説明

車両用ブレーキ装置

【課題】車両用ブレーキ装置のストロークシミュレータにおいて,特に低入力荷重領域で充分な操作ストロークを得ることができ,しかも入力荷重の解除時にはヒステリシスも充分に得ることができるようにする。
【解決手段】制御ピストン21を,前端壁21fを有する中空円筒状に形成し,ストロークシミュレータ25が,ブレーキ操作部材23に連結されて制御ピストン21内にその後端から摺動可能に嵌合される入力ピストン41と,前端壁21f及び入力ピストン41間に直列に介装される,何れもゴム又はエラストマの弾性材よりなる第1及び第2弾性体46,47とを備え,第1弾性体46の硬さを第2弾性体47の硬さより低く設定し,入力ピストン41への操作荷重入力時,第1弾性体46及び第2弾性体47が,その順で軸方向に圧縮変形されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,マスタシリンダと,このマスタシリンダを倍力作動する液圧ブースタとよりなり,その液圧ブースタが,前記マスタシリンダを作動する倍力液圧を発生し得る倍力液圧発生室と,ブレーキ操作部材からの入力による前進により液圧源の液圧を倍力液圧発生室に導入すると共に,その倍力液圧発生室側から導入液圧に応じた後退方向への反力を受ける制御ピストンと,前記ブレーキ操作部材に操作ストロークを付与するストロークシミュレータとを備える車両用ブレーキ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる車両用ブレーキ装置は,特許文献1および特許文献2に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−282012号公報
【特許文献2】特開2004−338492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される車両用ブレーキ装置のストロークシミュレータは,ブレーキ操作部材に連なり,中空円筒状をなす制御ピストン内に摺動可能に嵌合される入力ピストンと,制御ピストン内で前端部が該制御ピストンに受け止められると共に,後端部が前記入力ピストンに摺動可能に支持されるガイド軸と,入力ピストンの前方で前記ガイド軸を囲繞するようにして前記制御ピストン内に収容され,制御ピストンに対する前記入力ピストンの前進に応じて軸方向に圧縮変形されるゴム又はエラストマ製の単一の筒状弾性体とで構成されるもので,このようなストロークシミュレータでは,入力ピストンに対する入力荷重の増加時,弾性体は,先ず拡径して制御ピストンの内周面に密着し,次いで内周面を縮径させながらガイド軸の外周面に密着させていくように圧縮変形することで,入力ピストンに操作ストロークを付与することになるが,低入力荷重領域では,弾性体の外周面が制御ピストンの内周面に密着すると,ばね定数が急激に増加するため,充分な操作ストロークを得ることができず,微妙なブレーキ操作を行うことが容易でない。
【0005】
また特許文献2に開示される車両用ブレーキ装置のストロークシミュレータは,制御ピストン及び入力ピストン間に,コイルばねと,ゴム又はエラストマ製の弾性体とを直列に介装し,これらコイルばね及び弾性体のセット荷重を等しく設定すると共に,コイルばねのばね定数を,弾性体のそれより小さく設定し,低入力荷重領域では,直列のコイルばね及び弾性体が共に作動し,高入力荷重領域では弾性体のみが作動するようにしたもので,こうしたものでは,低入力荷重領域での弾性体の圧縮変形量が,コイルばねの圧縮変形により大きく削減されるため,低入力荷重領域での入力荷重の解除時,弾性体に充分なヒステリシスを期待することはできず,良好なブレーキ操作フィーリングを得ることができない。