説明

車両用ベルト式無段変速機の制御装置

【課題】車両発進時におけるベルトの滑りの発生を抑制し、その耐久性の低下を抑制することのできる車両用ベルト式無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】変速機20は、内燃機関10の駆動力が伝達される入力用プーリ231及び車輪12L,12Rに駆動連結される出力用プーリ232と、これら一対のプーリ231,232に巻き掛けられたベルト233とを備えている。この変速機20は、各プーリ231,232の溝幅Win,Woutを変化させる油圧機構230と、入力用プーリ231に伝達される駆動力を調節するクラッチ22aとを備えている。そして、車両発進にかかるシフト操作に基づいてクラッチ22aを係合させるに際し、油圧機構230から一対のプーリ231,232の少なくとも一方に供給される油圧を一時的に増大させる油圧昇圧処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
内燃機関の駆動力が伝達される入力用プーリ及び車輪に駆動連結される出力用プーリと、これら一対のプーリに巻き掛けられたベルトとを備え、内燃機関により駆動される機械式オイルポンプの供給油圧を調圧し、その調圧された油圧に基づいて一対のプーリの各溝幅を変化させることにより変速比を連続的に変更する車両用ベルト式無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の駆動力を車輪に伝達する車両用変速機として、変速比を連続的に変更することのできる無段変速機が知られている。こうした無段変速機によれば、効率のよい運転領域で内燃機関を運転させながら任意の駆動力を車輪に伝達することができるようになり、効率的で変速ショックのない滑らかな車両走行を実現することができる。
【0003】
こうした車両用無段変速機として、例えば特許文献1には、内燃機関の駆動力が伝達される入力用プーリ及び車輪に駆動連結される出力用プーリと、これら一対のプーリに巻き掛けられたベルトとを備え、各プーリにおけるベルトの巻き掛け半径を変化させることにより変速比を連続的に変更するベルト式の無段変速機が記載されている。
【0004】
こうした車両用ベルト式無段変速機にあっては、内燃機関により駆動される機械式オイルポンプの供給油圧を調圧し、その調圧された油圧に基づきプーリの溝幅を変化させることにより、ベルトの巻き掛け半径を変化させるとともに、機関出力、ベルトの巻き掛け半径等に基づいてプーリがベルトを挟む挟圧を適宜調整することにより、ベルトとプーリとの間ですべりが発生しないようにしている。また、内燃機関と入力用プーリとの間にはクラッチが設けられており、駐車時等、内燃機関の駆動力を変速機側に伝達する必要のない場合にはこのクラッチを解放する一方、車両走行中にはこれを係合して内燃機関の駆動力を変速機に伝達するようにしている。
【特許文献1】特開2003‐28282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなベルト式無段変速機にあっては、内燃機関が停止している場合に、プーリへの油圧の供給が停止されるため、プーリの挟圧は低下することとなる。そしてこのようにプーリの挟圧が低下した状態が継続するとベルトの復元力によりプーリが押し戻されてその溝幅が僅かに増大し、ベルトの張力が低下することがある。このような状況のもとで内燃機関を再始動して車両を発進させる場合、内燃機関の駆動力が伝達されたときに、プーリとベルトとの間で滑りが発生し、この滑りに伴う摩耗によりベルトの耐久性が低下するおそれがある。
【0006】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものでありその目的は、車両発進時におけるベルトの滑りの発生を抑制し、その耐久性の低下を抑制することのできる車両用ベルト式無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の駆動力が伝達される入力用プーリ及び車輪に駆動連結される出力用プーリと、これら一対のプーリに巻き掛けられたベルトと、前記内燃機関により駆動される機械式オイルポンプの供給油圧を調圧して該調圧された油圧に基づいて前記一対のプーリの溝幅を変化させる油圧機構と、車両のシフト操作指令に基づいて前記内燃機関から前記入力用プーリに伝達される駆動力を調節するクラッチとを備え、前記油圧機構により前記一対のプーリの各溝幅を変化させることにより変速比を連続的に変更する車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、車両発進にかかるシフト操作に基づいて解放状態にある前記クラッチを係合させて前記入力用プーリに伝達される駆動力を増大させるに際し、該シフト操作がなされたことに基づいて前記油圧機構から前記一対のプーリの少なくとも一方に供給される油圧を増大させることにより前記クラッチの係合を開始してから完了するまでの期間において前記プーリの挟圧を機関運転状態に基づいて設定される目標挟圧よりも一時的に増大させる油圧昇圧処理を実行することをその要旨とする。
【0008】
上記構成では、シフト操作がなされたことを契機に一対のプーリの少なくとも一方に油圧機構から供給される油圧を増大させることによりクラッチの係合を開始してから完了するまでの期間においてプーリの挟圧を機関運転状態に基づいて設定される目標挟圧よりも一時的に増大させるようにしている。このため、緩んだ状態のベルトを張り直し、その張力をクラッチの係合に併せて増大させることができる。その結果、車両発進時におけるベルトの滑りの発生を抑制し、その耐久性の低下を抑制することができるようになる。
【0009】
なお、このようにプーリの挟圧を高めてベルトの張力を大きくする場合、より大きな挟圧をベルトに作用させるほど、また、その挟圧を高める期間を長くするほど、より好適にベルトの滑りの発生を抑制することができるようになる。ただし、プーリの挟圧を大きくしたり、同挟圧を高める期間を長くしたりした場合には、ベルトに対して過度の負荷が作用することが懸念される。したがって、プーリの挟圧の大きさやその挟圧を高める期間は、ベルトの滑りを抑制しつつ、ベルトに作用する負荷が極力小さくなるように設定することが望ましい。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、前記油圧昇圧処理に際して一時的に昇圧された油圧を所定期間が経過するまで一定の大きさに保持することをその要旨とする。
【0011】
