説明

車両用バックドアの支持構造

【課題】ピラー部材のバックドア支持剛性を十分に確保できるとともに、プラグを不要にしてコストを低減できる車両用バックドアの支持構造を提供する。
【解決手段】ピラー部材3内の少なくとも下側のドアヒンジ11に臨む部分には、バルクヘッド20が配置され、該バルクヘッド20は、アウタ部材3aに当接する第1,第2結合部20a,20bと、該第1,第2結合部20a,20bからインナ部材3bに向って延びる第1,第2縦壁20c,20dと、該第1,第2縦壁20c,20d同士を連結し、該インナ部材3bに当接する第3結合部20eとを有し、該第3結合部20eは、上記アウタ部材3aに第3結合部20eに対向するよう形成された作業孔3a′を介して上記インナ部材3bとともにアンダボディ部材22に結合され、上記下側のドアヒンジ11は、上記アウタ部材3aに該作業孔3a′を覆うように配置され、該アウタ部材3aとともに上記第1,第2結合部20a,20bに結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のバックドア開口部を形成するピラー部材により、上,下一対のドアヒンジを介して横開き式のバックドアを開閉可能に支持するようにした車両用バックドアの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
横開き式のバックドアを備えた自動車では、該バックドアを支持するピラー部材の支持剛性,強度を高めるようにしている。例えば、特許文献1では、図9に示すように、ドア開口部を形成するピラー部材51のアウタ部材51aとインナ部材51bとの間に、該アウタ部材51aに沿って上下方向に延びる厚板のリインホース52を配置し、ドアヒンジ53をアウタ部材51aとともにリインホース52に当接させてボルト締め固定している。
【0003】
また上記ピラー部材51は、インナ部材51bの下縁部51cとリインホース52の下縁部52aとを、フロア部材,ホイールハウス部材等のアンダボディ部材54のフランジ部54aに重ね合わせ、この3枚の重ね合わせ部を前後からスポット溶接により結合することにより構成されている。この場合、アウタ部材51aに形成された作業孔51dを介してスポット溶接を行い、この後、作業孔51dをプラグ55で閉塞するようにしている。
【特許文献1】特開平10−244966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来構造では、ドアヒンジをアウタ部材とともにリインホースに当接させてボルト締め固定しており、このためバックドアの開閉操作時にピラー部材に作用する前後方向の曲げ荷重による変形に対する剛性が十分に確保できないという懸念がある。
【0005】
また上記従来構造のように、上記重ね合わせ部をアウタ部材に形成された作業孔を介してスポット溶接する場合には、図9に示すように、作業孔51dを閉塞するプラグ55があるため、必然的にドアヒンジ53をプラグ55より上側に配置する必要があり、このため上下のヒンジピッチを十分に確保できないという問題がある。また作業孔を閉塞するためのプラグを必要とする分だけコストが上昇するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みてなされたもので、ピラー部材のバックドア支持剛性を十分に確保できるとともに、ヒンジピッチを十分に確保でき、かつプラグを不要にしてコストを低減できる車両用バックドアの支持構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車体の後端部に形成されたバックドア開口部を、アウタ部材とインナ部材とを閉断面をなすよう結合してなるピラー部材により形成し、該ピラー部材により上,下一対のドアヒンジを介して横開き式のバックドアを開閉可能に支持した車両用バックドアの支持構造であって、上記ピラー部材内の少なくとも下側のドアヒンジに臨む部分にバルクヘッドが配置され、該バルクヘッドは、上記アウタ部材に当接する少なくとも第1,第2結合部と、該第1,第2結合部から上記インナ部材に向って延びる第1,第2縦壁と、該第1,第2縦壁同士を連結し、該インナ部材に当接する第3結合部とを有し、該第3結合部は、上記アウタ部材に該第3結合部に対向するよう形成された作業孔を介して上記インナ部材とともにアンダボディ部材に結合され、上記下側のドアヒンジは、上記アウタ部材に該作業孔を覆うように配置され、該アウタ部材とともに上記第1,第2結合部に結合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用バックドアの支持構造によれば、ピラー部材内の下側ドアヒンジに臨む部分にバルクヘッドを配置し、該バルクヘッドを、アウタ部材に当接する第1,第2結合部と、該第1,第2結合部からインナ部材に向って延びる第1,第2縦壁と、該第1,第2縦壁同士を連結し、インナ部材に当接する第3結合部とを有するものとしたので、ピラー部材に作用する前後方向の曲げ荷重による変形に対する剛性を高めることができ、またバックドア開口部に作用する捩じり荷重等による変形に対する剛性を高めることができる。その結果、バックドアの支持剛性,強度を向上できる。