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,特に低入力荷重領域では,充分な操作ストロークを得ることができ,しかも入力荷重の解除時にはヒステリシスも充分に得ることができてブレーキ操作フィーリングを良好にし得るストロークシミュレータを備えた車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,マスタシリンダと,このマスタシリンダを倍力作動する液圧ブースタとよりなり,その液圧ブースタが,前記マスタシリンダを作動する倍力液圧を発生し得る倍力液圧発生室と,ブレーキ操作部材からの入力による前進により液圧源の液圧を倍力液圧発生室に導入すると共に,その倍力液圧発生室側から導入液圧に応じた後退方向への反力を受ける制御ピストンと,前記ブレーキ操作部材に操作ストロークを付与するストロークシミュレータとを備える車両用ブレーキ装置において,前記制御ピストンを,前端壁を有する中空円筒状に形成し,前記ストロークシミュレータが,前記ブレーキ操作部材に連結されて前記制御ピストン内にその後端から摺動可能に嵌合される入力ピストンと,前記前端壁及び入力ピストン間に直列に介装される,何れもゴム又はエラストマの弾性材よりなる第1及び第2弾性体とを備え,前記第1弾性体の硬さを前記第2弾性体の硬さより低く設定し,前記入力ピストンへの操作荷重入力時,前記第1弾性体及び第2弾性体が,その順で軸方向に圧縮変形されるようにしたことを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記ストロークシミュレータが,前記制御ピストン内に収容されて後端部が前記入力ピストンに摺動可能に支持されるガイド軸と,このガイド軸の前端部に形成されて前記制御ピストンの内周面に摺動可能に嵌合されるガイドフランジと,このガイドフランジの前端に連設されて前記制御ピストンの前端壁に所定間隙を存して対向し,前面を開放したストローク規制シリンダとを更に備え,前記第1弾性体を,前記ストローク規制シリンダに軸方向圧縮変形可能に収容すると共に,この第1弾性体の前端部を前記ストローク規制シリンダ外に突出させて前記前端壁に当接可能に配置し,前記入力ピストンへの操作荷重入力時,前記第1弾性体の軸方向圧縮変形に伴ない前記ストローク規制シリンダの前端が前記前端壁に当接したとき又はその当接直前もしくは当接直後より前記第2弾性体の軸方向圧縮変形が開始されるようにしたことを第2の特徴とする。
【0009】
さらに本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記ガイドフランジと,前記制御ピストンの前端壁との間に,該ガイドフランジを後方へ付勢して前記第1弾性体に軸方向の初期荷重を付与するコイルばねを前記第1弾性体と並列に縮設したことを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば,第1弾性体の硬さを前記第2弾性体の硬さより低く設定し,入力ピストンへの操作荷重入力時,第1弾性体及び第2弾性体が,その順で軸方向に圧縮変形されるようにしたので,低入力荷重領域では,硬さが低い第1弾性体の圧縮変形により,第1弾性体のばね定数が2次曲線的に緩やかに変化することになり,充分な操作ストロークを得て,微妙なブレーキ操作を容易に行うことが可能となる。また入力荷重の解除時には,第1弾性体の原形への復元量も大きいので,比較的大きなヒステリシスが発生し,ブレーキ操作フィルタを良好にすることができる。
【0011】
一方,高入力荷重領域では,硬さが高い第2弾性体の圧縮変形により,第2弾性体のばね定数が2次曲線的に大きく変化することになり,入力ピストンの入力荷重を制御ピストンに効率よく伝達することができると共に,急ブレーキ操作にも対応することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,第1及び第2弾性体の圧縮変形を所定の順序通り行わせることができ,ストロークシミュレータに常に安定した特性を発揮させることができる。しかも第1弾性体の圧縮変形限界を,ストローク規制シリンダが制御ピストンの前端壁への当接により規制するので,高入力荷重領域では,第1弾性体に入力荷重が作用することを防ぎ,その耐久性の向上を図ることができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,ガイドフランジと,制御ピストンの前端壁との間に,該ガイドフランジを後方へ付勢して第1弾性体に軸方向の初期荷重を付与するコイルばねを,第1弾性体と並列に縮設したので,第1弾性体と,制御ピストンの前端壁又はストローク規制シリンダの底壁との間に微小間隙を形成して第1弾性体を無負荷状態にし,その耐久性を確保することができると共に,ガイド軸及び第2弾性体の振動を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る車両用ブレーキ装置の縦断側面図。