上述したように、油圧機構からプーリに供給される油圧を増大させて同プーリの挟圧を一時的に上昇させることにより、緩んだ状態のベルトを張り直してその張力を増大させることができる。ここで、プーリの挟圧を上昇させた後、これに伴って実際にベルトの張力が増大するまでに遅れが生じることがある。このため、プーリの挟圧を上昇させた直後にこれを減少させた場合には、ベルトの張力が滑りを抑制し得る十分な大きさにまで増大する前にプーリの挟圧が低下してしまうことが懸念される。また、こうしたベルトの張力増大にかかる遅れを見込んでプーリに供給される油圧の大きさを設定するようにした場合には、プーリの挟圧を増大させる際の最高圧を相対的に高く設定せざるを得ず、ベルトの負荷増大を招くこととなる。
【0012】
この点、請求項2に記載の構成によれば、油圧昇圧処理に際して一時的に昇圧された油圧を所定期間が経過するまで一定の大きさに保持するようにしているため、プーリの挟圧を上昇させた直後にこれを減少させるようにした場合と比較して、ベルトに作用する負荷の増大を抑制しつつ、滑りを抑制し得る十分な大きさにまで張力をより確実に増大させることができるようになる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、前記油圧昇圧処理の実行後に前記クラッチの係合を完了させることをその要旨とする。
【0014】
同構成によるように、油圧昇圧処理を通じてベルトの張力を増大させた後にクラッチの係合を完了させるようにすれば、入力用プーリにクラッチを介して伝達される駆動力がベルトの緩みが解消された後に最大になるため、より好適にベルトの滑りを抑制することができるようになる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、前記油圧昇圧処理の実行に際して前記各プーリのうち前記出力用プーリに供給される油圧のみを一時的に増大させることをその要旨とする。
【0016】
車両発進に際しては、停止している車両を発進させるために大きなトルクを車輪に伝達する必要があるため、入力用プーリのベルト巻き掛け半径を小さく、出力用プーリの巻き掛け半径を大きくすることにより変速比がその変更範囲における最大値に設定される。
【0017】
ここで、油圧昇圧処理の実行に際して入力用プーリに供給する油圧を増大させた場合には、その挟圧の増大により入力用プーリの巻き掛け半径が大きくなり、変速比が減少してしまうようになる。この点、請求項4に記載の発明によるように、出力用プーリに供給する油圧のみを増大させる構成によれば、変速比を減少させることなくベルトの張力を増大させることができるようになるため、変速比を車両発進に適した状態に維持しつつベルトの滑りを抑制することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、機関始動後に最初に前記シフト操作がなされたときにのみ前記油圧昇圧処理を実行することをその要旨とする。
【0019】
ベルトの緩みは、機関停止中に機械式オイルポンプからプーリへの油圧の供給が停止することに起因して発生する。そのため、機関始動後の最初の車両発進の場合には、ベルトの滑りが発生しやすい。一方、機関始動後は、機械式オイルポンプからプーリへ油圧が供給されることによりベルトの緩みは徐々に解消されるため、2回目以降の車両発進の場合には、ベルトの滑りが発生し難い。
【0020】
上記構成によるように、機関始動後に最初に車両発進にかかるシフト操作がなされたときにのみ油圧昇圧処理を実行する構成によれば、ベルトの緩みが発生しやすい場合にのみベルトの張力を増大させるため、油圧昇圧処理が頻繁に実行されることに起因するベルトの負荷増大を回避することができ、ひいてはベルトの耐久性の低下を抑制することができるようになる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いときに、前記油圧昇圧処理の実行を禁止することをその要旨とする。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、機関温度が所定温度よりも高いときに機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いと判断して前記油圧昇圧処理の実行を禁止することをその要旨とする。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、前記油圧機構の作動油温が所定温度よりも高いときに機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いと判断して前記油圧昇圧処理の実行を禁止することをその要旨とする。
【0024】
前回の機関停止からの期間が長いほどプーリに油圧が供給されない期間が長くなるため、ベルトの緩みが発生しやすい。そこで上記請求項6に記載の発明によるように、機関停止からの期間が所定期間より短く、従ってベルトの緩みが発生していないと推定される場合には、油圧昇圧処理の実行を禁止するといった構成を採用することにより、不必要な油圧昇圧処理が実行されることによるベルトの負荷増大を好適に回避することができ、ひいてはベルトの耐久性の低下をより好適に抑制することができるようになる。
【0025】
なお、機関停止時から機関再始動までの期間はこれを直接計時する他、例えば機関温度や油圧機構の作動油温等、同期間の長さと相関を有して変化するパラメータに基づいて推定することができる。具体的には、例えば請求項7或いは請求項8に記載されるように、機関温度が所定温度よりも高いときに機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いと判断して前記油圧昇圧処理の実行を禁止する(請求項7)、前記油圧機構の作動油温が所定温度よりも高いときに機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いと判断して前記油圧昇圧処理の実行を禁止する(請求項8)といった構成を採用することができる。
【0026】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、機関停止時から機関再始動までの期間が短いときほど前記油圧昇圧処理に際して昇圧する油圧の最大値を小さく設定することをその要旨とする。
【0027】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、機関停止時から機関再始動までの期間が短いときほど前記油圧昇圧処理に際して油圧を昇圧する期間の長さを短く設定することをその要旨とする。
【0028】
