説明

車両用ブレーキシステム

【課題】車両停止時にて制動力を適正に確保できる車両用ブレーキシステムを提供すること。
【解決手段】この車両用ブレーキシステム1は、ブレーキ操作に応じた液圧を発生するマスターシリンダ3と、マスターシリンダ3からの液圧を各車輪のホイールシリンダ61に伝達するブレーキアクチュエータ4とを備えている。また、車両用ブレーキシステム1は、車両停止時にてエンジンを停止する運転モードを有する車両に搭載される。また、車両用ブレーキシステム1は、ブレーキアクチュエータ4の液圧を加圧する加圧ポンプ45を有する。そして、車両停止時にて、加圧ポンプ45がブレーキアクチュエータ4の液圧を加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用ブレーキシステムに関し、さらに詳しくは、車両停止時にて制動力を適正に確保できる車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、安価であり且つ簡素な構成を有するインライン式の車両用ブレーキシステムが、ハイブリッド車両に適用されている。かかるハイブリッド車両は、車両停止時にてエンジンを停止する運転モードを有する。このため、例えば、車両停止時にてドライバーがブレーキペダルを踏み込み、ブレーキペダルを一度戻してから再び踏み込んだときに、負圧が不足して制動力が低下するおそれがある。なお、ハイブリッド車両に適用される従来のインライン式の車両用ブレーキシステムとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−199079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、車両停止時にて制動力を適正に確保できる車両用ブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明にかかる車両用ブレーキシステムは、ブレーキ操作に応じた液圧を発生するマスターシリンダと、前記マスターシリンダからの液圧を各車輪のホイールシリンダに伝達するブレーキアクチュエータとを備えると共に、車両停止時にてエンジンを停止する運転モードを有する車両に搭載される車両用ブレーキシステムであって、前記ブレーキアクチュエータの液圧を加圧する加圧ポンプを有すると共に、車両停止時にて、前記加圧ポンプが前記ブレーキアクチュエータの液圧を加圧することを特徴とする。
【0006】
この車両用ブレーキシステムでは、車両停止時にて加圧ポンプがブレーキアクチュエータの液圧を加圧する。かかる構成では、例えば、車両停止時にてブレーキペダルの踏み直しによりブレーキブースタの負圧が不足したときに、踏力による制動力に加えて加圧ポンプによる制動力が車両の各車輪に付与される。これにより、車両停止時にて車両の制動力が適正に確保される利点がある。
【0007】
また、この発明にかかる車両用ブレーキシステムでは、制動力の減少が生じていると判定されたときに、前記加圧ポンプによる加圧が行われる。
【0008】
この車両用ブレーキシステムでは、エンジン停止による負圧不足が生じているときに、適正に加圧ポンプが駆動される。これにより、車両停止時にて車両の制動力が適正に確保される利点がある。
【0009】
また、この発明にかかる車両用ブレーキシステムでは、前記マスターシリンダの油圧とブレーキ操作量とが比較されて制動力の減少の有無が判定される。
【0010】
この車両用ブレーキシステムでは、ブレーキ操作量に対してマスターシリンダ圧が不足しているときに、負圧の不足により制動力の減少が生じていると判定される。これにより、制動力の減少の有無が適正に判定されるので、加圧ポンプの駆動が適正に行われる利点がある。
【0011】
また、この発明にかかる車両用ブレーキシステムでは、前記加圧ポンプを駆動するためのバッテリーが使用可能であると判定されたときに、前記加圧ポンプによる加圧が行われる。
【0012】
この車両用ブレーキシステム1では、加圧ポンプの適正な駆動が確保される利点がある。
【発明の効果】
【0013】
この発明にかかる車両用ブレーキシステムでは、車両停止時にて加圧ポンプがブレーキアクチュエータの液圧を加圧する。かかる構成では、例えば、車両停止時にてブレーキペダルの踏み直しによりブレーキブースタの負圧が不足したときに、踏力による制動力に加えて加圧ポンプによる制動力が車両の各車輪に付与される。これにより、車両停止時にて車両の制動力が適正に確保される利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施例に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【実施例】