【図2】図1中のストロークシミュレータ部の拡大図。
【図3】上記ストロークシミュレータの作動説明図。
【図4】上記ストロークシミュレータの特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を,添付図面に基づいて説明する。
【0016】
先ず,図1において,自動車の車両用ブレーキ装置は,マスタシリンダMと,このマスタシリンダMを倍力作動する液圧ブースタBとよりなっている。マスタシリンダM及び液圧ブースタBに共通なケーシング1は,前端を閉じた円筒状のシリンダ体2と,後端壁3eを有する円筒状をなしていて,シリンダ体2に同軸に結合されるブースタボディ3とで構成される。シリンダ体2の後端はブースタボディ3の前端に液密に嵌合され,シリンダ体2の後端及びブースタボディ3間には,ブースタボディ3に液密に嵌合されるセパレータ4,第1スリーブ5及び第2スリーブ6が,第1スリーブ5をセパレータ4及び第2スリーブ間に挟むようにして挟持される。
【0017】
シリンダ体2は,それぞれ後退方向へばね付勢される前部マスタピストン8及び,その後方に位置する後部マスタピストン9を摺動可能に収容してタンデム型に構成され,前部マスタピストン8とシリンダ体2の前端壁との間に前部出力液圧室10が画成され,また前部及び後部マスタピストン8,9間に後部出力液圧室11が画成され,前部及び後部マスタピストン8,9の各後退限を規制する前部及び後部ストッパピン12,13がシリンダ体2に固設される。
【0018】
前部出力液圧室10は,液圧モジュレータ14を介して左前輪ブレーキBfa及び右後輪ブレーキBrbに接続され,後部出力液圧室11は,液圧モジュレータ14を介して右前輪ブレーキBfb及び左後輪ブレーキBraに接続される。而して,後部及び前部マスタピストン8,9の前進作動により後部及び前部出力液圧室10,11にそれぞれ出力液圧が発生すると,液圧モジュレータ14がそれら出力液圧を制御して各ブレーキに伝達し,ブレーキ操作時にはアンチロック制御を行い,非ブレーキ操作時にはトラクション制御等の自動ブレーキ制御を行うことができる。
【0019】
マスタシリンダM及び液圧ブースタBはリザーバ15を共有する。このリザーバ15には,相互に区画される第1〜第3液溜め室15a〜15cが形成され,第1及び第2液溜め室15a,15bにそれぞれ連通する第1及び第2補給ポート16a,16bがシリンダ体2の上壁に設けられ,前部及び後部マスタピストン8,9の後退時,第1及び第2補給ポート16a,16bから前部及び後部出力液圧室10,11にそれぞれ作動液圧の不足分が補給されるようになっている。
【0020】
尚,上記マスタシリンダMの構成は,前記特許文献1記載のものと同様であるので,その詳細な説明は省略する。
【0021】
次に,液圧ブースタBは,前記後部マスタピストン9の後端面との間にブースタ室17を画成する隔壁ピストン18を前端部に有してブースタボディ3に摺動可能に収容される円筒状のバックアップピストン19と,このバックアップピストン19を,ブースタボディ3の後端壁3eに当接した後退限に保持するセットばね20と,前記後端壁3eに摺動可能に支持されながらバックアップピストン19内に摺動可能に嵌合される中空円筒状で前端壁21f付きの制御ピストン21と,この制御ピストン21の前方でバックアップピストン19内に配設される液圧制御弁装置22と,ブレーキペダル23に連動して前端を制御ピストン21内に臨ませるプッシュロッド24と,このプッシュロッド24及び制御ピストン21間に配設されるストロークシミュレータ25とを備える。ブレーキペダル23には,これを後退位置に付勢する戻しばね26が接続される。
【0022】
ブースタボディ3の上部には,入力ポート28と,その後方に位置する解放ポート29とが設けられており,入力ポート28には液圧源30が接続される。この液圧源30は,前記リザーバ15の第3液溜め室15cから作動液を汲み出すポンプ31と,このポンプ31の吐出側に接続されるアキュムレータ32と,このアキュムレータ32の液圧をを検出してポンプ31の作動を制御する液圧センサ33とよりなっていて,一定の液圧を入力ポート28に供給するようになっている。一方,解放ポート29は,前記ポンプ31の吸入側又は第3液溜め室15cに接続される。