また、請求項9又は請求項10に記載の発明によるように、機関停止時から機関再始動までの期間が短いときほど前記油圧昇圧処理に際して昇圧する油圧の最大値を小さく設定する(請求項9)、機関停止時から機関再始動までの期間が短いときほど前記油圧昇圧処理に際して油圧を昇圧する期間の長さを短く設定する(請求項10)といった構成を採用することにより、油圧昇圧処理実行時におけるベルトの負荷をより好適に低減することができるようになる。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、機関始動時から前記シフト操作が最初になされるまでの期間が所定期間以上経過したことを条件に、前記油圧昇圧処理の実行を禁止することをその要旨とする。
【0030】
機関始動後は、機械式オイルポンプを通じてプーリにオイルが供給されることにより徐々にベルトの滑りが発生し難い状態となる。このため、請求項11に記載の発明では、機関始動から車両発進にかかるシフト操作が最初になされるまでの期間が所定期間以上であることに基づいて、ベルトの滑りが発生し難い状態である旨を推定し、油圧昇圧処理を禁止するようにしている。したがって、同構成によれば、不必要な油圧昇圧処理が実行されることによるベルトの耐久性低下をより好適に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、この発明にかかる車両用ベルト式無段変速機の制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
図1は、この実施形態にかかる制御装置の制御対象であるベルト式無段変速機、並びにこれが搭載される車両の構成を示す概略構成図である。
【0032】
図1に示されるように、この変速機20は、無段変速機構23の他、トルクコンバータ21、前進後退切り替え機構22、リダクションギア24及びディファレンシャルギア25を備えている。また、無段変速機構23は、入力用プーリ231、出力用プーリ232、それら一対のプーリ231,232にそれぞれ巻き掛けられたベルト233によって構成されている。この無段変速機構23の入力用プーリ231は、トルクコンバータ21、前進後退切り替え機構22を介して内燃機関10の出力軸11に駆動連結されている。したがって、内燃機関10の駆動力は、その出力軸11からトルクコンバータ21及び前進後退切り替え機構22を介して入力用プーリ231に伝達される。一方、無段変速機構23の出力用プーリ232は、リダクションギア24及びディファレンシャルギア25を介して車両の車輪12L,12Rに駆動連結されている。したがって、入力用プーリ231からベルト233を介して出力用プーリ232に伝達された駆動力は、それらリダクションギア24及びディファレンシャルギア25を介して車輪12L,12Rに伝達される。また、前進後退切り替え機構22は内燃機関10の出力軸11から無段変速機構23(具体的には入力用プーリ231)に伝達される駆動力の方向を反転させるための遊星歯車機構(図示略)の他、無段変速機構23に伝達する駆動力の大きさを調節するクラッチ22aを備えている。
【0033】
入力用プーリ231及び出力用プーリ232の内部には油圧室234,235がそれぞれ設けられており、それら内部の油圧Pin,Poutが油圧機構230によって調圧される。これにより、各プーリ231,232の溝幅Win,Woutが変更され、各プーリ231,232におけるベルト233の巻き掛け半径が変更される。そしてこうした巻き掛け半径の変更を通じて変速機20の変速比が変更されることとなる。
【0034】
また、この油圧機構230による油圧Pin,Poutの調圧操作は、電子制御装置40によって制御されている。電子制御装置40には、車両の状態を検出する各種センサとして、内燃機関10の機関回転速度NEを検出する回転速度センサ41、機関冷却水温を検出する水温センサ42、車速Vを検出する車速センサ43、シフトセレクタレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ44、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応したアクセル開度θacを検出するアクセル開度センサ45等からの検出信号が取り込まれる。そして、電子制御装置40はこれら各種センサ41〜45等からの検出信号に基づいて、上記油圧機構230の調圧操作を含め、変速機20の各種動作を機関運転状態に応じて制御する。
【0035】
具体的には、車両発進時にあっては、シフトポジションセンサ44からの出力信号に基づいて、車両発進にかかるシフト操作が行われたことを検出し、このシフト操作の検出を契機にしてクラッチ22aの係合を開始する。即ち、電子制御装置40は、クラッチ22aを駆動する図示しないアクチュエータに供給するクラッチ油圧Pcを調圧して、解放状態にあるクラッチ22aを徐々に係合させ、入力用プーリ231に伝達されるトルクを増大させる。こうしてクラッチ22aが係合されることにより変速機20を介して内燃機関10から車輪12L,12Rへと駆動力が伝達されるようになり車両発進が可能な状態となる。なお、車両発進にかかるシフト操作として具体的には、シフトセレクタレバーを駐車位置「P」又は中立位置「N」から前進可能位置「D」又は後退可能位置「R」へと操作すること等を挙げることができ、以下ではこうしたシフト操作を特にガレージ操作と称する。
【0036】
次に、上述した油圧機構230による変速比変更時の調圧操作、並びに同調圧操作にかかる制御の手順について説明する。
図2は、油圧機構230における油圧回路の構成を示すブロック図である。図2に示されるように、油圧機構230は、オイルポンプ2301、オイルポンプ2301から供給されるオイルの油圧をライン圧Plに調圧するライン圧制御弁2302、入力用プーリ231の油圧室234内の油圧Pinを調圧する変速用油圧制御部2303、出力用プーリ232の油圧室235内の油圧Poutを調圧する張力調整用油圧制御部2304を備えている。
【0037】
オイルポンプ2301は、内燃機関10の出力軸11により駆動される機械式オイルポンプであり、図示しないオイルパンからオイルをくみ上げ、ライン油路2305を通じて、ライン圧制御弁2302、変速用油圧制御部2303、張力調整用油圧制御部2304へとオイルを供給する。
【0038】
ライン圧制御弁2302は、ライン油路2305とオイルを油圧機構230の外部へ排出する排出油路2306との間を開閉するスプール弁2307と、スプール弁2307を閉弁方向に付勢するスプリング2308とを備えている。絞り2309を通じて供給される油圧によりスプール弁2307が開弁側に移動すると、ライン油路2305と排出油路2306とが連通され、オイルポンプ2301から供給されるオイルの一部が排出される。なお、排出されたオイルは、排出油路2306を通じてオイルパンに戻される。