【0015】
図1は、この発明の実施例にかかる車両用ブレーキシステムを示す構成図である。図2は、図1に記載した車両用ブレーキシステムの作用を示すフローチャート(図2および図3)ならびに説明図(図4)である。
【0016】
[車両用ブレーキシステム]
車両用ブレーキシステム1は、車両に制動力を発生させるインライン式(液圧式)のブレーキ装置である(図1参照)。この車両用ブレーキシステム1は、例えば、エンジンおよびモータジェネレータを駆動源とするハイブリッド車両に適用され、より具体的には、車両の停止時にてエンジンを停止させる運転モード(エコラン走行)を有する車両に適用される。この車両用ブレーキシステム1は、ブレーキブースタ2とマスターシリンダ3とブレーキアクチュエータ4と制御系統5とを備える。
【0017】
ブレーキブースタ2は、ブレーキペダル21が踏み込まれたときに、その踏力を倍力する装置である。このブレーキブースタ2は、車両のエンジン(図示省略)から負圧を取り込むための負圧生成パイプ22を有する。この負圧生成パイプ22は、エンジンの吸気系統に接続される。ブレーキブースタ2は、エンジンの吸気行程にて発生した負圧を負圧生成パイプ22から取り込み、この負圧によりブレーキペダル21からの踏力を倍力してマスターシリンダ3に伝達する。
【0018】
マスターシリンダ3は、踏力を液圧に変換する装置であり、ブレーキブースタ2およびブレーキアクチュエータ4に対して直列に接続されて配置される。このマスターシリンダ3は、ブレーキペダル21が踏まれて操作されたときに、ブレーキブースタ2にて倍力された踏力をブレーキ液の液圧に変換してブレーキアクチュエータ4に伝達する。
【0019】
ブレーキアクチュエータ4は、マスターシリンダ3からの液圧を車両の各車輪のホイールシリンダ61に伝達する装置であり、マスターシリンダ3と車両の各車輪のホイールシリンダ61とを接続して配置される。このブレーキアクチュエータ4は、VSC(Vehicle Stability Control)アクチュエータであり、液圧調整用のリニア弁から成るマスターカット弁41と、ON/OFF弁から成る保持弁42および減圧弁43と、ブレーキ液を貯留するアキュムレータ44と、ブレーキ液を昇圧させる加圧ポンプ(ポンプアップモータ)45とが液配管46を介して接続されて構成される。このブレーキアクチュエータ4では、ブレーキペダル21が踏まれて操作されたときに、マスターシリンダ3からの液圧が各弁機構41〜43を介して各車輪のホイールシリンダ61に伝達される。このとき、ブレーキアクチュエータ4は、ブレーキ液を加圧ポンプ45により昇圧できる。なお、この実施例では、ブレーキアクチュエータ4が第一ブレーキ系統4aおよび第二ブレーキ系統4bを有している。そして、第一ブレーキ系統4aが車両の前輪に制動力を付与する機構を構成し、第二ブレーキ系統4bが車両の後輪に制動力を付与する機構を構成している。また、加圧ポンプ45が車両のバッテリーを電源として駆動される。
【0020】
制御系統5は、ECU(Electronic Control Unit)51と、各種センサ52〜54とを有する。各種センサ52〜54は、ブレーキペダル21のストローク量を検出するストロークセンサ52と、負圧生成パイプ22の負圧を計測する負圧センサ53と、マスターシリンダ3にてブレーキ液の液圧を計測するマスターシリンダ圧センサ54と、車速を計測する車速センサ(図示省略)とを含んで構成される。この制御系統5では、ECU51が各種センサ52〜54の出力結果に基づいて後述するエンジン停止時における液圧制御を行う。
【0021】
この車両用ブレーキシステム1では、車両制動時にてドライバーがブレーキペダル21を踏み込むと、その踏力がブレーキブースタ2にて倍力されてマスターシリンダ3に伝達される。すると、この踏力がマスターシリンダ3にて液圧に変換されてブレーキアクチュエータ4に伝達され、このブレーキアクチュエータ4を介して車両の各車輪のホイールシリンダ61に伝達される。これにより、各車輪のブレーキ機構(ホイールシリンダ61、ブレーキパッドおよびブレーキロータ)が駆動されて、各車輪に制動力が付与される。
【0022】
[エンジン停止時における液圧制御]
一般に、車両停止時には、ドライバーがブレーキペダルを踏み込み、ブレーキペダルを一度戻してから再び踏み込む場合がある(ブレーキペダルの踏み直し動作)。すると、ブレーキブースタにおける負圧の消費量が増加する。しかしながら、ハイブリッド車両のエコラン走行時には、車両停止時にてエンジンが停止するため、エンジンからの負圧供給も停止する。すると、ブレーキブースタにて負圧が不足して、制動力が低下するおそれがある。
