説明

車両用ニーエアバッグ装置

【課題】質量及びコストの増加を抑えつつ、ニーエアバッグによる乗員の膝部に対する拘束性能を確保する。
【解決手段】車両用ニーエアバッグ装置10は、車体に固定されたケース18と、車両前突時にケース18の車両後側で膨張展開されるニーエアバッグ14とを有するニーエアバッグモジュール12と、車両用ペダル装置54とケース18との間に設けられ、車両前突時に車両用ペダル装置54からの衝突荷重をケース18に伝達してケース18を車両後側へ移動させる第一荷重伝達部材42とを備えている。この構成によれば、車両前突時にはケース18と共にニーエアバッグ14が車両後側へ移動されるので、ニーエアバッグ14による乗員の膝部に対する拘束性能が確保される。また、乗員の膝部に対する拘束性能を確保するために、インパネリインフォースメント26へのケース18の固定部を大幅に補強する必要が無いので、質量及びコストの増加も抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ニーエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インパネリインフォースメントにブラケットを介して固定されたニーエアバッグモジュールを備えた車両用乗員膝部保護装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−252162号公報
【特許文献2】特開2004−98869号公報
【特許文献3】特開2004−196026号公報
【特許文献4】特開2004−98868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の例では、車両前突時における減速度が高い場合、ニーエアバッグモジュールが車両前側へ移動しないように、ブラケットを大幅に補強する必要が生じる虞がある。ところが、この場合、質量及びコストが増加する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、質量及びコストの増加を抑えつつ、ニーエアバッグによる乗員の膝部に対する拘束性能を確保することができる車両用ニーエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の車両用ニーエアバッグ装置は、車体に固定されたケースと、前記ケースに折畳状態で収納され、車両前突時にガスの供給を受けて前記ケースの車両後側で膨張展開されるニーエアバッグと、を有するニーエアバッグモジュールと、前記ケースよりも車両前側に設けられ、車両前突時に衝突荷重を受けて後退される車両構造部と、前記ケースと前記車両構造部との間に設けられ、車両前突時に前記車両構造部からの衝突荷重を前記ケースに伝達して前記ケースを車両後側へ移動させる荷重伝達部と、を備えている。
【0007】
この車両用ニーエアバッグ装置によれば、車両前突時には、ニーエアバッグにガスが供給されて、このニーエアバッグがケースの車両後側で膨張展開される。
【0008】
また、このときには、車両構造部が衝突荷重を受けて後退されると共に、この車両構造部からの衝突荷重が荷重伝達部を介してケースに伝達されて、このケースと共にニーエアバッグが車両後側へ移動させられる。従って、ニーエアバッグによる乗員の膝部に対する拘束性能を確保することができる。
【0009】
また、このように車両前突時にケースと共にニーエアバッグを車両後側へ移動させることで、ニーエアバッグによる乗員の膝部に対する拘束性能が確保されるので、インパネリインフォースメントへのケースの固定部を大幅に補強する必要が無い。従って、質量及びコストの増加も抑えることができる。
【0010】
請求項2に記載の車両用ニーエアバッグ装置は、請求項1に記載の車両用ニーエアバッグ装置において、前記車両構造部の少なくとも一部が車両用ペダル装置とされた構成とされている。
【0011】
この車両用ニーエアバッグ装置によれば、荷重伝達部に衝突荷重を伝達する車両構造部の少なくとも一部が、車両用ペダル装置とされており、既存の構造が利用されているので、質量及びコストの増加をより一層抑えることができる。
【0012】
また、ダッシュパネルよりも車両後側に配置された車両用ペダル装置を利用することにより、荷重伝達部を小型化することができる。
【0013】
請求項3に記載の車両用ニーエアバッグ装置は、請求項1又は請求項2に記載の車両用ニーエアバッグ装置において、前記車両構造部の少なくとも一部がエンジンルームと車室とを隔成するダッシュパネルとされた構成とされている。
【0014】
この車両用ニーエアバッグ装置によれば、荷重伝達部に衝突荷重を伝達する車両構造部の少なくとも一部が、ダッシュパネルとされており、既存の構造が利用されているので、質量及びコストの増加をより一層抑えることができる。
【0015】
請求項4に記載の車両用ニーエアバッグ装置は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車両用ニーエアバッグ装置において、前記荷重伝達部が、前記ケースにおける車両幅方向一方側と前記車両構造部との間に設けられた第一荷重伝達部と、前記ケースにおける車両幅方向他方側と前記車両構造部との間に設けられた第二荷重伝達部と、を有する構成とされている。
【0016】
この車両用ニーエアバッグ装置によれば、ケースにおける車両幅方向一方側と他方側に第一荷重伝達部及び第二荷重伝達部から衝突荷重が伝達されるので、ケースと共にニーエアバッグを車両幅方向にバランス良く車両後側へ移動させることができる。これにより、車両用シートに着座する乗員の両方の膝部をニーエアバッグでバランス良く拘束することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、本発明によれば、質量及びコストの増加を抑えつつ、ニーエアバッグによる乗員の膝部に対する拘束性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ニーエアバッグ装置の車体への取付状態を示す車両後側から見た図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図1に示される車両用ニーエアバッグ装置の車両前突時の状態を示す図2に対応する側面断面図である。
