説明

車両用乗員下肢保護構造

【課題】 乗員に違和感を与えることがなく、車両前突時に乗員の下肢の車体前方への移動を抑制する。
【解決手段】 フロアパネル14の前端部14Aとダッシュパネル16の傾斜部16Aとに跨る車室内側の部位は、前席に着座した乗員20の足部24を支持する足部支持部26となっており、足部支持部26に取付けられたティビアパッド30の前端部には、足部移動停止手段としての爪先ストッパ34が車室内側に向かって突出している。爪先ストッパ34は、足部24がティビアパッド30の前部30Bである傾斜部に沿って車体前方へ移動した場合に、足部24の爪先24Aと当接して足部24の前部30Bに沿った車体前方への移動を停止するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用乗員下肢保護構造に関し、特に、自動車等の車両の前席に着座した乗員の下肢を車両衝突時に保護する車両用乗員下肢保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のフロア構造として、アクセルペダルの下方となるフロアパネルのダッシュパネルに近接した部位に、金属製ブラケットを取付け、このブラケットにおける取付部の上部が踵移動規制部となっている構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。このブラケットの踵移動規制部は、アクセルペダルを踏む乗員足部の踵とフロア面との接点から前方へ所定距離離間した位置に設けられており、車両衝突時に、乗員の踵が前方へ所定距離移動した際に、踵の前方への移動を規制するようになっている。
【特許文献1】特開2000−95150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の車両用乗員下肢保護構造では、乗員足部の下方にブラケットの踵移動規制部が隆起することになるので、着座乗員に違和感を与えずに踵移動を規制するための配置や大きさ等の設計を複雑にしている。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、乗員に違和感を与えることがなく、車両前突時に乗員の下肢の車体前方への移動を抑制できる車両用乗員下肢保護構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の車両用乗員下肢保護構造は、車室前方に設けられ、着座乗員の足部を支持する傾斜部と、
前記傾斜部における前記足部支持部の車体前方側に車室内側へ向かって突出され、前記傾斜部に支持された着座乗員の足部が前記傾斜部に沿って車体前方へ移動した際に、前記足部の爪先に当接し前記足部の前記傾斜部に沿った車体前方への移動を止める足部移動停止手段と、
を有することを特徴とする。
【0006】
この結果、着座乗員の足部が傾斜部の足部支持部にある場合には、着座乗員の足部は足部移動停止手段と干渉しない。一方、車両が前部から他車両等と衝突する車両前突時に、着座乗員の足部が、傾斜部に沿って車体前方へ移動した場合には、足部移動停止手段が着座乗員の足部の爪先に当接し、足部の傾斜部に沿った車体前方への移動が停止する。このため、乗員の下肢の車体前方への移動が抑制される。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の車両用乗員下肢保護構造において、前記足部移動停止手段は、前記傾斜部に取付けられた緩衝部材に一体成形されたことを特徴とする。
【0008】
請求項1記載の内容に加えて、足部移動停止手段が傾斜部に取付けられた緩衝部材に一体成形されており、足部移動停止手段は単独の部材になっていない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の本発明の車両用乗員下肢保護構造は上記構成としたので、乗員に違和感を与えることがなく、車両前突時に乗員の下肢の車体前方への移動を抑制できる。
【0010】
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の車両用乗員下肢保護構造において、足部移動停止手段は、傾斜部に取付けられた緩衝部材に一体成形されているため、部品点数を低減できると共に組付け工数を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る車両用乗員下肢保護構造の一実施形態を図1〜図3を用いて説明する。