【0039】
こうしてライン油路2305を通じて流通するオイルの量が調整され、所定のライン圧Plに調圧される。なお、ライン圧Plの大きさは、スプール弁2307を閉弁方向に付勢する付勢力の大きさに基づいて決まるが、この付勢力の大きさは、後述するリニアソレノイド弁2310からの制御圧Psにより変更される。
【0040】
こうしてライン圧制御弁2302を通じてライン圧Plに調圧されたオイルは、変速用油圧制御部2303及び張力調整用油圧制御部2304へと供給される。
変速用油圧制御部2303は、ライン油路2305と入力用プーリ231の油圧室234に接続された供給油路2315とを仲介するように設けられ、油圧室234へのオイルの供給、排出を行うことにより、油圧室234内の油圧Pinを変更する。
【0041】
変速用油圧制御部2303は、増速用制御弁2311及び減速用制御弁2312、並びに増速用制御弁2311に制御圧Psupを出力する増速用ソレノイド弁2313、減速用制御弁2312に制御圧Psdwを出力する減速用ソレノイド弁2314を備えている。
【0042】
増速用制御弁2311は、スプール弁2317と同スプール弁2317を閉弁方向に付勢するスプリング2318とを備えている。スプール弁2317は、開弁状態において、ライン油路2305と供給油路2315とを連通し、閉弁状態において、減速用制御弁2312及び増速用制御弁2311を接続する連絡油路2316と供給油路2315とを連通する。
【0043】
そして、電子制御装置40からの出力信号に基づいて増速用ソレノイド弁2313から供給される制御圧Psupが入力されることにより、スプール弁2317は、スプリング2318の付勢力に抗して開弁する。こうしてスプール弁2317が開弁すると供給油路2315を通じて油圧室234にオイルが供給され、油圧室234内の油圧Pinが上昇する。一方、スプール弁2317が閉弁すると、供給油路2315と連絡油路2316とが連通され、油圧室234と減速用制御弁2312とが接続された状態となる。
【0044】
減速用制御弁2312は、連絡油路2316と排出油路2306との間を開閉するスプール弁2319と、スプール弁2319を閉弁方向に付勢するスプリング2320とを備えている。
【0045】
そして、増速用制御弁2311のスプール弁2317が閉弁され油圧室234と減速用制御弁2312とが接続された状態において、電子制御装置40からの出力信号に基づいて減速用ソレノイド弁2314から制御圧Psdwが入力されることにより、スプール弁2319が開弁して連絡油路2316と排出油路2306とが連通されると、油圧室234は、供給油路2315、連絡油路2316を通じて排出油路2306と接続される。その結果、油圧室234内のオイルが排出され、油圧室234の油圧Pinが低下する。
【0046】
こうして変速用油圧制御部2303は、電子制御装置40の出力信号に基づいて油圧室234内のオイルの量を増減することにより、油圧室234内の油圧Pinを変更する。
また、変速用油圧制御部2303と同様に、ライン圧Plに調圧されたオイルが供給される張力調整用油圧制御部2304は、ライン油路2305と出力用プーリ232の油圧室235に接続された供給油路2322とを仲介するように設けられ、油圧室235の油圧Poutを変更する。
【0047】
張力調整用油圧制御部2304は、張力調整用制御弁2321と、ライン圧制御弁2302及び張力調整用制御弁2321に制御圧Psを出力するリニアソレノイド弁2310とを備えている。
【0048】
張力調整用制御弁2321は、スプール弁2323と、スプール弁2323を一方向(図2における下方)に付勢するスプリング2324とを備えている。張力調整用制御弁2321は、スプール弁2323の位置により、ライン油路2305と供給油路2322とを連通する状態と、供給油路2322と排出油路2306とを連通する状態と、ライン油路2305、排出油路2306及び供給油路2322のいずれも連通しない状態とを切り替える。
【0049】
スプール弁2323が図2に示されるように中立位置に位置している場合には、ライン油路2305、排出油路2306及び供給油路2322がいずれも閉鎖されるため、油圧室235の油圧Poutが保持される。
【0050】
供給油路2322には、途中から分岐して張力調整用制御弁2321と連通するリターン油路2325が設けられている。リターン油路2325には、絞り2326が設けられており、油圧室235の油圧Poutに対応した油圧が絞り2326を通じて張力調整用制御弁2321に供給される。絞り2326を通じて張力調整用制御弁2321に供給された油圧は、スプール弁2323をスプリング2324の付勢力等に抗して移動させるように作用する。
【0051】
スプール弁2323が上記中立位置からスプリング2324の付勢力等に抗する方向に移動した場合には、供給油路2322と排出油路2306とが連通されることにより、油圧室235のオイルが排出され、油圧室235の油圧Poutが低下する。
【0052】
リニアソレノイド弁2310は、電子制御装置40からの励磁電流の大きさに対応した制御圧Psをライン圧制御弁2302及び張力調整用制御弁2321に供給する。張力調整用制御弁2321に供給された制御圧Psは、スプリング2324により付勢される方向にスプール弁2323を移動させるように作用する。
【0053】
制御圧Psに基づく力とスプリング2324の付勢力とによる合力が、絞り2326を通じて供給される油圧による力よりも大きくなり、スプール弁2323が中立位置からスプリング2324により付勢される方向に移動した場合には、ライン油路2305と供給油路2322とが連通される。そして、ライン圧Plに調圧されたオイルが油圧室235に供給され、油圧室235の油圧Poutが上昇する。
【0054】
こうして張力調整用油圧制御部2304は、電子制御装置40からの励磁電流の大きさに対応する大きさの制御圧Psを供給することにより、油圧室235内の油圧Poutを変更する。
【0055】
無段変速機構23においては、上述したように油圧機構230を通じて、各プーリ231,232の油圧室234,235の油圧Pin,Poutが変更されることにより、各プーリの溝幅Win,Woutが変化する。具体的には、油圧Pin,Poutが大きくなるほど溝幅Win,Woutは小さくなる。
【0056】
変速機20は、無段変速機構23における各プーリ231,232の溝幅Win,Woutを変更することによりベルト233の巻き掛け半径を変更して変速比を連続的に変更して、内燃機関10の出力軸11から伝達されたトルクを、所定の回転速度、トルクに変換し、車輪12L,12Rへと伝達する。
【0057】