【図5】図1に示される車両用ニーエアバッグ装置の車両前突時の状態を示す図3に対応する側面断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る車両用ニーエアバッグ装置の変形例を示す図2に対応する側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
なお、各図において示される矢印UP、矢印FR、矢印OUTは、車両上下方向上側、車両前後方向前側、車両幅方向外側(車両左側)をそれぞれ示している。
【0021】
図1に示される本発明の一実施形態に係る車両用ニーエアバッグ装置10は、運転席側に設けられており、ニーエアバッグモジュール12を備えている。ニーエアバッグモジュール12は、図示しない運転席に着座する乗員の膝部の車両前側に位置するように配置されており、ニーエアバッグ14と、インフレータ16と、ケース18とを備えている。
【0022】
ニーエアバッグ14は、後述するケース18に折畳状態で収納されている。インフレータ16は、図示しない制御装置からの作動信号が入力されると、ニーエアバッグ14の内部にガスを噴射する構成とされており、ケース18に収納されている。
【0023】
ケース18は、車両幅方向に延在されており、その延在方向両端側には、車両上側に延出する一対のアーム20,22が形成されている。一方のアーム20は、ブラケット24を介してインパネリインフォースメント26に固定されており、他方のアーム22は、ブラケット28を介してフロアブレース30に固定されている。
【0024】
なお、フロアブレース30の上側は、ブラケット32を介してインパネリインフォースメント26に固定されており、また、ケース18の車両幅方向内側とフロアブレース30とは、ブラケット34を介して連結されている。
【0025】
このケース18は、図2に示されるように、車両後側に開放する開口36を有しており、インストルメントパネル38の下部を構成するインパネロア40によって車両後側及び車両下側から覆われている。
【0026】
このケース18の車両幅方向一方側(車両右側)には、図2に示されるように、第一荷重伝達部としての第一荷重伝達部材42が設けられている。この第一荷重伝達部材42は、ケース18から車両前側に向けて延出されており、その先端部は、このケース18よりも車両前側に設けられたダッシュパネル44と近接した状態で対向されている。なお、ダッシュパネル44は、エンジンルーム46と車室48とを隔成しており、このダッシュパネル44の車室48側には、ダッシュサイレンサ50が設けられている。
【0027】
一方、ケース18の車両幅方向他方側(車両左側)には、図3に示されるように、第二荷重伝達部としての第二荷重伝達部材52が設けられている。この第二荷重伝達部材52は、ケース18から車両前側に向けて延出されており、その先端部は、このケース18よりも車両前側に設けられた車両用ペダル装置54と近接した状態で対向されている。
【0028】
車両用ペダル装置54は、ペダルブラケット56と、ブレーキペダル58と、コイルスプリング60とを有して構成されており、ブレーキペダル58は、さらに、ペダルパッド62、ペダルアーム64、ペダルサポート66、揺動アーム68等を有して構成されている。そして、第二荷重伝達部材の先端部は、より具体的には、ペダルブラケット56と近接した状態で対向されている。
【0029】
なお、本実施形態において、ダッシュパネル44は、本発明における車両構造部の一部に相当し、車両用ペダル装置54は、本発明における車両構造部の他の一部に相当する。また、第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52によって本発明における荷重伝達部が構成されている。
【0030】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0031】
この車両用ニーエアバッグ装置10によれば、車両に前突が生じたことが検出された場合又は車両に前突が生じることが予測された場合に図示しない制御装置から出力された作動信号がインフレータ16に入力されると、インフレータ16からニーエアバッグ14の内部にガスが噴射される。そして、このニーエアバッグ14は、図4,図5に示されるように、インパネロア40の一部を突き破ってケース18の車両後側で膨張展開される。
【0032】
また、このときには、図4に示されるように、ダッシュパネル44が衝突荷重Fを受けて後退され、このダッシュパネル44がダッシュサイレンサ50を介して第一荷重伝達部材42の先端部に突き当たる。そして、このダッシュパネル44からの衝突荷重Fが第一荷重伝達部材42を介してケース18の車両幅方向一方側に伝達される。
【0033】
また、これとほぼ同時に、図5に示されるように、車両用ペダル装置54がダッシュパネル44から衝突荷重Fを受けて後退され、この車両用ペダル装置54のペダルブラケット56が第二荷重伝達部材52の先端部に突き当たる。そして、このペダルブラケット56からの衝突荷重Fが第二荷重伝達部材52を介してケース18の車両幅方向他方側に伝達される。
【0034】
そして、このようにしてダッシュパネル44及び車両用ペダル装置54からの衝突荷重Fが第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52を介してケース18に伝達されると、このケース18と共にニーエアバッグ14が車両後側へ移動させられる。従って、ニーエアバッグ14による乗員の膝部100に対する拘束性能を確保することができる。
【0035】
また、このように車両前突時にケース18と共にニーエアバッグ14を車両後側へ移動させることで、ニーエアバッグ14による乗員の膝部100に対する拘束性能が確保されるので、インパネリインフォースメント26へのケース18の固定部、すなわち、ケース18に設けられた一対のアーム20,22、ブラケット24,32,28,34及びフロアブレース30(図1参照)を大幅に補強する必要が無い。従って、質量及びコストの増加も抑えることができる。
【0036】
しかも、ケース18における車両幅方向一方側と他方側に第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52から衝突荷重が伝達されるので、ケース18と共にニーエアバッグ14を車両幅方向にバランス良く車両後側へ移動させることができる。これにより、運転席に着座する乗員の両方の膝部100をニーエアバッグ14でバランス良く拘束することができる。