【0012】
なお、図中矢印UPは車体上方を示し、図中矢印FRは車体前方を示している。
【0013】
図1に示される如く、本実施形態では、自動車等の車両の車室10とエンジンルーム18とを仕切るダッシュパネル16の下部に、車体後方下側から車体前方上側に向かって伸びる傾斜部16Aが形成されている。また、傾斜部16Aの下端からは車体後方へ向ってフランジ16Bが形成されている。ダッシュパネル16のフランジ16Bの上面には車室10の床部を構成するフロアパネル14の前端部14Aが接合されており、フロアパネル14の前端部14Aはダッシュパネル16の傾斜部16Aの下端から車体後方へ向かって伸びている。
【0014】
フロアパネル14の前端部14Aとダッシュパネル16の傾斜部16Aとに跨る車室内側の部位は、前席(本実施形態では運転席)に着座した乗員20の足部24を支持する足部支持部26となっている。また、この足部支持部26には、緩衝部材としてのティビアパッド30が取付けられている。
【0015】
このティビアパッド30は樹脂材で構成されており、車両が前部から他車両等と衝突する、所謂、車両前突時等に、ダッシュパネル16の傾斜部16Aが車体上方向(図1の矢印A方向)へ立ち上がる際に、ティビアパッド30が圧縮変形することでダッシュパネル16の傾斜部16Aから乗員20の下肢20Aに作用する衝撃を低減するようになっている。
【0016】
図3に示される如く、ティビアパッド30の後部30Aは、長手方向が車幅方向に沿った矩形板状となっており、車幅方向に広く形成されている。ティビアパッド30の前部30Bは、後部30Aの車幅方向内側部に車体前方へ向って突出され、その長手方向が車体前後方向に沿った矩形板状となっている。
【0017】
図1に示される如く、ティビアパッド30の後部30Aは略水平に取付けられており、ティビアパッド30の前部30Bは、ティビアパッド30の後部30Aの前端から車体前方斜め上側に向かって傾斜している。即ち、ティビアパッド30の前部30Bはダッシュパネル16の傾斜部16Aに沿って車体後方下側から車体前方上側に向って傾斜し、傾斜部となっている。
【0018】
ティビアパッド30の後部30Aは、フロアパネル14の前端部14Aの上面に取付けられており、ティビアパッド30の前部30Bは、ダッシュパネル16の傾斜部16Aの上面に、インシュレータ32の下部32Aを挟んで取付けられている。なお、インシュレータ32は、防音、防振、遮熱用にダッシュパネル16の車室内側面の略全域に取付けられている。
【0019】
図3に示される如く、ティビアパッド30の前部30Bにおける略中央部には、取付孔33が形成されている。
【0020】
図1に示される如く、取付孔33には固定用クリップ35が車室10側から挿入されており、取付孔33は車室10側に大径部33Aを有する段付孔となっている。固定用クリップ35の拡大頭部35Aは軸部35Bより大径となっており、固定用クリップ35の拡大頭部35Aは取付孔33の大径部33A内に収納されているので、前部30Bの表面から車室10側に突出していない。
【0021】
固定用クリップ35の先端係止部35Cは軸部35Bより大径となっており、先端係止部35Cは弾性変形により縮径可能となっている。また、固定用クリップ35の先端係止部35Cは、縮径状態でインシュレータ32の下部32A及びダッシュパネル16の傾斜部16Aを貫通し、貫通後拡径して、ダッシュパネル16の傾斜部16Aにおけるエンジンルーム18側の面に係止され、ティビアパッド30をダッシュパネル16の傾斜部16Aに固定している。
【0022】
ティビアパッド30の車室10側にはフロアカーペット36が敷かれている。また、フロアカーペット36は、フロアパネル14の車室10側に敷かれていると共に、インシュレータ32の下部32Aを挟んでダッシュパネル16の傾斜部16Aの車室10側にも敷かれている。
【0023】
図3に示される如く、足部支持部26の車体前方側となるティビアパッド30の前部30Bの前端部には、足部移動停止手段としての爪先ストッパ34が一体形成されている。
【0024】
図1に示される如く、爪先ストッパ34は、ティビアパッド30の前部30Bにおける車室内側面30Cの車体前方側への延長線Lに対して車室10側へ曲がっており(傾斜角度θ1)、爪先ストッパ34は、ティビアパッド30の前部30Bにおける車室内側面30Cに対して、車室内側へ突出している。
