説明

車両用パワートレーン制御装置

【課題】出力トルク制限により通常走行時における駆動系等の負担を緩和するとともにドライバ要求が強い場合には出力トルクを向上してドライバビリティを向上できる車両用パワートレーン制御装置を提供する。
【解決手段】ドライバによって操作される要求トルク入力手段の操作量に応じて走行用動力源の出力トルクを制御する車両用パワートレーン制御装置を、所定の走行条件時に出力トルクを所定の制限トルク以下に制限する出力トルク制限手段100と、出力トルク制限の解除操作が入力される解除操作入力手段106とを備え、出力トルク制限手段は解除操作が入力されかつ要求トルク入力手段の操作量が所定値以上である場合に、所定期間にわたって出力トルク制限を解除しその後出力トルク制限を再開する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の走行用動力源であるエンジン等を制御する車両用パワートレーン制御装置に関し、特に駆動系保護等のためエンジン等の出力トルクを制限するものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、エンジン等の走行用動力源の出力を、変速機によって増減速した後、AWDトランスファ、前後ディファレンシャル、ドライブシャフト等の駆動系を介して駆動輪を駆動している。
従来、過度な入力トルクから変速機等の駆動系部品を保護する目的で、所定の運転条件時にエンジン等の出力トルクを制限することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、加速時や発進時にドライバの出力要求に応じて出力トルクを増大可能にするとともに、駆動系の耐久性を確保することを目的として、通常時には変速機の各変速段におけるトルク上限値を通常走行に必要十分な程度に設定するとともに、アクセル開速度が所定値以上である場合には、急加速が要求されているものとしてトルク制限を所定時間にわたって緩和又は解除することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−101142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された技術のように、アクセル開速度で判定するドライバの加速要求のみでトルク制限を解除した場合には、ドライバがアクセルペダルの急な踏込みを繰り返すことによって頻繁にトルク制限解除が行われ、駆動系部品の疲労蓄積が過大となることが懸念される。
本発明の課題は、出力トルク制限により通常走行時における駆動系等の負担を緩和するとともにドライバ要求が強い場合には出力トルクを向上してドライバビリティを向上できる車両用パワートレーン制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、ドライバによって操作される要求トルク入力手段の操作量に応じて走行用動力源の出力トルクを制御する車両用パワートレーン制御装置であって、所定の走行条件時に前記出力トルクを前記要求トルク入力手段の操作量に関わらず所定の制限トルク以下に制限する出力トルク制限手段と、出力トルク制限の解除操作が入力される解除操作入力手段とを備え、前記出力トルク制限手段は、前記解除操作入力手段に前記出力トルク制限の解除操作が入力されかつ前記要求トルク入力手段の操作量が所定値以上である場合に、所定のトルク制限解除期間にわたって前記出力トルク制限を解除しその後前記出力トルク制限を再開することを特徴とする車両用パワートレーン制御装置である。
本発明によれば、ドライバから解除操作が入力されない限り出力トルク制限が解除されないため、ドライバが意図せず頻繁に出力トルク制限が解除されることがなく、駆動系部品等を保護し耐久性を確保することができる。また、ドライバが出力トルク制限の解除を要望する場合には、解除操作を行うことによって所定期間出力トルク制限が解除されるため、良好な加速性能等を得ることができる。
【0007】
請求項2の発明は、前記走行用動力源は内燃機関であるエンジンを含み、前記出力トルク制限手段は、前記エンジンの回転数が所定値以上である場合にのみ、前記出力トルク制限の解除操作に応じた前記出力トルク制限の解除を許可することを特徴とする請求項1に記載の車両用パワートレーン制御装置である。