具体的には、車速V及びアクセル開度θac等に基づいて設定される目標の変速比となるように入力用プーリ231の溝幅Winを変更し、入力用プーリ231がベルト233を挟む挟圧を調整することにより、ベルト233の巻き掛け半径を変化させ、変速比を連続的に変更する。またこの変更と併せて内燃機関10の機関出力、ベルト233の巻き掛け半径等に基づいて出力用プーリ232の溝幅Woutを変更する。これにより出力用プーリ232がベルト233を挟む挟圧を調整してベルト233の張力を調整し、ベルト233と各プーリ231,232との間でのすべりの発生を抑制する。
【0058】
こうして電子制御装置40からの制御信号に基づき油圧機構230を通じて連続的に変速比を変更することにより、効率のよい運転領域で内燃機関を運転させながら任意の駆動力を車輪に伝達することができるようになり、効率的で変速ショックのない滑らかな車両走行を実現することができる。
【0059】
ところが、内燃機関10が停止している期間は、オイルポンプ2301の駆動が停止し、油圧室234,235へのオイルの供給が停止されるため、各プーリ231,232の挟圧は低下することとなる。そして、このように各プーリ231,232の挟圧が低下した状態が継続するとベルト233の復元力により各プーリ231,232が押し戻されてその溝幅Win,Woutが僅かに増大し、ベルト233の張力が低下することがある。
【0060】
このような状況のもとで内燃機関10を再始動して車両を発進させる場合、クラッチ22aが係合され、内燃機関10の駆動力が伝達されたときに、各プーリ231,232とベルト233との間で滑りが発生し、この滑りに伴う摩耗によりベルト233の耐久性が低下するおそれがある。
【0061】
そこで、この実施形態においては、車両発進に伴う油圧制御において以下に説明する油圧昇圧処理を実行することにより、車両発進時におけるベルトの滑りの発生を抑制し、その耐久性の低下を抑制するようにしている。
【0062】
図3は、車両発進に伴い油圧昇圧処理を実行するか否かの判定を行う処理の一連の流れを示すフローチャートである。この処理は、内燃機関10が始動され機関回転速度NEが自立運転可能な所定速度以上にまで上昇した状態のもと、上述したガレージ操作がなされたことを契機として実行される。
【0063】
このようにガレージ操作が検出されると、まず、ステップS100において、水温センサ42によって検出される機関冷却水温THWが基準水温THWstよりも高いか否かが判定される。ステップS100において、機関冷却水温THWが基準水温THWst未満である旨判定された場合には(ステップS100:NO)、ステップS110へと進む。なお、この基準水温THWstは、機関冷却水温THWが十分に高いことにより、前回の機関停止からの経過期間が短く、ベルト233の張力が低下していないと判定することができる程度の値に設定されている。
【0064】
ステップS110では、機関始動から所定期間Tst以上経過したか否かが判定される。このステップS110において、機関始動から所定期間Tst経過していない旨判定された場合には(ステップS110:NO)、ステップS120へと進む。なお、所定期間Tstは、機関始動からの経過期間が十分に長いことにより、各プーリ231,232の油圧室234,235に十分な量のオイルが供給され、ベルト233の張力が所定値以上の状態に維持されてベルトの緩みが解消された旨判定できる程度の値に設定されている。
【0065】
ステップS120では、機関始動後において実行されたガレージ操作の回数Nが「1」よりも大きいか否かを判定する。ステップS120において、機関始動後において実行されたガレージ操作の回数Nが「1」である旨判定された場合(ステップS120:NO)には、ステップS200へと進み油圧昇圧処理を伴う発進操作が行われる。
【0066】
一方、ステップS100において、機関冷却水温THWが基準水温THWstよりも高い旨判定された場合(ステップS100:YES)、ステップS110において、機関始動から所定期間Tst経過した旨判定された場合(ステップS110:YES)、ステップS120において、機関始動後におけるガレージ操作の回数Nが「1」よりも大きい旨判定された場合(ステップS120:YES)には、いずれもステップS300へと進み、油圧昇圧処理を実行しない通常の発進操作が実行される。具体的には、電子制御装置40により、機関出力と目標変速比とに基づいて各プーリ231,232がベルト233を挟む挟圧が制御されるとともに、クラッチ22aを駆動するアクチュエータに供給するクラッチ油圧Pcが制御され、解放状態にあるクラッチ22aが徐々に係合される。そして、入力用プーリ231に伝達するトルクが増大され、変速機20を介して内燃機関10から車輪12L,12Rへと駆動力が伝達されるようになり車両発進が可能な状態となる。
【0067】
以下、図4を参照して図3のステップS200における処理、即ち油圧昇圧処理を伴う発進操作の処理の流れについて説明する。
まず、ステップS210において、クラッチ22aの係合を開始する。このとき、クラッチ22aを駆動するアクチュエータへの供給油圧であるクラッチ油圧Pcに上限値aを設定し、クラッチ22aを半係合状態に保持する。なお、この上限値aは、クラッチ22aにより伝達可能なトルクが非常に小さく各プーリ231,232とベルト233との間に滑りが発生しない程度の値に設定される。
【0068】
次にステップS220において、出力用プーリ232の油圧室235の油圧Poutを増大させ、機関運転状態に基づいて設定される目標挟圧よりも高い挟圧が得られるようにする油圧昇圧処理を実行する。具体的には、ブースト油圧Pbstを油圧Poutの目標値Ptrgとして設定し、油圧Poutがこの目標値Ptrg、即ちブースト油圧Pbstと一致するように油圧機構230を通じて油圧Poutを制御する。なお、ブースト油圧Pbstは、予め実験等の結果に基づいて、ベルト233の緩みを解消し、各プーリ231,232とベルト233との間で発生する滑りを抑制することのできる値に設定されている。
【0069】
次に、ステップS230へと進み、油圧Poutを増大させてから、換言すればクラッチ22aの係合を開始してから所定期間Tbstが経過したか否かが判定される。ステップS230において、油圧Poutを増大させてから所定期間Tbstが経過していない旨判定された場合には(ステップS230:NO)、ステップS230を繰り返す。一方、ステップS230において、油圧Poutを増大させてから所定期間Tbstが経過した旨判定された場合には(ステップS230:YES)、ステップS240へと進む。こうして、ステップS230を繰り返すことにより油圧Poutを増大させてから所定期間Tbstが経過するのを待ってからステップS240へと進む。