【0009】
本発明では、下側のドアヒンジを、アウタ部材の作業孔を覆うように配置し、該アウタ部材とともに第1,第2結合部に結合したので、ドアヒンジの取付け強度を高めることができるとともに、上,下のヒンジピッチを十分に確保することができ、かつ従来のプラグを不要にでき、作業孔から水の進入を防止しつつコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1ないし図8は、本発明の一実施形態による車両用バックドアの支持構造を説明するための図であり、図1は横開き式のバックドアが配設された自動車の車体の斜視図、図2はバックドア開口部を形成するピラー部材の背面図、図3は図2のIII-III 線断面図、図4は図2のIV-IV 線断面図、図5は図2のV-V 線断面図、図6は図2のVI-VI 線断面図、図7はバルクヘッドの背面図、図8は図7のVIII-VIII 線断面図である。なお、本実施形態でいう前後,左右とは、シートに着座した状態でみた場合の前後,左右を意味している。
【0012】
図において、1は後方から見た自動車の車体を示しており、該車体1の後端部1aにはバックドア開口1bが形成されている。このバックドア開口1bは、該バックドア開口1bの左,右縁部を形成する左,右のピラー部材2,3と、上縁部を形成するルーフバック4と、下縁部を形成するロアバック5とにより囲まれている。このロアバック5は、ロアアウタ5aとロアインナ5bとを閉断面をなすよう溶接接合した構造を有している。
【0013】
上記バックドア開口1bには横開き式のバックドア7が配設されている。該バックドア7は、ドアアウタパネル8aとドアインナパネル8bとの外周縁部同士を結合してなるドア本体8の上半部にウインド開口8cを形成し、該ウインド8cにウインドガラス9を配置した構造を有している。
【0014】
上記バックドア7は、上記右のピラー部材3により上,下一対の上側,下側ドアヒンジ10,11を介して左右方向に開閉可能に支持されている。また上記バックドア7のドアヒンジ10,11の反対側には、左のピラー部材2に配置されたロック機構(不図示)とのロックを解除するドアハンドル8dが配設されている。
【0015】
上記上側,下側ドアヒンジ10,11は、ピラー部材3に固定されたピラー側ヒンジ部材10a,11aと、上記バックドア7のドアインナパネル8bに固定されたドア側ヒンジ部材10b,11bとをヒンジピン10c,11cにより回動可能に連結した構造を有している(図4,図5参照)。
【0016】
上記上側ドアヒンジ10は、ドア本体8のウインド開口8cの下縁に対向する位置に配置され、下側ドアヒンジ11は、ドア本体8の下縁に近接する位置に配置されている。換言すれば、上側ドアヒンジ10は、ピラー部材3の上下方向中央部に、下側ドアヒンジ11は、ロアバック5の上縁に車幅方向に重なるように配置されている。
【0017】
上記右のピラー部材3は、アウタ部材3aとインナ部材3bとを閉断面をなすよう溶接結合した大略角筒状に形成されており、該ピラー部材3の下端部は上記ロアバック5に溶接接合されている。図示していないが、上記左のピラー部材2についても右のピラー部材3と略同様の構造を有している。
【0018】
上記アウタ部材3aの下縁部3hは、上記ロアバック5のロアアウタ5aに溶接接合されている。また上記インナ部材3b下端部3fは、後斜め下方に概ねく字状をなすよう延びており、該インナ部材3bの下縁部3gは、上記ロアバック5のロアアウタ5aとロアインナ5bとが接合された上フランジ部5cに重ね合わせて溶接接合されている。これによりピラー部材3の下端部は閉塞されている(図3参照)。
【0019】
上記アウタ部材3aには、上側,下側ドアヒンジ取付け座3c,3dが形成され、該両取付け座3c,3dの間にはドアチェッカ取付け座3eが形成されている。
【0020】
上記ドアチェッカ取付け座3eには、補強部材12を介してバックドア7の開度を規制するドアチェッカ13がボルト締め固定されている(図2,図6参照)。
【0021】
上記上側ドアヒンジ取付け座3cには、縦断面視で略ハット状をなすヒンジブラケット15を介して上側ドアヒンジ10のピラー側ヒンジ部材10aが3本のボルト16により固定されている。
【0022】
