また、ドア開口10aの踏み台となるステップに駆動部20を搭載する場合には、出力部材としてのベルトプーリ及びロープ部材としてのベルトを採用することがより好ましい。
【0066】
・モータ22の回転を伝達ギヤ38に伝達する機構として、上記実施形態(円盤ギヤ部38b及びピニオン34からなるフェースギヤ)とは異なる機構、例えば平歯車の組合わせ、ウォームギヤ等が用いられてもよい。
【0067】
・本発明は、スライドドア15に限らず、ヒンジ式の車両ドアを開閉作動させる車両用ドア駆動装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
15…スライドドア(車両ドア)、22…モータ、23…ドラム(出力部材、キャリア)、23a…底壁部(シャフト被着部)、36…支持軸、38…伝達ギヤ(入力部材)、38d…サンギヤ(駆動軸)、39a…蓋部、39b…リングギヤ(固定軸)、41…プラネタリギヤ、42…プラネタリシャフト、42a…端部、42c…鍔部、G1…遊星歯車機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤと、前記サンギヤを取り囲むリングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤに噛合するプラネタリギヤと、前記プラネタリギヤとともに公転するキャリアとからなる遊星歯車機構を備え、
前記サンギヤ及び前記リングギヤの一方を、モータにより回転駆動される駆動軸とするとともに他方を固定軸とし、前記キャリアを従動軸とすることで、前記モータの回転を減速して出力部材に伝達して同出力部材を回転させ、車両ドアを開閉作動させるようにした車両用ドア駆動装置であって、
前記出力部材の一部により前記キャリアが構成されていることを特徴とする車両用ドア駆動装置。
【請求項2】
前記出力部材は、各プラネタリギヤを支持するプラネタリシャフトが取付けられたシャフト被着部を備えており、同シャフト被着部により前記キャリアが構成されている請求項1に記載の車両用ドア駆動装置。
【請求項3】
前記プラネタリギヤ毎の前記プラネタリシャフトについて、前記シャフト被着部側の端部とは反対側の端部には鍔部が形成されている請求項2に記載の車両用ドア駆動装置。
【請求項4】
前記サンギヤは、支持軸上に支持され、かつ前記モータにより回転駆動される入力部材の一部に形成され、
前記出力部材は、前記支持軸上の前記入力部材とは異なる箇所に支持され、
前記リングギヤは、前記入力部材上であって前記サンギヤを挟んで前記出力部材とは反対側の箇所に支持された蓋部に形成されており、
前記プラネタリギヤは前記出力部材及び前記蓋部間に配置されて、前記リングギヤ及び前記サンギヤに噛合されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用ドア駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97486(P2012−97486A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246977(P2010−246977)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】