これによれば、低回転からの加速で長時間にわたってトルク制限が解除されて駆動系部品に過度な負担がかかることを防止でき、またドライバがシフトダウンすることによって十分な駆動力が得られることからドライバビリティも確保できる。
【0008】
請求項3の発明は、前記トルク制限解除期間は、車両の車速増加に応じて減少されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用パワートレーン制御装置である。
これによれば、車両が既に高速である場合はトルク制限解除によって加速力が向上する期間が短縮され、車速が高くなりすぎることを防止するとともに、駆動系部品を保護することができる。
【0009】
請求項4の発明は、前記トルク制限解除期間は、車両の走行抵抗増加に応じて増加されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両用パワートレーン制御装置である。
これによれば、例えば登坂路に対して出力トルクを向上する必要性の乏しい平坦路や降坂路ではトルク制限解除期間を短くすることによって、駆動系部品をより適切に保護することができる。
【0010】
請求項5の発明は、前記トルク制限解除期間は、駆動系部品の疲労蓄積度合いを表すパラメータが所定値以下である期間であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車両用パワートレーン制御装置である。
これによれば、駆動系部品の疲労蓄積度合いに応じてトルク制限解除期間を設定することによって、駆動系部品をより適切に保護することができる。
【0011】
請求項6の発明は、前記パラメータは、前記出力トルク制限の解除を開始した後の経過時間、前記出力トルク制限の解除を開始した後の車両の走行距離、前記出力トルク制限の解除を開始した後の駆動系部品の累積回転数、の少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項5に記載の車両用パワートレーン制御装置である。
これによれば、管理の容易性や必要とされる精度等に応じて駆動系部品の疲労蓄積度合いを管理するパラメータを選択することによって、駆動系部品をより適切に保護することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力トルク制限により通常走行時における駆動系等の負担を緩和するとともにドライバ要求が強い場合には出力トルクを向上してドライバビリティを向上できる車両用パワートレーン制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した車両用パワートレーン制御装置の実施例の構成を示す模式的ブロック図である。
【図2】図1の車両用パワートレーン制御装置のオーバーテイク制御(出力トルク制限解除制御)を示すフローチャートである。
【図3】図1の車両用パワートレーン制御装置における車速及び走行抵抗とオーバーテイク制御継続時間(トルク制限解除期間)との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、出力トルク制限により通常走行時における駆動系等の負担を緩和するとともにドライバ要求が強い場合には出力トルクを向上してドライバビリティを向上できる車両用パワートレーン制御装置を提供する課題を、ドライバによりオーバーテイクスイッチが操作されかつ所定のオーバーテイク制御実行条件が充足された場合に、所定時間にわたってトルク上限値を増加させることによって解決した。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を適用した車両用パワートレーン制御装置の実施例について説明する。
本実施例において、走行用動力源は例えば内燃エンジンであり、車両用パワートレーン制御装置は、このエンジン及び補機類を制御するエンジン制御装置である。また、車両は、例えば乗用車等の自動車であって、手動変速機を備えている。
【0016】
図1は、実施例の車両用パワートレーン制御装置の構成を示す模式的ブロック図である。
図1に示すように、車両は、エンジン10及び手動変速機20を備えている。
エンジン10は、車両の走行用動力源であって、例えば、ターボチャージャ等の過給器付きのガソリンエンジンである。エンジン10は、電動アクチュエータによって駆動されるスロットルバルブによって吸入空気量を調整し、出力の調整を行う。この電動アクチュエータは、後述するECU100によって制御される。