【0037】
また、第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52に衝突荷重を伝達する車両構造部が、ダッシュパネル44及び車両用ペダル装置54とされており、既存の構造が利用されているので、質量及びコストの増加をより一層抑えることができる。
【0038】
また、ダッシュパネル44よりも車両後側に配置された車両用ペダル装置54を利用することにより、第二荷重伝達部材52を小型化することができる。
【0039】
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0040】
図2,図3に示されるように、第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52は、ケース18と別体に構成されて、ケース18に一体に設けられていたが、第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52と同様の機能を有する第一荷重伝達部及び第二荷重伝達部がケース18に一体に形成されていても良い。
【0041】
また、第一荷重伝達部材42の先端部は、ダッシュパネル44と近接した状態で対向されていたが(すなわち、ダッシュパネル44と離間されていたが)、ダッシュパネル44に結合されていても良い。
【0042】
また、図6に示されるように、ダッシュパネル44にベース部材70が設けられると共に、上述の第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52(図2,図3参照)と同様の機能を有する荷重伝達部としての荷重伝達部材72,74がケース18に設けられ(溶接され)、荷重伝達部材72,74の前端部がベース部材70に結合(締結固定)されていても良い。また、この場合に、荷重伝達部材72,74は、ベース部材70に設けられて(溶接されて)いても良い。
【0043】
また、図2に示されるように、第一荷重伝達部材42は、ケース18からダッシュパネル44に向けて延出されていたが、ダッシュパネル44からケース18に向けて延出されていても良い。同様に、図3に示されるように、第二荷重伝達部材52は、ケース18から車両用ペダル装置54に向けて延出されていたが、車両用ペダル装置54からケース18に向けて延出されていても良い。
【0044】
また、第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52に荷重を与える車両構造部は、ダッシュパネル44や車両用ペダル装置54以外のその他の部材(例えば、ダッシュリインフォースメントなど)でも良い。
【0045】
また、図3に示されるように、第二荷重伝達部材52は、ブレーキペダル58を有する車両用ペダル装置54に向けて延出されていたが、その他の図示しない操作ペダル(例えば、パーキングブレーキペダル、クラッチペダルなど)を有する車両用ペダル装置に向けて延出されていても良い。
【0046】
また、第二荷重伝達部材52は、ペダルブラケット56から荷重を受ける構成とされていたが、車両用ペダル装置54を構成するその他の部材から荷重を受ける構成とされていても良い。
【0047】
また、図2,図3に示されるように、ケース18には、第一荷重伝達部材42及び第二荷重伝達部材52が設けられていたが、一つの荷重伝達部材が設けられていても良い。また、この場合に、この一つの荷重伝達部材は、ダッシュパネル44及び車両用ペダル装置54のうちの一方から反力を受けるように構成されていても良い。
【0048】
また、車両用ニーエアバッグ装置10は、運転席側だけでなく、助手席側に適用されても良い。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10 車両用ニーエアバッグ装置
12 ニーエアバッグモジュール
14 ニーエアバッグ
18 ケース
42 第一荷重伝達部材(第一荷重伝達部)
44 ダッシュパネル(車両構造部の一部)
52 第二荷重伝達部材(第二荷重伝達部)
54 車両用ペダル装置(車両構造部の他の一部)
72,74 荷重伝達部材(荷重伝達部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されたケースと、前記ケースに折畳状態で収納され、車両前突時にガスの供給を受けて前記ケースの車両後側で膨張展開されるニーエアバッグと、を有するニーエアバッグモジュールと、
前記ケースよりも車両前側に設けられ、車両前突時に衝突荷重を受けて後退される車両構造部と、
前記ケースと前記車両構造部との間に設けられ、車両前突時に前記車両構造部からの衝突荷重を前記ケースに伝達して前記ケースを車両後側へ移動させる荷重伝達部と、
を備えた車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項2】
前記車両構造部の少なくとも一部は、車両用ペダル装置とされている、
請求項1に記載の車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項3】
前記車両構造部の少なくとも一部は、エンジンルームと車室とを隔成するダッシュパネルとされている、
請求項1又は請求項2に記載の車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項4】
前記荷重伝達部は、
前記ケースにおける車両幅方向一方側と前記車両構造部との間に設けられた第一荷重伝達部と、
前記ケースにおける車両幅方向他方側と前記車両構造部との間に設けられた第二荷重伝達部と、を有する、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車両用ニーエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207418(P2011−207418A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78898(P2010−78898)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】