【0070】
次に、ステップS240において、一時的に増大させた油圧Poutを減少させる。具体的には、ブースト油圧Pbstに設定された目標値Ptrgから所定値αが減算され、減算された値が新たな目標値Ptrgとして設定される。次にステップS250へと進み、ステップS250において、油圧Poutが機関運転状態に対応した目標挟圧を発生する油圧Pactにまで減少したか否かが判定される。ステップS250において、油圧Poutが油圧Pactにまで減少していない旨判定された場合には(ステップS250:NO)、ステップS240へと戻り、ステップS240,ステップS250の各処理を繰り返す。即ち、油圧Poutをブースト油圧Pbstから徐々に機関運転状態に対応した目標挟圧を発生する大きさにまで減少させる。そして、ステップS250において、油圧Poutが油圧Pactにまで減少した旨判定された場合には(ステップS250:YES)、油圧昇圧処理が終了した旨判断し、ステップS260へと進む。
【0071】
ステップS260では、アクチュエータに供給するクラッチ油圧Pcが上限値a以下に制限され、半係合状態に保持されていたクラッチ22aについて、上限値aに基づく制限を解除し、クラッチ油圧Pcを最大油圧Pcmaxまで上昇させることにより、クラッチ22aを完全係合させる。こうしてステップS260によりクラッチ22aの係合が完了することにより、内燃機関10から入力用プーリ231に伝達される駆動力が最大になり、発進操作が完了する。そして、ステップS260により、クラッチ22aが完全係合され、発進操作が完了すると、この一連の処理を終了する。
【0072】
次に本実施形態にかかる上述した油圧昇圧処理を伴う発進操作の作用について、図5を参照して説明する。図5は、油圧昇圧処理にかかるクラッチ22aのクラッチ油圧Pc、出力用プーリの油圧Poutの目標値Ptrg、出力用プーリの油圧Poutの時間的推移を示すタイムチャートである。
【0073】
図5に示されるように、時刻t1において内燃機関10が始動され、内燃機関10によりオイルポンプ2301が駆動されると、油圧機構230及び油圧室234,235内に油圧を充満させるために所定の油圧bをもってオイルが供給される。時刻t2において、機関始動後最初のガレージ操作が検出されると、クラッチ油圧Pcが徐々に上昇し始め、クラッチの係合操作が開始される。このときクラッチ油圧Pcは上限値a以下に制限されるため、同クラッチ油圧Pcは、上限値aまで上昇してその値のまま保持され、クラッチ22aは半係合状態となる。また、クラッチ22aの係合が開始されると油圧Poutの目標値Ptrgがブースト油圧Pbstに設定され、油圧Poutが上昇し始める。
【0074】
時刻t3において、油圧Poutを増大させてからから所定期間Tbstが経過した旨が判定されると、目標値Ptrgが所定値αずつ減少され、油圧Poutが徐々に機関運転状態に対応した目標挟圧を発生する油圧Pactまで減少される。
【0075】
時刻t4において、油圧Poutが油圧Pactまで減少した旨が判定されると、クラッチ油圧Pcの上限値aの設定が解除される。そして、クラッチ油圧Pcが、最大油圧Pcmaxまで増大され、クラッチ22aが完全係合し、発進操作が完了する。
【0076】
このように油圧昇圧処理を伴う発進操作を通じて、出力用プーリ232の油圧Poutを一時的にブースト油圧Pbstまで増大させることにより、クラッチ22aの係合を開始してから係合が完了するまでの期間(時刻t2〜t4)における出力用プーリ232の挟圧がクラッチ22a係合完了後(t4以降)の機関運転状態に対応した挟圧よりも大きくなるようにしている。
【0077】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)車両発進にかかるシフト操作、即ちガレージ操作がなされたことを契機に、出力用プーリ232の油圧室235の油圧Poutをブースト油圧Pbstまで増大させることによりクラッチ22aの係合を開始してから係合が完了するまでの期間において、出力用プーリ232の挟圧を機関運転状態に基づいて設定される目標挟圧よりも一時的に増大させるようにしている。このため、緩んだ状態のベルト233を張り直し、その張力をクラッチ22aの係合に併せて増大させることができる。その結果、車両発進時におけるベルト233の滑りの発生を抑制し、その耐久性の低下を抑制することができるようになる。また、こうしたベルト233の滑りが発生することによる車輪12L,12Rへの駆動力伝達効率の低下についてもこれを抑制することができるようになる。また、油圧昇圧処理と併せてクラッチ22aの係合操作を行うようにしているため、例えば油圧昇圧処理の完了後にクラッチ22aの係合を開始するようにした構成と比較して車両発進時の応答性を高めることができるようになる。
【0078】
(2)図5に示されるように、出力用プーリ232の油圧Poutを上昇させるべく、その目標値Ptrgを上昇させた後、実際に油圧Poutが上昇し、ベルト233の張力が増大するまでには、遅れが生じることがある。このため、出力用プーリ232の油圧Poutを上昇させた直後にこれを減少させた場合には、ベルト233の張力が十分な大きさにまで増大する前に出力用プーリ232の挟圧が低下してしまうことが懸念される。また、こうしたベルト233の張力増大にかかる遅れを見込んでブースト油圧Pbstの大きさを設定するようにした場合には、その大きさを相対的に高く設定せざるを得ず、ベルト233の負荷増大を招くこととなる。
【0079】
この点、上記実施形態では、油圧昇圧処理に際して一時的に昇圧される油圧Poutを所定期間Tbstが経過するまでブースト油圧Pbstに保持するようにしているため、出力用プーリ232の挟圧を上昇させた直後にこれを減少させるようにした場合と比較して、ベルト233に作用する負荷の増大を抑制しつつ、滑りを抑制し得る十分な大きさにまで張力をより確実に増大させることができるようになる。
【0080】
(3)上記実施形態では、クラッチ22aを半係合状態に保持した状態で油圧昇圧処理を通じてベルト233の張力を増大させ、油圧昇圧処理が終了したあと、クラッチ22aの係合を完了させるようにした。そのため、ベルト233の緩みが解消されてからクラッチ22aが完全係合状態となり、入力用プーリ231にクラッチ22aを介して伝達される駆動力が最大になるため、より好適にベルト233の滑りを抑制することができる。
【0081】
(4)出力用プーリ232に供給する油圧Poutのみを増大させるため、変速比を減少させることなくベルト233の張力を増大させることができる。即ち、車両発進に適した状態でベルト233の滑りを抑制することができる。
