説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 マスタシリンダおよびマスタカットバルブ間の液路のリークを速やかに判定する。
【解決手段】 スレーブシリンダ42が運転者によるブレーキペダル12の実ストロークに応じたブレーキ液圧を発生すると、そのブレーキ液圧でホイールシリンダ26,27,30,31が作動する。リーク判定手段は、ブレーキペダルストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12の実ストロークと、液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11が発生する実ブレーキ液圧とを、ブレーキペダル12のストロークと、マスタシリンダ12が発生するブレーキ液圧との関係を示すマップに適用することで、マスタシリンダ11およびマスタカットバルブ32,33間の液路のリークを判定するので、液路のリークを速やかに判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によるブレーキペダルの操作量を電気信号に変換して液圧発生手段を作動させ、この液圧発生手段が発生するブレーキ液圧でホイールシリンダを作動させる、いわゆるBBW(ブレーキ・バイ・ワイヤ)式ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるBBW式ブレーキ装置は、例えば下記特許文献1により公知である。
【0003】
従来、この種のBBW式ブレーキ装置のマスタシリンダからマスタカットバルブあるいはストロークシミュレータに至る液路におけるブレーキ液のリークを検出するために、マスタシリンダのリザーバにブレーキ液のレベルセンサを設け、リザーバのブレーキ液のレベルが所定値以下に低下したときにリークの発生を判定することが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−343366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来の手法では、前記液路にリークが発生しても、リザーバのブレーキ液のレベルが所定値以下に低下するまでリークの発生を検出することができず、リークの発生を速やかに判定できないという問題があった。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、マスタシリンダおよびマスタカットバルブ間の液路のリークを速やかに判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、ブレーキペダルの操作によってブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、運転者によるブレーキペダルの実操作量を検出する実操作量検出手段と、前記実操作量に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生手段と、前記液圧発生手段あるいは前記マスタシリンダが発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダと、前記マスタシリンダおよび前記液圧発生手段を接続する液路を遮断するマスタカットバルブと、前記マスタカットバルブの上流の実ブレーキ液圧を検出する実ブレーキ液圧検出手段と、前記実操作量および前記実ブレーキ液圧に基づいて前記マスタシリンダおよび前記マスタカットバルブ間の液路のリークを判定するリーク判定手段とを備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記リーク判定手段は、前記ブレーキペダルの操作量に対する前記マスタシリンダが発生するブレーキ液圧の関係を示すマップにブレーキ液圧の閾値を設定し、所定の前記実作動量における前記実ブレーキ液圧が前記閾値以下のときに前記リークを判定することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記リーク判定手段は、前記実操作量が所定値以下の状態では前記リークの判定を行わないことを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の第1、第2マスタカットバルブ32,33は本発明のマスタカットバルブに対応し、実施の形態のスレーブシリンダ42は本発明の液圧発生手段に対応し、実施の形態の第1液圧センサSaは本発明の実ブレーキ液圧検出手段に対応し、実施の形態のブレーキペダルストロークセンサSdは本発明の実操作量検出手段に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、液圧発生手段が運転者によるブレーキペダルの実操作量に応じたブレーキ液圧を発生すると、そのブレーキ液圧でホイールシリンダが作動する。リーク判定手段は、実作動量検出手段で検出したブレーキペダルの実操作量と、実ブレーキ液圧検出手段で検出したマスタシリンダが発生する実ブレーキ液圧とに基づいてマスタシリンダおよびマスタカットバルブ間の液路のリークを判定するので、液路のリークを速やかに判定することができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、リーク判定手段は、ブレーキペダルの操作量に対するマスタシリンダが発生するブレーキ液圧の関係を示すマップにブレーキ液圧の閾値を設定し、所定の実操作量における実ブレーキ液圧が前記閾値以下のときにリークを判定するので、簡単な演算でリークを確実に判定することができる。