【0023】
液圧制御弁装置22は,前記ブースタ室17に連通する倍力液圧発生室35と,この倍力液圧発生室35に前端を臨ませると共に後端を制御ピストン21の前端壁21fに当接させる,制御ピストン21より遥かに小径の反力ピストン36と,反力ピストン36の後退位置で閉弁し,その前進時に開弁して倍力液圧発生室35を入力ポート28に連通する増圧弁37と,反力ピストン36の後退位置で開弁して倍力液圧発生室35を前記解放ポート29に解放し,その前進時に閉弁する減圧弁38とよりなっている。
【0024】
尚,液圧制御弁装置22の構成は,前記特許文献1記載のものと同様であるので,その詳細な説明は省略する。
【0025】
次に,前記ストロークシミュレータ25について図2により説明する。
【0026】
ストロークシミュレータ25は,制御ピストン21の内周面にシール部材40を介して摺動可能に嵌合される入力ピストン41と,制御ピストン21内で前端部が制御ピストン21の前端壁21fに受け止められると共に,後端部が入力ピストン41中心部の有底のガイド孔42に摺動可能に支持されるガイド軸43と,このガイド軸43の前端部に形成されて制御ピストン21の後述する小径直筒部21c内周面に摺動可能に嵌合されるガイドフランジ44と,このガイドフランジ44の前端に連設されて制御ピストン21の前端壁21fに所定間隙S1を存して対向し,前面を開放したストローク規制シリンダ45と,そのストローク規制シリンダ45及び制御ピストン21の前端壁21f間に配設される第1弾性体46と,入力ピストン41及びガイドフランジ44間でガイド軸43を囲繞するように配設される中空円筒状の第2弾性体47とで構成される。
【0027】
入力ピストン41は,制御ピストン21の後端部に係止される止め環48により後退限が規制されようになっており,この入力ピストン41の後端部に前記プッシュロッド24がボールジョイント49を介して連結される。
【0028】
制御ピストン21は,ブースタボディ3の後端壁3eにシール部材50を介して摺動可能に支持される大径直筒部21aと,この大径直筒部21aの前端から前方に向かって内外の直径を漸減させつゝ延びるテーパ筒部21bと,このテーパ筒部21bの前端部から前方に延びて前端壁21fに一体に連結される小径直筒部21cとよりなっており,小径直筒部21cの外周面には,バックアップピストン19の内周面に摺動可能に支持される複数のガイド突起51が形成される。また大径直筒部21aの前端部外周には,ブースタボディ3の後端壁に当接して制御ピストン21の後退限を規制するストッパフランジ52が形成される。またこのストッパフランジ52は,制御ピストン21の一定の作動ストロークに対応する間隙を存してバックアップピストン19の後端にも対向していて,液圧ブースタBの液圧系の失陥時には,制御ピストン21の前進をバックアップピストン19を介して後部マスタピストン9に伝達して,これを機械的に駆動し得るようになっている。
【0029】
第1弾性体46はゴムもしくはエラストマの弾性材製であって,ストローク規制シリンダ45の内周面に嵌合する大径端から前方に向かって縮径してストローク規制シリンダ45内に配置されるテーパ状部46aと,このテーパ状部46aの前端からストローク規制シリンダ45外に突出して制御ピストン21の前端壁21fに無圧接触もしくは微小間隙を存して対向する円柱状部46bとよりなっている。即ち,第1弾性体46は,入力ピストン41が後退限にあるときは,無負荷状態である。
【0030】
中空円筒状の第2弾性体47もゴムもしくはエラストマの弾性材製であって,この第2弾性体47の外周面は,一定の拡径を許容する間隙G1を存して制御ピストン21の内周面に対向し,またその内周面は,一定の縮径を許容する間隙G2を存してガイド軸43の外周面に対向する。
【0031】