【0082】
(5)機関始動後におけるガレージ操作が実行された回数Nが「1」よりも大きいか否かを判定し、機関始動後におけるガレージ操作の回数Nが「1」である旨判定された場合に油圧昇圧処理を伴う車両発進操作を実行するようにした。そのため、ベルト233の緩みが発生しやすい場合にのみベルト233の張力を増大させるため、油圧昇圧処理が頻繁に実行されることに起因するベルト233の負荷増大を回避することができ、ひいてはベルト233の耐久性の低下を抑制することができるようになる。
【0083】
(6)前回の機関停止からの期間が長いほど各プーリ231,232に油圧が供給されない期間が長くなるため、ベルト233の緩みが発生しやすい。また、機関冷却水温THWは、前回の機関停止からの期間が長くなるほど低くなる。上記実施形態では、このように前回の機関停止からの期間と相関を有して変化する機関冷却水温THWが基準水温THWstよりも高いか否かを判定し、機関冷却水温THWが基準水温THWstよりも高い旨判定されたときに機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いと判断して前記油圧昇圧処理の実行を禁止する。そのため、不必要な油圧昇圧処理が実行されることによるベルト233の負荷増大を好適に回避することができ、ひいてはベルト233の耐久性の低下をより好適に抑制することができるようになる。
【0084】
(7)機関始動後は、オイルポンプ2301の駆動により出力用プーリ232には、所定の油圧bが供給される。そのため、機関始動からガレージ操作が検出されるまでの期間(図5における期間T1)が長くなるほどベルト233の滑りは発生し難くなる。上記実施形態では、ガレージ操作が最初になされるまでに機関始動から所定期間Tst以上経過したか否かを判定し、機関始動から所定期間Tst経過した旨判定された場合には、油圧昇圧処理の実行を禁止し、油圧昇圧処理を伴わない発進操作を実行する。そのため、機関始動からガレージ操作が最初になされるまでの期間が所定期間Tst以上であることに基づいて、ベルト233の滑りが発生し難い状態である旨を推定し、油圧昇圧処理を禁止することにより、不必要な油圧昇圧処理が実行されることによるベルト233の耐久性低下をより好適に抑制することができる。
【0085】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・油圧機構230において、リニアソレノイド弁2310により、ライン圧Plを制御するライン圧制御弁2302と出力用プーリ232の油圧室235の油圧Poutを制御する張力調整用制御弁2321とに制御圧Psを供給する構成を示した。これに対して、ライン圧制御弁2302に制御圧を供給するリニアソレノイドと、張力調整用制御弁2321に制御圧を供給するリニアソレノイドとを別々に備える構成を採用してもよい。こうした構成によれば、上記油圧昇圧処理の実行に際して、油圧機構230全体に供給されるライン圧Plを増大させずに、出力用プーリの油圧Poutのみを増大させることができるようになる。そのため、上記実施形態のようにリニアソレノイド弁2310により、ライン圧制御弁2302と張力調整用制御弁2321とに制御圧Psを供給する構成に比べて、オイルポンプ2301の吐出能力を低く抑えることができる。
【0086】
・機関冷却水温THWに基づいて機関停止時から機関再始動までの期間を推定するようにした(図3のステップS100)。これに対して、図1に二点鎖線で示されるように電子制御装置40にソークタイマ46を更に設け、機関停止時から機関再始動までの期間Toffを直接計時し、同期間Toffが所定期間よりも短いときに、油圧昇圧処理の実行を禁止する構成としてもよい。
【0087】
・或いは、図1に二点鎖線で示すように油圧機構230のオイルの油温THOを検出する油温センサ47を備え、油温センサ47によって検出された油温THOが高いほど期間Toffが短いと判断する構成や、機関冷却水温THW及び油温THOの双方、或いはその一方が所定の温度より高いことに基づいて期間Toffが短いと判断する構成等を採用することもできる。
【0088】
・また、例えば図6に示されるように、機関停止時から機関再始動までの期間Toffが長いときほど油圧昇圧処理に際して昇圧するブースト油圧Pbstを小さく設定する、或いは図7に示されるように同期間Toffが長いときほど油圧昇圧処理に際して油圧を昇圧する期間Tbst(又は図5に示される期間T2)の長さを短く設定するといった構成を採用することにより、油圧昇圧処理が実行される際のベルト233の負荷をより好適に低減することができるようになる。なお、機関停止時から機関再始動までの期間Toffに関係なく、出力用プーリ232の挟圧を機関運転状態に基づいて設定される目標挟圧よりも一時的に増大させる構成としてもよい。
【0089】
・更に、油圧昇圧処理に際して一時的に昇圧される油圧Poutをブースト油圧Pbstに保持する期間Tbstを設けずに、例えば油圧Poutを一旦大きく上昇させた後、直ぐにこれを減少させるようにしてもよい。
【0090】
・また、上記実施形態では、油圧Poutが油圧Pactにまで減少し、油圧昇圧処理が終了したあと、クラッチ22aの係合を完了させるようにしたが、油圧昇圧処理中、例えば、油圧昇圧処理が開始されてから所定期間が経過したときにクラッチ22aの係合を完了させる構成としてもよい。
【0091】
・入力用プーリ231及び出力用プーリ232の少なくとも一方の挟圧を高めることにより、ベルト233の張力を増大させる構成であればよい。即ち、入力用プーリ231に供給する油圧Pinと、出力用プーリ232に供給する油圧Poutの双方を増大させる構成や、入力用プーリ231の油圧Pinのみを増大させる構成を採用することもできる。また、入力用プーリ231に供給する油圧Pinと、出力用プーリ232に供給する油圧Poutの双方を増大させる構成を採用する場合には、油圧昇圧処理に際して入力用プーリよりも出力用プーリの挟圧を大きく増大させる構成とすると、変速比の低下を最小限に抑える上では効果的である。
【0092】
・上記実施形態では、ガレージ操作が最初になされるまでに機関始動から所定期間Tst以上経過したか否かを判定し、機関始動から所定期間Tst経過した旨判定された場合には、油圧昇圧処理の実行を禁止し、油圧昇圧処理を伴わない発進操作を実行するようにした。これに対して、機関始動からガレージ操作がなされるまでの期間にかかわらず油圧昇圧処理を実行する構成としてもよい。
【0093】