【0025】
従って、図2に示される如く、前席に着座した乗員20の足部24が足部支持部26からティビアパッド30の前部30Bである傾斜部に沿って車体前方へ移動した場合には、爪先ストッパ34がフロアカーペット36を挟んで爪先24Aと当接して、足部24のティビアパッド30の前部30Bである傾斜部に沿った車体前方(図2の矢印B方向)への移動を停止するようになっている。
【0026】
なお、通常運転状態では、図1に示される如く、足部支持部26におかれた乗員の足部24の踵24Bが、ティビアパッド30の後部30Aの上にあり、足部24の爪先24Aが爪先ストッパ34の車体後方にある。従って、通常運転状態では、図1に示される如く、足部支持部26に車室内側への突出部がないため、乗員20が前席に着座した際に、乗員20に違和感を与えることがないようになっている。また、足部24を車幅方向に移動する際にも、足部24と爪先ストッパ34とが干渉しないため、クラッチペダル等のペダル操作が阻害されないようになっている。
【0027】
また、ダッシュパネル16の傾斜部16Aの上部16Cと爪先ストッパ34との間及びフロアカーペット36との間にはインシュレータ32の肉厚部32Bが配置されており、肉厚部32Bの車体側方から見た断面形状は、車室内側へ突出した凸形状となって爪先ストッパ34を支持している。
【0028】
図1に示される如く、前席に着座した乗員20の下肢(膝部)20Aの車体前方側には、インストルメントパネル39の下部39Aが取付けられている。また、前席(運転席)に着座した乗員20の車体前方側には、コラムカバー40が車体前方斜め下側から車体後方斜め上側に向って取付けられている。コラムカバー40の内部には、ステアリングコラムチューブ42が挿通しており、ステアリングコラムチューブ42はステアリングコラムブラケット44を介して、インパネリインフォースメント46に固定されたブラケット48にボルト50とナット52とによって取付けられている。
【0029】
なお、ステアリングコラムチューブ42の内部には、ステアリングシャフト43が挿通しており、ステアリングシャフト43の前端部43Aは、インタミディエントシャフト45を介してギヤボックス(図示省略)に連結されている。
【0030】
コラムカバー40は乗員20の左右の下肢20A間を通過している。一方、ステアリングコラムブラケット44は車幅方向に長いため、車幅方向端部44Aが、乗員20の下肢20Aの車体前方側にあり、車幅方向端部44Aはインストルメントパネル39の下部39Aによって覆われている。
【0031】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0032】
図1に示される如く、本実施形態では、車室10とエンジンルーム18とを仕切るダッシュパネル16の傾斜部16Aとフロアパネル14の前端部14Aとに跨る足部支持部26に取付けられたティビアパッド30の前部30Bの前端部にある爪先ストッパ34が車室内側に突出している。このため、足部支持部26には突出部がないので、乗員20が前席に着座した際に乗員20に違和感を与えることがない。また、足部24を車幅方向に移動する際にも、足部24と爪先ストッパ34とが干渉しないため、クラッチペダル等のペダル操作が阻害されることもない。
【0033】
一方、爪先ストッパ34は、ティビアパッド30の前部30Bにおける車室内側面30Cに対して、車室内側へ向かって突出している。このため、図2に示される如く、車両前突時等に、前席に着座した乗員20の足部24がティビアパッド30の前部30Bである傾斜部に沿って車体前方(図2の矢印B方向)へ移動した場合には、爪先ストッパ34が爪先24Aと当接し、足部24のティビアパッド30の前部30Bである傾斜部に沿った車体前方(図2の矢印B方向)への移動を停止する。
【0034】
従って、前席に着座した乗員20の下肢20Aの車体前方(図2の矢印C方向)への移動を抑制できる。この結果、乗員20の下肢20Aとインストルメントパネル39の下部39Aとの干渉量を抑制できる。このため、乗員20の下肢20Aがインストルメントパネル39の下部39Aを挟んでステアリングコラムブラケット44の車幅方向端部44Aに当接するのを防止でき、乗員20の下肢20Aの障害値を低減できる。
【0035】