【0017】
また、エンジン10には、クランク角センサ11が設けられている。クランク角センサ11は、エンジン10のクランクシャフトの角度位置を周期的に検出するものである。クランク角センサ11の出力は後述するECU100に入力され、ECU100はこの出力の推移に基づいてエンジン10の回転数(回転速度)を算出する。
【0018】
手動変速機20は、例えば前進6段、後進1段を有し、エンジン10の出力を増減速するものである。手動変速機20は、メインシャフト及びカウンタシャフトを備えている。
メインシャフトは、エンジン10のクランクシャフトとクラッチ装置を介して接続された入力軸である。
カウンタシャフトは、メインシャフトと平行して配置された出力軸である。メインシャフトとカウンタシャフトとの間には、各変速段のギヤ列を配列して構成された変速機構部が設けられている。
さらに、後進ギヤは、メインシャフトからカウンタシャフトへ駆動力を伝達するアイドラギヤ軸を有して構成される。
各ギヤ列は、メインシャフトに設けられたドライブギヤ、及び、カウンタシャフトに設けられたドリブンギヤを有して構成されている。ドライブギヤ、ドリブンギヤのうち一方はシャフトに対して相対回転可能となっており、シフトレバーと連動するハブスリーブ等の係合要素と係合することによってシャフトにロックされ、当該ギヤ列を完成させるようになっている。
また、手動変速機20には、潤滑油温を検出する油温センサ21が設けられている。油温センサ21の出力は、ECU100に入力される。
【0019】
また、エンジン10には、エンジン制御ユニット(ECU)100が設けられている。ECU100は、エンジン10及びその補機類を統括的に制御するものである。ECU100は、CPU等の情報処理手段、RAM及びROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等を有して構成されている。
このECU100は、本発明にいうパワートレーン制御装置の本体部として機能する。
【0020】
ECU100には、車速センサ101、アクセル開度センサ102、前後Gセンサ103、横Gセンサ104、舵角センサ105、シートベルトセンサ106等の各種センサ、及び、オーバーテイクスイッチ107が接続されている。
車速センサ101は、車輪が支持されるハブベアリングハウジングに設けられ、車輪の回転速度に応じた車速パルス信号を出力するものである。ECU100は、車速パルス信号を利用して車両の走行速度(車速)を算出する。また、ECU100は、エンジン10の回転数と車速センサ101が検出する車速とに基いて、手動変速機20において現在選択されている変速段(シフトポジション)を検出可能となっている。
【0021】
アクセル開度センサ102は、ドライバが加速要求を入力する図示しないアクセルペダルの操作量を検出する位置エンコーダを備えている。アクセルペダルは、本発明にいう要求トルク入力手段である。
ECU100は、アクセル開度センサ102の出力に基いて設定されるドライバ要求トルクに、エンジン10の実出力トルクが近づくように、スロットル開度、吸排気バルブタイミング、点火時期、過給圧等を制御する。また、ECU100は、手動変速機20等の駆動系部品を保護するため、通常走行時においては、エンジン10の実出力トルクが各変速段ごとに予め設定されたトルク上限値TL以下となるように制限するトルク制限制御を行う。すなわち、ドライバ要求トルクがトルク上限値TLを上回る場合には、ECU100は、エンジン10の実出力トルクがトルク上限値TLとなるようにエンジン10のスロットルバルブ開度を制御する。このとき、ECU100は、本発明にいう出力トルク制限手段として機能する。
なお、通常走行時におけるトルク上限値Tnは、駆動系部品における最弱部が繰り返し応力を受けたときに、十分な疲労強度が確保されるように設定される。
さらに、ECU100は、例えば追越加速時等のように大きな出力トルクが要求される場合に、ドライバからのオーバーテイク操作に応じて、一時的にトルク上限値TLを増加させるオーバーテイク制御を実行可能である。これについては後に詳しく説明する。
【0022】
前後Gセンサ103は、車体に作用する前後方向の加速度を検出するものである。