【0013】
また請求項3の構成によれば、リーク判定手段は、実操作量が所定値以下の状態ではリークの判定を行わないので、実ブレーキ液圧の変化が小さくて精度の高い検出が難しい低負荷時の誤判定を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車両用ブレーキ装置の液圧回路図。
【図2】車両用ブレーキ装置の制御系の構成を示す図。
【図3】車両用ブレーキ装置の通常制動時の液圧回路図。
【図4】車両用ブレーキ装置の異常時の液圧回路図。
【図5】スレーブシリンダの制御系のブロック図。
【図6】ペダルストローク−目標液圧マップの算出手法の説明図。
【図7】リークを判定するマップを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1に示すように、タンデム型のマスタシリンダ11は、運転者が操作するブレーキペダル12にプッシュロッド13を介して接続された第1ピストン14と、その前方に配置された第2ピストン15とを備えており、第1ピストン14および第2ピストン15間にリターンスプリング16が収納された第1液圧室17が区画され、第2ピストン15の前方にリターンスプリング18が収納された第2液圧室19が区画される。リザーバ20に連通可能な第1液圧室17および第2液圧室19はそれぞれ第1出力ポート21および第2出力ポート22を備えており、第1出力ポート21は液路Pa,Pb、VSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)装置23および液路Pc,Pdを介して、例えば左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25のホイールシリンダ26,27(第1系統)に接続されるとともに、第2出力ポート22は液路Qa,Qb、VSA装置23および液路Qc,Qdを介して、例えば左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29のホイールシリンダ30,31(第2系統)に接続される。
【0017】
尚、本明細書で、液路Pa〜Pdおよび液路Qa〜Qdの上流側とはマスタシリンダ11側を意味し、下流側とはホイールシリンダ26,27;30,31側を意味するものとする。
【0018】
液路Pa,Pb間に常開型電磁弁である第1マスタカットバルブ32が配置され、液路Qa,Qb間に常開型電磁弁である第2マスタカットバルブ33が配置される。第2マスタカットバルブ33の上流側の液路Qaから分岐する供給側液路Ra,Rbは、常閉型電磁弁であるシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35に接続される。ストロークシミュレータ35は、シリンダ36にスプリング37で付勢されたピストン38を摺動自在に嵌合させたもので、ピストン38の反スプリング37側に形成された液圧室39が供給側液路Rbに連通する。
【0019】
第1、第2マスタカットバルブ32,33の下流側の液路Pbおよび液路Qbにタンデム型のスレーブシリンダ42が接続される。スレーブシリンダ42を作動させるアクチュエータ43は、モータ44の回転をギヤ列45を介してボールねじ機構46に伝達する。スレーブシリンダ42のシリンダ本体47には、ボールねじ機構46により駆動される第1ピストン48Aと、その前方に位置する第2ピストン48Bとが摺動自在に嵌合しており、第1ピストン48Aおよび第2ピストン48B間にリターンスプリング49Aが収納された第1液圧室50Aが区画され、第2ピストン48Bの前方にリターンスプリング49Bが収納された第2液圧室50Bが区画される。アクチュエータ43のボールねじ機構46で第1、第2ピストン48A,48Bを前進方向に駆動すると、第1、第2液圧室50A,50Bに発生したブレーキ液圧が第1、第2出力ポート51A,51Bを介して液路Pb,Qbに伝達される。
【0020】
スレーブシリンダ42のリザーバ69とマスタシリンダ11のリザーバ20とが排出側液路Rcで接続されており、ストロークシミュレータ35のピストン38の背室70が排出側液路Rdを介して排出側液路Rcの中間部に接続される。
【0021】
VSA装置23の構造は周知のもので、左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統を制御する第1ブレーキアクチュエータ23Aと、左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29の第2系統を制御する第2ブレーキアクチュエータ23Bとに同じ構造のものが設けられる。
【0022】
以下、その代表として左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統の第1ブレーキアクチュエータ23Aについて説明する。
【0023】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは、上流側に位置する第1マスタカットバルブ32に連なる液路Pbと、下流側に位置する左右の後輪のホイールシリンダ26,27にそれぞれ連なる液路Pc,Pdとの間に配置される。