また、本実施形態では、爪先ストッパ34がティビアパッド30の前部30Bの前端部に一体成形されている。この結果、足部移動停止手段としての爪先ストッパを専用部材として造り車体に取付ける必要がない。このため、部品点数を低減できると共に組付け工数を低減できる。
【0036】
以上に於いては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、足部移動停止手段としての爪先ストッパ34をティビアパッド30の前部30Bの前端部を車室10側へ曲げることで車室内側へ向かって突出させたが、これに代えて、前部30Bの前端部の厚さを厚くする等の他の構成で爪先ストッパ34を、車室10側へ突出させた構成としても良い。
【0037】
また、上記実施形態では、足部移動停止手段としての爪先ストッパ34を緩衝部材としてのティビアパッド30に一体成形したが、足部移動停止手段としての爪先ストッパ34が一体成形される部材は、ティビアパッド30に限定されず、ダッシュパネル16の足部支持部26に取付けられる部材であれば他の部材であっても良い。
【0038】
また、上記実施形態では、足部移動停止手段としての爪先ストッパ34をティビアパッド30に一体成形したが、これに代えて、足部移動停止手段としての爪先ストッパ34をティビアパッド30と別の専用部材として車体へ取付けても良い。
【0039】
また、足部移動停止手段は爪先ストッパ34に限定されず、ダッシュパネル16の傾斜部16Aにおける足部支持部26の車体前方側に車室内側へ向かって突出され、傾斜部16Aに支持された乗員20の足部24が傾斜部16Aに沿って車体前方へ移動した際に、足部24の爪先24Aに当接し足部24の傾斜部16Aに沿った車体前方への移動を止める手段であれば、他の構成であっても良い。例えば、ダッシュパネル16の傾斜部16Aの一部を切り起こして爪先ストッパ34としても良い。
【0040】
また、上記実施形態では、前席の運転席側に本発明の車両用乗員下肢保護構造を適用したが、本発明の車両用乗員下肢保護構造は前席の助手席側に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図3の1−1線に沿った拡大断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用乗員下肢保護構造の変形状態を示す図1に対応する断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両用乗員下肢保護構造を示すフロアカーペットとフロアパネルを除いた車体斜め後方から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
10 車室
14 フロアパネル
14A フロアパネルの前端部
16 ダッシュパネル
16A ダッシュパネルの傾斜部
16B ダッシュパネルのフランジ
18 エンジンルーム
20 前席に着座した乗員
20A 乗員の下肢
24 乗員の足部
24A 足部の爪先
24B 足部の踵
26 足部支持部
30 ティビアパッド(緩衝部材)
30A ティビアパッドの後部
30B ティビアパッドの前部(傾斜部)
34 爪先ストッパ(足部移動停止手段)
39 インストルメントパネル
44 ステアリングコラムブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室前方に設けられ、着座乗員の足部を支持する傾斜部と、
前記傾斜部における前記足部支持部の車体前方側に車室内側へ向かって突出され、前記傾斜部に支持された着座乗員の足部が前記傾斜部に沿って車体前方へ移動した際に、前記足部の爪先に当接し前記足部の前記傾斜部に沿った車体前方への移動を止める足部移動停止手段と、
を有することを特徴とする車両用乗員下肢保護構造。
【請求項2】
前記足部移動停止手段は、前記傾斜部に取付けられた緩衝部材に一体成形されたことを特徴とする請求項1記載の車両用乗員下肢保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−205798(P2006−205798A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17712(P2005−17712)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】