横Gセンサ104は、車体に作用する横方向(車幅方向)の加速度を検出するものである。
舵角センサ105は、ステアリングホイールの回転入力をステアリングギヤボックスに伝達するステアリングシャフトに設けられ、操舵操作の操作量(舵角)を検出するものである。
シートベルトセンサ106は、搭乗者のシートベルト装着有無を検出するものである。
【0023】
オーバーテイクスイッチ107は、追越加速等を行う際に上述したトルク制限解除を一時的に解除するオーバーテイク制御の開始操作(オーバーテイク操作)を、ドライバが入力する解除操作入力手段である。オーバーテイクスイッチ107は、例えば運転席周辺のインストルメントパネル等に配置された押しボタンスイッチ等のスイッチを用いることができる。
【0024】
また、ECU100には、挙動制御ユニット110及び環境認識装置120が接続されている。
挙動制御ユニット110は、車両のアンダーステア状態又はオーバーステア状態を検出した際に、旋回内輪側と外輪側とで制動力差を出すことによって、車両を安定化させる方向へのヨーモーメントを発生させるものである。アンダーステア状態及びオーバーステア状態の検出は、例えば、車速及び舵角等から算出される目標ヨーレートと、図示しないヨーレートセンサによって検出される実際のヨーレートとを比較すること等によって行われる。
【0025】
環境認識装置120は、例えば車両前方に向けて配置された例えばステレオカメラ、ミリ波レーダ等のセンサを備え、先行車両の有無、先行車両の自車両に対する相対位置、先行車両の自車両に対する相対速度等を検出することによって、自車両前方が混雑した状態であるか否かを判定するものである。
【0026】
次に、本実施例におけるオーバーテイク制御(トルク制限解除制御)について説明する。図2は、本実施例におけるオーバーテイク制御を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0027】
<ステップS01:オーバーテイク制御作動条件充足判断>
ECU100は、各センサからの入力等に基いて、以下のオーバーテイク制御作動条件の充足有無を判定する。
(1)オーバーテイクスイッチ107がオン
(2)アクセル開度100%
(3)エンジン回転数が所定値以上
(4)手動変速機20の変速段が2速〜6速(1速、後退ではオーバーテイク制御禁止)
(5)挙動制御ユニット110による挙動制御が非作動
(6)手動変速機20の潤滑油温が所定値以下
(7)横Gセンサ104が検出する現在の横Gが所定値以下
(8)舵角センサ105が検出する舵角が所定値以下
(9)勾配が所定値以上(急な降坂路ではオーバーテイク制御禁止)
(10)搭乗者がシートベルトを装着
(11)環境認識装置120が自車両前方の混雑を検出せず
これら全ての条件が充足された場合は、オーバーテイク制御作動条件が充足したものとしてステップS02に進む。一方、いずれか一つでも充足しない場合は、ステップS11に進む。
なお、手動変速機20の変速段は、例えば、エンジン回転数と車速との相関に基いて検出したり、あるいは図示しないセンサによって直接検出することができる。
また、路面の勾配は、例えば、車速の推移から車両の加減速状態を検出し、前後Gセンサ103の出力を加減速状態に応じて補正することによって算出することができる。
【0028】
<ステップS02:オーバーテイク制御経験フラグ判断>
ECU100は、オーバーテイク制御経験フラグのフラグ値F1=1であるか判定し、F1=1である場合はステップS02に進み、F1=0である場合はステップS05に進む。
ここで、オーバーテイク制御経験フラグは、オーバーテイク制御が一旦実行された後、後述するステップS03において判定されるオーバーテイク制御再作動条件が充足されるまでの間はフラグ値F1が1となり、その他の場合には0となるフラグである。このオーバーテイク制御経験フラグが立っている(F1=1)間は、オーバーテイク制御は駆動系保護のため禁止される。
【0029】
<ステップS03:オーバーテイク制御再作動条件充足判断>
ECU100は、以下のオーバーテイク制御再作動条件の充足有無を判定する。
(1)前回オーバーテイク制御終了後からの経過時間タイマ値te≧所定値
(2)前回オーバーテイク制御終了後における横G経験フラグF2=1
ここで、横G経験フラグは、オーバーテイク制御が一旦実行された直後に0とされ、後述するステップS12において、所定値以上の横加速度が検出された場合には1となるフラグである。