【0024】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは左右の後輪のホイールシリンダ26,27に対して共通の液路52および液路53を備えており、液路Pbおよび液路52間に配置された可変開度の常開型電磁弁よりなるレギュレータバルブ54と、このレギュレータバルブ54に対して並列に配置されて液路Pb側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ55と、液路52および液路Pd間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ56と、このインバルブ56に対して並列に配置されて液路Pd側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ57と、液路52および液路Pc間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ58と、このインバルブ58に対して並列に配置されて液路Pc側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ59と、液路Pdおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60と、液路Pcおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ61と、液路53に接続されたリザーバ62と、液路53および液路Pb間に配置されて液路53側から液路Pb側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ63と、液路52および液路53間に配置されて液路53側から液路52側へブレーキ液を供給するポンプ64と、このポンプ64を駆動するモータ65と、ポンプ64の吸入側および吐出側に設けられてブレーキ液の逆流を阻止する一対のチェックバルブ66,67と、チェックバルブ63およびポンプ64の中間位置と液路Pbとの間に配置された常閉型電磁弁よりなるサクションバルブ68とを備える。
【0025】
尚、前記モータ65は、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bのポンプ64,64に対して共用化されているが、各々のポンプ64,64に対して専用のモータ65,65を設けることも可能である。
【0026】
図1および図2に示すように、第1マスタカットバルブ32の上流の液路Paには、その液圧を検出する第1液圧センサSaが接続され、第2マスタカットバルブ33の下流の液路Qbには、その液圧を検出する第2液圧センサSbが接続され、第1マスタカットバルブ32の下流の液路Pbには、その液圧を検出する第3液圧センサScが接続される。尚、第3液圧センサScには、VSA装置23の制御用の液圧センサがそのまま利用される。
【0027】
第1、第2マスタカットバルブ32,33、シミュレータバルブ34、スレーブシリンダ42およびVSA装置23に接続された電子制御ユニットUには、前記第1液圧センサSaと、前記第2液圧センサSbと、前記第3液圧センサScと、ブレーキペダル12のストロークを検出するブレーキペダルストロークセンサSdと、スレーブシリンダ42のストロークを検出するスレーブシリンダストロークセンサSeと、モータ44の回転角を検出するモータ回転角センサSfと、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサSg…とが接続される。
【0028】
電子制御ユニットUには、ブレーキペダルストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12の実ストロークと、第1液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11が発生する実ブレーキ液圧とに基づいて、マスタシリンダ11から第1、第2マスタカットバルブ32,33あるいはストロークシミュレータ35に至る液路Pa,Qa,Ra,Rbのリークを判定するリーク判定手段M1が設けられる。
【0029】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0030】
先ず、図3に基づいて正常時における通常の制動作用について説明する。
【0031】
システムが正常に機能する正常時に、液路Paに設けた第1液圧センサSaが運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33が励磁されて閉弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34が励磁されて開弁する。これと同時にスレーブシリンダ42のアクチュエータ43が作動して第1、第2ピストン48A,48Bが前進することで第1、第2液圧室50A,50Bにブレーキ液圧が発生し、そのブレーキ液圧は第1、第2出力ポート51A,51Bから液路Pbおよび液路Qbに伝達され、両液路Pb,QbからVSA装置23の開弁したインバルブ56,56;58,58を介してディスクブレーキ装置24,25;28,29のホイールシリンダ26,27;30,31に伝達されて各車輪を制動する。
【0032】