【0023】
そこで、この車両用ブレーキシステム1では、車両のエンジン停止時にて以下のような液圧制御が行われる(図2参照)。まず、車速の計測が行われて(ST1)、車両停止中であるか否かの判定が行われる(ST2)。すなわち、車両停止かつエンジン停止により、負圧の不足が生じやすい状況か否かの判定が行われる。なお、この判定ステップST2では、車速センサの出力値が用いられる。
【0024】
次に、判定ステップST2にて車両停止中であると判定された場合には、マスターシリンダ3の液圧(マスターシリンダ圧)およびブレーキペダル21のストローク量が計測される(ST3)。この計測ステップST3では、マスターシリンダ圧センサ54の出力値およびストロークセンサ52の出力値が用いられる。そして、マスターシリンダ圧とストローク量とが比較されて、制動力の減少が生じているか否かの判定が行われる(ST4)。具体的には、ストロークセンサ52の出力値とマスターシリンダ圧センサ54の出力値との差が所定の閾値よりも大きいときに、制動力の減少が生じていると判定される。これは、負圧不足によりマスターシリンダ圧が減少すると、ブレーキペダル21のストローク量が大きくなることによる。
【0025】
次に、判定ステップST4にて制動力の減少が生じていると判定された場合には、マスターシリンダ3(負圧生成パイプ22)の負圧が計測される(ST5)。この計測ステップST5では、負圧センサ53の出力値が用いられる。次に、マスターシリンダ3の負圧が一定量減少しているか否かが判定される(ST6)。例えば、大気圧(エンジンにて計測された大気圧の推定値)と負圧センサ53との差が所定の閾値よりも大きいときに、マスターシリンダ3の負圧が一定量減少していると判定される。
【0026】
そして、判定ステップST6にてマスターシリンダ3の負圧が一定量減少していると判定された場合には、必要な負圧を確保するために、制動力生成処理が行われる(ST7)。この制動力生成処理ステップST7では、まず、車両のバッテリーが使用可能か否かが判定される(ST71)。すなわち、ブレーキアクチュエータ4の加圧ポンプ45が車両のバッテリーを動力源とするため、このバッテリーの状態が判定される。具体的には、車両のバッテリーが過放電状態になく且つ加圧ポンプ45を駆動可能な充電量を有するときに、使用可能であると判定される。
【0027】
そして、この判定ステップST71にて車両のバッテリーが使用可能であると判定された場合には、加圧ポンプ45が駆動されてブレーキ液の液圧が加圧される(ポンプアップ処理)(ST72)。これにより、加圧されたブレーキ液がホイールシリンダ61に供給されて、適正な制動力が確保される。例えば、この実施例では、車両停止時かつエンジン停止時にてブレーキペダル21が踏み込まれると、その踏力による制動力に加えて、所定条件下にて加圧ポンプ45による制動力が各車輪に付与される(図4参照)。すなわち、エンジン停止によりブレーキブースタ2の負圧が減少したときに所定条件下にて加圧ポンプ45が駆動されて、負圧不足による制動力の低下が補償される。これにより、車両停止時かつエンジン停止時にて適正な制動力が確保される。なお、この実施例では、車両制動時にて、車両のハイブリッドシステムにより回生制動力がさらに付与されている。
【0028】
一方、車両のバッテリーが使用可能であると判定されなかった場合には、モータリングにより負圧生成処理が行われる(ST73)。すなわち、エンジンが始動されて負圧が生成され、この負圧が負圧生成パイプ22を介してブレーキブースタ2に導入されて制動力制御が行われる。これにより、加圧ポンプ45の作動のみに頼ることなく状況に応じて負圧生成処理が行われるので、制動力が適正に確保されると共に加圧ポンプ45の耐久性が確保される。
【0029】
なお、判定ステップST2にて車両停止中であると判定されなかった場合、判定ステップST4にて制動力の減少が生じていると判定されなかった場合、ならびに、判定ステップST4にて制動力の減少が生じていると判定されなかった場合には、制動力生成処理ステップST7が行われない(図2参照)。
【0030】
[効果]
以上説明したように、この車両用ブレーキシステム1では、車両停止時かつエンジン停止時(あるいは、車両停止時かつエンジン稼働時であって負圧が不足したとき)にて加圧ポンプ45がブレーキアクチュエータ4の液圧を加圧する(図2および図3参照)。かかる構成では、例えば、車両停止時にてブレーキペダル21の踏み直しによりブレーキブースタ2の負圧が不足したときに、踏力による制動力に加えて加圧ポンプ45による制動力が車両の各車輪に付与される。これにより、車両停止時かつエンジン停止時にて車両の制動力が適正に確保される利点がある。また、例えば、モータリングによる負圧生成処理のみが行われる構成と比較して、エンジンの燃費が向上する利点があり、また、排ガス量が低減される利点がある。