第1弾性体46は,第2弾性体47より軟質の弾性材で成形され,これにより第1弾性体46の硬さは第2弾性体47より低く設定され,したがってそのばね定数も第2弾性体47より小さく設定される。そして,第2弾性体47には軸方向の初期荷重を付与すべく,制御ピストン21の前端壁21fとガイドフランジ44との間にガイドフランジ44を後方に付勢するコイルばね53がストローク規制シリンダ45を囲繞するようにして縮設される。したがって,第2弾性体47及びコイルばね53は,ガイドフランジ44と制御ピストン21の前端壁21fとの間に並列に配置されることになる。またコイルばね53の第2弾性体47に対する初期圧縮荷重は,前記増圧弁37の開弁荷重よりより大きく設定される。
【0032】
而して,これら第1弾性体46及びコイルばね53は,図3(A)に示すように,ストローク規制シリンダ45が制御ピストン21の前端壁21fに当接するまでの距離S1(図2参照)を前進したとき,第1弾性体46及びコイルばね53に付与される総合荷重(F1+F2)が第2弾性体47の初期変形荷重Fと略等しくなるように構成される。したがって,コイルばね53の第2弾性体47に与える初期圧縮荷重によっては第2弾性体47の圧縮変形は生じないようになっている。
【0033】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0034】
ドライバのブレーキ操作時,ドライバがブレーキペダル23に与える踏力により,プッシュロッド24を介して入力ピストン41に前進方向の入力荷重を与えると,その入力荷重は,第2弾性体47,ガイドフランジ44,コイルばね53及び,このコイルばね53と並列配置の第1弾性体46よりなる力伝達経路を経て制御ピストン21の前端壁21fに伝達して,制御ピストン21を前進させる。この制御ピストン21の前進によれば,反力ピストン36も前進して増圧弁37を開弁するので,入力ポート28から倍力液圧発生室35に液圧源30の液圧が導入されると共に,その液圧が反力ピストン36を介して制御ピストン21から前記力伝達経路を経て入力ピストン41側にフィードバックされ,入力ピストン41の入力荷重と,倍力液圧発生室35の液圧による反力ピストン36の反力との釣り合いにより,倍力液圧発生室35の液圧は,制御ピストン21の入力荷重に対応した液圧に制御されることになる。こうして制御される倍力液圧発生室35の液圧は,該室35に連通するブースタ室17へと伝達され,マスタシリンダMを倍力作動することができる。
【0035】
そして,入力ピストン41の入力荷重(=反力ピストン36の反力)の増加に応じて,コイルばね53,第1弾性体46及び第2弾性体47が軸方向に圧縮変形することにより,入力ピストン41,即ちブレーキペダル23に操作ストロークが付与される。以下,その作用を詳細に説明する。
【0036】
前記解放ポート29は,セットばね20を収容するばね室54や,ストロークシミュレータ25内の各部にも連通し,バックアップピストン19及びストロークシミュレータ25に液圧ロックが生じないようになっている。
〔ブレーキ解除状態(図2参照)〕
ブレーキペダル23の解放状態では,ブレーキペダル23を後退方向へ付勢する戻しばね26の付勢力がプッシュロッド24から入力ピストン41及び止め環48を介して制御ピストン21に伝達して,それを後方に付勢するので,制御ピストン21は,そのストッパフランジ52がブースタボディ3の後端壁3eに受け止められ,所定の後退限に保持される。一方,ストロークシミュレータ25では,コイルばね53のセット荷重によりガイドフランジ44が後方に付勢されるので,このガイドフランジ44と,止め環48により後退位置に保持される入力ピストン41との間で第2弾性体47に初期圧縮荷重が付与される。したがって,第1弾性体46と,制御ピストン21の前端壁21f又はストローク規制シリンダ45の底壁との間に微小間隙を形成して第1弾性体46を無負荷状態にし,その耐久性を確保することができ,またガイド軸43及び第2弾性体47の振動を防ぐこともできる。
〔低入力荷重領域(図2〜図3(A),図4の0〜A参照)〕