上記ヒンジブラケット15は、アウタ部材3aの内側面に当接する平板部15aと、該平板部15aの上,下縁からインナ部材3bに向って延びる上,下脚部15b,15bと、該上,下脚部15bから外側に屈曲して延びて上記インナ部材3bに溶接接合されたフランジ部15c,15cとを有している(図2,図5参照)。
【0023】
上記ピラー部材3内の下側ヒンジ取付け座3dに臨む部分には、板金製のバルクヘッド20が配設されている。
【0024】
このバルクヘッド20は、上記アウタ部材3aの下側ヒンジ取付け座3dに当接する上,下一対の第1,第2結合部20a,20bと、該第1結合部20aの下縁に続いてインナ部材3bに向って延びる第1縦壁20cと、上記第2結合部20bの上縁に続いてインナ部材3bに向って延びる第2縦壁20dと、該第1,第2縦壁20c,20d同士を一体に連結する第3結合部20eとを有しており、該第3結合部20eは、上記インナ部材3bに当接している。
【0025】
また上記バルクヘッド20は、上記第1結合部20aの上縁に続いてインナ部材3bに向って延びる第3縦壁20fと、該第3縦壁20fの前縁に続いて屈曲形成され、インナ部材3bに当接する第4結合部20gとを有している。この第4結合部20gは、インナ部材3bにスポット溶接により接合されている。
【0026】
さらに上記バルクヘッド20は、上記第2結合部20bの下縁に続いて下方に延びる第5結合部20hを有しており、該第5結合部20hは、上記アウタ部材3aの下縁部3hとともにロアアウタ5aに重ね合わせてスポット溶接により接合されている。
【0027】
上記インナ部材3bの前側にはリヤサスペンションブラケット(アンダボディ部材)22が配設されている。該ブラケット22は、リヤサスペンション(不図示)を支持する挿通孔22aが形成されたブラケット本体22bと、該ブラケット本体22bの後端縁に上向きに屈曲形成されたフランジ部22cとを有している。該フランジ部22cは、上記第3結合部20eに対向するようインナ部材3bに当接している。
【0028】
上記第3結合部20eは、上記アウタ部材3aに該第3結合部20eに対向するよう形成された作業孔3a′を介して挿入されたスポットガン(不図示)により、上記インナ部材3bとともにリヤサスペンションブラケット22のフランジ部22cにスポット溶接により接合されている。
【0029】
そして上記下側ドアヒンジ11のピラー側ヒンジ部材11aは、上記アウタ部材3aにこれの作業孔3a′を覆うように配置されており、該アウタ部材3aとともに上記バルクヘッド20の第1,第2結合部20a,20bに結合されている。
【0030】
詳細には、上記第1結合部20aには左,右一対のナット23,23が固着され、第2結合部20bの左側端部には1つのナット23が固着されている。そして車両後方から挿入された3本のボルト24を各ナット23に締め付けることにより下側ドアヒンジ11は、ピラー部材3に作業孔3a′を略気密に閉塞するように締結固定されている。ここで、上記ピラー側ヒンジ部材11aの外周縁にアウタ部材3aとの隙間を埋めるシーラー部材を塗布してもよい。このようにした場合には、ピラー部材3内への水の進入をより確実に防止できる。
【0031】
これにより、縦断面で見ると、ピラー部材3の下側ヒンジ取付け座3dは、上記バルクヘッド20と、アウタ部材3a及びンナ部材3bとで3つの閉断面a,b,cを有する略目字形状をなしている(図3参照)。
【0032】
本実施形態によれば、横開き式バックドア7を支持するピラー部材3内の下側ドアヒンジ11に臨む部分にバルクヘッド20を配置し、該バルクヘッド20を、アウタ部材3aに当接する第1,第2結合部20a,20bと、該第1,第2結合部20a,20bに続いてインナ部材3bに向って延びる第1,第2縦壁と20c,20d、該第1,第2縦壁20c,20d同士を連結し、該インナ部材3bに当接する第3結合部20eとを備えたものとしてので、ピラー部材3に作用する前後方向の曲げ荷重による変形に対する剛性を高めることができ、バックドア7の支持剛性,強度を向上できる。
【0033】
本実施形態では、上記バルクヘッド20を、第1結合部20aの上縁に続いてインナ部材3b側に延びる第3縦壁20fと、該第3縦壁該20fの前縁に続いて屈曲形成され、インナ部材3bに結合された第4結合部20gとを備えたものとしたので、ピラー部材3の曲げ剛性をより一層高めることができる。
【0034】