【0031】
また、この車両用ブレーキシステム1では、制動力の減少が生じているときに、加圧ポンプ45による加圧が行われる(ST4およびST7)。かかる構成では、エンジン停止による負圧不足が生じているときに、適正に加圧ポンプ45が駆動される。これにより、車両停止時かつエンジン停止時にて車両の制動力が適正に確保される利点がある。
【0032】
例えば、この実施例では、マスターシリンダ3の液圧とブレーキ操作量(ブレーキペダル21のストローク量)とが比較されて制動力の減少の有無が判定されている(ST4)。かかる構成では、ブレーキ操作量に対してマスターシリンダ圧が不足しているときに、負圧の不足により制動力の減少が生じていると判定される。これにより、制動力の減少の有無が適正に判定されるので、加圧ポンプ45の駆動が適正に行われる利点がある。
【0033】
また、この車両用ブレーキシステム1では、加圧ポンプ45を駆動するためのバッテリーが使用可能であると判定されたときに、加圧ポンプ45による加圧が行われる(ST71およびST72)。これにより、加圧ポンプ45の適正な駆動が確保される利点がある。例えば、バッテリーが過放電状態にあるときや必要な充電量が不足しているときには、バッテリーが使用不能であるため加圧ポンプ45の駆動が禁止される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、この発明にかかる車両用ブレーキシステムは、車両停止時にて制動力を適正に確保できる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施例にかかる車両用ブレーキシステムを示す構成図である。
【図2】図1に記載した車両用ブレーキシステムの作用を示すフローチャートである。
【図3】図1に記載した車両用ブレーキシステムの作用を示すフローチャートである。
【図4】図1に記載した車両用ブレーキシステムの作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 車両用ブレーキシステム
2 ブレーキブースタ
21 ブレーキペダル
22 負圧生成パイプ
3 マスターシリンダ
4 ブレーキアクチュエータ
4a 第一ブレーキ系統
4b 第二ブレーキ系統
41 マスターカット弁
42 保持弁
43 減圧弁
44 アキュムレータ
45 加圧ポンプ
46 液配管
5 制御系統
51 ECU
52 ストロークセンサ
53 負圧センサ
54 マスターシリンダ圧センサ
61 ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じた液圧を発生するマスターシリンダと、前記マスターシリンダからの液圧を各車輪のホイールシリンダに伝達するブレーキアクチュエータとを備えると共に、車両停止時にてエンジンを停止する運転モードを有する車両に搭載される車両用ブレーキシステムであって、
前記ブレーキアクチュエータの液圧を加圧する加圧ポンプを有すると共に、車両停止時にて、前記加圧ポンプが前記ブレーキアクチュエータの液圧を加圧することを特徴とする車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
制動力の減少が生じていると判定されたときに、前記加圧ポンプによる加圧が行われる請求項1に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
前記マスターシリンダの油圧とブレーキ操作量とが比較されて制動力の減少の有無が判定される請求項2に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項4】
前記加圧ポンプを駆動するためのバッテリーが使用可能であると判定されたときに、前記加圧ポンプによる加圧が行われる請求項1〜3のいずれか一つに記載の車両用ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−137828(P2010−137828A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318917(P2008−318917)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】