ブレーキペダル23によるブレーキ操作により,入力ピストン41に操作荷重が入力されると,その入力荷重は,第2弾性体47及びガイドフランジ44を介してコイルばね53及び第1弾性体46に加えられる。ところで,第2弾性体47は,コイルばね53の反発力では圧縮変形を生じないので,入力ピストン41は,上記入力荷重により第2弾性体47,ストッパフランジ52及びストローク規制シリンダ45と共に前進し,これに伴ないコイルばね53が圧縮され,略同時に,第2弾性体47より硬さ及びばね定数が低い第1弾性体46も軸方向に圧縮変形されていく。このとき,特に制御ピストン21の前端壁21fに当接した第1弾性体46の円柱部46bが圧縮されながら,ストローク規制シリンダ45内のテーパ状部46aを小径端から徐々に拡径していく。そして入力ピストン41の前進ストロークがS1に達すると,第1弾性体46の大部分がストローク規制シリンダ45内に充填されると共に,ストローク規制シリンダ45が制御ピストン21の前端壁21fに当接して,コイルばね53及び第1弾性体46の圧縮変形が止まる。
【0037】
この間,第1弾性体46のばね定数は2次曲線的に緩やかに増加し,一方,コイルばね53のばね定数は一定である。結局,低入力荷重領域でのストロークシミュレータ25のばね定数は,第1弾性体46及びコイルばね53の総合ばね定数となり,それらの総合荷重は2次曲線的に,より緩やかな増加を呈するので,低入力荷重領域では,充分な操作ストロークを得て,微妙なブレーキ操作を容易に行うことが可能となる。
【0038】
また,このように第1弾性体46が入力ピストン41の前進ストロークS1分,軸方向に圧縮変形を受けることは,入力ピストン41に対する入力荷重を前進ストロークS1の位置から解除したとき,第1弾性体46が,それ自体の弾性力により図2の原形に復帰しながら,比較的大きなヒステリシスを発生し得ることを意味する。そのヒステリシスは,第1弾性体46の原形復帰に際して生じる内部摩擦やストローク規制シリンダ45との間の摩擦等に起因する。このように低入力荷重領域でも充分なヒステリシスを得ることで,ブレーキ操作フィルタを良好にすることができる。
〔中入力荷重領域(図3(A)〜(B),図4のA〜B参照)〕
ストローク規制シリンダ45が制御ピストン21の前端壁21fに当接したとき,第1弾性体46及びコイルばね53に付与される総合荷重(F1+F2)は,第2弾性体47の初期変形荷重Fと略等しくなっているので,入力荷重の増加に伴ない,ストローク規制シリンダ45が前端壁21fに当接したとき又はその当接直前もしくは当接直後から第2弾性体47の軸方向の圧縮変形が開始する。この第2弾性体47は,その圧縮変形に伴ない最初は拡径し,制御ピストン21の小径直筒部21c,テーパ筒部21b及び大径直筒部21aの各内周面へと順次密着していく。第2弾性体47の外周面全体が制御ピストン21の内周面に密着したときの入力ピストン41のストローク位置がS2である。この間の第2弾性体47のばね定数は2次曲線的に適度に増加するので,入力ピストン41の入力荷重を制御ピストン21に効率よく伝達することができる。
〔高入力荷重領域(図3(B)〜(C),図4のB〜C参照)〕
第2弾性体47の外周面全体が制御ピストン21の内周面に密着すると,第2弾性体47は,次にその軸方向の圧縮変形に伴ない内周面を縮径させていき,遂にはその内周面をガイド軸43の外周面に密着させる。こうして第2弾性体47全体が制御ピストン21及びガイド軸43間に充填されることで,入力ピストン41はストローク限界S3に達する。この間の第2弾性体44のばね定数は加速度的に増加し,入力ピストン41の入力荷重を制御ピストン21に一層効率良く伝達することができ,急制動に対応し得る。
【0039】
中入力荷重領域又は高入力荷重領域において,入力ピストン41に対する入力荷重を解除していくと,それに応じて第2弾性体47は,図2の原形に復帰していく過程で,それ自体の内部摩擦やガイド軸43及び制御ピストン21との間の摩擦等に起因するヒステリシスが生じるので,中入力荷重領域及び高入力荷重領域でのブレーキ操作フィーリングをも良好にすることができる。
【0040】
ブレーキ操作が解除されると,ブレーキペダル23が戻しばね26の付勢力で後退し,それに伴ないプッシュロッド24及び制御ピストン21も後退するので,増圧弁37が閉弁すると共に減圧弁38が開弁するので,倍力液圧発生室35の液圧は解放ポート29へ,ブースタ室17の液圧は倍力液圧発生室35へと解放されるので,マスタシリンダMを非作動状態に戻すことができる。