上記2つの条件がともに充足された場合は、オーバーテイク制御再作動条件が充足したものとしてステップS04に進む。一方、いずれか一つでも充足しない場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0030】
<ステップS04:オーバーテイク制御経験フラグリセット>
ECU100は、上述したオーバーテイク制御経験フラグを、フラグ値F1=0としてリセットする。
その後、ステップS05に進む。
【0031】
<ステップS05:オーバーテイク制御継続タイマ値判断>
ECU100は、エンジン10の出力トルク制限解除の継続時間を計測するオーバーテイク制御継続タイマのタイマ値tが0であるか否かを判断し、t=0である場合はステップS06に進み、t≠0である場合はステップS08に進む。
【0032】
<ステップS06:オーバーテイク制御継続時間t1設定>
ECU100は、現在の車速及び車両の走行抵抗に基いて、オーバーテイク制御継続時間t1を設定する。ECU100は、記憶手段内に車速及び走行抵抗とオーバーテイク制御継続時間t1との相関に関するマップを保持している。
図3は、車速及び走行抵抗と、オーバーテイク制御継続時間t1との相関の一例を示すグラフである。
図3に示すように、オーバーテイク制御継続時間t1は、車速が高くなるのに応じて短縮されるように設定され、また、例えば路面の勾配等に起因する車両の走行抵抗が大きくなるのに応じて延長されるように設定されている。ここで、走行抵抗は、エンジン10の出力トルク、エンジン10と駆動輪間のロストルクや効率、変速比、ギヤ比を用いて求めた車両の発生駆動力と、転がり抵抗、空気抵抗、車両の加速抵抗等を用いて算出される。
オーバーテイク制御継続時間t1の設定後、ステップS07に進む。
【0033】
<ステップS07:オーバーテイク制御継続タイマスタート>
ECU100は、上述したオーバーテイク制御継続タイマを起動させ、タイマ値tのインクリメントを開始する。
その後、ステップS08に進む。
【0034】
<ステップS08:オーバーテイク制御継続タイマ値判断>
ECU100は、オーバーテイク制御継続タイマのタイマ値tを、オーバーテイク制御継続時間t1と比較し、t<t1である場合はステップS09に進み、t≧t1である場合はステップS11に進む。
【0035】
<ステップS09:オーバーテイク制御経験フラグF1=1>
ECU100は、オーバーテイク制御経験フラグのフラグ値F1を1とする。
その後、ステップS10に進む。
【0036】
<ステップS10:トルク上限値TL=制御作動時値Tmax>
ECU100は、エンジン10の出力トルク上限値TLを、制限が解除された最大トルクである制御作動時値Tmaxに設定してエンジン10の出力制御を行う。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0037】
<ステップS11:オーバーテイク制御継続タイマ値判断>
ECU100は、オーバーテイク制御継続タイマのタイマ値tが0であるか否かを判断し、t=0である場合はステップS12に進み、t≠0である場合はステップS14に進む。
【0038】
<ステップS12:横G判断>
ECU100は、横Gセンサ104の出力に基いて、車体に所定値以上の横Gが作用しているか否かを判断する。
そして、横Gが所定値以上である場合は、車両が旋回状態にあるものとしてステップS13に進み、横Gが所定値未満である場合はステップS16に進む。
【0039】
<ステップS13:横G経験フラグF2=1>
ECU100は、前回のオーバーテイク制御終了後に旋回状態を経験したか否かを示すフラグである横G経験フラグを、フラグ値F2=1とすることによって立てる。
その後、ステップS16に進む。
【0040】
<ステップS14:制御終了後経過時間タイマ再起動・横G経験フラグF2=0>
ECU100は、制御終了後経過時間タイマのタイマ値teを0としてリセットした後、タイマをスタートしてタイマ値teのインクリメントを開始する。
また、ECU100は、横G経験フラグF2=0とする。
その後、ステップS15に進む。
【0041】
<ステップS15:オーバーテイク制御継続タイマtリセット>
ECU100は、オーバーテイク制御継続タイマのタイマ値tを0としてリセットする。