また常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34が励磁されて開弁するため、マスタシリンダ11の第2液圧室19が発生したブレーキ液圧が開弁したシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35の液圧室39に伝達され、そのピストン38をスプリング37に抗して移動させることで、ブレーキペダル12のストロークを許容するとともに擬似的なペダル反力を発生させて運転者の違和感を解消することができる。
【0033】
そして液路Qbに設けた第2液圧センサSbで検出したスレーブシリンダ42によるブレーキ液圧が、液路Paに設けた第1液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11によるブレーキ液圧に応じた大きさになるように、スレーブシリンダ42のアクチュエータ43の作動を制御することで、運転者がブレーキペダル12に入力する操作量に応じた制動力をディスクブレーキ装置24,25;28,29に発生させることができる。
【0034】
次に、VSA装置23の作用を説明する。
【0035】
VSA装置23が作動していない状態では、レギュレータバルブ54,54が消磁されて開弁し、サクションバルブ68,68が消磁されて閉弁し、インバルブ56,56;58,58が消磁されて開弁し、アウトバルブ60,60;61,61が消磁されて閉弁する。従って、運転者が制動を行うべくブレーキペダル12を踏んでスレーブシリンダ42が作動すると、スレーブシリンダ42の第1、第2出力ポート51A,51Bから出力されたブレーキ液圧は、レギュレータバルブ54,54から開弁状態にあるインバルブ56,56;58,58を経てホイールシリンダ26,27;30,31に供給され、四輪を制動することができる。
【0036】
VSA装置23の作動時には、サクションバルブ68,68が励磁されて開弁した状態でモータ65でポンプ64,64が駆動され、スレーブシリンダ42側からサクションバルブ68,68を経て吸入されてポンプ64,64で加圧されたブレーキ液が、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58に供給される。従って、レギュレータバルブ54,54を励磁して開度を調整することで液路52,52のブレーキ液圧を調圧するとともに、そのブレーキ液圧を開弁したインバルブ56,56;58,58を介してホイールシリンダ26,27;30,31に選択的に供給することで、運転者がブレーキペダル12を踏んでいない状態でも、四輪の制動力を個別に制御することができる。
【0037】
従って、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bにより四輪の制動力を個別に制御し、旋回内輪の制動力を増加させて旋回性能を高めたり、旋回外輪の制動力を増加させて直進安定性能を高めたりすることができる。
【0038】
また運転者がブレーキペダル12を踏んでの制動中に、例えば左後輪が低摩擦係数路を踏んでロック傾向になったことを車輪速センサSg…の出力に基づいて検出した場合には、第1ブレーキアクチュエータ23Aの一方のインバルブ58を励磁して閉弁するとともに、一方のアウトバルブ61を励磁して開弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧をリザーバ62に逃がして所定の圧力まで減圧した後、アウトバルブ61を消磁して閉弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧を保持する。その結果、左後輪のホイールシリンダ26のロック傾向が解消に向かうと、インバルブ58を消磁して開弁することで、スレーブシリンダ42の第1出力ポート51Aからのブレーキ液圧を左後輪のホイールシリンダ26に供給して所定の圧力まで増圧することで、制動力を増加させる。
【0039】
この増圧によって左後輪が再びロック傾向になった場合には、前記減圧→保持→増圧を繰り返すことにより、左後輪のロックを抑制しながら制動距離を最小限に抑えるABS(アンチロック・ブレーキ・システム)制御を行うことができる。
【0040】
以上、左後輪のホイールシリンダ26がロック傾向になったときのABS制御について説明したが、右後輪のホイールシリンダ27、左前輪のホイールシリンダ30、右前輪のホイールシリンダ31がロック傾向になったときのABS制御も同様にして行うことができる。
【0041】
次に、図4に基づいて電源の失陥等によりスレーブシリンダ42が作動不能になった場合の作用について説明する。
【0042】
電源が失陥すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34は自動的に閉弁し、常開型電磁弁よりなるインバルブ56,56;58,58およびレギュレータバルブ54,54は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60,60;61,61およびサクションバルブ68,68は自動的に閉弁する。この状態では、マスタシリンダ11の第1、第2液圧室17,19に発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ35に吸収されることなく第1、第2マスタカットバルブ32,33、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58を通過して各車輪のディスクブレーキ装置24,25;30,31のホイールシリンダ26,27;30,31を作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0043】