【0041】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,マスタシリンダMは,単一のマスタピストンを備えるシングル型に構成することもできる。また制御ピストン21の前端壁21fと入力ピストン41との間には,第1及び第2弾性体46,47とは硬さが異なる第3,第4の弾性体を第1及び第2弾性体46,47と直列に介装することもできる。またブレーキ操作部材としてブレーキレバーを備える自動二輪車用ブレーキ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
B・・・・液圧ブースタ
M・・・・マスタシリンダ
21・・・制御ピストン
23・・・ブレーキ操作部材(ブレーキペダル)
25・・・ストロークシミュレータ
30・・・液圧源
35・・・倍力液圧発生室
41・・・入力ピストン
43・・・ガイド軸
44・・・ガイドフランジ
45・・・ストローク規制フランジ
46・・・第1弾性体
47・・・第2弾性体
53・・・コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(M)と,このマスタシリンダ(M)を倍力作動する液圧ブースタ(B)とよりなり,その液圧ブースタ(B)が,前記マスタシリンダ(M)を作動する倍力液圧を発生し得る倍力液圧発生室(35)と,ブレーキ操作部材(23)からの入力による前進により液圧源(30)の液圧を倍力液圧発生室(35)に導入すると共に,その倍力液圧発生室(35)側から導入液圧に応じた後退方向への反力を受ける制御ピストン(21)と,前記ブレーキ操作部材(23)に操作ストロークを付与するストロークシミュレータ(25)とを備える車両用ブレーキ装置において,
前記制御ピストン(21)を,前端壁(21f)を有する中空円筒状に形成し,前記ストロークシミュレータ(25)が,前記ブレーキ操作部材(23)に連結されて前記制御ピストン(21)内にその後端から摺動可能に嵌合される入力ピストン(41)と,前記前端壁(21f)及び入力ピストン(41)間に直列に介装される,何れもゴム又はエラストマの弾性材よりなる第1及び第2弾性体(46,47)とを備え,前記第1弾性体(46)の硬さを前記第2弾性体(47)の硬さより低く設定し,前記入力ピストン(41)への操作荷重入力時,前記第1弾性体(46)及び第2弾性体(47)が,その順で軸方向に圧縮変形されるようにしたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用ブレーキ装置において,
前記ストロークシミュレータ(25)が,前記制御ピストン(21)内に収容されて後端部が前記入力ピストン(41)に摺動可能に支持されるガイド軸(43)と,このガイド軸(43)の前端部に形成されて前記制御ピストン(21)の内周面に摺動可能に嵌合されるガイドフランジ(44)と,このガイドフランジ(44)の前端に連設されて前記制御ピストン(21)の前端壁(21f)に所定間隙(S1)を存して対向し,前面を開放したストローク規制シリンダ(45)とを更に備え,前記第1弾性体(46)を,前記ストローク規制シリンダ(45)に軸方向圧縮変形可能に収容すると共に,この第1弾性体(46)の前端部を前記ストローク規制シリンダ(45)外に突出させて前記前端壁(21f)に当接可能に配置し,前記入力ピストン(41)への操作荷重入力時,前記第1弾性体(46)の軸方向圧縮変形に伴ない前記ストローク規制シリンダ(45)の前端が前記前端壁(21f)に当接したとき又はその当接直前もしくは当接直後より前記第2弾性体(47)の軸方向圧縮変形が開始されるようにしたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用ブレーキ装置において,
前記ガイドフランジ(44)と,前記制御ピストン(21)の前端壁(21f)との間に,該ガイドフランジ(44)を後方へ付勢して前記第1弾性体(46)に軸方向の初期荷重を付与するコイルばね(53)を前記第1弾性体(46)と並列に縮設したことを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−76688(P2012−76688A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225793(P2010−225793)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】