その後、ステップS16に進む。
【0042】
<ステップS16:トルク上限値TL=通常値Tn>
ECU100は、エンジン10の出力トルク上限値TLを、通常走行時に適用される制限値である通常値Tn(Tn<Tmax)としてエンジン10の出力制御を行う。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0043】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドライバがオーバーテイクスイッチ107を操作した場合にのみ、エンジン10の出力トルク上限値TLを制御作動時値Tmaxとして、出力トルクの制限を解除することによって、ドライバが意図せず頻繁に出力トルク制限が解除されることがなく、手動変速機20の変速機構部やその後段のAWDトランスファ、プロペラシャフト、ディファレンシャル、ドライブシャフト等、駆動系部品を保護することができる。
また、ドライバが出力トルク制限の解除を要望する場合には、オーバーテイク操作を行うことによって所定のオーバーテイク制御継続時間t1にわたって出力トルク制限が解除されるため、例えば追越加速時等に良好な加速性能を得ることができる。
(2)エンジン10の回転数が所定値以上の場合にのみオーバーテイク制御を許可することによって、低回転からの加速で長時間にわたってトルク制限が解除されて駆動系部品に過度な負担がかかることを防止でき、またドライバがシフトダウンすることによって十分な駆動力が得られることからドライバビリティも確保できる。
(3)オーバーテイク制御継続時間t1が車速増加に応じて短縮されることによって、車両が既に高速である場合はトルク制限解除により加速力が向上する時間が短縮され、車速が高くなりすぎることを防止しつつ駆動系部品を保護することができる。
(4)オーバーテイク制御継続時間t1が車両の走行抵抗増加に応じて延長されることによって、例えば登坂路に対して出力トルクを向上する必要性の乏しい平坦路や降坂路ではトルク制限解除期間が短くされ、駆動系部品をより適切に保護することができる。
(5)車両挙動制御が作動しておりタイヤのグリップ力余力が乏しい場合には、オーバーテイク制御を禁止することによって、駆動力が増加して車両の挙動が不安定となることを防止できる。
(6)2速以上の変速段においてのみオーバーテイク制御を許可することによって、変速機構部以降の駆動系部品を1速又は後退時の大トルクから保護することができる。また、低速ギヤでの急加速時には、過給圧が最大値近傍に達する前にエンジン回転数が最大回転数に達してしまうことが多く、仮にオーバーテイク制御を行った場合であっても実益は少ない。
(7)手動変速機20の潤滑油温が所定値以下の場合にのみオーバーテイク制御を許可することによって、手動変速機20が高負荷状態である場合にエンジン10の出力トルク制限を維持して手動変速機20を保護することができる。
(8)車体に作用する横Gが所定値以上である場合にオーバーテイク制御を禁止することによって、旋回中にエンジン10の出力トルク制限が解除されて駆動力が増加し、車両の挙動が不安定となることを防止できる。
(9)操舵系の舵角が所定値以上である場合にオーバーテイク制御を禁止することによって、旋回中にエンジン10の出力トルク制限が解除されて駆動力が増加し、車両の挙動が不安定となることを防止できる。
(10)車速が増加しやすい車両の降坂中にオーバーテイク制御を禁止することによって、エンジン10の出力トルク制限が解除されてドライバが意図する以上に車速が増加することを防止できる。
(11)搭乗者がシートベルト非装着時にはオーバーテイク制御を禁止することによって、車両の安全性を向上できる。
(12)前方車両が混雑している場合にオーバーテイク制御を禁止することによって、追突事故の発生リスクを軽減し、車両の安全性を向上できる。
(13)前回のオーバーテイク制御からの経過時間が所定時間以上である場合にのみオーバーテイク制御を許可することによって、エンジン10の出力トルク制限の解除が頻繁に行われることを防止して駆動系部品を保護することができる。
(14)前回のオーバーテイク制御から所定の旋回状態を経験していない場合にはオーバーテイク制御を禁止することによって、エンジン10の出力トルク制限の解除が頻繁に行われることを防止して駆動系部品を保護することができる。例えば、コーナーからの立ち上がり加速時にオーバーテイク制御を行った後、直線路で何度もオーバーテイク制御が行われることを防止できる。