尚、スレーブシリンダ42の失陥時に第1、第2ピストン48A,48Bの後退を規制する部材を別途設けても良い。この場合は通常動作時に駆動抵抗を増加させない構造であることが望ましい。
【0044】
次に、図5および図6に基づいてスレーブシリンダ23の制御を説明する。
【0045】
図5に示すように、ブレーキペダルストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12のストロークは、ペダルストローク−目標液圧マップにより、スレーブシリンダ42に発生させるべき目標液圧に変換される。このペダルストローク−目標液圧マップは、図6に示す手順で算出される。
【0046】
即ち、ブレーキペダル12の踏力および車両に発生させるべき減速度の関係を示すマップと、スレーブシリンダ42が発生するブレーキ液圧および車両の減速度の関係を示すマップとから、ブレーキペダル12の踏力およびスレーブシリンダ42に発生させるべきブレーキ液圧の関係を示すマップを算出する。続いて、このマップと、ブレーキペダル12のストロークおよびブレーキペダル12の踏力の関係を示すマップとから、ブレーキペダル12のストロークおよびスレーブシリンダ42に発生させるべき目標液圧の関係を示すマップ(ペダルストローク−目標液圧マップ)を算出する。
【0047】
図5に戻り、ペダルストローク−目標液圧マップから算出したスレーブシリンダ42に発生させるべき目標液圧と、第2液圧センサSbで検出したスレーブシリンダ42が発生する実液圧との偏差を算出し、この偏差から算出した液圧補正量を目標液圧に加算することで補正を行う。続いて、補正後の目標液圧を、スレーブシリンダ42が発生する液圧とスレーブシリンダ42のストロークとの関係を示すマップに適用し、スレーブシリンダ42の目標ストロークを算出する。続いて、スレーブシリンダ42の目標ストロークに所定のゲインを乗算して算出したモータ44の目標回転角と、モータ回転角センサSfで検出したモータ44の実回転角との偏差を算出し、この偏差から算出したモータ制御量でモータ44を駆動することで、スレーブシリンダ42はブレーキペダルストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12のストロークに対応するブレーキ液圧を発生する。
【0048】
次に、リーク判定手段M1によるマスタシリンダ11から第1、第2マスタカットバルブ32,33あるいはストロークシミュレータ35に至る液路Pa,Qa,Ra,Rbのリークの判定について説明する。
【0049】
図7はリークの判定に使用されるマップを示すもので、そこには、第1、第2マスタカットバルブ32,33が閉弁した状態において、ブレーキペダル12のストロークと、マスタシリンダ11の下流の液路Paに発生するブレーキ液圧との関係が示される。
【0050】
同図に実線で理想特性として示すように、ブレーキペダル12のストロークがゼロから増加を開始した当初は、ブレーキ液圧が小さい勾配で立ち上がる。ブレーキ液圧の立ち上がりの勾配が小さくなる理由は、ブレーキペダル12およびマスタシリンダ11の可動部のガタ、マスタシリンダ11のカップシールの撓み、あるいは液路Pa,Qa,Ra,Rbの内圧増加による膨らみ等が原因である。ブレーキペダル12のストロークが所定値を超えると、そのストロークの増加に応じてブレーキ液圧は前述した勾配よりも大きい一定の勾配で増加する。
【0051】
マスタシリンダ11から第1マスタカットバルブ32に至る液路Paがリークすると、マスタシリンダ11の第1液圧室17にブレーキ液圧が発生しなくなり、第1ピストン14が底付きして第2ピストン15が前進を開始した後に、第2液圧室19にブレーキ液圧が発生する。
【0052】
従って、液路Paに設けた第1液圧センサSaが検出するブレーキ液圧は、図7に破線で示すように、ゼロのままである。第1液圧センサSaが仮に液路Qaに設けられているとすると、第1液圧センサSaが検出するブレーキ液圧は、図7に一点鎖線で示すように、第1ピストン14が底付きするまではゼロであり、第2ピストン15が前進を開始するとゼロから立ち上がる。
【0053】
一方、マスタシリンダ11から第2マスタカットバルブ33あるいはストロークシミュレータ35に至る液路Qa,Ra,Rbがリークすると、マスタシリンダ11の第1、第2ピストン14,15が空動して第1、第2液圧室17,19にブレーキ液圧が発生しなくなり、第2ピストン15が底付きした後に、第1液圧室17にブレーキ液圧が発生する。
【0054】
従って、液路Paに設けた第1液圧センサSaが検出するブレーキ液圧は、図7に一点鎖線で示すように、第2ピストン15が底付きするまではゼロであり、第2ピストン15が底付きした後にゼロから立ち上がる。第1液圧センサSaが仮に液路Qaに設けられているとすると、第1液圧センサSaが検出するブレーキ液圧は、図7に破線で示すようにゼロのままである。
【0055】