また上記バルクヘッド20に、上記第2結合部20bの下縁に続いて下方に延びる第5結合部20hを形成し、該第5結合部20hをアウタ部材3aの下縁部3hとともにロアアウタ5aに重ね合わせて結合したので、バルクヘッド20の結合強度を高めることができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、バルクヘッド20の第2結合部20bに下方に延びる第5結合部20hを形成した場合を説明したが、本発明は、図3の二点鎖線で示すように、第2結合部20bの下縁に続いてインナ部材3bに延びる第4縦壁20iを形成し、該第4縦壁20iに該インナ部材3bに結合される第5結合部20jを屈曲形成してもよい。この場合には、ピラー部材3の曲げ剛性をより一層高めることができる。
【0036】
本実施形態では、下側ドアヒンジ11を、アウタ部材3aにこれの作業孔3a′を覆うように配置し、該アウタ部材3aとともにバルクヘッド20の第1,第2結合部20a,20bにボルト24により結合したので、下側ドアヒンジ11の取付け強度を高めることができるとともに、従来のプラグを不要にでき、作業孔3a′から水の進入を防止しつつ部品コストを低減できる。
【0037】
本実施形態では、下側ドアヒンジ11を作業孔3a′を閉塞するように配置したので、下側ドアヒンジ11を従来の配置位置より低所に配置することができる。これにより上側ドアヒンジ10と下側ドアヒンジ11の間隔を大きくすることができ、バックドア7の重量負担を軽減できるとともに、支持剛性を向上できる。即ち、バックドア7のウインド開口部は剛性が低いことから、上側ドアヒンジ10は必然的にドア本体8に取り付けることとなり、その配置位置が決まってしまう。このため従来構造では、下側ドアヒンジを作業孔を避けて配置する必要があり、上,下のドアヒンジの間隔を十分に確保できないという問題があった。これに対して、本実施形態では、下側ドアヒンジ11をドア本体8の下縁に近接する位置に配置することが可能となり,その結果上記間隔を十分に確保することができる。
【0038】
なお、上記実施形態では、アンダボディ部材としてリヤサスペンショブラケットの場合を例に説明したが、本発明のアンダボディ部材には、フロア部材又はリヤホイールハウス部材の場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態による横開き式のバックドアが配設された自動車の車体の斜視図である。
【図2】上記バックドアを支持するピラー部材の背面図である。
【図3】上記ピラー部材の断面図(図2のIII-III 線断面図)である。
【図4】上記ピラー部材の断面図(図2のIV-IV 線断面図)である。
【図5】上記ピラー部材の断面図(図2のV-V 線断面図)である。
【図6】上記ピラー部材の断面図(図2のVI-VI 線断面図)である。
【図7】上記ピラー部材に配置されたバルクヘッドの背面図である。
【図8】上記バルクヘッドの断面図(図7のVIII-VIII 線断面図)である。
【図9】従来の一般的なバックドアの支持構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 自動車の車体
1a 後端部
1b バックドア開口
3 ピラー部材
3a アウタ部材
3a′ 作業孔
3b インナ部材
7 バックドア
10 上側ドアヒンジ
11 下側ドアヒンジ
20 バルクヘッド
20a 第1結合部
20b 第2結合部
20c 第1縦壁
20d 第2縦壁
20e 第3結合部
22 リヤサスペンションブラケット(アンダボディ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の後端部に形成されたバックドア開口部を、アウタ部材とインナ部材とを閉断面をなすよう結合してなるピラー部材により形成し、該ピラー部材により上,下一対のドアヒンジを介して横開き式のバックドアを開閉可能に支持した車両用バックドアの支持構造であって、
上記ピラー部材内の少なくとも下側のドアヒンジに臨む部分には、バルクヘッドが配置され、
該バルクヘッドは、上記アウタ部材に当接する少なくとも第1,第2結合部と、該第1,第2結合部から上記インナ部材に向って延びる第1,第2縦壁と、該第1,第2縦壁同士を連結し、該インナ部材に当接する第3結合部とを有し、
該第3結合部は、上記アウタ部材に該第3結合部に対向するよう形成された作業孔を介して上記インナ部材とともにアンダボディ部材に結合され、
上記下側のドアヒンジは、上記アウタ部材に該作業孔を覆うように配置され、該アウタ部材とともに上記第1,第2結合部に結合されていることを特徴とする車両用バックドアの支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−87683(P2008−87683A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272428(P2006−272428)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】