【0044】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例ではオーバーテイク制御継続期間を時間tで管理し、所定のオーバーテイク制御継続時間t1を期限としてオーバーテイク制御を解除しているが、これに代えて、あるいはこれと同時に、駆動系部品の疲労蓄積度合いを表現する他のパラメータを用いてもよい。例えば、オーバーテイク制御継続期間を車両の走行距離lで管理し、オーバーテイク制御継続時間t1に代わってオーバーテイク制御継続距離l1を期限として設定し、オーバーテイク制御開始後の車両の走行距離lがオーバーテイク制御継続距離l1となるまでの間オーバーテイク制御を解除することも可能である。この場合、車両の走行距離lは、車速センサ101が検出する車速を時間積分すること等により取得できる。また例えば、オーバーテイク制御継続期間を駆動系部品の累積回転数n(単位は回)で管理し、オーバーテイク制御継続時間t1に代わってオーバーテイク制御継続累積回転数n1を期限として設定し、オーバーテイク制御開始後の駆動系部品の累積回転数nがオーバーテイク制御継続累積回転数n1となるまでの間オーバーテイク制御を解除することも可能である。この場合、駆動系部品の累積回転数nは、エンジン10の回転数、車速センサ101が検出する車速、個々の駆動系部品のギア比を用いて算出した駆動系部品の回転数を時間積分すること等により取得することができる。累積回転数を管理する駆動系部品としては、複数の駆動系部品について個々に管理してもよく、また、駆動系部品の中で最弱部と考えられる駆動系部品についてのみ管理してもよい。走行距離や累積回転数での管理は、時間での管理に比べて演算が複雑になり、またドライバが解除可能期間の残存分を予測しながら運転することもより難しくなる可能性がある。しかしながら、駆動系部品の疲労蓄積度合いを表すパラメータとしては時間よりも直接的であり、より精度の高いトルク制限解除が可能となる。
(2)実施例のパワートレーン制御装置においては、走行用動力源は例えばガソリンエンジンであったが、本発明はこれに限らず、例えばディーゼルエンジン等の他種のエンジンであってもよく、出力調整も例えば燃料噴射量調整、過給圧調整等のスロットル開度以外の手法によって行ってもよい。
(3)走行用動力源は、電動モータや、エンジン−電動モータハイブリッドシステムであってもよく、この場合、出力トルクの制限はシステム全体の出力を調整することによって行われる。
(4)変速機は実施例のような手動変速機に限らず、例えば手動変速機と同様の変速機構をアクチュエータで駆動するAMTや、複数組のクラッチ及び変速機構部を順次切換えて変速を行うDCT、トルクコンバータ及びプラネタリギヤセットを有するステップAT、ベルト式、チェーン式、トロイダル式等のCVTであってもよい。
(5)出力トルク制限の解除操作が入力されるスイッチは、実施例のような押しボタンスイッチには限らず、他の態様のスイッチであってもよい。
(6)実施例ではアクセル開度が100%の場合にのみトルク制限解除を許可しているが、これに限らず、アクセル開度が所定の閾値以上であればトルク制限解除を許可するようにしてもよい。
(7)トルク制限解除を実行する所定期間の設定方法は、実施例のものに限定されず適宜変更することができる。
(8)実施例では車体の旋回状態を、横加速度を加速度センサで検出することによって判定しているが、本発明はこれに限定されず他の手法によって旋回状態を検出してもよい。例えば、車速、舵角等の走行状態と予め設定された車両モデルを用いて横Gを演算によって求めてもよい。
(9)実施例では車両挙動制御の作動時にタイヤのグリップ余力が少ないものとしてオーバーテイク制御を禁止しているが、タイヤのグリップ余力は他の手法によって検出してもよい。例えば、車速、舵角等の車両の走行状態と、ヨーレート等の車両の実際の挙動や、セルフアライニングトルク(保舵力)等を比較して路面の摩擦係数を推定してもよい。また、駆動輪のホイールスピンまたはその兆候に基いて制駆動力を制御するトラクションコントロール制御の作動時にタイヤのグリップ余力が少ないものと判定してもよい。