以上のことから、図7に斜線を施した領域を、マスタシリンダ11から第1、第2マスタカットバルブ32,33あるいはストロークシミュレータ35に至る液路Pa,Qa,Ra,Rbがリークしたことを判定するリーク判定領域とし、第1液圧センサSaで検出した実ブレーキ液圧がリーク判定領域に入ったときにリークの発生を判定することができる。
【0056】
このとき、リーク判定領域はブレーキペダル12のストロークがゼロの近傍には設けられておらず、ストロークがs1以上の部分に設定されているため、つまりブレーキペダルストロークセンサSdで検出したブレーキペダルストロークが所定値s1以上の場合に限ってリークの判定を行うので、第1液圧センサSaの検出精度が低くなる低負荷領域での誤判定を回避することができる。
【0057】
以上のように、本実施の形態によれば、リーク判定手段M1が、ブレーキペダルストロークセンサSdで検出したブレーキペダル12の実ストロークと、第1液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11が発生した実ブレーキ液圧とを、予め設定したブレーキペダル12のストロークと、マスタシリンダ11が発生するブレーキ液圧との関係を示すマップに適用することで、マスタシリンダ11から第1、第2マスタカットバルブ32,33あるいはストロークシミュレータ35に至る液路Pa,Qa,Ra,Rbのリークを速やかに、かつ簡単な演算で確実に判定することができる。
【0058】
また本実施の形態の如く、第1液圧センサSaを第1系統に設けた場合には、第1液圧センサSaで検出したブレーキ液圧が図7の破線の状態になったときは第1系統にリークが発生したと判定することができ、図7の一点鎖線の状態になったときは第2系統にリークが発生したと判定することができる。
【0059】
また、仮に第1液圧センサSaを第2系統に設けた場合には、第1液圧センサSaで検出したブレーキ液圧が図7の一点鎖線の状態になったときは第1系統にリークが発生したと判定することができ、図7の破線の状態になったときは第2系統にリークが発生したと判定することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0061】
例えば、実施の形態では、第1液圧センサSaが、ストロークシミュレータ35に連なる第2系統の液路Qaでなく、ストロークシミュレータ35に連ならない第1系統の液路Paに設けられているが、それをストロークシミュレータ35に連なる第2系統の液路Qaに設けても良い。
【0062】
また本発明の液圧発生手段は実施の形態のスレーブシリンダ42に限定されず、ポンプ等により加圧した高圧源の圧力をリニアバルブ等の電磁弁で調圧して供給することでホイールシリンダを加圧する公知の液圧源を用いたシステムであっても良い。
【符号の説明】
【0063】
11 マスタシリンダ
12 ブレーキペダル
26 ホイールシリンダ
27 ホイールシリンダ
30 ホイールシリンダ
31 ホイールシリンダ
32 第1マスタカットバルブ(マスタカットバルブ)
33 第2マスタカットバルブ(マスタカットバルブ)
42 スレーブシリンダ(液圧発生手段)
M1 リーク判定手段
Sa 第1液圧センサ(実ブレーキ液圧検出手段)
Sd ブレーキペダルストロークセンサ(実操作量検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(12)の操作によってブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(11)と、
運転者によるブレーキペダル(12)の実操作量を検出する実操作量検出手段(Sd)と、
前記実操作量に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生手段(42)と、
前記液圧発生手段(42)あるいは前記マスタシリンダ(11)が発生したブレーキ液圧で作動するホイールシリンダ(26,27,30,31)と、
前記マスタシリンダ(11)および前記液圧発生手段(42)を接続する液路を遮断するマスタカットバルブ(32,33)と、
前記マスタカットバルブ(32,33)の上流の実ブレーキ液圧を検出する実ブレーキ液圧検出手段(Sa)と、
前記実操作量および前記実ブレーキ液圧に基づいて前記マスタシリンダ(11)および前記マスタカットバルブ(32,33)間の液路のリークを判定するリーク判定手段(M1)とを備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記リーク判定手段(M1)は、前記ブレーキペダル(12)の操作量に対する前記マスタシリンダ(11)が発生するブレーキ液圧の関係を示すマップにブレーキ液圧の閾値を設定し、所定の前記実作動量における前記実ブレーキ液圧が前記閾値以下のときに前記リークを判定することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記リーク判定手段(M1)は、前記実操作量が所定値以下の状態では前記リークの判定を行わないことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−176746(P2012−176746A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17506(P2012−17506)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】