・また、上述した各例では、油圧昇圧処理を機関始動後最初のガレージ操作時にのみ実行するようにした。これに対して、油圧昇圧処理を実行することによるベルトの負荷増大よりも、むしろ滑りによる摩耗に起因した耐久性の低下が懸念される場合や、オイルポンプの吐出能力が低くガレージ操作時におけるベルトの滑りが避けられないような場合にあっては、例えば以下に示す構成(a)〜(c)を採用することもできる。
(a)機関始動後のガレージ操作の回数が所定回数n(n:n≧2を満たす整数)に達するまで上記油圧昇圧処理を実行する
(b)上記(a)において所定回数nを機関始動後の経過時間が長くなるほど小さくする
(c)ガレージ操作がなされるたびに油圧昇圧処理を常に実行する
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】ベルト式無段変速機、並びにこれが搭載される車両の概略構成図。
【図2】油圧機構における油圧回路の構成を示すブロック図。
【図3】油圧昇圧処理の実行可否を判定する際の処理手順を示すフローチャート。
【図4】油圧昇圧処理を伴う発進操作の処理手順を示すフローチャート。
【図5】油圧昇圧処理を伴う発進操作におけるクラッチ油圧及び出力用プーリの油圧の時間的推移を示すタイミングチャート。
【図6】機関停止時から機関再始動までの期間とブースト油圧との関係を示すグラフ。
【図7】機関停止時から機関再始動までの期間と油圧を上昇させる期間との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0095】
10…内燃機関、11…出力軸、12L,12R…車輪、20…変速機、21…トルクコンバータ、22…前進後退切り替え機構、23…無段変速機構、24…リダクションギア、25…ディファレンシャルギア、40…電子制御装置、41…回転速度センサ、42…水温センサ、43…車速センサ、44…シフトポジションセンサ、45…アクセル開度センサ、46…ソークタイマ、47…油温センサ、230…油圧機構、231…入力用プーリ、232…出力用プーリ、234,235…油圧室、2301…オイルポンプ、2302…ライン圧制御弁、2303…変速用油圧制御部、2304…張力調整用油圧制御部、2305…ライン油路、2306…排出油路、2307…スプール弁、2308…スプリング、2309…絞り、2310…リニアソレノイド弁、2311…増速用制御弁、2312…減速用制御弁、2313…増速用ソレノイド弁、2314…減速用ソレノイド弁、2315…供給油路、2316…連絡油路、2317…スプール弁、2318…スプリング、2319…スプール弁、2320…スプリング、2321…張力調整用制御弁、2322…供給油路、2323…スプール弁、2324…スプリング、2325…リターン油路、2326…絞り。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の駆動力が伝達される入力用プーリ及び車輪に駆動連結される出力用プーリと、これら一対のプーリに巻き掛けられたベルトと、前記内燃機関により駆動される機械式オイルポンプの供給油圧を調圧して該調圧された油圧に基づいて前記一対のプーリの溝幅を変化させる油圧機構と、車両のシフト操作指令に基づいて前記内燃機関から前記入力用プーリに伝達される駆動力を調節するクラッチとを備え、前記油圧機構により前記一対のプーリの各溝幅を変化させることにより変速比を連続的に変更する車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
車両発進にかかるシフト操作に基づいて解放状態にある前記クラッチを係合させて前記入力用プーリに伝達される駆動力を増大させるに際し、該シフト操作がなされたことに基づいて前記油圧機構から前記一対のプーリの少なくとも一方に供給される油圧を増大させることにより前記クラッチの係合を開始してから完了するまでの期間において前記プーリの挟圧を機関運転状態に基づいて設定される目標挟圧よりも一時的に増大させる油圧昇圧処理を実行する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧昇圧処理に際して一時的に昇圧された油圧を所定期間が経過するまで一定の大きさに保持する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧昇圧処理の実行後に前記クラッチの係合を完了させる
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧昇圧処理の実行に際して前記各プーリのうち前記出力用プーリに供給される油圧のみを一時的に増大させる
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
機関始動後に最初に前記シフト操作がなされたときにのみ前記油圧昇圧処理を実行する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いときに、前記油圧昇圧処理の実行を禁止する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
機関温度が所定温度よりも高いときに機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いと判断して前記油圧昇圧処理の実行を禁止する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
前記油圧機構の作動油温が所定温度よりも高いときに機関停止時から機関再始動までの期間が所定期間よりも短いと判断して前記油圧昇圧処理の実行を禁止する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
機関停止時から機関再始動までの期間が短いときほど前記油圧昇圧処理に際して昇圧する油圧の最大値を小さく設定する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
機関停止時から機関再始動までの期間が短いときほど前記油圧昇圧処理に際して油圧を昇圧する期間の長さを短く設定する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
機関始動時から前記シフト操作が最初になされるまでの期間が所定期間以上経過したことを条件に、前記油圧昇圧処理の実行を禁止する
ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−39027(P2008−39027A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213040(P2006−213040)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】