(10)実施例では自車両前方の混雑状況を、ステレオカメラ等を有する環境認識装置によって検出しているが、本発明はこれに限らず、例えばナビゲーション装置等に渋滞情報等を提供する路車間通信システムを用いてもよい。
(11)実施例では前回のオーバーテイク制御の終了後、所定の旋回状態(高横G状態)を経験しなければ次回のオーバーテイク制御を許可しないようになっているが、これに代えて、あるいはこれと同時に、所定の減速状態を経験しなければ次回のオーバーテイク制御を許可しないようにしてもよい。例えば、所定の減速G、車速の変動、ブレーキ操作、アクセル戻し操作等がなければ次回のオーバーテイク制御を許可しない構成としてもよい。このとき、ブレーキ操作は、例えば、ブレーキランプスイッチのオン、ブレーキペダルの操作量、ブレーキ液圧等に基いて検出することができる。
(12)実施例では前回のオーバーテイク制御の終了後、所定の経過時間teを経過しなければ次回のオーバーテイク制御を許可しないようになっているが、これに代えて、あるいはこれと同時に、オーバーテイク制御継続期間の管理の変形と同様、車両が所定の走行距離を走行しなければ次回のオーバーテイク制御を許可しないようにしてもよいし、駆動系部品が所定の累積回転数だけ回転しなければ次回のオーバーテイク制御を許可しないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 エンジン 11 クランク角センサ
20 手動変速機 21 油温センサ
100 エンジン制御ユニット(ECU) 101 車速センサ
102 アクセル開度センサ 103 前後Gセンサ
104 横Gセンサ 105 舵角センサ
106 シートベルトセンサ 107 オーバーテイクスイッチ
110 挙動制御ユニット 120 環境認識装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによって操作される要求トルク入力手段の操作量に応じて走行用動力源の出力トルクを制御する車両用パワートレーン制御装置であって、
所定の走行条件時に前記出力トルクを前記要求トルク入力手段の操作量に関わらず所定の制限トルク以下に制限する出力トルク制限手段と、
出力トルク制限の解除操作が入力される解除操作入力手段とを備え、
前記出力トルク制限手段は、前記解除操作入力手段に前記出力トルク制限の解除操作が入力されかつ前記要求トルク入力手段の操作量が所定値以上である場合に、所定のトルク制限解除期間にわたって前記出力トルク制限を解除しその後前記出力トルク制限を再開すること
を特徴とする車両用パワートレーン制御装置。
【請求項2】
前記走行用動力源は内燃機関であるエンジンを含み、
前記出力トルク制限手段は、前記エンジンの回転数が所定値以上である場合にのみ、前記出力トルク制限の解除操作に応じた前記出力トルク制限の解除を許可すること
を特徴とする請求項1に記載の車両用パワートレーン制御装置。
【請求項3】
前記トルク制限解除期間は、車両の車速増加に応じて減少されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用パワートレーン制御装置。
【請求項4】
前記トルク制限解除期間は、車両の走行抵抗増加に応じて増加されること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両用パワートレーン制御装置。
【請求項5】
前記トルク制限解除期間は、駆動系部品の疲労蓄積度合いを表すパラメータが所定値以下である期間であること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車両用パワートレーン制御装置。
【請求項6】
前記パラメータは、前記出力トルク制限の解除を開始した後の経過時間、前記出力トルク制限の解除を開始した後の車両の走行距離、前記出力トルク制限の解除を開始した後の駆動系部品の累積回転数、の少なくともいずれか一つであること
を特徴とする請求項5に記載の車両用パワートレーン制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−214407(P2011−214407A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80247(P2010−80247)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】